(平成26年4月23日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事案の概要

 本件は、原処分庁が、納税者P社(直前の商号はN社、その前の商号はQ社。以下「本件滞納法人」という。)の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、敷金返還請求権の各差押処分をしたところ、審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人は本件滞納法人から敷金返還請求権を取得しているから、当該各差押処分は請求人に帰属する敷金返還請求権を差し押さえた違法なものであるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

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2 審査請求に至る経緯

(1) 原処分庁は、平成24年12月6日現在において本件滞納国税が完納されていなかったことから、同日付で、別表の番号1のR社に対する敷金返還請求権の差押処分(以下「本件差押処分1」という。)を行い、本件差押処分1に係る債権差押通知書は、同月7日、R社に送達された。
(2) 原処分庁は、平成25年1月11日現在において本件滞納国税が完納されていなかったことから、同日付で、別表の番号2ないし4の各敷金返還請求権(まる1S社に対するもの、まる2T社に対するもの及びまる3U社に対するもの)の各差押処分(以下「本件差押処分2」といい、本件差押処分1と併せて「本件各差押処分」という。)を行い、本件差押処分2に係る各債権差押通知書は、同月16日又は同月17日、S社、T社及びU社にそれぞれ送達された。
(3) 請求人は、本件各差押処分を不服として、平成25年3月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月18日付で、本件差押処分1に対する異議申立てを却下し(不服申立期間の経過後にされた不適法な異議申立てであるとの理由による。)、本件差押処分2に対する各異議申立てをいずれも棄却する旨の異議決定をした。
(4) 請求人は、上記(3)の異議決定を経た後の本件各差押処分になお不服があるとして、平成25年5月17日に審査請求をした。

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3 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 本件滞納法人がR社、S社、T社及びU社との間でそれぞれ締結した契約について
(イ) 本件滞納法人は、平成24年9月6日、R社との間で、要旨次のとおりの定期建物賃貸借契約(以下「x1契約」といい、x1契約に係る契約書を「x1契約書」という。)を締結した。
A R社は、次の建物を本件滞納法人に賃貸し、本件滞納法人は、これを借り受ける(x1契約書第2条《定期建物賃貸借の目的たる建物》第1項)。
(A) 所在地 e県f市g町○−○
(B) 種類・構造 鉄骨造・二階建て
(C) 契約面積 61.2平方メートル
B x1契約の契約期間は、平成24年9月7日から平成25年1月31日までとする(x1契約書第5条《賃貸借契約の期間》第1項)。
C x1契約は、借地借家法第38条《定期建物賃貸借》第1項に定める定期建物賃貸借契約であり、契約期間の更新はなく、契約期間の満了により終了するものであることを相互に確認する(x1契約書第5条第2項)。
D 本件滞納法人は、1か月の売上高に15%を乗じて算出した月額賃料(円未満切捨て)をR社の指定する銀行口座に振り込まなければならない(x1契約書第7条《賃料》第1項)。
E 本件滞納法人は、x1契約に基づきR社に対して負担する一切の金銭債務の弁済を担保するため、R社に対し、敷金として、10,000,000円を預託しなければならない(x1契約書第12条《敷金》第1項)。
F R社は、x1契約が終了し、本件滞納法人が上記Aの建物を明け渡したときは、賃料の滞納、原状回復に要する費用の未払、その他のx1契約に基づき本件滞納法人がR社に対して負担する金銭債務の未履行分に相当する額を敷金から差し引いた残額を、3か月以内に本件滞納法人に返還するものとする(x1契約書第12条第4項)。
