(平成27年3月30日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、歯科技工業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税について事業所得に係る総収入金額に計上漏れ等があること、また、基準期間における課税売上高が1,000万円を超え、請求人は消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)を納める義務が免除されないことから、所得税の各更正処分等及び消費税等の各決定処分等をしたのに対し、請求人が、1原処分庁の調査に違法がある、2原処分の理由付記に不備がある、3原処分庁が計上漏れとした総収入金額の一部は請求人に帰属しないなどとして、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成17年分ないし平成23年分(以下「本件各年分」という。)の所得税について、青色申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに原処分庁にそれぞれ申告した。

ロ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査(以下「本件調査」といい、本件調査を行った職員のうち、上席国税調査官を「本件調査担当職員」、財務事務官を「本件調査担当事務官」といい、本件調査担当職員と本件調査担当事務官を併せて、「本件調査担当職員ら」という。)に基づき、平成24年12月21日付で、次の各処分をした。
(イ) 別表1の「更正処分等」欄のとおりとする本件各年分の所得税の各更正処分(以下「本件所得税各更正処分」という。)並びに平成18年分、平成20年分及び平成21年分の所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分及び本件各年分の所得税に係る重加算税の各賦課決定処分(以下、これらの各賦課決定処分を併せて「本件所得税各賦課決定処分」といい、本件所得税各更正処分と併せて「本件所得税各更正処分等」という。)。
(ロ) 別表2の「決定処分等」欄のとおりとする平成20年1月1日から平成20年12月31日まで、平成22年1月1日から平成22年12月31日まで及び平成23年1月1日から平成23年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成20年課税期間」、「平成22年課税期間」及び「平成23年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等の各決定処分(以下「本件消費税等各決定処分」という。)並びに本件各課税期間の消費税等に係る無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下、これらの各賦課決定処分を「本件消費税等各賦課決定処分」といい、本件消費税等各決定処分と併せて「本件消費税等各決定処分等」という。)。

ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成25年2月15日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月14日付で、棄却の異議決定をした。

ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成25年6月10日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第59条《国税の予納額の還付の特例》第1項第2号は、納税者は、最近において納付すべき税額の確定することが確実であると認められる国税として納付する旨を税務署長に申し出て納付した金額があるときは、その還付を請求することができない旨規定している。

ロ 通則法第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、同法第24条《更正》の規定による更正があったときは、当該納税者に対し、その更正に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨、また、同法第65条第4項は、同条第1項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、同項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、同項の規定を適用する旨、それぞれ規定している。

ハ 通則法第66条《無申告加算税》第1項第1号は、同法第25条《決定》の規定による決定があった場合には、当該納税者に対し、その決定に基づき納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定し、同項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない旨規定している。

ニ 通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条第1項の規定により過少申告加算税を課する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
 また、通則法第68条第2項は、同法第66条第1項の規定により無申告加算税を課する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出していないときは、当該納税者に対し、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

ホ 通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第5項は、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた国税についての更正及び加算税の賦課決定は、更正はその更正に係る国税の法定申告期限から、加算税の賦課決定はその納税義務の成立の日から、それぞれ7年を経過する日まですることができる旨規定している。

ヘ 所得税法第155条《青色申告書に係る更正》第2項は、税務署長は、居住者の提出した青色申告書に係る年分の総所得金額の更正をする場合には、その更正に係る通則法第28条《更正又は決定の手続》第2項に規定する更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない旨規定している。

ト 消費税法第2条《定義》第1項第8号は、資産の譲渡等について、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定しており、 同項第9号は、課税資産の譲渡等について、資産の譲渡等のうち、同法第6条《非課税》第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう旨規定している。

チ 消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者については、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨規定している。

(4) 基礎事実

次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人は、「M」又は「N」の屋号で歯科技工業を営んでおり、その仕事場(以下「本件仕事場」という。)は、自宅(以下「本件自宅」という。)の2階である。

ロ 請求人は、昭和55年分から所得税の青色申告の承認を受けており、妻であるP(以下「妻」という。)は、青色事業専従者として経理を担当している。

ハ 請求人の主な売上先は、Q(屋号:Q歯科医院)(以下「Q歯科」という。)、R(屋号:S)(以下「S」といい、Q歯科とSを併せて「S等」という。)、T社及びU社である。

ニ 妻は、売上げは銀行預金通帳及び領収証(控)を基に、経費は領収証を基にそれぞれ集計し、その集計額を本件各年分のa商工会議所税務相談所(以下「税務相談所」という。)の「月別総括集計表(兼決算準備表)」(以下「本件各集計表」という。)、「売上明細」及び「仕入明細」(以下、これらと「本件各集計表」を併せて「本件各集計表等」という。)に月額又は年額で記入し、税務相談所に提出した。
 なお、「売上明細」及び「仕入明細」は、要旨別紙1及び2のとおり記載されている。
ホ 請求人は、税理士会から税務相談所に派遣された税理士が本件各集計表等に基づき作成した本件各年分の所得税の各確定申告書を、税務相談所を通じて原処分庁に提出した。
 なお、請求人が原処分庁に対して提出した本件各年分の所得税の青色申告決算書(一般用)によれば、請求人の事業所得の金額の算定については、別表3の「申告額」欄のとおりである。

ヘ 原処分庁は、本件調査の結果、請求人の事業所得の金額について、1本件各年分においてS等や単発の取引に係る売上金額に計上漏れがある、2平成18年分ないし平成21年分において、請求人が仲間との共同受注であると主張するT社及びU社との各取引に係る売上金額は全て請求人に帰属するものであり計上漏れがある、及び3本件各年分において仕入金額等の必要経費に計上漏れがあるとして、別表3の「更正処分に係る科目別加算金額」欄の各金額を「申告額」欄の「事業所得の金額」欄の金額に加算又は減算して、本件各年分の事業所得の金額を算定し、また、請求人の雑所得の金額について、平成19年分ないし平成23年分において、V社から請求人を受取人とする確定型年金払積立傷害保険契約に基づく確定(給付)型年金の受領額が申告漏れであるとして、本件所得税各更正処分等を行った。

