(平成25年7月8日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、シンガポール共和国(以下「シンガポール」という。)に所在する外国銀行における審査請求人(以下「請求人」という。)のDepositsから生じる利子が利子所得に当たるとして所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該Depositsは、当該銀行から融資を受けるため締結した契約に基づき、信用供与目的で担保預金として資金融通したもので、借入れと担保提供とが一体である預金担保付金銭消費貸借契約に基づく取引から生じるものであり、実質的には、貸付金の利子に準ずるものであるため当該Depositsから生じる利子及び借入金の支払利子の差損益は、雑所得に当たり、当該差損益の通算の結果、所得金額が生じないなどとして上記各処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人は、平成20年分、平成21年分及び平成22年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を不服として、平成24年9月6日に審査請求をしているが、この審査請求に至る経緯は別表1のとおりである。
 なお、以下、本件各年分の所得税の各更正処分(平成21年分及び平成22年分については平成25年4月30日付でされた減額更正処分後のもの)を「本件各更正処分」といい、本件各年分の所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分(平成21年分及び平成22年分については平成25年4月30日付でされた変更決定処分後のもの)を「本件各賦課決定処分」という。

(3) 関係法令等

イ 所得税法第2条《定義》第1項第10号は、預貯金とは、預金及び貯金(これらに準ずるものとして政令で定めるものを含む。)をいう旨規定し、また、所得税法施行令第2条《預貯金の範囲》は、預貯金とは、銀行その他の金融機関に対する預金及び貯金等とする旨規定している。
ロ 所得税法第23条《利子所得》第1項は、利子所得とは、公社債及び預貯金の利子等に係る所得をいう旨規定し、また、第2項は、利子所得の金額は、その年中の利子等の収入金額とする旨規定している。
ハ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定している。
ニ 所得税法第57条の3《外貨建取引の換算》第1項は、居住者が、外貨建取引(外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいう。)を行った場合には、当該外貨建取引の金額の円換算額(外国通貨で表示された金額を本邦通貨表示の金額に換算した金額をいう。)は当該外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとする旨規定し、所得税法施行令第167条の6《先物外国為替契約により発生時の外国通貨の円換算額を確定させた外貨建資産・負債の換算等》第2項は、外国通貨で表示された預貯金を受け入れる銀行その他の金融機関を相手方とする当該預貯金に関する契約に基づき預入れが行われる当該預貯金の元本に係る金銭により引き続き同一の銀行その他の金融機関に同一の外国通貨で行われる預貯金の預入れは、所得税法第57条の3第1項に規定する外貨建取引に該当しないものとする旨規定している。
ホ 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項は、第1項又は第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する旨規定している。
ヘ 銀行法第2条《定義等》第1項は、この法律において「銀行」とは、第4条《営業の免許》第1項の内閣総理大臣の免許を受けて銀行業を営む者をいう旨規定し、また、第2項は、この法律において「銀行業」とは、次に掲げる行為のいずれかを行う営業をいう旨規定している。
(イ) 預金又は定期積金の受入れと資金の貸付け又は手形の割引とを併せ行うこと。
(ロ) 為替取引を行うこと。
ト 民法第666条《消費寄託》第1項は、第5節(消費貸借)の規定は、受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合について準用する旨規定し、また、同法第587条《消費貸借》は、消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる旨規定している。
チ 所得税基本通達57の3−2《外貨建取引の円換算》は、所得税法第57条の3第1項の規定に基づく円換算は、その取引を計上すべき日における対顧客直物電信売相場と対顧客直物電信買相場の仲値(以下、この仲値を「電信売買相場仲値」という。)による旨、当該仲値については、原則として、その者の主たる取引金融機関のものによることとするが、合理的なものを継続して使用している場合には、これを認める旨それぞれ定めている。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても認められる事実及び証拠によって容易に認められる事実である。
イ 請求人
 請求人は、本件各年分において、国内に住所を有していた居住者である。
ロ G銀行
 シンガポールに所在するG銀行は、シンガポールにおける銀行法(以下「シンガポール銀行法」という。)の規定によりシンガポール金融監督庁の認可を受け、顧客から当座勘定口座又はdeposit口座に金銭を受け入れ、顧客に対する融資等の銀行業を営むことが認められている銀行である。
ハ G銀行との取引
(イ) 口座開設
 請求人は、平成18年7月27日、G銀行が顧客に提供する各種サービスに関する条件を定めたServices Agreement(以下「Gサービス約款」という。)にのっとり、G銀行において個人取引口座を開設した。
 なお、上記個人取引口座には、当座勘定口座(当該当座勘定口座には、英国ポンド、米国ドル、スイスフラン及び日本円の各通貨で表示された各口座があり、以下、米国ドル表示の口座を「当座勘定米国ドル口座」という。)及びDeposits口座がある。
(ロ) 短期貸付ファシリティ契約の締結及び担保提供
 請求人は、下記ニの生命保険契約の保険料の資金を調達するため、平成18年7月21日、G銀行との間で、短期貸付ファシリティ契約(以下「本件短期貸付ファシリティ契約」という。)を締結し(なお、同月25日、融資条件の一部変更がなされている。)、平成19年2月13日から平成20年12月12日までの期間において、本件短期貸付ファシリティ契約に基づく資金の借入れとして日本円で表示される債務(以下「本件借入金」という。)を継続して負っていた。
 なお、請求人は、本件短期貸付ファシリティ契約に基づき、本件借入金の担保として、下記ニの生命保険契約に係る保険証券及び上記(イ)のDeposits口座に預け入れたDeposits(以下「本件Deposits」という。)を提供していた。
(ハ) 当座貸越と本件借入金の返済
 請求人は、平成20年12月12日、G銀行と請求人との信用供与契約に基づき、当座勘定米国ドル口座において、金銭の貸付けに応じる取引(以下、当該取引を「本件当座貸越」という。)により得た資金で、本件借入金の全額を返済した。
 なお、請求人は、平成20年12月12日から平成22年12月31日までの期間において、本件当座貸越に係る債務を継続して負っていた。
ニ 生命保険契約に係る保険証券の発行
 カナダに所在するH社は、平成18年8月8日、保険契約の発効日を平成18年7月5日、被保険者を請求人、死亡保険金を2,000万米国ドル、保険料を1,400万米国ドル、保険金受取人をJ及びKなどとする生命保険契約に係る保険証券を発行した。
ホ シンガポール銀行法の規定
 シンガポール銀行法は、要旨、以下のとおり規定している。
(イ) シンガポールにおいて、認可を受けた銀行はdeposit取扱業務を行うことができるところ、deposit取扱業務とは、業務上、depositの方法により受け入れた金銭を他者に貸し付けること、又は、depositの方法で受け入れた金銭の元本又は利子の、全部又は一部を他の活動に融資することをいう(シンガポール銀行法セクション4A(1)及び(6)並びにセクション4B(7))。
(ロ) 上記(イ)の認可を受けた銀行のdeposit取扱業務におけるdepositとは、利子又は額面上乗せの有無に関わらず、金銭又は金銭の価値により、請求、期間、又は、当該支払をする者とそれを受け取る者若しくはこれらの者のためになされた合意に基づいて、返還することを条件として支払われる金銭の額であり、財産若しくは役務の対価、又は保証の供与として支払われる金銭ではない(シンガポール銀行法セクション4B(4))。
ヘ 平成21年分及び平成22年分の所得税の各減額更正処分等
 原処分庁は、平成21年分及び平成22年分の所得税について、平成25年4月30日付で、請求人の子であるJが所得税法第2条第1項第34号(平成22年法律第71号による改正前のもの。)に規定する扶養親族に該当し、また、同項第29号に規定する特別障害者で、かつ、請求人と同居を常況としている者に当たるとして、別表1の「減額更正処分及び変更決定処分」欄のとおり、所得税の各減額更正処分及び過少申告加算税の各変更決定処分を行った。

