(平成26年7月28日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)が提出した平成24年分の贈与税の期限後申告書に基づき無申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該期限後申告書の提出は、国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第5項に規定する「その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について…決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するとして、当該賦課決定処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成24年分の贈与税について、法定申告期限後である平成25年6月7日、課税価格を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円と記載した平成24年分の贈与税の期限後申告書(以下「本件期限後申告書」という。)を原処分庁へ提出して、平成24年分の贈与税の期限後申告(以下「本件期限後申告」という。)をした。
ロ 原処分庁は、平成25年6月26日付で、請求人に対し、本件期限後申告により納付すべきこととなった税額を基礎として、無申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、平成25年7月18日、本件賦課決定処分に不服があるとして、その全部の取消しを求めて異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成25年10月10日付で、棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、平成25年10月31日、異議決定を経た後の本件賦課決定処分に不服があるとして、審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合(同項第1号)には、当該納税者に対し、当該申告に基づき納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定し、同項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない旨規定している。
ロ 通則法第66条第5項は、期限後申告書の提出があった場合において、「その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について…決定があるべきことを予知してされたものでないとき」は、その申告に基づき納付すべき税額に係る同条第1項の無申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、当該納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。
ハ 税理士法(平成26年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)第2条《税理士の業務》第1項は、税理士は、他人の求めに応じ、租税に関し、同項各号に掲げる事務(税務代理、税務書類の作成及び税務相談)を行うことを業とする旨規定し、同項第1号は、税務代理とは、税務官公署に対する租税に関する法令若しくは行政不服審査法の規定に基づく申告、申請、請求若しくは不服申立てにつき、又は当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること(同項第2号の税務書類の作成にとどまるものを除く。)をいう旨規定している。
ニ 税理士法第30条《税務代理の権限の明示》は、税理士は、税務代理をする場合においては、財務省令で定めるところにより、その権限を有することを証する書面を税務官公署に提出しなければならない旨規定し、税理士法施行規則第15条《税務代理権限証書》は、同法第30条に規定する財務省令で定めるところにより提出しなければならない税務代理の権限を有することを証する書面は、同規則別紙第8号様式による税務代理権限証書とする旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ a市b町○−○に所在する土地(以下「本件土地」という。)は、平成24年9月10日受付、同日贈与を登記原因として、請求人の妹であるDの持分全部について、請求人、E及びFに対して所有権移転登記がなされた。なお、本件土地の地積は151.11平方メートルであり、請求人が贈与により取得した本件土地の共有持分は1,510分の82であった。
ロ 請求人は、平成24年分の贈与税について、法定申告期限である平成25年3月15日までに、贈与税の申告書を提出していなかった。
ハ 原処分庁は、平成25年5月10日付で、請求人に対し、「贈与税の申告について」と題する書面(以下「本件書面」という。)を送付した。
 本件書面には、まる1請求人の平成24年分の贈与税の申告の要否について調査を行う旨、まる2本件書面のほか、贈与を受けた不動産の登記関係書類、及び当該不動産の所在、地積、形状が確認できる書類等を持参の上、平成25年5月23日午後1時頃にB税務署に来署を求める旨、並びにまる3お尋ねしたい事項として「a市b町○−○所在の土地について」の記載があった。
ニ G税理士(以下「本件税理士」という。)は、平成25年5月28日、B税務署に赴き、原処分庁所属の資産課税部門の職員(以下「本件担当者」という。)と面接した。
ホ 請求人は、平成25年6月7日、上記(2)のイのとおり、本件期限後申告書を原処分庁へ提出して、本件期限後申告をした。
 また、請求人は、本件期限後申告書とともに、税務代理権限証書(以下「本件代理権限証書」という。)を原処分庁へ提出した。本件代理権限証書には、本件税理士を代理人と定め、平成24年分の贈与税について、税理士法第2条第1項第1号に規定する税務代理を委任する旨が記載されている。

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2 争点

 本件期限後申告書の提出は、通則法第66条第5項に規定する「その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について…決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か。

