(平成26年6月3日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、○○業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、d県から建物補償金などの名義で取得した金員について租税特別措置法(以下「措置法」という。)第65条の2《収用換地等の場合の所得の特別控除》第1項の規定による所得の特別控除の特例(以下「本件特例」という。)を適用して申告したところ、原処分庁が、当該補償金の一部について本件特例を適用することはできないとして法人税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、本件特例の特別控除額の認定に誤りがあるなどとして原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成22年4月1日から平成23年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、別表1の「修正申告等」欄のとおり、本件事業年度の法人税の修正申告書を平成25年1月31日に提出した。
ハ G税務署長は、これに対し、平成25年6月25日付で、別表1の「修正申告等」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分をするとともに、上記ロの調査に基づき、同日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成25年7月16日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

 関係法令等の要旨は、別紙1のとおりである。
 なお、以下、租税特別措置法施行令を「措置法施行令」と、租税特別措置法施行規則を「措置法施行規則」と、租税特別措置法関係通達を「措置法通達」と、国税通則法を「通則法」と、「法人税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(平成12年7月3日付課法2−9ほか3課共同、国税庁長官通達)を「本件事務運営指針」と、それぞれいう。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、Hが所有するe市f町○−○所在の土地2,476平方メートルを同人から賃借し、請求人のe店(以下「本件店舗」という。)の敷地の一部として使用していた。
ロ Hは、土地収用法第3条《土地を収用し、又は使用することができる事業》に規定する事業である「○○改良工事」(以下「本件事業」という。)に伴い、起業者であるd県(以下「本件起業者」という。)によって、上記イの土地から分筆されたe市f町○−○所在の土地222.19平方メートル(以下「本件土地」という。)を買い取られた。
 なお、本件店舗において請求人が所有する建物及び構築物(以下「本件建物等」という。)と本件土地との位置関係は、別紙2のとおりである。
ハ 請求人は、本件事業に伴い、本件起業者との間で、平成22年8月26日付で「物件移転補償契約書」と題する書面を取り交わし、本件土地の上に存する物件を移転する旨の契約(以下「本件移転契約」という。)を締結し、本件移転契約に基づき次表のとおり合計72,980,700円の補償金(以下「本件補償金」という。)を取得した。

年月日 金額
平成22年○月○日 51,086,000円
平成23年○月○日 21,894,700円
合計 72,980,700円

ニ 本件起業者が請求人に交付した平成22年○月○日付の「収用証明書」によれば、本件補償金の内訳は次表のとおりである(以下、次表の50,464,300円を「本件建物補償金」といい、12,924,600円を「本件工作物補償金」という。)。

種類 金額
建物 50,464,300円
工作物 12,924,600円
営業補償 7,547,600円
移転雑費 2,044,200円
合計 72,980,700円

ホ 本件起業者が請求人に交付した「公共事業用資産の買取り等の証明書」(以下「本件買取り等証明書」という。)によれば、要旨次表のとおりの記載がある。

資産の種類 買取り等の区分 買取り等の年月日 買取り等の価額
建物 買取 H22.○.○ 50,464,300円
工作物 (空欄) (空欄) 12,924,600円

 また、本件買取り等証明書の「摘要」欄には、要旨次表のとおりの記載がある。

移転雑費 2,044,200円
営業補償 7,547,600円

ヘ 請求人は、本件事業年度の法人税の所得金額の計算において、本件補償金を益金の額に算入するとともに、本件補償金のうち63,388,900円(本件建物補償金と本件工作物補償金の合計額)について本件特例の適用があるとして、別表1の付表の「確定申告」欄のとおり算出した特別控除額50,000,000円を損金の額に算入した。
ト 請求人は、本件事業年度の法人税の修正申告において、本件補償金のうち本件建物補償金については本件特例の適用があるが、本件工作物補償金については本件特例の適用がないとして、別表1の付表の「修正申告」欄のとおり算出した特別控除額39,358,367円を損金の額に算入した。
チ 原処分庁は、本件建物補償金のうち立体駐車場の取得に要する費用としての補償金45,290,300円(以下「本件立体駐車場補償金」という。)を除く5,174,000円についてのみ本件特例の適用があるとして、別表1の付表の「更正処分」欄のとおり算出した4,719,467円を特別控除額とする本件更正処分をした。
リ F国税局は、自動車保管場所の補償として支払われる立体駐車場補償金の課税関係について要旨別紙3のとおりの照会を受け、○○名にて平成23年10月12日付で要旨別紙4のとおり文書回答をし(以下、当該照会及び文書回答を「本件文書回答」という。)、本件文書回答を同国税局のホームページの「事前照会に対する文書回答事例」に「自動車保管場所の補償として支払われる立体駐車場補償金の課税関係について」と題して掲載した。

