(平成25年7月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、管工事業及び燃料販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、設立の際に、請求人の発起人で株主であり代表取締役でもあるH個人から事業を譲り受けたとして、個人事業の債権と債務の一部について貸借対照表に計上し、その債権と債務の差額(債務超過分)を営業権として、当該営業権に係る減価償却費及び当該債務のうちの借入金の利息等を損金の額に算入し、当該営業権に係る消費税相当額を控除対象仕入税額に算入したところ、原処分庁が、まる1当該営業権は財産的価値がなく、借入金利息はHが支払うべきものであるから、当該減価償却費及び当該借入金利息について損金の額に算入できないとして法人税の更正処分等を行い、また、まる2請求人が消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の修正申告書を提出したのに対し過少申告加算税の賦課決定処分をしたため、請求人が、これらの処分の違法を理由として同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 法人税関係
(イ) 請求人は、平成23年7月○日から同年11月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書(法人税法施行規則に規定する各別表を含む。以下「本件法人税申告書」という。)に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁に提出した。
(ロ) 原処分庁は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員の税務調査に基づき、平成24年5月25日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、本件事業年度の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
(ハ) 請求人は、上記(ロ)の本件更正処分等を不服として、平成24年7月20日に審査請求をした。
ロ 消費税等関係
(イ) 請求人は、平成23年7月○日から同年11月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等について、確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁に提出した。
(ロ) 原処分庁は、上記イの(ロ)と同時に原処分庁所属の調査担当職員による税務調査(以下、上記イの(ロ)の税務調査と併せてこの税務調査を「本件調査」といい、調査担当職員を「本件調査担当職員」という。)を行い、請求人は、本件課税期間の消費税等について、別表2の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件消費税等修正申告書」という。)を平成24年3月27日に原処分庁に提出した。
(ハ) 原処分庁は、これに対し、平成24年5月25日付で、別表2の「賦課決定処分」欄のとおり、本件課税期間の消費税等の過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件消費税等賦課決定処分」という。)をした。
(ニ) 請求人は、上記(ハ)の本件消費税等賦課決定処分を不服として、平成24年7月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、国税通則法(以下「通則法」という。)第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により審査請求として取り扱うことが適当であると認め請求人に同意を求めたところ、請求人は、同年8月9日に同意したため、同日審査請求されたものとみなされた。
ハ 併合審理
 通則法第104条《併合審理等》第1項の規定により、上記イの(ハ)及び上記ロの(ニ)の各審査請求を併合審理する。

(3) 関係法令の要旨

 関係法令の要旨は別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、Hが行っていた事業(管工事及び燃料販売)を引き継ぐ形で平成23年7月○日に設立された。
ロ 請求人の定款及び商業登記簿の記載内容によれば、請求人は会社法第2条《定義》第7号による取締役会設置会社以外の会社である。
ハ 平成23年8月1日付の「臨時株主総会議事録」によれば、同日にH及びHの長男であるRを出席社員とする社員総会(株主総会)が開催され(請求人の発行済株式総数60株のうち、30株をHが保有し、残り30株をRが保有している。)、請求人がHの債権67,125,835円と債務165,989,194円を引き受けること、また、その差額98,863,359円(税込額)を営業権として同年7月○日現在で譲り受けることが満場一致で承認可決された。
 なお、上記「臨時株主総会議事録」の別紙に記載されている債権債務の明細の内容は、要旨別表3のとおりである。
ニ 請求人は、平成23年7月にHから営業権94,155,580円(税抜額)を取得したとして、無形固定資産にのれんとして計上した(以下、Hから取得したとする営業権を「本件営業権」という。)。
ホ 請求人は、上記ハで引き受けることとした債務のうちの借入金について、x1信用金庫、x2銀行、x3銀行、x4銀行、x5信用金庫(以下、これらの金融機関を併せて「各金融機関」という。)及びx6生命(以下、各金融機関と併せて「各金融機関等」という。)に対する請求人の債務として、総勘定元帳及び法人税の確定申告書に記載した。
ヘ 請求人は、本件事業年度において、本件営業権に係る償却費として3,923,149円を、また、上記ホの各金融機関等に対する借入金等に対する支払利息として○○○○円(以下「本件支払利息」という。)を費用計上し、法人税の所得金額の計算上損金の額に算入した。
ト 請求人は、本件営業権に係る消費税相当額を控除対象仕入税額に算入した。
 なお、請求人は、平成23年9月28日に本件課税期間を適用開始課税期間とする消費税課税事業者選択届出書を原処分庁に提出した。
チ 本件更正処分に係る更正通知書(以下「本件更正通知書」という。)に記載された処分の理由は、別紙3のとおりである。

