(平成27年12月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)が所有する不動産について、従前にした公売公告処分に係る公告事項のうち、売却決定の日時及び買受代金の納付期限を変更する旨の公売公告をした後、当該不動産に係る売却決定処分をしたのに対し、請求人が、上記公売公告は、公売財産の選択を誤った違法な手続であり、その違法性を承継する上記売却決定処分は違法であるなどとして、原処分及びその他の審査請求の対象の全部の取消しを求めたものである。

(2)基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人は、D税務署長に対し、平成3年1月23日、被相続人Eに係る相続税の申告書を提出するとともに、納付すべき相続税の全額についての延納申請をした。

ロ D税務署長は、平成3年9月13日付で、上記イの延納申請を許可し、その後、請求人が延納の担保として提供した請求人の所有する不動産(別表1の番号3、5、6及び7の不動産を含む。)について、抵当権設定登記がされた。

ハ 請求人は、平成14年2月26日、請求人の所有する新たな不動産を延納の担保として提供した上、同年3月29日、上記ロの不動産のうち、別表1の番号3、5、6及び7を除く不動産について、担保の変更を申し出た。

ニ D税務署長は、平成14年3月29日付で、請求人からの申出を承認し、その後、これに沿う抵当権設定登記及び同抹消登記がされた。その結果、延納の担保は、別表1の番号1ないし7の不動産(以下「本件担保不動産」といい、このうち番号1ないし4の不動産を「本件公売対象不動産」という。)となった。

ホ D税務署長は、平成18年3月7日付で、上記ロの延納許可に係る相続税の分納税額が期限内に納付されていなかったこと及びその後の分納税額についても納付の見込みがないことを理由に、当該延納許可を取り消した。

ヘ D税務署長は、別表2の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、平成18年4月11日付で、国税通則法(平成26年法律第69号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第52条《担保の処分》第1項の規定に基づき、本件担保不動産を差し押さえた(以下「本件差押処分」という。)。

ト 原処分庁は、平成18年4月21日付で、本件滞納国税について、通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、D税務署長から徴収の引継ぎを受けた。また、その後新たに滞納となった請求人の申告所得税についても徴収の引継ぎを受けた。
 なお、当該申告所得税は、平成24年9月4日までに完納となっている。

チ 原処分庁は、本件滞納国税及び上記トの申告所得税を徴収するため、平成18年8月21日付で、別表1の番号8ないし10記載の不動産(以下「本件非担保不動産」という。)を差し押さえた。

リ 原処分庁が、平成26年9月17日付で、本件公売対象不動産の換価代金等を本件滞納国税に充てたことにより、本件滞納国税は完納となった。

(3)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成○年○月○日付で、本件公売対象不動産(別表1の番号4の建物(居宅)に係る未登記の附属建物(物置、車庫及び便所)を含む。以下同じ。)を公売するため、国税徴収法(平成26年法律第10号による改正前のもの。以下「徴収法」という。)第95条《公売公告》第1項の規定に基づき、公売の日を平成○年○月○日、売却決定の日時を同月○日午前○時○分、買受代金の納付期限を同日午後○時○分などとする公売公告(以下「当初公売公告処分」という。)並びに見積価額を○○○○円とする見積価額公告を行うとともに、同法第96条《公売の通知》第1項の規定に基づき、同年○月○日付の公売通知書により、当初公売公告処分による公告事項及び公売に係る国税の額を請求人に通知した。

ロ 原処分庁は、平成○年○月○日、本件公売対象不動産について、当初公売公告処分に基づく公売を実施し、同日、徴収法第104条《最高価申込者の決定》第1項の規定に基づき、最高価額での入札者に対し、最高価申込者の決定をした。

ハ 原処分庁は、平成○年○月○日、当初公売公告処分により公告された事項のうち、売却決定の日時を同月○日午前○時○分、買受代金の納付期限を同日午後○時○分に変更する旨の公売公告(以下「本件変更公告」という。)をした。

ニ 請求人は、平成26年9月12日、本件変更公告及び売却決定処分に不服があるとして異議申立てをした。

ホ 原処分庁は、平成26年9月17日付で、上記ロの最高価申込者に対して売却決定処分(以下「本件売却決定処分」という。)をした。

ヘ 異議審理庁は、平成26年11月17日付で、上記ニの異議申立てについて、本件変更公告に対する異議申立てを却下し、本件売却決定処分に対する異議申立てを棄却する旨の異議決定をし、その異議決定書謄本を請求人に対し同月20日に送達した。