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2 争点

(1) 争点1 本件Depositsから生じる利子(以下「本件Deposits利子」という。)は、利子所得に該当せず、雑所得に該当するか否か。
(2) 争点2 (仮に、本件Deposits利子が利子所得に該当するとした場合に、)利子所得の収入金額は、本件Deposits利子と本件当座貸越に係る支払利子とを相殺した後の金額とすべきか否か。
(3) 争点3 本件Depositsのうち、累積された利子に相当する部分は、所得税法第57条の3第1項に規定する外貨建取引に該当するか否か。
(4) 争点4 (仮に、本件Deposits利子が利子所得に該当するとした場合に、)本件Deposits利子を申告しなかったことについて、請求人には、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。

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3 主張

(1) 争点1(本件Deposits利子は、利子所得に該当せず、雑所得に該当するか否か。)について

原処分庁 請求人
 所得税法施行令第2条に規定する預貯金とは、銀行その他の金融機関が、不特定多数の公衆又は取引先から広く運用資金を調達することを主たる目的として、顧客から受け入れ、保管する金銭であって、金融機関において当該金銭を費消することを許容され、顧客との約定に従って同額の金銭を返還することが約されたものと解される。
 そして、G銀行は、シンガポール金融監督庁から銀行の業務を行うことを許可されているものであるところ、シンガポール銀行法において、銀行の業務とは、現金又は預金口座の形で金銭を受領し、顧客に対して貸付けを行う業務をいうと規定されていること、及び、Gサービス約款によれば、定期預金の引出しについては、一部又は全額に関わらず、その定期の満期日を除き、引き出すことはできないとされているが、書面による銀行の事前合意がある場合又は銀行が適切であると認める条件に基づく場合は除かれているので、G銀行における定期預金は寄託された同額の金銭を返還することが約された消費寄託契約に該当するものであるといえることから、本件Depositsは、上記預金の要件を満たしたものといえる。
 そうすると、本件Depositsは、預金と認められ、本件Deposits利子は、所得税法第23条に規定する利子所得に該当する。
 本件Depositsは、本件短期貸付ファシリティ契約のMaintenance of Margin(以下「本件マージンコール」という。)に基づき担保として差し入れられたものであり、特定の者から異なる条件で受け入れられた拘束性の高い金銭であること、その処分や譲渡に関して、預金者が返還の権利を持たず、返還を約して預託を受けた金銭であるといえないこと及び中途解約時に本来支払われるべき外国通貨で表示された普通預金利子に相当する金額が支払われないことから、定期に定率で不特定多数の預金者に対して一律に取り扱われる同じ条件で支払われるものに当たらないので、消費寄託契約の性格を有しない。よって、本件Depositsは、所得税法施行令第2条に規定する預貯金とは認められない。
 そして、本件Deposits利子は、本件マージンコールに基づき担保として差し入れられた預金から生じる収入であり、本件借入金の期間の利子率と密接な関連性を有し、シンガポールで事業を行う外国銀行に対して担保預金として資金融通する取引であるから、借入れと担保提供とが一体である預金担保付金銭消費貸借契約に基づく取引から生じるものであり、実質的には、貸付金の利子に準ずるものであるため、本件Deposits利子と本件借入金及び本件当座貸越に係る支払利子の差損益は、雑所得に該当する。

