(平成26年9月9日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、納税者B(以下「本件滞納者」という。)の滞納国税を徴収するため、審査請求人(以下「請求人」という。)に対して、請求人が本件滞納者から売掛金債権を無償で譲り受けたなどとして国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に基づく第二次納税義務の納付告知処分を行ったところ、請求人が、同条に規定する「受けた利益の限度」の額の算定上、請求人が本件滞納者のために支出した香典代等を控除すべきであるとして、その一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成25年6月18日付で、本件滞納者の別表記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)について、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、E税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ロ 原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第32条《第二次納税義務の通則》第1項及び同法第39条の規定に基づき、請求人に対し、平成25年10月7日付の納付通知書により、納付すべき限度の額を○○○○円、納付の期限を平成25年11月7日とする第二次納税義務の納付告知処分をした。
ハ 請求人は、上記ロの納付告知処分に不服があるとして、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項第2号ロの規定により、平成25年12月3日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件滞納者は、Fが代表取締役を務め、建築工事業を営むG社の監査役であったが、同社の事業継続が困難となったため、同社の事業を引き継ぎ、「H社」の屋号(以下「本件滞納者屋号」という。)を用いて平成18年11月頃から平成25年6月○日までの間、個人事業(とび工事業)を営んでいた。
ロ 請求人は、本件滞納者を代表取締役として、平成25年6月○日に設立され、上記イの本件滞納者の個人事業を引き継いだ。
ハ 請求人は、平成25年6月21日付で、本件滞納者の個人事業の取引先であったJ社に対し、本件滞納者屋号を平成25年6月○日をもって「A社」に変更した旨記載した「社名変更等のお知らせ」と題する書面を送付した。また、請求人は、同月末頃、J社に対して、代金の振込先銀行口座を、従前の本件滞納者名義の普通預金口座から請求人名義の普通預金口座(以下「本件預金口座」という。)に変更する旨記載した「取引名義届出書」と題する書面(以下「本件届出書」という。)を送付した。
ニ J社は、本件届出書が送付された後である平成25年7月5日に、本件預金口座に○○○○円を振り込んだ。なお、当該金員は本件滞納者の個人事業の売掛金に係る振込金であった。
ホ J社は、平成25年7月25日及び同年8月5日に、本件預金口座にそれぞれ○○○○円及び○○○○円の合計○○○○円を振り込んだ。なお、これらの金員のうち○○○○円は、本件滞納者の個人事業の売掛金(上記ニの売掛金と併せて、以下「本件売掛金債権」という。)に係る振込金(上記ニの振込金と併せて、以下「本件各振込金」という。)であった。
ヘ 請求人は、本件滞納者の個人事業に係る次の必要経費(合計額414,851円)を支払った。
(イ) 人件費 361,000円
(ロ) 電気代 40,365円
(ハ) 通信費 11,806円
(ニ) 上下水道料金 1,680円
ト 請求人は、Fの母であるKが平成25年7月○日に死亡したことに伴い、本件滞納者を通じて、同月21日にFの長男に対して香典代及び葬儀代として200,000円を支払い、また、同月25日にL社に対して花輪代及び缶詰代として42,000円を支払った(以下、これらの金員を併せて「本件香典代等」という。)。
チ 原処分庁は、請求人が、本件届出書をJ社に送付した時点で、本件売掛金債権を本件滞納者から無償で譲り受けたとした上で、この無償譲渡により請求人が「受けた利益の限度」の額(徴収法第39条)は、本件売掛金債権について実際に振込みを受けた本件各振込金の合計額○○○○円から上記ヘの請求人が本件滞納者のために支払った個人事業に係る必要経費の合計額414,851円を控除し、当該金額に本件滞納者が請求人のために支払った車両代金○○○○円を加算した金額○○○○円であると認定して、原処分を行った。

(5) 争点

 徴収法第39条に規定する「受けた利益の限度」の額の算定上、本件香典代等を控除すべきか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