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3 主張

原処分庁 請求人
(1) 通則法第66条第5項に規定する「調査」とは、課税庁が行う課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものであり、課税庁の証拠書類の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を経て決定に至るまでの思考、判断を含む包括的な概念を意味するものと解されている。
 そして、次のとおり、本件において、通則法第66条第5項に規定する「調査」があったと認められる。
(1) 通則法第66条第5項に規定する「調査」とは、外部から認識することができる面接調査、すなわち質問検査権の行使をすることであり、部内資料の収集のような手続は「調査」には当たらない。
 そして、次のとおり、本件において、通則法第66条第5項に規定する「調査」があったとは認められない。
イ 本件期限後申告書提出前の手続について
 原処分庁は、遅くとも平成24年末までに本件土地の登記が贈与を原因として請求人に移転したことを把握し、平成25年4月頃、請求人が平成24年分の贈与税の申告を行っていないことを確認し、本件土地に係る路線価を参考として請求人の贈与税の申告の要否を検討した結果、贈与税の申告が必要であると判断しており、これらの一連の行為は、通則法第66条第5項に規定する「調査」に該当する。
イ 本件期限後申告書提出前の手続について
 そもそも「調査」は、期限後申告書の提出があり、その内容を原処分庁が確認し、申告内容に疑義があって初めて始まるものであるから、本件期限後申告書提出前に原処分庁が行った資料収集等の手続は事前の検討にすぎず、「調査」に当たらない。
ロ 本件書面について
 原処分庁は、請求人に対し、請求人の平成24年分の贈与税の申告の要否について調査を行う旨及び本件土地に係る贈与税の申告について尋ねたい旨のみならず、本件土地に係る登記関係書類及び所在、地積、形状が確認できる書類等を持参の上、税務署を訪れることを依頼する旨を記載した本件書面を送付していることからすれば、本件書面の送付は調査の予告にとどまるものではなく、請求人の贈与税の課税標準等又は税額等を認定するために行った行為であり、通則法第66条第5項に規定する「調査」に該当する。
ロ 本件書面について
 本件書面は、記載された内容から、税務署の担当者が面接する日時を連絡するとともに、その際に用意すべき書類等を請求人に伝えたにすぎないものであるから、申告のお尋ね文書であり、本件書面の送付をもって外部から認識できる調査が請求人に対して行われたとは認められない。
ハ 本件税理士との面接について
(イ) 本件担当者は、平成25年5月28日、本件税理士に対して、請求人が本件土地の共有持分を贈与により取得したことについて、贈与税の申告が必要である旨を指摘した上で、請求人が贈与により取得した本件土地の共有持分の割合が1,510分の248である旨指摘し、本件土地に係る路線価図の写し及び住宅地図の写しを交付の上、奥行価格補正等の各補正を検討するよう依頼し、また、平成25年5月30日、本件土地の共有持分の割合が1,510分の82である旨訂正している。
 このような原処分庁が行った一連の行為は、請求人の平成24年分の贈与税の課税標準等又は税額等を認定するために行った行為であり、通則法第66条第5項に規定する「調査」に該当する。
ハ 本件税理士との面接について
(イ) 本件担当者は、本件税理士との面接の時点で、請求人に贈与された共有持分の割合も把握しておらず、本件土地の現況も見ず、奥行価格補正等の補正の検討も行っていないのであるから、事前に検討もせずに行った当該面接内容は、請求人の受贈内容やその価額を把握する目的で行われた行為には程遠く、当該面接が、請求人の贈与税に係る課税標準等又は税額等を認定する目的で行われた行為とは認められないので、本件税理士と面接したことをもって請求人に対する「調査」があったとは認められない。
(ロ) また、本件税理士は、平成25年5月28日、本件書面を持参した上で本件担当者と面接し、請求人の平成24年分の贈与税の申告の要否について話をしていることからすれば、本件税理士は、遅くとも平成25年5月28日の時点において、請求人から平成24年分の贈与税に係る税務代理の権限を付与されていたものと認められる。
 なお、任意代理権は、本人と代理人との間における代理権授与行為(授権行為)によって生ずるものと解されていることから、必ずしも本件代理権限証書の作成日をもって税務代理の権限が付与された日であると判断できるものではない。
 さらに、税理士法第30条の規定の趣旨からすれば、税務代理の権限の効力は、請求人が本件税理士に代理権限を付与した時に生ずるのであって、税務代理権限証書を原処分庁へ提出した時に生ずるものではない。
(ロ) また、この点をおくとしても、本件代理権限証書は、平成25年6月7日に本件期限後申告書とともに提出されたものであり、本件代理権限証書に記載されている日付が、税務代理の権限を付与した年月日であるから、本件税理士は、平成25年6月7日に、請求人に対する調査を受ける代理権の委任を受けたということができる。
 そして、課税庁は、納税者に対する調査について税理士を介して行う際、税務代理権限証書を事前に提出させ、適正な代理人であることを確認した上、調査を実施することとなるが、本件担当者は、請求人に対する調査の際に本件税理士を代理人とする税務代理権限証書を提出させていない。
 よって、本件税理士が請求人に代理して平成25年5月28日に本件担当者の質問検査権の行使を受けたことにならない。
 なお、請求人は、原処分庁所属の職員と接触しておらず、直接調査を受けた事実もないことから、請求人に対する「調査」があったとは認められない。
(2) そして、請求人は、本件書面を受領した時点において、原処分庁が「調査」を行ったことを認識するとともに、期限後申告書を提出しなければやがて決定に至ることを予知したものであるから、本件期限後申告書の提出は、通則法第66条第5項に規定する「その提出が、調査があったことにより…決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しない。 (2) したがって、請求人に対する「調査」があったとは認められないのであるから、本件期限後申告書の提出は、通則法第66条第5項に規定する「その提出が、調査があったことにより…決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。

