(平成27年11月4日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

本件は、不動産貸付業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、1減価償却費の計算に誤りがあったとして所得税の各修正申告をしたところ、原処分庁が過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、各修正申告書の提出は、調査があったことにより更正があるべきことを予知してしたものではないなどとして、過少申告加算税の各賦課決定処分の全部の取消しを求め、また、2当該各修正申告につき、原処分庁が、請求人が支払った設備の修繕費、修繕積立金及び委託料は不動産所得の金額の計算上必要経費に算入されず、また、減価償却費の計算に誤りがあるなどとして各更正処分等を行ったのに対し、請求人が、上記設備の修繕費等は債務が確定しているものであるから必要経費に算入すべきであるなどとして、同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

審査請求に至る経緯(平成26年8月25日請求)は、別表1のとおりである。

以下、平成26年3月11日付でされた平成22年分、平成23年分及び平成24年分(以下「本件各年分」という。)の所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分を「本件各処分1」、平成26年3月14日付でされた本件各年分の所得税に係る各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を「本件各処分2」、請求人の本件各年分の所得税の各確定申告を「本件各当初申告」、請求人の本件各年分の所得税の各修正申告を「本件各修正申告」といい、本件各修正申告に係る各修正申告書を「本件各修正申告書」という。

なお、請求人は、本件各年分の所得税について、原処分庁に対し青色の確定申告書を提出している。

(3)関係法令等

関係法令の要旨は、別紙3のとおりである。

なお、別紙1ないし7を含め、以下、国税通則法を「通則法」、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(平成19年財務省令第21号による改正前のものをいう。)を「旧耐用年数省令」、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(平成19年財務省令第21号による改正後のものをいう。)を「耐用年数省令」、耐用年数の適用等に関する取扱通達(昭和45年5月25日直審(法)38国税庁長官通達)を「耐用年数通達」という。

(4)基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても認められる事実及び証拠によって容易に認められる事実である。

イ 請求人は、本件各年分において、不動産貸付業を営んでいた。

ロ 請求人は、別表2の「名称」欄記載の各物件(以下、同表の順号1から6の順に「本件d物件」、「本件e物件」、「本件f物件」、「本件g物件」、「本件h物件」、「本件i物件」という。また、順号7については、同表における平成16年○月に取得した○室の部分を「本件j1物件」、平成18年○月に取得した○室の部分を「本件j2物件」、平成19年○月に取得した○室の部分を「本件j3物件」といい、本件j1物件、本件j2物件及び本件j3物件を総称するときは「本件j物件」という。なお、本件j物件が一棟の建物の専有部分の全てであることから、当該一棟の建物を呼称するときも「本件j物件」という。そして、順号1ないし7の物件を併せて「本件各物件」という。)を、同表の「請求人の取得年月」欄記載の年月に取得し、本件各年分において、それぞれ貸付けの用に供していた。本件各物件の所在、建物の構造、建物の建築年月、請求人の取得年月、請求人が取得した部屋数、売買契約書等における売買価額及びその内訳等は、同表のとおりである。

ハ 請求人は、別表3の「物件名」欄記載の各物件の取得に際し、仲介手数料(以下「本件仲介手数料」という。)として、同表の「領収証日付」欄記載の各年月日に、同表の「支払金額」欄記載の各金額を、同表の「支払先」欄記載の各相手方に対してそれぞれ支払った。

ニ 請求人は、平成7年2月28日、Q税務署長に対し、本件d物件の建物の償却方法を旧定率法とする旨の届出を書面により提出している。なお、請求人は、本件d物件を除く本件各物件の建物及び本件各物件に係る建物附属設備の償却方法については届出をしていない。

ホ 請求人は、本件各物件に関し、請求人の妻であるP2代表取締役を務めるR社(設立は平成19年○月○日。以下「本件会社」という。)との間で、要旨次の内容の各契約を締結した(末尾の括弧内に各契約に係る契約書の該当する条項、別紙及び別表箇所を摘示する。なお、次の(ホ)ないし(チ)の各契約は、それぞれ次の(イ)ないし(ニ)の各契約の内容が一部修正されたものである。)。

(イ)平成19年○月○日付不動産賃貸管理業務委託契約(以下「本件賃貸管理委託契約1」という。)

A 請求人は、本件会社に対し、1賃借人の募集及び決定、賃貸借契約の代行業務、2賃料、共益費、敷金、礼金及び更新料の受領並びに敷金返還に関する業務、3賃貸借契約の更新に関する業務、4退室時の立会い及び原状回復費用負担割合の決定並びに清算に関する業務、5緊急時の対応及び処置に関する業務、6その他書面により特約した業務を委託する(第1条第1項)。

B 月額委託料は、598,700円(うち、賃貸業務委託料378,700円、貸室リフォーム代金220,000円)とする(第5条第1項、別紙3)。

(ロ)平成20年1月1日付不動産管理業務委託契約(以下「本件管理委託契約1」という。)

A 請求人は、本件会社に対し、本件各物件の1事務管理業務、2清掃業務、3設備管理業務(後記ヘの契約内容に含まれるものを除く。)を委託する(第3条)。

B 月額委託料は、1,074,399円(うち、修繕積立金310,300円を含む設備委託業務費944,400円、設備の修繕費130,000円)とする(第6条第2項、別紙2)。

C 修繕費については、本件会社は、請求人の指示に基づき、修繕積立金又は設備の修繕費のうちからこれを支払う(第6条第4項)。

D 修繕積立金については、請求人からの預り金として、本件会社自身の会計処理とは切り離して積み立てるものとし、本件会社は、その取崩しについては書面をもって請求人の了解を得て着手する(第6条第6項)。

(ハ)平成20年1月1日付不動産運用コンサルティング業務委託契約(以下「本件コンサルティング委託契約」という。)

A 請求人は、本件会社に対し、本件各物件に関し、1過去、現状、将来の適正な価格の算出、2キャッシュフロー分析、3売却、移管の検討、4新規不動産の購入のための不動産選定作業、評価作業、銀行融資に係る資料の作成、5請求人の経理システムでの財務分析、節税対策の立案、6請求人の不動産の不動産鑑定作業、7請求人の所得税の異議申立書の作成、8請求人の国税不服審判所への不服申立ての諸作業の代行、9所得税の変更等があった場合に検討書を作成して請求人に提出する業務を委託する(第1条第1項)。

B 月額委託料は23,500円とする(第2条第1項)。

(ニ)平成20年1月1日付不動産会計税務事務委託契約(以下「本件会計税務委託契約」という。)

A 請求人は、本件会社に対し、本件各物件に関し、1支払明細書、建物管理報告書、賃貸借契約書、入居申込書、各種領収書等の整理・ファイリング業務、2上記帳簿類のうち請求人の青色申告のために必要な事項の仕訳帳等への記帳及び毎日の銀行預金残高確認作業、3家賃明細、更新料明細、修繕費明細、管理費明細、借入金明細等の管理帳票、BS、PL、キャッシュフロー分析等の作成、4請求人の青色申告のための各種資料の作成、5税務署への申告書提出のための作業、6銀行通帳への記帳、租税公課の支払等の作業、7税務調査対応作業を委託する(第1条第1項)。

B 月額委託料は31,500円とする(第2条第1項)。

(ホ)平成23年10月1日付不動産賃貸管理業務委託契約(以下「本件賃貸管理委託契約2」という。)

A 請求人は、本件会社に対し、1賃借人の募集及び決定、賃貸借契約の代行業務、2賃料、共益費、敷金、礼金及び更新料の受領並びに敷金返還に関する業務、3賃貸借契約の更新に関する業務、4退室時の立会い及び原状回復費用負担割合の決定並びに清算に関する業務、5賃借人退去後の原状回復工事を含むリフォーム工事業務、6緊急時の対応及び処置に関する業務、7その他書面により特約した業務を委託する(第1条第1項)。

B 請求人は、上記Aの業務に関し、本件会社に代理権を付与する(第1条第2項)。

C 月額委託料は598,700円(うち、賃貸業務委託料378,700円、貸室リフォーム代金220,000円)とする。なお、本件会社は、リフォーム工事業務に関しては、実際に要した額にかかわらず上記220,000円の定額で賄うこととし、請求人との間で差額の清算をしない(第5条第1項、別紙3)。

(ヘ)平成23年10月1日付不動産管理業務委託契約(以下「本件管理委託契約2」という。)

A 請求人は、本件会社に対し、本件各物件の1事務管理業務、2清掃業務、3設備管理業務、4設備の修繕業務(後記ヘの契約内容に含まれるものを除く。)を委託する(第3条)。

B 月額委託料は1,074,399円(うち、修繕積立金310,300円を含む設備委託業務費944,400円、設備の修繕費130,000円)とする(第6条第2項、別紙2)。

C 修繕費については、本件会社は、設備の修繕費(大規模修繕に該当する等の場合には修繕積立金)からこれを支払う(第6条第4項)。

D 修繕積立金については、請求人からの預り金として、本件会社自身の会計処理とは切り離して積み立てるものとし、本件会社は、その取崩しについては書面をもって請求人の了解を得て着手する(第6条第6項)。

(ト)平成23年10月1日付不動産運用コンサルティング業務委託契約

A 請求人は、本件会社に対し、本件各物件に関し、1過去、現状、将来の適正な価格の算出、2キャッシュフロー分析、3売却、移管の検討、4新規不動産の購入のための不動産選定作業、評価作業、銀行融資に係る資料の作成、5請求人の経理システムでの財務分析、節税対策の立案を委託する(第1条第1項)。

B 月額委託料は23,500円とする(第2条第1項)。

(チ)平成23年10月1日付不動産会計税務事務委託契約

A 請求人は、本件会社に対し、本件各物件に関し、1支払明細書、建物管理報告書、賃貸借契約書、入居申込書、各種領収書等の整理・ファイリング業務、2上記帳簿類のうち請求人の青色申告のために必要な事項の仕訳帳等への記帳及び毎日の銀行預金残高確認作業、3家賃明細、更新料明細、修繕費明細、管理費明細、借入金明細等の管理帳票、BS、PL、キャッシュフロー分析等の作成を委託する(第1条第1項)。

B 月額委託料は31,500円とする(第2条第1項)

ヘ 本件j物件に係る管理組合であり、請求人が理事長を務める○○j管理組合(以下「本件管理組合」という。)は、本件会社との間で、平成19年○月○日付で次の内容で○○j管理業務委託契約(以下「本件j管理委託契約」という。)を締結した。

(イ)本件管理組合は、本件会社に対し、本件j物件の1事務管理業務、2清掃業務、3設備管理業務を委託する(第3条)。

(ロ)月額委託料は436,600円(うち、本件管理組合の修繕積立金は161,800円)とする(第6条第2項、別表4)。

(ハ)修繕費については、本件会社は、本件管理組合の指示に基づき、管理費又は修繕積立金のうちからこれを支払う(第6条第5項)。

(ニ)修繕積立金については、本件管理組合からの預り金として、本件会社自身の会計処理とは切り離して積み立てるものとし、本件会社は、当該修繕積立金の取崩しについては、書面をもって本件管理組合の了解を得て着手する(第6条第7項)。

