(平成25年7月5日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が中華人民共和国に所在する請求人の子会社への送金額を商品仕入勘定等に計上して損金の額に算入したことについて、原処分庁が、当該送金額は当該子会社に対する貸付金であるから損金の額に算入されず、また、当該送金額を当該商品仕入勘定等に計上したことは事実の隠ぺい又は仮装の行為と認められるなどとして、更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該送金額は仕入れに係る値増し金であり、隠ぺい又は仮装の行為の事実はないなどとして同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の平成19年5月1日から平成20年4月30日まで、平成20年5月1日から平成21年4月30日まで、平成21年5月1日から平成22年4月30日まで及び平成22年5月1日から平成23年4月30日までの各事業年度(以下、順次「平成20年4月期」、「平成21年4月期」、「平成22年4月期」及び「平成23年4月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)についての審査請求(平成24年8月24日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。
 なお、請求人は、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、異議申立てを経ないで審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、同項各号に掲げる額とする旨規定し、同項第1号は当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額を、同項第2号は当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額をそれぞれ掲げている。
ロ 法人税法第37条《寄附金の損金不算入》第1項は、内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額の合計額のうち、その内国法人の当該事業年度終了の時の資本金等の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定し、同条第7項は、同条第1項から第6項までに規定する寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする旨規定している。
ハ 法人税法第130条《青色申告書等に係る更正》第2項は、税務署長は、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準の更正をする場合には、その更正に係る国税通則法第28条《更正又は決定の手続》第2項に規定する更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない旨規定している。
ニ 法人税法施行令第78条《支出した寄附金の額》(平成22年政令第51号による改正前にあっては、同条第1項)は、法人税法第37条第7項に規定する寄附金の支出は、各事業年度の所得の金額の計算については、その支払がされるまでの間、なかったものとする旨規定している。
ホ 国税通則法第28条第2項は、更正通知書には、まる1その更正前の課税標準等及び税額等、まる2その更正後の課税標準等及び税額等及びまる3その更正に係るその更正前の納付すべき税額がその更正により増加するときは、その増加する部分の税額をそれぞれ記載しなければならない旨規定している。
ヘ 国税通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。
ト 租税特別措置法第66条の4《国外関連者との取引に係る課税の特例》第3項は、法人が各事業年度において支出した寄附金の額のうち当該法人に係る同条第1項に規定する国外関連者に対するものは、当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している。
チ 法人税基本通達9−4−2《子会社等を再建する場合の無利息貸付け等》は、法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等(以下「無利息貸付け等」という。)をした場合において、その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする旨定めている。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、配管用継手製造等を目的として昭和○年5月○日に設立された法人であり、鍛鋼製バルブ、鍛造バルブ部品、自動車・トラック鍛造部品等を、e県f市に所在する工場(以下「e工場」という。)で製造している。
 また、請求人の代表取締役には、本件各事業年度において、平成19年6月26日までの間はH及びFが、同日付でHが代表取締役及び取締役を辞任した後は、F(以下「F代表」という。)が就任していた。
ロ J社は、平成4年4月○日に請求人の単独出資により中華人民共和国(以下「中国」という。)に設立された鍛造バルブの製造業を営む法人であり、J社の董事長にはHが、総経理にはF代表が就任していた。
 なお、J社は、本件各事業年度を通じて、請求人に係る租税特別措置法第66条の4第1項に規定する国外関連者に該当していた。
ハ 請求人とJ社との間の取引には、請求人が、J社に材料、消耗工具及び油脂類等(以下「材料等」という。)を無償で支給してバルブ製品(以下「本件製品」という。)を製造させ、これを請求人が仕入れる取引と、J社が中国国内で販売するバルブ製品を製造するための材料等を有償で支給する取引とがあった。
ニ 請求人は、J社との間で、請求人が本件製品を仕入れた取引に関し、平成20年4月24日付の値増し合意書と題する書面(以下「本件値増し合意書」という。)を作成しているところ、本件値増し合意書には要旨次のとおりの記載がある(原文は中国語である。)。
(イ) 対象は、平成19年1月9日出荷分(第288回)から同年11月26日出荷分(第307回)までの鍛造バルブ及び同部品の値増しであること。
(ロ) 為替レートの変動による為替差損として18,056,793円、材料・工具・光熱・人件費等の高騰による諸経費の実質増加額として11,619,982円があること。
(ハ) 上記(ロ)のため、経営上・資金繰り上の圧迫が合計29,676,775円あることから、双方協議を行い、20,000,000円の値増しで合意したこと。
ホ F代表は、請求人とJ社との間の請求人が本件製品を仕入れた取引に関し、次の(イ)ないし(ヘ)の各日付で、「覚書(値増し理由)」と題する各書面(以下「覚書」といい、各覚書を併せて「本件各覚書」という。)を作成しているところ、本件各覚書には要旨次のとおりの記載がある。
(イ) 平成20年4月24日付覚書
A 対象は、平成19年1月9日出荷分(第288回)から同年11月26日出荷分(第307回)までの鍛造バルブ及び同部品の値増しであること。
B 為替レートの変動による為替差損として18,056,793円、材料・工具・光熱・人件費等の高騰による諸経費の増加額として11,619,982円があること。
C 上記Bのため、経営上・資金繰り上の圧迫が合計29,676,775円あることから、双方協議を行い、20,000,000円の値増しで合意したこと。
(ロ) 平成20年9月18日付覚書
A 対象は、上記(イ)のAと同じであること。
B 為替差損及び諸経費の増加額として上記(イ)のBと同額が記載されていること。
C 訴訟裁判費用として19,080,000円があること。
D 上記Bに加え、更に訴訟裁判費用が必要なため、経営上・資金繰り上の圧迫が合計48,756,775円あることから、双方協議を行い、40,000,000円の値増しで合意したこと。
(ハ) 平成21年2月23日付覚書
A 対象は、平成19年12月18日出荷分(第308回)から平成20年11月26日出荷分(第323回)までの鍛造バルブ及び同部品の値増しであること。
B 諸経費等の高騰によるものとして24,616,888円があること。
C 上記(ロ)のDの不足金補填として、8,756,775円があること。
D 受注減によりリストラ及び経費節減を行ったが、人件費をはじめ諸経費が高騰し、それらを吸収できなかったため経営上・資金繰り上の圧迫が合計33,373,663円あることから、双方協議を行い、20,000,000円の値増しで合意したこと。
(ニ) 平成21年4月23日付覚書
A 対象は、上記(ハ)のAと同じであること。
B J社の2008年度の赤字補填として31,200,000円があること。
C 上記(ハ)のDの不足金補填として、13,373,663円があること。
D 上記B及びCのとおり、J社の受注減及び経費増加による経営上・資金繰り上の圧迫が合計44,573,663円あることから、双方協議を行い、30,000,000円の値増しで合意したこと。
(ホ) 平成22年3月19日付覚書
A 対象は、平成20年12月24日出荷分(第324回)から平成21年12月24日出荷分(第334回)の鍛造バルブ及び同部品の値増しであること。
B J社の建物の各部補修費として16,300,000円があること。
C 上記(ニ)のDの不足金補填として、14,573,663円があること。
D 上記B及びCのとおり、J社の各部補修費及び不足金で合計30,873,663円必要となるため、双方協議を行い、30,000,000円の値増しで合意したこと。
(ヘ) 平成23年4月26日付覚書
A 対象は、平成22年1月22日出荷分(第335回)から同年11月24日出荷分(第343回)の鍛造バルブ及び同部品の値増しであること。
B J社の2010年度の赤字補填として30,878,000円があること。
C 上記(ホ)のDの不足金補填として、873,663円があること。
D 上記B及びCのとおり、J社の赤字補填及び不足金により計31,751,663円必要となるため、双方協議を行い、30,000,000円の値増しで合意したこと。
ヘ 請求人は、J社との間で、請求人を貸手、J社を借手として、要旨次表のとおりの内容が記載された金銭消費貸借契約書(以下「本件各金銭消費貸借契約書」という。)を作成した(原文は中国語である。)。なお、請求人は、次表の順号まる1については平成20年12月31日付で、同まる2については平成21年12月31日付で、同まる3については平成22年5月31日付でそれぞれ利息を免除する旨のJ社宛の利息免除通知書(以下「本件各利息免除通知書」という。)を作成している(原文は中国語である。)。

