(平成28年6月3日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人A、同D及び同E(以下、併せて「請求人ら」という。)が、不動産信託の受益者としての権利を譲渡し、当該譲渡が租税特別措置法(平成26年法律第10号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第31条の2《優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第2項第13号所定の優良住宅地等のための譲渡に該当するとして同条第1項に規定する特例(以下「本件特例」という。)を適用し、所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の申告をしたところ、原処分庁が、当該譲渡は同条第2項第13号に規定する「開発許可・・・を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地・・・の造成を行う法人・・・に対する土地等の譲渡」との要件を満たさず、本件特例の適用を受けられないことを理由に更正処分等をしたのに対し、請求人らが、その全部の取消しを求めた事件であり、争点は、当該譲渡の譲受人が開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う法人に当たるか否かである。

(2) 関係法令等

 関係法令等は、別紙2のとおりである。

(3) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 次の事実については、請求人らと原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

  1. イ 請求人らは、平成24年8月13日、信託業を営むF社(以下「本件受託者」という。)との間で、請求人らを委託者兼受益者、本件受託者を受託者として、請求人らが共有する別紙3の1記載の各土地(以下「本件各土地」という。)及び別紙3の2記載の各建物(以下、本件各土地と併せて「本件信託不動産」という。)につき、その管理・処分を目的として信託する旨の不動産管理処分信託契約(以下「本件信託契約」という。)を締結した。なお、本件信託不動産は、従前、審査請求人Aの父であるGが所有していたが、同人は平成24年3月○日に死亡し、同人の相続人である請求人らが相続により承継したものであり、平成25年1月1日において、Gが本件信託不動産を取得してからの期間が5年を超えていた。
     本件信託不動産について、平成24年8月13日、本件信託契約を原因とする請求人らから本件受託者に対する共有者持分全部移転登記及び信託登記(以下「本件信託登記」という。)がされた。
  2. ロ 請求人らは、平成25年5月17日、H社(以下「本件譲受人」という。)との間で、本件信託契約の受益者としての権利(以下「本件受益権」という。)を194,700,000円で売り渡す旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した(なお、本件売買契約において、本件受益権は、代金の授受と同時に請求人らから本件譲受人に移転するものと定められている。)。
  3. ハ 本件受託者は、平成25年○月○日、a市長に対し、本件各土地を開発区域とし、本件受託者を開発事業者とする都市計画法第29条第1項所定の開発行為の許可を申請し、a市長は、○月○日付で、本件受託者に対し、当該開発行為を許可した(以下「本件開発許可」という。)。
  4. ニ 本件譲受人は、平成25年6月28日、請求人らに対し、本件売買契約所定の代金を支払い、請求人らから本件受益権の移転を受けた。
     本件信託登記について、同日、受益者を請求人らから本件譲受人に変更する旨の受益者変更登記がされた。
  5. ホ 請求人らは、本件売買契約に基づく本件受益権の譲渡(以下「本件譲渡」という。)が措置法第31条の2第2項第13号所定の優良住宅地等のための譲渡に該当するものとして、本件譲渡について本件特例を適用し、別表の「確定申告」欄のとおり、法定申告期限内の平成26年3月17日に平成25年分の所得税等の確定申告をした(なお、所得税法第13条第1項の規定により、信託財産に属する資産及び負債は受益者が有するものとみなして所得税法の規定が適用されるから、本件譲渡により、本件受益権の目的となっている本件信託不動産が譲渡されたものとみなされる(所得税基本通達13−6参照)。そして、本件受益権の目的となっている本件信託不動産は、措置法通達31・32共−1の3、同共−1に定める分離課税とされる譲渡所得の基因となる資産であるから、本件譲渡による所得は、分離課税とされる譲渡所得となり、措置法第31条の規定その他の所得税に関する法令の規定が適用される。)。
  6. ヘ 原処分庁は、平成27年3月13日付で、本件譲受人は本件開発許可を受けていないので、本件譲渡は、措置法第31条の2第2項第13号に規定する開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う法人に対する土地等の譲渡に当たらず、本件特例の適用を受けられないことを理由に、別表の「更正処分等」欄のとおり、請求人らに対し、平成25年分の所得税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした(以下、順に「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。)。
  7. ト 請求人らは、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を不服として、平成27年5月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月6日付で、棄却の異議決定をした。
  8. チ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成27年9月7日に審査請求をした上、審査請求人Aを総代として選任し、同日、その旨を当審判所に届け出た。

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2 主張

原処分庁 請求人

 以下のとおり、本件譲受人は、措置法第31条の2第2項第13号に規定する開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う法人に該当しない。

 以下のとおり、本件譲受人は、本件開発許可を受けていたといえるので、開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う法人に該当する。

(1) 受託者の行為と受益者の行為が同一人格とみなされる根拠はない。

(2) 開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う法人とは、都市計画法第29条第1項に基づく開発許可を受けた者、又は同法第44条若しくは第45条に基づく開発許可の地位の承継を受けた者であることを要するところ、本件譲受人は、本件開発許可を受けておらず、また、都市計画法第44条又は第45条の規定による地位の承継も受けていないから、上記要件を満たさない。

