(平成26年8月8日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続により請求人が取得した土地について、被相続人と生計を一にしていた親族である請求人の事業の用に供されていた宅地等に該当するとして、租税特別措置法(平成22年法律第6号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項に規定する特例(以下「本件特例」という。)を適用して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、本件特例の適用を受けるものとして当該土地を選択するに当たって、本件特例の適用の対象となる全ての土地を取得した相続人全員の同意がされていないことから、当該土地については本件特例の適用を受けることはできないなどとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該更正処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成22年2月○日に死亡したF(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表の「期限内申告」欄のとおり記載した相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに原処分庁に提出して、相続税の期限内申告をした。
ロ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成25年7月9日付で、請求人に対し、別表の「更正処分等」欄のとおり、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、平成25年9月9日、上記ロの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分に不服があるとして、別表の「異議申立て」欄のとおり、異議申立てをした。
ニ 異議審理庁は、平成25年12月9日付で、別表の「異議決定」欄のとおり、上記ロの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の一部をいずれも取り消す異議決定をした(以下、異議決定によりその一部が取り消された後の上記ロの更正処分及び賦課決定処分をそれぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。)。
ホ 請求人は、平成26年1月8日、異議決定を経た後の本件更正処分及び本件賦課決定処分に不服があるとして、審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 措置法第69条の4第1項は、個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(以下「被相続人等」という。)の事業(事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む。)の用又は居住の用に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。以下同じ。)で財務省令で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもので政令で定めるもの(以下「特例対象宅地等」という。)がある場合には、当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係る全ての特例対象宅地等のうち、当該個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部で同項の規定の適用を受けるものとして政令で定めるところにより選択をしたもの(以下「選択特例対象宅地等」という。)については、限度面積要件を満たす場合の当該選択特例対象宅地等(以下「小規模宅地等」という。)に限り、相続税法(平成25年法律第5号による改正前のもの。以下同じ。)第11条の2《相続税の課税価格》に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に、次の(イ)又は(ロ)に掲げる小規模宅地等の区分に応じ、次の(イ)又は(ロ)に定める割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。
(イ) 特定事業用宅地等である小規模宅地等、特定居住用宅地等である小規模宅地等及び特定同族会社事業用宅地等である小規模宅地等(第1号)
100分の20
(ロ) 上記(イ)に掲げる小規模宅地等以外の小規模宅地等(第2号)
100分の50
ロ 措置法第69条の4第2項は、同条第1項に規定する限度面積要件を規定しており、同条第2項第1号は、当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係る選択特例対象宅地等の全てが特定事業用宅地等である場合、当該選択特例対象宅地等の面積の合計が400平方メートル以下であることとする旨規定している。
ハ 措置法第69条の4第3項第1号は、特定事業用宅地等とは、被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令で定めるものを除く。以下、このハにおいて同じ。)の用に供されていた宅地等で、当該相続又は遺贈により当該宅地等を取得した個人のうちに、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族がいる場合の当該宅地等をいう旨規定している。
(イ) 当該親族が、相続開始時から相続税法第27条《相続税の申告書》の規定による申告書の提出期限(以下「申告期限」という。)までの間に当該宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該事業を営んでいること。
(ロ) 当該親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の事業の用に供していること。
ニ 措置法第69条の4第4項本文は、同条第1項の規定は、同項の相続又は遺贈に係る申告期限までに共同相続人によって分割されていない特例対象宅地等については適用しない旨規定し、同条第4項ただし書は、その分割されていない特例対象宅地等が当該申告期限から3年以内(当該期間が経過するまでの間に当該特例対象宅地等が分割されなかったことにつき、当該相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたことその他の政令で定めるやむを得ない事情がある場合において、政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該特例対象宅地等の分割ができることとなった日として政令で定める日の翌日から4月以内)に分割された場合には、その分割された当該特例対象宅地等については、この限りでない旨規定している。
ホ 措置法第69条の4第6項は、同条第1項の規定は、同項の規定の適用を受けようとする者の当該相続又は遺贈に係る相続税法第27条の規定による申告書に同項の規定の適用を受けようとする旨を記載し、同項の規定による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する旨規定している。
ヘ 租税特別措置法施行令(平成22年政令第58号による改正前のもの。以下「措置法施行令」という。)第40条の2《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項は、措置法第69条の4第1項に規定する事業に準ずるものとして政令で定めるものは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの(以下「準事業」という。)とする旨規定している。
ト 措置法施行令第40条の2第3項は、措置法第69条の4第1項に規定する個人が相続又は遺贈により取得した同項に規定する特例対象宅地等のうち、同項の規定の適用を受けるものの選択は、次の(イ)ないし(ハ)に掲げる書類の全てを同条第6項に規定する相続税の申告書に添付してするものとする旨規定している。
(イ) 当該特例対象宅地等を取得した個人がそれぞれ措置法第69条の4第1項の規定の適用を受けるものとして選択をしようとする当該特例対象宅地等又はその一部について上記イの(イ)又は(ロ)に掲げる小規模宅地等の区分その他の明細を記載した書類(第1号)
(ロ) 当該特例対象宅地等を取得した全ての個人に係る上記(イ)の選択をしようとする当該特例対象宅地等又はその一部の全てが措置法第69条の4第2項各号に規定する限度面積要件のうちのいずれか一の要件を満たすものである旨を記載した書類(第2号)
(ハ) 当該特例対象宅地等を取得した全ての個人の上記(イ)の選択についての同意を証する書類(第3号)
チ 租税特別措置法施行規則(平成22年財務省令第17号による改正前のもの。)第23条の2《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第7項は、措置法第69条の4第6項に規定する財務省令で定める書類は、同条第1項第1号に規定する特定事業用宅地等である小規模宅地等について同項の規定の適用を受けようとする場合には、次に掲げる書類である旨規定している。
(イ) 措置法第69条の4第1項に規定する小規模宅地等に係る同項の規定による相続税法第11条の2に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額の計算に関する明細書
(ロ) 上記ト(措置法施行令第40条の2第3項)の(イ)ないし(ハ)に定める書類
(ハ) 遺言書の写し、財産の分割の協議に関する書類(当該書類に当該相続に係る全ての共同相続人が自署し、自己の印を押しているものに限る。)の写しその他の財産の取得の状況を証する書類

