(平成28年9月8日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、スタイリスト業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税等については、事業所得の金額に誤りがあるとして更正処分等を、また、消費税等については、課税仕入れに係る帳簿及び請求書等の保存がないなどとして更正処分等をそれぞれ行ったのに対し、請求人が、1調査結果の内容の説明がされておらず、当該処分等は瑕疵ある行政処分であり、また、2当該処分等に係る理由の提示に不備があるとし、さらに、3原処分庁が認定した事業所得の総収入金額には、当該総収入金額を生ずべき取引先が支払うべき費用を請求人が立替払したものが含まれており、4必要経費に算入すべき衣装代等の経費が漏れていたとし、そして、5請求人は帳簿及び請求書等を保存しているから、消費税の仕入税額控除の適用を受けることができるとして、当該処分等の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の審査請求(平成27年12月7日)に至る経緯は、別表1−1のとおりである。
     なお、平成27年2月19日付でされた平成25年分の所得税等の更正処分についても併せ審理する。
     以下、平成23年分ないし平成25年分を総称して「本件各年分」という。また、平成27年11月11日付の異議決定を経た後の本件各年分の所得税等の各更正処分を「本件所得税等各更正処分」といい、同異議決定を経た後の平成23年分の所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分、平成24年分の所得税に係る無申告加算税の賦課決定処分及び平成25年分の所得税等に係る無申告加算税の賦課決定処分を併せて「本件所得税等各賦課決定処分」という。
  • ロ 請求人の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の審査請求(平成27年12月7日)に至る経緯は、別表1−2のとおりである。
     なお、平成27年2月19日付でされた平成25年1月1日から平成25年12月31日までの課税期間(以下「平成25年課税期間」という。)の消費税等の決定処分についても併せ審理する。
     以下、平成22年1月1日から平成22年12月31日までの課税期間を「平成22年課税期間」といい、平成24年1月1日から平成24年12月31日までの課税期間を「平成24年課税期間」といい、これらの課税期間と平成25年課税期間を併せて「本件各課税期間」という。
  • ハ なお、請求人は、所得税法第16条《納税地の特例》第2項及び消費税法第21条《個人事業者の納税地の特例》第2項の規定に基づき、請求人の事業所であるi市j町○−○(ただし、請求人が平成27年2月12日に住所を肩書地に異動するまでは、請求人の住所地であり、また、請求人の実家の所在地でもある。)を納税地としている。

(3) 関係法令の要旨

  • イ 調査手続に関するもの
     国税通則法(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第74条の11《調査の終了の際の手続》第2項は、国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする旨規定している。また、同条第3項は、同条第2項の規定による説明をする場合において、当該職員は、当該納税義務者に対し修正申告又は期限後申告を勧奨することができる旨規定し、この場合において、当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない旨規定している。
  • ロ 処分の理由提示に関するもの
     行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》第1項は、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない旨規定し、また、同条第3項は、不利益処分を書面でするときは、同条第1項の理由は書面により示さなければならない旨規定している。
  • ハ 所得税に関するもの
    1. (イ) 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定している。
    2. (ロ) 所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする旨規定している。
  • ニ 消費税に関するもの
    1. (イ) 消費税法(平成24年法律第68号による改正前のものをいう。以下同じ。)第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項は、事業者が、国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の同法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》第1項第2号に掲げる課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除(以下「仕入税額控除」という。)する旨規定している。
    2. (ロ) また、消費税法第30条第7項は、本文において、同条第1項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ等の税額については、適用しない旨規定し、ただし書において、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかったことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない旨規定している。
       そして、消費税法第30条第8項第1号は、同条第7項に規定する帳簿とは、1課税仕入れの相手方の氏名又は名称、2課税仕入れを行った年月日、3課税仕入れに係る資産又は役務の内容及び4同条第1項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額が記載されているものをいう旨規定している。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても認められる事実又は原処分関係資料等により容易に認定できる事実である。