ト 請求人は、平成26年12月19日、異議決定を経た後の本件変更公告及び本件売却決定処分に不服があるとして審査請求をした。

(4)関係法令等の要旨

関係法令等の要旨は、別紙1のとおりである。

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2 争点

(1)異議申立時にはいまだされていない売却決定処分が異議決定前にされた場合、当該売却決定処分についての異議申立ては本件売却決定処分についてされたものとして、適法なものといえるか(争点1)。

(2)本件売却決定処分は、通則法第105条《不服申立てと国税の徴収との関係》第1項ただし書の規定に抵触する違法なものであるか(争点2)。

(3)本件売却決定処分に先行する本件差押処分が、徴収法第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》第1項の規定に反する違法な処分であることを理由に、本件売却決定処分が違法となるか(争点3)。

(4)本件売却決定処分に先行する当初公売公告処分が、公売財産の選択に関する徴収権の濫用若しくは裁量権の逸脱又は濫用がある違法な処分であることを理由に、本件売却決定処分が違法となるか(争点4)。

(5)本件売却決定処分は、見積価額が適正な価額よりも著しく低廉であったことを理由に、売却価額が著しく低廉となった違法なものであるか(争点5)。

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3 主張

(1)争点1について

イ 原処分庁
 通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項第2号イは、国税局長がした国税に関する法律に基づく処分について異議申立てをすることができる旨規定し、異議申立ての時点で取消しを求める処分が既に行われていることを要すると解されている(東京高等裁判所平成22年5月20日判決)。
 請求人が異議申立てをしたのは、本件売却決定処分に先立つ平成26年9月12日であるから、この異議申立ては、申立ての時点でいまだ行われていない売却決定処分を対象とするものであって、明らかに不適法である。

ロ 請求人
 本件売却決定処分は、異議申立時には存在していなかったものの、異議決定がされるまでに存在するに至ったのだから、本件売却決定処分に対する異議申立ては、本件売却決定処分がされた時点以降は適法なものとなる。

(2)争点2について

イ 請求人
 本件売却決定処分は、平成26年9月12日に請求人がした本件変更公告に対する異議申立てにより、通則法第105条第1項ただし書の規定に基づき、当該異議申立てに対する決定があるまですることができないにもかかわらず、その決定前にされた違法なものである。
 なお、本件変更公告は、その実質、実体としては、当初公売公告処分とは別の「変更公告」ではなく、「公売公告」そのものであって、その行為により直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているといえることから、「国税に関する法律に基づく処分」である。そう解さなければ、本件変更公告は違法性を包含しているにもかかわらず、なお有効なものとして存在することになってしまう。したがって、本件変更公告は不服申立てができる処分である。

ロ 原処分庁
 不服申立ての対象が「国税に関する法律に基づく処分」に当たらないことが明白で、当該不服申立てが不適法なものであることが不服申立書面の記載上一見して明らかな場合には、当該不服申立てについて、通則法第105条第1項ただし書の規定の適用がないと解するのが相当である。そして、そもそも公売公告が処分に該当するのは、これによって差押財産の所有者が自己の財産を公売によって売却されるべき地位に立たされることを理由とするものであるところ、本件変更公告は、当初公売公告処分に係る公売とは異なる新たな公売に付する旨を公告するものではなく、当初公売公告処分が存続していることを前提に、その公売公告事項のうち、売却決定の日時と買受代金の納付期限を変更するもので、請求人の法律上の地位を何ら変更するものではなく、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものとはいえないから、本件変更公告は、通則法第75条第1項の「国税に関する法律に基づく処分」には該当しないことが明白である。したがって、本件変更公告に係る不服申立てが不適法なものであることが明らかであるから、通則法第105条第1項ただし書の規定の適用はなく、本件売却決定処分は適法である。

(3)争点3について

イ 請求人
 徴収法第48条は、滞納税金に対し、それに対応する額の差押えを認めているが、それを超えた必要以上の超過差押えを禁じている。それにもかかわらず、原処分庁は、請求人のほぼ全ての不動産(土地の差押え総面積は6,621.65平方メートルで、この土地の評価額は請求人の滞納税金の数倍に匹敵する評価額である。)に対して差押えを実行しており、これは処分庁による不当な圧力であり、請求人の経済活動に対する極めて重大な侵害である。また請求人の経済的信用の侵奪行為であり、明らかに重大な違法行為である。したがって、差押処分の違法性を承継する本件売却決定処分は違法となる。