ト 請求人は、本件各課税期間の消費税等について確定申告をしていなかったところ、原処分庁は、本件調査の結果、請求人の本件各課税期間に係る基準期間である平成18年1月1日から平成18年12月31日までの課税期間(以下「平成18年課税期間」という。)、平成20年課税期間及び平成21年1月1日から平成21年12月31日までの課税期間(以下「平成21年課税期間」という。)における課税売上高が1,000万円を超えることから、請求人は、本件各課税期間の消費税等を納める義務を免除する事業者に該当しないとして、本件消費税等各決定処分等を行った。

チ 原処分庁は、請求人に対し、平成24年12月21日付で、本件所得税各更正処分等に係る更正通知書及び加算税の賦課決定通知書(以下、これらを併せて「本件所得税各更正等通知書」という。)並びに本件消費税等各決定処分等に係る決定通知書及び加算税の賦課決定通知書(以下、これらを併せて「本件消費税等各決定等通知書」という。)を送付した。
 なお、本件所得税各更正等通知書には、処分の理由として、別紙3ないし9のとおり記載されている。

2 争点

争点1 本件調査における本件調査担当職員の行為に原処分を取り消すべき違法があるか否か。

争点2 本件所得税各更正等通知書の理由付記に本件所得税各更正処分等を取り消すべき不備があるか否か。
また、本件消費税等各決定等通知書に理由付記をしていないことが本件消費税等各決定処分等を取り消すべき事由となるか否か。

争点3 請求人とT社との取引(以下「T社事業」という。)及びU社との取引(以下「U社事業」という。)に係る売上げは、全て請求人に帰属するか否か。

争点4 請求人に、通則法第68条第1項及び第2項にいう「隠ぺいし、又は仮装し」の行為があるか否か。

争点5 請求人に、通則法第70条第5項にいう「偽りその他不正の行為」があるか否か。

3 主張

(1) 争点1(本件調査における本件調査担当職員の行為に原処分を取り消すべき違法があるか否か。)について

請求人 原処分庁
本件調査担当職員の次のイないしニの行為は、原処分を取り消すべき違法な行為である。 請求人が主張する本件調査担当職員の行為は、次のイないしニのことから、原処分を取り消すべき違法な行為ではない。
イ 平成24年7月20日に、本件調査担当職員は、請求人及び妻に断りもなく本件仕事場の机の引き出しを開け、引き出し内のノート類を確認した。 イ 本件調査担当職員は、請求人に明示の承諾を得た上で、本件仕事場の机の引き出しを開け、引き出し内のノート類を確認した。
ロ 平成24年7月20日に、本件調査担当職員は、妻に断りもなく、本件自宅の寝室(以下「本件寝室」という。)に強引に入室した。
 また、妻は、本件調査担当職員から半ば強引に本件寝室にあるタンスの引き出しを開けさせられた。
 さらに、妻が引き出しから帳簿と預金通帳を取り出した際に、本件調査担当職員は、妻に断りもなく引き出し内の現金出納帳を勝手に取り出し確認した。
 なお、下着の入っている引き出しについては、本件調査担当職員が当該引き出しの取っ手に手を掛けたので、妻が当該引き出しを押さえて拒否した。
ロ 本件調査担当職員は、帳簿書類等を確認する必要があると判断したため、帳簿書類等の保管場所まで、妻の同意の下、妻に同行し、妻から拒否されなかったので本件寝室に入室した。本件調査担当職員は、妻が本件寝室にあるタンスの引き出し内から取り出した納品書兼請求書をその場で確認した。
 なお、請求人が主張する現金出納帳を無断に取り出した事実はなく、妻が引き出し内から現金出納帳を取り出し、本件調査担当職員に手渡したものである。
 また、妻が「下着が入っている。」として、確認することを拒んだ引き出しの取っ手に、本件調査担当職員が手を掛けた事実はない。
ハ 平成24年8月3日に、本件調査担当職員が作成した妻の質問てん末書は、次の(イ)及び(ロ)の理由から、妻は署名押印を強要され、作成されたものである。

(イ) 本件調査担当職員は、妻に質問てん末書の作成の目的及び理由を説明しなかった。

(ロ) 質問てん末書の全ての内容を読み聞かせられることなく、かつ、中身を丁寧に確認する時間も与えられず、妻は質問てん末書に署名押印させられた。

ハ 本件調査担当職員は、質問てん末書の作成が必要であると判断したことから、請求人同席の下、妻に事実関係を確認の上、妻の申述に基づいて質問てん末書を作成した。
 なお、質問てん末書の作成に当たって、本件調査担当職員は、作成目的を妻に特段説明していないが、妻に質問てん末書の各問いとその答えの要旨をその都度読み聞かせ、妻に誤りがない旨を確認し、署名押印を求めたところ、妻が署名押印したもので、強要した事実はない。
ニ 本件調査担当職員は、本件調査に基づく修正申告等により納めることとなる予定の税額の内容について、請求人に納得のいく説明をすることなく、また、予納すれば全く延滞税が生じない旨を説明することにより、予納を請求人に強要し、現金XXX万円を予納させた。 ニ 本件調査担当職員は、本件調査に基づくと修正申告等の必要があり新たに納める税額があることから、通則法第59条第1項に基づく「予納の申出」により納付すれば納付日以降の延滞税が生じない旨を請求人に説明したところ、妻が請求人の「国税の予納申出書」を原処分庁に提出の上、現金XXX万円を予納した。

(2) 争点2(本件所得税各更正等通知書の理由付記に本件所得税各更正処分等を取り消すべき不備があるか否か。また、本件消費税等各決定等通知書に理由付記をしていないことが本件消費税等各決定処分等を取り消すべき事由となるか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 次の(イ)の理由から、本件所得税各更正等通知書の理由付記に本件所得税各更正処分等を取り消すべき不備はない。
 また、次の(ロ)の理由から、本件所得税各更正等通知書において、加算税に係る理由付記は必要ない。
イ 次の(イ)の理由から、本件所得税各更正等通知書の理由付記に本件所得税各更正処分等を取り消すべき不備がある。
 また、次の(ロ)の理由から、本件所得税各更正等通知書において、加算税に係る理由付記も必要である。
(イ) 所得税法第155条第2項の規定により、請求人から提示された書類等を調査した結果、誤りが認められた事項の内容を明確に記載している。 (イ) 本件調査による計数上の記載や処分の結果のみが記載されているだけである。
 つまりは、そのような結果となる原処分庁の判断根拠が全く記載されておらず、十分な理由付記とは到底いえない。
(ロ) 本件所得税各更正等通知書に加算税について理由付記をしなければならない法令の規定はない。 (ロ) 法令に規定はないが、納税者にとって不利益処分であれば、具体的に理由付記する義務がある。
ロ 本件消費税等各決定等通知書に理由付記をしなければならない法令の規定はない。 ロ 本件消費税等各決定等通知書の理由付記は、上記イの(ロ)と同じ理由から、必要である。