ト Q税務署長は、平成20年2月27日付で請求人の平成16年分ないし平成18年分の所得税に係る各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「平成20年付各処分」という。)をした。

チ 原処分庁は、平成23年3月14日付で請求人の平成19年分ないし平成21年分の所得税に係る各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「平成23年付各処分」という。)をした。

リ 請求人は、本件各当初申告において、次のような処理をして申告した。

(イ)請求人は、いずれも本件各物件の一室の賃借人であるP3(以下「本件賃借人1」という。)、P4(以下「本件賃借人2」という。)及びP5(以下「本件賃借人3」といい、この3名を「本件各賃借人」という。)から預かっていた敷金(以下「本件各敷金」という。)を、平成24年分の不動産所得に係る総収入金額に算入しなかった。

(ロ)請求人は、本件各年分の不動産所得の金額の計算上、上記ホ及びヘに関連して支出したという種々の金員を必要経費に算入した。請求人が必要経費に算入したものには、本件管理委託契約1に基づく設備の修繕費名目の金員(以下「本件修繕費」という。)、本件管理委託契約1及び本件管理委託契約2に基づく修繕積立金名目の金員(以下、本件管理委託契約2に基づく修繕積立金のうち、本件d物件及び本件e物件に係る部分を除いたものを「本件修繕積立金」という。)、本件賃貸管理委託契約1に基づく貸室リフォーム代金名目の金員(以下「本件リフォーム代金」という。)、本件管理組合の管理規約に基づく修繕積立金名目の金員(以下「本件j修繕積立金」という。)、本件コンサルティング委託契約に基づく委託料名目の金員(以下「本件コンサルティング委託料」という。)及び本件会計税務委託契約に基づく委託料名目の金員(以下「本件会計税務委託料」という。)が含まれていた。

(ハ)請求人は、本件各物件の減価償却費の計算の基礎となる取得価額について、土地と建物及び建物附属設備(以下「建物等」という。)を一体として計算した。

ヌ 他方、請求人は、本件各修正申告においては、本件各物件の減価償却費の計算の基礎となる取得価額について、土地と建物等及び建物と建物附属設備について、いずれも不動産鑑定士による鑑定評価を前提にあん分して計算した。

ル 本件各処分1に係る各賦課決定通知書(以下「本件各賦課決定通知書」という。)には、要旨別紙4のとおりの記載がある。また、本件各処分2に係る各更正通知書(以下「本件各更正通知書」という。)には、要旨別紙5ないし7のとおりの記載があるほか、これらの記載を前提とした税額の計算表が付されている。

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2 争点

(1)主に所得税法に関する争点(いずれも本件各処分2に係るものである。)。

イ 争点1 本件各敷金は、請求人の平成24年分の不動産所得に係る総収入金額に算入すべきか否か。

ロ 争点2 本件修繕費、本件修繕積立金、本件リフォーム代金及び本件j修繕積立金は、請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されるか否か。

ハ 争点3 本件コンサルティング委託料及び本件会計税務委託料は、請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されるか否か。

ニ 争点4 減価償却費の計算における建物等の取得価額の算定方法の適否。

ホ 争点5 減価償却費の計算における建物と建物附属設備の区分及び各取得価額の算定方法の適否。

(2)主に通則法に関する争点(イないしハは本件各処分1に係るものであり、ニは本件各処分2に係るものである。)

イ 争点1 本件各賦課決定通知書の理由附記に不備があるか否か。

ロ 争点2 本件各修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでない」といえるか否か。

ハ 争点3 本件各当初申告が過少申告であったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。

ニ 争点4 本件各更正通知書の理由附記に不備があるか否か。

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3 主張及び判断

(1)主に所得税法に関する争点

イ 争点1(本件各敷金は、請求人の平成24年分の不動産所得に係る総収入金額に算入すべきか否か。)について

(イ)主張

原処分庁 請求人

請求人が本件各敷金と同額の金員を出金したこと、本件会社が本件賃借人2及び本件賃借人3に対し請求人が預かっていた敷金を原状回復費用等に充当する旨通知したことは認められる。

しかしながら、本件賃貸管理委託契約2において、本件会社が本件各物件に係る原状回復工事を含むリフォーム費用は月額220,000円の委託料で賄うべきものとされていること、請求人が本件各賃借人に本件各敷金を返還した事実は認められないことからすると、請求人が預かっていた敷金は、平成24年分の不動産所得に係る総収入金額に算入すべきものである。

本件各敷金は、以下のとおり、本件会社と本件各賃借人の間で清算が終了した後、請求人がその全額を本件会社に支払っているから、平成24年分の不動産所得に係る総収入金額に算入すべきものではない。

A 本件賃借人1に係る敷金については、家賃、敷金及び原状回復費用を含めて和解が成立したことにより清算が終了した。

B 本件賃借人2に係る敷金については、原状回復費用95,812円を敷金100,000円から控除し、残額を返還して清算が終了した。

C 本件賃借人3に係る敷金については、原状回復費用125,873円等を敷金110,000円から控除し、不足分を免除したことにより清算が終了した。

(ロ)判断

A 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(A)本件賃借人1との賃貸借契約について

a 請求人は、平成19年7月30日、本件賃借人1に対し、本件j物件の一室(○号室)を月額賃料60,000円で賃貸し、本件賃借人1から敷金として60,000円を預かった。

b 本件賃借人1は、平成23年9月頃から賃料を滞納したことから、請求人側から明渡し等を求められ、平成24年4月18日、上記賃貸借契約を同日付で合意解除すること、所定の期限までに上記目的物を明け渡すこと、所定の期限までに未払賃料及び賃料相当損害金を支払うこと、明渡し後の残置動産の処分には異議を述べないこと等を主要な内容とし、他に何らの債権債務がないことを相互に確認する旨のいわゆる清算条項が付された和解に応じ、同年5月31日頃、上記目的物を明け渡した。

(B)本件賃借人2との賃貸借契約について

a 請求人は、平成19年6月7日、本件賃借人2に対し、本件i物件の一室(○号室)を月額賃料67,000円で賃貸し、本件賃借人2から敷金として100,500円を預かった。

b 上記賃貸借契約は平成24年6月10日頃終了し、本件賃借人2は、その頃、上記目的物を明け渡した。

c 本件会社は、本件賃貸管理委託契約2に基づく業務として、本件賃借人2に対し、敷金100,000円から本件賃借人2が負担すべき原状回復費用95,812円を控除した残額4,188円を返還する旨通知し、平成24年7月20日、同額を本件会社名義の預金口座から本件賃借人2名義の預金口座に振込送金した。

(C)本件賃借人3との賃貸借契約について

a 請求人は、平成13年10月26日、本件賃借人3に対し、本件f物件の一室(○号室)を月額賃料55,000円で賃貸し、本件賃借人3から敷金として110,000円を預かった。

b 上記賃貸借契約は平成24年11月4日頃終了し、本件賃借人3は、その頃、上記目的物を明け渡した。

c 本件会社は、本件賃貸管理委託契約2に基づく業務として、本件賃借人3に対し、未払賃料7,483円と本件賃借人3が負担すべき原状回復費用125,873円の合計が敷金110,000円を超えており差額分23,356円が不足しているものの、当該敷金全額をもってこれらを賄うことにより相互に債権債務が存しないものとして取り扱うこととしたい旨を通知した。

(D)原処分庁は、本件賃貸管理委託契約2に基づく貸室リフォーム代金月額220,000円を、請求人の平成24年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入することを認めている。

B 検討

(A)本件賃借人1の敷金について
 上記Aの(A)のbのとおり、清算条項を含む和解により請求人の本件賃借人1に対する敷金返還債務が存在しないことが確認されているところ、当該和解の内容等を考慮すると、請求人が受け取った敷金60,000円は、実質的には全て本件賃借人1が負担すべき賃料、賃料相当損害金その他本件賃借人1が負担すべき費用に充てられたものと認めることができる。そうすると、上記敷金について、請求人に経済的利益はないから、収入に算入すべきとはいえない。

(B)本件賃借人2の敷金について
 本件賃借人2が負担すべき原状回復費用は、上記Aの(B)のcの通知に記載された金額である95,812円が過大であることをうかがわせる証拠は特に見当たらないし、本件賃借人2から不満が示されたなどの事情も認められないことから、上記通知の記載どおり95,812円であると認められる。当該金額については、請求人が返還を要しなくなったものであるから、収入に算入すべきである。なお、前記1の(4)のホの(ホ)によれば、本件賃借人2の退去後に本件会社が行う原状回復工事の費用は本件賃貸管理委託契約2に基づく定額の月額リフォーム代金220,000円で賄うべきであるから(上記Aの(D)のとおり、これについては必要経費として認められている。)、請求人は、上記95,812円を重ねて本件会社に支払う必要はないはずであって、これを必要経費と扱うことはできない。
 次に、敷金100,000円から上記95,812円を控除した残額4,188円については、具体的に発生した敷金返還請求権として本件賃借人2が請求人に返還を求めることができるものであるから、請求人が返還を要するものであり、上記Aの(B)のcのとおり、実際に請求人が本件会社を通じて敷金100,000円から上記95,812円を控除した残額であるとして4,188円を本件賃借人2に振り込んで返還している。そうすると、上記4,188円については、請求人に経済的利益が帰属したとはいえず、収入に当たらない。
 なお、上記Aの(B)のaのとおり、請求人が受け取った敷金は100,000円ではなく100,500円であるから、請求人の本件賃借人2に対する敷金返還債務の正しい額は4,688円(上記100,500円から上記95,812円を控除した残額)であり、請求人は、本来は本件賃借人2に返還すべき差額の500円を返還していないことになるが、その額等に照らし請求人と本件賃借人2の間で改めてその清算が行われる見込みはないといえる。そうすると、上記500円については請求人が返還を要しなくなったといえるから、収入に算入すべきである。

(C)本件賃借人3の敷金について
 本件賃借人3が負担すべき原状回復費用は、上記Aの(C)のcの通知に記載された金額である125,873円が過大であることをうかがわせる証拠は特に見当たらないし、本件賃借人3から不満が示されたなどの事情も認められないことから、上記通知の記載どおり125,873円であると認められる。これを賄うための敷金110,000円については、請求人が返還を要しなくなったものであるから、収入に算入すべきである。なお、上記(B)と同様の理由により、これを必要経費と扱うことはできない。

(D)したがって、本件各敷金は、本件賃借人2に係る敷金のうち96,312円及び本件賃借人3に係る敷金110,000円については、平成24年分の不動産所得に係る総収入金額に算入すべき金額であるが、本件賃借人1に係る敷金60,000円及び本件賃借人2に係る敷金のうち4,188円は平成24年分の不動産所得に係る総収入金額に算入すべきでない。

