(平成26年5月13日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、被相続人から遺贈により取得したとして相続税の修正申告において遺産に含めた土地について、後日、相続人との間で当該土地が被相続人の遺産を構成しないことを確認する旨の裁判上の和解が成立したため、当該和解が国税通則法第23条《更正の請求》第2項第1号かっこ書に規定する和解に当たるとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから、請求人が、その全部の取消しを求めた事案であり、争点は、上記和解が同号かっこ書に規定する和解に該当するか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成25年5月22日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。
 なお、平成23年11月14日付でされた過少申告加算税の賦課決定処分についてもあわせ審理する。

(3) 関係法令

イ 国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第23条第1項第1号は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときは、当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
ロ 通則法第23条第2項第1号は、納税申告書を提出した者は、その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときは、同条第1項の規定にかかわらず、その確定した日の翌日から起算して2月以内に、同項の規定による更正の請求をすることができる旨規定している。
ハ 通則法第23条第4項は、税務署長は、更正の請求があった場合には、その請求に係る課税標準等又は税額等について調査し、更正をし、又は更正をすべき理由がない旨をその請求をした者に通知する旨規定している。
ニ 民事訴訟法第267条《和解調書等の効力》は、和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する旨規定している。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 平成21年11月○日に死亡したG(以下「本件被相続人」といい、同人の死亡により開始した相続を「本件相続」という。)の配偶者Hは、本件相続の開始前の平成20年2月○日に死亡しており、本件被相続人に実子はなく、同人の法定相続人は、養子であるJ(本件相続の開始時の姓は○○。)1名のみである。
 なお、Jは、本件相続の開始後の平成22年5月6日に、K家庭裁判所d支部の許可を得て本件被相続人と離縁した。
 また、請求人は、本件被相続人の甥であるL(同人は平成17年7月○日に死亡した。)の子であり、本件相続に係る受遺者の一人である。
ロ 遺言者を本件被相続人とする平成18年1月11日付の遺言公正証書(以下「本件遺言書」という。)には、要旨次のとおりの記載がある。
(イ) 遺言者は、その所有に係る不動産(別表2に記載の各土地(以下、同表番号1の土地を「本件土地1」といい、同表番号2の土地を「本件土地2」という。また、両土地を併せて「本件各土地」という。本件各土地は隣接している。)並びに別表3の番号1ないし16の各土地及び各建物。なお、別表3の番号6ないし8、10、11及び16の被相続人の持分は2分の1である旨記載されている。)を含む一切の財産をHに相続させる。
(ロ) Hが遺言者の死亡と同時若しくはそれ以前に死亡したときは、遺言者は、その所有に係る一切の不動産を請求人に遺贈する。
(ハ) Hが遺言者の死亡と同時若しくはそれ以前に死亡したときは、遺言者は、その所有に係る一切の預貯金及び現金をM(同人はHの姪である。)に遺贈する。
(ニ) 遺言者は、本遺言の遺言執行者としてN弁護士を指定し、預貯金の解約・引出しの権限及び貸金庫の開披の権限を付与する。
ハ 請求人が平成22年9月2日に原処分庁に提出した本件相続に係る相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)には、本件各土地が本件被相続人の遺産として計上されておらず、本件申告書に添付された税理士法第33条の2第1項に規定する添付書面には、本件遺言書に記載のある本件各土地については、平成13年4月20日に売買予約の登記がなされており、当事者間でも売買が成立しているとのことであるため、本件各土地を遺産より省いている旨が記載されている。