(2) 争点2((仮に、本件Deposits利子が利子所得に該当するとした場合に、)利子所得の収入金額は、本件Deposits利子と本件当座貸越に係る支払利子とを相殺した後の金額とすべきか否か。)について

原処分庁 請求人
 本件当座貸越は、請求人がG銀行から米国ドルを借り入れたものであり、預金の性質を有するものではないことから、本件当座貸越に係る支払利子は利子所得に該当しない。  本件当座貸越への変更後は、当座勘定米国ドル口座において負の利子収入が発生することから、本件Deposits利子が利子所得であるとした場合でも、本件Depositsのうち、米国ドル表示のDeposits(以下「本件Deposits米国ドル口座」という。)の正の利子収入を限度として、正の利子収入の金額と負の利子収入の金額とをネッティングして利子所得の収入金額を計算すべきである。

(3) 争点3(本件Depositsのうち、累積された利子に相当する部分は、所得税法第57条の3第1項に規定する外貨建取引に該当するか否か。)について

原処分庁 請求人
 G銀行は、本件各年分の利払日に預けられている本件Deposits(累積された本件Deposits利子を含む。)を元本として本件Deposits利子を支払っているものであり、元本に累積された本件Deposits利子については、所得税法第57条の3第1項に規定する外貨建取引に該当しないから、当該利子に係る為替差損益を雑所得として認識する必要はない。  外国通貨で表示された本件Depositsの預入れのうち、「利子」として収入した部分に係る金銭により引き続き同一の金融機関に同一の外国通貨で行われる預金の預入れは、本件Deposits利子の支払(預金の預入れ)が行われる都度、所得税法第57条の3第1項に規定する外貨建取引に該当するから、当該利子に係る為替差損益を雑所得として認識する必要がある。

(4) 争点4((仮に、本件Deposits利子が利子所得に該当するとした場合に、)本件Deposits利子を申告しなかったことについて、請求人には、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。)について

請求人 原処分庁
 請求人は、平成19年9月から10月にかけて行われた調査(以下「前回調査」という。)時において、本件Deposits利子に関する所得税申告の取扱いについて、N国税局長所属の調査担当職員(以下「国税局調査担当職員」という。)に対して指導を仰いだにも関わらず、当該担当職員からは、本件Deposits利子に関する平成18年分の所得税申告の取扱いについては、利子所得課税すると判断できる状況にない旨回答があったのみで、平成18年分及び平成19年分の本件Deposits利子を利子所得として申告しなかったことにつき、当局から何も見解が示されなかった。
 したがって、調査担当職員の税法の不知又は誤解、事実誤認を原因とする無指導は、加算税を賦課することが酷な場合に該当するという裁決の基準から判断し、かかる原処分庁の無指導に基因して請求人が従前の処理を踏襲してきたことには無理からぬ事情があるというべきであり、その後も請求人がよりどころとし得る指針は示されていないのであるから、加算税を課することが酷な場合に相当し、請求人には、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある。
 国税局調査担当職員は、請求人が本件Deposits利子を受領していることに関して税理士に対して確認はしたが、税理士から質疑を受けた事実はない。
 したがって、過少申告が真にやむを得ない理由によるもので納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合には該当するものではないから、請求人には、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」はない。