(3) 争点3(T社事業及びU社事業に係る売上げは、全て請求人に帰属するか否か。)について

原処分庁 請求人
T社事業及びU社事業に係る売上げは、次のイ及びロの理由から、共同事業ではなく、全て請求人に帰属する。 T社事業及びU社事業に係る売上げは、次のイ及びロの理由から、共同事業であり、全てが請求人に帰属するものではない。
イ T社事業について
T社事業は、次の(イ)ないし(ニ)の理由から、請求人が主張するT社事業に係る共同事業仲間(以下「T社事業仲間」という。)との共同事業ではない。
 したがって、T社事業に係る売上げは、全て請求人に帰属する。
イ T社事業について
T社事業は、次の(イ)ないし(ニ)の理由から、T社事業仲間との共同事業である。
 したがって、T社事業に係る売上げは、全てが請求人に帰属するものではない。
(イ) 歯科技工物製作依頼者の会社名をT社とし、歯科技工物製作請負名の会社名を「M」とする歯科技工物の製作を依頼する旨を契約する書面(以下「本件覚書」という。)には、T社と請求人が署名押印しており、T社事業仲間の署名押印はない。
 また、T社の担当者は、請求人との契約は、請求人との個別契約である旨を申述している。
(イ) 請求人が本件覚書に署名押印したのは請求人がT社事業の窓口を担当するからであり、T社との契約の際、請求人はT社にT社事業が共同事業であることを説明している。
(ロ) 請求人は、T社事業の仕事は「N」の屋号で取引を行っていると主張するが、取引先からの領収証の宛名先は「M」の屋号となっており、T社への仕事代金の請求は「M」で行っているなど、整合性がなく信ぴょう性に乏しい。 (ロ) 妻が、T社事業に係る売上げの請求を行っているが、これはT社事業の窓口としてである。
なお、T社事業の仕事は「N」の屋号で取引を行っている。
(ハ) T社事業仲間は、次のAないしCの理由から、請求人に対して従属的である。 (ハ) T社事業仲間は、次のA及びBの理由から、請求人に対して従属的でない。
A T社から受注した仕事について、請求人が、T社事業仲間に割振りを行い、T社への歯科技工物の納品日を決定している。 A 請求人がT社から歯型模型を受け取り、請求人とT社事業仲間は各自が製作可能な数量をお互いに相談し合いながら仕事を行っている。
B T社からのクレーム対応や納品した歯科技工物の手直しは、請求人がT社から連絡を受けT社事業仲間に指示して作業を行っている。 B 請求人が、T社からのクレームを受け付け、T社事業仲間に歯科技工物の手直しの伝達を行っているのは、T社事業の窓口としてである。
C T社事業仲間は、T社からの仕事であることを知らされていない。
(ニ) T社事業を共同事業とする関係書類や歯科技工物に不具合があった場合、誰が対応を行うかなどの取決めを確認できる書類の提示がない。 (ニ) T社事業について、請求人とT社事業仲間は請求書(領収証)による現金取引であるため、ほかの取引関係の書類などは作成していない。
なお、各歯科技工物に各製造者の氏名が押印されており、各歯科技工物に対する責任の所在を明確にしている。
ロ U社事業について
U社事業は、次の(イ)ないし(ホ)の理由から、請求人が主張するU社事業に係る共同事業仲間(以下「U社事業仲間」といい、T社事業仲間と併せて、「本件事業仲間」という。)との共同事業ではない。
 したがって、U社事業に係る売上げは、全て請求人に帰属する。
ロ U社事業について
U社事業は、次の(イ)ないし(ニ)の理由から、U社事業仲間との共同事業である。
 したがって、U社事業に係る売上げは、全てが請求人に帰属するものではない。
(イ) 請求人は、U社事業の仕事は「N」の屋号で取引を行っていると主張するが、取引先からの領収証の宛名先は「M」又は「N」の屋号が混在していることから、整合性がなく信ぴょう性に乏しい。 (イ) 妻が、U社事業仲間からの仕事代金の請求の集計を行い、U社事業に係る売上げの請求を行っているが、U社事業の窓口としてである。
なお、U社事業の仕事は、「N」の屋号で取引を行っている。
(ロ) U社事業仲間は、次のAないしCの理由から、請求人に対して従属的である。 (ロ) U社事業仲間は、次のA及びBの理由から、請求人に対して従属的でない。
A U社から受注した仕事について、請求人が、U社事業仲間に割振りを行い、請求人がU社への歯科技工物の納品日を決定している。
A 請求人がU社から歯型模型を受け取り、請求人とU社事業仲間は、各自が製作可能な数量をお互いに相談し合いながら仕事を行った。
B U社からのクレーム対応や納品した歯科技工物の手直しは、請求人がU社から連絡を受けU社事業仲間に指示して作業を行っている。
B 請求人が、U社からのクレームを受け付け、U社事業仲間に歯科技工物の手直しの伝達を行っているのは、U社事業の窓口としてである。
C U社事業仲間は、U社からの仕事であることを知らされていない。
(ハ) U社事業を共同事業とする関係書類や歯科技工物に不具合があった場合、誰が対応を行うかなどの取決めを確認できる書類の提示がない。 (ハ) U社事業について、請求人とU社事業仲間は請求書(領収証)による現金取引であるため、ほかに取引関係の書類などは作成していない。
なお、各歯科技工物に各製造者の氏名が押印されており、各歯科技工物に対する責任の所在を明確にしている。
(ニ) 異議審理庁所属の調査担当職員(以下「本件異議調査担当職員」という。)の調査において、本件異議調査担当職員に対するU社事業仲間であるX及びYの申述内容から、共同事業ではない旨認められる。 (ニ) 本件異議調査担当職員が作成した本件事業仲間の各質問てん末書は、次のA及びBの理由から、信ぴょう性のないものである。
  A U社事業仲間であるXとYの質問てん末書は、ほぼ同じ内容の答えとなっている。
B 本件事業仲間であるZからの質問てん末書は二度作成され、T社事業について、平成25年4月5日付では、はっきりと「共同で受けた」と証言をしているが、同月26日付では「共同でない」かのように答えさせ、不当な誘導を行っている。
(ホ) Zからの質問てん末書を二度作成しているのは、Zが回答した内容だけが、ほかの本件事業仲間が回答した内容と異なったことから再確認のため行ったものであり、不当な誘導を行った事実はない。  