 なお、本件申告書に本件被相続人の遺産として計上された現金及び預貯金の額は、211,008,131円であり、当該預貯金等については、平成22年4月11日にJとMとの間で成立した裁判外の和解により、同人らが各2分の1の割合で取得している。
ニ 請求人は、本件各土地について、平成22年3月12日に同月9日の遺贈を原因として所有権移転登記手続を経由した。
 また、Jは、P弁護士を代理人として、平成22年1月25日付の「遺言無効の通知及び遺留分減殺請求書」と題する書面を請求人宛に送付し、本件遺言書による遺言が無効である旨、仮に有効である場合には、当該書面をもって遺留分減殺請求をする旨を請求人に通知した。
ホ Jは、P弁護士を訴訟代理人に選任した上、平成22年10月13日に、請求人を被告として、本件各土地の持分2分の1について所有権移転登記手続等を求める訴訟(以下「第1訴訟」という。)をK地方裁判所d支部(以下「裁判所」という。)に提起した。
 なお、第1訴訟の訴状には、要旨次の記載がある。
(イ) 請求の趣旨
A 請求人は、Jに対し、本件各土地及び別表3の番号1ないし4の各土地の持分2分の1について、平成22年1月26日遺留分減殺を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
B 別表3の番号5の土地及び同表の番号12ないし15の各建物の持分2分の1について、Jが所有権を有することを確認する。
C 別表3の番号6ないし11の各土地及び同表の番号16の建物の持分16分の9について、Jが所有権を有することを確認する。
D 別表3の番号17ないし19の各建物の持分8分の5について、Jが所有権を有することを確認する。
(ロ) 請求の原因
A 本件被相続人は、本件遺言書により、その所有に係る不動産を含む一切の財産をHに相続させ、Hが本件被相続人の死亡と同時若しくはそれ以前に死亡したときは、その所有に係る一切の不動産を請求人に遺贈し、また、その所有に係る一切の預貯金及び現金をMに遺贈するとした。
B 本件被相続人の死亡により、本件遺言書に基づいて、請求人は、本件各土地、別表3の番号1ないし4の各土地及び番号17ないし19の各建物のみを受贈するとして、上記各土地について遺贈を原因として所有権移転登記手続を経由している。
C 本件被相続人の財産は、請求人及びMにそれぞれ遺贈された不動産と現金・預貯金だけであり、後は使い古した家財道具・じゅう器備品の動産類で、Jとしては、これらの動産類に相続したいものはなく、全て廃棄処分するほかないが、その費用負担も少なくない。
D Jは、請求人に対し、平成22年1月28日到達の書面をもって、遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。
ヘ 本件相続に係る相続税の調査において、原処分庁所属の調査担当職員は、請求人に対して、本件各土地の本件相続の開始時における登記名義人が本件被相続人であることなどを理由に、本件各土地は本件被相続人の遺産に含まれるべきである旨指摘し、本件相続に係る相続税の修正申告をしょうようした。これを受け、請求人は、本件各土地を遺産に含めて相続税額を計算して、平成23年10月21日に本件相続に係る相続税の修正申告(以下「本件修正申告」という。)をした。
ト 原処分庁は、平成23年11月14日付で、本件修正申告に基づく過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
チ Lの子であり、請求人の兄であるQが代表取締役を務めるR社は、S弁護士を訴訟代理人に選任した上、平成24年5月17日に、Jを被告として、R社が本件各土地の所有権を有することの確認を求める訴訟(以下「第2訴訟」という。)を裁判所に提起した(第2訴訟は平成24年6月5日に第1訴訟と併合された。以下、第1訴訟と第2訴訟を併せて「本件訴訟」という。)。
 なお、第2訴訟の訴状には、要旨次の記載がある。
(イ) 請求の趣旨
 R社とJとの間において、R社が本件各土地の所有権を有することを確認する。
(ロ) 請求の原因
A 本件被相続人は、本件各土地について、R社との間で、平成13年4月頃、70,000,000円にて売却する旨の契約を締結しているところ、R社と本件被相続人は、この代金の支払について、R社が本件被相続人に対し平成13年3月に貸し付けた20,000,000円の貸付金債権及びR社の代表者であったLが本件被相続人に対し平成5年4月から同13年8月までの間に貸付けあるいは貸付け予定の50,000,000円の貸付金債権の合計70,000,000円を充てることに合意し(その結果、R社及びLの本件被相続人に対する貸付金債権は弁済されたこととなる。)、R社は、平成13年8月末頃までに、本件被相続人に対し、本件各土地の売買代金全額の支払を終えた。そして、本件各土地の地目が田であったことから、R社名義への移転登記ができず、便宜上、R社のために、平成13年4月20日売買予約を原因とする所有権移転請求権を保全するための仮登記がされた。