2 争点

(1) 争点1 本件更正処分は、法人税法第130条第1項に規定する調査の要件を欠く違法があるか否か。

(2) 争点2 本件更正通知書の理由付記に不備があるか否か。

(3) 争点3 本件営業権に係る減価償却費は損金の額に算入できるか否か。

(4) 争点4 本件支払利息は損金の額に算入されるか否か。

(5) 争点5 本件消費税等修正申告書の提出が通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か。

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3 主張及び判断

(1) 争点1 (本件更正処分は、法人税法第130条第1項に規定する調査の要件を欠く違法があるか否か。)について

イ 主張

請求人 原処分庁
 本件更正処分は、次のことから、帳簿書類の調査が不十分であり、法人税法130条第1項の要件を欠き違法である。
(イ) 本件調査は、臨時株主総会の議事録等で容易に確認することができた法律事実である事業譲渡の内容を確認しないで、事業譲渡に含まれている債務のうち金融機関に対する債務だけの引受けの事実を認めないものであり、調査すべき点を調査していない。
(ロ) J税理士(以下「関与税理士」という。)への聴取調査で、関与税理士が、本件営業権について、営業権償却ではなく、法人税法第62条の8《非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金算入等》の資産調整勘定類似の繰延資産償却をしている趣旨を説明したにも関わらず、営業権償却を否認した本件更正処分を行っていることは更正処分に必要な調査が全く行われていない。
 本件更正処分は、次のことから、法人税法第130条第1項に規定する帳簿書類の調査の要件を満たしており適法である。
 法人税法第130条第1項に規定する帳簿書類のうち帳簿とは、例えば、総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳などをいい、書類とは、例えば、棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書などをいい、また、通則法第24条《更正》に規定する調査とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものと解されるところ、原処分庁は、Hの所得税の確定申告書及び所得税の青色申告決算書、本件法人税申告書、損益計算書及び貸借対照表その他関与税理士から提出された資料等を検討した上で、原処分庁の判断の適法性の確認のため、関与税理士への聴取調査及び提出された資料の検討並びに金融機関への調査を行っている。

ロ 判断
(イ) 法令解釈
 法人税法第130条第1項は、青色申告においては、申告が法令の定める帳簿記録に基づいて適正になされることを前提とし、申告に係る所得の計算が法に定める帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿書類の記載を無視して更正されることがない旨を納税者に保障した趣旨のものと解するのが相当である。そして、同項に規定する帳簿書類とは、法人税法施行規則第59条第1項各号に規定する帳簿書類をいうものと解される。
(ロ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 本件調査担当職員は、請求人が原処分庁に提出した本件法人税申告書並びに当該確定申告書に添付された貸借対照表、損益計算書及び勘定科目内訳書を確認し、請求人の本件営業権に関する申告の適否を確認するため、平成24年2月8日、関与税理士の事務所に電話し、本件営業権に関する書類一式の写しの送付を依頼した。
B 平成24年2月13日、関与税理士から、上記1の(4)のハの臨時株主総会議事録の写しが原処分庁に提出された。
 さらに、本件調査担当職員は、請求人がHから本件営業権を譲り受けたことに関する一切の書類の送付を依頼した。
C 平成24年2月15日、関与税理士は、「社名変更のご挨拶」と題するはがき、各金融機関の借入金を請求人とHに分けた表及び関与税理士が金融機関にHの再生計画を示した「税理士所見」と題する書類の各写しを原処分庁に提出した。
D 平成24年2月24日、本件調査担当職員は、本件営業権に係る減価償却費及び本件支払利息の損金算入並びに本件営業権に係る消費税相当額を控除対象仕入税額に含めたことの適否を確認するため、関与税理士と面接し、Hから請求人に事業譲渡するに至った経緯を聴取するとともに、本件営業権の事業価値の算出過程について質問したところ、関与税理士は、事業価値の算出はしておらず、Hからの引受債権と引受債務の差額を本件営業権としたものである旨、税務上の営業権としての超過収益力に関しては、実際にHの収益が上がっていない事実もあり、税務上の営業権ではないといわれてもやむを得ない旨回答した。
