(平成25年12月12日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、その所有する土地の譲渡に係る譲渡所得について、当該土地の譲渡は、租税特別措置法第31条の2《優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第1項に規定する「優良住宅地等のための譲渡」に該当するとして所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該土地の造成工事を行ったのは請求人であることから、当該土地の譲渡は、同項に規定する「優良住宅地等のための譲渡」に該当しないとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該更正処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成23年分の所得税について、請求人の審査請求(平成25年6月4日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。

(3) 関係法令の要旨

イ 租税特別措置法(以下「措置法」という。)第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第1項は、個人が、その有する土地等又は建物等で、その年1月1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡をした場合には、当該譲渡による譲渡所得については、他の所得と区分し、その年中の当該譲渡に係る譲渡所得の金額に対し、課税長期譲渡所得金額の100分の15に相当する金額に相当する所得税を課する旨規定している。

ロ 措置法第31条の2第1項は、個人が、昭和62年1O月1日から平成25年12月31日までの間に、その有する土地等でその年1月1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡をした場合において、当該譲渡が優良住宅地等のための譲渡に該当するときは、当該譲渡による譲渡所得については、同法第31条第1項前段の規定により当該譲渡に係る課税長期譲渡所得金額に対し課する所得税の額は、同項前段の規定にかかわらず、次の(イ)及び(ロ)に掲げる場合の区分に応じ(イ)及び(ロ)に定める金額に相当する額とする旨規定している。

(イ) 課税長期譲渡所得金額が2,000万円以下である場合

 当該課税長期譲渡所得金額の100分の10に相当する金額

(ロ) 課税長期譲渡所得金額が2,000万円を超える場合

 次に掲げる金額の合計額

A 200万円

B 当該課税長期譲渡所得金額から2,000万円を控除した金額の100分の15に相当する金額

ハ 措置法第31条の2第2項は、同条第1項に規定する優良住宅地等のための譲渡とは、同条第2項各号に掲げる土地等の譲渡に該当することにつき財務省令で定めるところにより証明がされたものをいう旨規定し、同項第13号は、開発許可(都市計画法第29条《開発行為の許可》第1項の許可をいい、同法第4条《定義》第2項に規定する都市計画区域内において行われる同条第12項に規定する開発行為に係るものに限る。以下同じ。)を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地(当該一団の宅地の面積が1,000平方メートル以上のものであり、かつ、当該一団の宅地の造成が当該開発許可の内容に適合して行われると認められるものに限る。)の造成を行う個人(同法第44条《許可に基づく地位の承継》又は第45条に規定する開発許可に基づく地位の承継があった場合には、当該承継に係る被承継人である個人又は当該地位を承継した個人。)又は法人(同法第44条又は第45条に規定する開発許可に基づく地位の承継があった場合には、当該承継に係る被承継人である法人又は当該地位を承継した法人。)に対する土地等の譲渡で、当該譲渡に係る土地等が当該一団の宅地の用に供されるものを掲げている。

ニ 租税特別措置法施行規則(以下「措置法規則」という。)第13条の3《優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第1項第13号は、措置法第31条の2第2項に規定する財務省令で定めるところにより証明がされた土地等の譲渡は、当該土地等の買取りをする同項第13号の住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う同号に規定する個人又は法人(以下「土地等の買取りをする者」という。)から交付を受けた次に掲げる書類を確定申告書に添付することにより証明がされた土地等の譲渡とする旨規定している。

(イ) 当該一団の宅地の造成に係る都市計画法第30条《許可申請の手続》第1項に規定する申請書の写し(当該造成に関する事業概要書及び設計説明書並びに当該一団の宅地の位置及び区域等を明らかにする地形図の添付のあるものに限る。)及び同法第35条《許可又は不許可の通知》第2項の通知の文書の写し

(ロ) 土地等の買取りをする者の措置法第31条の2第2項第13号の譲渡に係る土地等が上記(イ)に規定する通知に係る開発区域内に所在し、かつ、当該土地等を当該一団の宅地の用に供する旨を証する書類

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人は、平成22年6月15日付で、売主を請求人、買主をD社とする土地売買契約を締結した(以下、当該契約を「本件売買契約」といい、本件売買契約に係る契約書を「本件売買契約書」という。)。