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 本件相続について
(イ) 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の長女であるG、同二女であるH、同長男である請求人及び同三女であるJの4名である(以下、これら4名を併せて「本件相続人ら」という。)。
(ロ) 本件被相続人の相続財産の中には、次の不動産があった。
A e市g町○−○に所在する土地1,278.21平方メートル(以下「e市土地」という。)の本件被相続人の持分1,000分の457(以下「e市土地相続分」という。)及びe市土地上に存する家屋番号○番○の建物(種類:診療所、構造:木造瓦葺平家建て、床面積:276.03平方メートル。以下「e市建物」という。)の本件被相続人の持分1,000分の457(以下「e市建物相続分」という。)
B f市h町○−○に所在する土地533平方メートル(以下「f市土地」という。)の本件被相続人の持分5分の1(以下「f市土地相続分」という。)、並びにf市土地上に存する家屋番号○番○の○の建物(種類:共同住宅、構造:軽量鉄骨造スレート葺2階建て、床面積合計:218.88平方メートル。以下「f市A建物」という。)及びf市土地上に存する家屋番号○番○の○の建物(種類:共同住宅、構造:軽量鉄骨造スレート葺2階建て、床面積合計:212.64平方メートル。以下「f市B建物」といい、f市A建物と併せて「f市各建物」という。)の本件被相続人の各持分5分の1
(ハ) 本件被相続人は、平成19年1月14日付で、要旨、e市土地相続分及びe市建物相続分の全部を請求人に相続させる旨記載した自筆証書(以下「本件遺言書」という。)を作成し、遺言をした(以下、当該遺言を「本件遺言」という。)。  なお、本件遺言書は、平成22年12月○日、K家庭裁判所において検認された。
(ニ) e市土地相続分及びe市建物相続分については、平成23年1月○日受付で、本件相続を原因として、本件被相続人から請求人への所有権移転登記がそれぞれ経由された。
(ホ) Gは、平成24年3月○日付で、H、請求人及びJを被告として、本件遺言が無効であることを確認するなどを請求の趣旨とする遺産確認及び遺言無効確認等請求訴訟をK地方裁判所に提起した(以下、当該訴訟を「本件遺言無効確認等訴訟」という。)。
(ヘ) f市土地相続分については、本件相続税の申告期限において、本件相続人らの間で遺産分割協議が成立していない。
ロ 本件申告書について
 請求人は、上記(2)のイのとおり、本件申告書を法定申告期限までに提出しているところ、本件申告書の第11・11の2表の付表2の1の「小規模宅地等についての課税価格の計算明細(その1)」には、請求人が取得したe市土地相続分(1,278.21平方メートル×457/1,000)のうちの400平方メートル(限度面積)を特定事業用宅地等である小規模宅地等として選択する旨記載され、また、同付表1の「小規模宅地等、特定計画山林又は特定事業用資産についての課税価格の計算明細書」(以下「本件同意書類」という。)には、上記の同付表2の1において選択した財産の全てが小規模宅地等に該当することを確認の上、その財産の取得者が本件特例の適用を受けることに同意するとして、「1 特例の適用にあたっての同意」の「特例の対象となる財産を取得したすべての人の氏名」欄に、請求人の氏名のみが記載されている。

