(平成25年7月4日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、納税者L(以下「本件滞納者」という。)が審査請求人(以下「請求人」という。)との協議離婚に際して財産分与として行った不動産の所有権の移転について、当該財産分与は国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」に該当するとして、請求人に対して第二次納税義務の納付告知処分をしたのに対し、請求人が、主位的に、まる1当該財産分与は不相当に過大な財産分与ではないから「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」に該当しない、まる2同告知処分は信義則の法理が適用されるから違法であると主張して、その全部の取消しを求めるとともに、予備的に、まる3請求人は徴収法第39条の「親族その他の特殊関係者」に該当せず、同告知処分には納付すべき限度額の計算に誤りがあるなどと主張して、その一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、本件滞納者が納付すべき別表1記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)について、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、平成12年2月22日から平成13年6月18日までの間に、M税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ロ 原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、平成24年2月2日付で、請求人に対し、徴収法第39条の規定に該当する事実があるとして、同法第32条《第二次納税義務の通則》第1項(同法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》による読替え後のもの。以下同じ。)の規定に基づき、まる1納付すべき限度の額を○○○○円、まる2納付の期限を同年3月2日、まる3その他必要な事項を記載した納付通知書により、第二次納税義務の納付告知処分をした。
ハ 請求人は、平成24年3月9日、上記ロの納付告知処分を不服として、異議申立てをした。
ニ 原処分庁は、平成24年6月12日付で、上記ロの納付告知処分に係る納付すべき限度の額の一部(○○○○円)を取り消した(以下、当該一部取消し後の上記ロの納付告知処分を「本件納付告知処分」という。)。
ホ 異議審理庁は、平成24年6月12日付で、上記ハの異議申立てを棄却する旨の決定をした。
ヘ 請求人は、平成24年7月9日、異議決定を経た後の本件納付告知処分に不服があるとして、審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙1のとおりである(なお、略称等は本文中の例による。)。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人と本件滞納者との関係等について
(イ) 請求人は、昭和○年○月○日生まれの女性である。
(ロ) 本件滞納者は、昭和○年○月○日生まれの男性である。
(ハ) 請求人と本件滞納者は、昭和46年2月26日に婚姻の届出をした。
(ニ) 請求人と本件滞納者は、平成12年5月26日に協議離婚(以下「本件離婚」という。)の届出をした。
ロ 本件離婚の際の財産分与について
(イ) 本件滞納者は、平成9年5月○日、父であるN(以下「亡N」という。)を被相続人とする相続(以下「本件相続」という。)により、別表2記載の土地(以下「本件不動産」という。)を取得した。
(ロ) 本件滞納者は、平成12年5月23日、本件離婚に際し、請求人に対して、財産分与として本件不動産の所有権を移転し(以下、当該所有権の移転を「本件財産分与」という。)、同月30日受付で、同月23日財産分与(本件財産分与)を原因とする所有権移転登記が経由された。

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2 争点

(1) 争点1

 本件財産分与は徴収法第39条の「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」に該当しないとして、本件納付告知処分の全部を取り消すべきであるか否か。