G 本件滞納法人は、R社の事前の書面による承諾を得ずに敷金返還請求権を第三者に譲渡、担保差し入れその他一切の処分に供してはならず、また、R社に対する賃料その他の債務と相殺することはできない(x1契約書第12条第5項)。
H 本件滞納法人は、上記Aの建物の使用に当たり、次の行為をしてはならない(x1契約書第14条《禁止事項》)。
(A) x1契約上の本件滞納法人の地位又は権利義務を第三者に譲渡し、又は担保に供する一切の行為(第1号)
(B) 上記Aの建物における営業を本件滞納法人以外の第三者(本件滞納法人の経営陣を構成する者や、本件滞納法人の子会社及び関係会社等を含む。)に行わせること(第2号)
(C) 賃借権を譲渡し、又は上記Aの建物を転貸すること(名目のいかんを問わず事実上賃借権の譲渡又は転貸と同様の結果となる全ての場合を含む。)(第3号)
I 本件滞納法人は、次に該当する場合は、R社に対し、事前に文書により通知するとともに、その手続完了後、速やかに文書によりR社に報告しなければならない(x1契約書第16条《通知及び報告の義務》)。
 合併、会社分割及び株式の過半数を所有する株主の変更など株主構成に重大な変更が生じる場合(第2号)
J R社及び本件滞納法人は、x1契約並びに営業規則に定めがない事項又は条項の解釈について疑義が生じた場合は、誠意をもって協議の上解決するものとする(x1契約書第39条《協議》)。
(ロ) 本件滞納法人は、平成20年12月1日、S社との間で、要旨次のとおりの「V」の設置及び使用に関する契約(以下「x2契約」といい、x2契約に係る契約書を「x2契約書」という。)を締結した。
A S社は、本件滞納法人に対し、hの敷地内の次の場所に、本件滞納法人が店舗を設置し使用することを認める(x2契約書第1条《設置の目的》及び第2条《設置の場所》)。
(A) 所在地 a県i市j町○−○
(B) 面積 15.30平方メートル
(C) 位置 ○−○区画
B 設置期間は、平成20年12月1日から平成21年9月15日とする(x2契約書第5条《設置期間》第1項)。
C 上記Bの期間満了の場合の更新については、期間満了の3か月前までに、S社・本件滞納法人のいずれからも更新拒絶の意思表示のない限り、この期間を1か年延長し、以降も同様とする(x2契約書第5条第2項)。
D 設置料は、1か月740,800円とする(x2契約書第6条《設置料》第1項)。
E 本件滞納法人は、店舗の設置に当たり、敷金として賃料の12か月分の金8,889,600円をS社に差し入れ、x2契約の存続中、継続して預託する(x2契約書第9条《敷金》第1項)。
F 敷金は、本件滞納法人の設置料の支払及びx2契約による本件滞納法人の営業遂行に関する一切の義務履行の担保として預託されるものである(x2契約書第9条第2項)。
G S社は、x2契約が終了し、本件滞納法人が原状回復その他契約終了に伴う一切の義務を履行し、担保たる事由が消滅したときは、預託中の敷金のうち設置料の1か月分を償却した後、3か月後に本件滞納法人に返還する(x2契約書第9条第3項)。
H x2契約書に定めのない事項については、当事者の協議により定めることを原則とし、協議によれないときは、民法、その他関係法令の定めるところによる(x2契約書第20条《協定外事項》第1項)。
(ハ) 本件滞納法人は、平成24年9月28日、T社との間で、要旨次のとおりの定期店舗区画賃貸借契約(以下「x3契約」といい、x3契約に係る契約書を「x3契約書」という。)を締結した。
A T社は、次の店舗区画を本件滞納法人に賃貸し、本件滞納法人は、これを賃借する(x3契約書第2条《賃貸借契約》)。
(A) 物件名 k駅構内店舗
(B) 所在 a県m市n町○−○(p駅構内地下1階)
(C) 種別 店舗
(D) 構造規模 鉄骨造平家建て
(E) 賃貸面積 13.20平方メートル
(F) 店舗番号 7
B 賃貸借期間は、平成24年10月1日から平成25年3月31日までとする(x3契約書第4条《賃貸借期間》第1項)。
C x3契約は、賃貸借期間の満了により終了し、更新はしない(x3契約書第4条第2項)。
D 賃料は、1か月につき、次の合計額とする(x3契約書第5条《賃料》第1項)。