ロ 原処分庁
 本件差押処分は、D税務署長が延納の許可を取り消したことを受けて、通則法第52条第1項及び徴収法第68条《不動産の差押の手続及び効力発生時期》の各規定に基づき、請求人から担保提供を受けた本件担保不動産に対して行ったものである。仮に、本件担保不動産に加えて他の財産を差し押さえた結果、差し押さえた財産の価額の合計額が滞納国税の額を上回ることになったとしても、それは後行の差押処分が徴収法第48条の規定に反するか否かの問題であって、先行の本件差押処分の適法性に影響を及ぼすものではないというべきである。したがって、本件差押処分が徴収法第48条第1項の規定に反している事実はなく、違法性の承継の余地はない。

(4)争点4について

イ 請求人
 本件非担保不動産は、請求人の自宅である本件公売対象不動産よりも請求人の生活の維持又は事業の継続に与える影響が少なく、その執行に支障がないことや、売主である請求人と買主との間で、本件滞納国税相当額を買主が責任をもって負担する旨の特約があることから、本件非担保不動産を先に公売して欲しいと請求人が申し出ていたにもかかわらず、原処分庁が本件公売対象不動産を公売に付したのは、国税徴収法基本通達(昭和41年8月22日付徴徴4−13ほか国税庁長官通達で、平成26年6月27日付徴徴5−22による改正前のものをいい、以下「徴収法基本通達」という。)第47条関係《差押えの要件》17《財産の選択》の定めに反し、公売財産の選択に関する徴収権の濫用若しくは裁量権の逸脱又は濫用であり、違法である。したがって、公売財産の選択を誤った当初公売公告処分の違法性を承継する本件売却決定処分は違法である。

ロ 原処分庁
 通則法第52条第1項は、担保物の処分に関し、税務署長等は、担保の提供がされている国税についての延納を取り消したときは、その提供された金銭以外の財産を滞納処分の例により処分してその国税及び当該財産の処分費に充てるべき旨規定し、同条第4項は、同条第1項の場合において、担保として提供された財産の処分の代金を同項の国税及び処分費に充ててなお不足があると認めるときは、税務署長等は、当該担保を提供した者の他の財産について滞納処分を執行する旨規定している。よって、原処分庁が、請求人の延納申請に伴い、請求人から提供を受けた本件公売対象不動産をまず先に換価するという形で、本件売却決定処分を含む一連の公売手続を行ったことに関して、公売財産の選択についての裁量権の逸脱や濫用の問題が生じる余地はない。

(5)争点5について

イ 請求人
 本件公売対象不動産の評価は、地価公示法に基づく公示価格を規準として行われるべきであり、その場合には、評価額は○○○○円となるところ、本件売却決定処分に係る売却価額は○○○○円であって、これは見積価額を著しく低廉に算定した結果であり、極めて著しく条理上の比例原則に違反し、納税者の財産権に対する侵害が過大であるから、本件売却決定処分は違法である。

ロ 原処分庁
 公売財産の見積価額の決定に当たっては、請求人が主張するように、公示価格を規準とした額をそのまま見積価額としなければならない規定は存在しない。原処分庁は、本件公売対象不動産の公売に当たり、鑑定人が平成22年3月1日時点の本件公売対象不動産の鑑定評価額を○○○○円とする鑑定を行ったのを受け、この鑑定評価額に地価変動率に基づく時点修正を加えて、本件公売対象不動産の平成24年10月2日現在の試算価格を○○○○円とし、これに公売の特殊性に伴う20%の減額調整等をし、見積価額を○○○○円と定めた。当該見積価額は、本件公売対象不動産の鑑定評価額を参考として決定したのであって、その算定方法及び金額には合理性があり、適正な価額であるといえる。

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4 判断

(1)本件変更公告に対する審査請求の適法性について

通則法第75条第1項は、国税に関する法律に基づく処分に不服がある者は、不服申立てをすることができる旨規定しているところ、同項にいう処分とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)。