(4) 争点4(請求人に、通則法第68条第1項及び第2項にいう「隠ぺいし、又は仮装し」の行為があるか否か。)について

原処分庁 請求人
請求人に、次のイないしハの理由から、「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する行為があったことが認められる。 請求人に、次のイないしハの理由から、「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する行為はなかった。
イ 次の(イ)及び(ロ)の行為があった事実が認められる。
(イ) 妻は、S等からの正当な月別売上金額を預金通帳や領収証(控)で認識しながら、本件各集計表を月20万円前後少ない金額で作成しており、妻もその旨申述している。
(ロ) 妻は、請求人の本件各年分に係る売上げ等の請求書等を処分することで、原処分庁の正当な月別売上金額の検証を阻んでいる。
イ 妻が妻の親に返済する月20万円前後を売上金額から差し引いた件については、請求人及び妻が税法に無知であったことが要因であり、妻は、隠ぺい又は仮装したとの認識はなく、日々のやりくりの中で不用意に行った行為である。
ロ 上記イの妻の行為は、次の(イ)及び(ロ)の理由から、請求人の行為と同一視することができる。
(イ) 妻は、請求人の事業の経理を担当している青色事業専従者であり、本件各集計表に毎月の売上げを少なく記載している。請求人は、本件各集計表に基づいて申告をしていた。
(ロ) 請求人は、上記イの(イ)の売上げが本件各集計表に少なく記載されている事実を承知していたことが認められる。
ロ 妻は、請求人の本件各年分に係る請求書等及び売上金が振り込まれた使用済み預金通帳を不正行為の認識のもと処分したものではなく、一般的慣習により処理したものである。
ハ 上記イ及びロから、妻が本件各集計表に虚偽の売上げを記載し作成していた行為は隠ぺい行為があったと認められ、妻の当該行為は請求人の行為と同一視できる。 ハ 請求人は、妻が本件各集計表に毎月の売上げを少なく記載し請求人の申告をしていたことを知っていたが、単なる過少申告をしたとしか思っていない。

(5) 争点5(請求人に、通則法第70条第5項にいう「偽りその他不正の行為」があるか否か。)について

原処分庁 請求人
上記(4)の原処分庁の主張による請求人の「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する行為は、請求人に、「偽りその他不正の行為」に該当する行為があったと認められる。
なお、昭和56年の衆参両議院大蔵委員会でなされた「脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(以下「附帯決議」という。)を根拠として、通則法の条文に明らかに反した法解釈をすることはできない。
 請求人には、次のイ及びロの理由から、「偽りその他不正の行為」に該当する行為はない。
イ 上記(4)の請求人主張のイないしハの理由のほか、妻が、妻の親に対する返済額を売上げから差し引いていたことは事実であっても、「他人に容易に分かるような行為」は、「偽りその他の不正の行為」の対象となる「悪質・大口脱税」には全く当たらない。
 妻が、売上金額から月20万円前後を差し引いたという点も、「大口悪質」脱税の対象とは到底いえず、つまみ申告又は過少申告の範囲である。
ロ 本件所得税各更正処分において、過去7年遡及して更正していることは、遡及期間を5年から7年に延長した通則法改正趣旨の違反と「附帯決議」を無視したもので、平成17年分ないし平成20年分の所得税の各更正処分は無効であり、取り消すべきである。

4 判断

(1) 争点1(本件調査における本件調査担当職員の行為に原処分を取り消すべき違法があるか否か。)について

イ 認定事実

原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 平成24年7月17日の調査の状況について
A 本件調査担当事務官は、平成24年7月17日午後1時頃、実地調査を行うため、本件自宅で請求人及び妻と面接した。
B 妻は、本件調査担当事務官に、Q歯科宛の平成20年10月31日から平成24年3月31日まで記載された領収証(控)1冊及び現在使用している納品書兼請求書1冊を提示した。
 また、妻は、本件調査担当事務官に提示した書類以外の売上げに係る領収証(控)及び納品書兼請求書の書類は処分したと説明した。
C 本件調査担当事務官が、当該領収証(控)の平成21年分の領収金額を集計したところ、集計額が確定申告書に記載された事業所得の総収入金額より少なかったため、妻に説明を求めた。
D すると、妻は、「これが漏れていた収入分です。」と言って、Sとの取引に係る平成21年分ないし平成23年分の各月別売上金額と年間の売上金額の合計額及び各年分の歯科技工物の合計の送料額が記載されている書面(以下「本件書面」という。)を提示した。
 妻は、本件調査担当事務官に対し、本件書面は本件調査開始前に取引先に取引金額を照会して作成したものであること、歯科技工物の送料は必要経費に計上していないことを説明した。
E 本件調査担当事務官が、妻に本件書面の内容を確認するため金額が分かる通帳の提示を求めたところ、妻は、d銀行○○支店の請求人名義普通預金(口座番号○○○○)の通帳を提示した。
 そこで、当該通帳に記載されている振込金額と本件書面に記載されている月別売上金額を照合したところ、金額が一致した。