(2) 争点2

 本件納付告知処分は信義則の法理の適用により違法なものであるとして、本件納付告知処分の全部を取り消すべきであるか否か。

(3) 争点3

 仮に、争点1及び争点2の本件納付告知処分の全部の取消事由がなく、請求人が第二次納税義務を負う場合、その限度額はいくらであるか。

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3 主張及び判断

(1) 争点1について

イ 主張
(イ) 原処分庁
 次の理由から、本件財産分与は、徴収法第39条の「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」に該当する。
A 離婚に伴う財産分与が、民法第768条《財産分与》第3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りる事情があると認められるときは、その限度において徴収法第39条の「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」に該当するとみるのが相当である。
B 本件財産分与が民法第768条第3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であるかどうかは、本件財産分与時における本件不動産の価額から、財産分与請求権の内容に相当する額等を控除した額の有無で判断するのが相当である。
 そして、本件不動産(特有財産)の本件財産分与時の価額は○○○○円であり、請求人の財産分与請求権相当額は42,724,900円(まる1清算的要素の金額33,124,900円、まる2扶養的要素の金額3,600,000円、まる3慰謝料的要素の金額6,000,000円)であるから、本件財産分与は、民法第768条第3項の規定の趣旨に反して不相当に過大である。
 なお、夫婦各自の特有財産は、婚姻中の夫婦の協力によって維持・増加したと認められる部分を除き清算的要素としての財産分与の対象とならないところ、本件滞納者が本件相続により取得した亡NがPに対して有していた貸付金債権470,000,000円(以下「本件貸付金債権」という。)については、本件滞納者と請求人の協力によって維持・増加したとみるべき事実は確認できないから、清算的要素としての財産分与の対象財産に含まれない。
 また、租税債務等の負債については、特有財産として、財産分与請求権の計算対象にその一定額を考慮する余地はある。
(ロ) 請求人
 次の理由から、本件財産分与は、徴収法第39条の「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」に該当しない。
A 離婚に伴う財産分与として資産の譲渡が行われた場合、当該財産分与が不相当に過大なものでない限り、財産分与をした者については、分与時の時価により当該資産の譲渡がされたものとして譲渡所得に係る所得税の課税がされ、他方、財産分与を受けた者については、分与時の時価により当該資産を取得したことになるから(最高裁昭和50年5月27日第三小法廷判決、所得税基本通達(昭和45年7月1日付直審(所)30国税庁長官通達。以下同じ。)33−1の4《財産分与による資産の移転》、同通達38−6《分与財産の取得費》)、当該譲渡は、徴収法第39条の「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」に該当しない。
 なお、相続税法基本通達(昭和34年1月28日付直資10国税庁長官通達)9−8《婚姻の取消し又は離婚により財産の取得があった場合》ただし書は、財産分与に係る財産の額が過当であると認められる場合における当該過当である部分の財産の価額に対しては、贈与税が課されることになる旨定めているところ、本件において、本件財産分与があった平成12年5月から本件納付告知処分がされるまでの間に、請求人に贈与税が課されたことはなかったのであるから、原処分庁も本件財産分与について「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」に該当しないことを認めていたものである。
B 本件財産分与が民法第768条第3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であるかどうかは、婚姻期間、婚姻中の生活状況(妻の家事労働等、資産維持のための貢献を含む。)、離婚に至る経緯等(有責性を含む。)、扶養の必要性、財産分与の対象となった財産の分与者の有していた資産に対する割合等を総合勘案して決められるべきであるところ、次の事情からすると、本件財産分与は不相当に過大なものとはいえないから、徴収法第39条の「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」に該当しない。
(A) 本件滞納者と請求人の事情
a 本件滞納者と請求人の結婚生活は28年余にわたる。
b 請求人は、まる1本件滞納者が農業を営んでいる時はこれを手伝うとともに、約20年間パートの仕事に従事して一家の財産の形成・保持に助力しており、まる2本件滞納者の両親の介護を尽くすとともに、2人の子供を養育してきた。
c 本件滞納者と請求人の離婚の原因は、本件滞納者の自堕落かつ無責任な生活態度、○○行為によるものである。
(B) 本件滞納者の資力
 本件財産分与時の本件滞納者の資力は、812,744,000円である。
(C) 分与財産
 請求人が本件財産分与により取得した本件不動産(○○○○円)は、上記(B)の本件財産分与時の本件滞納者の資力の約○%にすぎない。
(D) 離婚後扶養料及び慰謝料
 請求人への離婚後扶養料としては、少なくとも18,000,000円までは過大であるとはいえず、また、請求人への慰謝料としては、少なくとも10,000,000円までは過大であるとはいえない。
(E) 請求人の財産分与請求権の計算の対象となる財産
a 本件貸付金債権については、これを担保するために、平成12年5月23日の時点で、Pが所有していたg市i町○−○、同○番○、同○番○及び同○番○の各土地(雑種地・畑、合計5,498平方メートル(実測5,915.10平方メートル)。以下「本件担保不動産」という。)に最も先順位の抵当権設定仮登記が経由されていたことから明らかなとおり、相応の価値が存するものであり、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達)204《貸付金債権の評価》の定めに従って額面額の470,000,000円で評価し、財産分与請求権の計算の対象とすべきである。
 上記のとおり、本件貸付金債権は額面額の470,000,000円で評価すべきであるが、本件担保不動産について鑑定評価をしたところ、259,000,000円の評価額が算出されたことから、本件貸付金債権は、少なくとも同額以上の価額で評価して財産分与請求権の対象とすべきである。