イ 徴収法第39条の第二次納税義務を負う者が親族その他の特殊関係者である場合においては、同条に規定する「受けた利益の限度」の額は、無償譲渡等の処分がされた時の受益財産の価額から、無償譲渡等の処分による財産取得のために支払った対価及びその取得のために支払った費用のうち、直接関係のあるものを控除した額であると解される。
 そして、「受けた利益の限度」の額は、受益の時点を基準として算定すべきものであるから、その算定上控除すべき費用は、受益の時点においてその存否及び数額が法律上客観的に確定しているものであることを要すると解される。
ロ 本件売掛金債権に係る本件預金口座への振込みは、請求人が、J社に対し、本件滞納者屋号(H社)を請求人の商号(A社)に変更した旨の通知を送付した上で、振込銀行口座を本件預金口座に指定する旨記載した本件届出書を送付したことに基因していると認められるから、本件届出書の送付の時点(平成25年6月末頃)において、本件滞納者が請求人に対して本件売掛金債権の無償による譲渡をしたというべきである。
 そして、本件香典代等は、本件滞納者の個人事業に関連する費用ではなく、かつ、Kの死亡は平成25年7月○日であり、本件売掛金債権の無償による譲渡に係る受益の時点(同年6月末頃)において、本件香典代等の存否及び数額が法律上客観的に確定しているとはいえないから、本件香典代等は、同債権譲渡に係る「受けた利益の限度」の額の算定上、控除すべきでない。

(2) 請求人

 本件滞納者が数十年来事業上関わってきたFの母であるKが平成25年7月○日に死亡したことに伴い、請求人は、本件滞納者を経由して、Fの長男に対し、香典代及び葬儀代の立替金として200,000円を支出した。また、葬儀に当たり本件滞納者の名前で支出した花輪代及び缶詰代の合計42,000円についても、請求人が支出したものである。
 そうすると、本件香典代等の支出は、請求人が本件滞納者に利益を与える行為であり、個人事業に係る経費であるから、「受けた利益の限度」の額の算定上、本件香典代等を控除すべきである。

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3 判断

(1) 争点について

イ 法令解釈
 徴収法第39条の第二次納税義務の制度は、租税負担の公平及び租税徴収の確保を図る趣旨から、納税者(滞納者)の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足することが本来の納税者の納付すべき国税の法定納期限の1年前の日以後になした無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときに、実質的に納税者にその財産が帰属していると認めて、財産を取得し、債務を免れ、あるいは、利益を受けた第三者に納税者の納税義務を負担させるものである。
 このような第二次納税義務の制度の趣旨に鑑みれば、徴収法第39条に規定する「受けた利益の限度」の額については、譲り受けた財産の額、免れた債務の額、又は享受した利益の額から、これらと直接の対価関係にあると認められる支出又は負担を控除した残額をいうものと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、上記1(4)ロ、ハ、ニ及びホのとおり、本件滞納者の個人事業を引き継ぎ、本件滞納者は、請求人に対し、請求人が設立された平成25年6月○日から本件届出書がJ社に送付された同年6月末頃までの間に、本件売掛金債権を譲渡した。
(ロ) なお、本件売掛金債権の譲渡に関し、請求人と本件滞納者との間で、請求人が何らかの対価を支出若しくは負担したり又は何らかの対価を支出若しくは負担する旨の合意はなかった。
ハ 当てはめ
 上記ロのとおり、本件滞納者が請求人に対して本件売掛金債権を譲渡する際、請求人は本件滞納者との間で何らかの対価を支出又は負担しておらず、本件滞納者は本件売掛金債権を請求人に無償で譲渡したものと認められる。
 これに対し、請求人は、本件香典代等の支出は、請求人が本件滞納者に利益を与える行為であり、個人事業に係る経費であるから、本件滞納者から「受けた利益の限度」の額の算定上、本件香典代等を控除すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、徴収法第39条に規定する「受けた利益の限度」の額については、譲り受けた財産の額、免れた債務の額、又は享受した利益の額から、これらと直接の対価関係にあると認められる支出又は負担を控除した残額をいうところ、本件香典代等の支出は本件売掛金債権の譲渡と直接の対価関係にあるとは認められないことから、請求人の主張には理由がない。

(2) 原処分について

 以上によれば、本件の争点について、これを取り消すべき理由はなく、原処分は適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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