(平成28年5月20日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、相続税の申告をした審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁所属の調査担当職員による調査を受けて生命保険金等の申告漏れを指摘され、修正申告をしたところ、原処分庁が、丸1当該修正申告に基づき新たに納付すべきこととなった税額を基礎として重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分をするとともに、丸2相続税法第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》第5項の規定の適用により、当該修正申告に係る同条第1項所定の配偶者の税額軽減額が減少する旨の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をしたことから、請求人が、丸1については重加算税の賦課決定処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求め、丸2については更正処分及び重加算税の賦課決定処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

 関係法令の要旨は、別紙2のとおりである。

(3) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

  1. イ 請求人の夫であるD(以下「本件被相続人」という。)は、平成24年9月○日に死亡し、同人に係る相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
     本件相続の相続人は、配偶者である請求人、長女であるE及び二女であるFの3名である。
  2. ロ 本件被相続人は、生前、別表1のとおり、被保険者を本件被相続人、受取人を請求人とする合計11口の生命保険契約を締結していた。
     請求人は、本件被相続人の死後、上記各生命保険契約に係る各死亡保険金(以下「本件各保険金」という。)について自ら支払請求手続をとり、別表1の「受取年月日」欄記載の各日に、「受取金額」欄記載の各保険金を受領した。
  3. ハ 請求人は、E及び同人の夫が経営するG社の経理担当者であるHの補助を受けて本件相続に係る相続税の申告書を作成し、これを法定申告期限内である平成25年7月3日に原処分庁に提出し、別表2の「当初申告」欄のとおり、本件相続に係る相続税の申告をした(以下「本件当初申告」といい、その申告書を「本件当初申告書」という。)。
     本件当初申告書の「生命保険金などの明細書」及び「相続税がかかる財産の明細書」には、本件各保険金のうち、別表1の順号1ないし4の各生命保険金(以下「本件各申告保険金」という。)が記載されていたが、別表1の順号5ないし11の各生命保険金(以下「本件各無申告保険金」という。)は記載されていなかった。
  4. ニ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、平成26年7月から同年12月にかけて、本件相続に係る相続税の調査を実施し、請求人に対し、本件当初申告における本件各無申告保険金及び生命保険契約の権利等の申告漏れを指摘した。
     そして、調査担当職員は、平成26年12月16日、請求人の関与税理士(なお、当該税理士は、調査段階から関与したものであり、本件当初申告書の作成には関与していない。)に対し、調査結果の内容の説明をした上、修正申告を勧奨したところ、請求人は、平成27年1月23日、申告漏れを指摘された財産を相続税の課税価格に算入して、別表2の「修正申告」欄のとおり、本件相続に係る相続税の修正申告をした(以下「本件修正申告」という。)。
     請求人は、本件修正申告に基づき新たに納付すべきこととなった税額について、相続税法第19条の2第1項所定の配偶者の税額軽減の特例を適用している。
  5. ホ 原処分庁は、平成27年3月5日付で、請求人が、丸1本件各無申告保険金が相続税の税額の計算の基礎となる財産であることを十分かつ正確に認識していたこと、丸2Eから本件当初申告書の作成に当たって本件被相続人の死亡に伴い受領した生命保険金について質問を受けた際、本件各無申告保険金の存在を明らかにしなかったこと、丸3本件各無申告保険金が記載されていない遺産分割協議書及び本件当初申告書について、本件各無申告保険金の漏れを指摘することなく署名押印していることなどから、請求人は、本件各無申告保険金の存在を隠ぺいしたところに基づき本件当初申告をしたと認められるとして、別表2の「賦課決定処分」欄のとおり、本件修正申告に基づき新たに納付すべきこととなった税額のうち、本件各無申告保険金に係る税額を基礎として、重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分1」という。)をする(なお、その他の部分については過少申告加算税の賦課決定処分をしているが、当該処分は本件審査請求の対象となっていない。)とともに、上記事実は相続税法第19条の2第5項に規定する隠蔽仮装行為に基づき、申告書を提出している場合に該当するから、本件各無申告保険に係る税額について同条第1項所定の配偶者の税額軽減を受けることはできないとして、同表の「更正処分等」欄のとおり、相続税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分(以下、順に「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分2」という。)をした。
  6. ヘ 請求人は、原処分を不服として、平成27年4月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月7日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
  7. ト 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成27年7月30日に審査請求をした。

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2 争点

  1. (1) 争点1 調査手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か。
  2. (2) 争点2 請求人が本件各無申告保険金を本件当初申告の対象に含めなかったことは、課税要件事実を隠ぺい、仮装したところに基づく過少申告であるか否か。