E 平成24年3月5日、本件調査担当職員は関与税理士と面接し、関与税理士は、Hから借入金の返済が不可能なことは当初から明らかであり、実質上、本件営業権は貸倒損失である旨回答したため、本件調査担当職員は、請求人がHの債務を引き受けることが必要な理由及び本件営業権に係る減価償却費が損金となる理由を示すよう求めた。
F 平成24年3月12日、関与税理士から、本件営業権が貸倒損失に該当する趣旨を記載した意見書が原処分庁に提出された。
G 平成24年3月23日、本件調査担当職員は関与税理士と面接し、請求人が本件事業年度末で貸借対照表に計上している借入金はHの借入金であり、本件営業権が貸倒損失に該当しない旨、本件支払利息についてはHの借入金利息を請求人が代位弁済した時点では求償権にしかならないため、本件支払利息については損金に算入できない旨、本件営業権に係る消費税相当額は控除対象仕入税額にならない旨説明し、本件事業年度に係る法人税及び本件課税期間に係る消費税等の修正申告をしょうようした。
 これに対し、関与税理士は、本件課税期間に係る消費税等については修正申告書を提出するが、本件事業年度に係る法人税については更正するように本件調査担当職員に回答した。
(ハ) 本件への当てはめ
 上記(ロ)のとおり、本件調査担当職員は、本件法人税申告書並びに当該確定申告書に添付された貸借対照表、損益計算書及び勘定科目内訳書を確認し、本件営業権が「のれん」として資産に計上されていること、本件営業権に係る減価償却費が損金の額に算入されていること、本件支払利息が損金の額に算入されていること等帳簿に記載されるべき事項について、関与税理士に対する聴取調査も含めて個別に確認し、これらに関する証拠資料の収集、評価等をしていることが認められる。
 そうすると、本件調査担当職員は、法人税法施行規則第59条に規定する帳簿書類を確認し、関与税理士から証拠資料の収集を行い、それらの評価等をしていると認められるから、法人税法第130条第1項所定の調査を行ったというべきである。
(ニ) 請求人の主張の当否
 請求人は、関与税理士が提出した臨時株主総会議事録の写しを確認せず、関与税理士が、本件営業権について、繰延資産として償却をしている趣旨を説明したにも関わらず、営業権としての償却を否認している本件更正処分は、更正処分に必要な調査が全く行われていない旨主張する。
 しかしながら、法人税法第130条第1項に規定する帳簿書類の調査が行われていることは、上記(ハ)のとおりであり、また、本件調査担当職員は関与税理士から提出された臨時株主総会議事録の写しを確認し、関与税理士から聴取した事項についても評価していることが認められることから、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2 (本件更正通知書の理由付記に不備があるか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 本件営業権に係る減価償却費を否認した理由付記は、帳簿書類等に記載されている本件営業権の存在自体を否認しているものではなく、本件営業権に税法上財産的価値がないとの法的評価を行っているにすぎない。
 また、本件支払利息が損金の額に算入されないとする理由付記も、帳簿書類等に記載されている借入金及び本件支払利息の存在自体を否認しているものではなく、本件支払利息は請求人が支払うべきものではないとの法的評価を行っているものである。
 そして、いずれの理由付記も帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当し、原処分庁の判断過程が記載されており、課税庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に記載されていて理由付記に不備はない。
 原処分庁が本件営業権に係る減価償却費が認められないとする理由は、本件営業権が、税法上財産的価値を有していないことを理由としたものであり、借入金の引継ぎが行われていないことは、原処分庁が本件営業権に係る減価償却費を否認した理由ではない。
 さらに、本件更正通知書の「翌期首現在の利益積立金額について」の記載は、納付すべき税額の納付期限、延滞税額の計算方法とともに記載されていることからも明らかなように、更正通知書の説明として納税者の便宜のために記載されているにすぎないものであり、理由付記の一部を構成するものではない。
 本件営業権に係る減価償却費が損金の額に算入されないとする理由付記は、本件営業権を認めないとする内容にも関わらず、本件更正通知書の「翌期首現在の利益積立金額について」において、別表4のとおり、借入金を全額消去する処理をしていて、負債の引継ぎを認めないとする理由が付記されていない。
 また、本件支払利息が損金の額に算入されないとする理由付記は、計算の基礎となる借入金が「貴社が支払うべきものではない」と単に結論だけ記載していて、不服申立ての便宜に役立ち、法の執行としての正当性を与えるという理由付記制度の趣旨に沿っていない理由付記であるから、理由付記には不備がある。