(1) 信託法第16条第1項及び所得税法第13条第1項の各規定からすると、信託財産に関し、受託者の行為と受益者の行為は同一人格の行為とみなされる。

 したがって、本件受託者の本件開発許可を受けた地位は、信託財産である本件各土地に関し本件受託者と同一人格である本件譲受人も有するというべきである。

(2) 本件開発許可の許可権者であるa市長は、本件受託者と信託関係にあった本件譲受人が開発業者として十分に信用及び能力を有していることを考慮し、本件受託者と本件譲受人を実質的に同一のものとして開発許可の技術的要件(都市計画法第33条《開発許可の基準》第1項第12号及び第13号参照)を具備していると判断し、本件開発許可をしたものである。

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3 判断

(1) 本件特例の内容及び本件への当てはめ

  1. イ 措置法第31条の2第1項は、個人が、その有する土地等でその年1月1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡をした場合において、当該譲渡が同条第2項各号所定の優良住宅地等のための譲渡に該当するときは、当該譲渡に係る課税長期譲渡所得金額に対し課する所得税の額について一定の軽減措置を講じる旨規定し、同条第2項第13号は、当該軽減措置が適用される譲渡形態の一つとして、開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う個人又は法人(都市計画法第44条若しくは第45条に規定する開発許可に基づく地位の承継があった場合には、当該承継に係る被承継人である個人若しくは法人又は当該地位を承継した個人若しくは法人)に対する土地等の譲渡で、当該譲渡に係る土地等が当該一団の宅地の用に供される場合を規定している。
  2. ロ 本件譲受人が措置法第31条の2第2項第13号に規定する開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う法人に当たるかをみると、上記1の(3)のハのとおり、本件各土地について本件開発許可を受けたのは本件受託者であって本件譲受人ではなく、当審判所の調査の結果によると、本件開発許可について都市計画法第44条又は第45条に規定する開発許可に基づく地位の承継があった事実も認められないから、本件譲受人は、開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う法人に当たらない。
  3. ハ なお、本件特例は、個人が、長期間にわたって所有する土地等を、開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う者に対して譲渡した場合、優良住宅地の開発及び供給が促進されることから、そのような土地等の譲渡に対する所得税の負担を軽減し、そのような土地等の譲渡を行いやすくすることにより、優良な住宅地の開発及び供給の促進を図ろうとしたものであると解される。そして、かかる本件特例の趣旨に加え、もとより本件特例は本来課されるべき租税を政策的な見地から特に軽減するものであるから、租税公平主義に照らし、その解釈は条文の文言に即して厳格にされるべきであり、条文の文言を離れてみだりに拡張解釈や類推解釈をすることは許されないことにも鑑みれば、本件が対象土地に係る信託受益権の譲渡であり、開発許可を受けた者が受託者のために行為をすべき受託者であったという点を考慮したとしても、本件譲受人自身が開発許可を取得していない以上は、開発許可を受けた者に対する譲渡との要件を満たさないものとして、本件特例の適用を受けられないことはやむを得ないというべきである。

(2) 請求人らの主張について

  1. イ 請求人らは、信託法第16条第1項及び所得税法第13条第1項の各規定からすると、信託財産に関し、受託者の行為と受益者の行為は同一人格の行為とみなされることから、本件受託者の本件開発許可を受けた地位は、信託財産である本件各土地に関し本件受託者と同一人格である本件譲受人もこれを有する旨主張する。
     しかしながら、信託法第16条第1項は、信託財産の範囲を規定するものであるが、受託者の行為と受益者の行為を同一人格の行為とみなす旨を規定したものではない。
     また、所得税法第13条第1項は、信託の受益者は当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなして所得税を課税する旨の規定であるが、これも、受託者の行為と受益者の行為を同一人格の行為とみなす旨を規定したものではない(なお、同項の規定があるからといって、所得税の課税とは無関係の開発許可を受けた地位につき、信託の受託者が有するものを受益者が有するものとみなされるものではない。)。
     したがって、請求人らの上記主張は採用することができない。
  2. ロ 請求人らは、本件開発許可は、本件受託者と信託関係にある本件譲受人の信用及び能力を考慮して発付されたものであるから、本件開発許可に関し、本件受託者と本件譲受人は実質的に同一の客体と評価される旨主張する。
     しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、a市長による本件開発許可に係る審査の過程で、本件譲受人の信用及び能力が考慮された事実はそもそもない。そして、本件開発許可は飽くまで本件受託者を名宛人とするものであり、名宛人以外の者に対してその効力が及ぶものではないことからすれば、本件譲受人を本件開発許可の客体とみることはできない。
     したがって、請求人らの上記主張は採用することができない。
  3. ハ 小括
     以上によれば、本件譲渡は、措置法第31条の2第2項第13号に規定する開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う法人に対する土地等の譲渡に当たらず、本件特例の適用を受けることはできない。

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4 原処分について

  •  以上によれば、本件各更正処分は適法である。
     また、本件各更正処分に基づき納付すべきこととなった税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件各賦課決定処分は適法である。

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5 その他

  •  原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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