ロ 争点2(本件修繕費、本件修繕積立金、本件リフォーム代金及び本件j修繕積立金は、請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されるか否か。)について

(イ)主張

原処分庁 請求人
次のとおり、本件修繕費、本件修繕積立金、本件リフォーム代金及び本件j修繕積立金は、いずれも請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されない。 次のとおり、本件修繕費、本件修繕積立金、本件リフォーム代金及び本件j修繕積立金は、いずれも請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入される。
A 本件修繕費について A 本件修繕費について
 本件管理委託契約1においては、本件会社が請求人の指示に基づいて修繕を行う、本件会社が修繕費を支払う際に預けられた修繕積立金を取り崩す場合は請求人の了解を得る必要があるとされているところ、請求人が上記指示や了解をした事実は認められないから、本件各年分の終了の日までに具体的な給付をすべき原因となる事実が発生しておらず、債務が確定していない。
 なお、平成19年○月以前は本件会社が設立されていない点、平成23年10月以後は本件管理委託契約2に基づいて判断した点において、本件修繕費とは事実関係が異なる。
 本件管理委託契約1においては、契約書に記載はないが、請求人と本件会社は設備の修繕が委託業務に含まれることを口頭で合意しており、本件会社は、本件修繕費の受領の対価として実際に設備の修繕を行っている。そして、請求人が本件会社に対して本件修繕費を支払った時点で本件会社が請求人のために設備の修繕を行う債務を負い、それが確定するというべきである。
 なお、平成19年○月以前及び平成23年10月以後の設備の修繕費は必要経費として認められており、本件修繕費も同様に扱うべきである。
B 本件修繕積立金について B 本件修繕積立金について
 本件管理委託契約1及び本件管理委託契約2においては、本件修繕積立金は請求人からの預り金として本件会社の会計処理とは切り離して積み立てられ、将来の支出に備えて本件会社に預けられるものである。本件会社が請求人の指示に基づいて設備の修繕を行うとされているところ、請求人が上記指示をした事実は認められないから、本件各年分の終了の日までに具体的な給付をすべき原因となる事実が発生しておらず、債務が確定していない。  本件管理委託契約1及び本件管理委託契約2により、請求人が本件会社に対して本件修繕積立金を支払った時点で本件会社が設備の修繕を行うべき債務を負い、それが確定するというべきである。
 なお、本件d物件及び本件e物件に係る修繕積立金は、具体的な修繕が行われていなくても必要経費として認められており、本件修繕積立金も同様に扱うべきである。
C 本件リフォーム代金について C 本件リフォーム代金について
 本件賃貸管理委託契約1においては、貸室リフォーム工事がその委託業務に含まれておらず、本件会社がこれを行う必要は認められないから、本件各年分の終了の日までに具体的な給付をすべき原因となる事実が発生したとはいえず、債務が確定していない。
 なお、平成23年10月以後は本件賃貸管理委託契約2が適用されることを前提に判断したという点で本件リフォーム代金とは事実関係が異なる。
 本件賃貸管理委託契約1においては、契約書に記載はないが、請求人と本件会社は貸室リフォーム工事が委託業務に含まれることを口頭で合意しており、本件会社は、本件リフォーム代金の受領の対価として実際に貸室リフォーム工事を行っている。そして、請求人が本件会社に対して本件リフォーム代金を支払った時点で本件会社が請求人のために貸室リフォーム工事を行うべき債務を負い、それが確定するというべきである。
 なお、平成23年10月以後の貸室リフォーム代金は必要経費として認められており、本件リフォーム代金も同様に扱うべきである。
D 本件j修繕積立金について D 本件j修繕積立金について
 本件j管理委託契約においては、本件会社が本件管理組合の指示に基づいて修繕を行う、本件会社が修繕費を支払う際に預けられた修繕積立金を取り崩す場合は本件管理組合の了解を得る必要があるとされているところ、本件管理組合が上記指示や了解をした事実は認められないから、本件各年分の終了の日までに具体的な給付をすべき原因となる事実が発生しておらず、債務が確定していない。  本件j管理委託契約により、請求人が本件管理組合から委託を受けている本件会社に対して本件j修繕積立金を支払い、本件会社が受け取った時点で本件会社が設備の修繕を行うべき債務を負い、それが確定するというべきである。
 なお、上記Bのとおり、本件d物件及び本件e物件に係る修繕積立金は必要経費として認められており、本件j修繕積立金も同様に扱うべきである。

(ロ)判断

A 本件修繕費について

請求人は、本件会社が本件修繕費の受領の対価として本件各物件の修繕を行った旨主張し、それを裏付ける証拠であるとして領収証や振込票の写し等を提出する。

しかしながら、これらの証拠は、支払日及び支払額の記載はあっても支出の内容の記載がないものが大半を占め(なお、数字等が手書きで書き加えられているものも存するが、その意味は判然としない。)、支出の内容の記載があるものも修繕と関連性が認められないものが含まれるなどしている。前記1の(4)のホの(ロ)のA及びBによれば、本件管理委託契約1においては、契約書上、委託料の内訳に修繕費が含まれているとはいえ、委託業務の内容としては明示されておらず、本件各物件の修繕が必要な事態が生じたとしても、本件会社が当然にそれを行うという関係があったとは必ずしも認められないことも踏まえると、上記証拠によっては請求人が主張する事実を認めることはできず、他の証拠及び当審判所の調査の結果によっても、これを認めることはできない。

以上のことから、本件会社による本件各物件の修繕の有無及びその額を認定することはできないから、請求人が本件修繕費(平成19年○月分から平成23年9月分まで月額130,000円)を本件会社に支払うことの必要性を認めることはできず、本件修繕費は、請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されない。

これに対し、請求人は、平成19年○月以前及び平成23年10月以後の設備の修繕費は必要経費として認められている旨主張する。

しかしながら、平成19年○月○日以前は本件会社が設立されておらず請求人との契約が存在し得ないし、平成23年10月以後は本件管理委託契約2が成立していることを含めて本件修繕費に関するものとは事実関係が異なり、同一に論じることはできないのであって、請求人の主張には理由がない。

B 本件修繕積立金について

請求人は、本件管理委託契約1及び本件管理委託契約2により、請求人が本件会社に対して本件修繕積立金を支払った時点で本件会社が設備の修繕を行うべき債務を負い、それが確定する旨主張する。

しかしながら、前記1の(4)のホの(ロ)及び(ヘ)によれば、請求人は任意に本件管理委託契約1及び本件管理委託契約2を締結したこと、本件修繕積立金は請求人からの預り金として本件会社の会計処理とは切り離して積み立てられるものとし、その取崩しについては請求人の了解が必要であることが認められる。これらの事実関係からすれば、請求人が本件会社に本件修繕積立金を支払った時点においては、請求人の資産としての性質を有するというべきであるから、具体的な給付をすべき原因が発生しておらず、債務が確定したとはいえない。

そして、その後に本件会社により修繕が行われ、本件修繕積立金が用いられたことを認めるに足りる証拠もないから、本件修繕積立金は、本件各年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されない。

これに対し、請求人は、本件d物件及び本件e物件に係る修繕積立金は具体的な修繕が行われていなくても必要経費として認められている旨主張する。

しかしながら、本件d物件及び本件e物件については、いずれも管理組合が存在し、その規約上、区分所有者が修繕積立金を当該管理組合に納入する義務を負い、これは具体的な使用の有無にかかわらず区分所有者に返還されないものであることがうかがわれる。これらの事実からすれば、当該修繕積立金は資産としての性質を失っているというべきであり、支払期日の属する年分の必要経費に算入することができるから、本件修繕積立金とは事実関係が異なるのであって、請求人の主張には理由がない。

C 本件リフォーム代金について

請求人は、本件会社が本件リフォーム代金の受領の対価として本件各物件のリフォーム工事を行った旨主張し、それを裏付ける証拠であるとして領収証や振込票の写し等を提出する。

しかしながら、これらの証拠は、支払日及び支払額の記載はあっても支出の内容の記載がないものや、支出先の住所が黒塗りされておりその特定ができないものが大半を占め(なお、数字等が手書きで書き加えられているものも存するが、その意味は判然としない。)、支出の内容や支出先の記載があるものもリフォーム工事と関連性が認められないものが含まれるなどしている。前記1の(4)のホの(イ)によれば、本件賃貸管理委託契約1においては、契約書上、委託料の内訳に貸室リフォーム代金が含まれているとはいえ、委託業務の内容としては明示されておらず、本件各物件のリフォーム工事が必要な事態が生じたとしても、本件会社が当然にそれを行うという関係があったとは必ずしも認められないことも踏まえると、上記証拠によっては請求人が主張する事実を認めることはできず、他の証拠及び当審判所の調査の結果によっても、これを認めることはできない。

以上のことから、本件会社による本件各物件のリフォーム工事の有無及びその額を認定することはできないから、請求人が本件リフォーム代金(平成19年○月分から平成23年9月分まで月額220,000円)を本件会社に支払うことの必要性を認めることはできず、本件リフォーム代金は、請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されない。

これに対し、請求人は、平成23年10月以後の貸室リフォーム代金は必要経費として認められている旨主張する。

しかしながら、平成23年10月以後は本件賃貸管理委託契約2が成立していることを含めて本件リフォーム代金に関するものとは事実関係が異なり、同一に論じることはできないのであって、請求人の主張には理由がない。

D 本件j修繕積立金について

請求人は、本件j管理委託契約により本件管理組合から委託を受けている本件会社に対して本件j修繕積立金を支払い、これを本件会社が受け取った時点で本件会社が設備の修繕を行うべき債務を負い、それが確定する旨主張する。

しかしながら、前記1の(4)のヘによれば、本件管理組合は任意に本件j管理委託契約を締結したこと(なお、請求人が本件j物件の全ての区分所有権を取得したことにより本件管理組合の構成員は請求人だけとなっており、その社団性の有無という疑問をおくとしても、本件管理組合は形式上の存在にすぎず、経済的には請求人と本件管理組合とを同一視することができる。)、本件j修繕積立金は本件管理組合からの預り金として本件会社の会計処理とは切り離して積み立てられるものとし、その取崩しについては本件管理組合の了解が必要であることが認められる。これらの事実関係からすれば、請求人が本件会社に本件j修繕積立金を支払っても、これが請求人の手元を離れたとは評価できず、請求人の資産としての性質を有するというべきであるから、その時点では具体的な給付をすべき原因が発生しておらず、債務が確定したとはいえない。

そして、その後に本件会社により修繕が行われ、本件j修繕積立金が用いられたことを認めるに足りる証拠もないから、本件j修繕積立金は、請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されない。

ハ 争点3(本件コンサルティング委託料及び本件会計税務委託料は、請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されるか否か。)について