B 本件各土地の所有者は、本件相続の開始時点において、R社であり、本件被相続人ではないことから、本件各土地は本件被相続人の遺産には含まれない。
リ 請求人、R社及びJとの間で、本件訴訟の第14回弁論準備手続期日(平成24年8月○日)に、要旨次のとおりの和解(以下「本件和解」という。)が成立した。本件和解は、同期日の弁論準備手続調書に記載された。
(イ) 請求人、R社及びJは、本件各土地に関して、平成13年4月20日、本件被相続人からR社へ70,000,000円で売却されたこと、及び、売買代金については下記3の(2)のロ及びハの借用書及び金銭消費貸借契約書に記載のL及びR社の本件被相続人に対する貸付金合計70,000,000円を当該売買代金全額の支払に充当した結果、売買代金全額が支払済みであること、その結果、R社には本件被相続人に対し、未払の売買代金支払債務が存在せず、また、本件各土地については、R社の所有であって登記名義人である本件被相続人の遺産を構成しないことを相互に確認する。
(ロ) J及び請求人は、別表3に記載の各不動産が本件被相続人の遺産であることを確認し、当該遺産のうち、請求人が本件遺言書に基づき、別表3の番号1ないし4の各不動産を遺贈により取得したこと並びに、当該遺産のうち、Jが、請求人が取得した当該各不動産以外の各不動産を相続により取得したことを相互に確認する。
(ハ) J、請求人及びR社は、Jと請求人との間及びJとR社との間には、この和解条項に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。
ヌ 請求人は、本件和解により、本件各土地が本件被相続人の遺産ではないことが確認されたとして、平成24年8月28日に、本件相続に係る相続税の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ル 原処分庁は、請求人に対し、平成24年12月7日付で、本件更正の請求について更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。

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2 主張

請求人 原処分庁
 次の1及び2のとおり、本件和解は、専ら当事者間で税金を免れる目的の下に馴れ合いでされた和解などではなく、客観的、合理的根拠を欠くものであるはずがないから、通則法第23条第2項第1号かっこ書に規定する「判決と同一の効力を有する和解」であることは明らかである。  次の1及び2のとおり、本件和解は、馴れ合いと評価される和解であり、客観的、合理的根拠を欠いていることから、通則法第23条第2項第1号かっこ書に規定する「判決と同一の効力を有する和解」には該当しない。
1 原処分庁の主張の根拠は、売買契約書が存在しないことの一点のみであるが、この主張は「直接証拠がなければ、立証がされていない」というにひとしく不合理である。民事訴訟においては、直接証拠がないからこそ、間接事実、間接証拠が双方から提出され、理を尽くして審理が進められ、最終的に、和解や判決によって結論が出るのである。本件各土地の売買に関しても、間接事実をもってその成立が認められる。すなわち、消費貸借契約書や借用書の記載内容、借用書に記載の20,000,000円がR社から本件被相続人に入金されていること、消費貸借契約書に記載の50,000,000円に関しても、Mからのヒアリングで「いつ頃からかは不明だが、本件被相続人がL氏から月々500,000円を受領していたという事実はあった」、「L氏からの支払は終わった、と本件被相続人から聞いた」との証言を得ていること、N弁護士がこれらを踏まえて、本件被相続人がR社に土地を売買する意思であったと判断し、所有権移転本登記に協力すべく、合意書案まで作成済みであったこと等によって、本件各土地の売買が認められる。
 したがって、本件和解の内容は十分に客観的・合理的な根拠を有する。
 なお、原処分庁の主張は、次の(1)から(6)のとおり理由がない。
(1) 遺贈を原因とする請求人への所有権移転登記は、本件遺言書に本件各土地が列挙されていたので、それに従った登記がされたにすぎない。
 また、本件和解の成立後、本件各土地に関して本登記がされていないのは、本件審査請求が決着をみていないからそのままになっているにすぎない。
(2) 本件遺言書作成当時○歳の本件被相続人が、18もある不動産に、本件各土地が含まれているか否かを明確に認識していなかった可能性は十分にあり、本件遺言書の目録に本件各土地の記載があることをもって、本件各土地のR社への売買が成立していなかったとはいえない。