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2 争点

(1) 争点1 本件建物補償金の全額が、本件特例の対象となる補償金に該当するか否か。
(2) 争点2 請求人が本件建物補償金の全額を本件特例の対象としたことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。

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3 主張

(1) 争点1(本件建物補償金の全額が、本件特例の対象となる補償金に該当するか否か)について

原処分庁 請求人
 本件建物補償金が本件特例の対象となる補償金に該当するか否かは、本件買取り等証明書の記載事項のみに基づいて判断するのではなく、具体的な事実を関係法令等に当てはめて判断するところ、本件建物補償金のうち請求人が所有する建物の取壊しを行った部分に対応する金額は、措置法通達64(2)−8の定めにより本件特例の対象となる補償金に該当するが、本件立体駐車場補償金については、取壊しの対象となる建物が存在しないことから、措置法第64条に規定する「法人の有する資産」の要件を満たしていない。
 したがって、本件建物補償金のうち本件立体駐車場補償金は、本件特例の対象となる補償金に該当しない。
 なお、本件特例の特別控除額の計算は、別表2の「原処分庁主張額」欄のとおりである。
 本件建物補償金が本件特例の対象となる補償金に該当するか否かは、措置法通達64(2)−3の定めにより本件起業者の判断が尊重されるところ、本件土地の上に立体駐車場が存在しないとしても、本件買取り等証明書によれば、上記1の(4)のホのとおり、本件起業者は、本件建物補償金を建物買取りの対価であると判断していることは明らかであり、また、本件建物補償金の算定根拠となった店舗の庇部分を取り壊していることからすると、本件建物補償金は措置法通達64(2)−8の定めに該当又は類似する補償金である。
 したがって、本件建物補償金の全額が本件特例の対象となる補償金に該当する。
 なお、本件特例の特別控除額の計算は、別表2の「請求人主張額」欄のとおりである。

(2) 争点2(請求人が本件建物補償金の全額を本件特例の対象としたことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か)について

請求人 原処分庁
 本件立体駐車場補償金と同様の補償金について、本件文書回答がなされる前は、公共事業施行者が発行する公共事業用資産の買取り等の証明書の記載を尊重し本件特例の対象となる補償金として取り扱われていたと推測されるところ、本件買取り等証明書には「買取」との記載があったことから、請求人は、本件立体駐車場補償金は本件特例の対象となる補償金に該当すると解釈したものであり、また、本件立体駐車場補償金の税務上の取扱いは、原処分庁所属の調査担当職員が事実の確認から最終結論に至るまで約7か月を要するほど難解であることを併せ考慮すれば、請求人の本件事業年度の法人税の確定申告書提出後、本件文書回答により法令解釈が明確化されたため、その法令解釈と請求人の解釈とが異なることとなったことについて、当該請求人の解釈について相当の理由があると認められる。
 したがって、本件事務運営指針第1の1の(1)の定めに該当し、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある。
 本件文書回答は、納税者サービスの一環として事前照会に対する回答を文書で行うとともにその内容を公表することにより、同様の取引等を行う他の納税者の予測可能性を高めることを目的として実施したものであり、新たな法令解釈を公表したものではないことから、本件事務運営指針第1の1の(1)の定めに該当せず、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。