(イ)主張

原処分庁 請求人
次のとおり、本件コンサルティング委託料及び本件会計税務委託料は、いずれも請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されない。 次のとおり、本件コンサルティング委託料及び本件会計税務委託料は、いずれも請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入される。
A 本件コンサルティング委託料について A 本件コンサルティング委託料について
 本件コンサルティング委託契約における委託業務のうち、請求人の所得税の異議申立書の作成業務、国税不服審判所長への不服申立ての諸作業の代行業務及び所得税の変更等があった場合に検討書を作成して請求人に提出する業務に係る委託料は家事上の経費であり、本件コンサルティング委託料は家事上の経費に関連する経費であるところ、契約書には金額の内訳がなく、業務の遂行上直接必要である部分が明らかに区分されていない。  本件コンサルティング委託契約においては、本件各物件の不動産の運用に係る検討に関し契約を締結すると明示されている上、請求人と本件会社は、本件コンサルティング委託契約に係る業務には一切家事上の内容が含まれないことを確認しているから、当該業務の全てが本件各物件に係る業務である。
 また、所得税基本通達45−1に定める諸要素からすれば、本件コンサルティング委託料が請求人の不動産賃貸業務の遂行上直接必要であったことは明らかである。
B 本件会計税務委託料について B 本件会計税務委託料について
 本件会計税務委託契約における委託業務のうち、請求人の青色申告のための各種資料の作成業務、税務署長への申告書提出のための作業業務及び税務調査対応業務に係る委託料は家事上の経費であり、本件会計税務委託料は家事上の経費に関連する経費であるところ、契約書には金額の内訳がなく、業務の遂行上直接必要である部分が明らかに区分されていない。  本件会計税務委託契約においては、本件各物件の不動産の経理、決算、税務申告等の業務に関し契約を締結すると明示されている上、請求人と本件会社は、本件会計税務委託契約に係る業務には一切家事上の内容は含まれないことを確認しているから、当該業務の全てが本件各物件に係る業務である。
 また、所得税基本通達45−1に定める諸要素からすれば、本件会計税務委託料が請求人の不動産賃貸業務の遂行上直接必要であったことは明らかである。

(ロ)判断

A 法令解釈等

所得税基本通達37−25の(3)は、所得税法第45条第1項第2号ないし第5号に規定する租税公課が必要経費に算入されない以上、それに関する紛争に係る費用も同様に必要経費に算入されないこととする旨の整合的な取扱いを定めたものであると解され、当審判所においても相当と認められる。

B 本件コンサルティング委託料について

前記1の(4)のホの(ハ)のAのとおり、本件コンサルティング委託契約は複数の委託業務を含むものであるところ、本件コンサルティング委託料のうち請求人の所得税の異議申立書の作成業務、国税不服審判所長への不服申立ての諸作業の代行業務及び所得税の変更等があった場合に検討書を作成して請求人に提出する業務に対応する部分については、所得税法第45条第1項第2号の規定により必要経費に算入されない所得税に関する紛争に係る費用であり、所得税基本通達37−25の(3)の定めにより家事上の経費に含まれるというべきであるから、本件コンサルティング委託料は家事上の経費に関連する経費に当たる。

そして、前記1の(4)のホの(ハ)のBのとおり、契約書上、本件コンサルティング委託料の業務ごとの内訳はなく一括で定められており、所得税法施行令第96条第1号後段の要件を満たさないし、同条第2号に該当すると認めるに足りる証拠もない。

したがって、本件コンサルティング委託料は、請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されない。

C 本件会計税務委託料について

前記1の(4)のホの(ニ)のAのとおり、本件会計税務委託契約は複数の委託業務を含むものであるところ、本件会計税務委託料のうち請求人の青色申告のための各種資料の作成業務、税務署長への申告書提出のための作業業務及び税務調査対応作業業務に対応する部分については、その内容に鑑み、所得税法第45条第1項第2号の規定により必要経費に算入されない所得税に関するものであるから、本件会計税務委託料は家事上の経費に関連する経費に当たる。

そして、前記1の(4)のホの(ニ)のBのとおり、契約書上、本件会計税務委託料の業務ごとの内訳はなく一括で定められており、所得税法施行令第96条第1号後段の要件を満たさないし、同条第2号に該当すると認めるに足りる証拠もない。したがって、本件会計税務委託料は、請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されない。

D 請求人の主張の当否

請求人は、本件コンサルティング委託契約や本件会計税務委託契約に係る業務には一切家事上の内容が含まれないことを確認している旨主張するが、所得税法第45条の規定に該当するか否かは法的評価であって、契約に当たって当事者間で確認したところで何らの意味を有しない。

また、請求人は、所得税基本通達45−1に定める諸要素からすれば、本件コンサルティング委託料や本件会計税務委託料が請求人の不動産賃貸業務の遂行上直接必要であったことは明らかである旨主張するが、この請求人の主張を前提とするとしても、所得税法施行令第96条第1号前段の要件を満たすことになるにすぎず、上記B及びCのとおり、本件においては同号後段の要件を満たさないのであるから、結論に影響を及ぼさない。

したがって、請求人の主張には理由がない。

ニ 争点4(減価償却費の計算における建物等の取得価額の算定方法の適否。)について

(イ)主張

原処分庁 請求人
減価償却費の計算における建物等の取得価額は、実際の購入価額によるべきである。
 そして、本件各物件については、契約書の記載に応じ、1本件f物件、本件h物件、本件j1物件及び本件j2物件(以下、これらを併せて「本件f物件等」という。)、2本件i物件、3本件e物件、本件d物件、本件g物件及び本件j3物件(以下、これらを併せて「本件e物件等」という。)に分類して次のAないしCの方法により算定した上、本件仲介手数料のうち建物等に係る部分(当該算定方法によって算定された土地及び建物等の購入価額の割合によってあん分したもの)を加えたものとするのが相当である。
本件各物件について請求人が依頼した不動産鑑定士による評価額は、以下の方法で算出した本件各物件の建物等の価額(以下「請求人主張価額」という。)に近似しており合理的であるから、これによるべきである。
 減価償却費の計算における建物等の取得価額は、契約書における土地及び建物等の代金並びに仲介手数料の合計額を、標準建築価額表を基に算定した建物等の価額と土地の固定資産税評価額を0.7で除した土地の価額の割合によってあん分して算出すべきである。
 反対に、次のとおり、原処分庁が主張する方法により算定される本件各物件の建物等の取得価額(以下「原処分庁主張価額」という。)は著しく不合理であり、これによるべきでない。
A 本件f物件等 A 本件f物件等
 本件f物件等に係る各売買契約書等には、いずれも建物の購入価額が記載されている。そして、当該価額が著しく不合理であるなどの事情は認められないから、当該価額を基に建物等の取得価額を算定すべきである。  原処分庁主張価額は、請求人主張価額と比べて過少であり(本件f物件は29.49%、本件h物件は15.11%、本件j1物件は35.00%、本件j2物件は22.57%)、著しく不合理である。
 また、本件f物件については、一般的な木造アパートと比べてグレードが高いこと、北側道路が私道であること等の個別事情を斟酌すべきであるところ、不動産鑑定士による評価額にはこれが反映されているが、原処分庁主張価額には反映されていない。
B 本件i物件 B 本件i物件
 本件i物件に係る売買契約書には、建物の購入価額が記載されていないが、建物に係る消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の額が記載されている。そして、このことから導き出される建物等の購入価額(当該消費税等の額から逆算される建物の価額に消費税等の額を加算した額)が著しく不合理であるなどの事情は認められないから、当該価額を基に建物等の取得価額を算定すべきである。  原処分庁主張価額は、請求人主張価額と比べて32.79%過少であり、著しく不合理である。
C 本件e物件等 C 本件e物件等
 本件e物件等に係る売買契約書には、いずれも建物の購入価額が記載されていない。このような場合には、土地と建物の全体の購入価額を土地と建物の固定資産税評価額の価額比によってあん分し、当該価額を基に建物等の取得価額を算定すべきである。
 なお、国税庁が作成した譲渡所得の申告のしかた(記載例)に記載されている「建物の標準的な建築価額表」(以下「標準建築価額表」という。)を基に建物等の取得価額を算定する方法は、譲渡所得に係る売却した土地と建物の取得価額を区分するに当たって、購入時の契約において土地と建物の価額が区分されていない場合に時価の割合に代えて取得価額を計算することができる方法であり、この計算式によって算出された価額が当該資産の時価であると認めたものではない。
 建物の固定資産税評価額は時価である標準建築価額表に基づく価額の4割程度であり、土地の固定資産税評価額は時価の7割であるから、土地と建物の固定資産税評価額の価額比によってあん分すると建物等の取得価額は必然的に過少になる。実際、原処分庁主張価額は、請求人主張価額と比べて過少であり(本件e物件は12.53%、本件g物件は9.73%、本件j3物件は25.33%)、著しく不合理である。
 また、固定資産税評価額には消費税等が含まれておらず、妥当でない。
さらに、原処分庁の主張によれば、譲渡所得の計算の場合には標準建築価額表で計算し、購入する場合には建物の固定資産税評価額で計算することとなり、一つの建物について売主側と買主側とに異なった価額を存在させることとなり、不合理である。
 那覇地方裁判所平成16年9月21日判決においては、買主側における取得価額の合理的な算定方法として建築統計年報(標準建築価額表に相当するもの)が採用され、東京高等裁判所平成10年11月26日判決においては、土地及び建物を一括譲渡した場合に当該不動産に係る固定資産税等の課税標準額によってあん分する方法が採用されるなど、原処分庁の主張とは異なる方法による算定を認めた裁判例も存在する。

(ロ)判断

A 本件f物件等

別表2のとおり、請求人が本件f物件等を購入した際に作成されたと認められる各売買契約書等には、土地及び建物等の売買代金が区分して記載され、建物等に係る消費税等の額に相当する金額も記載されている。そして、当審判所の調査の結果によっても、上記各売買契約書の代金等の記載があえて実体と異なる虚偽の内容を表示したものであること等をうかがわせる事情は認められない。

そうすると、本件f物件等の減価償却費の算定における建物等の取得価額については、上記各売買契約書記載の建物等の代金に上記消費税等の額を加算した金額であると認められる。原処分庁による算定方法はこれと同旨であり、適切である。

B 本件i物件

別表2のとおり、請求人が本件i物件を購入した際に作成されたと認められる売買契約書には、土地及び建物等の売買代金の総額が記載されているにとどまり、その内訳は記載されていないものの、当該売買代金の消費税等の額に相当する金額が記載されている。そして、当審判所の調査の結果によっても、上記各売買契約書の代金及び消費税等の額の記載があえて実体と異なる虚偽の内容を表示したものであること等をうかがわせる事情は認められない。その上で、消費税法第6条第1項及び同法別表第一第1号が土地の譲渡については消費税を課さない旨規定していることを踏まえると、上記消費税等の額は、本件i物件の建物等の売買代金に対応するものであると認めることができるから、当該消費税等の額から逆算(割戻し)することによって建物等の売買代金を算定することができる。

