(平成26年10月9日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、エスカレーター部品の輸入に際し、輸出者を作成者とするインボイスに記載された金額に基づき、輸入貨物に係る消費税及び地方消費税について申告したところ、原処分庁が、当該金額について、当該部品に係る代金としての請求人の支払金額に比して不足額が認められるとして、消費税及び地方消費税の更正処分を行うとともに、請求人が適正な課税価格を明らかにする書類を隠匿し、事実を隠ぺいしたとして、重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該書類を隠匿しておらず事実の隠ぺいには該当しないとして、当該賦課決定処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、エスカレーター部品の中華人民共和国(以下「中国」という。)からの輸入に際し、輸入貨物に係る消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、平成22年6月8日に、原処分庁から委任を受けたF税関e出張所長(以下「e出張所長」という。)に対して、次表の「当初申告」欄のとおりとする輸入(納税)申告(以下「本件申告」といい、本件申告により輸入されたエスカレーター部品を「本件貨物」という。)をした。

 区分

 項目

当初申告

更正処分等

年月日

(申告番号)

平成22年6月8日

(○○○○)

平成25年4月24日

消費税の課税標準額

○○○○円

○○○○円

納付

すべき

税額

消費税額

○○○○円

○○○○円

地方消費税額

○○○○円

○○○○円

重加算税の額

 

○○○○円

(注)「消費税の課税標準額」欄の金額は、1,000円未満の端数を切り捨てた金額を示し、「更正処分等」の「地方消費税額」欄の金額は、100円未満の端数を切り捨てた金額を示す。

ロ 請求人は、本件申告に係る申告書において、中国所在の貿易商社であるG社を本件貨物の輸出者(仕出人)とするとともに、1「COMMERCIAL INVOICE」と題する書類(以下「本件インボイス」という。)、2「BILL OF LADING」と題する書類(以下「本件船荷証券」という。)、3「PACKING LIST」と題する書類(以下「本件包装明細書」という。)及び4「ARRIVAL NOTICE」と題する書類(以下「本件貨物到着案内通知」といい、本件インボイス、本件船荷証券及び本件包装明細書と併せて「本件通関添付書類」という。)を添付し、本件インボイスに記載された本件貨物の代金額に運賃の額を加算した金額を本件貨物の課税価格(関税の課税標準となる価格をいう。以下同じ。)として、当該課税価格を基に納付すべき消費税等の額を計算していた。なお、当該申告書において、通関業者であるM社(以下「本件通関業者」という。)が、請求人の代理人とされていた。
ハ e出張所長は、上記イの本件申告に対し、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査に基づき、平成25年4月24日付で、上記イの表の「更正処分等」欄のとおりの消費税等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 なお、請求人は、本件貨物の購入に係る発注先であった中国所在のH社から受領した価格明細表(以下「本件価格明細表」という。)及び支払説明書(以下「本件支払説明書」といい、本件価格明細表と併せて「本件価格明細表等」という。)を有していたところ、e出張所長は、本件インボイスに記載された本件貨物の代金額について、本件価格明細表等に基づき本件貨物に係る代金としての請求人の支払金額に比して不足額が認められるとして、本件更正処分において、当該不足額を本件貨物の課税価格に算入すべきとし、当該算入した後の課税価格を基に納付すべき消費税等の額を計算した。
ニ 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成25年6月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月20日付で、いずれも棄却の異議決定をし、異議決定書の謄本は同月25日に請求人に送達された。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の上記ハの各処分のうち、本件賦課決定処分に不服があるとして、平成25年10月22日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、同法第65条(輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律第19条《過少申告加算税等の特例》の規定による読替え後のもの。以下同じ。)《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
ロ 消費税法(平成25年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)第28条《課税標準》第3項は、保税地域から引き取られる課税貨物に係る消費税の課税標準は、当該課税貨物につき関税定率法(平成25年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)第4条《課税価格の決定の原則》から第4条の8《政令への委任》まで(課税価格の計算方法)の規定に準じて算出した価格に当該課税貨物の保税地域からの引取りに係る消費税以外の消費税等(通則法第2条《定義》第3号に規定する消費税等をいう。)の額及び関税の額に相当する金額を加算した金額とする旨規定している。
ハ 消費税法第47条《引取りに係る課税貨物についての課税標準額及び税額の申告等》第1項は、関税法第6条の2《税額の確定の方式》第1項第1号に規定する申告納税方式が適用される課税貨物を保税地域から引き取ろうとする者は、引取りに係る消費税を免除されるべき場合を除き、1当該引取りに係る課税貨物の品名並びに品名ごとの数量及び課税標準である金額、2課税標準である金額に対する消費税額及び当該消費税額の合計額、3上記1及び2に掲げる金額の計算の基礎その他財務省令で定める事項を記載した申告書を税関長に提出しなければならない旨規定している。
ニ 関税定率法第4条第1項は、輸入貨物の課税価格は、所定の場合を除き、当該輸入貨物に係る輸入取引がされた時に買手により売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格(以下「現実支払価格」という。)に、その含まれていない限度において同項各号に掲げる運賃等の額を加えた価格とする旨規定している。

