(平成26年10月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、納税者G社(以下「本件滞納法人」という。)の滞納国税を徴収するため、審査請求人(以下「請求人」という。)に対して、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》に規定する譲渡担保権者の物的納税責任に関する各告知処分及び債権の各差押処分をしたところ、請求人が、原処分庁が譲渡担保財産であると主張する債権の一部は担保の目的で譲り受けたものではなく、また、国税通則法(平成26年法律第69号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第77条《不服申立期間》第1項の期間内に審査請求をしなかったことについてはやむを得ない理由があったなどとして、原処分1、同3、同4、同6及び同7の全部並びにその余の原処分の一部の取消しを求めた事案である。


(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

イ 請求人は、平成6年11月○日に設立された株式会社であり、平成24年11月27日に旧商号H社から現商号に変更した。また、請求人は、平成17年7月11日から現在の本店所在地に移転することとなった平成25年4月5日までは、e市f町○−○を本店所在地としていた。
ロ 原処分庁は、平成24年12月11日、同月12日及び同月13日付で、本件滞納法人の滞納国税を徴収するため、本件滞納法人とJ社、K社及びL社(これら3社を併せて「本件第三債務者ら」という。)との間における取引により発生した別表1の「譲渡担保財産」欄記載の各債権(紳士服販売代金の支払請求権)を、本件滞納法人の財産として、それぞれ差し押さえた。
ハ 原処分庁は、その後の調査により、別表1の「譲渡担保財産」欄記載の各債権が、いずれも徴収法第24条第1項に規定する譲渡担保財産に該当するとして、同条第4項の規定に基づき、上記ロの本件滞納法人の財産としてした各差押処分を同条第3項の規定による差押えとして滞納処分を続行するとともに、平成25年1月25日付で、請求人に対して、別表1のとおり譲渡担保権者の物的納税責任に関する各告知処分をした(以下、別表1の順号1ないし3の各告知処分を併せて「本件各告知処分」といい、本件各告知処分に係る告知書を併せて「本件各告知書」という。)。
ニ 本件第三債務者らは、それぞれ自社が負担する別表1の「譲渡担保財産」欄記載の各債権について、平成24年12月4日に請求人を譲受人とする確定日付のある債権譲渡通知書の送達を受けたが、当該各債権には譲渡禁止特約が付されており、これについて譲受人である請求人の善意、悪意が不明であり真の債権者を確知できないとして、本件滞納法人との取引において支払うべき金額の相当額を供託した。
 そこで、原処分庁は、本件第三債務者らが上記のとおり供託した別表2の「差押財産の概要」欄記載の各供託金還付請求権が本件各告知処分に係る譲渡担保財産に当たるとして、徴収法第24条第3項の規定に基づき、請求人を第二次納税義務者とみなして、別表2の「処分の日付」欄記載の各日付(平成25年2月14日から同年5月29日までの間)で当該各供託金還付請求権の各差押処分をした(以下、別表2の順号1ないし5の各差押処分を併せて「本件各差押処分」といい、本件各差押処分に係る各差押調書謄本を併せて「本件各謄本」という。また、本件各差押処分と本件各告知処分を併せて「本件各処分」といい、本件各告知書と本件各謄本を併せて「本件各告知書等」という。)。
ホ 請求人は、本件各処分に不服があるとして、平成26年4月15日に審査請求(以下「本件審査請求」という。)をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 通則法第12条《書類の送達》第2項は、通常の取扱いによる郵便によって同条第1項に規定する書類(国税に関する法律の規定に基づいて税務署長その他の行政機関の長又はその職員が発するもの)を発送した場合には、その郵便物は、通常到達すべきであった時に送達があったものと推定する旨規定している。
ロ 通則法第77条第1項は、不服申立て(同法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第3項及び第5項の規定による審査請求を除く。)は、処分があったことを知った日(処分に係る通知を受けた場合には、その受けた日)の翌日から起算して2月以内にしなければならない旨規定している。
ハ 通則法第77条第3項は、天災その他同条第1項の期間内に不服申立てをしなかったことについてやむを得ない理由があるときは、不服申立ては、これらの規定にかかわらず、その理由がやんだ日の翌日から起算して7日以内にすることができる旨規定している。