そうすると、本件i物件の減価償却費の算定における建物等の取得価額については、上記の手順で算定した建物等の売買代金に上記消費税等の額を加算した金額であると認められる。原処分庁による算定方法はこれと同旨であり、適切である。

C 本件e物件等

別表2のとおり、請求人が本件e物件等を購入した際に作成されたと認められる売買契約書には、土地及び建物等の売買代金の総額が記載されているにとどまり、その内訳は記載されておらず、当該売買代金の消費税等の額に相当する金額も記載されていない(もっとも、当審判所の調査の結果によっても、上記各売買契約書の代金等の記載があえて実体と異なる虚偽の内容を表示したものであること等をうかがわせる事情は認められない。)。

このような場合、売買契約書の記載によるもの以外の方法で建物等に係る売買代金を区分して明らかにする必要が生ずるところ、固定資産税評価額は、固定資産評価基準によってされた不動産の評価に基づき一定の基準時におけるその適正な時価(客観的な交換価値)として決定された価額を登録するものであること(地方税法第341条第5号、第349条、第388条第1項等)に照らし、一般的に土地及び建物等につき共に当該基準時の前後における適正な時価を反映しているものと解されるから、上記の区分をする際には、対象となる土地及び建物等に係る各固定資産税評価額(これに購入の時期等に応じ相当の補正をした金額を含む。)を用いて当該土地及び建物等の金額の比を求め、全体の売買代金をこの価額比によってあん分する方法により算定するのが合理的であるということができる。

そうすると、本件e物件等の減価償却費の算定における建物等の取得価額については、上記の手順で算定された建物等の売買代金の金額であると認められる。原処分庁による算定方法はこれと同旨であり、適切である。

D 本件仲介手数料

請求人が本件各物件の購入に際し支払った本件仲介手数料は、所得税法施行令第126条第1項第1号に規定する「購入手数料」に該当するから、そのそれぞれの額は、上記AないしCで算定された本件各物件の各「購入の代価」に加算される。

E 請求人の主張の当否

請求人は、要するに、1請求人が依頼した不動産鑑定士による評価額は、契約書における土地及び建物等の代金並びに仲介手数料の合計額を標準建築価額表を基に算定した建物等の価額と土地の固定資産税評価額を0.7で除した土地の価額の割合によってあん分して算出した建物等の取得価額に近似しており合理的である、2原処分庁主張価額が請求人主張価額と比べて過少である、3本件f物件については個別事情を斟酌すべきである、4固定資産税評価額には消費税等が含まれていない、5譲渡所得の計算の場合には標準建築価額表で計算し、購入する場合には建物の固定資産税評価額で計算することとなり、一つの建物について売主側と買主側とに異なった価額を存在させる、6原処分庁の主張とは異なる方法による算定を認めた裁判例も存在するなどと主張する。

しかしながら、上記1の点については、「購入の代価」(所得税法施行令第126条第1項第1号イ)との文言からすれば、取得価額の算定に当たっては実際に支払った金額を基準とすべきことは明らかであり、それにもかかわらず、実際に支払った金額を直接認定できるような場合も含めて一律に請求人が主張するような方法によることが合理的であると解すべき根拠は見当たらない。上記2の点については、上記のとおり請求人主張価額の前提となる算定方法が合理的であるとはいえない以上、上記AないしDで認定したとおりの算定方法による額が結果において請求人主張価額と比べて過少であるとしても、そのことが不当であるとはいえない。上記3の点については、本件f物件については請求人が主張するような個別事情も含めて売買代金が決定されたはずであって、上記のとおり、そうして決定された売買代金を算定の基準とすべきものである。上記4ないし6の点については、売買契約書の記載による以外の方法で建物等に係る売買代金を区分して明らかにする必要が生ずる場合に固定資産税評価額を用いることが合理的であることは上記Cのとおりであって、請求人が主張する諸事情は、その合理性を否定するものとはいえない。

したがって、請求人の主張にはいずれも理由がない。

F 小括

以上を前提に、本件f物件等及び本件i物件の建物等の取得価額を算定すると別表4のとおりとなる。

また、本件e物件等の建物等の取得価額をそれぞれ別表5−1ないし別表5−4記載の各固定資産税評価額を基礎として算定すると別表6のとおりとなる。なお、固定資産税評価額が3年ごとに評価替えがされるものであることを踏まえ、評価替えがされた年以外の年に請求人が取得した本件e物件、本件g物件及び本件j3物件の固定資産税評価額については、評価替えがされた年からその取得した年までの価格変動及び損耗等を考慮して別表5−1、別表5−3及び別表5−4のとおり補正したものを算定の基礎とした。

ホ 争点5(減価償却費の計算における建物と建物附属設備の区分及び各取得価額の算定方法の適否。)について

(イ)主張

原処分庁 請求人
減価償却費の計算における建物と建物附属設備の区分及び各取得価額の算定方法は、1本件d物件、本件f物件、本件g物件、本件i物件及び本件j物件(以下、併せて「本件d物件等」という。)、2本件h物件、3本件e物件に分類して次のAないしCの方法により算定すべきである。 減価償却費の計算における建物と建物附属設備の区分及び各取得価額の算定方法は、本件各物件について請求人が依頼した不動産鑑定士による評価額によるべきである。反対に、次のとおり、原処分庁が主張する区分及び算定方法により算定される本件各物件の建物等の取得価額は違法かつ著しく不合理であり、これによるべきでない。
A 本件d物件等 A 本件d物件等
 本件d物件等については、別表7のとおり、固定資産評価基準の部分別再建築費評点数が存し、その「部分別」欄の「電気設備」、「衛生設備」、「空調設備」、「防災設備」及び「運搬設備」の各設備が建物附属設備に該当し、他の部分は建物に該当すると認められる。
 そして、建築時から請求人の取得時までの期間に応じ、定額法に基づいて減価償却費相当額の損耗等が生ずることを加味して各取得価額を算定すべきである。
 固定資産評価基準の部分別再建築費評点数における建物等の区分のうち「仮設工事」及び「その他の工事」は、所得税法施行令第6条の「その他建物に附属する設備」及び耐用年数省令の「前掲のもの以外のもの」に該当するといえるから、建物附属設備に区分されるべきである。
B 本件h物件 B 本件h物件
 本件h物件の前所有者は、平成8年11月に建物を、平成11年7月に建物附属設備である給水ポンプ(以下「本件給水ポンプ」という。)をそれぞれ取得していることから、本件h物件の建物附属設備に区分されるのは本件給水ポンプだけである。
 そして、前所有者の取得時から請求人の取得時までの期間に応じ、定額法に基づいて減価償却費相当額の損耗等が生ずることを加味して各取得価額を算定すべきである。
 他方、k市が平成24年1月に作成した本件h物件の再建築費評点数に係る再建築費評価表(以下「k市評価資料」という。)には本件給水ポンプが含まれていない点で不正確であり、これによるべきでない。
 本件h物件の前所有者が建物と建物附属設備を区分せずにした納税申告は、所得税法施行令第6条及び耐用年数省令に違反しているから、原処分庁がこの納税申告に基づいて建物等の区分を行うことは違法である。
 また、本件h物件については、k市評価資料に基づいて建物等を区分した上、上記Aと同様に、「仮設工事」及び「その他の工事」を建物附属設備に区分すべきである。
C 本件e物件 C 本件e物件
 本件e物件は、請求人の取得時に既に建物附属設備の法定耐用年数を超過しており、取得時における建物附属設備の価額は僅少であると認められることから、建物等の取得価額の全額が建物の取得価額とすべきである。  原処分庁は、本件e物件の建築時の再建築費評点数の入手を怠ったため建物と建物附属設備を明確に区分できなかったのであり、原処分庁の処理は違法である。

(ロ)判断

A 建物と建物附属設備の区分

所得税法所定の減価償却資産の償却費の計算に当たり、建物と建物附属設備の区分(建物と一体に評価するものとして取り扱うべき造作と建物とは別に取り扱うべき造作の区分)は、旧耐用年数省令及び耐用年数省令の別表第一に建物附属設備として掲げられているか否かによって区分すべきである(所得税法施行令第129条、旧耐用年数省令及び耐用年数省令の第1条第1項参照)。そして、同表の「種類」欄において「建物附属設備」に分類されたもののうち「構造又は用途」欄に規定された内容と固定資産評価基準第2章第1節7に定める「建築設備」の内容とがほぼ同様であることに照らし、建物附属設備として区分される造作の取得価額が明らかではない場合には、固定資産評価基準における再建築費評点基準表に記載された当該造作に係る標準評点数に補正項目について定められた補正係数を乗じて得た数値に計算単位の数値を乗じて算出された再建築費評点数を求め、建築附属設備として区分される造作全体に係る再建築費評点数を合計し、これが建物等の全体の再建築費評点数に占める割合によって建物と建物附属設備の一体としての取得価額をあん分する方法により、それぞれの取得価額を計算するのが合理的であると解される。その際、建築時から取得時までの経年に応じた損耗等を考慮する必要があるところ、これについては、減価償却資産の償却費の計算の一環であることに照らし、所得税法第49条に規定するところに従うべきものと解するのが相当である。

B 本件d物件等

固定資産評価基準に基づいて算出された本件d物件等に係る部分別再建築費評点数は、別表7に記載のとおりである。これらの物件に関する耐用年数は、本件f物件以外の建物については、平成9年以前は60年、平成10年以後は47年であると認められ、本件f物件の建物については、平成9年以前は24年、平成10年以後は22年であると認められる。

建物附属設備については、各建物附属設備の「構造又は用途」ごとに区分した取得価額が不明である。そうすると、旧耐用年数省令及び耐用年数省令の別表第一の「種類」欄において「建物附属設備」に分類されたもののうち「構造又は用途」欄中の「前掲のもの以外のもの及び前掲の区分によらないもの」に区分すべきであり(耐用年数通達1−1−6参照。なお、耐用年数通達は、法人税についての耐用年数の適用等に関する取扱いを定めたものであるが、「所得税についての耐用年数の適用等に関する取扱いについて」(昭和45年6月4日付直審(所)22(例規)直法4−27国税庁長官通達)において、所得税についての耐用年数の適用等に関する取扱いにおいても、耐用年数通達に準じて取り扱う旨が定められている。)、かつ、これらの物件に設置された建物附属設備が電気設備、給水設備、衛生設備、ガス設備及びエレベーター等であって、その主要構造部分の材質が金属製のものであると推認されることに照らし、上記「前掲のもの以外のもの及び前掲の区分によらないもの」のうちの「主として金属製のもの」に区分するのが相当であって、その耐用年数は18年であると認められる。原処分庁による区分及び算定方法はこれと同旨であり、適切である。