(4) 争点

 本件の争点は、本件申告に際して、本件貨物の適正な課税価格を明らかにする書類の一部を本件通関業者に送付しなかったことが、事実の隠ぺいに該当するか否かである。

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件申告に際して、次のとおり、請求人が本件貨物の適正な課税価格を明らかにする書類の一部を本件通関業者に送付しなかったことは、事実の隠ぺいに該当する。
イ 書類の隠匿の事実の有無について
 請求人は、本件貨物の課税価格となるべき現実支払価格が、本件申告の前に入手していた本件価格明細表等によって示されていることを認識していたと認められ、このことは、請求人が現に本件支払説明書に従って、本件貨物に係る支払を行っていることからも明らかである。
 そして、請求人は、本件インボイスに記載された本件貨物の代金額が現実支払価格に比べ著しく過少であり、本件インボイスが課税価格決定の資料として不十分であることを認識していたものと認められるにもかかわらず、本件通関業者に本件船荷証券及び本件包装明細書のほか、本件貨物の課税価格に係る資料として、本件インボイスを送付していたのに、あえて本件価格明細表等を送付せず、もって不適正な本件申告を行ったことは書類の隠匿に該当する。
ロ 行為の認識について
 重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の一部を隠ぺいし、その隠ぺい行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、事実について隠ぺいを行ったとの認識があれば、その後の申告に際し、過少申告をすることについての認識までは必要ではないことから、課税価格である輸入貨物の価格に計上漏れがあるという事実の認識があれば、重加算税の要件を満たすことになる。
 そして、本件貨物の価格を示す資料が何であるかは、売買の当事者である請求人は当然認識しているものであり、高度な知識であるとはいえず、また、課税価格の決定方法の原則は、端的に言えば輸入貨物の価格が消費税の課税標準に含まれるということであるから、本件の場合、H社に対する本件貨物の支払金額が消費税の課税標準に含まれるということは、高度な知識に当たるものではなく、請求人が長年にわたって輸入を行っていることからすると、通関業務を通関業者へ一任していたとしても、請求人にこの程度の知識がなかったと考えるのは不合理である。
 さらに、請求人がH社から受領した書類を本件通関業者にそのまま送付していたというのであれば、本件価格明細表等も送付しているはずなのに、実際には送付されていない。請求人は、本件貨物及びそれ以外の貨物の輸入取引に関してH社から受領した各書類を通関官署別に仕分して、当該各書類の中から税関に提出する書類を通関業者にそれぞれ送付しているところ、書類の意味、内容を理解の上でなければそのような作業はできない。
 そうすると、本件において、請求人は、本件申告のために税関に提出される本件インボイスに記載された本件貨物の代金額が本件貨物に係る代金としての請求人の支払金額の一部にすぎないことを認識していたといえるので、請求人には、本件申告に際して、本件価格明細表等を本件通関業者に送付しなかったことが事実を隠ぺいする行為であるとの認識があったものと認められる。