順号 契約年月日 貸付金額 貸付けの時期 利率 元利返済期限
まる1 平20.9.18 40,000,000円 平20.10.31まで 2.5% 平21.10.31
まる2 平21.2.23 20,000,000円 平21.3.31まで 2.5% 平22.3.31
まる3 平22.3.19 30,000,000円 平22.4.30まで 2.5% 平23.4.30
まる4 平23.4.25 30,000,000円 平23.4.30まで 2.5% 平24.4.30

ト 請求人は、請求人とJ社との間で、K銀行e支店の請求人名義の当座預金口座(以下「本件請求人口座」という。)を通じ、次のとおり金員の授受を行った。
(イ) 請求人は、平成20年4月28日、本件請求人口座からL銀行(中国)有限公司f支店のJ社名義の普通預金口座(以下「本件f口座」という。)に20,000,000円を送金する手続を行った。請求人は、同日付で、同額を商品仕入勘定に計上した。
(ロ) 上記(イ)の送金については、J社が、中国の「国家外貨管理局f支局」(以下「f外貨管理局」という。)から、当該送金は中国の2008年(平成20年)及び2009年(平成21年)の国家外貨管理規定に合致せず外債登記証を発行することができないので速やかに返金するよう命じられたため、請求人の平成20年5月19日付の依頼により取り消され、同日付で本件請求人口座に20,000,000円が入金された。請求人は、同日付で、同額を預り金勘定に計上した。
(ハ) 請求人は、平成20年9月29日、本件請求人口座から本件f口座に40,000,000円を送金した。請求人は、同日付で、商品仕入勘定に20,000,000円を計上する一方、預り金勘定から20,000,000円を減額した。
(ニ) 請求人は、平成21年3月6日、本件請求人口座から本件f口座に20,000,000円を送金した。請求人は、同日付で、同額を商品仕入勘定に計上した。
(ホ) 請求人は、平成21年4月30日、本件請求人口座から本件f口座に30,000,000円を送金する手続を行った。請求人は、同日付で、同額を買入部品勘定に計上した。
(ヘ) 上記(ホ)の送金については、J社が、上記(ロ)と同様の理由により、f外貨管理局から速やかに返金するよう命じられたため、請求人の平成21年5月25日付の依頼により取り消され、同日付で、本件請求人口座に29,997,000円(手数料3,000円が控除された金額)が入金された。請求人は、同日付で、30,000,000円を預り金勘定に計上した。
(ト) 請求人は、平成22年4月22日、本件請求人口座から本件f口座に30,000,000円を送金した。請求人は、同日付で、同額を商品仕入勘定に計上した。
(チ) 請求人は、上記(ヘ)の預り金勘定に計上した30,000,000円について、本件請求人口座から平成22年4月30日付で小切手を振り出し、同日付で、同額を預り金勘定から減額した。そして、当該小切手は、同年5月17日に取り立てられ、K銀行e支店のJ社名義の普通預金口座(以下「本件非居住者口座」という。)に入金された。
(リ) 請求人は、次表の「年月日」欄の各日付でJ社から本件請求人口座に同表の「金額」欄の各金額の送金を受け、各同日(順号まる4の送金額については平成22年9月22日)に、各同額を本件請求人口座から出金をした。そして、当該出金をした金員は、当該各同日に、本件非居住者口座に入金された。なお、請求人は、これらの金員の授受について経理処理を行っていなかった。