 本件売買契約書には、要旨次の事項が記載されている。

(イ) 売主は、a市b町○−○及び同番○の畑計X,XXX.00平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)を○○○○円にて買主に売り渡す。

(ロ) 売主は、買主に対し、買主から売買代金全額を受領するのと引換えに本件土地を引き渡す。

(ハ) 本件土地の所有権は、買主が売主に売買代金全額を支払ったときに売主から買主に移転する。

(ニ) 本契約は、都市計画法第29条及び第34条に規定する開発行為の許可を条件とし、万一当該許可の取得が不可能な場合は、本契約を白紙解除できるものとする。また、売主は、9棟分の宅地造成工事完了後に、買主に引き渡すものとする。

ロ 請求人の妻E(以下「請求人妻」といい、請求人と併せて「請求人ら」という。)は、平成22年6月15日付で、売主を請求人妻、買主をD社とし、本件土地に隣接し請求人妻が所有するa市b町○−○の山林XXX.00平方メートルの土地(以下、本件土地と併せて「本件各土地」という。)を○○○○円でD社に売り渡す旨の土地売買契約(以下、本件売買契約と併せて「本件各売買契約」といい、本件各売買契約に係る各契約書を併せて「本件各売買契約書」という。)を締結した。なお、当該契約の内容は、本件売買契約と同旨である。

ハ 請求人は、平成22年6月15日付で、注文者を請求人、請負者をF社として、次のとおり、本件土地の造成工事(以下「本件造成工事」という。)に係る工事請負契約(以下「本件工事請負契約」といい、本件工事請負契約に係る契約書を「本件工事請負契約書」という。)を締結した。

(イ) 工事名:a市b町宅地造成工事

(ロ) 工事場所:本件各土地

(ハ) 工事対象面積:2,493.04平方メートルの一部

(ニ) 工事内容:宅地造成工事一式、農振除外申請一式、開発許認可一式等

(ホ) 請負代金:33,000,000円

(ヘ) 支払方法:宅地造成工事の検査済証取得後一括支払

(ト) その他:本件工事請負契約書作成に要する収入印紙等の費用は、F社の負担とする。

ニ 請求人妻は、平成22年6月15日付で、注文者を請求人妻、請負者をF社とし、請負代金を16,000,000円とする造成工事(以下、本件造成工事と併せて「本件各造成工事」という。)に係る工事請負契約(以下、本件工事請負契約と併せて「本件各工事請負契約」といい、本件各工事請負契約に係る各契約書を併せて「本件各工事請負契約書」という。)を締結した。なお、当該契約の内容は、本件工事請負契約と同旨である。

ホ 本件各造成工事に係る各種の開発図面には、事業主はD社、作成者はG社である旨記載されている。

ヘ 請求人らは、D社と連名で、平成22年12月3日、a市農業委員会を経由してd県知事に対し、本件各土地について、9棟の建売分譲住宅の用地として所有権を移転するための農地法第5条《農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限》の規定による許可の申請(以下「本件農地転用申請」という。)をそれぞれした。

ト D社は、平成22年12月7日付で、d県e地域整備センター所長に対し、工事施工者をF社、予定建築物等の用途を専用住宅9戸として、本件各土地に係る都市計画法第29条に規定する開発行為の許可の申請(以下「本件開発許可申請」という。)をした。

チ d県e地域整備センター所長は、平成23年1月○日付で、D社に対し、本件開発許可申請に係る開発許可(以下「本件開発許可」という。)を通知した。

 なお、同通知には、農地法による農地転用許可と同時許可とする旨記載されている。

リ d県知事は、平成23年1月○日付で、D社及び請求人らに対し、本件農地転用申請に係る本件各土地の転用を伴う所有権移転を許可する旨の書面をそれぞれ交付した。

ヌ d県e土木事務所所長は、平成23年4月○日付で、本件開発許可に係る工事が同月11日検査の結果、都市計画法第29条の規定による開発許可の内容に適合している旨を証明する「開発行為に関する工事の検査済証」(以下「本件検査済証」という。)をD社に交付した。