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4 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 原処分庁所属の職員は、平成24年分の贈与税の法定申告期限後、B税務署内において、所有権移転に係る登記情報から収集された資料(なお、当該資料は平成24年末までに収集されていた。)に基づいて、請求人が平成24年中に本件土地の共有持分を贈与により取得していることを確認し、本件土地に係る路線価等から上記共有持分の価額を検討し、同税務署内において請求人の平成24年分の贈与税に係る申告の有無を確認した。その結果、請求人が平成24年中に本件土地の共有持分を贈与により取得したことについて、贈与税の課税が見込まれるにもかかわらず、請求人が平成24年分の贈与税の申告を行っていないことを把握した。そこで、原処分庁は、上記1の(4)のハのとおり、請求人に対し、本件書面を送付して来署を求めた。
ロ 本件書面を受領した後の請求人及び本件税理士の対応は、次のとおりであった。
(イ) 請求人は、本件書面を受領したが、税金のことは分からないことから、平成25年5月23日、本件税理士に電話をして、本件書面を受領した旨、及び本件書面には同日(平成25年5月23日)に来署を求める旨が記載されている旨を連絡した。その後、請求人は、同日(平成25年5月23日)、本件書面を本件税理士へファクシミリで送信し、本件税理士はこれを受信した。
(ロ) 本件税理士は、上記(イ)の請求人からの連絡を受け、同日(平成25年5月23日)、本件書面に記載の原処分庁所属の資産課税部門の担当者宛に電話をして、請求人の代わりに本件税理士が話を聞きたいのでB税務署における面接日の変更をしたい旨連絡し、面接日は同月28日となった。
ハ 平成25年5月28日の本件担当者と本件税理士との面接の状況は、次のとおりであった。
(イ) 本件税理士は、平成25年5月28日、請求人の代わりにB税務署に赴き、本件書面の写しを提示した上で、本件担当者と面接した。
(ロ) 本件担当者は、本件税理士に、本件土地に係る路線価図の写し及び本件土地が存する場所の住宅地図の写しを渡し、本件土地に係る正面路線価が255,000円、本件土地の地積が151.11u及び請求人が贈与により取得した本件土地の共有持分が1,510分の248であるため、贈与税の申告が必要である旨の説明をした。
 なお、当該説明において、本件担当者は、本件税理士から、請求人が贈与により取得した本件土地の共有持分は1,510分の248よりも少ないとの申立てを受けた。
(ハ) 本件税理士は、本件担当者に、請求人が本件土地の共有持分を贈与により取得したことについて贈与税の申告書を提出する予定であるから、しばらく時間の猶予が欲しい旨申し立てた。
ニ 本件税理士は、平成25年5月28日の本件担当者との面接内容を請求人に説明するため、同日、請求人宅を訪れたが、請求人が不在であったため、請求人の配偶者に対し、請求人の贈与税の申告が必要である旨説明した。
 その後、請求人の配偶者は、請求人に対し、本件税理士から、請求人の贈与税の申告が必要である旨の説明を受けたことを伝えた。
ホ 本件担当者は、上記ハの本件税理士との面接の後、請求人が贈与により取得した本件土地の共有持分について再度確認したところ、誤って説明していたことが判明したため、平成25年5月30日、本件税理士に電話をし、請求人が贈与により取得した本件土地の共有持分は1,510分の82である旨を説明した。
ヘ 本件税理士は、請求人が本件土地の共有持分を贈与により取得したことについて、請求人の平成24年分の贈与税の申告書を作成し、平成25年6月7日、請求人宅を訪れ、請求人本人に当該申告書の内容を説明した。請求人は、当該申告書に押印し、本件税理士とともにB税務署に赴き、上記1の(4)のホのとおり本件期限後申告書を提出した。