そもそも、公売公告が処分性を有するのは、これによって差押財産の所有者が自己の財産を公売によって売却されるという地位(差押財産の所有者たる滞納者の財産を公売によって売却されるという法律上の地位)に立たされることを理由とするものであるところ、本件変更公告は、本件公売対象不動産を当初公売公告処分に係る公売とは異なる新たな公売に付する旨を公告するものではなく、当初公売公告処分が存続していることを前提として、当初公売公告処分に係る公告事項のうち、売却決定の日時と買受代金の納付期限のみを変更するにすぎず、公売の方法や公売の日時、場所については、公告の内容を変更するものではないから、請求人の上記法律上の地位を何ら変更するものではない。そうすると、本件変更公告は、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものとはいえず、処分性を認める根拠を欠くものというべきであり、通則法第75条第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分に該当しない。したがって、本件変更公告に対する審査請求は不適法なものである。

(2)本件売却決定処分に対する審査請求の適法性について(争点1の検討)

イ 通則法第75条第1項は、国税に関する法律に基づく処分について不服がある者は、不服申立てをすることができる旨規定しているところ、異議申立ての対象となるべき売却決定処分が異議申立時にはいまだされていない場合、申立ての対象となる処分が存在しないにもかかわらずされたことになるから、申立時においては、当該異議申立ては不適法といえる。
 しかしながら、その後、当該異議申立てに係る決定がされるまでに、対象となるべき売却決定処分が行われた場合、その時点で不服申立ての対象となるべき処分が存在するに至ったのであるから、瑕疵は治癒されたものと解し得る。加えて、最高価申込者決定処分が既にされている状況にあっては、公売手続が中止にならない限り、公売公告処分により公告された日時に売却決定処分が行われる蓋然性が極めて高いことや、例えば、異議審理庁が異議申立人に対して、売却決定処分についての異議申立てができる時期の具体的な指導あるいは教示が容易にできたことなどを勘案すると、売却決定処分前にされた同処分に対する異議申立てを一律に不適法とすることは、申立人にとって酷であるといわざるを得ない。したがって、最高価申込者決定処分後に、いまだされていない売却決定処分に対する異議申立てがされ、その後、異議決定があるまでに売却決定処分がされたときは、当該異議申立ては、上記売却決定処分に対する異議申立てとして、適法になると解するのが相当である。

ロ 本件においては、上記1の(3)のニ及びホのとおり、本件売却決定処分がされる前に、本件売却決定処分に対する異議申立てがされているものの、異議決定に先立って本件売却決定処分がされているのであるから、上記異議申立ては、本件売却決定処分に対してされた適法な異議申立てであるといえる。

ハ したがって、本件売却決定処分に対する審査請求は、適法な異議申立てを経たものといえるから適法である。これを前提に、以下では、本件売却決定処分の適法性に係る判断に関し、争点2ないし5についての検討を行う。

(3)争点2について

本件変更公告が通則法第75条第1項の「国税に関する法律に基づく処分」に当たらないことは、上記(1)のとおりである。

ところで、通則法第105条第1項ただし書の規定は、同項本文の「国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立て」につき、それについての決定又は裁決があるまで滞納処分による換価ができない場合を示すものであるところ、いずれの「国税に関する法律に基づく処分」も、通則法の第8章《不服審査及び訴訟》に置かれた規定であることからすると、その意義について別異に解するのは相当でない。

よって、本件変更公告に対する異議申立ては、通則法第105条第1項本文の「国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立て」に当たらないから、当該異議申立てについて決定がされていない時点で本件売却決定処分に及んだことをもって、同項ただし書の規定に抵触するものではない。

(4)争点3について

イ 法令解釈
 徴収法第171条《滞納処分に関する不服申立て等の期限の特例》第1項第2号は、不動産等についての差押処分に関し欠陥があることを理由としてする異議申立ては、その差押えに基づく公売期日等まででなければすることができない旨規定しているところ、その趣旨は、滞納処分手続の安定を図り、かつ、換価手続により権利を取得し、又は利益を受けた者のこれらの権利、利益の保護を図るためのものであると解される。そうすると、一般に滞納処分に関しての先行処分の違法性が後行処分に承継され得るとしても、同項各号に規定する期限を徒過した場合は、同条が特に違法性の承継を断ち切ることとしたものと解するのが相当であるから、その場合は、先行処分に欠陥があることを理由として、後行処分の取消しを求めることはできないというべきである。