ル 請求人は、平成23年4月19日、D社から、本件売買契約に係る本件土地の売買代金○○○○円を、H銀行f支店の請求人名義の普通預金口座への振込みにより受領した。

ヲ 請求人は、平成23年4月l9日、本件工事請負契約に係る請負代金33,000,000円を、H銀行g支店のF社代表取締役J名義の普通預金口座に振り込んだ。また、F社が同日付で請求人宛に発行した領収書には、a市b町宅地造成工事代金として33,000,000円を領収した旨記載されている。

ワ 本件土地については、都市計画法に規定する市街化調整区域に所在するとともに、農業振興地域の整備に関する法律に規定する農業振興地域に所在するところ、請求人は、昭和29年3月5日売買を原因として所有権移転登記をし、平成23年4月11日に宅地への地目変更の上、同月19日売買を原因として請求人からD社に所有権移転登記がなされた。

カ 請求人は、本件造成工事を行ったのは本件土地の譲受人であるD社であることから、本件土地の譲渡は、措置法第31条の2第1項に規定する「優良住宅地等のための譲渡」に該当するとして、別表1の「確定申告」欄のとおり、平成23年分の所得税の確定申告をした。

ヨ 原処分庁は、本件造成工事を行ったのは請求人であることから、本件土地の譲渡は、措置法第31条の2第1項に規定する「優良住宅地等のための譲渡」に該当しないとして、別表1の「更正処分等」欄のとおり、納付すべき税額を○○○○円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

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2 争点

 本件土地の譲渡が措置法第31条の2第1項に規定する「優良住宅地等のための譲渡」に該当するか否か。
 なお、本件において該当性について争いがある「優良住宅地等のための譲渡」とは、措置法第31条の2第2項第13号に掲げる土地等の譲渡に該当することにつき財務省令で定めるところにより証明がされたものをいう。

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3 主張

(1) 原処分庁

イ 次の(イ)及び(ロ)からすると、本件造成工事を行ったのは請求人であると認められる。

(イ) 本件売買契約において、譲渡人である請求人は、本件造成工事完了後に本件土地を譲受人であるD社に引き渡すものとされている。

(ロ) 請求人は、まる1自らを注文者、F社を請負者として、本件造成工事に係る本件工事請負契約を締結し、まる2F社に対して、本件工事請負契約に係る請負代金として、33,000,000円を支払っている。

ロ したがって、本件土地の譲渡は、措置法第31条の2第2項第13号に掲げる土地等の譲渡に該当しないから、同条第1項に規定する「優良住宅地等のための譲渡」に該当しない。

(2) 請求人

イ 次の(イ)及び(ロ)からすると、本件造成工事を行ったのはD社であると認められる。

(イ) D社は、本件各土地の開発行為を行う目的で、請求人から本件土地の譲渡を受けたものであり、実際、事業主としてG社に開発図面を作成させ、その図面に基づき、F社に造成工事を請け負わせるとした本件開発許可申請を行い、本件開発許可を受けて、F社に本件造成工事を行わせたものである。

(ロ) 確かに、本件売買契約書及び本件工事請負契約書は、請求人自身がそれぞれ署名及び押印したものであり、F社との間で本件工事請負契約を締結したのは請求人である。

 しかしながら、請求人は、開発行為や造成工事についての知識を持っておらず、開発計画の内容や本件造成工事については全く関与していなかったものであって、仲介業者やD社らの言うがままに本件工事請負契約書を作成したものにすぎず、F社に対して本件工事請負契約に係る請負代金の支払をしたのも、D社の指示に従って処理したものにすぎない。

 都市計画法等によれば、あらかじめ開発行為の許可を得た上でなければ宅地造成工事をすることはできず、このことからしても、本件開発許可を受けていない請求人が造成工事を行うことはおよそ考えられない。

ロ したがって、本件土地の譲渡は、措置法第31条の2第2項第13号に掲げる土地等の譲渡に該当し、また、該当することにつき財務省令で定めるところによる証明もされているから、同条第1項に規定する「優良住宅地等のための譲渡」に該当する。

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4 判断

(1) はじめに

 本件の争点は、本件土地の譲渡が措置法第31条の2第1項に規定する「優良住宅地等のための譲渡」に該当するか否かであるが、具体的には、本件造成工事を行ったのは本件土地の譲受人であるD社であるか否かであるので、この点について、以下検討する。

