(平成25年7月10日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、土地を譲渡したことによる分離長期譲渡所得の金額の計算上、当該土地の取得に係る借入金の利子及びコンサルタント料の各金額を取得費に算入して所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該各金額は資産の取得に要した金額に当たらないので、取得費に該当しないとして所得税の更正処分等をしたことから、請求人が、当該各金額のうち、借入金の利子の金額の一部は取得費に該当するとして当該更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成22年分の所得税について、確定申告書(分離課税用)に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、請求人が分離長期譲渡所得の金額の計算上取得費に算入した借入金の利子○○○○円及びコンサルタント料○○○○円は当該取得費に該当しないとして、平成24年3月13日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成24年3月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成24年6月27日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件更正処分及び本件賦課決定処分について、上記ロの借入金の利子のうち○○○○円を取得費に算入しないことについて不服があるとして、平成24年7月20日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定している。
ロ 所得税基本通達(以下「基本通達」という。)38−8《取得費等に算入する借入金の利子等》は、固定資産の取得のために借り入れた資金の利子のうち、その資金の借入れの日から当該固定資産の使用開始の日(当該固定資産の取得後、当該固定資産を使用しないで譲渡した場合においては、当該譲渡の日)までの期間に対応する部分の金額は、当該固定資産の取得費又は取得価額に算入する旨定めている。
ハ 基本通達38−8の2《使用開始の日の判定》の(1)は、基本通達38−8に定める使用開始の日について、土地については、その使用の状況に応じ、それぞれ次の(イ)ないし(ハ)に定める日により判定する旨定めている。
(イ) 新たに建物等の敷地の用に供するものは、当該建物等を居住の用、事業の用等に供した日
(ロ) 既に建物等の存するものは、当該建物等を居住の用、事業の用等に供した日(当該建物等が当該土地の取得の日前からその者の居住の用、事業の用等に供されており、かつ、引き続きこれらの用に供されるものである場合においては、当該土地の取得の日)
(ハ) 建物等の施設を要しないものは、そのものの本来の目的のための使用を開始した日(当該土地がその取得の日前からその者において使用されているものである場合においては、その取得の日)

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成7年5月、a市d町○−○を本店所在地として設立されたF社の代表取締役である。
ロ 請求人は、平成16年6月25日付で、a市e町○−○所在のG社との間で、G社が牧場として売り出していたa市f町○−○ほか○○筆の地積合計8XX,XXX平方メートルの各土地(以下「本件各土地」という。)を3億円(以下「本件売買代金」という。)で買い受ける旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
ハ 本件売買契約の内容は、要旨次のとおりである。
(イ) 請求人は、平成16年7月18日(以下「本件支払期限」という。)までに本件売買代金をG社に支払う。
(ロ) 請求人は、本件売買代金を本件支払期限までに支払わなかったときは、本件売買代金に本件支払期限の翌日から支払のあった日までの期間の日数に応じ、年14.5%の割合を乗じて計算した延滞金をG社に支払う。
(ハ) 本件各土地の所有権は、請求人が本件売買代金の支払を完了したときにG社から請求人に移転する。
(ニ) G社は、本件各土地の所有権が請求人に移転したときに本件各土地を引き渡す。
(ホ) G社は、請求人に対して、本件各土地上にある酪農舎、事務所等の各建物(以下「本件各建物」という。)を無償で譲渡する。
ニ 本件各建物の登記事項証明書によれば、本件各建物の種類、棟数及び床面積は、次表のとおりである。

種類 棟数 床面積(平方メートル)
酪農舎 4 1,XXX.XX
乾燥庫 2 XXX.XX
農機庫 2 XXX.XX
事務所 1 XXX.XX
堆肥舎 1 XXX.XX
監視舎 2 XXX.XX
気密サイロ 1 XX.XX
倉庫 1 XX.XX
衛生舎 1 XX.XX
薬浴場 1 XX.XX
2,XXX.XX