ロ 当てはめ等
 請求人が、本審査請求に先立つ本件売却決定処分についての異議申立てをしたのは、上記1の(3)のニのとおり、本件公売対象不動産の公売期日である平成24年10月2日より後の平成26年9月12日である。したがって、徴収法第171条第1項第2号に定める異議申立ての期限を徒過したものであることが明らかであるから、請求人は、先行処分である本件差押処分の欠陥(違法)を理由に、本件売却決定処分の取消しを求めることはできない。
 そうすると、本件担保不動産を差し押さえた後に本件非担保不動産をも差し押さえたため、本件差押処分が徴収法第48条第1項の規定に反し違法である旨の請求人の主張は、その当否について検討するまでもないことは明らかである。
 なお、審理経過等に鑑みて付言するに、請求人の上記主張については、以下のとおりであるから理由がない。

(イ)本件においては、本件差押処分が超過差押えであるか否かの判断は、本件差押処分の時点を基準として、本件差押処分の対象となった財産(本件担保不動産)の見積価額の合計額と延滞税を含めた本件滞納国税の合計額とを比較し、本件滞納国税を十分満足させることができるか否かという観点からしなければならないのであって、その後に本件非担保不動産を対象とした別の差押処分がされたことを理由に、先に行われた本件差押処分が違法となることはない。

(ロ)仮に、本件差押処分後に行われた本件非担保不動産についての差押処分の結果、差押財産の見積価額の総額が延滞税を含めた本件滞納国税の合計額を上回ることになったとしても、それは、本件非担保不動産に対する差押処分が徴収法第48条第1項の規定に反するか否かの問題であって、それに先立って行われた本件差押処分の適法性に影響を及ぼすものではない。

(5) 争点4について

イ 法令解釈
 徴収法第89条《換価する財産の範囲》第1項は、差し押さえた金銭以外の財産は、同法第3節《財産の換価》の定めるところにより換価しなければならない旨規定し、同法第94条《公売》第1項は、国税局長(同法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》の規定による読替え後のもの。以下同じ。)は、差押財産を換価するときは、これを公売に付さなければならない旨規定しているところであり、同一の滞納者について、複数の差押財産がある場合、それら差押財産のいずれから公売に付すか、つまり、いずれの差押財産から公売公告処分をするか、その順序については、徴収法及び関係法令には一般的な基準が設けられていないことから、いずれの差押財産から公売公告処分するかの決定については、国税局長の合理的な裁量に委ねられているものと解される。
 そうすると、ある特定の差押財産を公売に付すことにより、その財産の換価代金をもって徴収すべき国税が完納される可能性が極めて高いにもかかわらず、税務署長等が滞納者に不利益を与える目的をもって、あるいは、第三者に利益を与える目的をもって、それ以外の差押財産を先に公売公告処分したというような事情があるなど、社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の逸脱又は濫用あるいは徴収権の濫用があると認められる場合に限り、当該公売公告処分は違法であると解するのが相当である。

ロ 当てはめ

(イ)D税務署長は、請求人の相続税について、本件担保不動産を担保として徴して延納の許可をしたところ、同署長は、当該許可を取り消した上で、通則法第52条第1項の規定に基づき、担保物処分として本件担保不動産を差し押さえ、その後、原処分庁が当該相続税について徴収の引継ぎを受けた上で、当初公売公告処分に至ったものであることは、上記1の(2)及び(3)のとおりであるから、原処分庁が、本件非担保不動産の存在の有無にかかわらず、本件公売対象不動産を公売に付したのは、飽くまでも通則法の規定にのっとったことによるものであるといえる。
 そうすると、当初公売公告処分は、請求人から相続税の延納の担保として提供された本件公売対象不動産について、通則法の規定に従って行われているものであって、上記1の(2)のリのとおり、本件公売対象不動産の換価代金等によって本件滞納国税の全額が徴収されていることのほか、当審判所の調査によっても上記イの事情は認められない。
 なお、当初公売公告処分と本件非担保不動産の公売公告処分とは別個の処分であるから、仮に、当初公売公告処分に先立って本件非担保不動産を先に公売公告処分したことが、社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の逸脱又は濫用あるいは徴収権の濫用に当たるとしても、それによって、その後にされた当初公売公告処分が、社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の逸脱又は濫用あるいは徴収権の濫用があると認められるような場合に当たるか否かの評価には何ら影響を及ぼさない。