(2) 法令解釈

 措置法第31条の2第1項に規定する特例は、個人の長期保有の土地等の譲渡について、公的土地の取得の円滑化及び都市地域における住環境として望ましい優良な住宅地等の供給に寄与する土地等の譲渡に限って、その税負担の軽減を図る目的で、政策的配慮から創設されたものである。
 そして、措置法第31条の2第2項第13号に規定する土地等の譲渡は、同号に規定された開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う個人又は法人に対する土地等の譲渡であることを要すると解すべきであるから、都市計画法第44条又は第45条に規定する開発許可に基づく地位の承継があった場合を除き、土地等の譲受人において自ら当該土地等の造成を行う場合に限って、すなわち、造成される一団の住宅地の用に供される素地の譲渡についてのみ、措置法第31条の2第1項の規定の適用があるものであり、土地等の譲渡人において当該土地等の造成を行った場合については、同項の規定の適用はないというべきである。
 また、措置法は、本来課されるべき税額を政策的な見地から特に軽減するものであるから、租税負担公平の原則に照らし、その解釈は厳格にされるべきものであり、措置法に規定する文言を離れて、みだりに実質的妥当性や個別事情を考慮して、拡張解釈ないし類推解釈をすることは許されないと解されている。

(3) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 本件各売買契約に係る仲介業者であるK社の代表取締役であるL(以下「K社社長」という。)は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。

(イ) 平成22年の初旬頃、請求人らから、自宅の建替えのために本件各土地を売却したい、ついては、請求人らは併せて50,000,000円くらいの金額が欲しいという話があった。

(ロ) 売却先として数社を探したが、本件各土地が農業振興地域の農地であることから、農業委員会を通して宅地造成するのに1年近くかかるとして断られた。

 その後、平成22年3月か4月頃、建売住宅の分譲を手掛けているD社に本件各土地の話を持ちかけたところ、D社は、自身で宅地造成する気はないことから、宅地造成後の本件各土地の購入を希望した。そこで、F社に本件各造成工事の費用と図面の設計費用を見積もらせたところ、同社は当該費用を49,000,000円と見積もったので、D社に対し、本件各土地の売買代金50,000,000円と当該造成費用等の合計額である99,000,000円を提示した。数日後、D社から、その提示された金額で購入する旨連絡が入った。

(ハ) 本件各土地は、市街化調整区域に所在する農地であったため、開発許可を受けるためには、開発許可を受ける業者と建売分譲住宅の建設業者が同一でなければ開発許可がされないという制限があった。F社の担当者であるM氏から、造成工事は請求人らが行い、開発許可申請は建設業者のD社が行えば開発許可が下りる旨アドバイスがあり、本件各造成工事は請求人らから請け負うF社に、本件開発許可申請はD社にお願いすることとした。

 なお、D社は造成後の土地の購入を希望していたので、初めからD社が造成工事を行うという話はなかった。また、請求人らとF社が造成工事の請負契約を締結したのは、造成工事はF社にお願いしていたことや、請求人らとF社が造成工事の請負契約を締結すれば、請求人らに税制上の免除もあるのではないかと思っていたからである。

(ニ) 本件各売買契約の締結日の直前(日時不詳)に、K社の事務所において、請求人らに対し、本件各売買契約書(案)及び本件各工事請負契約書(案)を提示し、造成後の本件各土地を請求人らからD社に引き渡すこと、本件各造成工事については請求人らとF社の間で請負契約を締結すること、当該造成工事の代金はD社から本件各土地の譲渡代金を受け取ってからF社に支払えばよいこと、当該各契約書(案)については請求人ら各自に分けて各契約書を作成することなど、各契約の内容について説明した。また、開発許可申請は、D社の名義で行うことも説明した。

(ホ) 本件各売買契約の締結日(平成22年6月15日)にも、請求人らに対し、本件各売買契約及び本件各工事請負契約の内容を説明するとともに、造成工事完了についての検査済証が取得されてから、本件各土地の引渡しを行う旨を説明した。

ロ D社の代表取締役であるN(以下「D社社長」という。)は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。

