(平成27年3月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、贈与により取得した株式を評価する際、その株式の発行会社の純資産価額の計算上、借地権の価額を零として贈与税の申告を行ったところ、原処分庁が、同社は贈与者が同族関係者となっている同族会社に該当し、同社が所有する建物の敷地は贈与者が同社に対して相当の地代を収受して貸し付けていることから、当該敷地の自用地としての価額の100分の20に相当する金額を同社の純資産価額に算入して株式を評価するのが相当であるとして贈与税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、関係通達の解釈に誤りがあるなどとしてその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成24年分の贈与税について、別表1の「当初申告」欄のとおりとする申告書(以下、この申告書に係る申告を「本件申告」という。)を、法定申告期限までに原処分庁へ提出した。

ロ 原処分庁は、これに対し、平成25年12月20日付で別表1の「更正処分及び当初の賦課決定処分」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「当初の賦課決定処分」という。)をした。

ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成26年1月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年3月28日付で棄却の異議決定をした。

ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件更正処分及び当初の賦課決定処分に不服があるとして、平成26年4月24日に審査請求をした。

ホ 原処分庁は、当初の賦課決定処分について、処分理由不記載を理由として平成26年6月20日付で同処分を取り消すとともに、同日付で別表1の「賦課決定処分」欄のとおり、平成24年分の贈与税の過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。

ヘ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成26年7月18日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、国税通則法(以下「通則法」という。)第90条《他の審査請求に伴うみなす審査請求》第1項の規定に基づき、平成26年7月24日付で当該異議申立てに係る異議申立書を国税不服審判所長に送付する旨を請求人に対して通知し、同月28日付でその送付をした。
 上記異議申立書は、平成26年7月29日、当審判所に送付されたため、通則法第90条第3項の規定により、同日、審査請求がされたものとみなされる。
 なお、上記ニの審査請求(平成26年4月24日請求)と併合審理する。

(3) 関係法令等

別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

以下の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ G社は、資本金の額が10,000,000円、発行済株式数が20,000株の不動産賃貸業を営む法人で、平成24年において、発行済株式の全てを、請求人、請求人の実父であるH、請求人の母であるJ及び請求人の妹であるKの4名で保有する同族会社である。

ロ G社が発行する株式は、評価通達168《評価単位》の(3)に定める「取引相場のない株式」である。

ハ G社は、評価通達178に定める会社の規模区分の判定に当たり、「卸売業、小売・サービス業以外」に該当し、「中会社」に区分される会社である。

ニ G社は、不動産賃貸業を営むに当たり、a市b町○-○の宅地(以下「本件土地」という。)上に、地上14階建の賃貸用共同住宅を所有しているが、本件土地の所有者はHであり、G社は、本件土地を同人から賃借している。

ホ G社は、本件土地の地代として、Hに対し、平成24年において年間19,XXX,XXX円を支払っている。

ヘ 評価通達の定めにより評価した本件土地の平成22年分ないし平成24年分の自用地としての価額は次のとおりである。
(イ) 平成22年分 200,645,820円
(ロ) 平成23年分 197,030,580円
(ハ) 平成24年分 193,234,578円
(ニ) 平成22年分ないし24年分の3年間の平均 196,970,326円

ト 請求人は、平成24年6月1日、Hとの間で、G社が発行する株式のうち1,840株(以下「本件株式」という。)を同人から贈与(以下「本件贈与」という。)により取得する旨の贈与契約を締結し、同日、同人から本件株式の引渡しを受けた。
 この結果、請求人の保有するG社の株式数は従前の5,560株から7,400株となり、発行済株式数(20,000株)に占める割合は37%となった。

チ 請求人の代理人であるM税理士は、平成25年6月18日に本件申告に係る「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」を原処分庁に提出した。このうち第3表「一般の評価会社の株式及び株式に関する権利の価額の計算明細書」及び第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の主な記載内容は、別表2のとおりである。

リ 本件更正処分における本件株式の1株当たりの評価額の明細は、別表3のとおりである。

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2 争点

(1) 本件株式の評価に当たり、借地権の価額を純資産価額に算入すべきか否か。
(2) 通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当する事情が存在するか否か。