(3) 本件各土地がR社の会計上、税務上の書類に計上されていないのは、本件各土地の所有権移転本登記がされていないからにすぎない。
 また、20,000,000円の貸付金が、R社の帳簿上減額されていないのも、かつての記載がそのままになっているというほかなく、実体はない。
(4) R社の支出が20,000,000円、Lの支出が50,000,000円であるのに、本件各土地全部の所有権がR社に移転したことも、本件被相続人の意思であったというほかない。
(5) 本件各土地の売買契約の書類がないのも、本件被相続人とLとの間でされたやり取りなので、やむを得ない。
(6) 本件各土地に係る固定資産税が納付されていないのも、登記等を基準に課税対象を把握する役所がこれを課税対象とみていなかったためである。
1 次の(1)から(6)のとおり、本件各土地が平成13年4月20日に本件被相続人からR社に対し70,000,000円で売却されていたとは認められないから、本件和解は、客観的事実と明らかに異なる内容の事実を確認する和解である。
 なお、請求人の主張するように、N弁護士が本件各土地の移転本登記に協力していたとしても、そのことをもって本件各土地のR社への売却を裏付けることはできない。
(1) 本件各土地は、登記簿上、遺贈を原因として請求人に所有権が移転しており、R社には所有権が移転していない。
 また、本件和解成立後直ちに、R社に本件各土地の所有権移転登記がされるのが通常であるが、この登記もされていない。
(2) 本件被相続人は、本件遺言書に自らの財産として本件各土地を記載している。
(3) R社の貸借対照表、確定申告書添付の内訳書の固定資産欄には、本件各土地の計上・記載がない。
 また、本件被相続人に対する貸付金20,000,000円も帳簿上減額されていない。
(4) 請求人の主張では、50,000,000円を支出しているのはLであるにもかかわらず、本件各土地の50,000,000円に相当する部分をLではなくR社が取得する根拠がない。
 また、請求人の主張によれば、Lは7分の5の持分を取得するはずであるが、Lがこの持分をR社に譲渡した事実は認められない。
(5) 金銭の貸借については借用書及び契約書が作成されている(なお、これらの借用書等に基づく借受けの事実は認められない。)のに、本件各土地の売買について売買契約書を作成していないのは極めて不自然である。
(6) R社が、本件各土地に係る固定資産税及び都市計画税を納付した事実はない。
2 本件和解が馴れ合いによって得られたものであるとの原処分庁の主張は、本件各土地の売買が成立する場合の法律的な効果を述べたものにすぎない。また、原処分庁は、L又はR社から本件被相続人への貸付けを否認しているにもかかわらず、ここにおいては当該貸付けが存在したことを前提にしており、論理が破綻している。
 上記1のとおり、本件各土地の売買が成立していないと評価するのは、極めて不合理である。
2 本件和解のとおりの事実が認められれば、請求人は、Jからの遺留分減殺請求を抑制することができ、本件各土地に相当する相続税も免れる一方、Jも、借用書及び契約書に記載の本件被相続人の借受金についてその負担を免れ得る状態にあった。したがって、本件和解の実質は、請求人及びJの双方が本件各土地の売却の有無について十分な立証を行わずにされた馴れ合いと評価される和解である。

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3 判断

(1) 法令解釈

 通則法第23条第1項は、更正の請求をすることができる期間を、法定申告期限から1年以内と定めている。そして、同条第2項第1号は、同条第1項の期間経過後であっても、申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。以下同じ。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときは、その確定した日の翌日から起算して2月以内に更正の請求をすることができる旨規定している。
 この規定は、申告時には予想し得なかった事態が後発的に生じ、これにより課税標準等又は税額等の計算の基礎に変更を生じ、税額の減額をすべき場合に、法定申告期限から1年を経過していることを理由に更正の請求を認めないとすると、帰責事由のない納税者に酷な結果となることから、例外的に更正の請求を認めて保護されるべき納税者の救済の途を拡充しようとしたものである。
