(平成25年9月26日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、課税仕入れに係る支払対価の額に翌課税期間に納品されたパンフレットの製作費等を含めたことについて、原処分庁が、隠ぺい又は仮装の行為があったとして消費税及び地方消費税に係る重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、隠ぺい又は仮装の行為はないなどとして同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成21年12月1日から平成22年11月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。

申告
区分
確定申告 修正申告
課税標準額 ○○○○円 ○○○○円
仕入税額控除の額 ○○○○円 ○○○○円
納付すべき消費税額 ○○○○円 ○○○○円
納付すべき地方消費税額 ○○○○円 ○○○○円

ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査を受け、本件課税期間の消費税等について、上記イの表の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成23年11月30日に提出した。
ハ H税務署長は、これに対し、本件調査担当職員の調査に基づき、平成24年5月29日付で、本件課税期間の消費税等に係る重加算税の額を○○○○円及び過少申告加算税の額を○○○○円とする各賦課決定処分(以下、重加算税の賦課決定処分を「本件重加算税賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件重加算税賦課決定処分を不服として、平成24年6月14日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月12日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成24年10月5日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 国税通則法第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があつたときは、当該納税者に対し、その修正申告に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
ロ 国税通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、主に乳製品等の輸入販売を行う法人である。
ロ 請求人がJ社に対して依頼した会社案内に関するパンフレット及びレターヘッド(以下「本件パンフレット等」という。)の制作及び印刷に関して、請求人の平成22年11月当時の○○部財務チーム課長であったK(以下「K課長」という。)は、J社から、本件パンフレット等の制作費及び印刷費(以下「本件パンフレット等製作費」という。)に係る平成22年11月25日付の2通の請求書(以下、当該各請求書を併せて「本件各請求書」という。)を受領した。
 なお、本件各請求書には、「案件番号」、「発行日」、「案件名」、「項目」及び「御請求金額」として、それぞれ次表の内容が記載されていた。

案件番号 ○○○○ ○○○○
発行日 2010年11月25日 2010年11月25日
案件名 会社案内リニューアル 会社案内リニューアル印刷費
項目 制作費 印刷費
御請求金額 ○○○○円(消費税等を含む。) ○○○○円(消費税等を含む。)

ハ K課長は、請求人の経理事務を担当する○○部会計総務チーム(以下「総務チーム」という。)に本件パンフレット等製作費の支払を依頼するに当たり、K課長の部下社員が作成した平成22年11月25日付の送金依頼書の決裁欄に押印し、当該送金依頼書に本件各請求書を添付して、総務チームに回付した。
ニ J社の従業員であったL氏は、平成22年11月29日に、K課長に対し、本件パンフレット等について、「納品は12月10日(金)の予定です。」などと記載した電子メールを送信した。また、K課長は、平成22年11月30日に、当該電子メールに対する返信として、L氏に対し、「貴信了解いたしました。」と記載した電子メールを送信した。
ホ 請求人は、平成22年11月30日に、本件パンフレット等製作費をJ社に支払うとともに、広告宣伝費勘定に経費として計上した。
ヘ 請求人は、平成22年12月14日に、J社が本件パンフレット等の印刷を委託したM社から、本件パンフレット等の納品を受けるとともに、同社が作成した同日付の納品書を受領した。
ト 請求人は、本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に本件パンフレット等製作費を含めて消費税等の確定申告をした。
チ 請求人は、本件調査担当職員の調査を受け、本件パンフレット等製作費を本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額から除くなどして納付すべき消費税等の額を再計算した本件修正申告書を提出した。
リ 原処分庁は、請求人が本件パンフレット等製作費を本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含めたことには隠ぺい又は仮装の行為があるとして、本件重加算税賦課決定処分をした。

(5) 争点

 本件パンフレット等製作費を本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含めたことについて、隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

 請求人の総務チームでは、請求人の各部署において生じた経費については、当該各部署の担当者が作成した送金依頼書を基に支払を行うとともに、当該送金依頼書に添付された請求書に記載されている物品等の納品があったものとみなして経費の計上を行っており、K課長もこのことを認識していたと認められる。
 そして、K課長は、本件パンフレット等に係る予算を平成22年11月中に実行したいとのもくろみから、本来であれば本件パンフレット等の納品後に検収を行った上でJ社から受領するはずの請求書を、同社に対して前倒ししてその作成を依頼し、同社から平成22年11月25日付の本件各請求書を受領しており、このような通謀による虚偽の証ひょう書類の作成に当たる事実に基づき、本件各請求書を添付した送金依頼書を総務チームへ回付したことによって、請求人は、本件パンフレット等製作費を広告宣伝費勘定として経費に計上するとともに、本件パンフレット等製作費を本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含めたものと認められる。
 また、K課長は、平成22年11月29日のL氏からの電子メールによって、本件パンフレット等が本件課税期間内に納品されないことを認識していたにもかかわらず、総務チームにこれを伝えず、本件各請求書に基づき支払った本件パンフレット等製作費を、あえて本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額から除かなかったのであり、帳簿書類の意図的な集計違算の事実が認められる。
 したがって、請求人には、本件パンフレット等製作費を本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含めたことについて、隠ぺい又は仮装の行為がある。