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4 判断

(1) 争点1(本件Deposits利子は、利子所得に該当せず、雑所得に該当するか否か。)について

イ 法令解釈
(イ) 「銀行その他の金融機関」の範囲
 所得税法第23条第1項は、預貯金の利子等は利子所得となる旨、所得税法施行令第2条は、同法第2条第1項第10号でいう預貯金とは、銀行その他の金融機関に対する預金及び貯金をいう旨それぞれ規定しているところ、「銀行その他の金融機関」とは、法律の規定により預金又は貯金の受入れの業務を行うことが認められている銀行、信用金庫等をいうと解される。そして、この「銀行その他の金融機関」について、国内のものに限定されるという定めはなく、同様の業務を行う機関は外国にも存在することからすると、所得税法施行令第2条に規定する「銀行その他の金融機関」には、国外の銀行その他の金融機関も含まれると解され、各金融機関の業務を定める「法律」にも、当然に国外の銀行その他の金融機関が所在する国の法律が含まれると解することが相当である。
(ロ) 預金の意義
 所得税法は、「預金」の定義を明示的に規定しておらず、「預金」の意義については、一般的な用語の意味を基に考えざるを得ないところ、預金の法的性質及び経済的意義については、以下のとおりである。
A 預金の法的性質について
 預金とは、典型的には定期預金及び普通預金において見られるように、通常、銀行その他の金融機関が不特定多数の相手方、すなわち預金者に対し返還を約して預託を受けた金銭をいうと解される。この場合、銀行その他の金融機関においては、受け入れた金銭自体をそのまま保管するのではなく、これを消費することができ、預金者に対しては約定した額の金銭を返還すれば足りるのであるから、預金は、民法第666条所定の消費寄託の性質を有し、預金者は、銀行その他の金融機関を受寄者とする金銭消費寄託契約を締結したものと解することができる。
 もっとも、預金といっても、様々な種類が存在し、例えば、当座預金勘定契約においては、銀行は金銭の管理を行うほか、預金者の諸支払を行っていることから、金銭消費寄託契約と委任契約が複合した混合契約であると解すべきであり、また、普通預金契約においても、種々の支払や送金等の代行がされて混合契約の実体を有しているものが多いなど、具体的な契約内容が預金の種類によって様々であることから、預金が必ずしも民法上の典型契約である消費寄託契約に限られるということはできない。
 そうすると、その具体的な契約内容が民法上の消費寄託契約のみではなく、他の様々な約定も存在するものであっても、銀行その他の金融機関を受寄者として消費寄託された金銭としての性質を有するものについては、預金であるということができるものと解される。
B 預金の経済的意義について
 前記1の(3)のへのとおり、銀行法第2条第1項及び同第2項によると、銀行とは、「預金又は定期積金の受入れと資金の貸付け又は手形の割引とを併せ行うこと」又は「為替取引を行うこと」のいずれかを行う営業(銀行業)を営む者をいうとされている。このように預金の受入れは、貸付けの資金を得るための銀行の中心的業務であり、銀行における中心的な資金の運用である貸付けとあいまって、銀行はこれらによる利益を得ているものということができる。
 他方、預金者は、当座預金の場合を除き、通常、預金の返還時に、一定の割合の金員(利子)を得ることができる。
 そうすると、預金の経済的な意義としては、銀行その他の金融機関が、預託を受けた金銭を一定期間運用して利益を上げる一方、通常、預金者に対しては、一定の割合の金員(利子)を支払うものであると解される。
ロ 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) Gサービス約款の要旨
 Gサービス約款には、要旨、以下のとおり記載されている。
A 一般条項
(A) Gサービス約款における記載事項は、口座開設申込書の記載事項とともにG銀行と顧客との関係に適用され、その関係を決定付ける。
(B) 顧客とは、口座開設申込書に署名をしたG銀行の顧客をいい、Gサービス約款の条項が適用される。
(C) Gサービス約款は、シンガポールの法律が適用され、それに従う。また、別段の定めがない限り又は適用される取引に別段の規則の定めがない限り、各契約は、シンガポールの法律が適用され、それに従う。
B クレジットサービス条項
 G銀行は、顧客からの書面による要求、又はG銀行の裁量で、短期又は長期ローンファシリティ、当座貸越ファシリティなどを提供する。
C 預金サービス条項
(A) 口座の開設は、G銀行の承認に従う。G銀行がその時々に設定する最低金額より少ない金額の場合、口座が開設されないものとする。
(B) 定期預金とは、預入時に合意された一定の期間預けられる預金を意味し、顧客は、一部又は全部に関わらず、その定期預金の満期日を除き、定期預金として預け入れた金銭を引き出すことはできない。ただし、書面によるG銀行の事前合意がある場合及びG銀行が適切であると認める条件に基づく場合は除かれる。
 なお、満期日前に定期預金が、当事者のどちらか一方により解約される場合には、利子は支払われず、利子は生じていなかったものとして扱われる。
(C) 預金の利子は、G銀行がその時々に規定した利率又はG銀行と顧客との間で合意された利率で預金に付される。
 なお、定期預金の利子は、G銀行が発行した定期預金確認書に記述された定期預金の開始日から満期日までの期間に対して、規定された利率で付され、定期預金が更新された場合、その利子は、定期預金が更新された日に広く行われている同様の金額、通貨及び期間の定期預金に対するG銀行の利率として規定された利率で付される。
(D) 当座貸越
 G銀行は、その裁量により、G銀行の課す条件で、顧客の口座の当座貸越を承認することがある。G銀行が当座貸越を承認した場合、G銀行がその裁量で貸し付けた各元金は、G銀行から請求があった場合には直ちに、付された利子、その他の全てのコミッション、割引料及び手数料とともに顧客が支払わなければならない。
(ロ) 本件短期貸付ファシリティ契約の要旨
 本件短期貸付ファシリティ契約には、要旨、以下のとおり記載されている。
A ファシリティの額
 未確約短期貸付ファシリティの上限を元金1,605,400,000円とする(平成18年7月25日、上限を元金1,710,000,000円とする旨変更した。)。
B 担保
(A) G銀行に預託された全ての預金について、G銀行のために請求人が署名した担保に関する覚書
(B) G銀行に預託された全ての預金について、G銀行のためにKが署名した担保に関する覚書
(C) G銀行に預託された前記1の(4)のニの生命保険契約に係る保険給付金2,000万米国ドルのH社が発行した保険証券について、G銀行のために請求人が署名した担保に関する合意書