(2) 請求人

 本件申告に際して、請求人は、次のとおり、本件貨物の適正な課税価格を明らかにする書類を隠匿していないことから、当該書類の一部を本件通関業者に送付しなかったことは事実の隠ぺいに該当しない。
イ 「隠匿」の意味内容についての私法上の解釈は、「一般的には人又は物を隠して、他人の発見を妨げる行為」とされている。請求人は、そもそも原処分庁の主張する「書類の隠匿」における「隠匿」の定義(意味内容)に当てはまるような事実に全く心当たりがなく、請求人が本件貨物に係る代金としての支払金額を示す本件価格明細表等を本件通関業者に送付しなかったために適正な申告がなされなかったという事実は、何ら「隠匿」の定義に該当する事実ではない。
ロ また、H社から請求人に対してファックスで送付された本件価格明細表等は、本件船荷証券、本件包装明細書、本件インボイスとともにパイプ式ファイル冊子につづられており、本件調査担当職員による調査において、何の不自然さもなく素直に当該パイプ式ファイル冊子を提示しているのであるから、請求人に書類の隠匿の事実はない。

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3 判断

(1) 法令解釈

 通則法第68条に規定する重加算税は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出しているときに課されるものであるところ、ここでいう「事実を隠ぺいする」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠ぺいし又は故意に脱漏することをいい、また、「事実を仮装する」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうものと解するのが相当である。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、本件貨物を含むエスカレーター部品の輸入取引を、H社との間で行っていたところ、このうち本件貨物の輸入取引に係る経緯等は以下のとおりであった。
(イ) 請求人は、平成22年5月11日、H社に対し、本件貨物であるJ社f店に設置されたエスカレーター2台分の手すりに加え、本件貨物とは別に、J社g店に設置されたエスカレーター2台分の手すり(以下「g店分貨物」という。)を併せて発注した。
(ロ) 請求人は、平成22年5月11日、H社から、上記(イ)により発注した本件貨物及びg店分貨物に係る本件価格明細表をファックスで受け取った。
 本件価格明細表には、要旨、本件貨物について、数量4本、価格○○○○人民元(以下、人民元を「元」という。)、運送費用○○○○元、合計○○○○元と、g店分貨物について、数量4本、価格○○○○元、運送費用○○○○元、合計○○○○元と、それぞれ記載されており、平成22年5月18日付で請求人の海外事業部(現:○○。以下同じ。)所属のN(以下「N担当者」という。)の確認印が押印されている(以下、本件貨物分の○○○○元及びg店分貨物分の○○○○元の合計○○○○元を「本件取引総額」という。)。
(ハ) 請求人は、平成22年5月19日、本件貨物及びg店分貨物を購入することにつき、「材料・部品調達依頼書(海外)」と題する書類により、社内の決裁を了した。この「材料・部品調達依頼書(海外)」には、「f店RMB○○○○、g店RMB○○○○、運送費用RMB○○○○、合計RMB○○○○(約JP\○○○○)」(RMBとは元、JP\とは日本円を示す。)の記載があり、その合計額は、上記(ロ)の本件価格明細表記載の金額の合計額である本件取引総額と一致しており、「海外部承認」欄にN担当者の承認印が押印されている。
(ニ) 請求人は、平成22年6月2日、H社から、本件貨物及びg店分貨物に係る本件支払説明書並びに本件貨物に係る本件インボイスをファックスで受け取った。
 本件支払説明書には、作成者としてH社の名称とともに、貨物の価格の合計○○○○元の記載があり、この金額は本件取引総額と一致しており、また、このうち日本円で○○○○円をG社に、残りの金額をH社にそれぞれ支払うよう求める旨の記載がある。一方、本件インボイスには、作成者としてG社の名称とともに、本件貨物に係る契約番号、品名、数量及び単価に関する記載があり、総額として「JPY○○○○」と記載されている。
(ホ) 請求人は、平成22年6月3日、H社から、本件船荷証券及び本件包装明細書をファックスで受け取った。
(ヘ) 請求人は、平成22年6月3日、本件通関業者に対し、本件インボイス、本件船荷証券及び本件包装明細書とともに、本件貨物の海上輸送者であったK社から同月2日にファックスで受け取った本件貨物到着案内通知をファックスで送付したが、本件価格明細表等については、いずれも送付しなかった。
(ト) 本件通関業者は、平成22年6月8日、上記(ヘ)において請求人から受け取った本件通関添付書類を添付した上で、上記1の(2)のイ及びロのとおり、請求人の代理人として本件申告に係る申告書を提出した。