(A) 基本賃料 金750,000円
(B) 歩合賃料 月間売上金額金5,000,000円を超えた額に15%を乗じた金額
E 本件滞納法人は、敷金として金2,250,000円をT社に預け入れる(x3契約書第7条《敷金》第1項)。
F 本件滞納法人に賃料その他x3契約に基づく債務の不履行があるときは、T社は、何ら催告なしに、敷金をもってこれに充当することができる(x3契約書第7条第2項)。
G 本件滞納法人は、敷金返還請求権を第三者に譲渡し、又は担保に供してはならない(x3契約書第7条第5項)。
H x3契約が終了し、本件滞納法人が上記Aの区画をx3契約の規定に沿って完全に明け渡し、かつ、T社に対する一切の債務を完済した後に、T社は、敷金を本件滞納法人に返還する(x3契約書第7条第6項)。
I 本件滞納法人は、次の行為をしてはならない。ただし、あらかじめ書面により申請し、T社の書面による承諾を得たときは、この限りでない(x3契約書第10条《禁止事項》第1項)。
 名称のいかんを問わず、x3契約による営業の全部若しくは一部を第三者に譲渡し、又は担保に供すること(第2号)
J x3契約書の契約条項に定めのない事項が発生した場合又はx3契約に疑義が生じた場合は、法令・商慣習に基づきその都度双方誠意をもって協議し解決するものとする(x3契約書第31条《協議事項》)。
(ニ) 本件滞納法人は、平成23年3月2日、U社との間で、要旨次のとおりの定期建物賃貸借契約(以下「x4契約」といい、x4契約に係る契約書を「x4契約書」という。また、x1契約、x2契約、x3契約及びx4契約を併せて「本件各契約」という。)を締結した。
A U社は、次の物件を本件滞納法人に賃貸し、本件滞納法人は、これを賃借する(x4契約書第1条《賃貸借物件》第1項)。
(A) 所在地 e県q市r町○−○他
(B) 契約面積 21.46平方メートル
B x4契約の契約の期間は、平成23年4月1日より平成27年3月31日までとする(x4契約書第6条《契約期間》第1項)。
C x4契約は、借地借家法第38条に定める定期建物賃貸借契約であり、契約の更新はなく、契約期間の満了により終了する(x4契約書第6条第2項)。
D 賃料は、次のとおりとする(x4契約書第9条《賃料》第1項)。
(A) 最低保証賃料(月額1,200,000円)
(B) 売上歩合賃料(1坪当たり月額売上1,000,000円を超えた売上額の12%)
E 本件滞納法人は、x4契約又はこれに付随して締結する契約に基づきU社に対して負担する一切の金銭債務の弁済を担保するため、敷金として2,600,000円をU社に預託する(x4契約書第12条《敷金》第1項)。
F x4契約が終了した場合には、本件滞納法人が上記Aの物件をx4契約に従いU社に返還し、x4契約に基づく一切の債務を履行したとU社が認めたときから2か月以内に、敷金からx4契約及びこれに付随して締結する契約に基づく本件滞納法人のU社に対する一切の債務を相殺し、その残額を本件滞納法人に支払う(x4契約書第12条第7項)。
G 本件滞納法人は、敷金返還請求権を第三者に譲渡し、又は担保の用に供してはならない(x4契約書第12条第8項)。
H 本件滞納法人は、次の行為をしてはならない(x4契約書第24条《禁止事項》)。
 賃借権その他x4契約に基づく権利を第三者へ譲渡し、又は担保の用に供すること(第1号)
I 本件滞納法人は、事前にU社の書面による承諾を得なければ、次の行為を行ってはならない(x4契約書第25条《承諾を要する事項》)。
 他の法人との合併、法人の分割、株主構成の重大な変更、代表者の変更等、本件滞納法人の経営主体を実質的に変更すること(第2号)
J x4契約の各条項について疑義を生じたとき、又はx4契約に定めのない事項については、その都度U社及び本件滞納法人が誠意をもって協議解決する(x4契約書第55条《疑義に対する措置》)。
ロ 本件各契約及び敷金について
(イ) 本件各契約のうち、x1契約、x3契約及びx4契約は、いずれも賃貸借契約であり(上記イの(イ)、(ハ)及び(ニ))、また、x2契約も、その契約条項(上記イの(ロ))からすると実質的には賃貸借契約と同様と認められる契約である。