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2 争点

 選択特例対象宅地等についての措置法施行令第40条の2第3項第3号に掲げる同意を証する書類の添付がない場合における本件特例の適用の可否について

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3 主張

原処分庁 請求人
(1) e市土地相続分及びf市土地相続 分は、いずれも特例対象宅地等に該当するところ、e市土地相続分は請求人が取得し、また、f市土地相続分は未分割であり本件相続人らの共有に属するものであることから、e市土地相続分を選択特例対象宅地等とするためには、請求人において本件申告書に本件特例の適用を受けようとする旨を記載した上、e市土地相続分を選択特例対象宅地等とする旨の本件相続人らの全員の同意を証する書類を同申告書に添付しなければならない。
 しかしながら、請求人が本件申告書とともに提出した本件同意書類には請求人の氏名のみの記載しかないため、法定の書類の添付があったとは認められないことから、請求人の相続税の課税価格の計算に当たって、本件特例の適用を認めることはできない。
(1) e市土地相続分及びf市土地相続分は、いずれも特例対象宅地等に該当するところ、1当該各土地の1平方メートル当たりの単価、本件特例の適用における限度面積要件及び相続税の課税価格に算入する価額を勘案した場合、e市土地相続分に本件特例を適用することが明らかに本件相続人ら全員にとって有利であり、選択特例対象宅地等はe市土地相続分しかあり得ないこと、2e市土地相続分に本件特例を適用することに同意しない相続人1名(G)は、上記1のとおり、f市土地相続分よりもe市土地相続分に本件特例を適用することが相続税が減少し最も有利であることを理解しており、本件遺言無効確認等訴訟が終了したときには、e市土地相続分に本件特例を適用することには反対していないこと、及び3選択特例対象宅地等についての本件相続人ら全員の同意を必要とすることは、本件のように遺言書の効力について訴訟で争われている場合には、不可能なことを要求するものであることからすれば、本件申告書にe市土地相続分を選択特例対象宅地等とする旨の本件相続人ら全員の同意を証する書類の添付がなくても本件特例の適用を認めるべきである。
(2) また、租税法については、一般に租税法律主義の見地から、みだりに拡張解釈すべきではなく、本件特例のような例外的減税措置は、該当者が特別の恩恵を受けるものであることから、租税負担公平の原則に照らし、解釈の狭義性、厳格性が要請されるところであり、本件の場合、本件特例を適用するための手続的要件を充足していないことから、本件特例の適用は認められない。 (2) 本件特例は、例外的減税措置とは言い難く、あまねく普及した措置であるから、相続税の申告書に選択特例対象宅地等についての同意を証する書類の添付を要するという手続的要件を厳格に解することは、かえって租税負担の公平性を害することになるほか、事業承継の円滑化等のために規定された本件特例の立法趣旨がいかされないことになる。
 したがって、本件の場合においては、本件申告書にe市土地相続分を選択特例対象宅地等とする旨の本件相続人ら全員の同意を証する書類の添付がなくても本件特例の適用を認めるべきである。