 なお、原処分庁は、本件貸付金債権が無価値であると主張するが、そうであれば、g市j町○−○所在の土地(旧所在・地番:g市k町○−○。以下「本件Q不動産」という。)の売却当時、本件滞納者が債務超過であったために本件Q不動産の売却益は非課税所得となるはずであり、本件貸付金債権が無価値であるとの原処分庁の主張は、過去に原処分庁が行った本件滞納者の滞納税金の算出過程(本件Q不動産の売却益に係る所得税○○○○円を滞納税金に含めている。)と矛盾する。
b 財産分与請求権の計算の対象となる財産に、租税債務等の負債は含まれない。
ロ 判断
(イ) 法令解釈
A 徴収法第39条が規定する第二次納税義務の趣旨
 徴収法第39条が規定する第二次納税義務の制度は、本来の納税義務者である滞納者が、その者の国税の法定納期限の1年前の日以後に、その者の財産について無償又は著しく低い額の対価による譲渡等の処分を行ったため、その者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められることとなった場合に、当該処分により権利を取得し、又は義務を免れた第三者に対して、補充的に当該国税について履行責任を負わせることによって、当該国税の徴収確保を図ろうとする制度であると解される。
B 離婚における財産分与の法的性質
 ところで、民法第768条が規定する離婚における財産分与は、夫婦が婚姻中に有していた実質上の共同財産を清算分配するとともに、離婚後における相手方の生活の維持に資することにあるが、分与者の有責行為によって離婚をやむなくされたことに対する精神的損害を賠償するための給付の要素をも含めて分与することを妨げられないものというべきである(最高裁昭和58年12月19日第二小法廷判決・民集37巻10号1532頁参照)。このことからすると、離婚における財産分与は、まる1清算的要素、まる2扶養的要素、まる3慰謝料的要素の三要素から構成されると解される。
C 離婚における財産分与と徴収法第39条
(A) 離婚における財産分与請求権は民法第768条第1項によって認められた権利であるから、離婚における財産分与として分与者の財産の譲渡等の処分が行われた場合、当該分与の額が同条に基づいて分与者が負担する法律上の義務の履行として認められる相当な限度を超えないものである限り、徴収法第39条が規定する無償又は著しく低い額の対価による譲渡等の処分に当たるものではないと解するのが相当である。
(B) このように、離婚における財産分与が徴収法第39条の規定する無償又は著しく低い額の対価による譲渡等の処分に当たるか否かは、当該分与が民法第768条の規定の趣旨に反して不相当に過大であるか否かによって判断することとなるところ、財産分与の額及び方法を定めるについては、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮すべきものであることは同条第3項の規定上明らかであり、このことは、裁判上の財産分与であると協議上のそれであるとによって、何ら異なる趣旨のものではないと解される(前掲最高裁昭和58年12月19日第二小法廷判決参照)。
 そうすると、財産分与が民法第768条の規定の趣旨に反して不相当に過大であるか否かは、まる1夫婦双方がその協力によって得た財産や夫婦それぞれの財産の額、並びにこれらの財産の形成への協力や貢献の状況等、まる2婚姻期間の長短や、婚姻期間中の生活状況等、まる3離婚後の扶養の必要性、及びまる4離婚の原因等の諸事情を考慮して、上記Bの三つの要素に相当する額をそれぞれ算定した上で判断するのが相当である。
(C) そして、上記Bの三つの要素に相当する額の算定は、次のとおり行うべきである。
a 清算的要素
(a) 財産分与における清算的要素とは、夫婦が婚姻中に有していた実質上の共同財産を清算分配するための給付の要素である(上記B)。
 清算の対象財産は、婚姻中に夫婦の協力により取得した共同形成財産(取得名義が夫婦の共有となっている財産(共有財産)には限られない。以下「共同形成財産」という。)であるから、夫婦の一方が婚姻前から有する財産や、夫婦の一方が婚姻中に第三者から無償取得(相続・贈与)した財産は、夫婦各人の特有財産(民法第762条《夫婦間における財産の帰属》第1項)として、清算対象財産とはならないのが原則である。もっとも、特有財産であっても、婚姻中の夫婦の協力によってその価値が維持・増加したと認められる部分については、清算的財産分与の対象になると解するのが相当である。
(b) なお、清算的財産分与の対象となる特有財産(積極財産)の所有者が特有財産(消極財産)を有する場合、特有財産(積極財産)は夫婦が婚姻中に協力して取得した財産ではないことはもとより、他の債権者にとっての引当て財産でもあるから、特有財産(消極財産)も考慮した上で財産分与相当額の判定を行うべきである。
(c) そして、清算割合は、配偶者の法定相続分が最低でも2分の1であること(民法第900条《法定相続分》)等を踏まえると、特に寄与の程度が異なることが明らかでなければ、2分の1であるとみるのが相当である。
b 慰謝料的要素
 財産分与における慰謝料的要素とは、分与者の有責行為によって離婚をやむなくされたことに対する精神的損害を賠償するための給付の要素である(上記B)。
 慰謝料的要素に相当する額の算定は、有責行為の種類と態様、有責性の程度、婚姻期間や年齢、当事者双方の資力や社会的地位等、諸般の事情を考慮して行うべきである。
c 扶養的要素
 財産分与における扶養的要素とは、離婚後生活に困窮するものに対し経済的に余裕がある他方が行う、相手方の生活の維持に資するための給付の要素であり(上記B)、本来離婚後は夫婦各自が経済的自立を求められることからすると、清算的財産分与や慰謝料などにより取得した財産では生計を維持することができない場合にのみ補充的に認められるものである。
 そうすると、扶養的財産分与の程度(離婚後の生計を維持できる程度)とは、生活保護において支給される最低生活費の程度というべきであり、扶養的要素に相当する額の算定に当たっては、まる1分与を求める者の要扶養状態を判断する事情として、離婚時の財産状況(資産・収入)、離婚後の所得稼得能力、養育すべき子の存在、離婚後他の親族により扶養を受ける可能性などを考慮し、まる2分与者の扶養能力を判断する事情として、離婚時の財産状況(資産・収入)、離婚後の所得の見込み、扶養義務を負う他の親族の存在などを考慮して行うべきである。
(D) なお、財産分与の対象が不動産である場合、当該分与により分与者の財産分与義務が消滅するものであることからすると、当該分与時における当該不動産の価額と財産分与相当額とを比較して、当該分与が無償又は著しく低い額の対価による譲渡等の処分に当たるか否かを判断するのが相当である。