(ロ) 本件各契約に係る各契約書には、いずれも敷金の差し入れに関する条項がある(x1契約書第12条第1項(上記イの(イ)のE)、x2契約書第9条第1項(上記イの(ロ)のE)、x3契約書第7条第1項(上記イの(ハ)のE)及びx4契約書第12条第1項(上記イの(ニ)のE))ところ、本件滞納法人から本件各契約の相手方(R社、S社、T社及びU社。以下「本件各賃貸人」という。)に対して、上記各条項のとおり、敷金が差し入れられていた(以下、S社、T社及びU社(以下「本件差押処分2各賃貸人」という。)に対する各敷金(順に、8,889,600円、2,250,000円及び2,600,000円)を併せて「本件差押処分2各敷金」といい、本件差押処分2各敷金にR社に対する敷金(10,000,000円)を併せて「本件各敷金」という。)。
ハ 請求人について
(イ) 請求人は、平成24年9月○日、本件滞納法人の会社分割(新設分割)により設立された株式会社である。
(ロ) 上記(イ)の新設分割に係る本件滞納法人が作成した平成24年9月10日付の新設分割計画書には、まる1新会社(請求人)の成立の日に、当該新設分割により本件滞納法人から承継する資産、債務その他の権利義務の中に、まるア本件各敷金(合計23,739,600円)及びまるイ本件各契約に係る各契約上の地位(以下「本件各契約上の地位」という。)があること(同計画書第4条《新会社が当社から承継する権利義務に関する事項》第1項及び承継権利義務明細表)、また、まる2新会社(請求人)の設立の登記をすべき日(新会社(請求人)の成立の日)は、平成24年9月○日とすること(同計画書第7条《新会社の成立の日》)が定められていた。
(ハ) 請求人は、上記(ロ)の新設分割の定めに従い、平成24年9月○日、本件滞納法人から、本件各契約上の地位及び本件各敷金に係る次の各敷金返還請求権(以下、S社、T社及びU社に対する各敷金返還請求権を「本件差押処分2各敷金返還請求権」といい、本件差押処分2各敷金返還請求権にR社に対する敷金返還請求権を併せて「本件各敷金返還請求権」という。)を承継した(会社法第764条《株式会社を設立する新設分割の効力の発生等》第1項)。
A 本件滞納法人が、x1契約書第12条第4項に基づき、R社に対して有する敷金返還請求権(上記イの(イ)のF)
B 本件滞納法人が、x2契約書第9条第3項に基づき、S社に対して有する敷金返還請求権(上記イの(ロ)のG)
C 本件滞納法人が、x3契約書第7条第6項に基づき、T社に対して有する敷金返還請求権(上記イの(ハ)のH)
D 本件滞納法人が、x4契約書第12条第7項に基づき、U社に対して有する敷金返還請求権(上記イの(ニ)のF)
ニ 本件各契約上の地位及び本件各敷金返還請求権の承継に係る本件各賃貸人の承諾について
(イ) R社、本件滞納法人及び請求人ほか1社は、平成24年10月30日付の「覚書」と題する文書を作成し、R社は、同日、同年11月1日をもってx1契約に基づく契約上の地位及び権利義務の一切(預託されている上記ハの(ハ)のAの敷金返還請求権等を含む。)を請求人が本件滞納法人から承継することを承諾した。
(ロ) x2契約は、x2契約書第5条第2項の規定(上記イの(ロ)のC)に基づき更新されていたところ、S社は、平成24年11月1日付の「承諾書」と題する文書を作成し、同日付でx2契約に基づく契約上の地位及び上記ハの(ハ)のBの敷金返還請求権を請求人が本件滞納法人から承継することを承諾した。
(ハ) T社、本件滞納法人及び請求人ほか1社は、平成24年11月26日付の「地位承継の覚書」と題する文書を作成し、まる1T社は、x3契約に基づく契約上の地位を請求人が本件滞納法人から承継することを承諾し、まる2当該承諾に伴い、請求人は、x3契約に基づき賃借人として本件滞納法人がT社に対して現在及び将来有する一切の債権・債務を、何ら変更なく、同月1日を承継日として、本件滞納法人から承継するものとし、まる3T社、本件滞納法人及び請求人は、同月26日現在、x3契約に基づき本件滞納法人がT社に預託した敷金の金額が2,250,000円であることを確認した。
(ニ) U社、本件滞納法人及び請求人は、平成24年10月30日付の「契約上の地位の移転に関する覚書」と題する文書を作成し、x4契約における契約上の地位及びこれに基づく権利義務(上記ハの(ハ)のDの敷金返還請求権を含む。)を、同年11月1日付で請求人が本件滞納法人から譲り受け、本件滞納法人は契約関係から離脱することを確認した。
