(平成28年3月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

本件は、不動産の賃貸事業を目的とする組合の組合員であった審査請求人(以下「請求人」という。)が、当該組合の出資持分及び当該持分に係る組合員たる地位を譲渡し、当該譲渡による所得は総合課税の長期譲渡所得に該当するとして所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該譲渡は当該組合の財産である土地建物等の共有持分を譲渡したものであるから、当該譲渡による所得は租税特別措置法(以下「措置法」という。)第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第1項所定の分離課税の長期譲渡所得に当たるとして、更正処分等をしたことに対し、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2)関係法令等

別紙2のとおりである。

(3)基礎事実及び審査請求に至る経緯

次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。なお、審査請求(平成27年3月25日請求)に至る経緯は、後記ニで敷延するもののほか、別表1のとおりである。

イ D社は、平成○年○月○日、同社が所有するe市f町○−○の土地及び同番○所在の土地(以下、併せて「本件土地」という。)並びに本件土地上に存する家屋番号○番○の○の建物(なお、建物の種類はホテルである。)、駐車場設備及び什器備品(以下、当該建物、駐車場設備及び什器備品を併せて「本件建物等」といい、本件建物等と本件土地を併せて「本件土地建物等」という。)を組合財産として、E投資組合(以下「本件組合」という。)を組成し、組合契約において、D社を本件組合の業務を執行する組合員(以下「業務執行組合員」という。)と定めた。
 本件組合の業務執行組合員としてのD社は、同日、F社に対し、本件土地建物等を賃貸した。

ロ 請求人は、平成4年7月31日、D社との間で、D社から本件組合の総出資口数1,000口のうち○口の出資持分及び当該持分に係る組合員たる地位(以下、併せて「本件持分」という。)を代金○○○○円で譲り受ける旨の持分等譲渡契約を締結するとともに、本件組合の業務執行組合員としてのD社との間で、「E投資組合 投資組合契約」(以下「本件組合契約」という。)を締結した。
 本件組合契約には、大要、次の定めがある。

(イ)本件組合は、本件土地建物等を、ホテル事業を営むF社に賃貸し、その収取した賃料を組合員に分配することなどを目的とする。

(ロ)請求人は、本件組合契約の締結と同時に本件組合の組合員となる。本件組合の組合員は、請求人を含めD社との間で本件組合契約と同旨の組合契約を締結した当事者をもって構成されるものとし、業務執行組合員とその他の組合員(以下「一般組合員」という。)とから成るものとする。組合員は、D社を業務執行組合員に選任するものとする。

(ハ)本件組合の存続期間は、平成○年○月○日から平成○年○月○日までとする。

(ニ)本件組合は、組合員から、総出資口数1,000口、総出資額金○○○○円の出資を受けるものとする。出資額の単位は、1口金○○○○円とし、請求人は、出資口数○口、金○○○○円の出資をするものとする。

(ホ)組合員の本件組合に対する出資持分は、組合員の出資額の全組合員の出資額合計に対する割合とする。

(ヘ)組合員は、組合財産及び組合債務を、その持分に応じて所有及び負担するものとし、本件組合の事業の結果生じた収入及び費用並びに損失を、その持分に応じて配分を受けるものとする。
 組合員は、配分を受ける資産、負債、収入、支出等については、所得の計算上、組合員が自然人である場合は、所得税基本通達36・37共−20の(1)の方法により計算するものとする。

(ト)業務執行組合員は、本件土地建物等の賃貸借に基づいて収受する賃料(月額)のうちから組合員の出資口数1口につき月額金3,000円の割合による金額を、本件建物等の改良、補修(大改修を含む。)に充てる改良補修積立金として、組合財産中から分別して積み立て、管理するものとする。
 また、業務執行組合員は、本件組合契約締結時、上記の改良、補修に充てる資金として、組合員から出資口数1口につき金100,000円の金員の支払を受け、その支払を受けた金員を改良補修積立金として積み立て、管理するものとする。

(チ)一般組合員は、本件組合設立後7年を経過した後は、業務執行組合員の承諾を得て、その持分及びその持分に係る組合員たる地位につき、譲渡、担保設定その他の処分をすることができる。