(ロ) 平成24年7月20日の調査の状況について
A 本件調査担当職員らは、平成24年7月20日午前10時頃、本件自宅で請求人及び妻と面接した。
B 本件調査担当職員が、本件自宅1階の居間にて、収入が分かる書類の保存状況を尋ねると、妻が「平成24年7月17日に提示した書類以外は処分しており、平成24年分しか保存していない。」旨申述した。
C 本件調査担当職員は、本件仕事場の状況を見せてもらいたいと請求人に依頼し、請求人の案内により妻と本件調査担当職員らが本件仕事場に入室した。
D 本件調査担当職員は、本件仕事場において、請求人の了解を得て進行年分である平成24年分のSからの技工指示書、技工器具などのカタログを確認した。
 また、本件調査担当職員が、請求人に対し、机の引き出しを開けてよいか確認したところ、「いいですよ。」と言われたため、引き出しを開けて在中していたノートを確認した。
 この点に関し、請求人及び妻は、本件調査担当職員が断りなく無断で引き出しを開けてノート類等を確認した旨答述するが、本件調査担当職員は上記認定事実のとおり答述していること、請求人及び妻が本件調査担当職員を本件仕事場まで案内するなど調査に協力しているのに無断で引き出しを開ける理由はないことに加え、請求人及び妻が無断で机を開けられたとしてその場で抗議したり、その後の調査への協力を拒んだとの事実も認められないのであって、請求人及び妻の答述は内容自体不自然であることから、上記事実を認定することができる。
E その後、請求人、妻及び本件調査担当職員らは本件仕事場から本件自宅1階の居間に戻った。
F 本件調査担当職員は、居間において、「今使っている書類を確認したいのですが、請求書等はありますか。」と請求人及び妻に尋ねたところ、妻が「持ってきます。」と言って立ち上がったので、妻の後を追って居間を出た。
G 居間を出た廊下のところで、妻が「待ってて下さい。」と言ったのに対し、本件調査担当職員が「保管場所を確認させて下さい。」と依頼したところ、妻は保管場所に向かったので、本件調査担当職員は、妻に同行し本件寝室に入室した。妻は、タンスの引き出しを開け、納品書兼請求書を2冊取り出して、本件調査担当職員に渡した。
 この点に関し、請求人及び妻は、妻が本件寝室への入室を何度も断ったにもかかわらず、本件調査担当職員が覆い被さるように入ってきたと答述するが、そうであれば、入室した後、妻が抗議したり、寝室内での調査に抵抗するのが自然であるのに、妻は引き出しを開けて納品書兼請求書を渡しているのであって、請求人及び妻の答述は一貫性に乏しいことから、信用性が乏しく、上記事実を認定することができる。
H 本件調査担当職員は、妻から渡された2冊の納品書兼請求書を確認したところ、1冊は進行年分のものであり、ほかの1冊は未使用であったので、2冊の納品書兼請求書を妻に返し、妻が元の引き出しに戻した。
I 本件調査担当職員が、妻にほかの引き出しに仕事に関係するものが入っていないか尋ねたところ、妻がほかの引き出しを開けて、B5判の現金出納帳を取り出したので、本件調査担当職員はこれを確認した。
 なお、当該現金出納帳は未使用だった。
J 本件調査担当職員は、別の引き出しも確認したいと依頼したが、妻が「下着が入っている。」と答えたことから、別の引き出しを開けてもらうことなく妻と居間に戻った。

(ハ) 平成24年8月3日の調査の状況について
A 本件調査担当職員らは、平成24年8月3日午後、本件自宅で請求人及び妻と面接した。
B 本件調査担当職員は、本件自宅において、請求人同席のもと、妻に調査で確認したことについて質問し、質問てん末書を作成した。
C 本件調査担当職員は、作成した質問てん末書を妻に読み聞かせ、妻は平成24年8月3日の日付の後の被質問者欄に署名押印した。
D 本件調査担当職員が、請求人及び妻に、これまでの本件調査に係る所得税及び消費税等について説明したところ、請求人及び妻は、本件調査担当職員に対して、現段階での新たに納めることとなる税額について質問した。
E 本件調査担当職員は、請求人及び妻に7年の調査対象年分において新たに納めることとなる税額の全額が重加算税の対象となれば国税はXXX万円ほどになること、通則法第59条第1項の予納制度に基づき予納すれば予納日以降の延滞税は生じないことを説明した。
F 妻は本件調査担当職員に予納したいと申し出たが、本件調査担当職員が週明けの8月6日月曜日以降にしか対応できないことを説明したところ、妻は「8月6日にXXX万円予納したい。」と申し出た。

(ニ) 平成24年8月6日の予納の状況について
 妻は、平成24年8月6日午前中、L税務署を訪れ、原処分庁に対し、「国税の予納申出書」と題する書面を提出するとともに、現金XXX万円を予納した。

ロ 本件調査担当職員の行為の違法の有無について

(イ) 本件調査担当職員の平成24年7月20日の調査について
 上記イの(ロ)のD、G、H及びIのとおり、本件調査担当職員が請求人及び妻に無断で机の引き出しを開けてノート類を確認した事実、妻に断りなく本件寝室に入室した事実、断りなくタンスの引き出し内の現金出納帳を勝手に取り出した事実はいずれも認められず、請求人が主張する本件調査担当職員の行為に違法とする点はない。

(ロ) 本件調査担当職員が質問てん末書を作成したことについて
 上記イの(ハ)のB及びCのとおり、妻は、本件自宅において、請求人同席のもと、本件調査担当職員の質問に答えていること、本件調査担当職員が質問てん末書の内容を読み聞かせ、署名押印していることが認められ、この事実と、請求人は、本件調査担当職員が妻に署名押印を強要したと主張するのみで、その具体的な強要の内容は主張しないことからすると、この点の請求人の主張には理由がなく、本件調査担当職員が質問てん末書を作成した行為に違法な点はない。
 なお、請求人は、質問てん末書を作成する目的、理由を説明していないことが違法だと主張するが、質問てん末書を作成する目的、理由を説明しなければならないとする法令上の規定はないことから、この点の請求人の主張には理由がない。

(ハ) 本件調査担当職員は請求人に予納を強要したか否か
 請求人は、本件調査担当職員が、予納を強要したと主張するが、本件調査担当職員が予納の説明をしたことが予納の強要でないことは明らかで、予納を強要した事実は認められない。

(2) 争点2(本件所得税各更正等通知書の理由付記に本件所得税各更正処分等を取り消すべき不備があるか否か。また、本件消費税等各決定等通知書に理由付記をしていないことが本件消費税等各決定処分等を取り消すべき事由となるか否か。)について