(D) G銀行が要求することがあるその他の担保に係る文書
C 本件マージンコール
(A) 米国ドル建ての貸付けを目的とする信用供与枠を算定する場合、保険証券の担保価値は、上記Bの(C)の保険証券の解約返戻金額の95パーセントとする。
(B) 日本円建ての貸付けの場合、G銀行は、請求人に対し、その絶対的裁量権に基づき、追加担保を要求する権利を有する。
(ハ) 担保に関する覚書の要旨
 上記(ロ)のBの(A)及び(B)の担保に関する覚書では、G銀行が担保提供者に対して、ローン、貸付金、融資、信用貸しその他の金融ファシリティを、G銀行が適切と考える期間提供すること、又は提供の継続に合意することを約因として、担保提供者は、以下の事項を承認するものとされている。
A 有価証券及び預金に係る担保提供者の権利、所有権及び請求権に設定される担保権は、担保提供者のG銀行に対する、現在あるいは将来における実現又は偶発的な債務の全額返済を確保するための継続的担保として設定される。
B 担保提供者は、担保が継続する期間中、当該担保として提供された預金を維持しなければならず、G銀行の書面による事前の同意がなければ、いかなる方法であっても当該預金の全部又は一部を引き出すことはできない。
(ニ) G銀行におけるdeposit
A G銀行は、シンガポール銀行法に基づき、銀行業として、depositにより受け入れた金銭を運用するdeposit取扱業務を行っている。
B Gサービス約款には、depositの性質や解釈に関する定めはなく、他に、G銀行におけるdepositについて、シンガポール銀行法のdepositとは別意である旨を取り決めた契約書等もない。
(ホ) 本件Depositsに係る満期時利子及び本件当座貸越に係る支払利子
 本件各年分における本件Depositsについて、G銀行が付した満期時利子は、別表2−1ないし別表2−3の各通貨の「満期時利子」欄のとおりであり、また、平成20年12月12日以降、平成22年12月31日までにおける本件当座貸越に係る支払利子は、別表3の「支払利子」欄のとおりである。
ハ 当てはめ
(イ) 預金の法的性質について
A 上記イの(ロ)のAのとおり、預金とは、銀行その他の金融機関が不特定多数の相手方、すなわち預金者に対して返還を約して預託を受けた金銭であり、銀行その他の金融機関を受寄者として消費寄託された金銭としての性質を有するものをいうと解される。
B 上記ロの(イ)のAの(C)のとおり、Gサービス約款には、シンガポールの法律が適用され、また、別段の定めがない限り、各契約はシンガポールの法律が適用されるとされているところ、同約款には、定期預金に関し同Cの(B)及び(C)のとおり、預入期間及び利子に関する定めは認められるものの、同(ニ)のBのとおり、depositの性質や解釈に関する定めは認められず、他にシンガポール銀行法におけるdepositと別意である旨を取り決めた契約書等があるとも認められないことからすると、G銀行がdepositとして受け入れている金銭は、前記1の(4)のホの(ロ)のシンガポール銀行法におけるdepositと同義に解することが相当である。
 そこで、シンガポール銀行法におけるdepositについて検討すると、前記1の(4)のホの(ロ)のとおり、シンガポール銀行法におけるdepositとは、利子又は額面上乗せの有無に関わらず、金銭又は金銭の価値により、請求、期間又は合意に基づいて返還することを条件として支払われる金銭の額であるとされていることから、不特定多数の預金者に対して返還を約して預託を受けた金銭としての性質を有するものと評価することができる。また、同(イ)のとおり、シンガポール銀行法におけるdeposit取扱業務とは、業務上、depositの方法により受け入れた金銭を他者に貸し付けたり、融資したりすることをいうものとされており、銀行は、受け入れた金銭自体をそのまま保管するのではなく、これを消費することができ、預金者に対しては約定した額の金銭を返還すれば足りるのであるから、銀行を受寄者として消費寄託された金銭としての性質を有するものと認められる。そして、シンガポール銀行法におけるdepositと同義と解される本件Depositsも消費寄託された金銭としての性質を有するものと認められる。
 また、上記ロの(イ)のAの(B)のとおり、Gサービス約款には、顧客とは、口座開設申込書に署名をしたG銀行の顧客をいい、Gサービス約款の条項が適用される旨定められているところ、depositの受入れ等に関して、同Cの(A)のとおり、G銀行においては口座開設に当たり、同銀行が設定する金額より少ない場合、口座が開設されないとする条項はあるものの、Gサービス約款の預金サービス条項には、特定の者を対象にする又は顧客を特定の者に限るとした旨の定めは見当たらず、また、Gサービス約款全体を通しても顧客に関して同様の定めは見当たらないことから、本件Depositsは、G銀行がGサービス約款に基づき受け入れる全てのdepositと同様に、不特定多数の相手方を対象としているものと認められる。
C 小括
 上記Bによれば、本件Depositsは、G銀行が、不特定多数の相手方(預金者)に対して返還を約して預託を受けた金銭であり、同銀行を受寄者として消費寄託された金銭としての性質を有するものと認められる。
(ロ) 預金の経済的意義について
A 上記イの(ロ)のBのとおり、預金の経済的な意義としては、銀行その他の金融機関が、預託を受けた金銭を一定期間運用して利益を上げる一方、通常、預金者に対しては、一定の割合の利子を支払うものであると解される。
B G銀行は、前記1の(4)のロのとおり、シンガポール銀行法の規定によりシンガポール金融監督庁の認可を受け、顧客からdeposit口座等に金銭を受け入れ、顧客に対する融資等の銀行業を営むことが認められている銀行であり、また、上記ロの(ニ)のAのとおり、G銀行は、銀行業として、depositにより受け入れた金銭を運用するdeposit取扱業務を行っていること、預金者に対しては、同(イ)のCの(C)のとおり、G銀行が規定した利率により開始日から満期日までの期間に対して利子が支払われるところ、本件Depositsについても別表2−1ないし別表2−3の満期時利子が支払われていることからすれば、本件Depositsは、G銀行が、預託を受けた金銭を一定期間運用して利益を上げる一方、通常、預金者に対しては、一定の割合の利子を支払うという預金の経済的意義を満たすものと認められる。
(ハ) 以上によれば、本件Depositsは、上記イの(ロ)の「預金」の一般的用語の意味に該当するのであって、所得税法第2条第1項第10号にいう「預貯金」に当たり、したがって、同法第23条第1項にいう「預貯金」に該当するものということができる。
 そして、上記(ロ)のBのとおり、本件Deposits利子は、本件Depositsの預託を受けたG銀行が、一定期間運用して利益を上げる一方、これを預金者である請求人に支払う金銭と認めることができるから、預金の利子に該当し、所得税法第23条第1項にいう「預貯金の利子」に該当するということができる。