ロ 判断
(イ) 法令解釈
 法人税法第130条第2項が青色申告に係る法人税について更正をする場合には更正通知書に更正の理由を付記すべきものとしているのは、同法が青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑み、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨によるものと解するのが相当であるから、更正通知書に記載された更正の理由が、理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法人税法の要求する更正の理由付記として欠けるところはないと解される。
(ロ) 本件への当てはめ
A 本件営業権に係る理由付記
 本件営業権に係る減価償却費が損金に算入されないことについて本件更正通知書に付記された理由は、別紙3の1に記載されているとおりであり、請求人が計上した本件営業権に係る減価償却費のうち損金に算入されない金額を摘示した上で、当該金額は、税法上財産的価値を有している営業権とは認められず、法人税法施行令第13条第8号ルに規定する営業権とは認められないから所得金額に加算した旨記載されているところ、これによれば、本件更正処分の対象となった勘定科目、金額及びその理由が記載されており、本件更正通知書における理由付記は、上記(イ)の理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示されていると認められることから、更正の理由付記として欠けるところはないというべきである。
B 本件支払利息に係る理由付記
 本件支払利息が損金に算入されないことについて本件更正通知書に付記された理由は、別紙3の2に記載されているとおりであり、請求人が計上した本件支払利息のうち損金に算入されない金額を摘示した上で、本件支払利息は、請求人が支払うべきものではなくHが支払うべきものであるから所得金額に加算した旨記載されているところ、これによれば、本件更正処分の対象となった勘定科目、金額及びその理由が記載されており、本件更正通知書における理由付記は、上記(イ)の理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示されていると認められることから、更正の理由付記として欠けるところはないというべきである。
(ハ) 請求人の主張の当否
A 請求人は、本件営業権に係る減価償却費が損金の額に算入されないとする理由付記は、本件営業権を認めない内容にも関わらず、本件更正通知書の「翌期首現在の利益積立金額について」において、借入金を全額消去する処理をしていて、借入金の引継ぎを認めないとする理由が付記されていない旨主張する。
 しかしながら、本件更正通知書の理由付記の記載に当たって、翌期首現在の利益積立金額は、法人税法第130条第2項及び通則法第28条第2項に規定する更正通知書に記載しなければならない事項ではなく、仮に、「翌期首現在の利益積立金額について」の記載が誤っているとしても、上記(イ)の理由付記制度の趣旨目的及び上記(ロ)で述べたことからすると、更正の理由付記として欠けるところはなく、更正処分の法的効果に影響を与えることにはならない。したがって、請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、本件支払利息が損金の額に算入されないとする理由付記は、単に結論だけ記載していて、理由付記制度の趣旨に沿っていない旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)の理由付記制度の趣旨に照らしても、上記(ロ)のとおり本件更正通知書の理由付記に不備がないことから、請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3 (本件営業権に係る減価償却費は損金の額に算入できるか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 本件事業年度において、請求人がHの債務を明確に引き受けたと認められる事実は存在しないことから、引受債権と引受債務の差額を根拠とする本件営業権は、税法上財産的価値を有しているとは認められず、事実関係においても根拠のないものと判断され、本件営業権に係る減価償却費の損金算入は認められない。
 そして、税法上の損金の額は、飽くまで法人税法が規定する要件に合致する場合において算入できるものであり、償却費以外の費用は、債務の確定により初めて損金の額に算入できるとされており、その判断は納税者の独自の法解釈及び事実認定に委ねられるものではない。
 さらに、金融機関の調査によっても、本件事業年度末において、請求人がHの債務を引き受けたと判断できる客観的事実は認められないことから、当該債務の引受けを前提とする費用は確定したと認められず、損金の額の算入を認めることはできない。
 なお、「債務引受損失」なる損失の立証責任は請求人にあるところ、法人税法第74条《確定申告》第1項は、内国法人は、税務署長に対し、確定した決算に基づき貸借対照表及び損益計算書を添付した申告書を提出しなければならない旨規定しているが、請求人が提出した本件法人税申告書、貸借対照表及び損益計算書に、「債務引受損失」なる損失について何ら記載がないことから、請求人の主張は確定決算主義に反するものである。
 また、請求人が、Hにおいて借入金の支払が不能であることを認識しながら、Hの借入金を引き受けたのであれば、法人税法第37条《寄附金の損金不算入》に規定する寄附金又は同法第34条《役員給与の損金不算入》に規定する役員給与に該当するものであり、法人税法上の損失に該当するものではない。
 引受債権と引受債務に差額があれば、会社法計算規則に従い資産又は負債に営業権を立て、それでも貸借に差額があれば、その期の損益に一括計上することは会社法の定める公正妥当な会計処理であり、法人税法に否認する規定がない以上はそのまま法人税法上の処理になる。
 また、債務超過で支払不能に陥っていたHの求償不能な債務を引き受けたことは、それ自体が既に偶発債務の域を超え、保証人の保証損失類似の「債務引受損失」を発生したことになる。
 債務引受けは債権譲渡と同じく私法上の取引行為であるが、反対勘定が存在せず、純資産増加説によって所得概念を構成している現行法の下では、一部資産として引き継いだ部分は除いて対価なく引き継いだのであるから、そのまま法人税法第22条第3項3号に規定する損失に該当する。
 そして、本件営業権に係る減価償却費は実質的に債務引受けによる借入金のうち引受債権と相殺された残額が損失の額であり、本件法人税申告書上に本件営業権に係る繰延資産として償却した額はその一部であり、繰延資産計上をして減価償却をすることは法人税法の理論的にも特に奇異なことではない。

