「審判所勤務に役立つ書籍の題材・ジャンル」

夏木 祥

 私が国税審判官の着任前後に審判所での勤務に向けた準備のために読んでいた書籍の中で、実際に国税審判官の業務を経験して、これは読んでおいて良かったと思うものがいくつかありました。本コラムでは、特定の書籍ではなく、もう少し広めにして題材・ジャンルをピックアップしてお伝えします。

@ 事実認定
 事実認定は税法の適用の前提となる重要なもので、審判所の業務においても証拠からどのような事実を認定するか試行錯誤を繰り返します。私自身はそれまで事実認定に関するトレーニングや研修を受ける機会がほとんどありませんでしたので、事実認定に関する書籍からその基本的な考え方をある程度理解しておいたことで国税審判官としての業務にすんなり入っていけたと思っていますし、今でも役に立っているのを実感しています。なお、事実認定に関する書籍はその切り口やレベルごとにいろいろなものがありますが、私は租税実務に関連するエントリーレベルのものから入っていき、民事訴訟の実務向けのものやアカデミックなものへと段階を踏んでいきました。

A ファシリテーション
 合議体の担当審判官に指定されると、審査請求事案の主担当として、他の国税審判官や関係者が集まり議論する場である合議を仕切っていくことになります。ファシリテーションとは会議を円滑に進める技術のことだそうで、合議を効率的で実のあるものにするためにどのようにアプローチしていくかの参考にしています。合議に限らず、様々な会議や打合せに参加するに当たっての意識を変えるだけでも意味があると思いますので、あまり堅苦しいものではなく、読みやすい漫画で描かれたものなどでも十分得られるものはあると思います。

B 国税通則法
 国税審判官着任前に税理士として租税実務に当たっていたときには、主に法人税法や所得税法といった個別税法を深めていく必要があり、視野もやや狭くなりがちでした。しかしながら、審判所において審査請求事案の審理に当たっては、まず租税法律関係に関する基本的事項や各国税に共通する事項を定めた国税通則法を思考のスタート地点に持ってくることが肝要です。また、租税実務においても当然ながら切っても切れないものですので、国税通則法を改めて復習しておいて良かったと思っています。なお、国税通則法には審査請求に関する規定がありますが、中には主語が「担当審判官は」とされているものがあり、自分が法律の中の主人公になった気分を味わってひっそりにやけている人が実はたくさん・・・いや、おそらく私だけですね。

 以上、個人的な見解が多分に詰まっていますが、国税不服審判所における勤務経験からその業務に役立つ書籍の題材・ジャンルを紹介させて頂きました。本コラムにより少しでも国税不服審判所や国税審判官の業務について興味・関心を持っていただけましたら幸いです。

○ 本コラムは、全てテーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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