(イ) 平成22年4月頃、K社社長から本件各土地の購入について打診があり、後日、宅地造成完了後の本件各土地について99,000,000円という金額の提示があったので、当社としても採算がとれることから当該土地の購入を承諾した。

(ロ) 本件各土地は市街化調整区域に所在する農地であるため、当社で分譲するためには、当社が開発許可申請を行う必要があった。K社社長からも、造成工事は請求人らから請け負うF社が行い、開発許可申請は当社が行うよう話があった。

 以前、市街化調整区域の農地を購入して分譲しようとした案件で、売主が開発許可申請を行ったところ、宅地造成後に当社への農地転用を伴う所有権移転ができず、当社が分譲ができないという問題が起こったことがあり、その際、当社で分譲ができるようにする方法(開発許可申請を行う業者と建売分譲住宅の建設業者を同一とする方法)について、d県から指導があったことから、今般、当社が開発許可申請を行うこととした。

(ハ) 請求人らに会ったのは、平成22年5月27日に行われた本件各売買契約前の説明時、本件各売買契約時及び本件各売買契約に基づく代金決済時の3回である。

(ニ) G社に対しては、K社を介して、開発図面の区画を11区画から9区画に変更して欲しい旨など依頼し、何度か図面を作成し直してもらった。

ハ 請求人らは、原処分庁に対し、要旨次のとおり各申述した。

 本件各工事請負契約の締結前に、K社社長から、造成工事は請求人らが行い、F社に造成工事を全て請け負わせる形態で契約する旨の説明を受けたが、最終的な手取額は坪単価73,000円で変わりがなかったため、K社社長の提案のとおり、契約した。本件各土地の売買については、同人に任せており、上記取引形態となった詳しい経緯や内容は不知である。

ニ 本件各土地を管轄する農業委員会の担当者は、原処分庁所属の職員に対し、要旨次のとおり申述した。

 市街化調整区域の農地転用の許可においては、土地の造成のみを目的とするものであれば転用は認められないが、例外規定があり、宅地分譲契約に建築条件等が付され、申請者が過去に建売分譲等で十分な実績信用があり、建物等の建設が確実であると認められる場合などであれば、許可できるとされている。
 農地転用を伴う所有権移転の許可申請の時点で所有権が買受人に移転していなくても、売買契約書で所有権の移転見込みが確認できれば、申請を受け付けている。また、開発許可申請の場合は、農地転用の許可書で確認できれば、申請を受け付けている。
 農地転用の許可は、極論を言えば、条件さえ整えば請求人らの場合でも許可はするだろうが、現実的には考えにくい話である。許可要件で資金力も検討事項であるため、この点で要件を満たさない可能性もあると思う。

ホ 請求人が平成23年分の所得税の確定申告書に添付した「譲渡所得の内訳書」(以下「本件内訳書」という。)の「譲渡(売却)された土地の購入代金」欄には、本件造成工事に係る代金として、F社に33,015,000円を支払った旨記載されている。

 なお、本件内訳書の添付書類として、D社から交付を受けた本件開発許可申請に係る申請書、本件開発許可に係る通知書及び「一団の宅地等の用に供する旨の確約書」の各写しが提出され、さらに、平成25年6月4日に原処分庁に対し、本件各造成工事に係る区域の位置等を示す各種地形図の写しが提出されている。

ヘ 上記イのK社社長及び上記ロのD社社長の各答述内容は、おおむね符合している上、D社の名義で開発許可申請をした理由についても、上記ニの利害関係がなく信用できる本件各土地を管轄する農業委員会の担当者の申述内容と整合し、さらに、上記1の(4)のイ及びロの本件各売買契約書並びに同ハ及びニの本件各工事請負契約書の各記載内容や、上記ホの請求人の本件内訳書及び本件内訳書に係る添付書類の各記載内容とも整合しており、それぞれ十分信用することができる。これらの答述等を総合すると、次のとおりの事実が認められる。

(イ) 平成22年初旬頃、請求人らは、本件各土地を50,000,000円くらいで売却したい旨を不動産仲介業者であるK社に申し入れた。

(ロ) 平成22年4月頃、K社は、建売分譲住宅の建設業者であるD社に対し、本件各土地の購入を打診したところ、D社は、宅地造成前の本件各土地の購入には難色を示し、飽くまでも宅地造成後の本件各土地の購入を希望した。