ロ 判断
(イ) 法令解釈
A 営業権とは、当該企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊の製造技術及び特殊の取引関係の存在並びにそれらの独占性等を総合した、他の企業を上回る企業収益を稼得することができる無形の財産的価値(超過収益力)を有する事実関係であると解される。
 そして、営業権譲渡の場合に評価される超過収益力は、主として、将来の見積り超過収益力と解するのを相当とするが、過去の実績は、将来の見積り収益力の判断に当たって、これを推測する極めて重要な要素であるところ、過去の超過収益があれば特別の事情がない限り、これに見合う将来の超過収益を推測できるか、過去の実績収益が平均収益若しくはそれ以下であるときは、特別の事情がない限り、将来の超過収益を推認することができないため、赤字企業、又は、実績収益が平均収益を下回るような企業については、過去に各種の試験研究、販路拡張等のため支出した資金か、個別的に工業所有権等具体的な権利に転化していない限り、超過収益力の要因として挙げた上記の多様な諸条件が明確に認められ、かつ、既存の当該営業部門を譲り受けることによる見積収益と新たに同種営業部門を創設することによる平均収益とを比較して前者の収益が、後者の平均収益を上回り有利であると合理的に予測できる場合に、この超過収益力を資本還元したものを営業権というべきであると解される。
B また、法人が他の事業者のために債務の引受けその他の損失負担をした場合において、その損失負担等をしなければ、今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるため、やむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものと解される。
(ロ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 請求人の設立及び債務引受けの経緯
(A) 関与税理士が原処分庁に提出した平成24年1月31日付「上申書」には、要旨次のとおり記述されている。
a 関与税理士は、x1信用金庫からの依頼により、平成22年7月に個人事業者であったHの再生業務を開始したこと
b 平成22年7月には、Hの借入額は売上高を上回っており、現状で返済を続ければ、すぐに破綻する状況にあったこと
c 請求人の設立の背景には、まる1Rの背負う債務を軽くすること、まる2Hの債務を軽くすること、まる3社員たちに夢を与えること等の意味があったこと
d 平成23年4月6日にh商工会議所において、主催者をH、R及び関与税理士とし、参加者をHに対し債権を有する取引金融機関とした再生計画の説明会が開催され、主催者側から、Hが個人で行っていた事業を、これまでHが事業を行ってきた中での強みを生かす等の観点から、新たに法人を設立し、当該法人に事業を引き継ぐとともに、H自身の債務の一部を当該法人が引き受けることを考えている旨の説明がされたこと
(B) x1信用金庫i支店長Kは、当審判所に対して次のとおり答述している。
a Hから、平成22年6月頃に資金繰りに窮しているとの相談があり手形貸付を実行したが、平成22年7月頃、他の取引金融機関にもいくつかの借入金があり、その借入金でやり繰りしている話があった。
b Hから、平成22年8月頃に毎年提出してもらっていた決算書を粉飾していたとの話があったため、本部とも相談し関与税理士にHの再建計画の作成を依頼した。
c 関与税理士から、事業再建計画を行うための説明会において、法人を設立してHの事業を引き継ぎ、さらに、Hの借入金の一部を請求人が引き受けるという話があった。
d 当庫としては、請求人がHの借入金を引き受けたことについて、平成23年11月末の法人の決算の試算表を見て、Hの借入金の一部が計上されていたことで確認したが、借入金の名義がHのままであり、Hの口座から借入金の利息を引き落としていたが、H及び請求人のそれぞれの口座から引き落としたのは、Hと請求人で借入金の書換えをした平成24年3月30日以降である。
(C) x2銀行i支店融資課長Lは、当審判所に対して次のとおり答述している。
a 関与税理士から、Hの債務整理を行いたい、ついては、法人を設立して土木事業を請求人に移すという話があった。
b Hの借入金を請求人とHに分けたいという話があったが、当行としては承諾したとする結論は出してない。
(D) x3銀行m支店総括課長Mは、当審判所に対して次のとおり答述している。
a 当行の資料において、借入金返済の約定変更の相談があったとき事業再建計画及び法人の設立を知った。
b 正式には、平成23年9月16日に法人設立の登記簿謄本を受け取ったとき法人の設立を認識した。
c 平成23年9月下旬にHの債務を請求人とHに分けることについて相談があったが、当行としては困難であると回答した。
(E) x4銀行本店営業部副部長Nは、当審判所に対して次のとおり答述している。
a Hの事業再建計画を行うための説明会において、法人を設立し、当該法人がHから事業を譲り受けることを部内資料から知った。
b 平成23年9月7日に請求人から、Hの借入金について請求人とHに分けてほしい旨の依頼文書が出ていたが、状況説明だけで決定事項又は合意事項はない。
c 平成23年11月30日の請求人の決算附属書類である勘定科目明細書の借入金及び支払利息の内訳書に当行の短期借入金として29,700,000円が計上されているのを確認しているが、請求人とHとの間で借入金を引き受けたとしても、当行との三者間で借入金を引き受けたとする契約がない限り、借入金の引受けがあったとの認識はない。現在も三者契約は存在しない。
(F) x5信用金庫k支店融資担当係長Pは、当審判所に対して次のとおり答述している。
a Hの事業再建計画及び法人を設立してHから事業を譲り受けることについては、当庫の内部資料で知った。
b 法人を設立してHの借入金を請求人が引き受ける話も知っているが、平成23年4月以降開催されたバンクミーティングにおいては、状況説明だけで決定事項又は合意事項はない。
(G) x7銀行m支店副支店長Qは、当審判所に対して次のとおり答述している。
a 法人が設立され、当該法人がHから事業を譲り受けたことは知らない。
b 法人を設立してHの借入金を引き受けるという場合は、債務者、引受人、銀行の三者間で契約を交わさなければ借入金を引き受けたことにはならないことから、請求人がHの借入金を引き受けたという認識はない。