  • イ 請求人の所得税等及び消費税等の確定申告の状況等について
    1. (イ) 請求人は、○○○○を卒業後、スタイリストとして事業(以下「本件事業」という。)を営んでいる者であり、本件各年分の所得税等について、確定申告書に別表1−1の「確定申告」欄のとおり記載して、平成23年分は法定申告期限までに、平成24年分は平成25年4月24日に、平成25年分は平成26年3月26日に、それぞれ原処分庁に提出して申告した。
    2. (ロ) なお、本件各年分の所得税等の確定申告書に添付された収支内訳書には、別表2の「申告額」欄の各金額のとおり、1本件事業に係る収入金額として、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円及び平成25年分が○○○○円と記載され、また、2本件事業に係る事業所得の金額として、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円及び平成25年分が○○○○円と記載されている。
       また、本件各年分の本件事業に係る収入金額(上記1の各金額)については、本件各年分の所得税等の確定申告書に添付して提出された報酬料金等の支払調書(写し)の金額の合計額とおおむね一致している(ただし、平成25年分は、同年分の所得の内訳書に記載された「その他○○○○円」に対応する支払調書(写し)の添付はない。)。さらに、本件各年分の所得税等の確定申告書及び収支内訳書には、作成者として、請求人の父であるH税理士の名が記載されている。
    3. (ハ) 請求人は、本件各課税期間の消費税等について、いずれも法定申告期限までに確定申告書を提出していない。
  • ロ 請求人に対する調査の状況等について
    1. (イ) 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)が、請求人に対する調査(以下「本件調査」という。)を実施し、H税理士に本件各年分の収支内訳書の作成状況等を確認したところ、本件各年分の収支内訳書は、次のとおり作成されたものであることが判明した。
       なお、H税理士は、本件各年分の収支内訳書の作成状況等について、請求人には説明していない。
      • A 本件事業に係る収入金額(上記イの(ロ)の1の各金額)については、取引先から請求人に交付された報酬料金等の支払調書(写し)の金額に基づき集計したものであるが、平成25年分は、H税理士の判断で所得調整として、当該支払調書(写し)の金額に○○○○円を加算したものである(同年分の所得の内訳書に「その他○○○○円」との記載がある。)。
         なお、H税理士は、請求人が取引先宛に発行した請求書(控)や請求人名義の振込口座(J銀行e支店の普通預金口座(口座番号○○○○)、以下「本件口座」という。)の確認はしていなかった。
      • B 本件事業に係る経費(別表2の3欄及び7欄ないしBマル欄の各金額)については、請求人から経費の支払に関する領収書等を渡され、当該領収書等に基づき経費科目ごとに集計したものであるが、1平成24年分は、請求人から法定申告期限後に領収書等を渡されたため、期限後申告となったものであり、また、2平成25年分は、請求人が多忙で領収書等の整理が間に合わなかったため、H税理士の判断で前年分の申告額を参考として、各科目の金額を概算で計算したものである。
      • C また、本件事業に係る売上原価の期首又は期末の商品棚卸高(別表2の2欄及び4欄の各金額)については、実際には期末商品棚卸資産はないにもかかわらず、H税理士の判断で所得調整として、期末商品棚卸高を概算で計上したものである。
    2. (ロ) H税理士は、原処分庁に対し、本件事業に係る収入金額及び必要経費に関する資料として、次の資料などを提示した。
      • A 平成22年分及び平成23年分の現金出納帳、売上高に関する帳簿(ただし、各年の12月末現在のもの)、「合計残高試算表(損益計算書)」及び「合計残高試算表(貸借対照表)」