順号 年月日 金額
まる1 平成22年6月28日 70,000,000円
まる2 平成22年8月23日 20,000,000円
まる3 平成22年8月23日 18,649,681円
まる4 平成22年9月15日 1,603,829円

(ヌ) 請求人は、平成23年4月26日付で、本件請求人口座から本件f口座に30,000,000円を送金し(以下、当該30,000,000円の送金、上記(イ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)及び(ト)の各送金並びに同(チ)の小切手による本件非居住者口座への入金を併せて「本件各送金等」という。)、同日付で、同額を商品仕入勘定に計上した(以下、この計上した額と上記(イ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)及び(ト)の商品仕入勘定又は買入部品勘定に計上した金額とを併せて「本件各仕入計上額」という。なお、本件値増し合意書及び本件各覚書、本件各仕入計上額並びに本件各送金等に係る各年月日、各金額の状況は別表2のとおりである。)。
(ル) 上記(リ)の表の順号まる3及びまる4の各金額は、請求人が、J社に有償支給した材料等の各輸出取引(以下「本件各輸出取引」という。)の代金であり、請求人の次の各事業年度にそれぞれ次に掲げる金額が益金の額に算入されるべきものであった(以下、次に掲げる各金額を「本件各輸出金額」という。)。

事業年度 金額
平成20年4月期 17,028,142円
平成21年4月期 1,621,539円
平成22年4月期 902,421円
平成23年4月期 701,408円

チ 本件非居住者口座には、上記トの(チ)及び(リ)の金額の入金のほか、平成22年8月16日に5,738円、平成23年2月21日に13,875円の預金利息が付されていた(以下、これらの預金利息を「本件各受取利息」といい、本件各受取利息の金額を「本件各受取利息額」という。)。なお、本件各事業年度を通じて、本件非居住者口座からの出金は無かった。
リ 本件非居住者口座は、平成22年5月17日に、本件各事業年度を通じて、請求人の取締役であったMが口座開設手続を行って開設され、同口座の開設時に届け出た印鑑(以下「届出印」という。)はF代表が、同口座の預金通帳はMがそれぞれ保管していた。
ヌ 本件各更正処分等について
 原処分庁は、まる1本件各仕入計上額に係る金員は、請求人のJ社に対する貸付金であり原価の額とは認められないので損金の額に算入されない、まる2本件各輸出金額は、本件各事業年度の収益の額と認められ、益金の額に算入される、まる3本件非居住者口座は請求人に帰属するものと認められ、本件各受取利息は、その全額が請求人が計上すべき受取利息に該当し益金の額に算入される、まる4上記まる1ないしまる3に係る請求人の行為は隠ぺい又は仮装の行為に該当するなどとして、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を行った。

(5) 争点

イ 本件各仕入計上額は、損金の額に算入されないか否か。
ロ 本件各受取利息は、請求人に帰属するか否か。
ハ 本件各更正処分における各更正通知書に重加算税の各賦課決定処分に係る記載がないことが理由付記の不備に該当し、重加算税の各賦課決定処分は違法であるか否か。
ニ 本件各仕入計上額に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。
ホ 本件各輸出金額に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。
ヘ 本件各受取利息額に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。

