審査請求手続と民事訴訟手続の違いについて

山田 庸一

 私は、国税審判官として採用される前は、弁護士として15年間民事訴訟に携わってきました。審査請求手続と民事訴訟手続とで違う点は複数あるのですが、採用後、特にギャップを感じたことをご紹介したいと思います。
 まず、証拠の取扱いについて。
 審査請求手続は、民事訴訟と異なり、一方当事者の提出した証拠が他方当事者には送付されません。ただ、そもそも証拠が来ないとなると、弁護士の感覚では、とりわけ請求人に反論(=防御)の機会が乏しいようにも思われました。尤も、国税通則法に定める手続を申し立てると、当事者は証拠を閲覧し又は写しを入手することができますが、これにも限界があり、法律により、審判官が調査により自ら作成した資料は閲覧等の対象外とされています。もとより審判官が職権で行う調査であるため、調査(=証拠調ベ)への当事者の立会や反対尋問の機会はありません。そのため、審判官としては、偏った情報を引き出さないよう、関係者に対して公正な質問を心掛けています。ちなみに、少し話が逸れますが、職権調査では、税務署職員でないと入ることができない執務室に入ることができたり、関係者からお話を伺うことができるので、審判官の業務の中でもとても面白いことの一つであると感じています。そのため、私は、時間の許す限り、何にでも首を突っ込むことをポリシーに業務をしています。
 もう一つの違いは、手続の迅速性に対する要請の強さです。
 審判所では審査請求から1年内に裁決することを目標としており、審判官の持ち時間は限定的です。このため、当事者には書類の提出期限を原則として3週間後(私が採用された当時の国税通則法改正前においては2週間)でお願いしています。民事訴訟では準備は通常1か月であり、訴訟が年単位に及ぶのは日常茶飯事であることを思えば、かなり短期間です。自分が代理人だったら、大変だろうなーとつくづく思います。このため、当事者から書面が期限に間に合わないとの連絡を受けても、一概に強く要請することはできず、「すみません、ご協力をお願いします」と低姿勢でお願いすることが多いです。
 このように、民事訴訟における、自分の書面を提出すると次の1か月間はのんびり相手の準備書面を待っているという弁護士の執務サイクルと審判所の執務サイクルは、様相を異にします。請求人又は代理人におかれましては、期限にうるさい審判官の内心をお察しいただきご協力いただけるとありがたいです。

○ 本コラムは、すべて本テーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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