(ロ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 本件滞納者及び請求人が本件財産分与の時点で有していた財産について
(A) 本件滞納者について
a 本件滞納者が有していた財産について
 本件滞納者が本件財産分与の時点で有していた財産は、別表3−1記載のとおりである(なお、上記財産の評価額については後述する。)。
b 本件貸付金債権について
 上記aの本件滞納者が本件財産分与の時点で有していた財産のうち、本件貸付金債権については、次の事実が認められる。
(a) 亡Nは、甥であるPから依頼されて同人に貸し付けることとなった470,000,000円の貸付資金を調達するため、平成7年11月1日付で、R社との間で、まる1弁済期限を平成9年11月27日として同社から470,000,000円を借り受ける旨の金銭消費貸借契約、及びまる2担保のため亡Nが所有していた本件Q不動産に抵当権を設定する旨の抵当権設定契約を各締結し、平成7年11月1日、本件Q不動産に上記まる2に係る抵当権設定登記が経由された。
 なお、本件滞納者は、上記まる1及びまる2の各契約の連帯保証人であった。
(b) また、亡Nは、平成7年11月8日付で、Pとの間で、まる1弁済期限を平成9年10月31日としてPへ470,000,000円を貸し付ける旨の金銭消費貸借契約、及びまる2本件担保不動産に抵当権を設定する旨の抵当権設定契約を各締結して、Pに上記(a)に係る470,000,000円を貸し付け(本件貸付金債権)、平成7年11月9日、本件担保不動産に上記まる2に係る抵当権設定仮登記が経由された。
(c) 本件滞納者は、平成9年5月○日、本件相続により、本件貸付金債権及び本件Q不動産を取得した。
(d) Pは、本件貸付金債権の弁済期である平成9年10月31日(上記(b))が到来したにもかかわらず、本件滞納者に対して、本件貸付金債権に係る470,000,000円を返済しなかった。
(e) 本件滞納者は、平成10年7月21日、R社に対して、本件Q不動産を第三者に売却した代金を原資として、上記(a)の借入金の元金及び遅延損害金等の全額(一部免除を受けた後の金額)である500,000,000円を返済した。
(f) なお、本件貸付金債権の担保である本件担保不動産は、市街化調整区域内にあり、平成13年2月19日に原処分庁所属の徴収担当職員が確認した際の現況は、一部は道路であり、一部はPが居住するプレハブ建物の敷地として、あるいは資材・重機等の置場などとして使用されている雑種地であった。
(B) 請求人について
 請求人が本件財産分与の時点で有していた財産は、別表3−2記載のとおりである。
B 本件滞納者と請求人の婚姻中の事情等について
(A) 婚姻期間等について
 本件滞納者と請求人の婚姻期間は、約29年3か月であり、本件離婚当時の年齢は、請求人が○歳、本件滞納者が○歳であった。
(B) 家族関係等について
a 請求人と本件滞納者との間には、昭和47年に長男が、昭和50年に次男が、それぞれ誕生しており、請求人は、婚姻期間中に2人の子を養育した。なお、2人の子は、本件離婚当時にはいずれも成人していた。
b 本件滞納者の母であるS(以下「亡S」という。)は昭和60年頃から○○を、本件滞納者の父である亡Nは平成3年頃から○○を、それぞれ患っていたところ、請求人は、本件滞納者の両親が死亡するまでの間(亡Nは平成9年5月○日に、亡Sは平成5年12月○日に、それぞれ死亡している。)、専ら一人で、その介護等をした。
(C) 婚姻期間中の生計の状況等について
a 請求人及び本件滞納者は、婚姻期間中は、2人の子及び本件滞納者の両親とともに、本件不動産上に存する家屋(未登記建物)に居住していた。
b 本件滞納者の一族は、代々農業に従事している旧家であった。
 本件滞納者は、婚姻期間中、平成2年頃までは落花生や米作等の農業に従事しており、その後、平成9年頃までは重機オペレーターをして、本件離婚当時は、所有する賃貸用アパートからの家賃収入で生計を立てていた。
 請求人は、婚姻期間中、農業を手伝うほか、昭和50年頃から平成4年頃まではパート勤めもしており、その収入は一家の生活費の一部であった。
 なお、亡Nに係る平成8年分の所得税の確定申告書によると、平成8年当時、本件滞納者及び請求人らは、亡Nの扶養親族として所得税法第84条《扶養控除》第1項の規定による扶養控除の対象とされていた。
C 離婚原因等について
 本件離婚の経緯は、請求人が本件滞納者の両親の介護等を一手に引き受けていたことによる精神的なストレスを強く感じていたことや、本件滞納者がPから本件貸付金債権を回収することができなかったことなどから、請求人が本件滞納者に対して離婚を申し入れ、本件滞納者がこれに応じたものである。
 なお、請求人は、離婚の原因として、本件滞納者の生活態度が不良で、○○行為があった旨を主張し(上記イの(ロ)のBの(A)のc)、当審判所に対して提出した陳述書においてその旨を陳述するが、まる1この点について、請求人の上記陳述書以外の証拠は見当たらず、また、まる2当審判所の調査の結果によれば、本件滞納者及び請求人はいずれも、原処分庁の徴収担当職員に対して、離婚の原因としてこの点を申し立てていないものと認められるから、本件滞納者の生活態度が不良であったこと及び○○行為があったことを離婚の原因と認定することはできない。
D 本件離婚後の本件滞納者の生活状況について
(A) 本件滞納者は、本件財産分与の後も、本件不動産上に存する家屋(上記Bの(C)のa)に引き続き居住していた。
(B) 本件滞納者は、本件離婚後、別表3−1の番号24及び25記載の不動産(賃貸用アパート)に係る収入(平成12年は約6,570,000円)により生計を立て、その後、当該不動産収入のほか年金収入も取得していたが、平成21年5月に原処分庁が当該不動産を公売したことから、以後は年金収入のみで生活している。
E 本件離婚後の請求人の生活状況について
(A) 請求人は、本件財産分与により本件不動産を取得したが、本件不動産上に存する家屋(上記Bの(C)のa)に自らが居住することはなく、本件滞納者に無償で貸与し、近隣のアパートを賃借して居住していた。
 その後、請求人は、平成19年1月に本件不動産を分筆し、その一部を39,000,000円で売却した。
(B) 請求人は、本件離婚後、パート収入及び年金収入により生計を立てている(平成20年以降の収入額は、約130万円から約230万円までの間で推移している。)。
F 請求人が本件不動産の取得に要した費用について
 請求人は、本件不動産の取得に当たり、不動産取得税○○○○円及び登録免許税○○○○円を負担した。
G g市における生活保護の支給基準について
 g市における生活保護の支給基準は、厚生労働大臣が定める生活扶助基準額の定めによるところ、g市は全域2級地−1に該当し、収入がない場合には、次の算出方法によって算出された金額が最低生活費として支給されることになる。