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3 争点1(調査手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か。)について

(1) 主張

請求人 原処分庁

 請求人は、調査担当職員から、本件の相続税について、重加算税を賦課するとの調査結果の説明を受けたものの、その際、調査担当職員は、「判例がある。」と述べるのみで、重加算税が賦課される理由について、判例や事務運営指針を踏まえた請求人を納得させるだけの具体的な説明をしなかった。
 したがって、原処分庁による調査結果の内容の説明は、通則法第74条の11第2項の規定に違反しており、原処分を取り消すべき違法がある。

 調査結果の説明の際に、判例等について説明をしなくとも、通則法第74条の11第2項の規定に違反することはない。
 したがって、原処分庁が行った調査結果の内容の説明には、原処分を取り消すべき違法はない。

(2) 判断

  1. イ 法令解釈
     通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定している。
     しかし、同章の規定に反する調査が行われたことが課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、単に調査手続に違法があることのみをもって課税処分の取消事由となるものではないと解される。
     もっとも、通則法が、同法第24条《更正》の規定による更正処分等について、「調査により」行う旨規定していることからすると、課税庁が何らの調査なしに課税処分を行った場合や、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続(以下「証拠収集手続」という。)に重大な違法があり、何らの調査なしに課税処分を行ったに等しいとの評価を受けるような場合には、例外的に、当該調査手続の違法が課税処分の取消事由となるものと解されるが、他方で、証拠収集手続に影響を及ぼさない手続の違法は、上記の原則どおり、課税処分の取消事由となるものではないというべきである。
  2. ロ 検討
     請求人は、原処分に関し、調査担当職員から、重加算税を賦課する理由について請求人を納得させるだけの具体的な説明がなかったことから、同職員の調査結果の内容の説明は通則法第74条の11第2項の規定に違反しており、原処分を取り消すべき違法がある旨主張する。
     しかしながら、上記イのとおり、証拠収集手続に影響を及ぼさない手続の違法は課税処分の取消事由とはならないところ、通則法第74条の11第2項に規定する調査結果の内容の説明は、調査の終了の際の手続であって、証拠収集手続そのものでないことはもとより、証拠収集手続に影響を及ぼす手続でもないから、当該手続に仮に瑕疵があったとしても、原処分の取消事由となるものではなく、請求人の主張は失当である。
     その他、当審判所の調査の結果によるも、原処分に係る調査の手続に原処分を取り消すべき違法はない。

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4 争点2(請求人が本件各無申告保険金を本件当初申告の対象に含めなかったことは、課税要件事実を隠ぺい、仮装したところに基づく過少申告であるか否か。)について

(1) 主張

原処分庁 請求人

 以下の事実を総合考慮すれば、請求人が本件各無申告保険金を本件当初申告の対象から除外したことは、課税要件事実を隠ぺいしたところに基づくものであると認められる。

 本件各無申告保険金が本件当初申告の対象から漏れていたのは、課税要件事実の隠ぺい、仮装に基づくものではない。

イ 請求人は、別表1の本件各保険金を受領したこと及び本件各保険金が相続税額の計算の基礎とすべきことを認識していたと認められ、本件各無申告保険金を受け取っていた事実を隠ぺいする意図があったと推認される。

 また、請求人は、上記意図の下、E及びHに対し、受け取った保険金は同表の順号1から順号4以外にはない旨伝えた。

イ 請求人が、E及びHから、ほかに受け取った生命保険金はないかと聞かれたのに対し、「ない」旨答えたとしても、それは、本件相続に係る書類等の整理が十分にできておらず、請求人が相続税の申告書作成のためHに渡した書類等の中に本件各無申告保険金に関する書類等も含まれていると誤解していた上、保険金についての十分な記憶がなかったためであり、本件各無申告保険金を受領した事実を、故意に隠ぺいしようとしたものではない。

ロ 請求人は、調査担当職員に対し、本件各無申告保険金についても申告したと認識していた旨や申告漏れになった理由は分からない旨の虚偽の申述をした。

ロ 請求人が調査担当職員に対し、本件各無申告保険金についても申告したと認識していた旨や申告漏れになった理由は分からない旨申述したのは、虚偽の申述をしたものではなく、隠ぺい行為と評価されるものではない。