(ホ) なお、上記(イ)ないし(ニ)において作成された各文書には、民法施行法第5条の確定日付は付されていなかった。
ホ 本件各差押処分について
(イ) 原処分庁は、平成24年12月6日付で、上記ハの(ハ)のAのR社に対する敷金返還請求権の差押処分(本件差押処分1)をした(上記2の(1))。
 なお、本件差押処分1は、差押調書において、差押債権として、本件滞納法人が平成19年8月8日に締結(平成24年9月6日付更新)した賃貸借契約に基づきR社に預託した敷金返還請求権であるとしているが(別表の番号1)、平成24年9月6日に締結されたx1契約は更新に係る契約ではないから、差押調書の記載は誤記である。
(ロ) 原処分庁は、平成25年1月11日付で、上記ハの(ハ)のBのS社に対する敷金返還請求権、同CのT社に対する敷金返還請求権、及び同DのU社に対する敷金返還請求権の各差押処分(本件差押処分2)をした(上記2の(2))。
ヘ 本件各契約の終了について
(イ) x1契約は、契約期間(上記イの(イ)のB)の満了により、平成25年1月31日で終了した。
(ロ) x2契約は、x2契約書第5条第2項の規定(上記イの(ロ)のC)に基づき更新されていたところ、S社が、平成24年10月29日付の「契約終了のご通知」と題する文書により、平成25年1月31日でx2契約を終了する旨を本件滞納法人に対して通知し、x2契約の契約上の地位を承継した請求人(上記ハの(ハ))が、平成24年10月31日に同文書を受領したことから、平成25年1月31日で終了した。
(ハ) T社及び請求人は、平成25年5月30日付の「契約終了に関する確認書」と題する文書を作成し、x3契約について、契約期間の満了により平成25年3月31日で終了することを確認し、x3契約は、契約期間(上記イの(ハ)のB)の満了により、同日で終了した。
(ニ) U社及び請求人は、平成25年5月7日付の「定期建物賃貸借契約の解約に関する合意書」と題する文書を作成し、平成25年5月31日をもってx4契約を解約することを合意したことから、x4契約は、同日で終了した。
ト 原処分庁による本件各敷金返還請求権の取立てについて
(イ) R社は、x1契約が終了した(上記ヘの(イ))ことから、平成25年4月30日、敷金の返還として、10,000,000円(敷金として預かった金額の全額)を原処分庁の預金口座に振り込んだ。
 原処分庁は、平成25年4月30日、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第67条《差し押えた債権の取立》第1項の規定に基づき、上記10,000,000円を取り立てた。
(ロ) S社は、x2契約が終了した(上記ヘの(ロ))ことから、平成25年5月31日、敷金の返還として、6,711,760円(敷金として預かった8,889,600円から原状回復費用等の額2,177,840円を控除した残額)を原処分庁の預金口座に振り込んだ。
 原処分庁は、平成25年5月31日、徴収法第67条第1項の規定に基づき、上記6,711,760円を取り立てた。
(ハ) T社は、x3契約が終了した(上記ヘの(ハ))ことから、平成25年7月31日、敷金の返還として、538,635円(敷金として預かった2,250,000円から原状回復費用等の額1,711,365円を控除した残額)を原処分庁の預金口座に振り込んだ。
 原処分庁は、平成25年7月31日、徴収法第67条第1項の規定に基づき、上記538,635円を取り立てた。
(ニ) U社は、x4契約が終了した(上記ヘの(ニ))ことから、平成25年7月31日、敷金の返還として、1,786,196円(敷金として預かった2,600,000円からx4契約により生じた諸経費等の額813,804円を控除した残額)を原処分庁の預金口座に振り込んだ。
 原処分庁は、平成25年7月31日、徴収法第67条第1項の規定に基づき、上記1,786,196円を取り立てた。

(2) 法令解釈

イ 請求の利益
 審査請求によって行政処分の取消しを求めるには、その処分を取り消すことによって回復される法律上の利益が存在していることが必要である(行政事件訴訟法第9条《原告適格》参照)から、処分の法的効果が消滅し、処分の取消しによって回復すべき法的利益が存在しなくなったときは、当該処分の取消しを求める請求の利益は消滅する。