 本件申告に係る申告書において、本件貨物の課税価格は、本件インボイスに記載された代金額○○○○円に運賃の額として○○○○円を加えた額○○○○円とされており、本件支払説明書においてH社に対して支払うよう求められた金額のうち本件貨物に係るものについては、本件通関添付書類のいずれにも記載がなく、また、本件貨物の課税価格に算入されていなかった。  なお、g店分貨物については、請求人が平成22年6月8日にL税関長から委任を受けたL税関h出張所長に対し輸入(納税)申告をした。
(チ) 請求人は、本件価格明細表等においてH社から示された本件貨物及びg店分貨物の代金である本件取引総額の○○○○元について、平成22年6月16日にG社に対して○○○○円を支払い、また、同年7月26日にH社に対して○○○○元を支払うなどして代金決済を行った。
 なお、請求人が各支払の際に作成した海外送金取組依頼書兼告知書の控えには、各支払日と同日付で、N担当者の確認印がそれぞれ押印されている。
ロ 本件調査担当職員による調査において、本件調査担当職員が請求人にH社との間の輸入取引に関する資料の提示を求めたところ、請求人は本件調査担当職員に対して、1冊のパイプ式ファイルを提示した。当該パイプ式ファイルの中には本件貨物に係るものを含めてH社との間で行われた取引ごとに、請求人内部での事務処理のために作成された書類とともに、H社及び通関業者等との間で電子メールにより送受信され、あるいはファックスにより受け取った書類の写しがまとめてつづられており、このうち本件貨物に係る取引に関しても、本件通関添付書類及び本件価格明細表等のほか、上記イの(ハ)において決裁を了した「材料・部品調達依頼書(海外)」、同イの(チ)の各支払に係る海外送金取組依頼書兼告知書の控えの各書類の写しがつづられていた。
ハ 請求人の代表取締役社長Eは、本件調査担当職員に対して、要旨次のとおり申述した。
(イ) 請求人の海外事業部は、海外から○○やエスカレーターの部品等を輸入する業務の窓口となっており、その通関業務については海外事業部に任せきりとなっていた。
(ロ) N担当者は、平成16年頃に入社し、海外事業部においては8年ぐらい業務を行っており、平成19年頃から海外事業部課長として、また、平成24年3月からは海外事業部係長として海外事業部の責任者をしている。
ニ N担当者は、本件調査担当職員及び当審判所に対して、要旨次のとおり申述及び答述した。
(イ) 請求人は、H社からエスカレーター部品等を輸入する取引をしており、当該取引に関する請求人における事務の流れはおおむね以下のとおりである。
A H社に発注した後、同社から見積書に当たる価格明細表がファックスで送られてくるので、それを「材料・部品調達依頼書(海外)」に添付し社内りん議を行う。
B その後、インボイス、B/L、パッキングリスト、アライバルノーティス及び送金内訳書がファックスで送られ、貨物が海上貨物で届くので、税関に申告するための通関書類を通関業者にファックスで送付し通関を依頼する。
C また、代金支払の管理は、上記Aにより承認を得た「材料・部品調達依頼書(海外)」を基に支払予定表を作成して行っており、H社からファックスで送られてきた送金内訳書に記載された依頼どおりに送金処理を行う。
(ロ) 本件貨物に係る取引についても上記(イ)と同様の流れであり、私が発注、船積書類の入手、通関業者へのファックス送信及び現場の納品指示を行った。
(ハ) 私は、輸入貨物に係る税関への申告手続を通関業者に依頼するに当たって、インボイス、B/L、パッキングリスト及びアライバルノーティスの4種類の書類を通関業者に渡せばよいと考えていた。
(ニ) 私は、H社から送られてきた通関書類について、内容を確認することなく、1枚目のB/Lだけを見て、その他を添付して、通関業者にファックスで送付した。これらの書類は、通関に必要な書類であり、チェックするための書類ではないので、本件インボイスに記載された金額についても、確認していないし、確認していないのでどのような金額であるのか分からない。社内の経理においてもインボイスに記載された金額に基づいて支払処理はされておらず、インボイスについて通関用の書類という認識しかなかった。仮に、本件インボイスの金額欄が空欄であれば気付いて連絡していたと思うが、その程度の認識しかなかった。
(ホ) 私は、税関の申告における課税標準額が、どのように計算されるか知らなかった。税関からも通関業者からも指導を受けたことはなかったからであり、通関についてのセミナーを受講したこともなかった。
ホ 本件通関業者の担当者は、上記イの(ヘ)の請求人からの書類の受取に関し、当審判所に対し要旨次のとおり答述した。
(イ) 通常、インボイスに記載された金額が輸入貨物の適正な価格であるかの確認については、社内の通関チームでチェックを行っており、ある程度の相場観は持って疑いがあれば輸入者に確認することになる。しかしながら、本件貨物については、特殊な部品であり、2ピースで○○○○円が安いかどうかの判断は難しい。
(ロ) 本件インボイスの記載内容のうち、荷揚地及び原産地に係る記載については請求人に確認したが、インボイス価格の記載については、おかしなところがないので、確認していない。

