「とある審判官の一日」

宮路 真賢

1 とある審判官の一日
 任期付の国税審判官が具体的にどのような一日を過ごしているのかは中々イメージしにくいところではないでしょうか。
 実際には、職権調査の関係で終日不在にしていたり、所内で集中的に起案をする日もあったりとその日の過ごし方は様々ですし、年間を通じて繁閑期もありますが、本稿では、以下のとおり、とある審判官をモデルに一日を振り返ってみたいと思います。

8:15 :出社。(弁護士時代に比べると)審判官の朝は早い。
8:45 :メール確認や資料整理。
9:00 :新件の所得税の事案。事案検討のため、関連文献、関連判例・裁決を読み込みつつ、請求人との面談の準備。
11:00 :請求人との面談。主張内容を口頭でも聴取しつつ、今後の進行や主張立証の方針についても確認。
12:15 :昼休憩。昼食をとって新聞に一通り目を通す。
13:10 :法人税の事案(合議)。担当審判官として念入りに準備して合議に臨む。自由闊達な議論の中で、参加審判官から寄せられる鋭い指摘。証拠の吟味がやや甘かったことを反省しつつ、今後の審理方針の再検討。
15:00 :気分転換のため毎日流れるリフレッシュ体操の音楽。眠気覚ましのコーヒーを注入して午後の業務も折り返し。
15:30 :相続税の事案。資産評価の難しさを実感しながら議決書案を起案。一件記録を読み返すも判断に迷う点があり、隣席の資産税出身の審判官に相談。一緒に議論をする中で氷解していく疑問点。業務終了までラストスパート。
17:30 :記録や資料の整理をして業務終了。これ以降は、家族との時間、趣味や自己研鑽の時間など。ワークライフバランスも充実を。

2 審判所勤務のススメ

 上記のとおり、審判所では、生の事案を通じて、じっくりと税務のスキルを磨くことが可能です。体系的に税務の理解を深めつつ、クライアントの利害を離れた第三者的立場で個々の事案に注力できる点は審判官の職務の醍醐味といえます。また、税法以外の法令解釈や事実認定がシビアに問題になる事案も想定以上に多く、審判官の職務が結果的に既存の知識・経験をブラッシュアップする契機にもなっているのは、私にとって望外の収穫でした。
 私は、現在、某亜熱帯支部に在籍しています。事案の巡り会わせにもよりますが、地方支部ではバランスよく全税目の事案に関与することができる点も魅力の一つです。同僚の国税職員も専門は様々ですので、日々の議論や雑談から得られるものも大変多く、知的好奇心を掻き立てられる毎日を送っています。
 さらに、審判所はワークライフバランスも充実しているので、業務外で、家族との時間、趣味や自己研鑽の時間を十分に確保することも可能です。
 執務内容、執務環境、プライベートの充実と、どれをとっても良いこと尽くめですので、是非審判所での勤務を検討されてみてはいかがでしょうか。
 本稿が皆様の参考になれば幸いです。

○ 本コラムは、全てテーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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