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3 主張

(1) 争点1 本件株式の評価に当たり、借地権の価額を純資産価額に算入すべきか否か。

原処分庁 請求人
次の理由から、本件株式の評価に当たり、60年通達の6の注書及び43年通達を適用して、借地権の価額をG社の純資産価額に算入すべきである。 次の理由から、本件株式の評価に当たり、60年通達の6の注書及び43年通達を正しく解釈し、借地権の価額をG社の純資産価額に算入すべきでない。

イ 60年通達の6の注書及び43年通達について

相当の地代の収受がある場合には、土地の収益に対応する対価は全て地代で清算されるものであることから、地代が低い水準にとどまるということがなく、借地人に帰属する経済的な利益としての資産(借地権)は観念されないので、この場合における借地人の借地権の価額は、原則零となる。一方で、貸宅地の評価上は、同様の事情で借地権の価額を零とする考え方もあるが、賃貸借契約に基づく借地借家法上の利用の制限を勘案して、土地の自用地としての価額から、その価額の20%相当額を控除することとされている。
 ただし、例えば、同族会社の代表者が、その代表者の所有に係る土地を相当の地代を収受して当該同族会社に賃貸している場合において、その代表者に相続が発生したときは、相続税の課税上、当該賃貸に係る土地の価額から20%の借地権相当額が控除されるだけであるとするならば、代表者が当該同族会社に対して支配関係を有することを考慮すると、相当の地代を収受して同族会社に土地を賃貸する方法を採る場合と、そうでない方法により同族会社に土地を使用させる場合とで課税の取扱い上、不公平を生ぜしめることとなる。そこで、相当の地代を収受して土地を貸し付けている場合において、借地人が同族会社であり、地主が当該同族会社の同族関係者であるといった関係がある場合には、貸付けに係る土地の評価額が株式の評価額を通じて100%顕現することができるよう、20%の借地権相当額を被相続人の所有に係る同族会社の株式の評価上、同社の純資産価額に算入することとされている。
 また、43年通達は、個別の照会に対して指示されたものであり、その趣旨が上記のとおりであることからすれば、相続税の場合にのみ限定して適用されるというものではなく、地主が、借地人である法人を当該地主の所有に係る株式等で支配する関係にある場合には、相続又は贈与を原因として株式等の所有権がほかに移転するときにも同様に取り扱うことが課税の公平の観点から合理的であり適切である。
 なお、請求人は、贈与税の納税義務者(受贈者)は、贈与によって評価会社の株式を取得したとしても、将来において、受贈者が取得する土地の所有者が不確定である旨述べるが、相続の場合についても、土地の取得者と株式の取得者が異なる場合もあるところであり、将来において土地及び株式の所有者が異なるといった不確実性を論拠とする請求人の主張は整合性に欠けるものといわざるを得ない。
 相続税法第22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時の時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による旨規定しているところ、「土地の評価額が個人と法人を通じて100%顕現する」ことについて、当該財産を贈与により取得した時における現況によれば足りる。

イ 60年通達の6の注書及び43年通達について

60年通達の6の注書を文理解釈すると、「被相続人」が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸し付けている場合においては、43年通達の適用があり、また、これを反対解釈すると、「被相続人でない者」(相続の場合の被相続人以外の者及び贈与の場合の贈与者)が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸し付けている場合においては、43年通達の適用はないこととなる。
 また、60年通達及び43年通達のとおり取り扱う趣旨については、43年通達の(理由)欄が明確に示している。この(理由)欄に従いその趣旨を目的論的に解釈すると、相続税の納税義務者(相続人)は、「相当の地代を収受して貸し付けている被相続人所有の宅地」及び「これを借り受けている評価会社の株式」を、いずれも被相続人から相続によって取得し、この土地及び株式の価額は、いずれも被相続人に係る相続税の課税価格に算入されるところ、この場合に、土地の価額は20%の借地権を控除して評価し、他方、株式の評価に当たっては20%の借地権の価額を純資産価額に算入し、いずれも相続税の課税価格に算入することにより、相続税の課税時期において、土地の評価額が個人と法人を通じて100%顕現することができ、課税の公平上適当と考えられるのである。
 これに対し、被相続人から評価会社の株式を相続によって取得したとしても、「相当の地代を収受して評価会社に貸し付けている宅地を被相続人以外の者が所有する」場合には、同社の株式を取得した相続人は、「土地の評価額を個人と法人を通じて100%顕現することはできない」から、純資産価額に20%の借地権を算入しないことによって、「個人と法人を通じて100%顕現することができる相続人」との間における課税上の公平バランスを確保することができる。
 しかしながら、贈与税の納税義務者(受贈者)は、贈与によって評価会社の株式を取得したとしても、「相当の地代を収受して評価会社に貸し付けられている贈与者の所有土地」は、1いまだ受贈者の所有するところではなく、また、2将来においても受贈者がこれを取得するかどうかは未定であり、そもそも、3将来においてもこの土地を贈与者が所有しているかどうか、4相当の地代を収受して評価会社に貸し付けられているかどうか、さらには、5贈与者と受贈者のいずれが延命するかさえ未定であるから、贈与によって評価会社の株式を取得した時点において、必ずしも土地の評価額を個人と法人を通じて100%顕現することはできないので、純資産価額に20%の借地権を算入しないことにより、全ての受贈者を課税上公平に取り扱うことができるのである。