イ 法令解釈

所得税法155条第2項が青色申告に係る所得税について更正をする場合には更正通知書に更正の理由を付記すべきものとしているのは、法が、青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑み、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものというべきであり、したがって、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に付記すべき理由としては、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要するが、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては、当該更正は納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を上記の更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないと解するのが相当である。

ロ 認定事実

原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、請求人は、本件各年分において、請求人の事業所得を生ずべき業務について、本件各集計表等を作成するだけで、その事業所得の金額に係る日々の取引を記録する帳簿を作成していないことが認められる。

ハ 当てはめ

(イ) 本件所得税各更正処分の「事業所得の金額に加算する金額」の判断部分に係る理由について
 請求人は、上記ロのとおり、本件各年分において、請求人の事業所得を生ずべき業務について、その事業所得の金額に係る取引を記録する帳簿を作成していないことから、本件所得税各更正処分は、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当するところ、原処分庁は、別紙3ないし9のとおり、本件所得税各更正等通知書において、本件各年分の事業所得に係る総収入金額については、取引先ごとに取引期間及び年間の売上金額を一覧表で明らかにしており、必要経費については、計上漏れとして認定した仕入金額、荷造運賃、振込手数料、外注工賃の支払先及び年間の支払合計金額並びに減価償却費を記載していることからすれば、本件所得税各更正等通知書に記載された、事業所得の金額に加算する金額の判断部分に係る理由は、上記イの原処分庁の恣意抑制及び納税者の不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的な記載がされていると認められることから、本件所得税各更正処分を取り消すべき不備はない。

(ロ) 本件所得税各更正処分等のその他の判断部分に係る理由について
 平成19年分ないし平成23年分の所得税の各更正処分の「雑所得の金額」及び本件所得税各賦課決定処分については、その処分の理由を付記すべき旨を定めた法令の規定はないことから、理由付記は必要なく、この点についての違法はない。

(ハ) 本件消費税等各決定処分等に係る理由について
 本件消費税等各決定処分等について、その処分の理由を付記すべき旨を定めた法令の規定はないことから、理由付記は必要なく、この点についての違法はない。

ニ 請求人は、法令に規定はないが、納税者にとって不利益処分であれば、具体的に理由付記する義務があるので、加算税についての本件所得税各更正等通知書における理由付記及び本件消費税等各決定等通知書における理由付記について必要であると主張するが、その判断については上記(ロ)及び(ハ)のとおりであり、この点の請求人の主張は採用できない。

(3) 争点3(T社事業及びU社事業に係る売上げは、全て請求人に帰属するか否か。)について

イ 認定事実

原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、T社事業及びU社事業について次の事実が認められる。

(イ) T社事業について
A 請求人は、平成18年3月、T社との間で本件覚書を交わした。
 なお、本件覚書には、歯科技工物製作依頼者欄に「T社」、歯科技工物製作請負者名欄の会社名に「M」、代表者欄に「K(請求人)」の記名があり、それぞれの押印がある。また、「下記の条件通り、歯科技工物の制作を依頼し、貴社と契約いたします。」と併記され、1「契約期間」は「平成18年4月1日~平成19年3月31日」、2「再生、返品」は「製作者負担」、3「納期」は「技工指示書通り」、4「納品書」は「技工物と一緒に担当者に渡す」、5「請求書」は「20日締め、22日までに経理へ提出」及び6「支払方法」は「翌月10日銀行振込、振込手数料請求者負担」と記載されている。
B 請求人は、平成18年4月から同年11月までのT社との取引において、T社から製作依頼があった歯科技工物を技工指示書に基づき製作して、当該歯科技工物を納品し、製作代金に係る請求書を毎月20日頃T社に送付した。
C T社は、請求人からの請求に基づき、請求月の翌月10日頃にe銀行○○支店の請求人名義普通預金(口座番号○○○○)に、請求金額から振込手数料を差し引いた金額を振り込んだ。
D 疑うべき理由のない、T社の専務取締役fの答述によれば次の事実が認められる。
(A) 本件覚書に基づく取引は、T社と請求人の取引であった。
(B) 歯科技工物に瑕疵があった場合の対応は、T社から請求人に対して手直しの指示を行った。
E 当審判所は、請求人に対し、T社事業について、T社事業仲間との共同受注であることを証することができる書類の提示を求めたが、請求人から当該書類の提示はなかった。

(ロ) U社事業について
A 疑うべき理由のない、U社の前最高執行責任者であったgの答述によれば次の事実が認められる。
(A) 請求人との取引は、請求人からの電話での申出により始まったもので、請求人と電話で話しているので、請求人との取引である。
(B) U社は、U社事業について、請求人との間で、歯科技工物の取引に係る規則や条件などを定めた書面を作成していなかった。
(C) U社は、取引開始時において納期と製作代金を記載した書面を請求人にファックスで送信し、歯科技工物の製作を依頼した。
(D) U社は、平成19年9月から平成21年11月までの取引において、石膏の模型と技工指示書を請求人に航空便で送り、請求人は、製作した歯科技工物と技工指示書を返送した。
(E) 製作代金に係る請求書は、毎月20日頃、請求人からU社に送付された。
(F) U社は、請求人からの請求に基づき、翌月20日頃d銀行○○支店の請求人名義普通預金(口座番号○○○○)に、請求金額から材料代及び振込手数料を差し引いた金額を振り込んだ。
(G) U社は、納品された歯科技工物に瑕疵があった場合、U社から歯科医への納期に時間がある場合には、請求人に当該歯科技工物の再製作を指示し、歯科医への納期に時間がない場合には、U社で再製作した。
 なお、U社で再製作した場合は、請求人に対し当該歯科技工物に係るマイナス伝票を切った。
B 当審判所は、請求人に対し、U社事業について、U社事業仲間との共同受注であることを証することができる書類の提示を求めたが、請求人から当該書類の提示はなかった。