 算出方法
(生活扶助基準第1類費) (生活扶助基準第2類費) (加算額) (住宅扶助上限額) (合計)
32,850円 39,520円 医療費等 46,000円 118,370円

(注) 世帯の状況によって教育扶助等各種の扶助が支給される。

H 本件滞納国税に係る滞納処分の状況等について
 本件滞納者が所有していた不動産、債権等の各財産は、養老生命共済2口(差押中)を残し、本件納付告知処分時以前に原処分庁による公売等の処分によって処分されており、また、上記Dのとおり、本件納付告知処分時における本件滞納者の収入は年金収入のみであった。
(ハ) 当てはめ
A 清算的要素
(A) 共同形成財産
 上記(イ)のCの(C)のaのとおり、清算対象財産となるのは共同形成財産であるところ、本件において、原処分庁は、共同形成財産の評価額は合計16,682,000円であると主張する。
 しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、原処分庁が算定した上記共同形成財産の評価額は、評価の計算に誤りがあるものや、共同形成財産と認められる財産が含まれていないものがあることから、これを採用することができない。
 そこで、当審判所において認定した共同形成財産及びその評価額は、別表4記載のとおり、合計21,945,385円(本件滞納者名義の共同形成財産:18,056,651円、請求人名義の共同形成財産:3,888,734円)である。
 そうすると、本件財産分与について、請求人が本件滞納者に対して請求することができる清算的要素に相当する額は、7,083,958円((18,056,651円−3,888,734円)×1/2)とみるのが相当である。
(B) 特有財産
a 本件滞納者の特有財産とその評価額
 当審判所の調査の結果によれば、当審判所において認定した本件滞納者が本件財産分与の時点で有していた特有財産(積極財産)及びその評価額は、別表5記載のとおり(評価額合計422,526,625円。なお、本件貸付金債権の評価額については後述する。)であり、また、本件滞納者が本件財産分与の時点で有していた特有財産(消極財産)及びその評価額は、別表6記載のとおり(評価額合計423,775,863円)である(なお、財産分与における清算的要素の相当額の算定に当たり、租税債務等の負債についても考慮すべきであることは上記(イ)のCの(C)のaの(b)のとおりである。)。
b 本件貸付金債権の評価額
(a) 請求人は、本件貸付金債権をその額面額の470,000,000円、少なくとも259,000,000円(鑑定評価額)で評価し、財産分与請求権の計算の対象とすべきである旨主張する。
(b) この点、本件貸付金債権は、本件財産分与の時点で、P所有の本件担保不動産に第1順位で抵当権設定の仮登記が経由されていること(上記(ロ)のAの(A)のbの(b))からして、一定の財産的価値があると認められる(したがって、本件貸付金債権が無価値である旨の原処分庁の主張には理由がない。)。
(c) しかしながら、本件貸付金債権は、親族間の貸し借りに係るものであり(上記(ロ)のAの(A)のbの(a))、本件担保不動産の担保価値を厳密に判定した上で上記抵当権設定の仮登記が経由されたとは認められないこと、本件財産分与の時点における本件担保不動産の評価額は、別表5の付表1記載のとおり79,747,378円であること、当審判所の調査の結果によっても、本件担保不動産を除き、Pには本件貸付金債権を返済する資力があったとは認められないことからすると、本件財産分与の時点における本件貸付金債権の評価額は、本件担保不動産の評価額である79,747,378円と同程度とみるのが相当である。
(d) なお、以下、請求人が提出した平成25年6月5日付でT社が作成した不動産鑑定評価書(上記(a)。以下「本件鑑定評価書」といい、本件鑑定評価書に係る鑑定評価を「本件鑑定評価」という。)について検討する。
1 本件鑑定評価書の要旨は、別紙2のとおりである(本件鑑定評価書の対象不動産の現在の筆数はg市i町○−○外66筆であるが、本件財産分与の時点(平成12年5月23日)では、まる1P所有に係る本件担保不動産、まる2本件滞納者所有に係るg市i町○−○及び同○番○(分筆前の地番)の各土地(以下「本件i土地」という。)、並びにまる3第三者所有に係る同○番○の土地(以下、「本件第二i土地」といい、本件担保不動産及び本件i土地と併せて「本件担保不動産等」という。)である。)。
 本件鑑定評価書は、鑑定評価の条件として、まる1市街化区域に存する北東側の隣接土地(現在の地番はg市i町○−○及び同○番○ほか、登記地積は463.82平方メートル。以下「北東隣接土地」という。)を、本件担保不動産等と一体として利用ができること、まる2本件鑑定評価書の対象不動産の土地所有者は異なるが、同一人に帰属するものとすることを前提に、本件担保不動産等については、開発許可を取得することが可能であるとして、本件担保不動産等の鑑定評価額(内訳として、まる1本件担保不動産及び本件第二i土地、まる2本件i土地の各金額)を算出している。
2 しかしながら、本件鑑定評価書の対象不動産である本件担保不動産等の開発許可を取得するためには、市道に接する面がなければならないから、本件担保不動産等の場合、北側の舗装市道に接続させる道路を作らなければ、許可がされることはない。
 そして、北東隣接土地は、本件財産分与の時点において、まる1別紙2の別図1(平成12年住宅地図)によれば、駐車場として使用されている土地であったと認められる上、まる2登記によれば、第三者が所有する土地であったと認められるから、本件担保不動産等の開発許可を取得するためには、北東隣接土地の所有者から道路用地の提供を受ける必要がある。
 この点につき、本件鑑定評価書では、本件財産分与の時点において当該提供を受けているか否かについての検討をしておらず、それにもかかわらず、北東隣接土地を本件担保不動産等と一体として利用ができることを鑑定評価の条件として、本件担保不動産等については開発許可の取得が可能であったとしており、鑑定評価の条件を誤るものである。
 したがって、本件担保不動産等の評価に当たり、本件鑑定評価書のように、本件担保不動産等のみならず、北東隣接土地も一体として開発許可を取得することを前提として、本件担保不動産等を開発許可を取得することが可能な土地として評価をすることは、それ自体が合理性を欠くものであり、本件担保不動産等が宅地見込地であることを前提にした鑑定評価額もまた、合理性を欠くものである。