(3) 当てはめ

イ 本件貨物の輸入取引に係る経緯等について上記(2)のイの各事実が認められることに加え、上記1の(2)のロのとおり本件申告に係る申告書において本件通関業者が請求人の代理人とされていたことからすると、請求人は、本件貨物の輸入取引に際して本件申告に係る手続を本件通関業者に委託し、また、本件通関業者は、請求人の委託を受けて本件通関添付書類に基づいて本件貨物の課税価格を計算し、請求人の代理人として本件申告に係る申告書を作成したと認められる。さらに、本件通関業者の担当者が当審判所に対して上記(2)のホのとおり答述していることからすると、本件通関業者は、本件通関添付書類の記載内容に疑義を持たず、本件申告に係る申告書において、本件貨物の課税価格を、本件通関添付書類のうち本件インボイスに記載された代金額を基礎として計算したものと認められる。
 一方、請求人は、本件通関業者に本件通関添付書類を送付した上記(2)のイの(ヘ)の時点において、既にH社から本件取引総額が記載された本件価格明細表等を同イの(ロ)及び(ニ)のとおり受け取っていたのであるから、同イの(ト)の本件申告において、本件貨物の課税価格に、本件取引総額のうち本件インボイスに記載された金額以外の本件貨物の課税価格に算入すべき金額が含まれていなかったことは、請求人が、本件取引総額を示す書類として、本件通関業者に本件インボイスのみを送付し、本件価格明細表等を送付しなかったことに起因して生じた結果であったと認められる。
 そして、重加算税の賦課要件のうち、「事実の隠ぺい」については、上記(1)のとおり、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠ぺいし又は故意に脱漏することをいうのであり、本件取引総額は本件貨物の適正な課税価格の計算の基礎となるのであるから、本件において、請求人が、本件取引総額を示す書類として、本件通関業者に本件インボイスのみを送付し、本件価格明細表等を送付しなかったことが「事実の隠ぺい」に該当するというためには、請求人が本件取引総額を意図的に漏れ落としていたものであることを要すると解される。
ロ そこで、請求人が、本件取引総額を示す書類として、本件通関業者に本件インボイスのみを送付し、本件価格明細表等を送付しなかったことが、本件取引総額を意図的に漏れ落としていたものであったか否かについて判断すると、次のとおりである。
(イ) 請求人は、上記(2)のイの(イ)のとおり、H社に対して本件貨物の購入を発注し、これに対してH社から受け取った本件価格明細表において、同イの(ロ)のとおり、本件取引総額の一部として、本件貨物の価格、運送費用の額とともにその合計金額○○○○元が記載されており、これを受けて請求人において、本件価格明細表に記載された金額を基に、同イの(ハ)のとおり、「材料・部品調達依頼書(海外)」を作成し、社内における決裁を了していたことからすると、請求人は、この時点において、本件取引総額が本件価格明細表に記載されていることを認識していたと認められる。また、請求人は、同イの(ニ)及び(ヘ)のとおり、本件通関添付書類を本件通関業者に送付した時点において、既にH社から本件支払説明書を受け取っていたことからすると、請求人は、この時点において、H社の依頼に基づいて、同社及びG社に対してそれぞれ支払うこととなる金額についても把握していたと認められる。
(ロ) しかしながら、請求人が、本件貨物の購入に際して受け取ったインボイスは、G社を作成者とする本件インボイスのみであり、H社から他に「Commercial Invoice」と題する書類を受け取った事実は認められない。そして、請求人において行われる輸入取引に係る業務等について、請求人の代表者及びN担当者は上記(2)のハ及びニのとおり申述等をしたところ、その内容は、上記(2)のイの各事実と整合するものと認められ、また、これら各事実と相違すると認めるに足る証拠もない。そうすると、輸入貨物に係る税関への申告手続を通関業者に任せていた請求人が、通関に当たって必要とされる書類を、1インボイス、2B/L(船荷証券)、3パッキングリスト(包装明細書)及び4アライバルノーティス(貨物到着案内通知)の4種類の書類であると認識し、本件貨物に係る税関への申告手続を本件通関業者に対して依頼する際においても、これらの4種類の書類が必要であると判断して、本件通関添付書類のみを本件通関業者に送付したとしても、不自然な行動であったとは認められず、また、請求人が、本件通関業者によって作成される本件申告に係る申告書の内容を意識した上で本件インボイスのみを送付したとまで認めることもできない。
(ハ) さらに、上記(2)のロのとおり、請求人が、本件インボイス及び本件価格明細表等を含む本件貨物に係る取引内容を示す各書類を1冊のパイプ式ファイル内に保管し、本件調査担当職員の求めに応じて、当該パイプ式ファイルを提示したことを併せ考慮すると、請求人が、本件通関業者に本件インボイスのみを送付し、本件価格明細表等を送付しなかったことは、本件取引総額を意図的に漏れ落とすものであったとは認められない。
ハ 以上のことからすると、請求人が、本件取引総額を示す書類として、本件通関業者に本件インボイスのみを送付し、本件価格明細表等を送付しなかったことをもって、事実の隠ぺいがあったということはできない。