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2 主張

(1) 争点イ(本件各仕入計上額は、損金の額に算入されないか否か。)について

イ 原処分庁
 本件各送金等に係る金員は、次の理由により、請求人のJ社に対する貸付金であるから、本件各仕入計上額は、本件各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することはできない。
(イ) 請求人がJ社との間で取り交わした本件各金銭消費貸借契約書の記載内容が両者の意思を表しているといえるから、両者がその意思により選択した金銭消費貸借契約という法形式どおりの契約が私法上有効に成立していると認められるところ、請求人は、当該金銭消費貸借契約に基づき、金銭の授受を行っていたと認められる。
(ロ) 本件値増し合意書以外に、請求人とJ社との間で値増し合意がされた事実はなく、また請求人とJ社との取引価額は毎年実績額を基に改定されていたのであるから、それとは別に取引価額を改定しなければならないとする合理的理由も認められない。
 また、仮に、本件値増し合意書による送金がf外貨管理局により不許可とされたという事情があったとしても、値増しをする合理的な理由がない以上、値増し金とは認められない。
ロ 請求人
(イ) 本件各送金等に係る金員は、次の理由により、請求人のJ社に対する貸付金ではなく、J社からの仕入れに係る合理的な理由のある値増し金であるから、本件各仕入計上額は本件各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される。
A 本件各金銭消費貸借契約書を作成したのは、本件値増し合意書による送金がf外貨管理局により不許可とされたことから、送金許可を得るための形式を整えたにすぎず、貸付けの実態はない。本件各利息免除通知書を作成したのも、値増しという実態に合わせたにすぎない。
B J社の設立以来、J社の実績原価に基づかずに請求人とJ社との間の仕切価格を決めていたことにより、J社において資金不足を来たす状態となったことから、事後的にJ社の実績原価を踏まえた価格に修正すべく両者間で値増し合意をして送金したものである。
(ロ) 仮に、本件各送金等が経済的利益の無償の供与等とされる場合であっても、請求人とJ社との間の仕切価格が当初から不適切であったため、J社は中国における住宅公債基金、訴訟裁判費用、税関保証金等の必要資金を捻出することができず、請求人からの送金がなければ倒産が予想される状態にあったところ、J社がかかる状態に陥ったのは親会社である請求人に経営上の責任があり、また、J社が倒産に至った場合は請求人自体の存亡にも関わることから、請求人が自身の利益を守るために送金したものである。したがって、本件各送金等は合理的な経済目的に基づいて行ったものであり、寄附金には該当しない。

(2) 争点ロ(本件各受取利息は、請求人に帰属するか否か。)について

イ 原処分庁
 本件非居住者口座は、Mが発案し、口座開設の手続を行い開設した口座であり、預金通帳も請求人において保管されていたことからすれば、本件非居住者口座は請求人が管理していたと認められるところ、本件非居住者口座に入金された金員は、本件各金銭消費貸借契約書に基づく請求人からJ社への貸付金の返済金及び本件各輸出取引に係る代金の入金等であり、全て請求人に帰属するものである。
 そうすると、請求人は、請求人に帰属する金員しか入金されていない本件非居住者口座を管理していたと認められるから、その金員を原資として生じた本件各受取利息は請求人に帰属する。
ロ 請求人
(イ) 本件非居住者口座への入金額のうち、本件各受取利息額及び本件各輸出取引に係る代金に相当する額以外の部分については、中国情勢の悪化を受けてJ社の資金を請求人経由で日本に移動させたもので、J社に帰属するものである。したがって、本件各輸出取引に係る代金に相当する額以外の部分に係る受取利息の額は、請求人に帰属せず、J社に帰属する。
(ロ) なお、Mは、J社の総経理でもあるF代表から依頼を受けて本件非居住者口座の開設手続を行ったにすぎず、また、本件非居住者口座は、請求人のために何ら運用されておらず、さらに、預金通帳はMが預かっていたが、本件非居住者口座の届出印はJ社の総経理でもあるF代表が保管していたのであるから、本件非居住者口座を管理していたのが請求人であるとはいえない。

(3) 争点ハ(本件各更正処分における各更正通知書に重加算税の各賦課決定処分に係る記載がないことが理由付記の不備に該当し、重加算税の各賦課決定処分は違法であるか否か。)について

イ 原処分庁
 重加算税を賦課決定する場合に理由を付記すべきとする法令の規定は存在しないから、本件各更正処分に係る各更正通知書に、重加算税の各賦課決定処分に関する理由が付記されていないとしても、それにより重加算税の各賦課決定処分が違法となるものではない。
ロ 請求人
 重加算税を賦課するには、納税者が不正行為を行ったとする具体的な根拠が必要であり、更正通知書においてその根拠が明らかにされるべきものであるところ、本件各更正処分に係る各更正通知書に、重加算税を賦課した理由が付記されていないから、重加算税の各賦課決定処分は違法である。

(4) 争点ニ(本件各仕入計上額に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。)について

イ 原処分庁
 本件各仕入計上額に係る取引に関し、請求人とJ社との間で金銭消費貸借をすることに合意したと認められる本件各金銭消費貸借契約書及び本件各利息免除通知書が存在し、また、J社への貸付金の送金及びJ社からの貸付金の返済の事実があり、さらに、本件製品の取引価格を値増ししなければならないとする合理的な理由又は仕入れ等の事実がないにもかかわらず、請求人は、当該貸付金の額等に相当する額を本件各事業年度の商品仕入れ等として帳簿書類に虚偽記載をし、その虚偽記載をした元帳に基づき本件各事業年度の法人税の確定申告書を提出したと認められる。
 したがって、本件各仕入計上額に係る取引に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったというべきである。
ロ 請求人
 本件各送金等は、請求人のJ社に対する貸付金ではなく、J社からの仕入れに係る合理的な理由のある値増し金であり、請求人はかかる認識の下で送金を行い、当該金額を商品仕入勘定等に計上したのであるから、本件各仕入計上額を商品仕入勘定等に計上したことについて、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為はない。