(2) 判断

  1. イ 法令解釈
     通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をすることについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
     したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、課税要件事実を隠ぺい、仮装したところに基づく過少申告と認めることができるものと解される。
  2. ロ 認定事実
     原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
    1. (イ) 請求人が各保険会社から受領した本件各保険金は、いずれも、J銀行d支店の請求人名義の普通預金口座(以下「本件預金口座」という。)への振込送金により支払われた。
    2. (ロ) 請求人は、Hに本件当初申告書の作成の補助を依頼するに当たり、同人に対し、銀行預金の残高証明書や生命保険金の支払明細書等の相続税の申告書の作成に必要な書類を交付したが、当該交付書類の中に、本件各無申告保険金に関する書類は含まれていなかった。
       また、請求人は、上記交付書類を確認したE及びHから、他に生命保険金はないのかと尋ねられたのに対し、請求人が受領した生命保険金は本件各申告保険金以外にはない旨答えた。
    3. (ハ) 調査担当職員は、平成26年8月19日に実施した本件被相続人宅への臨場調査の際、請求人に対し、同宅にある預金通帳等の提示を求めたところ、請求人は、本件預金口座に係る預金通帳を含む請求人が保管している預金通帳等を逡巡なく提示した。
      •  また、調査担当職員が、本件預金口座に係る預金通帳を確認した上、請求人に対し、本件当初申告において本件各無申告保険金が申告漏れとなっている旨を指摘したところ、請求人は当該事実を認めた。
    4. (ニ) 請求人は、平成26年10月2日、調査担当職員に対し、本件当初申告において本件各無申告保険金が申告漏れになっていた理由は分からず、申告をしたものと思っていた旨申述した。
  3. ハ 検討
    1. (イ) 原処分庁は、請求人が本件各無申告保険金を本件当初申告の対象に含めなかったことは、課税要件事実を隠ぺいしたところに基づく過少申告である旨主張する。
    2. (ロ) そこで検討するに、請求人は、上記1の(3)のロのとおり、本件各無申告保険金について自ら支払請求手続をとり、本件当初申告に先立ち各保険金を受領したものであるが、上記ロの(ロ)のとおり、本件当初申告書の作成を補助したE及びHに対し本件各無申告保険金の存在を伝えなかったことなどから、本件各無申告保険金が本件当初申告の対象から遺漏し、過少申告となったことは、原処分庁も指摘するとおりである。
    3. (ハ) しかしながら、上記ロの(イ)のとおり、請求人は、本件各無申告保険金をいずれも請求人名義の本件預金口座への振込送金により受領した上、同(ハ)のとおり、調査の際には、調査担当職員からの求めに応じて、本件預金口座に係る預金通帳等を逡巡なく提示しているのであって、本件各無申告保険金の発見を困難ならしめるような意図や行動はうかがわれない。また、上記ロの(ハ)のとおり、請求人は、調査担当職員から本件各無申告保険金の申告漏れを指摘されると、特段の抗弁をすることなく当該事実を認めており、上記1の(3)のニのとおり、修正申告の勧奨に応じて遅滞なく本件修正申告をしていることにも照らせば、請求人が、本件各無申告保険金を故意に本件当初申告の対象から除外したものとまでは認め難い。これらによれば、請求人が、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたものとは認めることができない。
      •  なお、原処分庁は、請求人は、調査の際に調査担当職員に対し虚偽の申述をした旨主張するが、本件各無申告保険金が申告漏れになっていたことに関する請求人の申述は上記ロの(ニ)のとおりであり、その内容に曖昧な点はあるものの、これをもって虚偽の答弁とまでは評価することができず、原処分庁の主張は採用することができない。
    4. (ニ) したがって、請求人が本件各無申告保険金を本件当初申告の対象に含めなかったことが、課税要件事実の隠ぺい、仮装に基づく過少申告であるとは認めることができない。
    5. (ホ) そして、これまで述べたことは、相続税法第19条の2第5項に規定する「隠蔽仮装行為」の有無についても同様に当てはまるから、本件修正申告に基づき新たに納付すべきこととなった税額に係る同条第1項所定の配偶者の税額軽減について、同条第5項の適用はない。

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5 原処分について

  1. (1) 本件賦課決定処分1について
    •  上記4のとおり、請求人が本件各無申告保険金を本件当初申告の対象に含めなかったことが、課税要件事実の隠ぺい、仮装に基づく過少申告であるとは認められない。
    •  もっとも、本件各無申告保険金が本件修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件賦課決定処分1は、別紙2のとおり、過少申告加算税相当額を超える部分の金額について違法であり、当該部分を取り消すべきである。
  2. (2) 本件更正処分及び本件賦課決定処分2について
    •  上記4のとおり、本件修正申告に基づき新たに納付すべきこととなった税額に係る相続税法第19条の2第1項所定の配偶者の税額軽減について、同条第5項の適用はないから、本件更正処分及び本件賦課決定処分2は違法であり、いずれもその全部を取り消すべきである。

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6 その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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