ハ 請求人は、平成24年7月31日、D社との間で、本件組合の業務執行組合員としてのD社の承諾の下、D社に本件持分を代金○○○○円(うち消費税等○○○○円)で譲渡する旨の持分等譲渡契約(以下「本件譲渡契約」という。)を締結し、D社は、同日、請求人に対し、当該譲渡代金から固定資産税等の精算金を控除した○○○○円を支払った。

ニ 請求人の申告内容等

(イ)請求人は、平成24年分以前の各年分において、本件組合の事業から分配を受けた収入を請求人の不動産所得の総収入金額に算入し、本件建物等に係る減価償却費を必要経費として控除して、各年分の所得税の確定申告をした。そして、平成24年分の所得税の確定申告書に添付された所得税青色申告決算書(不動産所得用)には、本件持分の譲渡日における本件建物等の未償却残高(取得価額から各年分の必要経費に算入された償却費の額の累積額を控除した価額)は○○○○円である旨の記載がある。
 なお、本件建物等に係る各年分の減価償却費は、旧定率法により計算されているが、請求人は、原処分庁に対し、本件建物等の償却方法を旧定率法により行う旨の書面による届出をしていない。

(ロ)請求人は、本件持分の譲渡により、総合課税の長期譲渡所得の金額の計算上○○○○円の損失の金額が生じたとして、当該損失の金額を他の所得から控除して総所得金額を計算し、別表1の「確定申告」欄のとおり、平成24年分の所得税の確定申告をした。
 上記確定申告に係る申告書に添付された譲渡所得の内訳書(確定申告書付表)【総合譲渡用】には、本件持分の譲渡価額が○○○○円、取得費が○○○○円である旨の記載がある。

(ハ)原処分庁は、本件持分の譲渡は、組合財産である本件土地建物等に対する本件持分相当の共有持分を譲渡したものであるから、当該譲渡による所得は分離長期譲渡所得に該当するとした上で、本件建物等の取得費を上記(イ)の譲渡日現在の未償却残高○○○○円に基づいて計算すると、本件持分の譲渡により○○○○円の利益が生じているなどとして、平成26年10月28日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、平成24年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(ニ)請求人は、上記(ハ)の各処分について、平成26年11月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成27年2月25日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり、その一部を取り消す旨の異議決定をした(以下、異議決定を経た後の当該各処分を、それぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。)。
 異議決定においては、本件建物等の減価償却費を法定償却方法である旧定額法により計算すると、本件持分の譲渡日における本件建物等の未償却残高は、別表2の「取得費(未償却残高)」欄の「異議決定」欄のとおり、○○○○円となり、本件持分の譲渡収入金額○○○○円から取得費として本件土地の取得価額○○○○円と本件建物等の未償却残高(ただし、器具備品に係る未償却残高○○○○円は不動産所得の金額の計算上必要経費に算入するため、これを控除した○○○○円)の合計額○○○○円を控除すると、○○○○円の損失が生じるとされている。そして、この損失の金額は、本件持分以外の土地の譲渡に係る譲渡益の金額○○○○円から差し引かれ、結果として、請求人の平成24年分の所得税における分離長期譲渡所得の金額は、○○○○円であるとされている。

トップに戻る

2 争点

(1)争点1 原処分の取消事由となる調査手続の違法が認められるか否か。

(2)争点2 本件持分の譲渡による所得が分離長期譲渡所得に当たるか否か。

トップに戻る

3 主張

(1)争点1 原処分の取消事由となる調査手続の違法が認められるか否か。

請求人原処分庁
原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当者」という。)には、原処分に係る調査時に、不適切な発言等による対応が見られたほか、調査着手前において税法上の取扱いについて何ら検討がされていないとも思われる対応が見られ、その結果、おおむね1年5か月もの長期にわたる税務調査となった。
 このような税務調査は、国税通則法(以下「通則法」という。)改正に伴う調査手続の変更による調査内容の透明化、迅速化の趣旨にも反しており、納税者にとって多大な迷惑と精神的苦痛を与える違法なものである。
 したがって、違法な税務調査に基づいて行われた原処分もまた違法であり、取り消されるべきである。
次の理由から、本件において調査手続に原処分の取消事由となるべき違法はない。