ホ 請求人はG社と連名で、上記ロの取引について、平成16年7月9日付で農地法第3条《農地又は採草放牧地の権利移動の制限》に規定する許可を受けるため、許可申請書をa市農業委員会に提出し、同年7月○日付で同委員会の許可を得た。
ヘ 請求人は、本件売買代金について、次表のとおりG社に対して支払った。
 なお、次表の平成16年10月14日の支払金額には、上記ハの(ロ)の定めによる延滞金3,253,560円が含まれている。

順号 支払年月日 支払金額
1 平成16年6月10日 15,000,000円
2 平成16年6月18日 15,000,000円
3 平成16年7月22日 100,000,000円
4 平成16年8月6日 100,000,000円
5 平成16年10月14日 73,253,560円
303,253,560円

ト 本件各土地について、平成16年10月19日に、同月14日売買を原因として所有権移転登記がなされた。
チ 請求人は、g市h町○−○に所在するH社から、平成16年7月22日に1億円、同年8月6日に1億円をそれぞれ借り入れ(以下、これらの借入れを併せて「本件借入金」という。)、上記ヘの順号3及び4の本件売買代金への支払に充てた後、H社へ、平成19年4月6日に本件借入金に対する利子○○○○円(以下「本件借入金利子」という。)と併せて○○○○円を返済した。
リ 請求人は、平成19年4月6日付で、J社との間で、本件各土地及びその定着物を○○○○円で売り渡す旨の契約を締結し、平成22年3月31日に、本件各土地及びその定着物を譲渡した(以下、当該譲渡を「本件譲渡」という。)。

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2 争点

 本件借入金利子は、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算上控除する取得費に該当するか否か。

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3 主張

原処分庁 請求人
 本件借入金利子は、次の理由により本件各土地の取得に要した金額に当たらないから、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算上控除する取得費に該当しない。
 本件各土地の使用開始の日の判定については、本件各土地の地積に占める本件各建物の床面積の割合が0.3%にすぎないことから、基本通達38−8の2の(1)のロに定める建物の使用の有無によって本件各土地全体の使用開始の日を判定することに合理性が認められず、また、牧場を運営する上で、酪農舎等の施設は一定の必要性が認められることから、本件各建物の存在を認めながら、基本通達38−8の2の(1)のハに定める「建物、構築物等の施設を要しないもの」として本件各土地の使用開始の日を判定することにも合理性が認められない。そのため、本件各土地の使用開始の日の判定については、資産の種類、性質、形状その他外形的に判断できる利用の結果等客観的な事実に基づき、総合的に判断すべきである。
 本件において、請求人は、本件借入金の借入れの日である平成16年7月22日より前の同年7月16日付で、G社との間で、牛○頭を取得する旨の売買契約を締結し、同月30日に本件各土地において当該牛の引渡しを受け、本件各土地に放牧したと認められるから、本件借入金の借入れの日において、既に本件各土地の使用を開始していたと認められる。
 したがって、本件借入金利子について、基本通達38−8に定める固定資産の取得のために借り入れた資金の利子のうち、その資金の借入れの日から当該固定資産の使用開始の日までの期間に対応する部分の金額はないから、本件借入金利子は本件各土地の取得に要した金額に当たらない。
 本件借入金利子は、次の理由により本件各土地の取得に要した金額に当たるから、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算上控除する取得費に該当する。
 請求人は、本件各土地において、まる1平成17年の夏頃からK社が所有する牛を放牧させたり、まる2L社に材料置場として使用させたことはあるが、本件各建物を事業の用等に供したことはなく、基本通達38−8の2の(1)のロの定めによる本件各土地の使用開始はなかったといえる。
 そうすると、請求人は、本件各土地の取得後、使用しないで本件譲渡をしたことになるので、基本通達38−8の定めにより、本件借入金利子の全額が、本件各土地の取得に要した金額に当たる。