C 本件h物件

請求人は、前記1の(4)のロのとおり、本件h物件の建物等を54,909,556円(消費税等の額に相当する金額を含む。)で購入したところ、当審判所の調査の結果によれば、本件h物件の前所有者は、建物及び本件給水ポンプを取得してから請求人に譲渡するまでの間の一定の損耗等を控除して申告していることが認められる。

そうすると、上記代金を、本件h物件の前所有者が同物件の建物等を取得してから請求人に譲渡するまでの間の一定の損耗等を控除した後の建物と建物附属設備である本件給水ポンプのいわゆる残存価額の比率によって建物と本件給水ポンプ(これは、旧耐用年数省令別表第一の「種類」が「建物附属設備」であるもののうち「構造又は用途」が「給排水又は衛生設備及びガス設備」に該当するものであるから、その耐用年数は15年とするのが相当である。)にあん分して、償却費の計算をすることが合理的であると認められる。原処分庁による区分及び算定方法はこれと同旨であり、適切である。

D 本件e物件

前記1の(4)のロのとおり、本件e物件は昭和55年に建築された非木造の建物であり、平成11年4月に請求人が購入したものであるところ、旧耐用年数省令別表第一に定められた建物附属設備に係る耐用年数が最長でも18年であることを踏まえると、本件e物件については、請求人が同物件を取得した時までの間に同物件の建物附属設備に係る耐用年数が既に経過し、償却費の額を必要経費に算入することができないことになる。そうすると、原処分庁が建物と建物附属設備を区分せず、建物に含めたまま一体として償却費を算定しても、請求人に有利な取扱いであることからすれば、不合理とはいえない。

E 請求人の主張の当否

請求人は、要するに、1減価償却費の計算における建物と建物附属設備の区分及び各取得価額の算定方法は、本件各物件について請求人が依頼した不動産鑑定士による評価額によるべきである、2固定資産評価基準の部分別再建築費評点数における建物等の区分のうち「仮設工事」及び「その他の工事」は、建物附属設備に区分されるべきである、3原処分庁が本件h物件の前所有者による違法な納税申告に基づいて建物等の区分を行うことは違法である、4本件h物件についてはk市評価資料に基づいて建物等を区分すべきである、5本件e物件に関する原処分庁の処理は違法であるなどと主張する。

しかしながら、上記1の点については、当審判所の調査の結果によっても、本件各物件の減価償却費の計算における建物と建物附属設備の区分及び各取得価額の算定方法について請求人が依頼した不動産鑑定士による評価額によることが合理的であるというべき根拠は何ら見出せない。上記2の点については、「仮設工事」とは建物の建築に当たり必要な準備工事等を、「その他の工事」とは建物の建築に当たり必要な木工事や金属工事等をそれぞれ指すものであり、建物の建築工事原価に含まれるものであるから、取得価額の算定に当たっては建物附属設備ではなく建物であるというべきである。上記3の点については、当審判所の調査の結果によれば、本件h物件の前所有者は建物と建物附属設備である本件給水ポンプを区分して納税申告をしていたことが認められ、主張の前提に誤りがある。上記4の点については、k市評価資料は、k市が、請求人から提出された資料(本件給水ポンプに相当する評点数が掲げられていないもの。なお、当該資料には、「私の持っている物件の一部ですが、一番近い物件は本件g物件です 本件h物件はシステムキッチン、給とうきもよいものを使っていますので20%以上になるのではないかと思います 消防 エアコン、インタフォン等もあります。」との請求人による書き込みがある。)だけに基づき、当該提出の翌月に、本件h物件の建築当時の再建築費評点数の記載から推測した結果を記載したものであることが認められ、こうした作成の経緯等に照らし、安易にその証明力を認めることはできない。上記5の点については、仮に請求人の主張を前提とするとしても、上記Dのとおり、原処分庁の認定以上に請求人が有利な取扱いを受けることができる状況が考えられないのであるから、その認定が違法であるとはいえない。

したがって、請求人の主張にはいずれも理由がない。

F 小括

以上により、本件各物件に係る建物等の取得価額を建物と建物附属設備に区分し、それぞれの取得価額を算定したところ、次のとおりである。

(A)本件d物件等

本件d物件等は、別表7のとおり、固定資産評価基準による家屋の部分別の再建築費評点数が存するところ、旧耐用年数省令及び耐用年数省令の別表第一の区分に照らせば、別表7の順号10「電気設備」ないし順号14「運搬設備」の各設備が建物附属設備に該当し、他の部分は建物に該当すると認められる。

また、建物と建物附属設備の区分計算に当たっては、再建築費評点数が建築時のものであり、建築時から請求人の取得時までの損耗等を見込んでそれぞれの取得価額を算出する必要があることから、本件d物件等の再建築費評点数について、建築時から請求人が取得するまでの経過月数(取得月は含まない。)に応じ、旧定額法に基づいて減価償却費相当額の損耗等が生ずるものとして、当該損耗等を算出したところ、別表8の「7再建築費評点数の損耗等」欄のとおりとなる。

以上により、請求人における本件d物件等の建物と建物附属設備の取得価額をそれぞれ算定したところ、別表9の「4取得価額」欄のとおりとなる。

(B)本件h物件

本件h物件は、平成2年7月に新築後、前所有者が、建物については平成8年11月に51,249,460円で、また、建物附属設備については、平成11年7月に840,000円でそれぞれ取得し、これらをいずれも平成14年12月に請求人へ譲渡しており、前所有者の取得時から請求人の取得時までの損耗等を見込んでそれぞれの取得価額を算出する必要がある。そこで、当該前所有者の取得価額について、前所有者の取得時から請求人が取得するまでの経過月数(取得月は含まない。)に応じ、旧定額法に基づいて減価償却費相当額の損耗等が生ずるものとして、当該損耗等を算出すると、別表10の「7前所有者取得価額の損耗等」欄のとおりとなる。

そして、以上を前提に本件h物件の建物と建物附属設備の取得価額をそれぞれ算定すると、別表11の「4取得価額」欄のとおりとなる。

(C)本件e物件

本件e物件は、請求人が取得した時点において既に建物附属設備の法定耐用年数を経過していることから、別表6の「本件e物件」欄の「5建物等の取得価額」欄のとおり、建物等の取得価額7,855,323円全額が建物の取得価額となる。

ヘ 本件各物件の建物等の減価償却費の額について

(イ)減価償却費の額の計算に当たり適用する償却方法及び耐用年数

本件各年分の減価償却費の額の計算に当たって適用する償却方法は、所得税法施行令第120条第1項、同令第120条の2第1項及び同令第123条の規定により、建物については、本件各物件のうち本件d物件は旧定率法、本件j3物件は取得が平成19年4月1日以後であることから定額法、その他の各物件は平成10年4月1日以降平成19年3月末までに取得されたものであることからいずれも旧定額法により、また、建物附属設備については、前記1の(4)のニのとおり、償却方法の届出がないことから、本件j3物件は定額法、その他の各物件(本件e物件を除く。)はいずれも旧定額法によることとなる。

また、本件各物件の減価償却費の額の計算に当たって適用する耐用年数は、別表12の「3適用する耐用年数」欄のとおり算出された年数となる。

(ロ)本件d物件の建物の減価償却費の額

A 当審判所の調査の結果によれば、本件d物件は、別表2の順号1の「建物の建築年月」欄及び「請求人の取得年月」欄のとおり、昭和56年8月に新築後、昭和63年6月に請求人が取得し、平成6年6月に貸付けの用に供するまでの間、請求人は同物件を居住の用に供していたことが認められる。

B 上記Aを前提に、所得税法施行令第135条及び同令第85条の規定に基づき、平成6年6月の不動産貸付けの開始時点における本件d物件の減価償却費の計算の基礎となる未償却残高を算出すると、建物は別表13−1の「6未償却残高」欄、建物附属設備は別表13−2の「6未償却残高」欄のとおりとなる。
 そして、前記1の(4)のニのとおり、請求人は、平成7年2月28日に、Q税務署長に対し、建物の償却方法を旧定率法とする届出書を提出しているから、所得税法施行令第123条第2項の規定により平成6年分以降の減価償却費の計算は、旧定率法により行うこととなり、以上に基づき同年分ないし平成24年分における建物の減価償却費を算定すると、別表14の「平成6年分」ないし「平成24年分」欄の各「6減価償却費の額」欄のとおりとなる。

(ハ)本件f物件の未償却残高

当審判所の調査の結果によれば、本件f物件の未償却残高を建物と建物附属設備に区分している原処分庁の主張額には誤りが認められた。

そこで、当審判所において、建物と建物附属設備の区分計算に当たっては、取得時から平成21年末までの損耗等を見込んで建物と建物附属設備の未償却残高を算出する必要があることから、本件f物件の再建築費評点数について、取得時から平成21年末までの経過月数に応じ、旧定額法に基づいて減価償却費相当額の損耗等が生ずるものとして、当該損耗等を算出したところ、建物については別表15−1の「7再建築費評点数の損耗等」欄のとおり、建物附属設備については別表15−2の「7再建築費評点数の損耗等」欄のとおりとなる。

また、請求人が取得した時までの再建築費評点数の損耗等は別表8の「本件f物件」欄の「7再建築費評点数の損耗等」欄のとおりであり、当該点数と取得時から平成21年末までの再建築費評点数の損耗等の点数の合計を本件f物件の再建築費評点数から減じた建物と建物附属設備の再建築費評点数の比で別表16の「平成21年分」欄の「8未償却残高」欄の未償却残高を建物と建物附属設備にあん分すると、別表17の「区分」欄の「A建物」及び「B建物附属設備」欄の各「5未償却残高」欄のとおりとなる。

(ニ)本件d物件、本件f物件、本件i物件及び本件g物件の建物附属設備の減価償却費の額

本件d物件の建物附属設備については平成16年分までの減価償却費の累計額が、本件f物件の建物附属設備については平成23年分までの減価償却費の累計額が、本件i物件の建物附属設備については平成22年分までの減価償却費の累計額が、本件g物件の建物附属設備については平成23年分までの減価償却費の累計額が、いずれもその取得価額の95%相当額に達していることが認められるため、所得税法施行令第134条第1項及び第2項の規定により、本件各年分の減価償却費の額は、それぞれ別表18−1ないし別表18−4の「7減価償却費の額」欄のとおりとなる。

(ホ)小括

以上により、本件各年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入される本件各物件の建物等の減価償却費の額を算出すると、別表19−1ないし別表19−3の各物件の「7減価償却費の額」欄のとおりとなる。