(5) 争点ホ(本件各輸出金額に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。)について

イ 原処分庁
 本件各輸出金額に関し、請求人における通常の売上げの管理方法のとおり、請求人がインボイス及び輸出品返済状況表を確認しさえすれば、本件各輸出金額が収益に計上されていないことを容易に認識することができ、認識すればこれを是正するか、又は過少申告しないように措置することが十分可能であったにもかかわらず、請求人がそのような措置等を講じずに、本件各輸出金額を元帳に収益として計上することなく、本件請求人口座から本件非居住者口座に移し替え、当該元帳に基づき確定申告書を提出したことは、単なる不注意によるものとは認められず、請求人は、故意に課税標準等の計算の基礎となる事実を隠ぺい又は仮装し、それを原因として過少申告となったものといわざるを得ない。
 したがって、本件各輸出金額に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったというべきである。
ロ 請求人
 本件各輸出金額に関し、有償支給品である材料等に係る請求人の通常の売上げの管理方法からすれば、J社から本件各輸出金額の入金があった時点で本社の総務部がe工場に確認し、経費の戻入れとして処理すべきところ、本件各輸出取引に係る金額・頻度が少なかったために、総務部がJ社からの資金移動による入金と誤認し、e工場に確認することなく本件非居住者口座に入金処理したことにより、経費の戻入れ処理がされず、結果として収益に計上されなかったものであり、意図的に収益に計上しなかったものではない。
 したがって、本件各輸出金額に関し、請求人には、事実の隠ぺい又は仮装の行為はない。

(6) 争点ヘ(本件各受取利息額に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。)について

イ 原処分庁
 本件請求人口座に入金された本件各金銭消費貸借契約書に基づく貸付金の返済金及び本件各輸出取引に係る代金等は全て請求人に帰属するものであるにもかかわらず、請求人は、これらを自らが管理する本件非居住者口座に移し替え、その金員を原資として生じた本件各受取利息額を元帳に収益として計上することなく、当該元帳に基づき確定申告書を提出したと認められる。
 したがって、本件各受取利息額に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったと認められる。
ロ 請求人
 本件非居住者口座の預金のうち、本件各受取利息及び請求人に帰属する本件各輸出取引に係る代金に相当する額以外の部分については、中国情勢の悪化を受けてJ社の資金を請求人経由で日本に移動させたもので、J社に帰属するものであるから、当該部分に係る受取利息の額を請求人に帰属するとして重加算税を賦課したことは違法である。
 また、本件各輸出取引に係る代金は本社の総務部がJ社からの資金移動による入金と誤認し、e工場に確認することなく本件非居住者口座に入金処理したことにより、経費の戻入れ処理がされず、結果として収益に計上されなかったものであり、意図的に収益に計上しなかったのではないから、本件各輸出取引に係る代金相当額の元金から発生した受取利息額に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為はない。