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4 判断

(1) 争点1(本件建物補償金の全額が、本件特例の対象となる補償金に該当するか否か)について
イ 法令解釈等
(イ) 本件特例は、資産が土地収用法等の規定によって強制的に収用された場合又は強制権(収用権)を背景として任意契約により買い取られた場合において、その収用等に伴って取得した補償金又は対価に適用される。
 そして、本件特例を規定する措置法第65条の2第1項の括弧書により本件特例が適用されることとなる同法第64条第2項第2号は、別紙1の1の(2)のとおり規定しているところ、この規定は、同号の規定に該当する場合にあっては、収用等をされる土地の上にある資産の取壊し又は除去が、土地の収用等と同じ性格のものであり、収用等に準じて課税の特例を認めることが相当であるとの趣旨から、資産の取壊し又は除去であっても、同号に規定する土地の上にある資産について収用等による譲渡があったものとみなし、土地の収用等の場合と同様の課税の特例を認めることとしているものと解される。
(ロ) このように、本件特例の趣旨を考慮すれば、措置法第64条第2項第2号に規定する「その土地の上にある資産」とは、正に、収用されることとなる土地自体の上にある資産を、あるいは土地の上に存する権利が収用されることとなる場合にはその権利の存する土地自体の上にある資産をいうものと解するのが相当であり、このことは文理上も明らかである。
(ハ) ところで、土地が収用等をされた場合、その上にある建物等に対して交付される補償金には、その取壊し又は除去により生ずる損失の補償として交付されるものと、その移転に要する費用の補償として交付されるものとがあるが、建物等の取壊しによる損失補償金は、措置法第64条第2項第2号の規定により本件特例の対象となる補償金とみなされるのに対し、建物等の移転補償金については、このような特別の規定がない上、同条第3項が、本件特例の対象となる補償金の額は、名義がいずれであるかを問わず、資産の収用等の対価たる金額をいうものとし、収用等に際して交付を受ける移転料その他当該資産の収用等の対価たる金額以外の金額を含まないものとする旨規定しているため、本件特例の適用の対象になる余地がないようにも考えられる。
(ニ) しかしながら、建物等を移転させることは事実上困難な場合が多く、現実に建物等を取り壊した場合に本件特例の適用を認めないとすれば、実情に即さないところがあるため、公共事業施行者の補償の仕方いかんにより課税上の差異が生じることのないよう措置法第64条第2項第2号の規定との課税の公平を図る趣旨から措置法通達64(2)−8が定められているものと考えられる。すなわち、同通達は、土地等の収用等に伴い、その土地の上に存する建物又は構築物について移転補償金が支払われた場合でも、法人が実際に当該建物又は構築物を取り壊した場合には、当該補償金を本件特例の対象として取り扱うこととしたものであり、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
(ホ) したがって、措置法通達64(2)−8が定められた趣旨からすると、同通達に定める「当該土地等の上にある建物又は構築物」は、措置法第64条第2項第2号に規定する「その土地の上にある資産」と同様、収用されることとなる土地自体の上にある物件を、あるいは土地の上に存する権利が収用されることとなる場合にはその権利の存する土地自体の上にある物件をいうものと解するのが相当である。
(ヘ) なお、措置法第65条の2第4項の規定は、同法第1項に規定する要件を充足していても、措置法施行規則第22条の3第3項各号に規定する書類が確定申告書に添付されていなければ本件特例を適用することができない旨規定したものであって、当該書類の添付さえあれば、他の要件を欠く場合であっても本件特例が適用されることまでを規定したものではないと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件起業者との間で本件移転契約に係る交渉を担当した請求人の専務取締役Jは、原処分庁所属の調査担当職員に対して、本件起業者から交付を受けた本件建物補償金の算定資料である「建物移転料算定」と題する書面を提示した上、要旨次のとおり申述しているところ、当該申述の内容が事実と異なることをうかがわせる証拠はない。
A 本件土地の上に店舗の庇部分、看板、展示場及び駐車場等が存しているため、これらを移転又は撤去する必要があることから、本件移転契約を締結した。
B 「建物移転料算定」に記載された立体駐車場は、本件移転契約の前には存せず、また、本件移転契約の後も、本件起業者から立体駐車場を設置するか否かは請求人の任意である旨説明を受けていたところ、本件店舗の敷地の後方に駐車場を確保できたので、新たに設置していない。
(ロ) 上記(イ)の「建物移転料算定」と題する書面によれば、本件建物補償金の内訳は次表のとおりであり、同表の順号1は、本件土地の上に存する店舗の庇部分の撤去に伴う損失及び費用の補償として、順号2は、本件起業者が本件土地を買い取ることによって減少する展示場及び駐車場の代替として本件土地の外にある車庫付近に立体駐車場を設置する費用の補償として、また、順号3は、当該立体駐車場を設置する際に支障となる車庫の移転に要する費用の補償として、それぞれ算定したものと認められる。

順号 名称 移転工法 金額
1 除却及び面補修 2,675,959円
2 立体駐車場 構内照応 45,290,282円
3 車庫 構内再築 2,498,059円
合計 50,464,300円

(ハ) また、本件起業者が作成した本件工作物補償金の算定資料である「工作物移転料算定表」及び「工作物調査表」と題する書面によれば、本件工作物補償金の内訳は次表のとおりであり、同表の順号1は本件土地の上に存する展示場及び駐車場の舗装路面等の撤去に伴う損失及び費用の補償として、順号2は本件土地の上に存する看板(含む広告塔)の移転に要する費用の補償として、また、順号3は、上記(ロ)の順号3と同様、本件土地の外に立体駐車場を設置する際に支障となる部分の移転に要する費用の補償として、それぞれ算定したものと認められる。