(H) 関与税理士は、当審判所に対して次のとおり答述している。
a 平成22年7月頃、x1信用金庫本部からHの再建計画の作成の依頼があった。
b Hの決算書を見たところ、資金繰りに窮しており、キャッシュフローを調べてみると、入金より出金が多く、また、売掛金にも不良債権が多く残っており、遅かれ早かれ倒産すると思った。
c 平成22年10月頃、最初のHの再建計画について取引金融機関に説明を行った。
d x1信用金庫からHは地元の有力者であり、個人事業としてのE(Hの屋号)には歴史もあることから、倒産という不名誉な事態は避け事業は継続してほしいという強い要請があった。
e Hの債権と債務の一部について、Hが請求人に事業譲渡をすることで倒産を回避し、事業も継続でき、借入金も返済できると考え法人を設立した。
f 請求人に引き継ぐとした債権と債務は、Hの引継ぎ時の簿価としているが、個別に評価していない。
g 債権と債務の差額の債務超過部分については、財産的価値はなくマイナスであると考える。
B 営業権の経理処理に関する関与税理士の認識
 平成24年2月24日付の本件調査担当職員による関与税理士との応接の状況を記録した文書によれば、関与税理士は、請求人の設立時にHから資産負債を引き継いだ際の経理処理について、資産負債の差額を営業権とするに際し、特に事業価値の算出はしておらず、寄附金とすると多額の債務超過となり、銀行も貸出しできない状態となるため、会計学的な発想からこのような処理を行った旨の説明を行っている。
C 請求人の代表取締役としてHが就任した背景
(A) 上記Aの(A)の上申書によれば、請求人の設立に際して代表を長男のRに譲り、Hは責任を取って退陣する旨の記載がある。
(B) 平成24年2月24日付の本件調査担当職員による関与税理士との応接の状況を記録した文書によれば、関与税理士は、Hが代表取締役とされたのは、県土木から法人成りに伴い、個人と法人の同一性を維持しつつ、経審(建設業法に規定する経営事項審査)の点数を引き継ぐ目的で6か月程度は代表取締役としてほしい旨の依頼があり、実質的な代表は長男のRで、近々登記上も代表者を変更する旨の説明を行っている。
(ハ) 本件への当てはめ
 請求人は、上記1の(4)のハ及びニのとおり、Hから事業等を引き継いだものの、上記(ロ)の認定事実等を併せ考えると、請求人に引き継ぐ段階において、将来の超過収益力があり明確に財産的価値があると認定できるような具体的な無形資産は見受けられず、逆に引き継ぐ直前のHの事業経営の内容は極めて悪く、請求人の設立は、Hの行っていた同一内容の営業の継続を図り、H個人の負債整理を円滑に行うことを目的として行われたものと認められる。また、事業の引継ぎに当たり、請求人について特別に考慮して評価すべき事情もないと認められることから、事業等を引き継いだ請求人が財産的価値のある営業権を取得したと認定することはできない。したがって、請求人に償却すべき営業権の額はなく、減価償却費を損金の額に算入することはできない。
(ニ) 請求人の主張の当否
 請求人は、本件営業権に係る減価償却費は、求償不能なHの債務を引き受けたことにより生じる債務引受損失の一部であり、法人税法第22条第3項第3号に規定する損失に該当する旨主張する。
 しかしながら、一般的に他の事業主体の債務引受けその他の損失負担をした場合において、その負担部分が損金として認められるためには、上記(イ)のBのとおり、損失負担をすることがやむを得ず行われたものである等相当な理由がある場合に損失として損金の額に算入することが認められるところ、上記(ロ)のAの請求人の設立の経緯等から判断して、相当な理由があるとは認められず、請求人の主張は採用できない。
 なお、請求人が主張する債務引受けについては、明文の規定はないものの、一般的には重畳的(並存的)債務引受けは、従来からの債務者はそのまま残留し、新たな債務者(引受人)が加わって、両者が並んで債権者に対し責任を負う契約をいい、債権者と引受人の同意でのみなされ、特段の事情がない限り、債務者と引受人との関係については、連帯債務関係を生ずるものとされ、引受人が債務を弁済した場合には債務者に対して求償権を有することになるとされる。
 本件の場合、上記1の(4)のハの事実から、引受人である請求人と債務者であるHとの間において債務引受けの同意は認められるものの、上記(ロ)のAの事実からは債権者である各金融機関と引受人である請求人との間で、債務引受けに関し同意がなされたかは明確ではないところ、仮に、請求人と各金融機関との間で重畳的債務引受けの同意が認められるとしても、請求人が重畳的債務引受けに係る債務を弁済した際には、Hに対して求償権を有することになることは前述のとおりであり、単に請求人が債務を引き受けたからといって、そのことのみによって本件事業年度において損金の額に算入されるものではない。
(ホ) 原処分庁の主張の当否
 原処分庁は、請求人は、Hが借入金の支払が不能であることを認識しながら、Hの借入金を引き受けたのであれば、法人税法第37条に規定する寄附金又は同法第34条に規定する役員給与に該当する旨主張する。
 しかしながら、請求人が、本件事業年度末時点において、Hが借入金の支払が不能であることを認識したか否かについては、上記(ロ)のAによれば、Hの事業内容が極めて悪いながらも、各金融機関がHに対する債権の貸倒損失を計上する等支払不能であったとまでは認定できる事実は見受けられず、請求人の認識をうかがわせる客観的な証拠もない。また、仮に請求人がそのような認識であったとしても、債務引受けについて、上記(ロ)のAの事実から、債権者である各金融機関が本件事業年度末時点において、請求人又はHのどちらに履行を求め、どちらが弁済を行うかは定かではなく、また、請求人及びHとの間において、Hが履行した場合には請求人が負担する旨又は請求人が履行した場合には求償権を放棄する旨などの明確な合意があった事実関係も提出された証拠関係からは見受けられず、そもそも請求人は本件事業年度末において、現実に債務の履行をしていない以上、未払の段階で寄附金として処理することはできない。
 さらに、上記(ロ)のCの事実関係等に加え、Hに対し、役員給与として認定できる具体的事実関係を示す証拠書類も見受けられないことから、給与として処理することもできない。
 したがって、原処分庁の主張は妥当ではない。