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3 判断

(1) 争点イ(本件各仕入計上額は、損金の額に算入されないか否か。)について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) J社は、平成20年5月、中国の会計師事務所であるN事務所(現在のP事務所f分所)に対して、製品の値増しについて相談したところ、同会計師事務所から、次回の契約から製品の加工賃を値上げすることが望ましい旨の意見が示されたが、J社より、早期に入金を受けないと運転資金が不足する旨申し出たところ、同会計師事務所はJ社の株主である請求人と協議し、J社は、同会計師事務所から、増資又は貸借という形で解決することができる旨のアドバイスを受けた。
(ロ) J社の財務諸表によれば、J社の各事業年度の借入金及び損益の状況は、次のとおりであった。
A 請求人からの短期借入金として、平成20年12月31日現在で40,000,000円が、平成21年12月31日現在で60,000,000円が、平成23年12月31日現在で30,000,000円がそれぞれ計上されていた。
B J社の各事業年度の未処理損失金は、平成19年12月31日現在で○○○○円、平成20年12月31日現在で○○○○円、平成21年12月31日現在で○○○○円、平成22年12月31日現在で○○○○円、及び平成23年12月31日現在で○○○○円であった。
ロ 法令解釈
(イ) 法人税法第37条の寄附金は、同条第7項の規定の内容からすれば、民法上の贈与に限らず、経済的に見て贈与と同視し得る金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は供与であれば足りるというべきである。そして、ここにいう「経済的に見て贈与と同視し得る金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は供与」とは、金銭その他の資産又は経済的利益を対価なく他に移転する場合であって、その行為について経済的合理性が存しないものを指すものと解するのが相当であり、他方、法人のかかる行為が相当な理由に基づいてなされ、経済的合理性が存する場合には、これを単なる贈与であるということはできないから、その贈与した金銭その他の資産又は供与した経済的利益の額は寄附金の額に該当しないと解すべきである。
(ロ) 法人税基本通達9−4−2も、かかる観点に立って、法人がその子会社等に対して無利息貸付け等をした場合において、その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする旨定めており、同通達の定めは、当審判所においても相当と認められる。
ハ 当てはめ
(イ) 本件各送金等について、原処分庁は、本件各金銭消費貸借契約書に基づく請求人からJ社に対する貸付けである旨主張し、請求人は、J社からの仕入れに係る合理的な理由のある値増し金である旨主張する。
 この点、本件各送金等に関して、上記1の(4)のヘのとおり、請求人とJ社は本件各金銭消費貸借契約書を作成し、また、上記イの(ロ)のAのとおり、J社の財務諸表には請求人からの短期借入金が存する旨の記載が認められるものの、他方、上記1の(4)のトの(イ)及び(ロ)のとおり、請求人はJ社宛に送金手続を行ったところf外貨管理局から返金を命じられたこと、上記イの(イ)のとおり、J社は、平成20年5月、中国の会計師事務所から、請求人からJ社への送金については増資又は貸借の形で解決をすることができる旨アドバイスを受けたこと、上記1の(4)のヘのとおり、請求人は、当該アドバイスを受けた後の平成20年9月以後のJ社への送金に当たっては金銭消費貸借契約書を作成していることの各事実が認められる。そして、同へのとおり、請求人は本件各事業年度に元利返済期限が到来する利息をその都度免除することとなるよう本件各利息免除通知書を作成していることからすれば、本件各送金等に係る金員について、請求人とJ社との間に利息を授受する定めがあったものと認めることはできず、また、これに加えて、J社から請求人への送金の日付は、上記1の(4)のトの(リ)の表の順号まる1及び同まる2のとおりであって、同(4)のヘの表の元利返済期限と合致していないことからすれば、請求人が本件各金銭消費貸借契約書を作成して本件各送金等をしたことをもって、金銭消費貸借契約の成立要件である当事者間における交付した金銭に係る返済の合意が存するとも認められない。
 そうすると、請求人及びJ社が本件各金銭消費貸借契約書を作成したことは、請求人がf外貨管理局の許可を得てJ社に必要な資金を送付するために、金銭消費貸借契約の形式を採用したにすぎず、本件各利息免除通知書の作成やJ社における借入金の計上も、これに対応させたものにすぎないと認められる。
 したがって、本件各送金等に係る金員が貸付金であるとの原処分庁の主張は採用できない。
(ロ) また、上記1の(4)のニのとおり、請求人はJ社との間で本件値増し合意書を作成し、さらに、同(4)のホのとおり、F代表は本件各覚書を作成しており、これらの書面によれば、請求人とJ社との本件製品の既往の取引についての値増しである旨の記載があるものの、同(4)のニ及びホの(イ)のとおり、本件値増し合意書及び平成20年4月24日付覚書の値増しの金額は平成18年及び平成19年の為替レートの変動及び諸費用の額を単純に比較して差額から算出したものであること、同ホの(イ)のA及び(ロ)のA並びに同ホの(ハ)のA及び(ニ)のAのとおり、これらはいずれも同一の取引を対象としているにもかかわらず算出された値増し額が異なっていること、同ホの(ロ)のとおり、平成20年9月18日付覚書は平成20年4月24日付覚書に訴訟裁判費用を加えて値増しの額を算出しているものであること、同ホの(ハ)のとおり、平成21年2月23日付覚書は諸経費の高騰によるもののほかに平成20年9月18日付覚書の計算上生じた値増しの不足額を加算しているものであること、同ホの(ニ)のとおり、平成21年4月23日付覚書はJ社の直近の決算における損失額に平成21年2月23日付覚書の計算上生じた値増しの不足額を加算したものであること、同ホの(ホ)のとおり、平成22年3月19日付覚書はJ社の建物の各部補修費の額に平成21年4月23日付覚書の計算上生じた値増しの不足額を加算したものであること、及び同ホの(ヘ)のとおり、平成23年4月26日付覚書はJ社の直近の決算における損失額に平成22年3月19日付覚書の計算上生じた値増しの不足額を加算したものであることの各事実が認められ、これらの事実によれば、本件各送金等は、J社の為替差損、諸経費の増加、訴訟裁判費用、建物の補修費及び赤字補填のために行われたとみるのが相当であり、請求人とJ社との間において、値増しの対象とされた既往の各取引について、事後的に本件製品の実績原価を算出した上で値増しの額を算出するなどして既往の取引価額の修正について合意したと認めることはできず、本件値増し合意書及び本件各覚書をもって、請求人がJ社からの仕入れに係る値増しを行ったと認めることはできない。
 したがって、本件各送金等に係る金員が請求人のJ社からの仕入れに係る値増し金であるとの請求人の主張には理由がない。
(ハ) そうすると、上記イの(ロ)のBのとおり、J社の各事業年度の未処理損失金の額は年々増加していること、上記(ロ)のとおり、本件各送金等は、J社の為替差損、諸経費の増加、訴訟裁判費用、建物の補修費及び赤字補填のために行われたとみるのが相当であること、及び上記(イ)のとおり、本件各送金等に係る金員はJ社に対する金銭の貸付けに当たらないことからすると、本件各送金等は、親会社である請求人が、資金不足に陥ったJ社に対し、金銭の贈与(以下「本件金銭贈与」という。)を行ったものと認めるのが相当であり、上記イの(ロ)のBのとおり、J社の各事業年度の未処理損失金の額は年々増加していることが認められるものの、当審判所に提出された全証拠及び当審判所の調査に結果によっても、本件金銭贈与がなければJ社が倒産する状況にあったとは認められないから、本件金銭贈与がJ社の倒産を防止するなどのためにやむを得ず行われたものとはいえず、また、合理的な再建計画に基づくものであるなど、本件金銭贈与をしたことについて、相当な理由があると認められないから、本件金銭贈与の額は、寄附金の額に該当する。
(ニ) そして、上記1の(4)のロのとおり、J社は、本件各事業年度を通じて、請求人に係る租税特別措置法第66条の4第1項に規定する国外関連者に該当するから、本件金銭贈与の額は、法人税法第37条に規定する寄附金の額で、請求人に係る国外関連者に対するものに該当する。
 ところで、寄附金については、その支払がされるまでの間は、支出がなかったものとされており、未払寄附金の額は損金の額に算入されないところ、本件各仕入計上額のうち平成20年4月28日に計上した20,000,000円は、上記1の(4)のトの(イ)のとおり、同日付で送金手続が行われたものの、同トの(ロ)のとおり、平成20年5月19日付で送金が取り消された後、同トの(ハ)のとおり、平成20年9月29日に送金されており、また、平成21年4月30日に計上した30,000,000円は、同トの(ホ)のとおり、同日付で送金手続が行われたものの、同トの(ヘ)のとおり、平成21年5月25日付で送金が取り消され、同トの(チ)のとおり、平成22年4月30日付で振り出された小切手が平成22年5月17日に取り立てられ本件非居住者口座に入金されており、そうすると、これらの金額については、商品仕入勘定等へ計上した事業年度の損金の額に算入されず、本件非居住者口座への入金の時にそれぞれ支出があったものとして寄附金の損金不算入額の計算を行うこととなる。
 したがって、本件各仕入計上額のうち上記の20,000,000円及び30,000,000円については、商品仕入勘定等に計上した事業年度の損金の額に算入されず、また、本件各仕入計上額のうちその他の金額については、その計上した事業年度において、租税特別措置法第66条の4第3項の規定により、その全額が損金の額に算入されないこととなる。
ニ 請求人の主張について
 請求人は、仮に、本件各送金等が経済的利益の無償の供与等とされる場合であっても、本件各送金等は合理的な経済目的に基づいて行ったものであるから、寄附金には該当しない旨主張する。
 確かに、上記イの(ロ)のBのとおり、J社の各事業年度の未処理損失金の額は年々増加していること、上記ハの(ロ)のとおり、本件各送金等は、J社の資金需要や赤字補填に応じるために行われたものとみるのが相当であることが認められる。
 しかしながら、上記ハの(ハ)のとおり、本件各送金等は請求人からJ社への寄附金に該当すると認められることに加え、上記1の(4)のトの(チ)及び(リ)並びに同(4)のチのとおり、平成23年4月期末において、120,000,000円が本件非居住者口座に入金されたまま日本国内にとどまっていることからしても、本件金銭贈与について、相当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点ロ(本件各受取利息は、請求人に帰属するか否か。)について