ニ 通則法第77条第6項は、国税に関する法律に基づく処分をした者が誤って法定の期間より長い期間を不服申立期間として教示した場合において、その教示された期間内に不服申立てがされたときは、当該不服申立ては、法定の期間内にされたものとみなす旨規定している。

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2 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 本件各告知書について
(イ) 原処分庁は、平成25年1月25日、簡易書留郵便により、請求人に対して本件各告知書を発送した。
(ロ) 本件各告知書には、いずれも、「貴社が、この告知について不服があるときは、この通知書を受けた日の翌日から起算して2月以内に、F国税局長あてに対する異議申立てと国税不服審判所長に対する審査請求とのいずれかを選択することができます。」との記載がされていた。
ロ 本件各謄本について
(イ) 原処分庁は、別表2の「差押調書謄本の発送日等」欄記載の日に、いずれも普通郵便により、請求人に対して本件各謄本を発送した。
 なお、本件各謄本のうち、別表2の順号5に係るものは、当該処分時(平成25年5月29日)における請求人の本店所在地(現在の本店所在地)ではなく、旧本店所在地(e市f町○−○)に向けて発送された。
(ロ) 本件各謄本には、いずれも、「あなたがこの差押えについて不服があるときは、この通知を受けた日の翌日から起算して2月以内にF国税局長に対する異議申立てと国税不服審判所長(中略)に対する審査請求とのいずれかを選択して不服申立てをすることができます。」との記載がされていた。
ハ 原処分庁所属の徴収担当職員による請求人の代表者との電話応接について
 原処分関係資料には、平成25年3月21日、請求人の代表者であるE(以下「E代表」という。)からF国税局に電話があり、原処分庁所属の徴収担当職員が電話応接をした事実(以下、当該応接を「本件応接」という。)及び本件応接の概要が記録されている。当該記録には、E代表は当該徴収担当職員に対して、1 供託金の差押えに係る通知書と平成25年1月25日付の譲渡担保権者の物的納税責任に関する通知書数通が届いている旨、2これらの書面には異議申立期間が2か月であると記載されているが、現在、破産管財人弁護士と協議中であり、破産管財人も本件の全容を把握できていない状況にあり納税できる状況にはなく、また、異議申立てをする準備もできていない旨、3納税を催告されても実質的に本件滞納法人から担保財産の入金があった訳ではなく、供託されているので納付資金はない旨、及び4本件については面倒なことになり困っている、破産管財人の処理方針が最優先されると考えている旨を述べたこと、一方、当該徴収担当職員は、E代表に対して、滞納処分の手続を遂行する旨伝えたこと等が記載されている。なお、上記以外に、平成25年3月中に原処分庁所属の徴収担当職員がE代表と応接した記録は認められない。
ニ 原処分庁所属のMの申述等について
(イ) 原処分庁所属のM(以下「本件徴収担当職員」という。)は、平成26年5月14日、当審判所からの電話による照会に対して、要旨、次のとおり回答した。
A 本件徴収担当職員は、本件滞納法人の滞納整理事務に従事していた間の平成25年3月21日にE代表と話をしたことがある。
B 上記Aの際に、本件徴収担当職員からE代表に対して、本件各告知書又は本件各謄本に記載された不服申立期間と異なる期間を本件各処分に係る不服申立期間として伝えたことはない。
(ロ) 本件徴収担当職員は、平成26年6月16日、原処分庁所属の職員に対して、要旨、次のとおり申述した。
A 平成25年3月21日にE代表から電話があり、本件徴収担当職員が応接に当たった(本件応接をした。)。通話の内容は、本件各処分のうち、譲渡担保権者(請求人)がこれまでに受領した通知書に、異議申立期間が2か月とあるが、弁護士がついておらず、異議申立ての準備ができていないため、2か月の期限内に異議申立てをすることができないという趣旨であった。
B E代表からの申出に対し、滞納処分を続ける旨を伝えたほか、異議申立ての期限に、譲渡担保権者の個別事情は関係なく、期限を過ぎてから異議申立てをすることはできない旨を伝えた。
C 上記Bのとおり、E代表に伝えた後も、E代表は期限内に異議申立てをすることはできないと話していたが、本件徴収担当職員は異議申立期間を過ぎて提出してもいいという発言はしていない。
ホ 請求人の当審判所に対する回答について
 請求人の代理人であるNは、平成26年5月14日における当審判所からの電話による照会及び同年8月7日付の「回答書の提出について」と題する書面による質問に対して、要旨、次のとおり回答した。
(イ) 平成26年5月14日の回答(電話照会に対するもの)について