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4 判断

(1) 法令解釈

イ 本件特例は、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等については、一般に、それが相続人等の生活基盤の維持のために欠くことができないものであって、相続人等において事業の用又は居住の用を廃してこれを処分することに相当の制約があるのが通常であることから、相続税の課税上、政策的な観点から一定の減額をすることとしたものである。
 そして、被相続人の親族の事業(不動産貸付業及び準事業等を除く。)の用に供されていた宅地等で、当該親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の事業の用に供している場合には、当該宅地等(400平方メートルまでの部分)は特定事業用宅地等として、相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該宅地等の価額に100分の20を乗じて計算した金額とされる(上記1の(3)のイの(イ)、同ロ及び同ハの(ロ))。また、相続開始の直前において、被相続人の事業(準事業等を含む(上記1の(3)のへ)。)の用に供されていた宅地等で、特定事業用宅地等、特定居住用宅地等及び特定同族会社事業用宅地等に該当しない場合には、相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該宅地等の価額に100分の50を乗じて計算した金額とされる(上記1の(3)のイの(ロ))。
ロ 本件特例の適用対象となる特例対象宅地等のうちいずれを選択特例対象宅地等とするかは、相続人等の自由な選択に委ねられているところ、本件特例の適用を受けるためには、特例対象宅地等のうち本件特例の適用を受けるものの選択について、当該特例対象宅地等を取得した全ての個人からの当該選択についての同意を証する書類の提出が必要とされている(上記1の(3)のホ、同トの(ハ)及び同チの(ロ))。これは、相続税が、被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の総額(同一の被相続人の全ての相続人等に係る相続税の課税価格に相当する金額の合計額から相続税法第16条《相続税の総額》の規定により計算した金額)を計算し、当該総額を基礎としてそれぞれ相続人等に係る相続税額として計算した金額により、課する(同法第11条《相続税の課税》)ものとされ、相続税の課税価格の確定のためには、同一の被相続人に係る全ての相続人等の課税価格が全ての相続人等との関係で同額で確定されなければならないこととあいまって、同一の被相続人に係る相続人等が特例対象宅地等のうち、それぞれ異なる部分を選択して本件特例の適用を受けようとして相続税の課税価格が確定できない結果となることのないよう、同一の被相続人から相続又は遺贈により特例対象宅地等を取得した者がある場合において、当該取得をした全ての者の当該選択についての同意を証する書類を相続税の申告書に添付して提出する旨規定したものと解される。
ハ 加えて、特例対象宅地等が複数あり、当該特例対象宅地等のうち相続税の申告期限までに分割された特例対象宅地等と分割されていない特例対象宅地等がある場合において、当該分割された特例対象宅地等を選択特例対象宅地等とするためには、当該分割されていない特例対象宅地等についても、一定の要件の下、分割が確定することにより本件特例の適用が可能となるのであるから(上記1の(3)のニ)、上記ロで述べた同意(特例対象宅地等を取得した全ての個人からの本件特例の適用を受ける宅地等の選択についての同意)を得る必要のある特例対象宅地等を取得した全ての者には、相続税の申告期限までに分割された特例対象宅地等を取得した者のみならず、分割されていない特例対象宅地等(未分割である特例対象宅地等)が、その後分割され、本件特例を適用する可能性のある者、すなわち、未分割である特例対象宅地等を共有で取得(民法第898条《共同相続の効力》)している者(共同相続人又は包括受遺者)も含まれると解される。
