(平成26年5月8日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、課税標準額に対する消費税額から控除する課税仕入れに係る消費税額の計算に当たり、課税売上割合は100分の95以上であるとして消費税及び地方消費税の確定申告をしたところ、原処分庁が、在日米軍基地内の営業店舗における販売の対価の額は、国内において行った課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等の対価の額に該当するとして課税売上割合を再計算するなどして、消費税及び地方消費税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該販売の対価の額は、国内において行った資産の譲渡等の対価の額には該当しないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成22年5月1日から平成23年4月30日まで及び平成23年5月1日から平成24年4月30日までの各課税期間(以下、順次「平成23年4月課税期間」及び「平成24年4月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成24年12月27日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、上記ロの処分を不服として、平成25年2月13日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月7日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり、平成23年4月課税期間の消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分についてその一部を取り消し、平成24年4月課税期間の消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分について棄却の異議決定をした(以下、当該異議決定後の本件各課税期間の消費税等の各更正処分を併せて「本件各更正処分」といい、当該異議決定後の本件各課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」という。)。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成25年6月7日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 消費税法第2条《定義》第1項第1号は、国内とはこの法律の施行地をいう旨、同項第8号は、資産の譲渡等とは事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨、同項第9号は、課税資産の譲渡等とは資産の譲渡等のうち、同法第6条《非課税》第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう旨、それぞれ規定している。
ロ 消費税法第4条《課税の対象》第1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する旨規定している。
ハ 消費税法第6条第1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、同法別表第一に掲げるものには、消費税を課さない旨規定している。
ニ 消費税法第30条(平成23年法律第82号による改正前のもの。以下同じ。)《仕入れに係る消費税額の控除》第1項は、事業者が国内において課税仕入れを行った場合、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の同法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》第1項第2号に掲げる課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定している(以下、課税標準額に対する消費税額から控除する課税仕入れに係る消費税額を「控除対象仕入税額」といい、当該控除を「仕入税額控除」という。)。
ホ 消費税法第30条第2項は、同条第1項に規定する課税期間における課税売上割合が100分の95に満たないときは、控除対象仕入税額は、同項の規定にかかわらず、同条第2項各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める方法により計算した金額とする旨規定し、このうち、同項第2号においては、同項第1号に掲げる場合以外の場合を掲げ、その場合の控除対象仕入税額は、当該課税期間における課税仕入れに係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算する方法を定めている。
ヘ 消費税法第30条第6項は、同条第2項に規定する課税売上割合とは、当該事業者が当該課税期間中に国内において行った資産の譲渡等の対価の額の合計額のうちに当該事業者が当該課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等(以下「課税取引」という。)の対価の額の合計額の占める割合として所定の方法により計算した割合をいう旨規定している。
ト 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(以下「日米地位協定」という。)第15条第1項(a)は、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)の軍当局が公認し、かつ、規制する海軍販売所、ピー・エックス、食堂、社交クラブ、劇場、新聞その他の歳出外資金による諸機関は、米国軍隊(以下「米軍」という。)の構成員及び軍属並びにそれらの家族(以下「米軍人等」という。)の利用に供するため、米軍が使用している施設及び区域内に設置することができ、これらの諸機関は、この協定に別段の定めがある場合を除くほか、日本の規制、免許、手数料、租税又は類似の管理に服さない旨規定している。
 また、日米地位協定第15条第2項は、これらの諸機関による商品及び役務の販売には、所定の場合を除くほか、日本の租税を課さず、これらの諸機関による商品及び需品の日本国内における購入には、日本の租税を課する旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成20年5月○日に設立された法人で、その本店所在地については、設立時は肩書地であったが、その後、平成21年3月1日にa市b町○−○に移動し、さらに、平成25年4月30日に肩書地に移動した。
ロ 請求人は、設立以後、肩書地所在の店舗において家具、雑貨類を販売するとともに、Eとの間で締結した契約に基づき、本件各課税期間中に、米軍のF基地、G基地及びH基地(以下、F基地、G基地及びH基地を併せて「本件米軍基地」という。)内の営業店舗において米軍人等に対して家具、雑貨類を販売(以下「本件米軍基地内取引」という。)した。
 なお、本件米軍基地内取引が日米地位協定第15条第2項に規定する「これらの諸機関による商品及び役務の販売」に該当することについては、請求人と原処分庁との間に争いはない。
ハ 本件米軍基地内取引の対価の額は、@平成23年4月課税期間は○○○○円、A平成24年4月課税期間は○○○○円であった。
ニ 請求人は、本件各課税期間の消費税等の確定申告における課税売上割合について、平成23年4月課税期間は、上記ハの@の金額をいわゆる免税売上額であるとして国内において行った資産の譲渡等の対価の額(課税売上割合の計算における分母)及び課税取引の対価の額(当該計算における分子)の双方に含めて計算する一方で、平成24年4月課税期間は、同ハのAの金額を国内において行った資産の譲渡等の対価の額(分母)及び課税取引の対価の額(分子)のいずれにも含めずに計算して、別表2の「確定申告」欄のとおり、本件各課税期間の課税売上割合はいずれも100分の95以上であるとして控除対象仕入税額を計算した。
ホ 原処分庁は、本件米軍基地内取引は国内において行った課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等(以下「非課税取引」という。)であるとして、本件各課税期間の課税売上割合について、本件米軍基地内取引の対価の額を国内において行った資産の譲渡等の対価の額(分母)にのみ含めて計算し、別表2の「更正処分」欄のとおりとなるなどとし、別表3の「更正処分額」欄のとおり控除対象仕入税額及び納付すべき消費税等の額を計算して、本件各課税期間の消費税等の各更正処分をした。
ヘ 異議審理庁は、上記ホの消費税等の各更正処分について、本件各課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に誤りがあり納付すべき消費税等の額を再計算すると別表3の「異議審理庁認定額」欄のとおりとなり、これらの金額は、平成23年4月課税期間については更正処分の額を下回るから更正処分の一部を取り消すべきであり、また、平成24年4月課税期間については更正処分の額を上回るから更正処分は適法であるとして、上記(2)のハのとおり異議決定をした。
 なお、異議審理庁は、納付すべき消費税等の額の再計算に当たり、上記ホにおいて原処分庁が認定した課税売上割合により、別表3の「異議審理庁認定額」の「控除対象仕入税額」欄の金額を計算した。