イ 税務調査における質問検査の範囲、程度等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要性と相手方の私的利益との比較衡量において、社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられると解されており、質問検査の際、どの段階で調査等を打ち切って更正処分を行うかについては、実定法に何らの定めもないことから、質問検査権の制度の趣旨、目的に反しない限りにおいて、原処分庁に裁量が認められていると解されている。

ロ 本件調査担当者は、請求人及び関与税理士に対し、実地の調査を行う旨の事前通知を行い、そして、請求人から調査結果の説明を受けることの同意を受けた関与税理士に対し、調査結果の説明を行っており、本件における調査手続は、通則法の規定に基づき適切に行われている。

(2)争点2 本件持分の譲渡による所得が分離長期譲渡所得に当たるか否か。

原処分庁請求人
本件持分の譲渡による所得は、次の理由から、分離長期譲渡所得に当たる。 本件持分の譲渡による所得は、次の理由から、分離長期譲渡所得ではなく、総合課税の長期譲渡所得に当たる。

イ 本件組合は、民法上の組合(以下「任意組合」という。)であることから、本件持分の譲渡の直前の本件組合の財産である本件土地建物等については、民法第668条の規定及び本件組合契約第15条第1項の定めにより、組合員が、それぞれの持分に応じて所有するものと認められる。
 そうすると、本件持分の譲渡は、請求人が本件持分に応じて所有する本件組合の財産である所有期間が5年を超える土地及び建物等の譲渡とみるのが相当である。

ロ なお、本件組合契約第19条に基づいて、改良補修積立金が組合の財産として積み立てられていると考えられるところ、請求人の本件持分の譲渡は、一般組合員による持分の全部譲渡であるから、本件組合契約第25条《組合員の脱退》第4号及び第27条《脱退組合員の持分及び責任》第1項の定めにより、請求人に対して上記改良補修積立金を含む組合財産の払戻しは行われない。したがって、中古マンションの譲渡に伴う修繕積立金のケースのように、上記改良補修積立金を含む組合財産の払戻しは行われず、また、本件譲渡契約に係る契約書上もこれを譲渡代金に含める又は譲渡代金とは別途精算する旨の約定もないことから、譲渡所得の金額の計算上収入金額とすべき金額には影響しない。

イ 本件持分の価額は、単に不動産等としての価値ではなく、収益性や安定性を主要要因として「組合員としての地位」たる資産の価値とするのが合理的である。

ロ ところで、組合の出資持分ないし組合員たる地位の譲渡の取扱いについては、現行の所得税法には明記されておらず、個別的な法律における手当てもないところ、匿名組合の組合員の地位(持分)の譲渡については国税不服審判所の平成14年7月1日付裁決で総合課税の譲渡所得であるとの取扱いが示され、また、平成17年に制定された有限責任事業組合に関する法律の適用を受ける有限責任事業組合(LLP)の持分の譲渡も、株式等の分離課税として取り扱わず総合課税の譲渡所得として取り扱うものと、請求人は理解している。

ハ 本件組合は、法形式上は任意組合ではあるが、請求人は、業務執行組合員としてのD社と個別に本件組合契約を締結して組合員となったこと、本件組合の他の組合員と相互に共同経営する意思が存するとは認められないこと、本件組合の財産のうち本件土地建物等は、業務執行組合員が自己名義にて登記し、各組合員の自由裁量が一切認められる余地がないことなどから、実態は匿名組合としての性質を有しているといえ、また、所得税基本通達36・37共−19の注書において、任意組合等とは、任意組合契約、投資事業有限責任組合契約及び有限責任事業組合契約により成立する組合であるとされていることから、本件組合は、投資事業有限責任組合、有限責任事業組合としての性質も有していると解される。
 このことから、本件持分の譲渡に係る所得は、上記ロと同様に取り扱うのが相当である。

トップに戻る

4 判断

(1)争点1 原処分の取消事由となる調査手続の違法が認められるか否か。

イ 法令解釈

通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解され、調査手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなど重大な違法を帯び、何らの調査なしに更正処分をしたに等しいとの評価を受ける場合に限り、その違法が処分の取消事由となり得るものと解するのが相当である。