ロ 評価通達178について

相当の地代を収受している貸宅地の評価の取扱いを定めた43年通達によれば、上記イのとおり、地主が、借地人である法人を当該地主が所有する株式等で支配する関係にある場合とそのような関係にない場合とで異なる2つの価額が必然的に算定されることとなる。
 したがって、本件更正処分は、取引相場のない株式を評価する場合のその評価をしようとする株式の発行会社の評価上の区分方法を定める評価通達178に反するものではない。

ロ 評価通達178について

評価通達178は、相続税及び贈与税の課税価格に算入する株式の評価方法を定めたものであり、同通達は、株主の態様によって、株式の評価方法及び評価額が決定されるように定められている。
 つまり、いかなる株主から贈与を受けた株式であっても、その価額は、受贈者の株主の態様によって、画一的に算定される評価方式によっている。
 しかるに、仮に原処分庁の主張が正当であるならば、本件株式をHから贈与を受けた場合とそれ以外の者から贈与を受けた場合とでは、贈与税の課税価格に算入される本件株式の評価額が異なることとなる。
 このように異なる2つの評価額が算定されるのは、60年通達の6の注書及び43年通達を適用して、相続税の課税価格に算入する株式の価額を評価する場合だけである。
 したがって、株式の贈与の場合にはこれらの通達を適用すべきでない。

(2) 争点2 通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当する事情が存在するか否か。

請求人 原処分庁
国税庁又は国税局の責任下で発刊されている解説書のうちに、原処分庁が主張する解釈と同じ見解を示した文献は見当たらないところ、「相続税法基本通達逐条解説」には、60年通達の6の適用は、相続税の場合に限ってこの通達の適用がある旨の記載がある。「相続税法基本通達逐条解説」は、現在版は個人名での監修(編)となっているが、かつて60年通達及び43年通達が発遣されて以降、長年にわたって「国税庁資産税課長 監修」及び「国税庁資産税課課長補佐 編」として発刊されてきた解説書である。このような解説書を信頼して本件申告をしたことには正当な理由があるというべきであるから、本件賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。  正当な理由がある場合とは、税法の解釈に関して、申告時に公表されていた見解が、その後改正されたことに伴い、修正申告をするに至った場合などをいうが、請求人が信頼したとする解説書は、そもそも、国税庁又は国税局の責任下で発刊されているものではなく、当該解説書の文中意見にわたる部分は、執筆者の個人的見解であることから、「公表された見解」ではないため、正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

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4 判断

(1) 争点1(本件株式の評価に当たり、借地権の価額を純資産価額に算入すべきか否か。)について

イ 法令解釈等

(イ) 評価の原則
 相続税法第22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額について、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、同条にいう時価とは、課税時期における当該財産の客観的交換価値をいうものと解するのが相当である。
 しかしながら、財産の客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、課税実務においては、財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって財産を評価することとされている。
 当審判所においても、かかる取扱いは、税負担の公平、効率的な税務行政の実現等の観点から合理的であると解する。