ニ 請求人の主張の当否
(イ) 請求人は、本件Deposits利子は、本件マージンコールに基づき担保として差し入れられた預金から生じる収入であり、本件借入金の期間の利子率と密接な関連性を有し、シンガポールで事業を行う外国銀行に対して担保預金として資金融通する取引であるから、借入れと担保提供とが一体である預金担保付金銭消費貸借契約に基づく取引から生じるものであるため、実質的には、貸付金の利子に準ずるものであり、本件Deposits利子と本件借入金及び本件当座貸越に係る支払利子の差損益は、雑所得に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件マージンコールに基づく担保提供が、仮に請求人の主張する資金融通取引というものであったとしても、本件DepositsがG銀行に対する貸付金であると評価できるだけの事実は認められず、当該担保提供は、本件短期貸付ファシリティ契約による融資を受けるための条件の一つにすぎず、本件Depositsは、飽くまでも、請求人がG銀行に対して預け入れた預金と評価されるべきものである。
 また、借入れと担保提供とが一体であるとすれば、前記1の(4)のハの(ハ)のとおり、平成20年12月12日に本件当座貸越に係る契約により得た資金で本件借入金が返済されたのに合わせ、その担保である本件Depositsは解約されるべきといえるが、別表2−1及び別表2−2のとおり、本件Depositsは、利子も付されて約定による満期日まで解約されることなく継続していたことが認められる。さらに、借入れと担保提供が一体であるとすれば、前記1の(4)のハの(ハ)のとおり、請求人は、本件当座貸越により得た資金で本件借入金を返済していることから、本件短期貸付ファシリティ契約に定められている本件マージンコールに相当する定めが、本件当座貸越に係る契約についても定められる可能性が高いといえるところ、本件当座貸越に係る契約において、本件マージンコールに相当する定めは認められない。
 そして、Gサービス約款、本件短期貸付ファシリティ契約及び担保に関する覚書からは、本件Depositsの預入れがなければ、本件短期貸付ファシリティ契約及び本件当座貸越に係る契約が成立しない、あるいは、本件短期貸付ファシリティ契約及び本件当座貸越に係る契約が成立しなければ本件Depositsの預入れが成立しないとする関係、また、本件短期貸付ファシリティ契約を解約するために本件Depositsを解約しなければならない、あるいは、本件短期貸付ファシリティ契約を解約しなければ本件Depositsの解約ができないとする関係は認められないのであるから、本件Depositsの預入れに係る契約と本件短期貸付ファシリティ契約及び本件当座貸越に係る契約は、双方の契約の成立及び解約において条件関係も認められず、これらを一体のものであると認めることはできない。
 そうすると、本件Deposits利子は、請求人が、本件Depositsを担保として提供したことから生じる収入、すなわち預金担保付金銭消費貸借契約に基づく取引から生じる収入であるとはいえず、上記ハの(ハ)のとおり、利子所得に該当するのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) 請求人は、本件Depositsは、本件マージンコールに基づき差し入れられたものであり、特定の者から異なる条件で受け入れられた拘束性の高い金銭である旨主張する。
 しかしながら、上記ハの(ハ)のとおり、本件Depositsは、飽くまでも、請求人がG銀行に対して預け入れた預金と評価されるべきものであって、同(イ)のとおり、不特定多数の預金者から受け入れられた金銭に当たるといえる。また、確かに、本件短期貸付ファシリティ契約において、上記ロの(ロ)のBによれば、請求人は担保提供の義務があり、同Cによれば、G銀行は、本件マージンコールに基づき追加担保を請求人に要求する権利を有していることが認められるものの、上記(イ)のとおり、本件Depositsの預入れと本件短期貸付ファシリティ契約及び本件当座貸越に係る契約は、双方の契約の成立及び解約において条件関係も認められないことから、預入れと担保提供は別々のものであり、これらが一体のものであることを前提として、本件Depositsが特定の者から異なる条件で受け入れられた金銭であるとする請求人の主張には理由がない。
(ハ) 請求人は、本件Depositsは、その処分や譲渡に関して預金者が返還の権利を持たないことから、返還を約して預託を受けた金銭であるとはいえない旨主張する。
 確かに、前記1の(4)のハの(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人は、本件短期貸付ファシリティ契約又は本件当座貸越に係る契約により、本件各年分においてG銀行に対して継続して債務を負っており、上記ロの(ハ)によれば、本件Depositsは、請求人がG銀行に対して、これら債務を全額返済するまでの間、担保として設定され、G銀行の書面による事前の同意なくして引き出すことはできなかったものと認められる。
 しかしながら、G銀行の書面による事前の同意があれば、本件Depositsを引き出すことは可能だったのであるから、返還の余地がなかったとはいえない上、本件Depositsを引き出すことができなかったのは、本件短期貸付ファシリティ契約及び本件当座貸越に係る契約の性質上、合意によって債務者である請求人に課せられた条件にすぎないのであって、担保提供に伴う制約をもって、本件Depositsが返還を約して預託を受けた金銭でないとはいえないから、請求人の主張には理由がない。
(ニ) 請求人は、本件Depositsは、中途解約時に本来支払われるべき外国通貨で表示された普通預金利子に相当する金額が支払われない旨主張する。
 確かに、上記ロの(イ)のCの(B)によれば、定期預金の満期日前に解約される場合には利子が支払われないが、ここでいう定期預金とは、G銀行と顧客の合意により、一定の期間預けられる預金をいうところ、上記ハの(ロ)によれば、G銀行は、預託を受けた本件Depositsを一定期間運用することによる利益を上げる一方、預金者に対して利子を支払うものであることからすると、G銀行はその期間内は、支払準備なしに資金として運用できるのであるから、その期間の利益を損なうことにより、定期預金の満期日前の解約に対して利子を付さないとしても、これにより本件Depositsの預金としての性格が否定されるものではなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(利子所得の収入金額は、本件Deposits利子と本件当座貸越に係る支払利子とを相殺した後の金額とすべきか否か。)について