(4) 原処分庁の主張について

 原処分庁は、請求人が、本件貨物の課税価格となるべき現実支払価格が本件価格明細表等によって示されていることを認識し、また、本件インボイスに記載された代金額が現実支払価格に比べて著しく過少であり、本件インボイスが課税価格決定の資料として不十分であることを認識していたにもかかわらず、本件通関業者に対して、本件インボイスを送付し、あえて本件価格明細表等を送付しなかったことは書類の隠匿に該当し、さらに、請求人には事実を隠ぺいする行為であるとの認識があったのであるから、事実の隠ぺいに該当する旨主張する。
 しかしながら、上記(3)のロの(ロ)のとおり、請求人が、本件通関業者によって作成される本件申告に係る申告書の内容を意識した上で本件インボイスのみを送付したとまでは認定できないのであって、当該認定を覆すに足る証拠も認められないことからすると、原処分庁の主張は理由がない。

(5) 本件賦課決定処分について

 本件賦課決定処分については、上記(3)のとおり、請求人が、本件取引総額を示す書類として、本件通関業者に本件インボイスのみを送付し、本件価格明細表等を送付しなかったことをもって、事実の隠ぺいがあったということはできず、他に請求人において本件貨物に係る消費税等に関して事実を隠ぺい又は仮装したと評価すべき行為があったとは認められないから、重加算税の賦課要件を満たさないものである。  一方、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、過少申告加算税の賦課要件は満たしていることとなるところ、この場合の過少申告加算税に相当する金額は、同条第1項並びに地方税法第72条の100《貨物割の賦課徴収等》及び第72条の106《貨物割に係る延滞税等の計算》の規定によれば○○○○円と計算されるものの、通則法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項括弧書の規定により、その全額が切り捨てられることとなるから、本件賦課決定処分はその全部を取り消すのが相当である。

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