 ところで、裁判上の和解は判決と同一の効力を有するものであるから、当該和解によって課税標準等又は税額等の基礎となった事実に変更が生じた場合には、当該納税者は同号の規定に基づき更正の請求をすることができるのであるが、上記法の趣旨等からすれば、たとえ納税者が、申告時に計算の基礎としたところと異なる事実を確定する裁判上の和解をしたとしても、当該和解が、当事者が専ら租税負担を回避する目的で、実体とは異なる内容を記載したものであって、真実は申告時に計算の基礎とした事実関係等に変動が生じていないような場合には、当該和解調書の有する債務名義としての効力等にかかわらず、通則法第23条第2項第1号にいう和解には当たらないと解すべきである。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件土地2の一部(a市長発行の固定資産評価証明書では562u)及び本件土地1は空き地(同証明書の現況地目は特定市街化田)であり、本件土地2の一部(同証明書では364u、現況地目は宅地)には、Q及びその家族が居住する平成10年1月8日新築の家屋がある。なお、同家屋については、平成11年12月1日にQ名義で所有権保存登記がされている。
ロ 本件被相続人からR社宛の平成13年3月22日付の借用書(以下「本件借用書」という。)には、本件被相続人が、同日、R社から20,000,000円を借用した旨及び借用期間満了日までに必ず返済することを約束する旨が記載されている。本件借用書には、本件被相続人名義の署名押印があるが借用期間の満了日の記載はない。なお、平成13年当時のR社の代表取締役はLであった。
ハ 本件被相続人とLは、平成13年8月10日付で金銭消費貸借契約書(以下「本件契約書」という。)を作成して、これを取り交わした。
 なお、本件契約書には、要旨次のとおりの記載があるが、返済方法及び返済期限に関する記載はない。
(イ) 第1条 Lは、本件被相続人に対し50,000,000円を貸し付け、本件被相続人はこれを借用したことを確認した。内訳として平成5年4月から平成13年8月まで(500,000円×100回)
(ロ) 第2条 利息は、特別の事情がない限り年2パーセントとする。
(ハ) 第3条 本件被相続人は、Lより今後も資金として毎月500,000円を借り受けるものとする。
(ニ) 第4条 次の場合には、Lからの通知催告がなくても本件被相続人は、当然利益を失い債務を履行する。
A 他の債務につき仮差押え、仮処分又は強制執行を受けたとき
B 他の債務につき競売、破産又は和議の申立てがあったとき
ニ R社は、T銀行e支店がR社の依頼により発行した20,000,000円の自己宛小切手(平成13年3月22日発行)を本件被相続人に交付した。この小切手により、平成13年3月26日に20,000,000円がU銀行(現、V銀行)f支店の本件被相続人名義の預金口座に入金された。
ホ 本件各土地については、平成13年4月23日に、同月20日売買予約を原因として、権利者をR社とする所有権移転請求権仮登記がされている。なお、平成13年当時、本件各土地の登記上の所有名義人は本件被相続人であった。
ヘ 本件被相続人の成年後見人であったN弁護士が、S弁護士に宛てて送信した平成23年8月14日付の「報告書」と題する書面には、本件契約書に基づく金員の授受について要旨次のとおりの記載がある。
(イ) 本件被相続人とLないしR社の間で金銭の授受があったか否かについては、当職は直接には確認していません。
(ロ) 平成20年12月に貴職から当職に対し、本件各土地につき、本登記を求める書面が届き、事実確認をする必要がありましたが、その時期にはHは既に死亡しており、本件被相続人についても後見が開始するほどに判断能力が衰えてきておりましたので、事情確認は不可能な状態でした。そこで、長年、本件被相続人らの身の回りの世話をしていたMに事情をご存じか確認したところ、一時期、Lが本件被相続人に月々500,000円を持参して手渡していた時期があり、その後、Hから「Lさんからの支払は終わった」と聞いたことがあるとのことでした。ただし、Mは、何のための金銭の授受なのか、総額はいくらだったのか等の詳細は知らないということでした。
(ハ) 当職は、本件被相続人名義、H名義の預貯金の履歴を確認してみましたが、月額500,000円ずつ入金されているものは見当たりませんでした。本件被相続人には駐車場や借家の賃料収入があり、近隣の方に集金をお願いし、集金人が現金を本件被相続人に持参しており、Hはこれを自宅金庫に一時保管し、まとめて銀行口座に入金しに行っておりましたし、また、自宅金庫にも相当の現金を保管していました。したがって、本件被相続人が、本件契約書に基づき、Lから月々500,000円を受領していたとしても、都度、口座に入金することはなく、自宅金庫に保管していたということは考えられると思います。
ト 本件和解に至るまでの経緯は、おおむね次のとおりである。
(イ) 請求人は、第1訴訟において、S弁護士を訴訟代理人に選任した上、平成22年11月17日付の答弁書により、請求棄却の判決を求めるとともに、要旨次のとおり主張した。