 請求人は、本件当座貸越への変更後は、当座勘定米国ドル口座において負の利子収入が発生することから、本件Deposits利子が利子所得であるとした場合でも、本件Deposits米国ドル口座の正の利子収入を限度として、正の利子収入の金額と負の利子収入の金額とをネッティングして利子所得の収入金額を計算すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のロの(ホ)及び別表3のとおり、本件当座貸越に係る支払利子は、当座勘定米国ドル口座において、毎月支払利子として支払われたものであるから、利子所得における負の利子収入に当たるとは認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(本件Depositsのうち、累積された利子に相当する部分は、所得税法第57条の3第1項に規定する外貨建取引に該当するか否か。)について

 請求人は、外国通貨で表示された本件Depositsの預入れのうち、「利子」として収入した部分に係る金銭により引き続き同一の金融機関に同一の外国通貨で行われる預金の預入れは、本件Deposits利子の支払(預金の預入れ)が行われる都度、所得税法第57条の3第1項に規定する外貨建取引に該当する旨主張する。
 しかしながら、「利子」として収入した部分に係る金銭については、別表4のとおり、本件Depositsの満期日以降、新たな本件Depositsの元本に係る金銭として引き続きG銀行に同一の外国通貨で預け入れられており、同一の金融機関に同一の外国通貨で行われる預貯金の元本に係る金銭の預入れに該当することから、所得税法第57条の3第1項に規定する外貨建取引には該当しない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(4) 争点4(本件Deposits利子を申告しなかったことについて、請求人には、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。)について

イ 法令解釈
 過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
 上記趣旨に照らせば、過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められる場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解される。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、請求人に対する前回調査に係る資料(以下「本件調査資料」という。)の「問題点等」欄には、平成19年9月3日に、国税局調査担当職員の「G銀行からの月次ステートメントから、送金額が預金(Deposits)として管理、利息も計算されていた(G銀行で留保)、受取利息でないか?」との指摘に対し、請求人の関与税理士であるL税理士も「反論せず」との記載が認められる。
ハ L税理士、国税局調査担当職員及び前回調査における原処分庁所属の調査担当職員の各答述要旨
(イ) L税理士
A 平成19年9月3日から5日までの調査において、G銀行から請求人への月次ステートメントを確認した国税局調査担当職員から、「本件Depositsの第1回目の利払日が平成19年2月であり、平成18年分については課税上問題がないが、平成19年分以降は、申告をしなくてもよいのか。」といった指摘を受けたため、本件Deposits利子について、課税上の根拠を示すよう当該担当職員に求めたところ、当該担当職員からは、「平成19年分以降については利子所得として申告すべきとしょうようすることはできないが、一方で申告しなくてよいものであるか判断できない。」旨の回答があった。
B 国税局調査担当職員から、平成19年10月2日に電話連絡を受けた際にも、上記Aと同様の質問をしたところ、「本件Deposits利子の取扱いについては、国税局内の方針が定まっていないことから、利子所得として申告すべきか否かは、納税者の方の選択に委ねる。」旨の回答があった。
(ロ) 国税局調査担当職員
A 本件Deposits利子の課税上の取扱いに関して、指摘したかどうか記憶していない。
B 調査経過に加え質問等があれば必ず本件調査資料に確実に記録していた。
(ハ) 前回調査における原処分庁所属の調査担当職員
A 国税局調査担当職員は、G銀行から請求人宛送付されていたステートメントの内容を確認し、本件Deposits利子を把握したため、L税理士に対して利子が生じていることを指摘したが、その課税上の取扱いまでは、言及していなかった。
B L税理士から本件Deposits利子の課税上の取扱いについて確認があったかは記憶にない。
ニ 請求人の主張について
請求人は、調査担当職員の税法の不知又は誤解、事実誤認を原因とする無指導は、加算税を賦課することが酷な場合に該当するという裁決の基準から判断し、かかる原処分庁の無指導に基因して、請求人が従前の処理を踏襲してきたことには無理からぬ事情がある旨主張する。
 この点、本件Deposits利子の課税上の取扱いに関して、上記ハの(イ)のとおり、L税理士は、国税局調査担当職員に課税上の根拠を示すよう求めたが判断できない又は納税者の選択に委ねるとの回答があった旨答述したのに対し、同(ロ)のAのとおり、国税局調査担当職員は、指摘したかどうか記憶していない旨答述し、同(ハ)のAのとおり、前回調査における原処分庁所属の調査担当職員は、国税局調査担当職員は言及していなかった旨、同Bのとおり、L税理士から確認があったかは記憶にない旨それぞれ答述するところ、上記ロのとおり、本件調査資料には、本件Deposits利子は利子所得ではないかと指摘した旨の記載は認められるが、本件Deposits利子の課税上の取扱いを指導した旨の記載は認められないことからすれば、本件Deposits利子の課税上の取扱いに関して、国税局調査担当職員は何ら指導していなかったものと認めるのが相当である。
 そして、請求人は、L税理士が、国税局調査担当職員に対して本件Deposits利子の課税上の根拠を示すよう求めた旨主張するだけで、L税理士の上記ハの(イ)の答述を裏付ける証拠資料等の提出もないことに加えて、同(ロ)のBのとおり、国税局調査担当職員は、調査経過や質問等があれば必ず本件調査資料に確実に記録していた旨答述し、上記ロのとおり、本件調査資料の「問題点等」欄には、指摘に対して、L税理士も反論しなかった旨の記載があるところ、仮に、L税理士から課税上の根拠を示すよう求められたのであれば、あえて、国税局調査担当職員が当該記載をする合理的な理由は認められないことから、前回調査において、L税理士から本件Deposits利子の課税上の根拠を示すよう求められたにも関わらず、国税局調査担当職員が何ら指導しなかったとの事実を認めることはできない。
 以上のとおり、本件Deposits利子の課税上の取扱いに関して、国税局調査担当職員は何ら指導していなかったと認められるものの、それ以上に、国税局調査担当職員が本件Deposits利子を申告しなくてもよいとする何らかの明示の行動や信頼に値する行動をしたと認めることはできず、また、L税理士から本件Deposits利子の課税上の根拠を示すよう求められたにも関わらず、国税局調査担当職員が何ら指導しなかったとの事実を認めることもできないのであるから、加算税を賦課することが不当又は酷な場合に当たるとはいえず、請求人の主張は採用することができない。