(2) 法令解釈

 通則法第66条第5項に規定する「調査」とは、課税庁が行う課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠書類の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を経て決定に至るまでの思考、判断を含む包括的な概念であり、税務調査全般を指すものと解され、納税者本人に対する臨場調査、呼出調査だけでなく、いわゆる机上調査や準備調査等のような税務官庁内部における調査も「調査」に含まれるものと解される。

(3) 当てはめ

イ 原処分庁所属の職員は、平成24年分の贈与税の法定申告期限後、B税務署内において、所有権移転に係る登記情報から収集された資料に基づいて、請求人が平成24年中に本件土地の共有持分を贈与により取得していることを確認し、上記共有持分の価額を検討し、贈与税の申告の有無を確認した結果、請求人が平成24年中に本件土地の共有持分を贈与により取得したことについて贈与税の課税が見込まれるにもかかわらず、請求人が平成24年分の贈与税の申告を行っていないことを把握した。そこで、原処分庁は、請求人に対し、本件書面を送付し、請求人に来署を求めている(上記(1)のイ)。
 また、本件担当者は、平成25年5月28日、請求人に送付された本件書面の写しを持参してB税務署を訪れた本件税理士に対し、本件土地に係る路線価図の写し及び本件土地が存する場所の住宅地図の写しを渡し、本件土地に係る正面路線価が255,000円、本件土地の地積が151.11u及び請求人が贈与により取得した本件土地の共有持分が1,510分の248であることを説明した上で、贈与税の申告が必要である旨説明している(上記(1)のハの(イ)及び(ロ))。その後、本件担当者は、請求人が贈与により取得した本件土地の共有持分について再度確認したところ、誤って説明していたことが判明したため、同月30日、本件税理士に電話をし、請求人が贈与により取得した本件土地の共有持分は1,510分の82である旨の説明をしている(上記(1)のホ)。
 以上によれば、原処分庁所属の職員は、B税務署内において資料(所有権移転に係る登記情報から収集された資料や本件土地に係る路線価等)の確認や検討をすることにより、請求人の平成24年分の贈与税の申告が必要であると見込まれると判断していることが認められ、また、本件担当者は、本件税理士と面接し、資料(本件土地に係る路線価図等の写し)の交付や説明(本件土地に係る正面路線価等の説明)をするとともに、請求人の平成24年分の贈与税の申告が必要である旨の説明をし、その後も、請求人が贈与により取得した本件土地の共有持分を改めて確認し、その再確認結果を本件税理士へ連絡していることがそれぞれ認められるのであるから、これら原処分庁所属の職員及び本件担当者の一連の行為は、課税庁が行う課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程であると認められる。
 したがって、本件においては、通則法第66条第5項に規定する「調査」があったと認められる。
ロ そして、まる1請求人は、本件書面を受領したが税金のことは分からないことから、平成25年5月23日に本件税理士に電話連絡をし(上記(1)のロの(イ))、まる2この電話連絡を受けた本件税理士は、同月28日にB税務署において請求人の代わりに本件担当者と面接し(上記(1)のロの(ロ)及びハの(イ))、本件担当者から、本件土地に係る正面路線価、地積及び請求人が贈与により取得した本件土地の共有持分の説明を受けた上で、贈与税の申告が必要である旨の説明を受け(上記(1)のハの(ロ))、まる3本件税理士は、本件担当者との面接内容を請求人に説明するため、当該面接をした日(平成25年5月28日)のうちに請求人宅を訪れ、請求人が不在であったことから、請求人の配偶者に対して請求人の贈与税の申告が必要である旨を伝え(上記(1)のニ)、まる4請求人は、配偶者を通して本件税理士から請求人の贈与税の申告が必要である旨の説明があったことを聞き(上記(1)のニ)、まる5その後、請求人は、平成25年6月7日、本件期限後申告書を提出している(上記(1)のヘ)。
 上記の本件期限後申告書の提出に至る事実によれば、請求人は、平成25年5月28日に本件税理士が請求人宅を訪れ、請求人の配偶者に請求人の平成24年分の贈与税の申告が必要である旨を説明した時から遅くとも同年6月7日に本件期限後申告書を提出した時より前までの間に、請求人が平成24年中に本件土地の共有持分を贈与により取得したことについて平成24年分の贈与税の期限後申告が必要であることを認識するに至り、このまま当該期限後申告をしなければ決定されるであろうことを予知し、その上で本件期限後申告書を提出したものと認められる。
 したがって、本件期限後申告書の提出は、通則法第66条第5項に規定する「その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について…決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しない。