(4) 争点4 (本件支払利息は損金の額に算入されるか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 本件事業年度末において、請求人がHの債務を引き受けたとは認められず、本件支払利息はHが支払うべきものであることから、本件支払利息は損金の額に算入できない。
 事業譲渡に関する契約書があったことを客観的に直接立証する契約書等の証拠は存在しない。
 また、金融機関においてもHから請求人への借入金の名義変更が行われておらず、借入金の引継ぎの時期及び金額も確定していないのであるから本件事業年度末において、事業譲渡が行われていないことは明らかであり、借入金の利息は損金の額に算入できない。
 仮に事業譲渡があったとしても資産負債の引継ぎには個別の手続が必要であるところ、金融機関においてHから請求人への借入金の引継ぎが行われた客観的な事実は存在しないのであるから、事業譲渡の有無に関わらず本件支払利息について損金の額の算入が認められるものではない。
 請求人は、Hの債務を引き受けたことによりHの債務の全額を負担しており、本件支払利息については、事業を引き継いだ請求人に対して金融機関から請求がされ、請求人が負担すべきものとして支払をしたものであるから、本件支払利息は損金の額に算入できる。

ロ 判断
(イ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A x1信用金庫i支店、x2銀行i支店、x3銀行m支店、x4銀行本店営業部及びx5信用金庫k支店の各職員は、当審判所に対して、上記(3)のロの(ロ)のAの事実に加え各金融機関に対し、関与税理士らから個別に債務の分割や請求人による債務引受けについて相談等があったものの、本件事業年度末においては、いずれの金融機関においても貸付先の変更等に応じておらず、貸付先はHのままであり、また、利息についても、H名義の各口座から振り替えられていた旨答述している。
B 本件支払利息の内訳は、別表5のとおりであり、このうち次の「順号」欄記載に係る支払利息の内容は次のとおりである。
(A) 「順号」欄12の平成23年9月18日付x1信用金庫への1,790円の支払は、H名義の当座預金に係る決算貸越利息であり、当該口座の「取引明細書」によれば、当該口座の残高がマイナスとなった取引日は、請求人が設立された後の同年8月25日以降であった。
(B) 「順号」欄21の平成23年10月12日付x6生命への3,120円の支払は、別表3の引受債務の「科目」欄を「短期借入金」、「明細」欄を「x6生命」とする借入金に係る借入利息であった。
 なお、当該借入金については、x6生命との保険契約に基づく契約者借入金であり、当該保険契約の契約者は、平成23年9月26日付でHから請求人に名義変更されていた。
(C) 「順号」欄35ないし同欄38の平成23年10月31日付並びに同欄43及び同欄44の同年11月14日付x7銀行へのそれぞれ4,662円、47,531円、3,835円、6,272円、15,147円、1,485円の支払は、Hから請求人に引き継がれていない借入金に係る借入利息であった。
(D) 「順号」欄67の平成23年9月20日付、同欄68の同月22日付、同欄69の同年10月20日付x1信用金庫へのそれぞれ16,494円、35,103円、27,500円の支払は、「割引手形明細設定票」によれば、いずれも振出日が、請求人が設立された後の同年8月以降となっている受取手形に係る割引料であった。
(ロ) 本件への当てはめ
 本件支払利息は、上記1の(4)のハのとおり、本件事業年度末において、請求人とHとの間においては、各金融機関等に対する債務の引受けの合意はあると認められるものの、上記(イ)のAのとおり、仮に各金融機関としては請求人による当該債務の引受けについて承知していたとしても、正式にそれを受け入れる旨の表明等をしておらず、債務者をHとしたままであったことが推認される。そうすると、上記1の(4)のハの債務引受けによってHと請求人との間において債権債務が生じるとしても、請求人に生じた債務は飽くまでHに対するものであり、請求人が上記1の(4)のホのとおり、借入れの相手先を各金融機関としていたとしても、請求人が各金融機関から借入れをしたと認められるものではない。したがって、各金融機関に対し利息を支払うべき者はHというべきであり、本件支払利息を支払った請求人には支払の義務は認められず、Hに対して求償権が発生したものと認められる。また、各金融機関に対してHが本来支払うべき利息相当額について、請求人が支払うべき相当な理由は認められず、請求人の損金の額に算入されない。
 また、別表5の本件支払利息の内訳のうち、上記(イ)のBの(C)に記載のとおり、「順号」欄35ないし同欄38の平成23年10月31日付並びに同欄43及び同欄44の同年11月14日付x7銀行へのそれぞれ4,662円、47,531円、3,835円、6,272円、15,147円、1,485円の支払は、上記1の(4)のハ及びホのとおり、請求人とHとの間で債務引受けの合意のないH個人の借入金に係る借入利息であるから、x7銀行に対してHが本来支払うべき利息相当額について、請求人が支払うべき相当な理由は認められず、請求人の損金の額に算入されない。
 なお、別表5の本件支払利息の内訳のうち、「順号」欄12の平成23年9月18日付x1信用金庫への1,790円の支払は、上記(イ)のBの(A)のとおり、請求人の設立後の当座預金口座にマイナス勘定が生じたことによる貸越利息であり、同欄21の同年10月12日付x6生命への3,120円の支払は、上記(イ)のBの(B)とおり、請求人がHから保険契約を引き継いだことに伴い生じた借入金に係る支払利息であり、また、同欄67の同年9月20日付、同欄68の同月22日付、同欄69の同年10月20日付x1信用金庫へのそれぞれ16,494円、35,103円、27,500円の支払は、上記(イ)のBの(D)のとおり、請求人の設立後に振り出された受取手形の割引料であり、いずれも請求人の責任により生じたものと認められることから、その合計金額84,007円は請求人の損金の額に算入すべきである。
(ハ) 請求人の主張の当否
 請求人は、Hから引き継いだ借入金に係る利息の支払は、事業を引き継いだ請求人に対して金融機関から請求され、請求人が負担すべきものとして支払をしたものであり、当該利息は損金の額に算入することができる旨主張する。
 しかしながら、借入金に対する利息は、上記(イ)のAのとおり、請求人に請求されたものではなく、H名義の各口座から振り替えられたものと認められるから、請求人の主張はその前提を欠くものであり、理由がない。