イ 本件非居住者口座について、原処分庁は、口座開設の経緯及び預金通帳の保管状況から、請求人が管理していたと認められるとし、本件各受取利息もその全額が請求人に帰属する旨主張する。
 確かに、上記1の(4)のリのとおり、本件非居住者口座は、Mが口座開設手続を行い、同口座の届出印はF代表が、同口座の預金通帳はMがそれぞれ保管していた事実が認められる。しかしながら、上記1の(4)のトの(チ)及び(リ)並びに同(4)のチのとおり、本件非居住者口座に入金された金員は、本件各受取利息額を除いて同(4)のトの(チ)及び(リ)の金額のみであり、また、本件各事業年度を通じて本件非居住者口座からの出金はないから、請求人が本件非居住者口座の資金を使用していた事実もないこと、同(4)のロのとおり、F代表はJ社の総経理に就任していたことの各事実に加え、J社の親会社である請求人の取締役であったMが依頼を受けてJ社のために日本国内における預金口座開設の手続を行っても不自然ではないことからすれば、口座開設の経緯及び預金通帳の保管状況のみをもって、本件非居住者口座が請求人のものであり、本件各受取利息もその全額が請求人に帰属すると認めることはできない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
ロ そして、本件非居住者口座への入金額には、上記1の(4)のトの(リ)及び(ル)のとおり、本件各輸出取引に係る請求人の益金の額に算入すべき金額が含まれているところ、本件各受取利息(合計19,613円)は、J社名義の本件非居住者口座の預金(合計○○○○円)を元金として発生したものであり、当該元金は、請求人又はJ社にそれぞれ帰属するものが混在しているから、元金の帰属に応じて本件各受取利息が帰属するものと認めるのが相当であり、本件においてこれを不合理とする特段の事情も認められないので、その帰属に従ってあん分計算すると、別表3のとおり、本件各受取利息のうち請求人に帰属するのは、平成22年8月23日付の18,649,681円及び同年9月22日付の1,603,829円を元金として発生した利息額1,928円である。

(3) 争点ハ(本件各更正処分における各更正通知書に重加算税の各賦課決定処分に係る記載がないことが理由付記の不備に該当し、重加算税の各賦課決定処分は違法であるか否か。)について

 請求人は、上記2の(3)のロのとおり主張する。
 しかしながら、重加算税を賦課決定する場合に理由を付記すべきとする法令の規定は存在しないから、本件各更正処分に係る通知書に重加算税の各賦課決定処分に係る記載がされていないことをもって当該処分が違法となるものではない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(4) 争点ニ(本件各仕入計上額に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。)について

