(平成27年1月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が納税者D(請求人の夫。以下「本件滞納者」という。)から土地の持分の贈与を受けたことから、原処分庁が、当該贈与は国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する滞納者がその財産につき行った無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(以下「無償譲渡等の処分」という。)に当たるとして、請求人に対して第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件告知処分」という。)をしたのに対し、請求人が、当該贈与は本件滞納者の国税の差押えを免れるためになされたものではないから同条の無償譲渡等の処分に当たらないなどと主張して、本件告知処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

イ 請求人は、昭和56年1月20日、本件滞納者と婚姻した。当該婚姻関係は、本件告知処分時(平成26年1月10日)においても継続していた。

ロ 本件滞納者は、平成4年8月○日、同人の母Eを被相続人とする相続により、別表1記載の土地(以下「本件土地」という。)及び本件土地上の建物を取得し、平成5年2月17日、その旨の各所有権移転の登記がされた。なお、本件土地及び当該建物は、遅くとも当該相続開始時から現在まで請求人及び本件滞納者の居住の用に供されている。

ハ 本件滞納者は、平成16年3月24日、請求人に対し、本件土地の持分10分の8を贈与し(以下、当該贈与を「本件譲渡」という。)、同月25日、その旨の所有権一部移転の登記がされた。

ニ 原処分庁は、平成17年6月21日までに、F税務署長から、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、本件滞納者が納付すべき別表2記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)について、徴収の引継ぎを受けた。

ホ 原処分庁は、本件譲渡が徴収法第39条の無償譲渡等の処分に該当するとして、同法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、平成26年1月10日付で、請求人に対して本件告知処分をした。そして、別表3記載の事項等が記載された本件告知処分に係る納付通知書は、平成26年1月11日、請求人に送達された。

ヘ 請求人は、平成26年2月7日、本件告知処分に不服があるとして異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年3月26日付で、棄却の異議決定をした。

ト 請求人は、平成26年4月10日、異議決定を経た後の本件告知処分に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 徴収法第32条第1項は、国税局長(平成26年法律第10号による改正前の徴収法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》の規定による読替え後のもの。)は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、政令で定めるところにより、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない旨規定している。

ロ 徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った無償譲渡等の処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。

2 争点

  • (1) 争点1 本件告知処分は、本件譲渡について、請求人及び本件滞納者の国(債権者)に対する詐害の意思がないことを理由に違法となるか。
  • (2) 争点2 仮に、上記(1)の理由で本件告知処分が違法とならないとしても、本件譲渡から約10年経過後に行われた本件告知処分は、第二次納税義務の制度の趣旨に反するもので徴収権の濫用として違法となるか、又は当該制度の趣旨・目的に照らし不当な処分となるか。

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3 主張

(1)争点1

請求人 原処分庁
本件譲渡は、離婚をすることを考えていた請求人が、離婚後の生活の糧を確保するために配偶者である本件滞納者から譲り受けたというものであり、滞納者の滞納国税による差押えを免れるためにされたものではなく、請求人及び本件滞納者に本件滞納国税の債権者である国を害する意思(詐害意思)はなかったことから、本件譲渡は徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分には該当しない。
 したがって、請求人は同条の第二次納税義務を負うことはなく、本件告知処分は違法であり、取り消されるべきである。
徴収法第39条の適用に当たり、滞納者による無償譲渡等の処分が「差押えを免れるためになされたこと」は要件とされていないことから、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2