 したがって、審査請求によって行政処分の取消しを求めるには、処分の効力が現に存在していることが必要である。
ロ 敷金の被担保債権の範囲及び敷金返還請求権の発生時期
 敷金とは、停止条件付返還債務を伴う金銭所有権の移転であり、賃料債権のみならず、目的物返還までに生じた賃料相当損害金債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することとなる一切の債権を担保するものであり、敷金返還請求権は、賃貸借終了後賃借人が目的物を返還した時に、上記の被担保債権を控除した残額があることを条件として、その残額について発生するものと解される。
 この点、最高裁判所は、家屋賃貸借の事例において、「家屋賃貸借における敷金は、賃貸借存続中の賃料債権のみならず、賃貸借終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当損害金の債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することのあるべき一切の債権を担保し、賃貸借終了後、家屋明渡がなされた時において、それまでに生じた右の一切の被担保債権を控除しなお残額があることを条件として、その残額につき敷金返還請求権が発生するものと解すべきであ」ると判示しており(最高裁昭和48年2月2日第二小法廷判決・民集27巻1号80頁参照)、当審判所も同じ立場に立つものである。
ハ 賃借人の変動と敷金返還請求権の承継の有無
 また、敷金契約は、賃貸借契約そのものではなく、その従たる契約であり、賃借人以外の第三者が敷金を差し入れることもできるし、敷金返還請求権のみを独立して差し押さえることもできるものと解され、そして、賃借人の変動があった場合、敷金交付者が、賃貸人との間で敷金をもって新賃借人の債務不履行の担保とすることを約し、又は新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り、敷金関係が敷金交付者から新賃借人に承継されるものではないと解される。
 この点、最高裁判所は、土地賃貸借の事例において、「土地賃貸借における敷金契約は、賃借人又は第三者が賃貸人に交付した敷金をもって、賃料債務、賃貸借終了後土地明渡義務履行までに生ずる賃料額相当の損害金債務、その他賃貸借契約により賃借人が賃貸人に対して負担することとなる一切の債務を担保することを目的とするものであって、賃貸借に従たる契約ではあるが、賃貸借とは別個の契約である。そして、賃借権が旧賃借人から新賃借人に移転され賃貸人がこれを承諾したことにより旧賃借人が賃貸借関係から離脱した場合においては、敷金交付者が、賃貸人との間で敷金をもって新賃借人の債務不履行の担保とすることを約し、又は新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り、右敷金をもって将来新賃借人が新たに負担することとなる債務についてまでこれを担保しなければならないものと解することは、敷金交付者にその予期に反して不利益を被らせる結果となって相当でなく、敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は新賃借人に承継されるものではないと解すべきである。」と判示しており(最高裁昭和53年12月22日第二小法廷判決・民集32巻9号1768頁参照)、当審判所も同じ立場に立つものである。

(3) 本審査請求の適法性について

イ 本件各契約上の地位及び本件各敷金返還請求権の承継について
(イ) 請求人は、平成24年9月○日、新設分割により、本件滞納法人から本件各契約上の地位を承継している(上記(1)のハの(ハ))ところ、これに、まる1本件各契約に係る各契約条項において、事前に承諾を得ることなく賃借権等を譲渡すること等を禁止する旨、また、契約書に定めがない事項や契約条項に疑義が生じた場合については当事者が協議する旨が定められていること(上記(1)のイの(イ)のH及びJ、同(ロ)のH、同(ハ)のI及びJ、並びに同(ニ)のHないしJ)、まる2本件各賃貸人がいずれも、同年11月1日をもって請求人が本件滞納法人から本件契約上の地位を承継することを承諾していること(上記(1)のニの(イ)ないし(ニ))、まる3上記まる2の承諾は確定日付のある証書をもってされたものではないこと(上記(1)のニの(ホ))といった事実関係を総合すると、本件各契約に係る各賃借人の地位は、本件滞納法人、請求人及び本件各賃貸人の三者間の関係では、本件各差押処分の前に本件滞納法人から請求人へ移転していたものと認められる。