      • B 請求人が取引先宛に発行した1平成23年12月28日から平成24年9月23日までの間、2同年1月5日から同年5月8日までの間、3同年11月23日から平成25年4月15日までの間及び4同日から同年9月7日までの間の請求書(控)の各冊子並びに5同年10月18日付の請求書(控)6枚、6同年12月1日付の請求書(控)1枚及び7同月2日付の請求書(控)2枚(なお、これらの請求書(控)には、内訳として「スタイリング料」、「衣装買い取り代」、「衣装リース代」などと記載されている。)
      • C 平成22年分ないし平成25年分の経費の支払に関する領収書等
      • D 「衣装代」、「旅費交通費」、「交際費」、「事務用品費」及び「水道光熱費」の科目ごとに毎月の合計額が記載された「2013年1月〜12月経費内訳」と題する書面(以下「本件経費内訳表」という。)
      • E 請求人の母であるKのクレジットカードの月ごとに支払額の合計額が記載された「Kクレジット支払明細 H23/6〜H25/12(L銀行)」と題する書面(以下「本件クレジット支払明細表」という。)及び平成23年6月から平成25年12月までの間のクレジットカード利用明細33枚(平成26年5月1日再発行分)
    3. (ハ) 本件調査担当職員は、本件各年分の所得税等について、1本件口座への取引先からの振込入金の状況、上記(ロ)のBの請求書(控)の記載内容及び取引先への文書照会に対する回答内容等に基づき、本件各年分の本件事業に係る総収入金額を算定するとともに、2同Cの領収書等の内容から、経費の科目ごとに整理した上で、本件各年分の本件事業に係る必要経費の額を算定し、本件各年分の本件事業に係る事業所得の金額を算定した。
       なお、本件調査担当職員は、経費の科目ごとに整理するに当たり、本件事業に関する衣装代、レンタル料、ロケバス代などの費用(以下「衣装代等」という。)は「仕入金額」に、また、アシスタント(助手)に対する支払(以下「助手費用」という。)のうち、1アシスタント料は「外注費」に、2交通費は「旅費交通費」に、3買い物代のうち衣装代等は「仕入金額」に、4それ以外の買い物代は「雑費」にそれぞれ区分している。
    4. (ニ) また、本件調査担当職員は、本件各課税期間の消費税等について、1本件各課税期間に係る基準期間の課税売上高(消費税法第28条《課税標準》に規定する課税資産の譲渡等の対価の額並びに当該対価の額に係る消費税額及び地方消費税額の合計額をいう。以下同じ。)が1,000万円を超えており、請求人は、本件各課税期間の消費税の課税事業者に該当すると判断した上で、2本件事業に係る総収入金額に基づき課税標準額を算定するとともに、3平成22年課税期間については、消費税法第30条第7項に規定する課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等の提示があったとして、本件事業に係る必要経費の額に基づき仕入税額控除の額を算定し、4平成24年課税期間及び平成25年課税期間については、同項に規定する課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等の提示がないとして、仕入税額控除の額をいずれも零円とした。
  • ハ 原処分庁の請求人に対する更正処分等の状況等について
    1. (イ) 原処分庁は、本件調査の結果に基づき、1平成27年2月19日付で、別表1−1の「一次更正処分等」欄のとおりとする本件各年分の所得税等の各更正処分及び過少申告(又は無申告)加算税の各賦課決定処分をするとともに、2同日付で、別表1−2の「決定処分等」欄のとおりとする本件各課税期間の消費税等の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分をした。
    2. (ロ) また、原処分庁は、1上記(イ)の1の各処分のうち、丸イ平成23年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに丸ロ平成24年分の所得税の更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分については、平成27年6月19日付で、別表1−1の「二次更正処分等」欄のとおりとする当該各年分の所得税の各更正処分及び加算税の各変更決定処分をするとともに、22の各処分のうち、平成22年課税期間の消費税等の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分については、同日付で、別表1−2の「一次更正処分等」欄のとおりとする当該課税期間の消費税等の更正処分及び加算税の変更決定処分をした。