A 本件被相続人は、平成5年2月又は3月頃、自転車に乗車中に転倒して入院しているが、その頃より、本件被相続人は、R社の代表者であったLに対し、頻繁に金銭の貸付けを求め、他方、Lも、その求めに応じて金銭を貸し付け、平成13年8月時点で、L名義の貸付額が50,000,000円となっていた。また、R社も、平成13年3月、本件被相続人に対し、20,000,000円を貸し付けており、Lの貸付金とR社の貸付金の合計額は70,000,000円にも達していた。そして、Lと本件被相続人は、平成13年4月頃、当該貸付金の返済方法について協議し、L及びR社の貸付金の返済を求めない代わりに本件各土地の所有権をR社へ譲渡することに合意した。ただ、本件各土地が農地であったことから、そのときは本登記を行うことができず、当面は仮登記を行ってその権利の保全を図った。
B その後、Lが、平成17年7月に死去し、R社の代表者にQが就任したこともあり、本件各土地の本登記手続を行うことを検討し、平成20年12月頃、本件被相続人の成年後見人に就任したN弁護士に対し、本件各土地について本登記手続を行うよう申し入れ、他方、N弁護士も仮登記を行った経緯について関係者から聞き取り調査を行い、その結果、平成21年6月後半頃には、本件各土地について本登記手続を行う旨の合意書案も出来上がり、合意書を交わす間際まで至っていたのであるが、その矢先に本件被相続人が死亡したのである。
C よって、本件各土地は、本件被相続人名義であったが、R社が売買予約の仮登記を行っており、かつ、売買代金も支払済みであることから、実質的には、本件被相続人の遺産を構成しない財産である。
(ロ) Jは、請求人の上記(イ)の主張に対し、L名義の50,000,000円の貸付け及びR社名義の20,000,000円の貸付けにつき、被相続人の資産や生活状況及び裏付けとなる証拠の不自然さを主張するなどして、その存在、さらには本件各土地の売買契約の存在を争っていた。
(ハ) Jは、第2訴訟において、P弁護士を訴訟代理人に選任した上、平成24年6月5日付答弁書により、請求棄却の判決を求めた。
(ニ) P弁護士及びS弁護士は、第1訴訟の第1回弁論準備手続期日(平成23年4月13日)において、期日間に和解による解決について協議する旨の陳述をした。両弁護士は、同期日以降も、それぞれ準備書面や書証を裁判所に提出して相手方の主張を争う一方で、本件訴訟の第14回弁論準備手続期日(和解期日)に至るまでの間、和解による解決に向けての交渉を積み重ねた。
チ 異議審理庁の担当者が平成25年4月3日付で作成した調査報告書には、同日、Qが同担当者に対して要旨次のとおり申述した旨が記載されている。
(イ) Lから、本件各土地について売買予約登記を行ったのは、売買だと譲渡所得が発生するので、売買予約という形にしておいたと聞いている。
(ロ) 本件各土地を70,000,000円で売買する旨の売買契約書はないが、Lから、本件各土地は○○家のものになったと聞いていた。
(ハ) 本件借用書に係る貸付金20,000,000円がR社の帳簿から消えていないことについて、その経緯は分からないが、Lからは、売買にしてしまうと税金の話が出るので、その関係で動いていたと聞いている。
(ニ) 本件契約書に係る貸付金50,000,000円についても、個人間で借りるようなことはないと思う。

(3) 判断

イ 本件和解は、請求人、J及びR社が、本件各土地について、平成13年に本件被相続人からR社に70,000,000円で売却されたこと、本件各土地がR社の所有であって本件被相続人の遺産を構成しないことを確認する旨の条項を含んでいる。したがって、本件和解は本件修正申告に係る課税標準等の計算の基礎とした事実(本件各土地が本件被相続人の遺産を構成する。)と異なる事実を確認したものといえる。
 ところで、上記(1)のとおり、裁判上の和解であっても、当事者が専ら租税負担を回避する目的で、実体を伴わない和解を成立させたものであって、真実は申告時に計算の基礎とした事実関係等に変動が生じていないような場合には、当該和解調書の有する債務名義としての効力等にかかわらず、通則法第23条第2項第1号にいう和解には当たらないと解すべきである。
 この点に関し、原処分庁は、本件各土地が本件被相続人からR社に売却された事実はないとして、本件和解は、客観的事実と明らかに異なる事実を確認するものであり、当事者が租税回避目的等から、馴れ合いと評価されるような和解をしたにすぎないなどと主張するので以下検討する。
ロ 本件和解は第1訴訟及び第2訴訟に係る裁判上の和解として成立したものである。
 そこで、まず第1訴訟及び第2訴訟が提起された経緯についてみるに、上記(2)のイのとおり、本件各土地は、一部は空き地であるが、一部は、平成10年1月8日新築のQ(R社の代表取締役であり、被相続人の甥であるLの子、請求人の兄)名義の家屋の敷地として使用されていた土地である。同ホのとおり、本件各土地について、平成13年4月23日に、同月20日の売買予約を原因として、権利者をR社とする所有権移転請求権仮登記がされていた。