(ロ)これに対し、請求人は、1本件公売対象不動産が請求人の自宅であること、2本件非担保不動産の売買に際し、その買主が本件滞納国税相当額を負担する旨の合意等があること、3原処分庁に対して、本件非担保不動産の公売を先に行うよう申し出ていたこと、以上の各事情からすると、原処分庁が本件公売対象不動産につき当初公売公告処分をしたことは、徴収法基本通達第47条関係17に反する旨主張する。
 しかしながら、上記1については、自宅として使用している不動産等につき差押えや公売を禁じる規定はないこと、上記2については、通則法における納税義務の承継に該当する場合はともかく、単に私人間で合意されたことをもって、課税庁との関係で国税に係る債務の債務者が移転するものではないこと、上記3については、公売の順序に係る滞納者の申出に従うことを義務付ける規定はないことから、請求人の主張する上記各事情を踏まえても、当初公売公告処分が社会通念上著しく妥当性を欠くものとはいえない。
 なお、請求人の指摘する徴収法基本通達第47条関係17は、徴収職員が滞納者の財産を差し押さえるに当たっての差押財産の選択の基準ないし留意事項について定めたものにすぎず、これに違反することをもって、当然に公売公告処分に係る裁量権の濫用等に当たるということはできない。

(ハ)また、請求人は、当初公売公告処分以前に、本件非担保不動産についての公売公告処分がされていたという事情を挙げ、これを理由に、当初公売公告処分が信義則(信義則を根拠とする禁反言の法理を含む。)に反し、また、裁量権の濫用となる旨も主張するところであるが、本件非担保不動産について公売公告処分を行うことが直ちに本件公売対象不動産について公売公告処分を行わないことを意味するものではなく、原処分庁が当初公売公告処分を行うことが信義則に反することにはならないというべきである。
 仮に、原処分庁所属の徴収担当職員が、当初公売公告処分に至るまでのある時点において、請求人に対し、本件非担保不動産から先に公売に付す旨発言していたとしても、同様の理由及び結論が妥当する。したがって、請求人の主張する上記事情を踏まえても、当初公売公告処分が社会通念上著しく妥当性を欠くとはいえない。

(ニ)以上のとおりであるから、当初公売公告処分に違法があるということはできない(もとより、独立の違法事由としての信義則違反も認められない。)。

(6)争点5について

イ 法令解釈

(イ)徴収法第98条《見積価額の決定》では、国税局長は、差押財産を公売に付すときは、その財産の見積価額を決定しなければならず、この場合において、必要と認めるときは、鑑定人にその評価を委託し、その評価額を参考とすることができる旨規定しているところ、その趣旨は、同法第104条第1項が、最高の価額による入札者であってもその価額が見積価額に達しないときは、最高価申込者としていないこととあいまって、公売による売却価額が著しく低廉となることを防止するために、最低売却価額を保障しようとした点にあると解される。

(ロ)上記(イ)の趣旨に照らせば、見積価額は、公売の対象とした差押財産と同種、同等又は類似の財産の最近における売買実例若しくは取引相場又はその財産取得価額若しくは収益還元価額等に基づいて算定された客観的な交換価値、すなわち時価を基準として算定されるべきである。その算定に当たっては、徴収法基本通達第98条関係《見積価額の決定》1−2《公売財産の評価》(2)において、公売財産の評価は、市場性、費用性、収益性その他の公売財産の価格を形成する要因を適切に考慮して行う旨定めているところ、公売財産の評価に当たっては、その財産の種類、性質等により市場性が劣ること等による固有の減価(市場性減価)についても考慮する必要があるというべきであり、当審判所においても、この取扱いは相当と考える。

(ハ)もっとも、公売には、1換金を目的とした強制売却であること、2換価する財産や公売の日時及び場所が一方的に決定されること、3売主は瑕疵担保責任を負わないこと及び4買主は原則として解約等ができないことなどの特殊性があり、見積価額の算定の際には、これらの特殊性を考慮して減価する必要があるから、見積価額は時価を相当に下回るのが通常である。

(ニ)しかしながら、上記(ハ)の特殊性を考慮して算定された見積価額が時価より著しく低廉であり、その結果、売却決定価額も時価より著しく低廉となった場合には、最低売却価額の保障という上記(イ)の徴収法第98条の趣旨に反することとなるから、当該売却決定処分は違法になると解すべきである。