    3. (ハ) 一方、請求人は、1上記(イ)の1の各処分のうち、丸イ平成23年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分、丸ロ平成24年分の所得税の更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分並びに22の各処分のうち、平成22年課税期間の消費税等の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分を不服として、平成27年4月10日に異議申立てをしていたものの、当該各処分については、上記(ロ)の各処分により存在しないものとなったことから、異議審理庁は、同年6月23日付で、当該異議申立てをいずれも却下するとの異議決定をした。
    4. (ニ) その後、原処分庁は、1平成27年7月8日付で、別表1−1の「三次更正処分等」欄のとおりとする丸イ平成23年分及び平成24年分の所得税の各更正処分及び過少申告(又は無申告)加算税の各賦課決定処分並びに丸ロ平成25年分の所得税等の再更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分をするとともに、2同日付で、別表1−2の「二次更正処分等」欄のとおりとする本件各課税期間の消費税等の各更正処分並びに無申告加算税の各賦課決定処分及び変更決定処分をした。
  • ニ 上記ハの(ニ)の1丸イの各処分の理由について
     上記ハの(ニ)の1丸イの各処分に係る各通知書(以下「本件各通知書」という。)には、各更正処分の理由として、要旨別表3のとおり、本件調査の結果、請求人が申告した事業所得の金額に誤りがあると認められるので更正する旨が記載されている。
  • ホ 平成27年11月11日付の異議決定の内容等について
     異議審理庁は、異議申立てに係る調査の結果、本件事業に係る総収入金額及び消費税の課税売上高の計上時期の誤り及び立替金の控除漏れ並びに本件事業に係る必要経費の額に集計誤りがあったとして、1上記ハの(ニ)の1の各処分については、別表1−1の「異議決定」欄のとおり、丸イ平成23年分及び平成24年分の所得税の各処分は、その一部を取り消し、丸ロ平成25年分の所得税等の各処分は、更正処分の額の範囲内として、いずれも棄却の異議決定をし、22の各処分(ただし、平成24年課税期間の消費税等の各処分を除く。)については、別表1−2の「異議決定」欄のとおり、丸イ平成22年課税期間の消費税等の各処分は、更正処分の一部を取り消し、無申告加算税の賦課決定処分を棄却とし、丸ロ平成25年課税期間の消費税等の各処分は、更正処分の額の範囲内として、いずれも棄却の異議決定をした。また、平成24年課税期間の消費税等の各処分については、当該各処分が決定処分等を減額する内容のものであるから、平成24年課税期間の消費税等の各処分に対する異議申立ては不適法なものであるとして、いずれも却下の異議決定をした。
     なお、異議決定を経た後の本件各年分の本件事業に関する原処分額は、別表2の「原処分額」欄の各金額のとおりである。また、原処分庁は、上記1丸イのとおり、平成24年分の所得税の更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分の一部が取り消されたことに伴い、平成27年11月19日付で、平成24年課税期間の消費税等の更正処分及び加算税の変更決定処分をした(いずれも平成27年7月8日付でされた消費税等の更正処分の額及び無申告加算税の賦課決定処分の額を減額する内容のものである。)。
  • ヘ 本審査請求について
     請求人は、本審査請求において、本件事業に関する原処分額(別表2の「原処分額」欄の各金額)のうち、後記2の(3)及び(4)の争点となっている項目(1請求人が取引先の支払を立替払したとする金額、2衣装代等及び3助手費用)以外の項目の金額については争っていない。