3 以上のとおり、本件鑑定評価書は合理性を欠くものであり、本件鑑定評価に係る鑑定評価額を前提とする請求人の主張には理由がない。
c 清算的財産分与の対象となる特有財産の有無
 上記aによれば、本件財産分与の時点における本件滞納者の特有財産は、まる1消極財産が積極財産を上回る状態(債務超過の状態)にあったこと、まる2いずれも本件相続により本件財産分与の約3年前に取得したものであったことが認められる。
 そして、上記まる1及びまる2の事実からすると、本件滞納者と請求人の婚姻期間が約29年3か月という長期間にわたるもの(上記(ロ)のBの(A))であっても、婚姻期間中の本件滞納者と請求人の協力によって、本件滞納者の特有財産の価値が維持・増加したと認めることはできないから、本件滞納者の特有財産を清算的財産分与の対象とみることはできない。
(C) 小括
 以上のとおり、本件財産分与において請求人が本件滞納者に請求することができる清算的要素の相当額は、7,083,958円である。
B 慰謝料的要素
(A) 本件における離婚の原因は、請求人が、本件滞納者の両親の介護等による精神的なストレスや、本件滞納者が本件貸付金債権の回収を失敗したことなどから、離婚を申し入れたものであり(上記(ロ)のC)、請求人に有責性は認められない。また、請求人は、○歳までの約29年3か月という長期間にわたり本件滞納者と婚姻を継続し、その間、パート勤めをした時期があるほかは、専業主婦として、子の養育、本件滞納者の両親の介護に尽力してきたものである(上記(ロ)のB)。さらに、本件滞納者及び請求人が本件財産分与の時点で有していた財産(上記(ロ)のAの(A)のa及び(B))からすると、本件滞納者に比して、請求人には十分な資力があるとはいえない。
(B) 本件において、原処分庁は、慰謝料相当額は6,000,000円であると主張し(上記イの(イ)のB)、他方、請求人は、慰謝料相当額は10,000,000円までは過大ではないと主張する(上記イの(ロ)のBの(D))。
 上記(A)で指摘した事情によれば、原処分庁が主張する慰謝料相当額である6,000,000円が不相当であるとまでは言い難いが、他方、請求人が主張する10,000,000円が不相当であるとも直ちには言い難い。
 したがって、本件財産分与における慰謝料的要素の相当額は、多くとも10,000,000円を超えるものではないというべきである。
C 扶養的要素
(A) 本件においては、請求人と本件滞納者の子は、本件離婚の時点において既に成人しており(上記(ロ)のBの(B)のa)、養育の必要性は認められないこと、請求人は本件離婚当時○歳である(上記(ロ)のBの(A))が、所得稼得能力が乏しいとまでは認められないこと(上記(ロ)のE)、本件滞納者及び請求人が本件財産分与の時点で有していた財産は、別表4ないし6記載のとおりであることといった事情が認められる。
(B) 本件において、原処分庁は、扶養的要素の相当額は3,600,000円であると主張し(上記イの(イ)のB)、他方、請求人は、扶養的要素の相当額は18,000,000円までは過大ではないと主張する(上記イの(ロ)のBの(D))。
 そこで検討するに、g市における生活保護の支給基準に基づき算出した最低生活費は、住宅扶助費を含めても月額120,000円を超えることはない(上記(ロ)のG)。この金額を基に、扶養期間を一般的に自力で生活していくまでの相当期間を3年間とみて算定すると、合計額は4,320,000円となり、原処分庁が主張する3,600,000円を720,000円上回る。
 上記(A)で指摘した事情によれば、原処分庁が主張する扶養的要素の相当額である3,600,000円が不相当であるとまでは言い難いが、上記の検討を踏まえると、本件財産分与における扶養的要素の相当額は、多くとも4,320,000円を超えるものではないというべきである。
D 本件財産分与の財産分与としての相当額
 上記AないしCによれば、請求人が本件滞納者に請求することができるまる1清算的要素の相当額は7,083,958円であり、まる2慰謝料的要素の相当額は多くとも10,000,000円を超えるものではなく、まる3扶養的要素の相当額は多くとも4,320,000円を超えるものではないから、本件における財産分与の相当額は、多くとも上記まる1ないしまる3の額を合計した21,403,958円を超えるものではないとみるのが相当である。
E 小括
 そうすると、本件滞納者の請求人に対する財産分与の相当額は多くとも21,403,958円を超えるものではないにもかかわらず、本件滞納者は、本件財産分与として、本件財産分与の当時187,970,357円の本件不動産の所有権を請求人に移転したものであるから、本件財産分与は、本件不動産の価額と本件における財産分与の相当額とを比較して、民法第768条の規定の趣旨に反して不相当に過大であると認められ、不相当に過大ではないとする請求人の主張には理由がない(なお、念のため、上記Dのまる3の扶養的要素の相当額を、請求人が主張するとおり18,000,000円とみたとしても、本件における財産分与の相当額は、35,083,958円を超えるものではないから、上記結論を左右しない。)。
 そして、本件財産分与における本件不動産の価額(187,970,357円)は、財産分与相当額(多くとも21,403,958円を超えるものではない。)の8倍以上(上記Dのまる3の扶養的要素の相当額を、請求人が主張する金額でみたとしても、5倍以上)である。
 したがって、本件財産分与は、徴収法第39条が規定する「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」に該当する。
(ニ) 請求人の主張について
 請求人は、上記イの(ロ)のAのとおり、離婚に伴う財産分与として資産の譲渡が行われた場合、当該財産分与が不相当に過大であれば、当該過大である部分の財産の価額に対しては贈与税が課されるところ、本件納付告知処分がされるまでの間に請求人に贈与税が課された事実はないから、原処分庁も本件財産分与について「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」に該当しないことを認めていたものである旨主張する。
 しかしながら、請求人に対して贈与税が課されていないことをもって、直ちに、請求人の納税地を所轄するM税務署長が本件財産分与は不相当に過大ではないと認めたことになるものではないのはもとより、原処分庁がこれを認めたことになるものでもないから、請求人の主張を採用することはできない。