(4) 請求人の主張について

イ 請求人は、通則法第66条第5項に規定する「調査」とは、外部から認識することができる面接調査、すなわち質問検査権の行使をすることであり、部内資料の収集のような手続は「調査」には当たらない旨、また、そもそも期限後申告書提出前の資料収集等の手続は「調査」には当たらない旨主張する(上記3の「請求人」欄の(1)の柱書及びイ)。
 しかしながら、通則法第66条第5項に規定する「調査」とは、上記(2)のとおりに解すべきであり、請求人が主張するように限定的に解すべき根拠もないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ロ 請求人は、まる1本件書面の送付をもって外部から認識できる調査が請求人に対して行われたとは認められない旨、及びまる2本件担当者は、請求人に贈与された共有持分の割合も把握せず、本件土地の現況も見ず、奥行価格補正等の補正の検討も行っていないから、事前に検討もせずに行った面接内容は、請求人の受贈内容やその価額を把握する目的で行われた行為には程遠く、当該面接が、請求人の贈与税に係る課税標準等又は税額等を認定する目的で行われた行為とは認められないので、本件税理士と面接したことをもって請求人に対する「調査」があったとは認められない旨、それぞれ主張する(上記3の「請求人」欄の(1)のロ及びハの(イ))。
 しかしながら、上記(3)のイのとおり、本件においては通則法第66条第5項に規定する「調査」があったと認められるのであるから、本件書面の送付が調査に該当するか否かの判断にかかわらず、請求人の上記主張にはいずれも理由がない。
ハ 請求人は、本件代理権限証書に記載されている日付が平成25年6月7日であり、同年5月28日の面接の際には税務代理権限証書は提出していないから、当該面接時には、本件税理士が請求人に代理して本件担当者の質問検査権の行使を受けたことにならない旨主張する(上記3の「請求人」欄の(1)のハの(ロ))。
 ところで、税務代理の権限の付与は委任契約に基づくものであるところ、委任契約又は準委任契約は、民法上、当事者の一方が法律行為又は事務行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる旨規定されている(民法第643条《委任》及び同法第656条《準委任》)ことから、委任者と受任者との合意のみによって成立し、当該合意は必ずしも書面によってなされる必要はないと解される。また、税理士法第30条が、税理士に対して税務代理行為につき代理権限を有することを明示する書面の提出を命じているのは、当該税理士が、真実代理権限を有するかどうかについての税務官署側の判断を容易ならしめるとともに、後日代理権限の存否につき争いの生ずることを未然に防止し、もって税務手続の安定、迅速を期する趣旨に出たものにすぎないものと解される。
 本件においては、まる1本件書面を受領した請求人が、本件税理士に対して税務署への来署を求める旨が記載された本件書面が送付された旨連絡したこと(上記(1)のロの(イ))、まる2本件税理士は、請求人から当該連絡を受け、面接日の変更を経て、請求人の代わりにB税務署に赴いて本件担当者と面接したこと(上記(1)のロの(ロ)及びハの(イ))、まる3当該面接では、本件税理士は、請求人が贈与により取得した本件土地の共有持分は1,510分の248よりも少ない旨、及び贈与税の申告書を提出する予定であるからしばらく時間の猶予が欲しい旨を申し立てたこと(上記(1)のハの(ロ)及び(ハ))、まる4当該面接の後、本件税理士は、当該面接の内容を請求人に説明するために請求人宅を訪れたこと(上記(1)のニ)が認められる。また、本件税理士は、当審判所に対し、請求人の依頼に応じ、請求人の代わりに平成25年5月28日のB税務署における面接に応じたのであり、当該面接の内容については請求人に報告するつもりであった旨答述しているところ、この答述は上記のとおり認められる事実とも符合することから信用でき、この答述のとおりの事実を認めることができる。
 そうすると、本件税理士と請求人の間では、平成25年5月28日の時点において、少なくとも、本件税理士が、請求人に係る贈与税の申告の要否についてのB税務署での面接において、請求人に代理又は代行して応答し、当該面接の内容を請求人に報告するという内容の委任契約が成立していたものと認められる。
 したがって、平成25年5月28日の面接の際には税務代理権限証書を提出していないから当該面接時には本件税理士が請求人に代理して本件担当者の質問検査権の行使を受けたことにならない旨の請求人の主張には、理由がない。

(5) 本件賦課決定処分について

 以上のとおり、請求人による本件期限後申告書の提出は、通則法第66条第5項に規定する「その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について…決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しないものであり、また、期限内申告書の提出がなかったことについて同条第1項ただし書に規定する「正当な理由がある」とは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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