ニ なお、措置法は、本来課されるべき税額を政策的な見地から特に軽減するものであるから、租税負担公平の原則に照らし、その解釈は厳格にされるべきものであり、措置法に規定する文言を離れて、みだりに実質的妥当性や個別事情を考慮して、拡張解釈ないし類推解釈をすることは許されないと解される。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人の事業等の状況について
(イ) 請求人は、厚生労働省に備えられている医師法第5条に規定する医籍に、医師として登録(登録年:昭和○年)されている。
(ロ) 請求人が原処分庁に提出した平成22年分所得税青色申告決算書(一般用)には、事業所所在地はe市g町○−○、業種名は医師、屋号はDである旨が、また、平成22年1月から同年12月までの請求人の医師としての事業に係る損益計算書及び貸借対照表の内訳が、それぞれ記載されている。
(ハ) 請求人は、本件被相続人の生前、請求人の住所地において、本件被相続人と同居し同人と生計を一にしていた。
ロ e市土地の本件相続の開始の直前における利用状況等について
(イ) 本件相続の開始の直前において、e市建物は、請求人によりDの屋号で診療所として事業(医業)の用に供されており(上記イの(イ)及び(ロ))、e市土地は当該事業の用に供されていた診療所(e市建物)の敷地及び診療所の来客用の駐車場の用に供されていた。
(ロ) 請求人は、本件相続の開始時から本件相続税の申告期限まで引き続き、e市土地相続分を有し(上記1の(4)のイの(ニ))、かつ、e市土地を上記(イ)の診療所の敷地等として事業の用に供していた(上記イの(ロ))。
ハ f市土地の本件相続の開始の直前における利用状況について
(イ) 本件被相続人とL社との間で、貸主である本件被相続人と借主であるL社は、f市各建物における平成18年11月10日付で締結した各貸室賃貸借契約の期間満了に伴い、平成20年10月7日付で、要旨、次のとおりのf市各建物について貸室賃貸借契約書(更新第10回目)をそれぞれ作成し、当該各貸室賃貸借契約を更新した。
 なお、当該各貸室賃貸借契約はいずれも、昭和63年6月23日付で、M(本件被相続人の亡夫、平成元年12月○日相続開始。)とL社との間で、Mは、L社が転貸することを承諾の上、f市A建物(6世帯)及びf市B建物(6世帯)をそれぞれL社に賃貸し、L社は、入居者の有無にかかわらずMに対して定額の家賃を保証することを目的として、貸室賃貸借契約及び家賃保証契約書がそれぞれ作成され、各貸室賃貸借契約が締結されたものが、それ以降、順次更新されたものであった。
A f市A建物
(A) 契約期間 平成20年10月1日から平成22年9月30日までの2年間
(B) 賃料 月額 金319,550円
B f市B建物
(A) 契約期間 平成20年10月1日から平成22年9月30日までの2年間
(B) 賃料 月額 金320,450円
(ロ) 本件相続の開始の直前において、f市各建物は、上記(イ)の更新した各貸室賃貸借契約のとおり、それぞれ貸付けの事業の用に供されており、f市土地は、当該f市各建物の敷地及び同各建物の転借人(入居者)の駐車場の用に供されていた。
ニ 特例対象宅地等のうち本件特例の適用を受けるものの選択に係る同意について
(イ) Gは、原処分庁所属の調査担当職員に対し、本件遺言無効確認等訴訟に影響するため、e市土地相続分について本件特例を適用することに同意できない旨申述した。
(ロ) 請求人は、当審判所に対して、Gからは、e市土地相続分について本件特例の適用を受けることに同意すると本件遺言を認めることとなるため、当該同意を得られなかった旨答述した。