(2) 争点2について

イ 主張
(イ) 請求人
 次の理由から、本件納付告知処分は、信義則の法理の適用により違法なものであり、その全部を取り消すべきである。
 請求人は、まる1本件不動産について本件財産分与に係る所有権移転登記を完了した後の平成12年6月頃、及びまる2本件不動産の一部を売却した平成19年1月頃、税金が発生するのではないかと考え、M税務署へ納税相談に赴いた。これに対し、応対した税務職員は、上記まる1及びまる2のいずれの際も、資料を精査又は確認した上で、税金はかからない旨を口頭で回答した。
 上記の税務職員の回答は、税務官庁が、まる1に関して、本件財産分与によって、請求人が、所得税及び贈与税を課税されることはなく、第二次納税義務を負うことがないことについて、また、まる2に関して、請求人が本件不動産を本件財産分与時の時価で取得したことを確認し(所得税基本通達38−6)、請求人が、本件不動産の一部の譲渡によって、譲渡所得に係る所得税を課税されることはなく、第二次納税義務を負うことがないことについて、信頼の対象となる公的見解を表示したものというべきである。
 そして、請求人は、当該表示を信頼して行動してきたものであり、そのことについて請求人の責めに帰すべき事由もない。原処分庁は、当該表示に反する本件納付告知処分を行ったものであり、請求人は、本件納付告知処分によって、相続税法基本通達9−8があるにもかかわらず、課税されると同様に扱われるという大きな不利益を被ることとなる。
 したがって、本件納付告知処分は、信義則の法理の適用により違法なものである。
(ロ) 原処分庁
 次の理由から、本件納付告知処分は、信義則の法理が適用されるものではなく、違法であるとして取り消すべきものではない。
 租税法規に適合する処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、当該処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該処分を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて信義則の法理の適用の是非を考えるべきものであり、当該特別の事情の要件の一である、「税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示した」といえるためには、一定の責任ある立場の者による正式見解の表示であることが必要である。
 本件納付告知処分は租税法規に適合するものであるところ、請求人が主張する事実関係の存否は明らかではないが、仮に請求人が主張する事実関係が存したとしても、一定の責任ある立場の者が請求人に対し信頼の対象となる公的見解を表示したものではない。
 したがって、本件納付告知処分には、信義則の法理の適用の是非を考えるべき特別の事情が存するとは認められない。
ロ 判断
(イ) 法令解釈
 租税法規に適合する処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、当該処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、同法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該処分を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存在する場合に、初めて同法理の適用の是非を考えるべきものである。そして、上記特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、まる1税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、まる2納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、まる3後に当該表示に反する処分が行われ、まる4そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、まる5納税者が税務官庁の当該表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠なものであるというべきである(最高裁昭和62年10月30日第三小法廷判決・集民152号93頁参照)。
 また、納税者はもともと自己の責任と判断の下で行動すべきものであることからすれば,信頼の対象となる公的見解の表示(上記まる1)といえるためには、少なくとも税務署長その他の責任ある立場にある者の正式の見解であることが必要であり、その表示方法としては、少なくともその内容が明示的に表示されていることが必要であると解すべきである。
(ロ) 認定事実
A 関係者の供述の要旨
(A) 請求人の陳述の要旨
 請求人が当審判所に提出した請求人作成の陳述書によると、争点2に関する請求人の陳述の要旨は、次のとおりである。
a 請求人は、本件滞納者から本件財産分与を受けた後、兄のUから「今回のことで税金の問題が生じるかもしれないので、税務署に聞きに行く」と言われて、Uと一緒に、M税務署へ行った。
 本件財産分与のことを説明して相談したところ、対応してくれたM税務署の職員は、特に問題はないということだった。
b また、請求人は、本件不動産の一部を売却して、税金の問題が生じるかもしれないということで、平成19年、Uと一緒にM税務署へ相談に行ったところ、このときも本件財産分与から本件不動産の一部の売却までを説明したが、対応してくれたM税務署の職員から問題の指摘を受けなかった。
(B) Uの陳述の要旨
 請求人が当審判所に提出したUの陳述書及び代理人作成の電話聴取書によると、争点2に関するUの陳述の要旨は、次のとおりである。
a Uは、請求人から本件財産分与を受けた旨を聞いたことから、何らかの税金を納めなければならないのではないかと考え、請求人と一緒に、M税務署へ税金の相談に行った。時期は、本件財産分与の登記が済んでまもなくの時期ではないかと思う。
 M税務署の受付で担当を聞き、多分2階に上がったという記憶である。当時名刺をもらったと思うし、多分40歳くらいの方だったと思うが、職員の誰が対応したか、氏名は覚えていない。
 Uは、「このような経緯でJ(請求人)が本件財産分与で500坪ほどの土地をもらったが、税金の問題になるか」と質問したところ、担当者は、「ちょっと待ってくれ」と言い、その後、「こちらでも調べてまた連絡する」ということだったので、その日は帰った。
 1週間ほどして連絡があり、M税務署の職員から「28年間尽くしてきて、むしろ少ないくらいで、問題ありません。税金はかかりません」と言われた。
b Uは、平成19年、請求人が本件不動産の一部を売却したために税金の問題が生じるのではないかと思い、請求人と一緒にM税務署へ相談に行った。時期は、請求人が本件不動産の一部の売却代金を受領したことを確認してからであったという記憶であり、本件不動産の分筆登記が平成19年1月9日であることからすると、同月中旬以降であると思う。
 Uは、M税務署の担当者に事情を話して、税金の問題になるかを聞いたが、担当者は「税金はかからない」ということだった。
(C) 平成12年6月当時のM税務署資産課税第2部門に所属していた職員(以下「本件職員」という。)の答述の要旨
a 本件職員は、平成12年6月頃、M税務署で譲渡所得に関する相談事務に携わっていた。
b 平成12年当時、M税務署の2階には、資産課税部門があった。
c 請求人から、平成12年5月頃に受けた本件財産分与について、税金の問題が発生するか否かについて、Uと一緒に相談を受けたという記憶はない。
B 関係者の各供述(上記A)から認定できる事実
 上記Aの関係者の各供述によれば、請求人及びUが、まる1平成12年6月頃、及びまる2平成19年1月頃、M税務署を訪れ、資産課税部門があった2階において、同税務署の職員に対して、本件不動産の分与を受けたことによる税金の発生について、何らかの相談をした事実は認めることができる(もっとも、当該相談の具体的内容については判然としない。)。
(ハ) 当てはめ
A 上記(イ)のとおり、信義則の法理の適用の是非を考えるべき特別の事情が存在するといえるためには、少なくとも、まず、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したこと(上記(イ)のまる1)が必要であることから、まず、この点について検討する。
B 上記(ロ)の関係者の各供述によれば、平成12年6月頃に請求人及びUからの納税相談に応対したM税務署の職員が、税務署長その他の責任ある立場の者であった事実は認めることはできず、その他、当審判所の調査の結果によっても、当該事実を認めることはできない。そうすると、請求人からの相談に応対したM税務署の職員の発言は、そもそも税務署長その他の責任ある立場にある者の正式の見解であるということはできない。
 また、この点をおくとしても、まる1上記1の(2)のイのとおり、本件滞納国税は、平成12年2月22日以降平成13年6月18日までに原処分庁に徴収の引継ぎがされていることから、当該国税について徴収の所轄庁でないM税務署の職員が、第二次納税義務の成否について個別具体的な回答をする権限はないか、あるいは、個別具体的な回答をすることは通常考え難いこと、まる2Uの陳述によると、請求人の主張する税金関係の相談とは、贈与税や所得税(譲渡所得)の発生の有無についての相談であるとうかがわれることから、請求人の納税相談に応対したM税務署の職員が、本件財産分与によって、徴収処分である第二次納税義務が課されるか否かの点について請求人に回答したものとは認められない。
 したがって、本件納付告知処分は、信義則の法理の適用により違法なものであるとする請求人の主張は、前提を欠き理由がない。