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2 争点

  • (1) 本件調査に係る調査手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か(争点1)。
  • (2) 本件各通知書において提示された平成23年分及び平成24年分の所得税の各更正処分の理由に不備があるか否か(争点2)。
  • (3) 請求人が取引先の支払を立替払したと主張する金額(上記1の(4)のロの(ロ)のBの請求書(控)に内訳として、「衣装買い取り代」、「衣装リース代」などと記載されたものの金額)は、事業所得の総収入金額及び消費税の課税売上高から除外されるか否か(争点3)。
  • (4) 請求人が必要経費に算入すべきと主張する衣装代等及び助手費用は、所得税法第37条第1項に規定する「必要経費に算入すべき金額」に該当するか否か(争点4)。
  • (5) 平成25年課税期間の消費税の額の算定に当たり、消費税法第30条第1項に規定する仕入税額控除を適用することができるか否か(争点5)。

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3 主張及び判断

(1) 争点1(本件調査に係る調査手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か。)について

  • イ 主張
請求人 原処分庁
通則法第74条の11第2項は、「国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者等に対し、その調査結果の内容を説明するものとする」と規定しているところ、原処分庁は、本件調査に係る各更正決定等のいずれの処分についても、請求人に対し、調査結果の内容の説明をしていないから、原処分は瑕疵ある行政処分であり、その全部が取り消されるべきである。 本件調査担当職員は、平成27年2月19日付の各処分(上記1の(4)のハの(イ))を行うに当たり、H税理士に対し、通則法第74条の11第2項に基づく調査結果、修正申告の勧奨及び「修正申告等について」と題する書面の交付を行っている。
 また、本件調査担当職員は、平成27年6月19日付の各処分(上記1の(4)のハの(ロ))及び平成27年7月8日付の各処分(同(ニ))を行うに当たり、H税理士に対し、再三にわたり調査結果の説明をするための日程調整を依頼したにもかかわらず、H税理士の都合により実現せず、また、H税理士は、本件調査担当職員に対し「後はそちらで勝手にやってください。」と発言し日程調整に応じなかったのであり、このことからすれば、原処分庁の調査手続に違法があったと認めることはできない。
  • ロ 判断
    1. (イ) 法令解釈
       通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解される。
       もっとも、通則法は、同法第24条《更正》の規定による更正処分、同法第25条《決定》の規定による決定処分及び同法第26条《再更正》の規定による再更正処分について、いずれも「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の取消事由となるものと解される。そして、これには、調査を全く欠く場合のみならず、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続(以下「証拠収集手続」という。)に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合も含まれるものと解され、ここにいう重大な違法とは、証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの場合をいうものと解するのが相当である。
       他方で、証拠収集手続自体に重大な違法がないのであれば、課税処分を調査により行うという要件は満たされているといえるから、仮に、証拠収集手続に影響を及ぼさない他の重大な違法があったとしても、課税処分の取消事由となるものではないと解される。
    2. (ロ) 認定事実
       請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
      • A 請求人は、平成26年11月27日、原処分庁に対し、H税理士を税務代理人と定め、請求人に代わって同税理士が通則法第74条の11第1項から第3項に規定する行為(調査結果の内容の説明を受けることを含む。)を行うことに同意する旨を記載した調査の終了の際の手続に関する同意書を提出した。
      • B 本件調査担当職員は、平成26年12月1日、同職員の上司である統括国税調査官(以下「本件統括官」という。)同席の下、H税理士に対し、法令に基づく調査結果の説明である旨を伝えた上で、調査結果の内容の説明をするとともに、「修正申告等について」と題する書面を交付して、本件各年分の所得税等の修正申告及び本件各課税期間の消費税等の期限後申告の勧奨をしたが、同税理士は、これに応じなかった。
      • C 本件統括官は、平成27年6月23日以後、再三にわたり、H税理士の事務所の留守番電話にメッセージを入れるなどして、調査結果の内容の説明のための日程調整の連絡をしており、また、同月30日には、同税理士が応答したものの、用件を伝える前に、同税理士は、「違法調査なので、後はそちらで勝手にやってください。」などと言って電話を切ったことから、結果として、調査結果の内容の説明ができなかった。
    3. (ハ) 当てはめ
       上記(イ)のとおり、調査手続の単なる違法は、課税処分の取消事由に当たらず、課税処分の基礎となる証拠収集手続が、刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの重大な違法を帯びる場合がこれに当たると解されているところ、調査結果の内容の説明は、調査の終了の際の手続であって、証拠収集手続に影響を及ぼさない手続であり、また、上記(ロ)の各事実が認められることからすると、請求人の調査結果の内容の説明がなかった旨の主張は、その前提を欠くものであるから、本件調査に係る調査手続に原処分を取り消すべき違法はない。