(ハ) そこで、K社を中心に協議したところ、請求人らから請け負う形で造成業者であるF社が造成工事を行うこととして、D社は、建売住宅を建設して販売する目的で宅地造成後の本件各土地を99,000,000円で取得することとした。また、本件各土地が市街化調整区域の農地であることから、D社において、宅地造成後の分譲が可能となるように、かつ、請求人らでは開発許可を得ることが困難であることから、開発許可を容易に得るために、開発許可申請を行う業者と建売分譲住宅の建設業者とを同一とする方法を採用することとし、D社が開発許可の申請をすることにした。

(ニ) 平成22年5月27日(本件各売買契約の締結日の直前)、K社の事務所において、K社社長は、請求人らに対し、本件各売買契約書(案)及び本件各工事請負契約書(案)を提示した上で、F社が本件各土地の造成工事を行うこと、D社が開発許可の申請を行うこと、請求人らは、当該造成工事の代金についてはD社から譲渡代金を受け取った後にF社に支払うことなどを説明した。

(ホ) 平成22年6月15日(本件各売買契約の締結日)、D社の事務所において、D社社長及びK社社長は、請求人らに対し、再度、本件各売買契約書及び本件各工事請負契約書の内容を説明した上で、請求人らは、当該各契約書の所定の箇所にそれぞれ署名及び押印し、本件各売買契約及び本件各工事請負契約はそれぞれに係る各契約書記載のとおり、成立した。

(ヘ) D社は、本件開発許可申請のために、G社に対し、各種開発図面の作成を依頼した上で、数度の見直しを指示した。F社は、当該図面を基に本件各造成工事を実施した。

(ト) なお、請求人らの原処分庁に対する各申述は、本件各売買契約や本件各工事請負契約の詳しい経緯や内容については不知であるというものであるが、詳しい経緯や内容はともかく、少なくとも本件各工事請負契約書の記載上、注文者が請求人らであり、請負人がF社となっていることの説明は受けたというものであり、上記のK社社長やD社社長の答述等と矛盾するものではない。

(4) 本件への当てはめ

 上記1の(4)の基礎事実及び上記(3)の認定事実によれば、まる1請求人は、注文者として本件工事請負契約をして本件造成工事の代金を負担し、一方、請求人から請け負ったF社が本件造成工事を行ったこと(上記1の(4)のハ及びヲ並びに上記(3)のヘの(ニ)ないし(ヘ))、まる2本件各土地が市街化調整区域の農地であることから、宅地造成後の分譲を可能とするため、また、開発許可を容易に得るために、建設業者であるD社が、本件農地転用申請及び本件開発許可申請をしたこと(上記1の(4)のヘ及びト並びに上記(3)のヘの(ハ))、まる3本件土地の所有権について、平成23年4月19日に請求人からD社に対し所有権が移転しているところ、それに先立って本件検査済証は同月12日付で発行されており、本件売買契約のとおり、本件開発許可に係る宅地造成がなされた後に請求人からD社に所有権が移転していること(上記1の(4)のイ、ヌ及びワ)、まる4上記まる1ないしまる3に加え、請求人は、平成23年分の所得税の譲渡所得の金額の計算において、本件造成工事の代金を取得費に計上していること(上記(3)のホ)からすると、本件開発許可に係る宅地造成が完了した後に譲渡した旨の認識を表明したことが、それぞれ認められ、これらを総合すると、本件造成工事は、D社に所有権が移転する前の本件土地の所有者である請求人の負担と責任において行われたというべきであり、D社は、本件開発許可申請をして本件開発許可を受けてはいるが、飽くまで宅地造成後の分譲が可能となるように、かつ、請求人では開発許可を得ることが困難であるために便宜的に許可を受けたにすぎないから、本件土地の造成工事をD社自らが行ったものではないと認められる。
 なお、D社がG社に対して各開発図面の作成等を依頼し、一方、請求人がその内容を把握していない理由は、本件造成工事の内容は、宅地造成後の分譲を行うD社の利害に直結する一方、請求人は、本件造成工事が行われること自体には利害を有するものの、本件造成工事の内容については、請求人がほとんど利害を有しないことによるものであって、飽くまで、本件造成工事を行うか行わないかを判断したのは、本件造成工事の当時に本件土地の所有者であった請求人であると認められる。
 したがって、本件造成工事は、請求人の負担と責任において行われたものと認められ、譲受人であるD社自らが行ったものではないことから、本件土地の譲渡は、措置法第31条の2第1項に規定する「優良住宅地等のための譲渡」に該当しない。
 また、上記まる3のとおり、本件土地は、宅地造成後の土地として譲渡されたものであって、素地として譲渡されたものではなく、上記(2)のとおり、拡張解釈ないし類推解釈をすることは許されないと解されているのであるから、この点からも、措置法第31条の2第1項の規定の適用はないというべきである。