(2)主に通則法に関する争点

イ 争点1(本件各賦課決定通知書の理由附記に不備があるか否か。)について

(イ)主張

原処分庁 請求人
A 所得税法第155条第2項は、居住者の提出した青色申告書に係る年分の総所得金額等の更正をする場合には更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない旨規定しているところ、本件各処分1は総所得金額等の更正をするものではないから、当該条文の適用はない。 A 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)から本件各処分1に係る説明を受けていない上、本件各賦課決定通知書には税務調査に基づくとの文言もなく、本件各処分1に関する具体的な理由の記載もないため、本件各賦課決定通知書は所得税法第155条第2項の要件を欠いており、その理由附記に不備がある。
B 本件各賦課決定通知書には、当初期限内申告書が提出されていること、本件各修正申告書が平成26年2月26日に提出されたこと、及び過少申告加算税の額は本件各修正申告により納付すべきこととなる税額を基に算定していることが明示されており、また、通則法第65条第4項及び第5項に該当しないことも明示されている。
 したがって、行政手続法第14条第1項に違反せず、本件各賦課決定通知書の理由附記に不備はない。
B 仮に所得税法第155条第2項が適用されないとしても、本件各処分1は行政庁による不利益処分に該当するから、行政手続法第14条が適用される。
 そして、処分理由は、処分の相手方のみならず第三者においてもその記載自体から明らかとなるものでなければならないところ、本件各賦課決定通知書は、単なる根拠法規の摘記しかされておらず、その記載自体から処分理由が明らかとなるものではない。
 したがって、行政手続法第14条第1項に違反しており、本件各賦課決定通知書の理由附記には不備がある。

(ロ)判断

A 法令解釈

過少申告加算税の賦課決定処分は不利益処分であるから、通則法第74条の14第1項、行政手続法第14条第1項本文により、処分に当たってその理由を示さなければならない。同項本文は、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される(最高裁平成23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁参照)。

そうすると、過少申告加算税の賦課決定処分に当たって示すべき理由も、上記の趣旨を充足する程度に具体的な根拠を明らかにするものであることが必要であり、かつ、それで足りると解するのが相当である。

B 当てはめ

前記1の(4)のルの事実によれば、本件各賦課決定通知書からは、本件各処分1の根拠条文が通則法第65条第1項であること、過少申告加算税の計算の基礎となる税額が請求人において自ら計算した本件各修正申告書に記載の所得税額のとおりであること、賦課する過少申告加算税の額が当該所得税額に同項所定の割合を乗じて算出したものであることを読み取ることができるから、本件各処分1の骨子について原処分庁の恣意の抑制と請求人の不服申立ての便宜という趣旨を充足する程度に具体的な根拠を明らかにしているといえる。

したがって、本件各賦課決定通知書の理由附記に不備はない。

C 請求人の主張の当否

請求人は、本件各賦課決定通知書は所得税法第155条第2項の要件を欠いており、その理由附記に不備がある旨主張する。

しかしながら、所得税法第155条第2項は、青色申告書に係る総所得金額の更正の場合の規定であるところ、本件各処分1は請求人の提出した本件各年分の青色申告書に係る総所得金額の更正をしたものではなく、また、本件各賦課決定通知書は更正通知書ではないから、同項は適用されない。

したがって、請求人の主張には理由がない。

ロ 争点2(本件各修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでない」といえるか否か。)について

(イ)主張

請求人 原処分庁
A 調査に当たって本件調査担当職員が差し置いた「お尋ね」及び「税務調査の実施のお知らせ」と題する各文書は、いずれも通則法第74条の9第1項に規定する通知事項の記載が欠けており、税務署長の押印もないことから、法律上有効な税務調査依頼文書に該当しない上、「所得税の調査について」と題する文書は、請求人が、係属中の訴訟の判決言渡し後に修正申告を行うから当該修正申告に基づいて税務調査を行うように求めたにもかかわらず、原処分庁が何ら協議をすることなく来署依頼をしたものであるから、同条の9第2項にも違反する。なお、本件は通則法第74条の10の規定に基づく無予告調査が認められる事案ではない。
 また、「税務調査の実施のお知らせ」及び「所得税の調査について」と題する各文書には、帳簿書類等の提示がない場合は青色申告の承認が取り消される旨の脅迫文言が記載されており、公序良俗に反するから、民法第90条により無効である。
 以上のとおり、原処分庁の調査は違法又は無効な手続によるものである。
A 本件調査担当職員は、請求人に対して、再三にわたり、本件調査担当職員に連絡をするよう記載した文書を差し置いたほか、請求人に対して電話を掛け、留守番電話により本件調査担当職員に連絡をするよう依頼したにもかかわらず、請求人から連絡がなかったことから、通則法第74条の10の規定に基づき、事前通知を行わずに調査を開始した。
 また、「税務調査の実施のお知らせ」及び「所得税の調査について」と題する各文書の記載内容は、本件調査担当職員が、請求人に対して帳簿書類等の提示をするよう依頼するとともに、所得税法第150条《青色申告の承認の取消し》の規定に基づく青色申告の承認の取消処分に係る説明を記載したものであり、公序良俗に反するものではない。
 以上のとおり、原処分庁の調査は違法又は無効な手続によるものではなく、適法に行われている。
B 通則法第65条第5項に規定する「調査」とは、適法な調査を意味すると解すべきところ、上記Aのとおり、原処分庁の調査は適法ではないから、本件各修正申告書の提出は、同項に規定する「調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。 B 上記Aのとおり、原処分庁の調査は適法であり、請求人がその進行状況等を認識した上で本件各修正申告書を提出したことは明らかであるから、本件各修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでないとき」には該当しない。

(ロ)判断

A 認定事実

原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(A)本件調査担当職員は、平成25年10月9日に請求人の本件各年分の所得税に関する調査指令を受け、同日から同月25日までの間、平成20年付各処分及び平成23年付各処分に係る各取消訴訟の進行状況や主張内容との整合性等と対比しつつ、本件各当初申告に係る申告書等の記載内容等について検討するなど、今後の具体的な調査の方針を定めるための準備調査を行った。

(B)本件調査担当職員は、平成25年10月30日以降、数日おきに繰り返し請求人の納税地及び住民票登録地(以下「本件住所地等」という。)に出向いて「お尋ね」と題する文書を差し置き、又は請求人の留守番電話に伝言を残すなどして請求人との接触を試みたが、請求人からは全く応答がなかった。

(C)そこで、本件調査担当職員は、平成25年11月29日、実地の調査のため、本件住所地等に臨場したが、不在であったため実地の調査をすることができなかった。このため、本件調査担当職員は、請求人の本件各年分の所得税の調査を開始する旨、帳簿書類等の提示がない場合は青色申告の承認が取り消される場合がある旨を記載した「税務調査の実施のお知らせ」と題する文書を差し置いた。

(D)本件調査担当職員は、上記調査の開始後、平成25年12月5日、同月17日及び平成26年1月16日にも本件住所地等に臨場したが、同様に不在であったため実地の調査をすることができなかった。そこで、本件調査担当職員は、現在調査を進めている旨、帳簿書類等の提示を求める旨、提示がない場合は青色申告の承認が取り消される場合がある旨を記載した「所得税の調査について」と題する文書を差し置いた。

(E)本件調査担当職員は、平成25年12月17日に本件会社の本店所在地(請求人の住民票登録地と同一地)に臨場したが、不在であったため、本件会社の請求人との取引内容及び取引額等について照会する旨の文書を本件会社に差し置いた。これに対し、本件会社は、平成26年1月9日、原処分庁に対し、照会内容や照会の必要性について種々の疑問点を挙げてこれに対する原処分庁の見解を求めるとともに、その回答を待って問題がないと判断できれば社内手続を経た上で調査に協力する旨を記載した文書を郵送した。

(F)本件調査担当職員は、平成25年12月及び平成26年1月、請求人及び本件会社が預金口座を開設する銀行に対し取引履歴等について照会し、また、平成26年1月、請求人及び本件会社名義の預金口座への入金履歴がある不動産仲介業者に対し、契約内容や入金の原因となった取引について照会し、それぞれ回答を得た。

(G)請求人は、平成26年1月23日、原処分庁に対し、平成20年付各処分の取消訴訟がT裁判所に係属中で未確定であることを指摘した上、S裁判所に係属中の平成23年付各処分の取消訴訟の判決言渡期日が迫っているので、その判決の内容に応じて本件各年分の所得税の修正申告書(本件各修正申告書)を提出する予定である旨記載した文書を郵送した。

(H)本件調査担当職員は、平成26年2月18日、本件住所地等に臨場したが、不在であったため、本件各年分の所得税の調査結果を説明するので同月21日に来署するよう依頼する旨記載した「所得税の調査について」と題する文書を本件住所地等に差し置いた。

(I)本件調査担当職員は、平成26年2月25日、本件住所地等に臨場したが、不在であったため、同月27日に来署するよう依頼する旨、今回も来署しなければ更正決定等通知書により調査結果を知らせることとなる旨を記載した「所得税の調査について」と題する文書を本件住所地等に差し置いた。

(J)請求人は、平成26年2月26日、本件各修正申告をした。

(K)請求人は、平成26年2月27日、諸般の事情を考慮して本件各修正申告をし、同年3月5日以降に請求人の納税地で実地の調査に応じることにした旨を記載した文書を郵送した。

(L)本件調査担当職員は、平成26年3月5日及び同月6日、請求人の納税地に臨場し、請求人から帳簿や証拠書類の提示を受けてこれを確認するなどして質問検査権を行使した。

(M)原処分庁は、平成26年3月11日、本件各処分1をした。

B 検討及び請求人の主張の当否

(A)以上によれば、本件各処分1に至るまでの間に、上記Aの(L)の実地の調査のほか、上記Aの(A)の準備調査や上記Aの(E)及び(F)の取引先調査が行われており、通則法第65条第5項に規定する「調査」があったと認められる。
 この点、請求人は、通則法第65条第5項に規定する「調査」とは、適法な調査を意味すると解すべきところ、原処分庁の調査は適法ではないから、本件各修正申告書の提出は、同項に規定する「調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する旨主張しているが、これは、本件においては、調査が実質的に不存在であるに等しいことから同項に該当するという趣旨であると解される。しかしながら、請求人は、無予告で実地の調査をしようとした点を違法と主張するのみで、それ以外の上記Aの(A)、(E)、(F)及び(L)などの調査全般に関する違法を主張するものではなく、本件において調査が存在していることは明らかである。なお、原処分庁が作成した文書が民法第90条に反する旨の請求人の主張は独自の見解であり相当でない。

(B)そして、上記Aの(C)ないし(J)のとおり、本件調査担当職員が請求人に調査を開始する旨や実施中である旨を記載した文書を差し置き、これに対して請求人が原処分庁に対し調査の在り方に対する意見を述べるなどの応答をしているのであるから、請求人は取引先調査が進行していることを認識していたと認められる。そして、請求人は、実地の調査を拒んできたものの、取引先調査が終了し、いよいよ更正決定等通知書により調査結果を知らせることとなる旨の通知を受けたことから、その翌日に本件各修正申告をしたものである。