請求人 原処分庁
第二次納税義務の制度趣旨は、詐害行為取消訴訟によって滞納国税の徴収を図るのみでは迅速な滞納国税の徴収確保が図れないことから、無償譲渡等の処分を受けた者に直接第二次納税義務を課すことによって、国税の徴収を確保することにある。それにもかかわらず、本件譲渡がされてから約10年という長期間が経過して本件告知処分を行うことは、上記制度趣旨に反し、徴収権の濫用として違法であり、仮に違法でなくても不当となる。
 したがって、本件告知処分は取り消されるべきである。
国税徴収法基本通達第32条関係2《告知》の(注)2は、第二次納税義務の告知ができる期間について、「第二次納税義務は、主たる納税義務が発生し存続する限り、必要に応じていつでも課せられる可能性を有するものであって、法第32条第1項の規定による告知は、その義務の発生を知らしめる徴収のための処分にほかならないため、独立した期間制限は設けられていない(平成6.12.6最高判参照)。したがって、主たる納税者の国税が滞納になっている間はこの告知をすることができる。」と定めている。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

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4 判断

(1) 争点1について

イ 法令解釈及び当てはめ

徴収法第39条の規定によれば、滞納者に詐害の意思のあることは同条所定の第二次納税義務の成立要件ではないというべきである(最高裁平成21年12月10日第一小法廷判決・民集63巻10号2516頁参照)。
 したがって、本件譲渡について詐害の意思がないことを理由に、本件告知処分が違法であるということはできない。

ロ 請求人の主張について

請求人は、徴収法第39条の第二次納税義務を課すには詐害の意思が必要である旨主張する(上記3の(1)の「請求人」欄)。
 確かに、徴収法第39条による第二次納税義務の制度は、民法第424条《詐害行為取消権》に規定される詐害行為の取消しという訴訟手続に代えて、簡易迅速に租税徴収の確保を図るために設けられたものである点で、詐害行為取消制度に類似する性質がないとはいえない。
 しかし、民法第424条の詐害行為取消権は、総債権者のために債務者が行った法律行為を取り消して債権者の満足を図ろうとするものであるのに対し、徴収法第39条の第二次納税義務の制度は、滞納国税の法定納期限の1年前の日以後に滞納者が行った無償譲渡等の処分を対象とするなど時期及び対象を限定し、また、その効果は、当該処分を取り消すというものではなく、受益者が特殊関係人の場合には当該処分により受けた利益の限度において、そうでない場合には当該処分により受けた利益が現に存する限度において、受益者に第二次納税義務を負わせるにとどまるものであり、しかも、その場合の第二次納税義務は徴収法第32条第1項に規定する告知手続によって確定するものであり、訴訟手続を要しないとされることなど、民法第424条とは明らかに異なる法律的構成となっている。
 このように、民法第424条の詐害行為取消権と徴収法第39条の第二次納税義務の制度とは、その対象及び効果等が異なり、それに応じてそれぞれ異なる適用要件等が条文上定められていると解すべきである。 
 したがって、請求人の主張を採用することはできない。

(2) 争点2について

イ 法令解釈

(イ) 徴収法の定める第二次納税義務は、確定した主たる納税義務につき本来の納税義務者の財産に対する滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別な関係にある第三者を本来の納税義務者に準ずる者とみて、これに主たる納税義務についての履行責任を補充的に負わせるものにほかならず、この意味において、第二次納税義務の納付告知は、確定した主たる納税義務の徴収手続上の一処分としての性格を有するものというべきである。
 このように、当該納付告知により具体的に発生する第二次納税義務は、既に確定している主たる納税義務者の納税義務を補完するものにすぎず、これと別個独立に発生するものではない。そして、第二次納税義務は、主たる納税義務が発生し存続する限り、必要に応じいつでも課せられる可能性を有するものである(最高裁平成6年12月6日第三小法廷判決・民集48巻8号1451頁、最高裁昭和50年8月27日第二小法廷判決・民集29巻7号1226頁参照)。

(ロ) そうすると、第二次納税義務の納付告知処分が徴収権の濫用として違法となるのは、本来の納税義務者が十分な財産を有し、同人から徴収することが極めて容易であったにもかかわらず、行政庁が、同人若しくは第三者の利益を図り、又は第二次納税義務者に損害を与える目的をもって、恣意的に、本来の納税義務者から徴収をせず、同人が徴収不足に陥ったのを機に第二次納税義務の徴収手続を執ったなど、第二次納税義務の納付告知処分を行うことが正義に反し権利の行使として是認し得ないと評価できるような場合であり、このような事情が認められない限り、当該納付告知処分が徴収権を濫用したものとして違法と評価されることはないと解するのが相当である。