(5) 請求人の主張について

イ 請求人は、D社が、本件開発許可を受けて、F社に本件造成工事を行わせたものであり、開発行為や造成工事についての知識を持っていない請求人は、K社やD社らの言うがままに本件工事請負契約書を作成し、本件工事請負契約に係る請負代金を支払ったものにすぎないので、本件造成工事を行ったのはD社である旨主張する。

 しかしながら、まる1上記(3)のヘの(ニ)及び(ホ)のとおり、請求人は、K社社長ないしはD社社長から、本件売買契約の締結日の直前及び当該契約の締結日において、本件売買契約及び本件工事請負契約の内容についての説明を受けていること、まる2上記(4)のまる1のとおり、本件造成工事は、本件工事請負契約に基づいてF社が行ったものであり、請求人の負担と責任において行われたこと、まる3上記(4)のまる2からすれば、D社が本件開発許可を受けたのは便宜的なものであること、並びにまる4上記(4)のまる3のとおり、本件開発許可に係る宅地造成がなされた後に請求人からD社に本件土地の所有権が移転したことから、本件造成工事の当時、本件土地の所有権者であった請求人が造成工事を行ったものと認められる。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

ロ 請求人は、措置法第31条の2第1項に規定する「優良住宅地等のための譲渡」に該当することについては、D社から交付を受けた措置法規則第13条の3第1項第13号に規定する各書類を原処分庁に提出して証明されている旨主張する。

 しかしながら、請求人は、上記(3)のホのなお書のとおり、措置法規則第13条の3第1項第13号に規定する書類として、本件土地の譲受人であるD社から交付を受けた本件開発許可申請に係る申請書、本件開発許可に係る通知書及び各種地形図の各写しを原処分庁に提出してはいるが、同号に規定する書類とは、土地等の買取りをする者、すなわち、措置法第31条の2第2項第13号に掲げる土地等の買取りをする同号の住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う個人又は法人から受けた書類をいうものであるところ、上記(4)のとおり、D社は本件土地の造成を行っていないことから、請求人が提出した書類は、いずれも措置法規則第13条の3第1項第13号に規定する書類であるとは認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(6) 本件更正処分について

イ 分離長期譲渡所得の金額

 上記(3)のホのとおり、本件内訳書には、請求人が本件造成工事に係る代金として33,015,000円を支払った旨記載されているところ、当審判所の調査の結果によれば、そのうち15,000円については、本件工事請負契約書に貼付された収入印紙代であると認められ、上記1の(4)のハの(ト)のとおり、本件工事請負契約に係る収入印紙代15,000円はF社の負担とされているにもかかわらず、分離長期譲渡所得の金額の計算上、同収入印紙代が取得費に計上されているので、当該金額を除外して計算すると、別表2の「審判所認定額」の「分離長期譲渡所得の金額」欄の金額となる。

ロ 納付すべき税額

 上記(4)のとおり、本件においては措置法第31条の2第1項の規定が適用されないことから、上記イの分離長期譲渡所得の金額について措置法第31条第1項の規定により納付すべき税額を計算すると、別表2の「審判所認定額」の「納付すべき税額」欄の金額となり、この金額は本件更正処分に係る納付すべき税額を上回るから、本件更正処分は適法である。

(7) 本件賦課決定処分について

 上記(6)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

(8) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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