(3) 当てはめ

イ 上記1の(4)のイの(ハ)のとおり、本件遺言書には、e市土地相続分及びe市建物相続分の全部を請求人に相続させる旨明記されている。
 ところで、「相続させる」趣旨の遺言は、民法第908条《遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止》にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も当該遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議はなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解されている(最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。
 そうすると、本件遺言は、本件被相続人の相続開始により直ちに請求人にe市土地相続分及びe市建物相続分の全部を承継させようとするものと解するのが相当であるから、e市土地相続分及びe市建物相続分については、本件相続の開始時に直ちに請求人に対し遺産の分割(承継)の効力が発生し、再度の分割がなされる余地はないこととなる(なお、請求人は、e市土地相続分及びe市建物相続分について、本件相続を原因として、本件被相続人から請求人への所有権移転登記を済ませている(上記1の(4)のイの(ニ))。)。
 一方、f市土地相続分は、本件相続税の申告期限において、本件相続人らにおいて遺産分割協議が成立していない(上記1の(4)のイの(ヘ))ことから、当該未分割であるf市土地相続分については、本件相続人ら全員に、同人らの遺産分割協議により取得する可能性が残されている。
ロ 本件被相続人は、本件相続の開始時において、e市土地相続分及びf市土地相続分を有していた(上記1の(4)のイの(ロ))ところ、1e市土地相続分は、本件相続の開始の直前において、本件被相続人と生計を一にしていた親族である請求人によりDの屋号で診療所として事業(医業)の用に供されていた宅地であって、請求人が本件相続の開始時から本件相続税の申告期限まで引き続き当該宅地を所有し(上記1の(4)のイの(ニ))、相続開始前から本件相続税の申告期限まで引き続き当該宅地を請求人の事業(医業)の用に供していた(上記(2)のイ及びロ)のであるから、e市土地相続分は、特定事業用宅地等に該当し、また、2f市土地相続分は、本件相続の開始の直前において、本件被相続人の不動産貸付けの事業の用に供されていた宅地であった(上記(2)のハ)のであるから、f市土地相続分は、特例対象宅地等に該当する。
 したがって、e市土地相続分及びf市土地相続分は、いずれも特例対象宅地等に該当する。
ハ 請求人が本件遺言に基づき本件相続により取得したe市土地相続分に本件特例を適用するためには、特例対象宅地等のうち本件特例の適用を受けるものの選択について、当該特例対象宅地等を取得した全ての個人からの同意を証する書類を提出しなければならないところ(上記(1)のロ)、特例対象宅地等を取得した全ての個人とは、特例対象宅地等が未分割であることから共有で取得され、その後、当該特例対象宅地等が分割される際に、本件特例を適用する可能性のある者も含まれると解されるのであるから(上記(1)のハ)、未分割である特例対象宅地等に該当するf市土地相続分を共有で取得している本件相続人ら全員の同意を証する書類を提出しなければならないこととなる。
 しかしながら、請求人が原処分庁に提出した本件申告書に添付された本件同意書類には、請求人の氏名のみが記載されており、請求人以外の共同相続人全ての氏名が記載されていない(上記1の(4)のロ)のであるから(なお、Gについては、本件遺言無効確認等訴訟を提起し(上記1の(4)のイの(ホ))、e市土地相続分について、本件特例を適用することについて同意をしていないことが明らかである(上記(2)のニ)。)、本件申告書には、措置法施行令第40条の2第3項第3号に掲げる同意を証する書類の添付がされているとはいえず、本件特例の適用要件を欠いている。
 したがって、請求人が特定事業用宅地等である小規模宅地等としたe市土地相続分のうちの400平方メートル(上記1の(4)のロ)については、本件特例を適用することができない。