(ロ) 取引相場のない株式の評価
 取引相場のない株式は、その発行会社の規模も上場会社に匹敵するものから個人企業と変わらないものまで千差万別であることなどから、評価通達178及び同通達179は、取引相場のない株式の価額について、合理的で、かつ、その実態に即した評価を行うため、評価会社の規模を大会社、中会社及び小会社に区分し、上場会社に匹敵するような大会社の株式は、上場会社の株式の評価との均衡を図ることが合理的であるので、原則として、類似業種比準価額方式により評価し、その経営実態において個人企業に近い小会社の株式は、会社経営と所有の分離もなく株式の流動性も少ないことから、純資産価額方式により評価することとし、その中間にある中会社の株式については、大会社の評価方式と小会社の評価方式を併用して評価することとされている。
 また、評価会社の1株当たりの純資産価額について、評価通達185は、課税時期における評価会社の各資産を評価通達に定めるところにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の合計額などを控除した金額を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とするとされている。
 これらの評価方法は、評価会社の規模等に応じて適正な評価を行うために定められているものと認められ、かかる取扱いは当審判所においても合理的であると解する。

(ハ) 相当の地代を支払っている場合の借地権等の評価
A 60年通達は、借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金を支払う取引上の慣行のある地域において、権利金の支払に代え相当の地代を支払うなどの特殊な場合の相続税及び贈与税の取扱いを定めたものであり、同通達の3は、借地権が設定されている土地について、相当の地代を支払っている場合の当該土地に係る借地権の価額は、権利金を支払っていない場合や特別の経済的利益を供与していない場合は零と評価する旨定めている。
 このように取り扱う理由は、借地権の設定に際し通常権利金を支払う取引上の慣行のある地域において、権利金の授受に代えて相当の地代を収受している場合には、土地の所有者からみれば、当該土地の地代収受権としての経済的価値は減殺されておらず、当該土地に借地権の設定がされてもなお更地としての経済的価値が維持されていると考えられ、借地人に帰属すべき利益の生ずる余地がないことによるものであり、当審判所においても、60年通達の3の定めは合理的なものであると解する。
B 60年通達の6は、借地権が設定されている土地について、相当の地代を収受している場合の当該土地に係る貸宅地の価額は、権利金の授受がない場合や特別の経済的利益を受けていない場合は、当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額によって評価する旨定めている。
 このように取り扱う理由は、権利金を収受していない場合又は特別の経済的利益を受けていない場合において、相当の地代を収受している場合の課税時期における当該貸宅地の価額は、上記Aによれば借地権の価額を零とする考え方もあるが、借地借家法上の借地権が設定されていることにより土地の所有者が自由な使用収益を制約されること等を考慮するとともに、借地権の取引慣行のない地域における貸宅地の評価について自用地としての価額から20%相当額を控除して評価していることとの権衡を図って、自用地としての価額から、その価額の20%相当額を控除することが適当であることによるものであり、当審判所においても、60年通達の6の定めは合理的なものであると解する。
C ただし、60年通達の6は、その注書において、被相続人が同族関係者となっている同族会社に対し相当の地代を収受して土地を貸し付けている場合においては、43年通達を適用して、被相続人が所有する同族会社の株式の評価上、当該土地の自用地としての価額の20%に相当する金額(借地権の価額)を同社の純資産価額に算入する旨定めている。
 このように取り扱う理由は、同族会社である株式会社の同族関係者が、その所有に係る土地を、相当の地代を収受して当該会社に賃貸している場合において、その同族関係者に相続が発生したときは、相続税課税上、当該賃貸に係る土地の価額から20%の借地権相当額が控除されるだけであるとするならば、同族関係者は当該会社に対して支配するという関係を有することを考慮すると、相当の地代を収受して同族会社に土地を賃貸する方法を採る場合と権利金及び通常の地代を収受して同族会社に土地を賃貸する場合とで、課税の取扱い上不公平を生ぜしめることになる。そこで、地主と借地人が上記のような関係にある場合には、20%の借地権相当額を同族会社の純資産価額に算入することで、貸付けに係る土地の評価額を株式の評価額を通じて100%顕現(地主の株式の所有割合などにより必ずしも100%顕現できるわけではないが)させることが課税の公平上適当と考えられるからであり、当審判所においても、これらの取扱いは、借地権相当額を同族会社の純資産価額に算入すべき場合を必要十分に示しているとはいえないものの、上記の場合の定めとしては合理的なものであると解する。