ロ 判断

請求人は、本件調査担当者には不適切な発言等が見られたほか、調査着手前において税法上の取扱いについて何も検討がされていないと思われる対応が見られ、その結果、おおむね1年5か月もの長期にわたる税務調査となったものであり、このような税務調査は、納税者にとって多大な迷惑と精神的苦痛を与える違法なものであるから、かかる違法な税務調査に基づいて行われた原処分は取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人が調査手続の違法を主張する法的根拠は明らかでなく、また、仮に請求人が主張するような本件調査担当者の対応等があったとしても、それらの事情をもって、調査手続が重大な違法を帯び、何らの調査なしに更正処分をしたに等しいとの評価を受けることにはならないというべきである。そして、当審判所の調査の結果によるも、原処分に係る調査手続が上記のような重大な違法を帯びることをうかがわせるような事情は認められない。
 したがって、原処分の取消事由となる調査手続の違法があるとは認めることができない。

(2)争点2 本件持分の譲渡による所得が分離長期譲渡所得に当たるか否か。

イ 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ)本件組合の業務執行組合員としてのD社が作成した本件組合の出資概要書には、各組合員は、その出資口数(出資口数1口当たり1,000分の1の割合)に応じて、本件土地建物等に対し所有権持分を有し、これを合有する旨の記載がある。

(ロ)本件組合の業務執行組合員としてのD社が請求人に対し発行した平成4年7月31日付の「持分証」と題する書面には、本件土地建物等に対し、請求人が1,000分の○の持分を有することを証する旨の記載がある。

(ハ)本件持分の譲渡日である平成24年7月31日時点の本件組合の組合財産(以下「本件組合財産」という。)として、本件土地建物等以外に、上記1の(3)のロの(ト)の改良補修積立金として積み立てられた○○○○円の現金及び預金(以下「本件現預金」という。)が存在し、本件現預金について、上記1の(3)のハの譲渡代金と別に精算された事実はない。

ロ 判断

(イ)本件組合は任意組合であるところ、民法第668条の規定により、本件組合財産は、総組合員の共有に属し、上記1の(3)のロの(ヘ)並びに上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、本件組合の各組合員は、本件組合財産に対し、その出資価額の割合に応じて持分を有する。
 上記のような本件組合財産に対する持分は、本件組合の出資持分及び組合員たる地位である本件持分と不可分一体のものであるから、本件譲渡契約による本件持分の譲渡は、本件持分が表象する本件組合財産に対する持分の譲渡という性格を有するものというべきである。
 そして、上記イの(ハ)のとおり、本件持分の譲渡日である平成24年7月31日時点の本件組合財産は、本件土地建物等及び本件現預金であったところ、本件土地建物等に対する請求人の持分は、措置法第31条第1項に規定する「土地若しくは土地の上に存する権利又は建物及びその附属設備若しくは構築物」に該当することは明らかであるから、その譲渡による所得は分離長期譲渡所得に当たる。
 他方、上記イの(ハ)のとおり、本件現預金について、上記1の(3)のハの譲渡代金と別に精算された事実はないことからすると、本件現預金に対する請求人の持分についても、本件譲渡契約による譲渡の対象に含まれているものと認められるところ、かかる本件現預金に対する請求人の持分は、資産価値の増加益(キャピタル・ゲイン)を生ずべき資産ではないことから、その譲渡の対価は、各種所得の金額の計算上、収入金額又は総収入金額に算入することはできない。
 なお、上記1の(3)のイのとおり、本件組合の事業が本件組合財産を構成する本件土地建物等の賃貸であることから、本件組合の出資持分及び組合員たる地位自体に独自の財産価値があるとはいえず、本件持分の財産価値はもっぱら本件組合財産に対する持分の財産価値であり、本件譲渡契約に定める譲渡代金○○○○円は、その全額が本件組合財産に対する持分の譲渡の対価であると認められる。
 以上によれば、本件譲渡契約に定める譲渡代金○○○○円のうち、本件現預金に対する請求人の持分の譲渡の対価と認められる同持分相当額の○○○○円(上記イの(ハ)の○○○○円に請求人の出資価額の割合である1,000分の○を乗じて算出される。)については、譲渡所得の課税対象となる資産の譲渡による所得に当たらないが、その余の○○○○円については、本件土地建物等に対する請求人の持分の譲渡の対価として、分離長期譲渡所得の収入金額に当たるものというべきである。