 上記1の(4)のイ、ロ、ニ及びホのとおり、平成21年11月○日に本件被相続人が死亡し、本件遺言書には、本件各土地が遺産であり、本件被相続人の配偶者であるHが本件被相続人の死亡と同時若しくはそれ以前に死亡したときは、これをQの弟である請求人に遺贈する旨記載されていた。請求人は、本件各土地について遺贈を原因とする所有権移転登記手続を経由したが、本件被相続人の養子であったJが請求人に対し遺留分減殺請求をし、平成22年10月13日、請求人を被告として本件各土地の持分2分の1について所有権移転登記手続請求訴訟(第1訴訟)を提起した。
 上記1の(4)のチのとおり、第2訴訟は、第1訴訟の係属中である平成24年5月17日(本件和解の成立は同年8月○日)、R社がJを被告として、R社が本件各土地の所有権を有することの確認を求めて提起したものであり、第1訴訟と併合審理されたものである。
ハ 第2訴訟中のR社の主張は、本件被相続人がR社に対し本件各土地を平成13年4月頃70,000,000円で売却し、代金には、R社及びその代表者Lの本件被相続人に対する貸付金債権(それぞれ本件借用書ないし本件契約書に係るもの)を充て、その際便宜上、所有権移転登記手続に代わり、R社のために平成13年4月20日売買予約を原因とする所有権移転請求権を保全するための仮登記手続をしたというものであるところ、本件各土地には実際に同月23日付で同仮登記が存する。また、本件各土地の売買代金の支払に充当されたとする貸付金債権が存在したことを裏付けるものとして、上記(2)のニのとおり、本件借用書に係る貸付金20,000,000円が、R社から本件被相続人に対して小切手により交付された事実が認められ、同ヘのとおり、本件契約書に係る貸付金50,000,000円に関し、総額は明らかではないものの、同ハの本件契約書に記載のとおり、Lから本件被相続人に対して月々500,000円が交付されていた事実が認められる。
 これらの事実等からすれば、本件訴訟に関するR社の請求が、全く根拠のないものであるということもできない。
ニ そうすると、本件各土地が平成13年4月頃に本件被相続人からR社へ70,000,000円で売却されたこと、その売買代金については本件契約書及び本件借用書記載のL及びR社から本件被相続人に対する貸付金名義の金員合計70,000,000円をもってその全額の支払に充当されたこと、その結果、R社には本件被相続人に対し未払の売買代金支払債務が存在せず、また、本件各土地についてはR社の所有であって本件被相続人の遺産を構成しないことを確認した本件和解の内容について、証拠等からうかがわれる客観的事実関係に明らかに反していると認めるに足りない。
ホ また、本件では、本件各土地を含む遺産についての遺留分減殺請求訴訟である第1訴訟が提起されて約1年半以上が経過した後、第1訴訟の被告である請求人の兄が代表取締役を務めるR社が、本件各土地の所有権を主張して第2訴訟を提起し、第2訴訟の提起後2か月余りで本件和解が成立したといった事情が存する。しかし、上記(2)のトのとおり、第1訴訟においても早期から、本件各土地がR社の所有であるか否かが問題となっていたことがうかがわれることや、本件各土地は被相続人の遺産のうちの一部にすぎず、J及び請求人は、本件和解において、遺産中のその他の不動産(別表3に記載の各不動産)についてそれぞれその帰属や賃料収益の取得、公租公課の負担等を定めていることも考慮すると、第2訴訟の提起から本件和解の成立までの期間が比較的短いことや、JとR社の関係では、R社の請求を認める内容で和解が成立したことをもって、第2訴訟及び本件和解について、租税回避目的の馴れ合いにより行われたものとみることもできない。
ヘ 以上の点に照らせば、本件和解は、所有権の帰属に関して当事者間に争いのあった本件各土地について、上記のとおり、平成13年4月頃に本件被相続人からR社に対して売却されていたことが相応の根拠をもって認められる状況の下で、本件各土地が本件被相続人の遺産を構成しないことが確認されたものとみるべきであり、本件和解について、当事者が専ら租税負担を回避する目的で、実体を伴わない和解を成立させたものであって、真実は申告時に計算の基礎とした事実関係等に変動が生じていないなどという事情はうかがわれず、原処分庁が主張するように、本件和解が客観的事実と明らかに異なる事実を確認するものであり、当事者が租税回避目的等から、馴れ合いと評価されるような和解をしたにすぎないということはできない。
 そして、本件和解は、本件修正申告において課税標準等の計算の基礎とした事実と異なる事実を確認したものであるから、通則法第23条第2項第1号かっこ書に規定する和解に該当するというべきである。