ロ 判断

(イ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次のとおりである。
A G社が発行する株式は、上記1の(4)のイのとおり、請求人、請求人の父母及び請求人の妹がその全てを保有しており、評価通達178ただし書に当たらないから、本件株式は同通達179の定めによって評価されることになる。
B G社は、上記1の(4)のハのとおり、評価通達178に定める「中会社」に該当し、同社の株式の原則的な評価に当たっては、同通達179の(2)に定めるLの割合を0.60として、「類似業種比準価額」と「1株当たりの純資産価額」を併用して評価することになる。
C G社が原処分庁へ提出した、平成23年4月1日から平成24年3月31日までの事業年度の法人税の確定申告書に添付した平成24年3月31日現在の貸借対照表によれば、資産の部に借地権が計上されておらず、本件土地の賃貸借に伴う、権利金の授受及び権利金の認定課税が行われたと認めることはできない。
D G社は、上記1の(4)のホのとおり、本件土地の地代としてHに対し、平成24年中において年間19,XXX,XXX円を支払っているところ、平成24年以前3年間の本件土地の自用地としての価額の平均額は、同ヘのとおり196,970,326円であり、G社が支払っている当該地代の本件土地の自用地としての価額に対する割合は、60年通達の1に定める「年6%程度」を上回っていることから、当該地代の額は、同通達に定める「相当の地代」の額であると認められる。

(ロ) 当てはめ
 本件株式の価額は、上記(イ)のA及びBのとおり、「類似業種比準価額」と「1株当たりの純資産価額」を併用して評価することとなるところ、このうち、「類似業種比準価額」については、請求人と原処分庁の間に争いがなく、評価通達180《類似業種比準価額》の定めにより、本件株式の11株当たりの配当金額、21株当たりの利益金額及び31株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)を基に本件申告においても適正に計算されている。
 次に、本件株式の「1株当たりの純資産価額」の算定に当たっては、上記(イ)のC及び Dのとおり、G社が、権利金等の支払に代えて相当の地代を支払って、本件土地をHから賃借していることから、60年通達の6の注書の適用の有無が問題となる。
A この点、相続税の課税上、43年通達を適用する取扱いが合理的であることは上記イの(ハ)のCにおいて説示したとおりである。
 上記説示部分の実質的理由は、土地を所有する者が、家族で経営する会社を設立し、所有する土地にその会社に対する借地権を設定して建物を建て、その建物を利用して家族経営に係る事業をするにつき、会社を介在させることで、土地所有者自身がその土地上に自己所有建物を建てて事業を行う場合に比して、その代替わりの際に課税されるべき相続税が回避されることを防止することにあると解される。ところで、生前贈与に対して課税することで生前贈与によって相続税の負担が回避されることを防止しようという贈与税の意義からすると、上記の代替わりの際に課税されるべき相続税の回避の防止は、生前贈与を通じて同様の結果が生じてしまうことをも防止しなければ、徹底しないことになり、そうなるとひいては贈与税の存在意義を没却ないし減殺することになりかねない。
 確かに、60年通達の6の注書は、その文言のみからすれば、相続税の課税上の取扱いを定めたものとなっているが、同通達の表題や趣旨の記載から贈与税の取扱いをも定めたものであることは明らかであり、同通達の6の注書に関しても、上記の代替わりの際に課税されるべき相続税の回避の防止の趣旨に合致する限りは、生前贈与の場合にも及ぼすべきであると考えられる。そうすると、本件のように、同族会社に土地を貸し付けている当該同族会社の同族関係者が、当該同族会社の株式のみを贈与した場合において、60年通達の6の注書の適用がないとするならば、先に株式の贈与が行われ、その後、当該土地について贈与を行うか又は当該同族関係者に相続が開始した場合、先に行われた株式の贈与の際には、借地権相当額(土地の自用地としての価額の20%)を含めずに当該同族会社の純資産価額を算定し、その後の土地の贈与又は相続の際には、借地権相当額を控除して当該土地の評価額を算定することとなり、結果的に当該借地権相当額が相続税ないし贈与税の対象から除外されることになって、代替わりの際に課税されるべき相続税の回避が生じることになってしまうから、これを防止すべきであると考えられる。
 そこで、より一般的にいうなら、同族会社の株式を贈与する同族関係者からみて、相当程度年下の第1順位の推定相続人(将来当該贈与者に相続が開始した場合に相続人となる蓋然性が高い者をいう趣旨であり、実子であれば該当するのが原則)が受贈者である場合には、当該会社に借地権が設定されている土地の所有者との関係次第で、60年通達の6の注書の取扱いにより借地権相当額を当該会社の純資産価額に算入すべき場合があるということになる。
B 本件においては、本件株式の贈与者であるHが所有する土地を、相当の地代を収受して同人が同族関係者となっているG社に貸し付けている状況において、本件株式を同人の実子である請求人に贈与していることから、本件株式の評価に当たり借地権の価額を同社の純資産価額に算入するとした原処分庁の判断は相当というべきである。