順号 名称 金額
1 展示場、駐車場の舗装路面等 2,262,692円
2 看板(含む広告塔) 8,497,271円
3 起業地外支障部分 2,164,637円
合計 12,924,600円

(ニ) 請求人が作成したりん議書、工事施行業者から交付を受けた見積書及び請求書並びに本件起業者が作成した本件移転契約の履行状況の確認資料によれば、本件移転契約の履行に当たり、請求人が支出した工事金額の内訳は別表3のとおりと認められ、そして、別表3の順号1の工事により本件土地の上に存する店舗の庇部分が撤去されたこと及び同順号7の工事により展示場及び駐車場のうち本件土地の上に存する部分の舗装路面等が撤去されたことが推認され、また、本件土地の上に存する看板(含む広告塔)については、同順号14の工事により、これを取り壊すことなく本件店舗の敷地上の本件土地以外の部分に移設されたことが認められる。
ハ 当てはめ
(イ) 上記ロの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件建物補償金のうち上記ロの(ロ)の表の順号1の金額及び本件工作物補償金のうち上記ロの(ハ)の表の順号1の金額は、いずれも本件土地の上にある資産に係る移転等の費用に充てるために交付されたものと認められるから、当該各金額は、措置法通達64(2)−8に定める「土地等の収用等に伴い、起業者から当該土地の上にある建物又は構築物をひき(曳)家又は移築するために要する費用として交付を受ける補償金」と認められる。
 一方、上記ロの(ロ)の表の順号2の金額は、本件起業者が本件土地を買い取ることによって減少する展示場及び駐車場の代替設備の設置に要する費用の補償であり、本件土地の上に存する資産の収用等の補償金ではなく、また、同順号3及び上記ロの(ハ)の表の順号3の各金額は、当該代替設備の設置に伴う本件土地の上に存しない建物等の移転に要する費用の補償であり、いずれも本件事業の対象となった本件土地の上に存する資産に係るものではないから、本件特例の対象となり得ないことは明らかである。
(ロ) そして、上記ロの(ニ)のとおり、上記ロの(ロ)の表の順号1の「庇」及び上記ロの(ハ)の表の順号1の「展示場、駐車場の舗装路面等」の各部分はいずれも取り壊していることが認められるから、当該各順号の金額は、措置法通達64(2)−8に定める対価補償金として取り扱うのが相当であるが、上記ロの(ハ)の順号2の「看板(含む広告塔)」については、取壊しをせずに移転していることが認められるから、当該資産に係る補償金を対価補償金として取り扱うことはできない。
(ハ) 以上のとおり、本件建物補償金のうち本件特例の対象となる補償金の額は上記ロの(ロ)の表の順号1の2,675,959円となるから、本件建物補償金の全額が本件特例の対象となる補償金に該当するとは認められず、また、本件工作物補償金についても上記ロの(ハ)の表の順号1の2,262,692円だけが本件特例の対象となる補償金の額となる。そうすると、本件特例の対象となる補償金の額は、上記補償金の合計金額の4,938,651円となる。
ニ 本件特例の特別控除額の計算
 本件特例の対象となる補償金の額は、上記ハの(ハ)のとおり4,938,651円であり、また、本件特例の特別控除額の計算における譲渡に要した経費の額は、請求人の本件土地の上にある店舗の庇部分、展示場及び駐車場の舗装路面等の各取壊しに要した別表3の順号1及び7の各金額の合計594,707円であり、この経費に充てるために交付を受けた補償金は、別表4のFのとおり159,264円とするのが相当である。
 そうすると、本件特例の特別控除額は、別表4のJのとおり4,503,208円となる。
ホ 請求人の主張について
 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、本件買取り等証明書において本件起業者が本件建物補償金を建物買取りの対価であると判断していることが明らかであるから、本件建物補償金の全額が本件特例の対象となる補償金に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件建物補償金の全額が措置法通達64(2)−8の定めに該当するものではないことは上記ハのとおりであり、また、本件特例は、公共事業施行者が発行する証明書等の添付がある場合に限り適用されるが、これは、上記イの(ヘ)のとおり、他の要件を充足していることを前提として、なお本件特例の適用のためには、証明書等の添付が必要としているのであって、証明書等に記載されたことをもって本件特例の要件を満たすことにはならず、まして、公共事業施行者のした判断が最終的なものとして税務署長を法的に拘束すると解することもできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
 なお、措置法通達64(2)−3は、交付の目的が明らかでない補償金について、対価補償金、収益補償金、経費補償金、移転補償金又はその他対価補償金たる実質を有しない補償金のいずれに該当するかの判定が困難な場合に、課税上弊害がない限り、起業者が証明するところによる旨定めているのであって、上記ロの(ロ)のとおり、本件建物補償金については、その算定の内訳等が明らかであり、いずれの補償金に該当するかが判断できるから、請求人の主張は採用することができない。