ト ところで、上記(2)のロ及びハのとおり、本件借用書及び本件契約書には、貸付金の返済方法及び返済期限に関する記載が一切ないこと、上記1の(4)のハのとおり、本件被相続人は、本件相続の開始時において200,000,000円を超える預貯金等を有しているほか、上記(2)のヘの(ハ)のとおり、駐車場や貸家の賃料収入を定期的に得ており、70,000,000円もの多額の資金を借り入れる必要があったかは疑問であること及び本件各土地について売買を原因とする所有権移転登記を行わず売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記にとどめていること(上記(2)のトの(イ)のAのとおり、この点に関して請求人は、第1訴訟において、本件各土地が農地であったことから、本登記を行うことができなかった旨主張しているが、本件各土地の一部には既にQ名義の家屋が存在し、固定資産評価証明書においても現況宅地とされていること及び本件各土地は市街化区域内にある農地であり、農地以外のものへの転用について、農地法第4条《農地の転用の制限》第1項第7号又は同法第5条《農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限》第1項第6号の規定によりあらかじめ農業委員会に届け出ることにより各項の規定による許可を受ける必要がなく、農地以外のものへの転用及び所有権移転登記も比較的容易にすることができるのであるから、農地であることを理由として所有権移転登記ができなかった旨の主張は信用できない。)に加え、上記(2)のチのとおり、Qが異議審理庁の担当者に対して、売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記を行ったこと及び本件借用書に係る貸付金20,000,000円がR社の帳簿に計上されたままになっていることについて、Lからは、所得税(譲渡所得)の課税を回避する目的であるとの趣旨の話を聞いていた旨申述していることからすれば、本件被相続人、L及びR社は、本件被相続人に対する所得税の課税を免れるため、本件各土地の売買に係る売買代金の支払を貸付金に仮装していたのではないかと疑われるところではある。
 しかしながら、仮にそのような事情があったとしても、Lに対する譲渡所得の課税につき通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第4項所定の「偽りその他不正の行為」に該当する余地があるかどうかは別として、本件和解が通則法第23条第2項第1号かっこ書に規定する和解に該当するとの上記判断を左右するものではない。
チ 原処分庁は、本件各土地がR社に売却された事実が本件和解において認められれば、請求人は、Jからの遺留分減殺請求を抑制することが可能になり、本件各土地に相当する相続税を免れることができる一方、Jも、本件借用書及び本件契約書に基づく金員の返済についてその負担を免れ得る状態にあったことなどから、本件和解は馴れ合いの和解である旨主張する。
 しかしながら、租税回避目的の馴れ合いと評価されるような訴訟を提起し、裁判上の和解をした場合に通則法第23条第2項第1号かっこ書に規定する和解に該当しないことがあるとしても、それは上記(1)で説示したとおり、当事者が専ら租税負担を回避する目的で、実体を伴わない和解を成立させたものであって、真実は申告時に計算の基礎とした事実関係等に変動が生じていないから、同条の適用を認める必要がないことなどによるものである。和解によって結果として当事者の租税負担が軽減されたとしても、直ちに、当該和解が、馴れ合いによって得られたものであり同号所定の和解に当たらないものとはいえない。
 その他、原処分庁は、本件和解が当事者双方にとって経済的・心理的に利点があることをもって、馴れ合いであるとか根拠を欠くなどとも主張するが、そもそも和解とは争いある権利関係について当事者の互譲による合意に基づいて確定、変動させるものであり、合意の内容が当事者双方にとって経済的・心理的に利点があるからこそ、互譲が可能となることも多いのであって、そのことをもって当該和解に根拠がなく、通則法第23条第2項第1号所定の和解に当たらないとするのは、当を得ないというほかない。
 よって、原処分庁の主張は採用することができない。

(4) まとめ

 以上のとおり、本件和解は、通則法第23条第2項第1号かっこ書に規定する和解に該当するというべきであり、本件更正の請求は、理由があって認められるべきものであるから、本件通知処分及び本件賦課決定処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。

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