ロ 当てはめ

(イ) T社事業に係る売上げの帰属について
A 本件では、T社が契約を交わしていた相手すなわち取引相手が請求人のみであるのか、それともT社事業仲間を含む共同事業体であるのかが争いになっている。T社は請求人との間で本件覚書を交わしているところ、上記イの(イ)のAのとおり、本件覚書の歯科技工物製作請負者名欄には「M」と記載され、代表者欄に「K(請求人)」の記名及び押印が認められる。また、上記イの(イ)のDのとおり、T社の担当者である専務取締役fは、契約の相手が請求人のみであることを明言している。そして、上記イの(イ)のB及びCのとおり、T社は、請求人に対し歯科技工物の製作を依頼し、請求人から当該歯科技工物を受領して、請求人からの請求に基づき請求人名義口座にその代金を振り込んでいたものであり、これらの事実を総合すると、T社の取引相手が請求人のみであり、T社事業仲間を含む共同事業体ではないことは明らかである。
B また、上記イの(イ)のEのとおり、請求人は、当審判所に対して、T社事業について、T社事業仲間との共同受注であることを証する書類を提示しておらず、上記認定を覆す証拠も存しない。
 以上のことから、T社事業に係る売上げはその全てが請求人に帰属すると認められる。

(ロ) U社事業に係る売上げの帰属について
A U社事業においては、U社との取引相手が請求人のみであるのか、それともU社事業仲間を含む共同受注であるのかが争いになっている。
 上記イの(ロ)のAの(A)及び(B)のとおり、請求人とU社との間で取引に係る契約書面などは作成されていなかったものの、U社の前最高執行責任者であったgは、U社事業は、請求人からの電話での申出により開始したのであり請求人との取引である旨明言している。そして、上記イの(ロ)のAの(C)ないし(F)のとおり、U社は、請求人に対し歯科技工物の製作を依頼し、請求人から当該歯科技工物を受領して、請求人からの請求に基づき請求人名義口座にその代金を振り込んでいたものであり、これらの事実を総合すると、U社の取引相手が請求人のみであり、U社事業仲間を含む共同受注ではないことは明らかである。
B また、上記イの(ロ)のBのとおり、請求人は、当審判所に対して、U社事業について、U社事業仲間との共同受注であることを証する書類を提示しておらず、上記認定を覆す証拠も存しない。
 以上のことから、U社事業に係る売上げはその全てが請求人に帰属すると認められる。
(ハ) 請求人の主張について
A 請求人は、本件異議調査担当職員が作成した本件事業仲間の各質問てん末書は、1U社事業仲間であるX及びYの質問てん末書が、ほぼ同じ内容の答えとなっていること、2Zの質問てん末書は二度作成され、T社事業について、平成25年4月5日付では、はっきりと「共同で受けた」と証言をしているが、同月26日付では「共同でない」かのように答えさせ、不当な誘導を行っていることから、本件事業仲間の各質問てん末書は、信ぴょう性のないものである旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)及び(ロ)のとおり、T社事業及びU社事業に係る売上げが全て請求人に帰属するとの当審判所の判断は、本件事業仲間の各質問てん末書を根拠としたものではないから、当該各質問てん末書の信ぴょう性について判断する必要はない。
B 請求人は、T社事業及びU社事業は、本件事業仲間との共同事業であること、T社事業及びU社事業に係る売上げの請求は請求人が窓口として行っているものであること、本件事業仲間は請求人に対して従属的でないことから、T社事業及びU社事業に係る売上げの全てが請求人に帰属するものではない旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)及び(ロ)のとおり、T社事業及びU社事業は、共同事業とは認められず、また、上記イの(イ)のE及び(ロ)のBのとおり、当審判所が、請求人に対し、T社事業及びU社事業について、本件事業仲間との共同受注であることを証することができる書類の提示を求めたが、請求人から本件事業仲間との共同受注であることを証する書類の提示はなく、当審判所の調査によっても共同受注と認めるに足る事実は認められなかったことから、この点の請求人の主張には理由がない。
(ニ) 請求人の事業に係る消費税等の課税売上高について
 請求人は、上記1の(4)のイのとおり、歯科技工業を営んでおり、請求人の当該事業に係る売上げは、消費税法第2条第1項第8号に規定する「資産の譲渡等」に該当する。また、消費税法第6条に規定する消費税を課さないものとされる資産の譲渡等に該当しないから、請求人の事業に係る売上げは、請求人の消費税等の課税売上高となる。

(4) 争点4(請求人に、通則法第68条第1項及び第2項にいう「隠ぺいし、又は仮装し」の行為があるか否か。)について

イ 法令解釈

通則法第68条第1項及び第2項は、「納税者が・・・隠ぺいし、又は仮装し」と規定し、「隠ぺいし、又は仮装し」とする行為の主体を納税者としており、本来的には、納税者自身による「隠ぺいし、又は仮装し」の行為の防止を企図したものと解される。しかし、納税者以外の者が「隠ぺいし、又は仮装し」の行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると、重加算税制度の趣旨及び目的を没却することとなる。そして、納税者が妻に納税申告の手続を委任した場合についていえば、納税者において妻が「隠ぺいし、又は仮装し」の行為を行うこと若しくは行ったことを認識し、又は容易に認識することができ、法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず、納税者においてこれを防止せずに「隠ぺいし、又は仮装し」の行為が行われ、それに基づいて過少申告がされたとき、又は申告がされなかったときには、当該「隠ぺいし、又は仮装し」の行為を納税者本人の行為と同視することができ、重加算税を賦課することができると解するのが相当である。

ロ 認定事実

原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 妻は、請求人名義の銀行預金通帳や売上げに係る領収証(控)から、請求人の月別の売上金額を把握していた。

(ロ) Sに対する毎月の売上金額は、取引の翌月末日頃にd銀行○○支店の請求人名義普通預金(口座番号○○○○)に振込手数料を差し引かれた金額が振込まれた。

(ハ) 妻は、本件各年分において、Sとの取引について、本件各集計表の月別の売上金額を実際の売上金額より過少に記載し、売上明細に売上金額を年約150万円ないし380万円過少に記載した。