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4 判断

(1) 法令解釈

イ 所得税法第38条第1項は、上記1の(3)のイのとおり規定しているところ、譲渡資産の取得代金に充てるために借り入れた借入金の利子は、当該資産の客観的価格を構成する金額に該当せず、また、当該資産を取得するための付随費用にも当たらないから、原則として、譲渡所得の金額の計算上、同項に規定する資産の取得に要した金額に該当しないものの、上記借入れから当該資産の使用開始までにはある程度の期間を要するのが通常であり、その期間中使用することなく借入金の利子の支払を余儀なくされることを勘案すれば、使用開始の日までの期間に係る利子については、当該資産を取得するための付随費用に当たるものとして、資産の取得に要した金額に含まれると解するのが相当である。
 そうすると、譲渡資産の取得代金に充てるために借り入れた借入金の利子について、このうち当該資産の使用開始の日までの期間に対応するものは、所得税法第38条第1項の「資産の取得に要した金額」に当たる旨定めた基本通達38−8は当審判所においても相当であると認められる。
ロ そして、基本通達38−8の2の(1)は、土地の使用の状況に応じてその使用開始の日を判定する旨定めているところ、かかる取扱いは上記イの法令解釈に沿ったものと認められるから、当審判所においても相当であると認められる。

(2) 認定事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件各土地は、本件売買契約の日以前においては、G社において、主として牛の放牧及び牧草栽培に使用するほか、本件各建物の敷地とする等、一体として牛の飼育の用に供されていた。
ロ 請求人は、平成16年7月16日付で、G社との間で、G社が飼育した牛○頭を合計8,874,057円で買い受ける旨の契約を締結し、同月30日に引渡しを受けた後、同年9月27日に、K社に譲渡した。
ハ 請求人の妻の弟であるM、本件各土地の近隣に○○畑を所有するNの妻であるP及び請求人に対して金銭を貸し付けたQの父であるRがした原処分庁所属職員に対する次の各申述は、いずれも具体的なもので、不自然・不合理な点はなく、信用性が認められる。
 そして、これらの各申述によれば、本件各土地は、平成16年12月20日には、牛の放牧のために使用されていたと認められる。
(イ) Mの申述要旨
 請求人が本件売買代金の最終残金をG社に支払った後すぐに、請求人の依頼により、本件各建物のうち酪農舎の柵の修理を行った後、請求人が代表取締役を務めるF社が経営していた牧場から牛を本件各土地に移動させて放牧したが、途中で放牧した牛が逃げ出し、周囲の○○畑を荒らしたことがあった。
(ロ) Pの申述要旨
A 平成16年末か平成17年初め、牛が夫(N)が所有する○○畑に入り込み、当該畑が荒らされた。
B 平成17年2月頃、Mという者から○○畑を荒らしたことのおわびとして20万円を受け取った。
(ハ) Rの申述要旨
 平成16年12月20日に、請求人とQとの間で金銭消費貸借契約が締結されたが、その締結時に、Rが本件各土地を見に行ったところ、牛が放牧されていた。