イ 法令解釈
 国税通則法第68条第1項に規定する「事実を隠ぺいし」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠ぺいし又は故意に脱漏することをいい、また、「事実を仮装し」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかもそれが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうものと解される。
ロ 当てはめ
 原処分庁は、上記2の(4)のイのとおり主張する。
 しかしながら、上記(1)のハのとおり、請求人及びJ社が本件各金銭消費貸借契約書を作成したことは、J社が中国の会計師事務所に本件製品の値増しについて相談し、本件製品の加工賃の値上げを提案されたものの、早期の資金提供のためには増資又は貸借の形で解決することができる旨のアドバイスがあり、これを受けて、請求人がf外貨管理局の許可を得てJ社に必要な資金を送付するために、金銭消費貸借契約の形式を採用したにすぎず、また、F代表が作成していた本件各覚書の記載内容からは既往の取引の値増しを企図し、そのために一応の計算を行ったことがうかがわれることからすれば、結果的には本件各送金等の額に相当する額の大部分が本件非居住者口座に残っていることなど請求人の取引に不自然な点はあるものの、当審判所の調査の結果によっても、本件各仕入計上額に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為と評価すべき行為があったと認めるに足る証拠はない。
 したがって、本件各仕入計上額に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為はなく、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(5) 争点ホ(本件各輸出金額に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。)について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、請求人は、本件各事業年度を通じて、J社への材料等の有償支給に関して、J社への輸出時に経理処理を行っておらず、本件各輸出取引の代金の入金前のJ社からの当該有償支給に係る入金については、入金の都度、請求人の材料費勘定、消耗工具費勘定又は工場経費勘定から当該入金の額に相当する金額を減額する経理処理を行っていた。
ロ 法令解釈
 国税通則法第68条第1項に規定する「事実を隠ぺいし」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠ぺいし又は故意に脱漏することをいい、また、「事実を仮装し」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかもそれが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうものと解される。
ハ 当てはめ
 原処分庁は、上記2の(5)のイのとおり主張する。
 確かに、請求人は、上記1の(4)のトの(リ)のとおり、本件各輸出金額について本件請求人口座へ送金を受けた後、経理処理を行わないまま、本件請求人口座から出金し、その出金日と同日にその出金額と同額が本件非居住者口座へ入金されていることが認められる。しかしながら、上記イのとおり、請求人は、本件各輸出取引の代金の入金前のJ社からの当該有償支給に係る入金についても、J社への輸出時に経理処理を行わないまま、当該入金の都度、請求人の材料費勘定、消耗工具費勘定又は工場経費勘定から当該入金の額に相当する金額を減額する経理処理を行っていたことが認められ、本件各輸出金額について収益に計上しないまま本件請求人口座から出金したことについて、請求人の経理処理の誤りであるとの主張以上に、本件各輸出金額に関し請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったとまで認めるに足る事実はない。
 したがって、本件各輸出金額に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為はなく、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(6) 争点ヘ(本件各受取利息額に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。)について

 原処分庁は、上記2の(6)のイのとおり主張する。
 この点、上記(2)のロのとおり、本件各受取利息額のうち請求人に帰属するのは、本件各輸出取引に係る代金相当額の元金から発生した利息額1,928円(以下「請求人帰属利息額」という。)のみであるところ、本件各輸出金額について、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為が認められないのは、上記(5)のハのとおりであり、また、請求人帰属利息額を計上しないことについて何らかの事実の隠ぺい又は仮装の行為があったと認められる事実も存しない。
 したがって、本件各受取利息額に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為はなく、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(7) 結論

イ 本件各更正処分について
(イ) 平成20年4月期、平成21年4月期及び平成22年4月期の各更正処分については、上記(1)のハの(ニ)とおり、本件各仕入計上額は、未払寄附金又は国外関連者に対する寄附金と認められ、これに基づき請求人の上記各事業年度における所得金額及び納付すべき税額を算定すると、別表4ないし6の「審判所認定額(B)」欄のとおりとなり、いずれも上記各事業年度の更正処分の金額と同額となることから、上記各事業年度の法人税の各更正処分は適法である。
(ロ) 平成23年4月期の更正処分については、上記(1)のハの(ニ)のとおり、本件各仕入計上額は、国外関連者に対する寄附金と認められ、上記(2)のロのとおり、請求人に帰属する受取利息の額は1,928円であるから、これらに基づき請求人の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表7の「審判所認定額(B)」欄の「まる13」及び「まる16」欄記載の各金額となり、これらの金額は、更正処分の額を下回るから、別紙4の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。
ロ 本件各賦課決定処分について
 本件における重加算税の各賦課決定処分については、本件各仕入計上額に係る部分、本件各輸出金額に係る部分及び本件各受取利息額のうち請求人帰属利息額に係る部分は、上記(4)ないし(6)のとおり、事実の隠ぺい又は仮装の行為があったと認められないから重加算税を賦課することは適当ではなく、過少申告となったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、重加算税の各賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき取り消すべきであり、同条第1項及び第2項の規定に基づき過少申告加算税の額を改めて算定すると、本件各賦課決定処分の額を下回るから、別紙1ないし4の「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。

(8) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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