(5) 争点

 課税売上割合の計算に当たって、本件米軍基地内取引の対価の額をどのように取り扱うべきか。

2 主張

(1) 原処分庁

 本件米軍基地内取引の対価の額は、次の理由から、課税売上割合の計算上、分母にのみ算入される。
イ 本件米軍基地内取引は、日本国内において事業者たる請求人が対価を得て行う資産の譲渡であるから、国内において行った資産の譲渡等に該当する。
ロ 日米地位協定第15条第2項は、米軍の基地内の営業店舗において、日本人経営者が米軍人等に対して行う資産の譲渡等についても適用されるものと解されるところ、同項に規定する「日本の租税を課さず」とは、「非課税」を意味するものと解されている。したがって、本件米軍基地内取引は、日米地位協定第15条第2項の規定により、非課税取引となる。
ハ なお、本件米軍基地内取引については、消費税法第2条第1項第9号に規定する同法第6条第1項の規定により消費税を課さないこととされるものには該当しないものの、国内法である消費税法に優先する日米地位協定第15条第2項の規定により、非課税取引となる。

(2) 請求人

 本件米軍基地内取引の対価の額は、次の理由から、課税売上割合の計算上、分母及び分子のいずれにも算入されない。
イ 日米地位協定第15条第1項(a)が規定する「これらの諸機関は、(中略)日本の規制、免許、手数料、租税又は類似の管理に服さない」の帰結として、同条第2項の「これらの諸機関による商品及び役務の販売」には日本の消費税法が元々適用されないことを明らかにしたものであるから、当該販売は、国内において行う取引に該当しないこととなるものと解される。したがって、本件米軍基地内取引は国内において行った資産の譲渡等には該当しない。
ロ 消費税法は、資産の譲渡等のうち課税資産の譲渡等に該当しない取引を同法別表第一に限定列挙しているところ、本件米軍基地内取引は、同表に列挙されたいずれにも該当しないことから、非課税取引にはならない。