(ハ) 請求人の主張について
A 株式等の贈与における60年通達の6の注書の適用について
 請求人は、60年通達の6の注書を文理解釈及び反対解釈すると、被相続人でない者(相続税の場合は被相続人以外の者を指し、贈与税の場合は贈与者を指す。)が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸し付けている場合においては、43年通達の適用はない旨主張する。
 しかしながら、60年通達の6の注書は、上記(ロ)のAで述べたとおり、相続税課税の場合にのみ限定して適用されるというものではなく、その趣旨に合致する限りは贈与の場合にも適用すべきであって、請求人の主張は採用できない。
B 株式等の受贈者の課税上の公平について
 請求人は、株式の受贈者は、贈与によって評価会社の株式を取得したとしても、相当の地代を収受して評価会社に貸し付けられている贈与者の所有土地は、いまだ受贈者の所有するところではなく、また、将来の贈与者と受贈者の関係や土地の所有及び賃貸関係が不確定であるなどから、贈与によって株式を取得した時点において、必ずしも土地の評価額が個人と法人を通じて100%顕現することはできないため、評価会社の純資産価額に20%の借地権を算入しないことにより、全ての受贈者を課税上公平に取り扱うことができる旨主張する。
 確かに、請求人が主張するように、本件の場合、株式等を贈与した時点においては、贈与者の所有土地は受贈者の所有するところではなく、また、将来の状況は不確定ではあるが、本件株式の贈与者であるHと受贈者である請求人が親子関係にあることからすれば、Hに相続が開始した場合、請求人が相続人となる蓋然性が高いから、贈与財産である本件株式の評価に当たり、借地権の価額をG社の純資産価額に算入して同社の株式の価額を算定することは、上記(ロ)のAで述べた贈与税が相続税の補完税である趣旨に鑑みても相当である。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
C 評価通達178について
 請求人は、同一の株式等で異なる価額が算定されるのは、60年通達の6の注書及び43年通達を適用して相続税の課税価格に算入する株式等の価額を評価する場合のみであり、株式等の贈与にこれらの通達を適用した場合には評価通達178の定めに反する評価となる旨主張する。
 しかしながら、評価通達178は、取引相場のない株式の評価を行う前提として、評価会社が同通達に掲げる表の大会社、中会社又は小会社のいずれに該当するのかを判定するための基準等を定めたものにすぎず、請求人が主張の前提とするように、受贈者である株主の態様によって株式等の評価方法及び評価額が画一的に算定されるようその評価方法を定めたというものではない。上記(ロ)で説示したとおり、本件贈与においては、まさに60年通達の6の注書及び43年通達を適用する場合であることから、評価通達178に反するものではない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(ニ) 純資産価額に算入すべき価額について
 原処分庁は、本件更正処分において、G社の株式評価上、本件土地の自用地としての価額の20%の金額を借地権として同社の純資産価額に算入して本件株式の価額を算定しているが、本件において、借地人であるG社は、借地上に共同住宅を建築して賃貸の用に供していることから、同社の株式評価上純資産価額に算入すべき借地権の価額は「貸家建付借地権」として評価する必要がある。
 したがって、G社の純資産価額に算入すべき本件土地に係る借地権の価額は、借地権価額38,646,916円から当該借地権価額に借家権割合30%を乗じた価額を控除した27,052,841円とするのが相当であり、この結果、本件株式の1株当たりの評価額は、別表4のとおり、○○○○円となる。