(ハ) また、ある行政処分が不当になるのは、当該処分を行うにつき法の規定から行政庁に裁量権が付与されていると認められる場合において、行政庁の行った当該処分が、裁量権の逸脱又は濫用により違法であるとまではいえないが、当該処分の基礎となる法や制度の趣旨及び目的に照らして不合理である場合であると解される。
 したがって、第二次納税義務の納付告知処分に当たり、行政庁の裁量権の行使が第二次納税義務の制度の趣旨等に照らして不合理である事情がない限り、当該納付告知処分が不当であると評価されることはないと解するのが相当である。

ロ 認定事実

原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、原処分庁所属の徴収担当職員は、本件譲渡後、本件告知処分がされるまで、再三にわたり、本件滞納国税の納付を求め、本件滞納者と、請求人を通じて、あるいは請求人が同席するなどして、納付についての協議を行っていたことが認められる。

ハ 当てはめ

上記ロのとおり、原処分庁所属の徴収担当職員は、本件滞納者に対して再三にわたり、本件滞納国税の納付を求めていたことが認められる一方で、当審判所の調査の結果によっても、原処分庁が本件滞納者等の利益を図り、又は請求人に損害を与える目的をもって、恣意的に、本来の納税義務者から徴収しなかったなど第二次納税義務の納付告知処分を行うことが正義に反し、権利の行使として是認し得ないと評価できるような事情は認められない。
 したがって、本件告知処分について、徴収権を濫用した違法なものと評価することはできない。
 また、1第二次納税義務は、主たる納税義務が存続する限り、その納付告知処分ができると解されること(上記イの(イ))、2滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合が第二次納税義務の要件の一つであるから、滞納者の財産から滞納税額の全額を徴収することが困難となった段階に至り初めて第二次納税義務による徴収可能性が生じるのであって、それまでに相当の期間が経過していることも法の予定するところであるといえることなどからすると、本件告知処分が本件譲渡から約10年を経過した後にされたという事情をもって、第二次納税義務の制度の趣旨及び目的に照らして不合理である場合に該当するということはできない。また、当審判所の調査の結果によっても、その制度の趣旨及び目的に照らして不合理である場合と評価できるような事情は認められない。
 したがって、本件告知処分を不当と評価することはできない。

ニ 請求人の主張について

請求人は、第二次納税義務の制度趣旨は、詐害行為取消訴訟によって滞納国税の徴収を図るのみでは迅速な滞納国税の徴収確保が図れないため、無償譲渡等の処分を受けた者に直接第二次納税義務を課すことによって国税の徴収を確保することにあるから、本件譲渡がされてから約10年という長期間が経過して本件告知処分を行うことは、上記制度趣旨に反し、徴収権の濫用として違法であり、仮に違法でなくても不当である旨主張する(上記3の(2)の「請求人」欄)。
 しかしながら、1民法第424条の詐害行為取消権と徴収法第39条の第二次納税義務の制度とは、その対象及び効果等が異なり、それに応じてそれぞれ異なる適用要件等が条文上定められていること(上記(1)のロ)、2第二次納税義務は、主たる納税義務が発生し存続する限り、その納付告知処分ができると解される(上記イの(イ))のに対して、詐害行為取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から2年間行使しないときは、時効によって消滅すること(民法第426条《詐害行為取消権の期間の制限》)からすると、本件告知処分が本件譲渡から約10年を経過した後にされたからといって、そのことのみで本件告知処分が第二次納税義務の制度趣旨に反するとはいえない。
 そして、本件告知処分について、徴収権を濫用したものとして違法と評価することができず、また、不当と評価することもできないことは、上記ハで述べたとおりである。
 したがって、請求人の主張を採用することはできない。

(3) その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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