(ホ)なお、見積価額及び売却決定価額が時価より著しく低廉であるといえるか否かの判断基準を一律に定めることは困難であるが、実務上用いられている「公売財産評価事務提要」(昭和55年6月5日付徴徴2−9「公売財産評価事務提要の制定について」(国税庁長官通達)の別冊。なお、同通達は、平成26年6月27日付徴徴3−7「公売財産評価事務提要の制定について」(事務運営指針)の制定に伴い廃止されている。)第3章《見積価額の評定》第1節《見積価額評定上の留意事項》2《公売の特殊性に伴う調整》(2)において、公売の特殊性による減価率の調整限度は、時価のおおむね30%程度の範囲内にとどめるものとする旨定められており、この割合は、最低売却価額の保障という徴収法第98条の趣旨に照らして一定の合理性を有すると考えられるから、時価との差がこの割合の範囲内にとどまっているか否かが判断要素の一つであるというべきである。

ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

(イ)原処分庁は、国家資格を有する不動産鑑定士に本件公売対象不動産についての鑑定評価を依頼し、依頼を受けた鑑定士は、平成22年3月15日付で、要旨別紙2のとおり、本件公売対象不動産の最有効使用を更地として利用することと判定し、建物については老朽化していることから、その取壊しを前提として、鑑定評価額を○○○○円とする不動産鑑定評価(以下「本件鑑定評価」といい、本件鑑定評価によって算定された鑑定評価額を「本件鑑定評価額」という。)を行った。

(ロ)原処分庁は、本件鑑定評価が平成22年3月1日時点の評価であることから、公売実施月である平成○○年○○月までの期間経過による価格の変動を反映させるため、本件公売対象不動産と同一需給圏内に存するd県の地価調査価格(基準地番号:b(県)−○)における平成21年7月1日時点の基準地価格が○○○○円、平成22年7月1日時点の基準地価格が○○○○円、平成23年7月1日時点の基準地価格が○○○○円であったことから、本件公売対象不動産の公売の時点である平成○○年○○月までの価格変動率を−3.1%(時点修正率96.9%)と算出した。

(ハ)原処分庁は、本件鑑定評価の内容について検討し、時点修正率を96.9%とし、公売の特殊性に伴う調整(−20%)及び端数調整(−○○○○円)をした上で、本件公売対象不動産の見積価額を○○○○円と決定した。

ハ 当てはめ

(イ)本件鑑定評価は、不動産鑑定評価の専門家である国家資格を有する不動産鑑定士によってされているところ、その内容は要旨別紙2のとおりであり、不動産鑑定評価基準に準拠して行われているものと認められ、その評価の過程に不合理な点は見当たらない。そして、原処分庁は、本件公売対象不動産の見積価額を決定するに当たり、本件鑑定評価額に時点修正を行っているが、原処分庁が算定した時点修正率は、本件公売対象不動産と同一需給圏内にある基準地価格の変動率に基づいて算出されたものであり、その算出過程に不合理な点は認められない。さらに、算定された価額から公売の特殊性を考慮して20%の減価を行っているが、これは公売財産評価事務提要に定める範囲内(上記イの(ホ))で行われているから、この調整についても合理性を欠くものとは認められない。

(ロ)以上によれば、本件公売対象不動産の見積価額は時価より著しく低廉であるとは認められず、原処分庁による見積価額の決定から本件売却決定処分までの間に本件公売対象不動産の時価が著しく上昇した事情も認められないことからすれば、本件公売対象不動産の見積価額と同額を売却決定価額とした本件売却決定処分は、時価より著しく低廉な価額でされたものとは認められず、違法であるとはいえない。

ニ 請求人の主張について
 請求人は、本件公売対象不動産の評価は、地価公示法に基づく公示価格を規準として行われるべきで、その場合、評価額は○○○○円を超える旨主張するところであるが、徴収法及び関係法令等をみても公売対象の財産の見積価額の決定に当たって、公示価格を規準とした額をそのまま見積価額としなければならない旨の規定は存在しないばかりか、請求人の主張する価額は、統一的な不動産鑑定評価基準に沿って算定されたものでないことが明らかで、請求人の独自の見解に基づく算定価額であるといわざるを得ない。したがって、この点についての請求人の主張は採用することができない。

(7)本件売却決定処分の適法性について

上記(3)ないし(6)によれば、争点との関係で、本件売却決定処分が違法であるとはいえず、その他、当審判所に提出された証拠資料等によっても、本件売却決定処分を不相当とする理由は認められない。したがって、本件売却決定処分は適法である。

(8)結論

よって、本件売却決定処分に対する審査請求は理由がないから、これを棄却し、本件変更公告に対する審査請求は不適法であるから、これを却下することとする。

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