(ニ) 請求人は、妻が上記(ハ)のとおり本件各集計表及び売上明細に売上げを少なく記載し、請求人の所得税の確定申告をしていたことを了知していた。

ハ 当てはめ

(イ) 「隠ぺいし、又は仮装し」の行為について
 上記(1)のイの(イ)のB及び同(ロ)のBのとおり、妻が売上げに係る領収証(控)及び納品書兼請求書を処分した行為、また、上記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、妻が月別の売上金額を銀行預金通帳や領収証(控)から把握していたにもかかわらず、上記ロの(ハ)のとおり、請求人の所得税の申告の基礎となった本件各集計表及び売上明細に実際の売上金額から年約150万円ないし380万円過少に記載した行為は、通則法第68条第1項及び第2項に規定する事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装した行為に該当すると認められ、妻が請求人の所得税の事業所得に係る売上げ及び消費税等の課税標準等の計算の基礎となる消費税等の課税売上げを「隠ぺいし、又は仮装し」たものと認められる。

(ロ) 「隠ぺいし、又は仮装し」の行為の主体について
 通則法第68条第1項及び第2項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」とする行為の主体については、上記イのとおり解されているところ、請求人は、上記ロの(ニ)のとおり、妻の当該行為を了知しながらこれを防止せず、所得税を過少に申告し、また、消費税等を申告していなかったものであることから、妻の当該行為は請求人の行為と同視することができる。

(ハ) まとめ
 そうすると、請求人において、妻が、所得税の事業所得に係る売上げ及び消費税等の課税標準等の計算の基礎となる消費税等の課税売上げを隠ぺいし、又は仮装し、所得税の確定申告書を提出したこと及び法定申告期限までに本件各課税期間に係る消費税等の確定申告書を提出しなかったことは、請求人の行為と同視することができることから、通則法第68条第1項及び第2項に規定する重加算税の賦課要件を充足するものと認められる。

(ニ) 請求人の主張について
 請求人は、妻が妻の親に返済する月20万円前後を売上金額から差し引いたことについては、請求人及び妻が税法に無知であったことが要因であり、隠ぺい又は仮装したとの認識はなく、日々のやりくりの中で不用意に行った行為である旨を主張する。
 しかしながら、妻は、上記(1)のイの(イ)のDのとおり、「これが漏れていた収入分です。」として本件調査担当事務官に本件書面を提示したのであるから、過少に売上げを計上していたことを認識していたと認められ、本件各年分において、実際の売上金額から年約150万円ないし380万円を差し引いて過少に売上げを計上した行為は、日々のやりくりの中で不用意に行った行為とはいえず、上記(イ)及び(ロ)のとおり、請求人が「隠ぺいし、又は仮装し」たのと同視するのが相当と認められることから、この点の請求人の主張には理由がない。
 また、請求人の争点4に関するその他の主張は、いずれも上記(イ)の判断を左右するものではないから、当該主張には理由がない。

(5) 争点5(請求人に、通則法第70条第5項にいう「偽りその他不正の行為」があるか否か。)について

イ 法令解釈

通則法第70条第5項に規定する「偽りその他の不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいうものと解される。

ロ 当てはめ

(イ) 請求人は、妻が、妻の親に対する返済額を売上げから差し引いていたことは事実であっても、「他人に容易に分かるような行為」は、「偽りその他の不正の行為」の対象となる「悪質・大口脱税」には全く当たらない等主張する。
 しかしながら、「偽りその他不正の行為」は、上記イのとおり解されるところ、上記(4)のハの(イ)の、妻が売上げに係る領収証(控)及び納品書兼請求書を処分した行為、また、妻が月別の売上金額を銀行預金通帳や領収証(控)から把握していたにもかかわらず、請求人の所得税の申告の基礎となった本件各集計表及び売上明細に実際の売上金額から年約150万円ないし380万円過少に記載した行為は、通則法第70条第5項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当すると認められるから、この点の請求人の主張には理由がない。

(ロ) また、請求人は、通則法第70条第5項の規定を適用して行われた平成17年分ないし平成20年分の所得税の各更正処分は、附帯決議に反し違法である旨主張する。
 しかしながら、附帯決議は、税務署長が調査に当たって尊重する趣旨のものであるところ、平成17年分ないし平成20年分の所得税の各更正処分は、上記のとおり、妻の行為が通則法第70条第5項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当するからなされたものであるから、違法な点はなく、この点の請求人の主張には理由がない。

(6) 本件所得税各更正処分について

原処分庁は、本件各年分の総所得金額等について、別表1の「更正処分等」欄のとおり算定しているところ、当審判所の調査の結果においても原処分庁の算定額は相当と認められる。
 したがって、請求人の本件各年分の総所得金額及び納付すべき税額は、本件所得税各更正処分と同額となることから、本件所得税各更正処分は適法である。

(7) 本件所得税各賦課決定処分について

本件所得税各更正処分は、上記(6)のとおり、いずれも適法であり、本件所得税各更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が本件所得税各更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 また、上記(4)のハの(ハ)のとおり、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を充足することから、同法第65条第1項及び同法第68条第1項に基づいた本件所得税各賦課決定処分はいずれも適法である。

(8) 本件消費税等各決定処分について

原処分庁は、本件各課税期間に係る各基準期間である平成18年課税期間、平成20年課税期間及び平成21年課税期間における各課税売上高について、別表4の「原処分庁算定額」欄のとおり算定しているところ、当審判所の調査の結果においても原処分庁の算定額は相当と認められ、いずれも1,000万円を超えることとなるので、本件各課税期間において、請求人は消費税法第9条に規定する消費税を納める義務を免除する事業者に該当しない。
 また、原処分庁は、本件各課税期間の消費税等の課税標準額等について、別表2の「決定処分等」欄のとおり算定しているところ、当審判所の調査の結果においても原処分庁の算定額は相当と認められる。
 したがって、請求人の本件各課税期間の消費税等に係る納付すべき税額は、本件消費税等各決定処分と同額となることから、本件消費税等各決定処分は適法である。

(9) 本件消費税等各賦課決定処分について

本件消費税等各決定処分は、上記(8)のとおり、いずれも適法であり、本件消費税等各決定処分により納付すべき税額の基礎となった事実が本件消費税等各決定処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第66条第1項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 また、上記(4)のハの(ハ)のとおり、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を充足することから、同法第66条第1項及び同法第68条第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいた本件消費税等各賦課決定処分はいずれも適法である。

(10) その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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