(3) 争点3について

イ 主張
(イ) 原処分庁
 次のとおり、請求人が負う第二次納税義務の限度額は、○○○○円である。
A 請求人と本件滞納者は、平成12年5月26日付で協議離婚しているところ、同月30日に本件不動産に係る所有権移転登記の申請をするに当たり、同月23日の財産分与を原因として当該申請をしている。
 このことからすると、請求人は、本件財産分与の時に本件滞納者の配偶者であったと認められ、徴収法第39条の「親族その他の特殊関係者」に該当する。
B そうすると、請求人の第二次納税義務の限度額は、本件財産分与により受けた利益の限度となるので、本件財産分与時における本件不動産の価額(○○○○円)から、まる1請求人が本件滞納者に対して有する財産分与請求権の相当額(42,724,900円)と、まる2国税徴収法基本通達(昭和41年8月22日付徴徴4−13ほか国税庁長官通達。以下同じ。)第39条関係12《受けた利益が金銭以外のものである場合》の(6)のイ及びロに掲げるものの額(○○○○円)の合計額を控除した残額である○○○○円である。
(ロ) 請求人
 仮に、請求人が第二次納税義務を負う場合であっても、次のとおり、請求人は、徴収法第39条の「親族その他の特殊関係者」には該当せず、本件財産分与により受けた利益が現に存する限度に限り責任を負うというべきである。
A 請求人と本件滞納者は、平成12年5月26日に協議離婚しているところ、本件不動産について財産分与を原因とする所有権の移転をしたのは同月30日であるから、請求人は、本件不動産の所有権の移転の時点では本件滞納者の配偶者ではなく、徴収法第39条の「親族その他の特殊関係者」に該当しない。
 なお、租税特別措置法第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》や、同法第31条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》は、その適用対象から「当該個人の配偶者その他の当該個人と政令で定める特別の関係がある者」を除外しており、離婚届を提出し婚姻関係を解消してから財産分与を原因とする所有権移転登記がされた場合は適用対象に含まれるとされていることから見ても、請求人は、徴収法第39条の「親族その他の特殊関係者」には該当しない。
B そうすると、請求人の第二次納税義務の限度額は、本件財産分与により受けた利益が現に存する限度となるので、本件不動産の一部を売却した価額(39,000,000円)と本件不動産(売却後)の本件納付告知処分に係る納付通知書を発する時点の価額(54,000,000円)の合計額から、まる1本件財産分与において、不相当に過大ではないと認定された財産分与額、まる2本件滞納者から本件不動産を取得する際に支払った、まるア登録免許税(○○○○円)、まるイ不動産取得税(○○○○円)と、まる3本件不動産を分筆して第三者に譲渡する際に支払った、まるア測量等の費用(469,350円)、まるイ本件不動産上の物置の撤去等の費用(2,241,000円)の合計額を控除した残額である。
ロ 判断
(イ) はじめに
 上記(1)のロの(ハ)のEのとおり、本件財産分与は徴収法第39条が規定する「著しく低い額の対価による譲渡」に該当するところ、請求人が負う第二次納税義務の範囲(限度額)は、請求人が本件滞納者の「親族その他の特殊関係者」に該当するか否かによって結論が異なることから、まず、請求人が本件滞納者の「親族その他の特殊関係者」に該当するか否かを判断した上で、請求人が負う第二次納税義務の範囲(限度額)について判断することとする。
(ロ) 請求人が本件滞納者の「親族その他の特殊関係者」に該当するか否かについて
A 法令解釈
 徴収法第39条は、無償又は著しい低額の譲受人等が負う第二次納税義務の範囲について、第二次納税義務を負う者が「親族その他の特殊関係者」である場合は、無償又は著しく低い額の対価による譲渡等の処分により受けた利益の限度とし、それ以外の者である場合は、当該利益が現に存する限度としており、第二次納税義務を負う者が「親族その他の特殊関係者」に該当するか否かによって、その義務の範囲を異にしているところ、これは、昭和34年4月20日法律第147号により徴収法が全文改正され、徴収法第39条の規定する第二次納税義務を負う者が「親族その他の特殊関係者」以外の者にも拡充されたことによるものである。滞納者との関係が強い「親族その他の特殊関係者」に対して無償又は著しく低い額の対価による譲渡等の処分がされた場合には、その者が受けた利益を限度に第二次納税義務を負わせることによって、滞納者から直接徴収できなくなった国税を徴収するのと同様の効果を得ようとする一方、それ以外の者に対して当該処分がされた場合には、滞納者との関係が必ずしも強いとはいえないことから、当該利益が存しなくなった場合にまで第二次納税義務を負わせるのは酷であるため、当該利益が現に存する限度で第二次納税義務を負わせることとしたものと解される。
 そうすると、徴収法第39条の「親族その他の特殊関係者」に該当するかどうかの判定については、原則として、無償又は著しく低い額の対価による譲渡等の処分の基因となった契約が成立した時の現況によるべきであり、その旨の国税徴収法基本通達第39条関係11《親族その他の特殊関係者》の定めは、当審判所においても相当と考える。
B 当てはめ
(A) 上記1の(4)のロの(ロ)のとおり、平成12年5月23日、本件滞納者から請求人に対して、本件離婚に際し本件財産分与がされており、この点について請求人と原処分庁との間に争いはない。そして、上記1の(4)のイの(ニ)のとおり、本件滞納者と請求人は本件財産分与がされた3日後の平成12年5月26日に本件離婚をしているのであるから、本件財産分与の時点において、請求人は本件滞納者の配偶者であり、徴収法第39条の「親族その他の特殊関係者」に該当する。
(B) 請求人は、本件不動産の所有権移転の登記が経由された平成12年5月30日の時点で「親族その他の特殊関係者」であったか否かを判断すべきである旨主張する。
 しかしながら、「親族その他の特殊関係者」該当性の判定時期については、上記Aのとおりであるから、離婚における財産分与によって取得した不動産の登記の経由時期が、「親族その他の特殊関係者」該当性の判定時期に係る判断に影響を及ぼすものではない。
 したがって、請求人の主張は採用することができない。
(ハ) 請求人が負う第二次納税義務の範囲(限度額)について
A 上記(ロ)のBの(A)のとおり、請求人は徴収法第39条の「親族その他の特殊関係者」に該当するから、請求人が負う第二次納税義務の範囲(限度額)は、本件財産分与により受けた利益の限度である。
B 上記(1)のロの(ハ)のEのとおり、請求人が受けることができる財産分与の相当額は多くとも21,403,958円を超えるものではないところ、請求人は、財産分与として、本件財産分与の当時187,970,357円の本件不動産の所有権の移転を受けたものである。
 また、上記(1)のロの(ロ)のFのとおり、請求人は、本件不動産を取得するに当たり、不動産取得税○○○○円及び登録免許税○○○○円を負担している。
 そうすると、請求人は、本件不動産の本件財産分与の時点の時価相当額である187,970,357円から、まる1本件滞納者の財産分与義務の消滅の対価である財産分与の相当額としてこれを超えない額であるところの21,403,958円、並びにまる2請求人が本件不動産の取得に当たり負担した、まるア不動産取得税額○○○○円、及びまるイ登録免許税額○○○○円の合計額である○○○○円を控除した差額の○○○○円を限度として、徴収法第39条の第二次納税義務を負うものであり、この金額は、本件納付告知処分(原処分)の限度額を上回る(なお、本件財産分与の相当額について、扶養的要素の相当額を請求人が主張する金額(18,000,000円)でみたとしても、請求人が負うべき第二次納税義務の限度額は、○○○○円となり、この金額をもってしても本件納付告知処分(原処分)の額を上回ることから、結論が変わるものではない。)。

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4 本件納付告知処分について

 本件納付告知処分については、上記3のとおり、まる1本件の争点についてはいずれも原処分を違法とすべき点はなく、本件財産分与は、本件滞納者がその財産につき行った無償又は著しく低い額の対価による譲渡に当たり、まる2本件滞納者が所有していた不動産及び債権等は公売等により処分されているから、本件滞納国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められ、まる3本件財産分与がなければ本件滞納国税を徴収できたことは明らかであるから、上記まる2の徴収不足は本件財産分与に基因するものと認められ、まる4本件財産分与(平成12年5月23日)は本件滞納国税の法定納期限(別表1の「法定納期限」欄の各日)の1年前の日以後に行われたものであることが認められる。
 したがって、本件納付告知処分は、徴収法第39条に規定する要件を充足しているところ、上記1の(2)のロのとおり、徴収法第32条第1項の規定に基づき行われていることが認められるから、適法である。

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5 その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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