(5) 争点5 (本件消費税等修正申告書の提出が通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か。)について

イ 主張

請求人 原処分庁
 本件調査担当職員から、本件営業権が消費税法上の課税仕入れに該当せず、Hの消費税等についても課税売上げに該当しない旨の指摘を受け、本件消費税等修正申告書、Hの平成23年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税等の確定申告書(訂正申告書)を平成24年3月27日に提出したのは事実であるが、本件消費税等修正申告書の提出の趣旨は、本件調査において、事業譲渡及び債務引受けが認められ、本件営業権は、営業権ではなく債務引受損失という消費税法第6条《非課税》に規定する非課税取引であり、関与税理士の誤りとして自主的に修正申告をしたものである。
 そして、消費税法上の課税取引である営業権であることは、後の本件更正処分の理由付記において原処分庁が指摘するものであるから、本件消費税等修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。
 本件調査担当職員は、関与税理士に対し、本件営業権は税法上の営業権とは認められないことから、請求人の消費税等において、本件課税期間の課税仕入れに該当しない旨を説明し修正申告をしょうようするとともに、Hの消費税等において、本件営業権は資産の譲渡等には該当しない旨を説明し、本件営業権を課税資産の譲渡等の対価の額としていたHの平成23年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税等の確定申告書について、確定申告書の提出期限までに訂正申告の提出を依頼している。
 この説明を受け、関与税理士は、いずれも平成24年3月27日に請求人の本件消費税等修正申告書、Hの平成23年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税等の確定申告書(訂正申告書)を原処分庁に提出したものであるから、本件消費税等修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しない。

ロ 判断
(イ) 法令解釈
 通則法第65条第5項は、過少申告がなされた場合であっても、その後修正申告書の提出があり、その提出がその申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときには過少申告加算税を賦課しないこととしているところ、その趣旨は、過少申告がなされた場合には、修正申告書の提出があったときでも原則として過少申告加算税は賦課されるものであるが、「申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知」することなく自発的に修正申告を決意し、修正申告書を提出した者に対しては、例外的に過少申告加算税を賦課しないこととし、もって、納税者の自発的な修正申告を奨励することにあるというべきである。
(ロ) 本件への当てはめ
 上記(1)のロの(ロ)のとおり、本件調査担当職員は、本件営業権に係る消費税相当額を控除対象仕入税額に含めたことの適否について確認するため、平成24年2月24日に関与税理士と面接し、本件営業権についての事業価値の算出過程について質問したところ、関与税理士は、事業価値の算出はしておらず、Hからの引受債権と引受債務の差額を本件営業権としたものである旨回答したことが認められる。
 また、本件調査担当職員は、平成24年3月23日に再度関与税理士と面接し、本件課税期間に係る消費税等の修正申告をしょうようしたところ、関与税理士は、消費税等の修正申告書を提出する旨回答し、請求人は同月27日、原処分庁に本件営業権に係る消費税相当額を控除対象仕入税額から除いて計算した本件消費税等修正申告書を提出したことが認められる。
 そうすると、本件消費税等修正申告書の提出は、本件調査担当職員が申告内容についての調査を行い、その結果に基づき修正申告をしょうようした後にされたといえることから、自発的に修正申告をしたとは認められず、通則法65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しない。
(ハ) 請求人の主張の当否
 請求人は、本件消費税等修正申告書の提出は、本件調査において、本件営業権が営業権ではなく債務引受損失という消費税法上の非課税取引であり、関与税理士の誤りとして自主的に修正申告を提出したものである旨主張する。
 しかしながら、本件消費税等修正申告書の提出は、上記(ロ)のとおり、本件調査担当職員が申告内容についての調査を行い、その結果に基づき修正申告のしょうようをした後にされたといえ、この場合には自主的に修正申告書の提出があったとはいえないことから、請求人の主張には理由がない。

(6) 本件更正処分について

 上記(4)のロの(ロ)のとおり、本件支払利息のうち84,007円は損金の額に算入すべきであり、本件事業年度の所得金額及び納付すべき税額を再計算すると、本件更正処分は別紙1の4の「課税標準等及び税額等の計算」のとおりとなり、その一部である本税○○○○円を取り消すべきである。

(7) 本件賦課決定処分について

 上記(6)のとおり、本件更正処分はその一部を別紙1のとおり取り消すべきであるが、本件更正処分のうちそれ以外の部分については、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、本件賦課決定処分は、別紙1の付表のとおりとなり、その一部である○○○○円を取り消すべきである。

(8) 本件消費税等賦課決定処分について

 上記(5)のロの(ロ)のとおり、請求人による本件消費税等修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当せず、また、同条第4項に規定する正当な理由があるとも認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び同法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてした本件消費税等賦課決定処分は適法である。

(9) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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