(2) 争点2(通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当する事情が存在するか否か。)について

イ 法令解釈等

過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって、当初から適法に申告した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
 そして、このような過少申告加算税の趣旨に照らせば、通則法第65条第4項にいう正当な理由があると認められる場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
 したがって、法の不知や納税者の主観的な事情に基づく単なる法律解釈の誤りは、正当な理由とならないものというべきである。

ロ 当てはめ

請求人は、「相続税法基本通達逐条解説」は、現在版は個人名での監修(編)となっているが、かつて60年通達及び43年通達が発遣されて以降、長年にわたって「国税庁資産税課長 監修」及び「国税庁資産税課課長補佐 編」として発刊されてきた解説書であり、このような解説書を信頼して本件株式に係る贈与税の申告をしたことには正当な理由があるというべきである旨主張する。
 確かに、請求人が信頼したという解説書「平成3年版相続税法基本通達逐条解説」(以下「本件解説書」という。)は、国税庁資産税課長が監修し国税庁資産税課課長補佐ほか課税庁職員が執筆した解説書には相違ないが、60年通達の6の注書に係る解説内容は、60年通達の6の注書において、自用地としての価額から控除された20%相当の金額及び自用地としての価額の100分の80を超える金額について控除された金額については、被相続人が同族関係者となっている同族会社にその土地を貸し付けている場合には、その金額をその同族会社の株式又は出資の評価上、純資産価額に算入して計算することとしたのは、その土地の価額が個人と法人を通じて100%顕現することが課税の公平上適当と考えられることによるものである旨記述されている。本件解説書の「被相続人が同族関係者となっている同族会社にその土地を貸し付けている場合」との表現は、同通達に記載のある43年通達の事例に即して、事例としての頻度が高い相続税課税の場合を例として引用したにすぎず、加えて、株式の贈与の場合に適用されない旨の積極的な記述も認められないことからすれば、本件株式の評価に当たり、60年通達の6の注書及び43年通達の適用がないとした請求人の判断は請求人独自の見解に基づいたものであり、その結果、本件申告における納付すべき税額が過少となったものと認められる。
 そうすると、納税義務者が自ら課税標準の額及び税額を正確に確定し申告しなければならないとする申告納税制度の下において、平成24年分の贈与税の申告が過少申告になったとしても、そのことは、法令解釈の誤解という主観的な事情によるものにすぎず、真に納税者の責めに帰することのできないという客観的な事情があるとは認められないほか、過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合とも認められないことから、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するということはできない。
 したがって、請求人の主張は採用できない。

(3) 本件更正処分等について

イ 本件更正処分について

本件株式の価額は、上記(1)のロの(ニ)で認定した本件株式の1株当たりの評価額○○○○円に株式数1,840株を乗じた○○○○円となる。そこで、この額から基礎控除額1,100,000円を控除した額○○○○円を基に請求人の基礎控除後の課税価格(1,000円未満切捨て)及び納付すべき税額を算出すると、別紙1「取消額等計算書」の3の「裁決後の額」欄のとおり、○○○○円及び○○○○円となる。
 以上の結果、請求人の納付すべき税額は、本件更正処分の額を下回るから、本件更正処分は、別紙1の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

ロ 本件賦課決定処分について

上記イにおける本件更正処分の一部取消しに伴い、過少申告加算税の額の基礎となる税額は○○○○円となる。また、上記(2)のロのとおり、上記イの納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当する事情が存在するとは認められない。
 そこで、請求人の過少申告加算税の額を算出すると、別紙1の3の「裁決後の額」欄のとおり○○○○円となり、この金額は本件賦課決定処分の金額を下回るから、本件賦課決定処分は、別紙1の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(4) 当初の賦課決定処分について

当初の賦課決定処分については、上記1の(2)のホのとおり、平成26年6月20日付で取り消されたことが明らかであるから、当初の賦課決定処分に係る審査請求はその対象を欠くものである。

(5) その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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