(ロ) また、請求人は、平成24年9月○日、新設分割により、本件滞納法人から本件各敷金を承継している(上記(1)のハの(ハ))ところ、これに、まる1本件各契約に係る各契約条項において、敷金返還請求権を譲渡することを禁止する旨、また、契約書に定めがない事項や契約条項に疑義が生じた場合については当事者が協議する旨が定められていること(上記(1)のイの(イ)のG及びJ、同(ロ)のH、同(ハ)のG及びJ、並びに同(ニ)のG及びJ)、まる2本件各賃貸人がいずれも、同年11月1日をもって請求人が本件滞納法人から本件各敷金返還請求権を承継することを承諾していること(上記(1)のニの(イ)ないし(ニ))、まる3上記まる2の承諾は確定日付のある証書をもってされたものではないこと(上記(1)のニの(ホ))といった事実関係を総合すると、本件各敷金返還請求権は、本件滞納法人、請求人及び本件各賃貸人の三者間の関係では、本件各差押処分の前に本件滞納法人から請求人へ移転していたものと認められる(なお、本件滞納法人が自ら作成した新設分割計画書に請求人が本件滞納法人から承継する資産として本件各敷金を掲げていること(上記(1)のハの(ロ))からすると、敷金交付者である本件滞納法人から新賃借人である請求人に敷金関係を承継させたとしても、本件滞納法人がその予期に反して不利益を被ることはないから、本件においては、上記(2)のハの敷金関係の承継を認めることのできる特段の事情があると認められる。)。
(ハ) ところで、敷金返還請求権は、賃貸借終了後賃借人が目的物を返還した時に、それまでに生じた一切の被担保債権(賃料債権のみならず、目的物返還までに生じた賃料相当損害金債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することとなる一切の債権)を控除しなお残額があることを条件として、その残額につき発生するものと解される(上記(2)のロ)から、上記(ロ)のとおり敷金関係が本件滞納法人から請求人へ承継された本件においては、本件各敷金返還請求権は、新賃借人である請求人が本件各賃貸人に対して各目的物を明け渡した時に、被担保債権を控除しなお残額があることを条件として、その残額につき発生するものである。
ロ 本件差押処分1について
 本件差押処分1について、原処分庁は、上記(1)のトの(イ)のとおり、敷金の全額を取り立てたことから、本件差押処分1は、その目的を完了して既にその効力が消滅している。
ハ 本件差押処分2について
 本件差押処分2について、原処分庁は、上記(1)のトの(ロ)ないし(ニ)のとおり、本件差押処分2各敷金のうち、本件差押処分2各賃貸人がそれぞれ原状回復費用等又は諸経費等を控除した残額をそれぞれ取り立てた。
 本件差押処分2各敷金返還請求権は、本件滞納法人、請求人及び本件差押処分2各賃貸人の三者間の関係では、本件差押処分2の前に本件滞納法人から請求人へ移転していた(上記イの(ロ))ことからすると、原処分庁が差し押さえたのは、請求人が本件差押処分2各賃貸人に対して各目的物を明け渡した時に、賃料債権のみならず、目的物返還までに生じた賃料相当損害金債権その他賃貸借契約により本件差押処分2各賃貸人が請求人に対して取得することとなる一切の債権を控除しなお残額があることという条件(上記イの(ハ))で発生する本件差押処分2各敷金返還請求権である。
 以上のことからすると、原処分庁の行った上記(1)のトの(ロ)ないし(ニ)の各取立ては、本件差押処分2各敷金の全額の取立てであるから、本件差押処分2は、その目的を完了して既にその効力が消滅している。
ニ 結論
 以上のとおりであるから、本件各差押処分の取消しを求める本審査請求は、本件各敷金返還請求権の帰属について判断するまでもなく、いずれも請求の利益を欠く不適法なものである。

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