(4) 請求人の主張について

イ 請求人は、1e市土地相続分に本件特例を適用することが明らかに本件相続人ら全員にとって有利であり、選択特例対象宅地等はe市土地相続分しかあり得ないこと、2e市土地相続分に本件特例を適用することに同意しないGは、本件遺言無効確認等訴訟が終了したときには、e市土地相続分に本件特例を適用することには反対していないこと、及び3選択特例対象宅地等についての本件相続人ら全員の同意を必要とすることは、本件のように遺言書の効力について訴訟で争われている場合には、不可能なことを要求するものであることからすれば、本件申告書にe市土地相続分を選択特例対象宅地等とする旨の本件相続人ら全員の同意を証する書類の添付がなくても本件特例の適用を認めるべきである旨主張する(上記3の「請求人」欄の(1))。
 しかしながら、上記(1)のロのとおり、本件特例を適用するためには、特例対象宅地等のうち本件特例の適用を受けるものの選択について、当該特例対象宅地等を取得した全ての個人の同意を証する書類の提出が必要とされており、請求人が主張するような個別事情がある場合においても、例外的に同意を証する書類の添付が必要でないとする規定はないばかりか、上記(1)のニのとおり、措置法の規定をみだりに拡張解釈することは許されないのであるから、請求人の主張は採用できない。
 加えて、本件特例の適用に当たって、特例対象宅地等を取得した全ての個人の同意を証する書類の添付が求められている趣旨は、上記(1)のロのとおり、同一の被相続人に係る相続人等が特例対象宅地等のうち、それぞれ異なる特例対象宅地等を選択して本件特例の適用を受けようとして、相続税の課税価格が確定できない結果となることがないようにすることにある。
 本件のように分割された特例対象宅地等のほかに未分割である特例対象宅地等があった場合において、本件相続税の申告段階で特例対象宅地等を取得した全ての個人の同意を証する書類の提出がないにもかかわらず、分割された特例対象宅地等に本件特例の適用を認めることは、未分割であった特例対象宅地等が後に分割され、他の特例対象宅地等を選択する相続人がいた場合には、結果として、相続人ごとに課税価格が異なってしまい、当該課税価格を確定できない結果の生じる可能性を認めることにほかならないのであるから、特例対象宅地等を取得した全ての個人の同意を証する書類の添付が求められている趣旨に反することになる。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
ロ さらに、請求人は、本件特例は、例外的減税措置とは言い難く、あまねく普及した措置であるから、相続税の申告書に選択特例対象宅地等についての同意を証する書類の添付を要するという手続的要件を厳格に解することは、かえって租税負担の公平性を害することになるほか、事業承継の円滑化等のために規定された本件特例の立法趣旨がいかされないことになる旨主張する(上記3の「請求人」欄の(2))。
 確かに本件特例の趣旨は、上記(1)のイのとおり、被相続人から相続又は遺贈により取得した宅地等で被相続人等の事業の用に供されていた宅地等は、一般に、それが相続人等の生活基盤の維持のために欠くことができないものであり、当該宅地等の処分に対する制約及び相続人等の事業継続への配慮という政策的な観点から、当該宅地等の課税価格に算入すべき価額を減額し、相続人等の租税負担を軽減することにある。しかしながら、本件特例は、他の財産の課税価格に算入すべき価額の計算と比べて特則あるいは例外規定であるから、このような措置法の規定については、上記(1)のニのとおり、その解釈は厳格にされるべきものであり、法令に規定する文言を離れてみだりに拡張解釈ないし類推解釈をすることは許されない。
 したがって、本件特例の趣旨等から、特例対象宅地等を取得した全ての個人の同意を証する書類の添付がなくとも本件特例の適用が認められるべきであるとする請求人の主張は採用できない。

(5) 本件更正処分について

 上記(3)のとおり、請求人が特定事業用宅地等である小規模宅地等としたe市土地相続分のうちの400平方メートルについては、本件特例を適用することができず、また、上記(4)のとおり、請求人の主張はいずれも採用できないことから、本件特例を適用せずに請求人の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表の「異議決定」の「課税価格」欄及び「納付すべき税額」欄の各金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(6) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は、上記(5)のとおり適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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