 請求人の主張する、本件徴収担当職員による「全て終了した時点で連絡してもらえれば結構です。」との発言は、平成25年3月上旬(10日まで)に、原処分庁のMという職員によって行われたものである。
(ロ) 平成26年8月23日付の回答書(「回答書の提出について」に対するもの)について
A E代表が、平成25年3月中旬頃に本件徴収担当職員に対し電話をかけ、同職員に対して、破産者(本件滞納法人)の取引先債権者や破産管財人から譲渡担保契約を否認され権利関係が確定していなかったことを説明すると、本件徴収担当職員からその旨了解する回答があったので、この回答は、権利者が確定していないことについて、通則法第77条第3項の「不服申立てをしなかったことについてやむを得ない理由があるとき」に該当するものであり、また、権利関係が明確になるまでの不服申立期間の延長の了解として同条第6項の「法定の期間より長い期間を不服申立期間として教示した場合」に該当すると解釈した。
B 上記Aのとおり、E代表が不服申立期間内に本件徴収担当職員に連絡をし、本件徴収担当職員から不服申立期間の延長の了解を得られたと解釈していたので、請求人としては、本件各告知書等に記載された不服申立期間内の申立ては必要ないと考えていた。
C (「本件徴収担当職員が本件各告知書等に記載された不服申立ての教示文に係る不服申立期間が延長されると明確な発言をしたか」及び「具体的にいつまで延長されると言ったか」の質問に対して)破産手続が開始されていることなどを説明し、時間がかかることに対して、本件徴収担当職員から了解した旨の返答があったので、請求人としては、権利関係・金額が確定するまで延長されると理解していた。

(2) 本件審査請求の適法性について

イ 本件各告知書は、平成25年1月25日、簡易書留郵便により請求人に対して発送された(上記(1)のイの(イ))ところ、上記(1)のハのとおり、同年3月21日の本件応接において、E代表から譲渡担保権者の物的納税責任に関する通知書数通が届いている旨の発言があったとする原処分関係資料からすれば、本件各告知書は、遅くとも平成25年3月21日までに請求人に送達されたと認められる(なお、E代表は、本件応接の日について、同月上旬又は中旬である旨回答したが、これを前提としても送達の時期が同月21日より後となることはない。)。
 したがって、請求人が本件各告知処分に係る通知を受けた日は、平成25年3月21日以前のいずれかの日であると認められる。
ロ 本件各謄本は、次のとおり、最も遅いものでも平成25年6月末までに請求人に送達されたものと推定されることから、請求人が本件各差押処分に係る通知を受けた日は、同月末以前のいずれかの日であると推定される。
(イ) 本件各謄本のうち、別表2の順号1ないし4に係るものは、1 上記(1)のロの(イ)のとおり、いずれも普通郵便で請求人に対して(当時の請求人の本店所在地に向けて)発送されたこと、2請求人は当該各謄本の写しを当審判所に証拠資料として提出していることから、通則法第12条第2項の規定により、「通常到達すべきであった時」、すなわち、遅くとも各発送日の数日後には請求人に送達されたと推定される。
(ロ) また、本件各謄本のうち、別表2の順号5に係るものは、請求人の本店所在地が移転した後であるにもかかわらず、旧本店所在地に向けて、普通郵便で発送された(平成25年5月30日発送)が(上記(1)のロの(イ))、請求人は当該謄本の写しを当審判所に証拠資料として提出していることからすると、当該謄本は、移転後の請求人の本店所在地に転送されて、請求人に送達されたものと認められ、また、送達の時期については、転送に要した期間を考慮しても、平成25年6月末以前であったと推定される。
ハ しかるに、本件審査請求は、平成26年4月15日に行われているから(上記1の(2)のホ)、いずれの原処分に係る審査請求も、通則法第77条第1項所定の不服申立期間を経過した後に行われたものに該当する。
ニ なお、請求人は、この点に関して、1 請求人は、平成25年3月上旬又は中旬頃に、本件徴収担当職員に対して、本件滞納法人について破産手続が開始された旨及び当該手続に係る破産管財人によって債権譲渡の否認を求める訴訟が提起された旨を伝えたところ、2本件徴収担当職員は、上記1 に対して「全て終了した時点で連絡してもらえれば結構です。」と発言したとし、上記1 については、通則法第77条第3項の「やむを得ない理由」があり、上記2についても、同条第6項の「国税に関する法律に基づく処分をした者が誤って法定の期間より長い期間を不服申立期間として教示した場合」に当たると主張するものである。
 しかし、この点に関する請求人の主張は、次のとおり理由がない。
(イ) 通則法第77条第3項の「やむを得ない理由」について