(3) 当てはめ

イ 本件各土地の取得の日
 本件売買契約によれば、上記1の(4)のハの(ハ)及び(ニ)のとおり、本件各土地の所有権は、請求人が本件売買代金の支払を完了したときに移転し、本件各土地は、本件各土地の所有権が移転したときにG社から請求人に引き渡すとされており、同ヘのとおり、請求人は、平成16年10月14日に本件売買代金の最終残金を支払い、同トのとおり、同日の売買を原因として、本件各土地の所有権移転登記がなされていることからすると、請求人は、本件各土地を同日に取得したものと認められる。
ロ 本件各土地の使用開始の日の判定
 本件借入金は、上記1の(4)のチのとおり、本件売買代金の一部に充てられていることから、本件各土地の取得のための借入金に該当すると認められるところ、上記(1)のイのとおり、基本通達38−8の定めによれば、本件借入金利子のうち本件各土地の使用開始の日までの期間に係るものについては、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算上、「資産の取得に要した金額」に含まれることになる。
 そこで、本件各土地の使用開始の日が問題となるが、上記(1)のロのとおり、土地の使用開始の日については、その土地の使用の状況に応じて、基本通達38−8の2の(1)のイないしハ(上記1の(3)のハの(イ)ないし(ハ))に定めるいずれかの日により判定することが相当であるところ、本件各土地の場合、本件各土地上に本件各建物が存しているため、この点のみからすると、基本通達38−8の2の(1)のロ(上記1の(3)のハの(ロ))により判定することとなる。しかしながら、本件各土地は、上記(2)のイのとおり、放牧、牧草栽培を主として、一体として牛の飼育の用に供される土地と認められ、本件各建物の使用が主な用途であるとは認められないこと及び上記1の(4)のロ及びニによれば、本件各土地の地積の合計8XX,XXX平方メートルのうち本件各建物が建築されている部分は、2,XXX.XX平方メートルと極めて僅かであることからすると、本件各土地は、基本通達38−8の2の(1)のハ(上記1の(3)のハの(ハ))に定める建物等の施設を要しないものに該当すると認められることから、同ハの定めにより使用開始の日を判定するのが相当である。
ハ 本件各土地の使用開始の日
 上記(2)のハのとおり、本件各土地は、請求人が本件各土地を取得した日(平成16年10月14日)後の平成16年12月20日に、請求人の意思に基づいて、請求人自らが代表取締役を務めるF社の牛の放牧のために使用されていたと認められることからすると、請求人は、同年12月20日には本件各土地を牛の飼育の用に供していたものと認められる。そして、他に、請求人が本件各土地を取得した後、同年12月20日よりも前に本件各土地を使用していたと認めるに足る証拠もないことから、基本通達38−8の2の(1)のハに定める「使用開始の日」は、同年12月20日とするのが相当である。
ニ 取得費に算入する借入金の利子の金額
(イ) 上記ハのとおり、本件各土地の使用開始の日は、平成16年12月20日とするのが相当であるから、本件借入金利子のうち、本件借入金の借入れの日である平成16年7月22日及び同年8月6日から本件各土地の使用開始の日である同年12月20日までの期間に対応する部分の金額は、本件各土地の取得に要した金額に当たり、分離長期譲渡所得の金額の計算上控除する取得費に該当する。
(ロ) そこで、本件借入金の借入れの日から本件借入金の返済日までの期間を基に、当該借入れの日から使用開始の日までの期間に対応する借入金の利子の金額を計算すると、別表2のとおり○○○○円となる。
(ハ) 上記(ロ)の計算のとおり、本件借入金利子のうち、本件借入金の借入れの日から本件各土地の使用開始の日までの期間に対応する金額は○○○○円であるから、本件各土地の取得に要した金額として本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算上控除する取得費に該当する金額は、○○○○円となる。
ホ 請求人の主張について
 請求人は、本件各建物を事業の用等に供したことはないから、本件各土地は使用せず譲渡したことになる旨主張するが、上記ロのとおり、本件各土地の使用開始の日は基本通達38−8の2の(1)のハの定めにより判定するのが相当であり、この判定によれば、上記ハのとおり、平成16年12月20日に使用開始したとするのが相当であるほか、本件各土地において牛の放牧(飼育)を行っているにもかかわらず、本件各土地に存する酪農舎等の本件各建物を使用しないことは不自然であるし、上記(2)のハの(イ)のとおり、酪農舎の柵の修理を行っていることからしても、請求人は、本件各土地を使用する過程で、本件各建物をも使用していたと推認されるから、請求人の主張は採用できない。
ヘ 原処分庁の主張について
 原処分庁は、本件借入金の借入れの日には既に使用開始がされていたとする旨主張するが、上記(2)のロのとおり、請求人がG社から牛○頭を取得しK社に譲渡した事実は認められるものの、当該事実から本件各土地の使用を開始していたとまでは認められず、上記ハのとおり、本件各土地の使用開始の日は、平成16年12月20日であるとするのが相当と認められるほか、上記(1)のイの所得税法第38条第1項の解釈からしても、本件各土地の取得の日より前の本件借入金の借入れの日をもって、使用開始の日と解することはできないから、原処分庁の主張は採用できない。

(4) 本件更正処分について

 上記(3)のニの(ハ)のとおり、本件借入金利子のうち、本件各土地の取得に要した金額は○○○○円となるから、これにより請求人の平成22年分の本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額を計算すると別表3のとおり本件更正処分の額を下回るので、本件更正処分は、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(5) 本件賦課決定処分について

 上記(4)のとおり、本件更正処分は、その一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の基礎となる税額は○○○○円となる。また、この税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そうすると、過少申告加算税の額は○○○○円となり、本件賦課決定処分の額を下回るので、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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