(C)こうした事実関係からすると、本件各修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでない」とはいえないことは明らかである。

ハ 争点3(本件各当初申告が過少申告であったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。)について

(イ)主張

請求人 原処分庁
 請求人は、減価償却費の計算に当たり、土地と建物等の売買価額が区分されていない場合における取得価額の算定方法について、所得税法に具体的な規定がなく、最高裁判所の判例もないことから、国税庁、税務署長、国税不服審判所及び裁判所が正当な方法であると認めた不動産鑑定士による評価額を使ったあん分法を採用して計算し、本件各修正申告を行った。
 また、本件各当初申告の時点では平成20年付各処分の取消訴訟は判決が確定していなかったから、正しい申告をしなかったとはいえない。
 したがって、本件においては、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められる。
 通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」とは、法定申告期限内に正しい申告をしなかったことが真にやむを得ない事情によるものとされ、こうした納税者に過少申告加算税を課すことが不当又は酷になる場合を意味すると解される。
 本件において、本件各修正申告書に記載された減価償却費について、法定申告期限内に正しい申告をしなかったことが真にやむを得ない事情によるものとされる事情は認められない。
 したがって、本件各当初申告が過少申告であったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。

(ロ)判断

A 法令解釈等

過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。このような趣旨に照らせば、通則法第65条第4項に定める「正当な理由」があると認められる場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。

B 検討及び請求人の主張の当否

請求人は、本件各修正申告においては不動産鑑定士による評価額を使ったあん分法という正当な方法で計算している旨主張する。しかしながら、このような本件各当初申告と全く関係のない事情が、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情であるとはいえず、「正当な理由」の有無に影響を及ぼさないことは明らかである。

また、請求人は、本件各当初申告の時点で平成20年付各処分の取消訴訟の判決が確定していなかったから、正しい申告をしなかったとはいえない旨主張する。

しかしながら、前記1の(4)のリの(ハ)のとおり、請求人は、本件各当初申告において、減価償却費の計算に当たり土地と建物等を一体として計算をしているところ、平成20年付各処分の取消訴訟において争点とされていた取得価額の算定方法とはその内容が異なっており、当該訴訟の結果次第で本件各当初申告が正しいものになるという関係を見出すことができないから、平成20年付各処分の取消訴訟の判決が確定していなかったことをもって「正当な理由」があるということはできない。

したがって、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件各当初申告が過少申告であったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとはいえない。

ニ 争点4(本件各更正通知書の理由附記に不備があるか否か。)について

(イ)主張

原処分庁 請求人
 本件各更正通知書には、本件修繕費等や本件各物件の減価償却費が所得税法第37条第1項に規定する必要経費に算入されない根拠等とともに、原処分庁が各経費の額を算定した過程が個別、具体的に記載されており、請求人がその理由を理解し、不服申立てをすべきかどうかを判断するために十分なものである。
 また、本件各処分2の金額の算定過程等が明らかにされていれば、請求人がその当否を検討することは十分に可能であり、本件各更正通知書に根拠となる法令の記載がないことをもって更正の理由附記の制度目的が損なわれたとはいえない。
 したがって、所得税法第155条第2項及び行政手続法第14条第1項に違反しておらず、本件各更正通知書の理由附記に不備はない。
 本件各更正通知書には、「請求人が行った減価償却費の計算には誤りが認められます。」と記載されているだけで、請求人がした不動産鑑定士による評価額を使った減価償却費の計算が国税に関する法律のどの条項のどの事項でどのように誤っているか等の理由が記載されていない。
 また、本件各更正通知書のうち平成22年分及び平成23年分に係る本件コンサルティング委託料及び本件会計税務委託料については、不動産収入を得るために直接必要な業務の具体的な例示や、それ以外の業務を区分する基準等についての記載がない。
 したがって、所得税法第155条第2項及び行政手続法第14条第1項に違反しており、本件各更正通知書の理由附記に不備がある。

(ロ)判断

A 法令解釈等

所得税法第155条第2項は、更正に当たってその理由を示すことにより行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解され、その意味で行政手続法第14条第1項本文と軌を一にするものである。

そして、青色申告制度の下では法定の帳簿組織による正当な記載に基づく計算であれば当該記載を覆して更正することができないという特殊性に鑑み、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合においては、当該記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示するなどして具体的な理由を明らかにすべきであるが、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては、上記のような特殊性は妥当しないから、一般的な規定である行政手続法第14条第1項本文の場合と同様、上記の趣旨を充足する程度に具体的な根拠を明らかにする程度の理由が示されていれば足りると解するのが相当である。

B 当てはめ及び請求人の主張の当否

本件各処分2は、請求人の帳簿書類の記載自体を否認することなしにした更正である。

そして、前記1の(4)のルによれば、本件各更正通知書には、本件各敷金、本件修繕費、本件修繕積立金、本件リフォーム代金、本件j修繕積立金、本件コンサルティング委託料、本件会計税務委託料に分類した上、どのような事実関係を前提にどのような評価に結び付いて結論が導き出されたのかがそれぞれ簡潔に示されているし、減価償却費については、本件各物件の個別の事情を検討し、それぞれ異なる扱いがされている理由が具体的な根拠と共に示されているということができる。そして、本件各更正通知書には、その記載を前提とした計算表が付されており、税額の計算過程を一覧することができるものとなっている。本件の事実関係の下では、この程度の具体的な記載があれば、本件各処分2について原処分庁の恣意の抑制と請求人の不服申立ての便宜という趣旨を充足するものといえる。

請求人は、減価償却費、本件コンサルティング委託料及び本件会計税務委託料について、より詳細な理由を示すことが必要である旨を主張するが、以上のことから、請求人の主張には理由がない。

したがって、本件各更正通知書の理由附記に不備はない。

(3)本件各処分1の適法性

上記(2)のイないしハのとおり、本件各賦課決定通知書の理由附記に不備があるとはいえず、本件各修正申告書の提出は「調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものではないとき」に当たらず、請求人には本件各当初申告が過少申告であったことについて「正当な理由」があるとも認められないことから、通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づいて行われた本件各処分1はいずれも適法である。

(4)本件各処分2の適法性

イ 不動産所得の金額

本件各年分の不動産所得の金額は、次の(イ)から(ロ)及び(ハ)を控除した金額となり、別表20の「14不動産所得の金額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円となる。

(イ)総収入金額

上記(1)のイのとおり、本件賃借人2に係る敷金のうち96,312円及び本件賃借人3に係る敷金110,000円については、平成24年分の総収入金額に算入すべき金額である。そうすると、本件各年分の総収入金額は、別表20の「1総収入金額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円となる。

(ロ)必要経費の額

本件各年分の必要経費の額は、次のAないしDを合計した金額となり、別表20の「12必要経費の合計金額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成22年分が51,216,480円、平成23年分が56,614,070円、平成24年分が54,337,251円となる。

A 本件修繕費、本件修繕積立金、本件リフォーム代金及び本件j修繕積立金

上記(1)のロのとおり、本件修繕費、本件修繕積立金、本件リフォーム代金及び本件j修繕積立金の全額はいずれも本件各年分の必要経費に算入することはできないから、当該金額はそれぞれ減算され、本件各年分の修繕費の額は、別表20の「4修繕費」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成22年分が零円、平成23年分が915,300円、平成24年分が4,156,832円となる。

B 本件コンサルティング委託料及び本件会計税務委託料

上記(1)のハのとおり、本件コンサルティング委託料及び本件会計税務委託料の全額はいずれも本件各年分の必要経費に算入することができないから、当該金額はそれぞれ減算され、本件各年分の管理費(管理業務委託料)は、別表20の「8管理業務委託料」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成22年分が15,814,788円、平成23年分が16,114,488円、平成24年分が17,013,588円となる。

C 本件各物件の建物等の減価償却費

上記(1)のヘのとおり、原処分庁の計算誤りを、当審判所において改めて算出した結果、本件各物件の建物等の減価償却費の額は、別表19−1ないし別表19−3の「7減価償却費の額」欄のとおりであると認められるから、本件各年分については、別表20の「5減価償却費(建物等)」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成22年分が13,762,560円、平成23年分が12,469,977円、平成24年分が12,305,249円となる。

D 上記AないしC以外の必要経費の額

上記AないしC以外の本件各年分の必要経費の額は、それぞれ、別表20の2欄、3欄、6欄、7欄、9欄ないし11欄の「審判所認定額」欄のとおりとなる。

(ハ)青色申告特別控除の額

本件各年分の青色申告特別控除の額は、別表20の「13青色申告特別控除額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、いずれも650,000円である。

ロ 給与所得の金額

本件各年分の給与所得の金額は、いずれも別表21の本件各年分の「給与所得の金額」欄のとおりである。

ハ 雑所得の金額

平成22年分の雑所得の金額は、請求人が同年中に受け取った○○及び△△からの公的年金の収入金額から公的年金等控除額を控除した金額であり(所得税法第35条第3項、第4項)、平成23年分及び平成24年分の雑所得の金額は、いずれも別表21の「雑所得の金額」欄のとおりとなる。

ニ 総所得金額

本件各年分の総所得金額は、上記イないしハの合計額となり、別表21の「総所得金額」欄のとおり、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円となる。

ホ 所得控除の額

本件各年分の所得控除の額は、別表21の「所得控除額の計」欄のとおり、平成22年分が2,442,999円、平成23年分が2,618,900円、平成24年分が2,722,021円である。

ヘ 納付すべき税額

上記ニから上記ホを控除した課税総所得金額(1,000円未満切捨て)に基づき、本件各年分の納付すべき税額(100円未満切捨て)を算定すると、別表21の「納付すべき税額」欄のとおり、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円となる。

ト 過少申告加算税の額

本件各年分の納付すべき税額は、上記ヘのとおりであり、過少申告加算税の対象となる税額は、別表22の「加算税の対象となる税額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円となる。
 したがって、請求人の過少申告加算税の額は、別表22の「過少申告加算税の額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円となる。

チ 結論

上記ヘのとおり、平成23年分及び平成24年分の納付すべき税額は、平成26年3月14日付でされた平成23年分及び平成24年分の各更正処分の額をいずれも下回ることになるから、平成23年分及び平成24年分の各更正処分は、別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきであり、また、平成22年分の納付すべき税額は、同年分の更正処分の額と同額であるから、平成22年分の更正処分は適法である。
 また、上記トのとおり、平成23年分及び平成24年分の過少申告加算税の額は、平成26年3月14日付でされた平成23年分及び平成24年分の過少申告加算税の各賦課決定処分の額をいずれも下回ることになるから、平成23年分及び平成24年分の過少申告加算税の各賦課決定処分は、別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきであり、また、平成22年分の過少申告加算税の額は、同年分の過少申告加算税の賦課決定処分の額と同額であるから、平成22年分の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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4 その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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