(5) 本件各更正処分の適法性

イ 外貨建取引の円換算額
(イ) 外貨建取引の円換算額の計算について、所得税法第57条の3第1項は、前記1の(3)のニのとおり、外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として各種所得の金額を計算する旨規定し、また、同チのとおり、所得税基本通達57の3−2は、同法第1項の規定に基づく円換算は、その取引を計上すべき日における電信売買相場仲値による旨、当該仲値については、原則として、その者の主たる取引金融機関のものによることとするが、合理的なものを継続して使用している場合には、これを認める旨それぞれ定めているところ、当該電信売買相場仲値は、対顧客取引の基準となるレートであるから、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
(ロ) 原処分庁は、本件各年分の本件Deposits利子の円換算に当たり、G銀行が為替レートを公表していないことから、同銀行が請求人に提供した本件各年分における本件Depositsの満期日の属する月(2月及び8月)の「PORTFOLIO SUMMARY STATEMENT」と題する書面に記載された為替レートを採用して計算しているところ、当該為替レートは、いつの時点のどのような為替レートであるかが明らかではないことから、採用することはできない。
(ハ) また、本件Deposits米国ドル口座の元本の一部を取り崩し当座勘定米国ドル口座へ振り替えて、振替後の当該米国ドルを売却し日本円を購入した取引及び本件当座貸越に係る貸越残高を返済した取引に係る為替差損益を所得として認識する場合においては、所得税法第36条第1項に規定する収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額として実現しているか否かにより判断することになる。そして、本件において、上記収入金額とすべき金額等として実現した所得として認識するためには、上記各取引に係る為替差損益の計算の基礎となる、請求人が平成18年8月2日付で当座勘定口座に送金した3,948,593.93米国ドルにつき、米国通貨以外の他の通貨から米国通貨への通貨交換等があった事実を基に認定することになるが、原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によっても、当該通貨交換等があった事実を認めることができないから、上記各取引に係る為替差損益の金額を計算することはできない。
ロ 利子所得の金額
 上記イの(ロ)のとおり、原処分庁が採用した為替レートは採用することができないため、同(イ)のとおり、当審判所が、本件Depositsの満期日における請求人の取引銀行であるM銀行が公表する電信売買相場仲値に基づき、改めて本件Deposits利子の円換算を行い利子所得の金額を計算したところ、別表2−1の4並びに別表2−2及び別表2−3の各5の各「審判所認定額」欄の各「合計」欄のとおり、平成20年分及び平成22年分の利子所得の金額は、当該各年分の各更正処分の金額を上回るが、平成21年分の利子所得の金額は、当該年分の更正処分の金額を下回ることとなる。
ハ 結論
 上記イ及びロに基づき本件各年分の納付すべき税額を算定すると、別表5の本件各年分の「審判所認定額」欄の「納付すべき税額」欄のとおり、平成20年分及び平成22年分の納付すべき税額は、いずれも当該各年分の各更正処分の金額を上回るから、本件各更正処分のうち平成20年分及び平成22年分の各更正処分は適法であるが、平成21年分の納付すべき税額は、当該年分の更正処分の金額を下回るから、本件各更正処分のうち平成21年分の更正処分は、その一部を別紙の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) 本件各賦課決定処分の適法性

 上記(5)のとおり、平成20年分及び平成22年分の各更正処分は適法であり、当該各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、上記(4)の部分を含めて通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、過少申告加算税の額は、同条第1項及び第2項の規定に基づき計算された平成20年分及び平成22年分の各賦課決定処分の金額と同額となるから、本件各賦課決定処分のうち平成20年分及び平成22年分の各賦課決定処分は適法である。
 また、上記(5)のとおり、平成21年分の更正処分は、その一部を取り消すべきであるが、当該更正処分のうちそれ以外の部分については、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、上記(4)の部分を含めて通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、これら及び同条第1項及び第2項の規定に基づき改めて過少申告加算税の額を計算すると、別表5の「平成21年分」欄の「審判所認定額」欄の「過少申告加算税の額」欄のとおり、平成21年分の賦課決定処分の金額を下回るから、本件各賦課決定処分のうち平成21年分の賦課決定処分は、その一部を別紙の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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