3 判断

(1) 課税売上割合の計算における本件米軍基地内取引の対価の額の取扱い

 消費税法においては、仕入税額控除に関して課税売上割合により控除対象仕入税額を計算する方法が採られており、当該課税売上割合について、消費税法第30条第6項は、上記1の(3)のヘのとおり規定している。そして、日米地位協定第15条の規定に照らし、本件米軍基地内取引の対価の額を課税売上割合の計算において分母又は分子のそれぞれに算入すべきか否か、すなわち、当該計算において当該対価の額が当該分母である国内において行った資産の譲渡等の対価の額又は当該分子である課税取引の対価の額に含まれるか否かについて争いがあることから審理したところ、次のとおりであると認められる。
イ 日米地位協定第15条第2項は、その前段において「これらの諸機関による商品及び役務の販売には、(中略)日本の租税を課さず」と規定しており、日本と米国との間の条約である日米地位協定は、国内法である消費税法に優先して適用されるため、同項に規定する「これらの諸機関による商品及び役務の販売」には消費税が課されないという課税関係が導き出される。この場合、消費税法における仕入税額控除に関する規定の適用については、日米地位協定の規定が優先して適用されることを踏まえつつ消費税法の規定に沿って判断することとなる。
 そして、消費税法第2条第1項第1号は、「国内」を「この法律の施行地」と定義しており、日本の主権が及ぶ領土、領海及び領空が、日本の国内法である消費税法の施行地に含まれることは明らかであり、本件米軍基地が日本の領土内にあることを疑う余地はない。
 そうすると、本件米軍基地内取引は、消費税法上の「国内」で行われたものであり、消費税が課されない取引ではあるものの、国内において行った資産の譲渡等であると認められる。
ロ 次に、上記イのとおり、本件米軍基地内取引については、国内において行った資産の譲渡等に該当することが明らかであるから、消費税法の規定に沿って、消費税が課されない取引として、課税取引であるいわゆる免税取引に該当するか、非課税取引に該当するかの判断が必要となるところ、同法第30条の仕入税額控除の制度は、多段階課税である消費税の累積を避けるために、仕入れに含まれている消費税額を控除するという制度であるから、事業者が事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けたとしても、その仕入れに対応する売上げに消費税が課されない場合には、税の累積排除を考慮する必要がなく、仕入税額控除の根拠を欠くことになるため、そのような消費税が課されない売上げに対応する課税仕入れに係る消費税は、本来的には仕入税額控除の対象となり得ないものというべきである。
 ところで、日米地位協定第15条第2項は、その後段において「これらの諸機関による商品及び需品の日本国内における購入には、日本の租税を課する」と規定しているところ、日米地位協定が国内法である消費税法に優先して適用されることに鑑みると、消費税に関する課税関係においては、「これらの諸機関による商品及び需品の日本国内における購入」に消費税を課することとなる趣旨と解される。
 そして、日米地位協定第15条第2項前段に規定する「これらの諸機関による商品及び役務の販売」につき、これを仕入税額控除の制度の適用に当たって、課税売上割合の計算上その対価の額を課税取引の対価の額としていわゆる免税売上額に含めると、当該販売のための仕入れ、すなわち日米地位協定第15条第2項後段に規定する「これらの諸機関による商品及び需品の日本国内における購入」に係る消費税について仕入税額控除の対象とすることができることとなるため、結果として、当該購入に租税(消費税)が課されないことと同様の結果を生じさせることとなり、上記のような日米地位協定第15条第2項後段の趣旨を逸脱してしまうこととなる。一方、課税売上割合の計算上その対価の額を非課税取引の対価の額に含めると、その対価の額に対応する課税仕入れに係る消費税については仕入税額控除の対象とすることができないことから、上記のような日米地位協定第15条第2項後段の趣旨及び仕入税額控除の制度の趣旨のいずれとも合致する。
ハ 以上のことからすると、日米地位協定第15条第2項に規定する「これらの諸機関による商品及び役務の販売」は、消費税法における仕入税額控除に関する規定の適用上、非課税取引に該当するものと取り扱うのが相当であり、その対価の額は、課税売上割合の計算上、国内において行った資産の譲渡等の対価の額(分母)に含まれ、かつ、課税取引の対価の額(分子)に含まれないと解するのが相当である。
 したがって、本件米軍基地内取引の対価の額は、課税売上割合の計算上、分母に算入され、かつ、分子に算入されないこととなる。

(2) 請求人の主張について

イ 請求人は、平成23年4月課税期間の消費税等の確定申告において本件米軍基地内取引の対価の額をいわゆる免税売上額とし課税売上割合を求めていたことは誤りであったとした上で、上記2の(2)のイのとおり、日米地位協定第15条第1項(a)の帰結として、同条第2項に規定する「これらの諸機関による商品及び役務の販売」には日本の消費税法が元々適用されないから、本件米軍基地内取引は国内において行った資産の譲渡等には該当しない旨主張する。
 しかしながら、日米地位協定第15条第1項(a)が米軍基地内における日本の国内法の適用を属地的に排除した規定であるとは解されず、上記(1)のイのとおり、本件米軍基地は消費税法上の「国内」であると認められるから、請求人の主張は採用することができない。
ロ また、請求人は、上記2の(2)のロのとおり、本件米軍基地内取引は、消費税法別表第一に列挙されたいずれにも該当しないことから、非課税取引ではない旨主張する。
 確かに、消費税法第2条第1項第9号は、課税資産の譲渡等とは資産の譲渡等のうち同法第6条第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう旨規定し、同項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、同法別表第一に掲げるものには、消費税を課さない旨規定しており、同表において日米地位協定第15条第2項前段に規定する「これらの諸機関による商品及び役務の販売」は掲げられていない。
 しかしながら、条約である日米地位協定の規定は、消費税法の規定に優先して適用されるところ、上記(1)のとおり、日米地位協定第15条第2項に規定する「これらの諸機関による商品及び役務の販売」は、当該販売が消費税法別表第一に掲げられているか否かとは関わりなく、消費税法における仕入税額控除に関する規定の適用上、非課税取引に該当するものと解するのが相当であるから、請求人の主張は採用することができない。

(3) 本件各更正処分について

 上記(1)のとおり、本件米軍基地内取引の対価の額は、課税売上割合の計算上、分母に算入され、かつ、分子に算入されないこととなり、これに基づき、請求人の本件各課税期間における納付すべき消費税等の額を計算すると、別表3の「異議審理庁認定額」欄と同額となり、これらの金額は、本件各更正処分の額と同額又はそれを上回ることとなるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(4) 本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分は、上記(3)のとおり適法であり、また、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づき行われた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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