 通則法第77条第3項の「やむを得ない理由」については、同項が例示として「天災その他」と規定していることからすれば、不服申立人が不服申立てをしようとしてもその責めに帰すことができない事由によりそれをすることが不可能と認められるような客観的な事情が存在する場合に限られると解するのが相当であるところ、仮に、上記1 の事実が存するとしても、そのような事情は、不服申立てをしようとしても不可能と認められるような事情には該当しないから、同項の「やむを得ない理由」に該当しない。
 また、上記1 以外の「やむを得ない理由」に該当する事由も認められない。
(ロ) 通則法第77条第6項の「誤って法定の期間より長い期間を不服申立期間として教示した場合」について
 原処分庁が、請求人に対して誤って法定の期間より長い期間を不服申立期間として教示したとの事実については、次のとおり、認めることができない。
A 本件各処分は、通則法第75条第1項第2号の規定によりいずれも異議申立て又は審査請求をすることができる処分であるところ、本件各告知処分は、譲渡担保権者に対する告知(徴収法第24条第2項の規定により、書面によることを要する。)によって行われる処分であり、本件各差押処分も、第三債務者に対する債権差押通知書の送達(徴収法第62条《差押えの手続及び効力発生時期》第1項)及び滞納者に対する差押調書謄本の交付(徴収法第54条《差押調書》)によって行われる処分であるから、これらの処分に係る不服申立期間の教示は、行政不服審査法(平成26年法律第68号による改正前のもの)第57条《審査庁等の教示》第1項の規定によって、書面により行われることを要する。
 このため、本件各告知処分に係る不服申立期間の教示は、本件各告知書によって行われ(上記(1)のイの(ロ))、本件各差押処分に係る不服申立期間の教示は、本件各謄本によって行われたものと認められるところ(上記(1)のロの(ロ))、本件各告知書等の不服申立期間に係る記載に誤りは認められない。
B 本件応接について、原処分関係資料には、上記(1)のハのとおり記録されているところ、上記(1)のホの請求人の回答によれば、電話の相手が本件徴収担当職員であることは本件徴収担当職員の申述等(上記(1)のニの(イ)のA及び(ロ)のA)と合致するものの、電話をした時期については、平成26年5月14日の回答では、平成25年3月上旬(10日まで)である(上記(1)のホの(イ))と、また、平成26年8月23日付の回答書では、平成25年3月中旬である(上記(1)のホの(ロ)のA)としており、電話をした時期に係る請求人の回答が変遷するとともに、原処分関係資料に平成25年3月21日の事績として記録されていることと合致しない。
 一方、上記(1)のニの本件徴収担当職員の回答及び申述によれば、1 平成25年3月21日にE代表から電話がかかってきた旨、2譲渡担保権者としてこれまで受領した通知書に異議申立期間が2か月とあるが、異議申立ての準備ができておらず、期限内に異議申立てをすることができないとの申出があった旨、3E代表からの申出に対し、滞納処分を続ける旨を伝えたほか、4異議申立ての期限に、譲渡担保権者の個別事情は関係なく、期限を過ぎてから異議申立てをすることはできない旨を伝えた旨、及び5E代表に対して、本件各告知書又は本件各謄本に記載された不服申立期間と異なる期間を本件各告知処分又は本件各差押処分に係る不服申立期間として伝えたり、異議申立期間を過ぎて提出してもいいという発言をしたりはしていない旨が述べられているが、これらの回答及び申述は、上記4及び5を除き、上記(1)のハの記録と合致する。また、上記4及び5についても、そもそも本件各処分の不服申立てに関する事務が本件滞納法人に係る滞納整理事務の担当者である本件徴収担当職員の所掌外の事務であって、しかも不服申立期間の延長という例外的な事情の申出に対して、本件徴収担当職員が即時に当該申出を認める旨の応答をすることはまれであり、そのようなまれな事態が生じたことをうかがわせる当時の記録等の客観的な資料もないことからすると、おおむね本件徴収担当職員の申述どおりの応答があったものと認められる。
 そうすると、本件徴収担当職員が、E代表に対して、不服申立期間の延長を認める旨の発言をしたとの事実を認めることはできない(なお、仮に、請求人が主張するとおり、本件徴収担当職員が「全て終了した時点で連絡してもらえれば結構です。」との発言をしたとしても、それをもって処分について不可争力が生じない法定の不服申立期間の延長を教示したものとみることはできない。また、上記発言の前提となるE代表の発言自体についても不服申立期間の延長を求めた趣旨とは認められない。)。
ホ 以上によれば、本件審査請求は、いずれも不服申立期間を経過した後になされた不適法なものである。

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