(2) 請求人

 本件パンフレット等は、当初、平成22年11月末までに納品される予定であったが、実際の納品が平成22年12月14日にずれ込んでしまったところ、社内の連絡が不十分であったことにより、納品予定時期を基に受領した本件各請求書やこれに基づいて作成した送金依頼書によってその支払を行い、本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に本件パンフレット等製作費を含めてしまったものである。これは、当時の請求人には、総務チームが会計処理を行う際に、納品書により本件パンフレット等の納品の事実を確認するという社内ルールがなかったために生じたものであり、平成22年11月末までの本件パンフレット等の仕上がり状況(原稿記事の確認という校正は完了し、色校正のみが未了)からいえば、本件パンフレット等製作費のうち大半の金額についてはJ社に対して支払義務が生じていたのであるから、通謀による虚偽の証ひょう書類の作成の事実はない。
 また、本件パンフレット等が本件課税期間内に納品されないことが判明した以後において、K課長が総務チームにこれを伝えなかったことは、担当者間の単なる連絡ミスにすぎず、帳簿書類の集計違算を意図的に行い、経理操作をした事実はない。
 したがって、請求人には、本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に本件パンフレット等製作費を含めたことについて、隠ぺい又は仮装の行為はない。

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3 判断

(1) 隠ぺい又は仮装の行為があったか否かについて

イ 法令解釈
 国税通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をすることについて、隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものであるから、重加算税を課すためには、納税者のした過少申告行為とは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件課税期間における請求人の経理事務に関する慣行は、次のとおりであった。
A 経費の発生した各部署は、送金依頼書を作成し責任者の承認を受け、物品等の購入先から発行された請求書を添付して、総務チームに回付することとされていたが、その際、納品書を当該送金依頼書に添付することとはされていなかった。
B 総務チームは、各部署から回付された送金依頼書及び請求書について、相手先、支払内容、支払銀行、稟議の有無及び支払金額の照合を行った上で、その内容を承認した後、支払及び会計処理を行っていた。
C 総務チームは、物品等の購入に係る経費計上の会計処理に当たっては、請求書のみの確認を行っており、納品の事実を確認していなかった。
(ロ) 本件パンフレット等製作費については、次のとおりであった。
A K課長は、上記1の(4)のロの本件各請求書の受領前に、L氏に対して、平成22年11月中に本件パンフレット等製作費を支払いたいとの意向を伝え、それに係る請求書の発行を依頼した。
B K課長が本件各請求書をL氏から受領したのは、平成22年11月25日であり、同日において、本件パンフレット等の校正原稿も受領した。
C 本件各請求書に記載された内容は、上記1の(4)のロのとおりであり、これらは事実と異ならないものであるところ、本件パンフレット等の納品に関する記載もない。
D 総務チームは、上記1の(4)のハ及びホのとおり、K課長から回付された送金依頼書及び本件各請求書に基づき本件パンフレット等製作費を広告宣伝費勘定に経費として計上し、この結果、同(4)のトのとおり、請求人は、本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に本件パンフレット等製作費を含めて消費税等の確定申告をした。
(ハ) K課長は、本件調査担当職員に対して、要旨次の内容を申述した。
A 本件パンフレット等製作費は、平成22年11月の予算に計上しており、同月中に納品予定であったことから、同月中に請求書を発行してくれるようL氏に電話で依頼した。その後、不備が見つかり、平成22年11月中の納品ができなくなったが、予算管理上、同月中に支払を済ませたいと考え、平成22年11月25日付の請求書を受け、総務チームに渡した。
B 平成22年11月中に支払が行われたことにより、同月の経費として処理され、予算を計画どおりに償却することができた。
C 本件パンフレット等製作費に関する送金依頼書を総務チームに回付する際に納品書を添付しなかったのは、請求人では、請求書を添付することによって、支払及び会計処理される仕組みになっており、納品書の添付は求められていなかったからである。
D 本件パンフレット等が納品されたのは、納品書のとおり、平成22年12月14日である。
ハ 当てはめ
(イ) 請求人は、上記1の(4)のロ及びヘのとおり、J社に対して制作及び印刷を依頼したその目的物として、本件パンフレット等の納品を受けたのであるから、消費税法上、その目的物の引渡しを受けた時において課税仕入れを行ったこととなり、本件パンフレット等製作費を当該納品を受けた時を含む課税期間において課税仕入れに係る支払対価の額に含めることが相当と認められる。