(ロ)これに対し、請求人は、本件持分の価額は、単に不動産等としての価値ではなく、収益性や安定性を主要要因とする「組合員としての地位」たる資産の価値とするのが合理的である旨主張するが、上記(イ)で述べたとおり、本件持分の出資持分及び組合員たる地位と本件組合財産に対する持分とは不可分一体のものであるから、本件持分の譲渡をもっぱら組合員たる地位の譲渡と捉えることはできず、かつ、本件譲渡契約に定める譲渡代金は本件組合財産に対する持分の譲渡の対価であるから、請求人の主張は採用することができない。
 また、請求人は、本件組合は、匿名組合、投資事業有限責任組合、有限責任事業組合としての性質も有しているから、匿名組合の組合員たる地位の譲渡に関する過去の裁決例における結論等と同様に、本件持分の譲渡に係る所得を、総合課税の譲渡所得と取り扱うべきである旨主張するが、もとより本件組合は任意組合であって匿名組合等ではなく、匿名組合等の性質を有すると認めるべき事情も見当たらないから、匿名組合等の持分の譲渡に関する議論を本件に当てはめることはできず、請求人の主張は採用することができない。

(ハ)一方、原処分庁は、本件組合契約の定めにより、中古マンションの譲渡に伴う修繕積立金のケースのように本件現預金を含む組合財産の払戻しは行われないこと、また、本件譲渡契約上も、本件現預金を譲渡代金に含める又は譲渡代金とは別途精算する旨の約定はないことから、本件現預金の存在は、譲渡所得の金額の計算上収入金額とすべき金額には影響しない旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)で述べたとおり、本件譲渡契約による譲渡の対象には本件現預金に対する請求人の持分も含まれているものと認められ、同契約が定める譲渡代金の中には、本件現預金に対する請求人の持分の譲渡の対価が含まれているというべきであって、当該対価は譲渡所得の課税対象となる資産の譲渡による所得に当たらないから、原処分庁の主張は採用することができない。

(3)譲渡所得の金額について

以上の判断を基に請求人の平成24年分の所得税における分離長期譲渡所得の金額を計算すると、以下のとおりとなる。

イ 本件持分の譲渡に係る収入金額

本件持分の譲渡代金のうち、本件土地建物等の譲渡の対価として譲渡所得の金額の計算上収入金額に算入すべき金額は、上記(2)のロの(イ)のとおり、○○○○円となる。

ロ 本件持分の譲渡に係る収入金額から控除すべき取得費の額及び譲渡に要した費用の額

上記1の(3)のニの(イ)のとおり、請求人は、本件建物等の償却方法を旧定率法により行う旨の届出をしていないことから、所得税法施行令第125条第1号イの規定により、本件建物等の償却方法は旧定額法によることとなる。そうすると、譲渡所得の金額の計算上控除すべき本件土地及び本件建物等の取得費は、上記1の(3)のニの(ニ)のとおり、○○○○円となり、他に取得費及び譲渡費用は認められない。

ハ 譲渡所得の金額

上記イの収入金額○○○○円から上記ロの取得費の額○○○○円を控除すると、○○○○円の損失が生じることとなる。
 この損失の金額は、上記1の(3)のニの(ニ)のとおり、本件持分以外の土地の譲渡に係る譲渡益の金額○○○○円から差し引くこととなり、請求人の平成24年分の所得税における分離長期譲渡所得の金額は、○○○○円となる。

(4)原処分について

イ 本件更正処分について

上記(3)のとおり、請求人の平成24年分の所得税における分離長期譲渡所得の金額は○○○○円となり、本件更正処分における分離長期譲渡所得の金額を下回ることとなるから、本件更正処分は、その一部を別紙1の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

ロ 本件賦課決定処分について

上記イのとおり、本件更正処分の一部が取り消されることに伴い、過少申告加算税の計算の基礎となる税額は○○○○円となるところ、この税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そうすると、請求人の平成24年分の所得税に係る過少申告加算税の額は、○○○○円となり、本件賦課決定処分の額を下回ることとなるから、本件賦課決定処分は、その一部を別紙1の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(5)その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る