(2) 争点2(請求人が本件建物補償金の全額を本件特例の対象としたことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か)について

イ 法令解釈等
(イ) 通則法第65条に規定する過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
 この趣旨に照らせば、過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として、同条第4項に規定する「正当な理由」があると認められる場合とは、例えば、税法の解釈に関し申告当時公表されていた見解がその後改変されたこと等により、申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により納税者の故意又は過失に基づかずして過少申告となった場合のように、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
(ロ) そして、本件事務運営指針第1の1の定めは、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められる事実を例示しているところ、当該定めは上記(イ)の法令の趣旨に沿ったものと認められるから、当審判所においても相当と認められる。
ロ 当てはめ
 本件文書回答は、国税庁長官が定めた平成14年6月28日付「事前照会に対する文書回答の事務処理手続等について(事務運営指針)」に基づき行われたものであるところ、当該事務運営指針によれば、取引等に係る税務上の取扱い等が、法令、法令解釈通達あるいは過去に公表された質疑事例等において明らかになっているものについては事前照会をすることができないこととされており(当該事務運営指針1の(7))、本件文書回答は、当該要件に抵触していないものと認められる。
 そして、本件文書回答の内容によれば、照会者は、収用等に伴い自動車保管場所を確保する必要が生じた場合にそのための補償として立体駐車場を設置する費用相当額の補償金を受け、これをもって立体駐車場を設置した場合の税務上の課税の特例の適用について疑義が生じたため、自らの見解を添えて照会するに至ったことが認められるところ、当該照会における照会者の見解及びこれに対するF国税局の回答は法人税法及び措置法等の規定に即したものであり、本件文書回答の前後において法令等の改正もなく、課税庁において、本件文書回答によって従前の取扱いを変更したなどの事実は認められない。
 そうすると、本件建物補償金の全額が本件特例の対象となると判断したことは、請求人の法令解釈の誤り又は法令の適用誤りというべきであるから、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
ハ 請求人の主張について
 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、請求人が本件買取り等証明書の記載から本件建物補償金の全額を本件特例の対象としたことについて、本件文書回答がなされる前は公共事業施行者が発行する公共事業用資産の買取り等の証明書の記載を尊重して本件特例の適用が認められていたと推測され、また、本件立体駐車場補償金の税務上の取扱いが難解であることなどを理由として、その請求人の解釈に相当の理由があるから、本件事務運営指針第1の1の(1)の定めに該当し、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある旨主張する。
 しかしながら、上記ロのとおり、本件文書回答の公表前において、本件立体駐車場補償金と同様の補償金が本件特例の対象となる補償金に該当する旨の見解が原処分庁により示されていた事実は認められず、そして、本件文書回答の前後において、本件特例の対象となる補償金に該当するか否かの解釈には何ら変更が認められないことからすれば、本件文書回答の公表は、上記イの(イ)の「税法の解釈に関し申告当時公表されていた見解がその後改変されたこと」には当たらないというべきであるから、本件において、申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により請求人の故意又は過失に基づかずして過少申告となった場合に当たらない。
 また、本件事務運営指針第1の1の(1)の注書のとおり、単なる税法の誤解や事実誤認は通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」に該当しないとされているところ、上記(1)のロの(イ)のとおり、請求人は、本件建物補償金の算定の内訳を了知していたものと認められ、本件建物補償金の全額が本件特例の対象となる補償金に該当すると請求人が判断したことは税法の誤解又は適用誤りに基づくものというべきであり、他に真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情を認めるに足りる証拠もないから、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるものとまではいうことはできない。
 したがって、請求人の主張は理由がない。

(3) 本件更正処分について

 上記(1)のニに基づき、本件事業年度の法人税の所得金額及び納付すべき税額を算出すると、別表5の「審判所認定額」欄のとおりとなり、これらの金額は、本件更正処分の各金額を上回るから、本件更正処分は適法である。

(4) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は上記(3)のとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、上記(2)のロのとおり、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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