 一方、請求書は、一般に代金の支払を求める書類であって、物品等の納品の事実を示すものでないところ、上記ロの(ハ)のK課長の申述と符合する同ロの(ロ)の事実によれば、K課長が、L氏に対して本件パンフレット等製作費に係る請求書の発行を依頼し、本件パンフレット等の納品が遅れることを認識しつつ平成22年11月25日に本件各請求書を受領したのは、同ロの(イ)の請求人の経理事務に関する慣行がある中、計画どおりの予算管理の観点から行ったものと認められる。そして、上記1の(4)のヘのとおり、本件パンフレット等は、J社が印刷を委託したM社から納品され、請求人はその際に同社が作成した納品書を受領している。そうすると、K課長が本件パンフレット等の納品前に請求書の発行をL氏に依頼したことは単に経費の前払を求める書類の作成を依頼したものと認められ、請求人が、本件各請求書を本件パンフレット等の納品の事実を示す書類としてJ社から受領していたとみることはできず、上記ロの(ロ)のCのとおり、本件各請求書に虚偽の記載もないことからすると、通謀により虚偽の証ひょう書類を作成したとは認められない。
(ロ) また、上記ロの(イ)のとおり、当時の請求人の経理事務に関する慣行として、経費が生じた各部署と会計処理を行う総務チームとの間で納品の事実の確認に関する連絡体制が整備されておらず、また、経費の計上に当たり納品の有無が会計処理に影響することが請求人内の各部署において認識されておらず、納品日の確認が行われていなかったと認められる。その意味で、請求人にはそもそも経費計上に対する社内的なチェック体制に不備があり、経費の計上時期について、金額の多寡にかかわらず、厳格性を欠いていたものと認められる。そうすると、請求人が、本件各請求書を受領した事実をもって経費を計上し、この結果、本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に本件パンフレット等製作費を含めたのは、単に、本件パンフレット等が納品された事実の確認を怠っていたことによるものと認められる。
(ハ) したがって、請求人が本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に本件パンフレット等製作費を含めたことについて、隠ぺい又は仮装の行為があったとは認められない。
ニ 原処分庁の主張について
 原処分庁は、総務チームでは、各部署から送金依頼書とともに請求書が回付された場合、その請求書に記載された物品等の納品があったものとみなした上で会計処理をしており、K課長がそれを認識しつつ納品前に請求書の作成を依頼した上で本件各請求書を受領していることは、通謀による虚偽の証ひょう書類の作成に当たる旨を主張するが、この点に関する当審判所の判断は上記ハのとおりであることから原処分庁の主張を採用することはできない。
 また、原処分庁は、K課長が、本件課税期間中に本件パンフレット等が納品されないことを認識していながら、あえて本件パンフレット等製作費を、課税仕入れに係る支払対価の額から除かなかったものと主張する。
 しかしながら、K課長が本件パンフレット等製作費に関する送金依頼書を総務チームに回付する際に納品書を添付しなかったのは、上記ハの(ロ)のとおり、請求人において、経費計上に際して納品日を確認しないという社内的なチェック体制の不備に基因し、会計処理に際して納品書の添付が求められていなかったことが理由であると認められる。そうすると、K課長が、本件課税期間中に本件パンフレット等が納品されないことを総務チームに伝えなかったことをもって、請求人が、本件パンフレット等製作費について本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含めたことにつき、隠ぺい又は仮装と評価すべき行為をしたと認めることはできず、原処分庁の主張には理由がない。

(2) その他の請求人の主張について

 請求人は、本件の審査請求においては、隠ぺい又は仮装の行為はないと主張するものであり、本件修正申告書の無効を争うものではないが、本件パンフレット等製作費は本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に該当するのであるから、本件重加算税賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を含むその全部が取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人は、上記1の(4)のチのとおり、自ら本件修正申告書を提出しているところ、修正申告に係る税額の過大については、更正の請求によらず主張することはできないから、これを理由に本件重加算税賦課決定処分の取消しを求めることはできないというべきである。
 そうすると、この部分に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 本件重加算税賦課決定処分について

 以上のとおり、請求人が本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に本件パンフレット等製作費を含めたことについて、隠ぺい又は仮装の行為はなく、重加算税を賦課することは相当でないと認められるところ、本件修正申告書に基づき納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件重加算税賦課決定処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の金額については、別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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