「議決書の作成について」

ペンネーム:うし

 国税審判官(特定任期付職員)の募集要項では、職務内容の一つとして「議決書の作成」が掲げられていますので、これまでの経験を基に、議決書の作成に当たり、どのようなことを意識していたかなどをお伝えしたいと思います。

 議決書とは、国税通則法第101条第1項に規定する「裁決書」の基礎となるものであり、この裁決書の一部は、公表裁決事例として、国税不服審判所のホームページに掲載されています。
 国税審判官(特定任期付職員)は、この議決書を作成することとなりますので、ここからは、裁決書に記載されている項目に沿って、私が意識していた事項などをご説明します。
 まず、「事実」欄の「事案の概要」は、ダイジェストとなるもので、最初に出てくるものですが、当事者間の争いのある点などが分かるように、それ以下の全体の内容を踏まえて、記載することになります。そして、「基礎事実」及び「審査請求に至る経緯」については、評価を含まない事実を記載することになります。また、基本的なことですが、主語と述語を対応させ、一文が長く複雑にならないように記載することを意識していました。
 「争点」欄や「争点についての主張」欄は、当事者の主張や法令を正確に読み、課税等要件を十分に理解した上で、明確に記載する必要があります。私は、弁護士であったときに、一方当事者の代理人として要件事実を意識した主張をしていたつもりでした。しかし、判断する立場で、当事者の主張の整理をし、文章で表現しようとすると、どの主張がどの要件に関わっているのかをよく考えて、必要に応じて当事者に確認をしつつ、当事者の対立点が分かるように記載する必要があります。このため、弁護士であったときに比べ、事案全体を俯瞰的にみて、争いのある要件を中心に、事実との関係をより意識できるようになったのではないかと思います。
 「当審判所の判断」欄は、第三者にも分かるような文章表現が必要になります。裁決書については、当事者はもちろん、公表裁決事例としてのホームページへの掲載や、情報公開請求などによって広く第三者の目に触れる可能性があるものですので、その基礎となる議決書の作成に当たっては、専門家以外にも分かりやすい表現となることを意識するようになりました。

 これらの議決書の作成を通じて、弁護士であったときには経験することのなかった公用文としての文書を作成すること、分かりやすく正確な文書を作成することを特に意識するようになりました。そして、作成した文書に関して、様々な意見をもらうことによって、句読点の位置、一文のなかで示す内容や各文のつながり、段落と段落の関係なども意識するようにもなりました。また、法令を注意して読むことによって、法令の構造や用字用語に対する興味が湧き、裁決事例や裁判例を読む際にも、細かな表現にも注意して、書く意識で読むようになりました。
 議決書の作成は、得難い経験であり、任期終了後にも有用なものとなると思いますので、ご関心のある方は、国税審判官(特定任期付職員)に応募されることをお勧めします。

○ 本コラムは、全てテーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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