(2) 争点2(本件各通知書において提示された平成23年分及び平成24年分の所得税の各更正処分の理由に不備があるか否か。)について

  • イ 主張
原処分庁 請求人
本件各通知書において提示した平成23年分及び平成24年分の所得税の各更正処分の理由は、請求人から提示を受けた領収書等を集計した金額を示した上で、過大に計上されていた事業所得の仕入金額を明らかにしており、原処分庁がいかなる理由をもって更正処分をしたかについて、その根拠を具体的に示しているということができる。
 そうすると、本件各通知書における理由の記載は、原処分庁の判断過程を記載したものということができ、原処分庁の判断の慎重、合理性を確保し、恣意抑制を図るという理由の提示制度の趣旨目的を損なうことはなく、不服申立ての便宜という点についても、請求人に対し必要な材料を提供しているものということができ、理由の提示制度の趣旨目的を損なうものではない。
 したがって、本件各通知書において提示した平成23年分及び平成24年分の所得税の各更正処分の理由に不備はない。
本件各通知書には、事業所得の金額の計算上、仕入金額について、平成23年分は1,368,822円、平成24年分は3,272,275円が、それぞれ過大に計上されていると記載されているが、その理由、根拠及び内容について説明が不十分であり、必要経費に認められない理由が、仕入計上した証ひょうがないためか、集計誤りにより過大であるのか、その他の理由によるのか不明である。
 したがって、本件各通知書の理由の提示は、行政手続法第14条の趣旨目的である原処分庁の判断の恣意抑制を逸脱しており不備があるから、平成23年分及び平成24年分の所得税の各更正処分は、取り消されるべきである。
  • ロ 判断
    1. (イ) 法令解釈
       行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨から出たものと解される。そして、同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、上記のような同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきものと解されるところ、そこにおいて要求される提示の内容及び程度は、特段の理由のない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたかを、処分の相手方においてその提示内容自体から了知し得るものでなければならないというべきである。
    2. (ロ) 当てはめ
      • A 本件各通知書には、平成23年分及び平成24年分の所得税の各更正処分の理由として、要旨別表3のとおり、まず、本件事業に係る総収入金額については、請求人から提示された請求書(控)等や取引先への調査の結果に基づき、取引先ごとの金額の内訳を別表で示した上で、加算する金額及び減算する金額が記載されており、結果として、平成23年分は○○○○円が、平成24年分は○○○○円が総収入金額に算入されていなかったので、当該各金額を当該各年分の総収入金額に加算する旨が記載されている。
         次に、本件事業に係る売上原価については、1請求人が収支内訳書に記載した期末又は期首商品棚卸高は、根拠の不明確な金額であるので、いずれも零円となる旨、2仕入金額は、請求人から提示された領収書等を集計した結果に基づき、相手先ごとの金額の内訳を別表で示した上で、丸イ平成23年分が2,305,295円となり、同年分は1,368,822円を、丸ロ平成24年分が3,559,777円となり、同年分は3,272,275円を、それぞれ仕入金額に過大計上していた旨、3上記1及び2により、売上原価は、平成23年分が2,305,295円、平成24年分が3,559,777円となり、平成23年分は768,822円、平成24年分は1,872,275円を、それぞれ売上原価から減算する旨が記載されている。
         さらに、本件事業に係る経費については、請求人から提示された領収書等を集計した結果に基づき、科目及び相手先ごとの金額の内訳を別表で示した上で、科目ごとの調査額及び申告額が記載されており、結果として、平成23年分は48,104円を、平成24年分は1,717,218円を、それぞれ必要経費に加算する旨が記載されている。
      • B 上記Aの記載内容からすると、1売上原価については、根拠の不明確な金額を認めなかったこと、また、2仕入金額及び経費については、請求人から提示された領収書等を集計した結果に基づき、科目及び相手先ごとの金額の内訳が別表で示されており、原処分庁が証ひょうのあるものに基づき、どのように集計したかが明らかとなっている。そうすると、本件各通知書における各更正処分の理由は、原処分庁がいかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して平成23年分及び平成24年分の所得税の各更正処分をしたかについて、請求人において了知し得るものであり、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を知らせて不服の申立てに便宜を与えるという行政手続法第14条の趣旨に照らし、法の要求する提示として欠けているものではないというべきである。
         したがって、平成23年分及び平成24年分の所得税の各更正処分の理由の提示に不備はなく、この点において当該各更正処分を取り消すべき違法はない。

(3) 争点3(請求人が取引先の支払を立替払したと主張する金額は、事業所得の総収入金額及び消費税の課税売上高から除外されるか否か。)について

  • イ 主張
請求人 原処分庁
請求人が原処分庁に提出した平成24年分及び平成25年分の請求書(控)の金額の中には、請求人が取引先の支払を立替払したもの(別表4参照)が含まれており、当該立替払の金額は、所得税等の事業所得の総収入金額及び消費税の課税売上高に含まれないから、当該総収入金額及び当該課税売上高から除外すべきである。 原処分庁は、所得税等の事業所得の総収入金額及び消費税の課税売上高の算定に当たっては、請求人が取引先の支払を立替払したものとして、平成22年分については123,985円、平成23年分については1,423,967円、平成24年分については4,828,977円(別表4の順号9以外の各金額を含む。)及び平成25年分については930,951円(同表の順号18以外の各金額を含む。)をそれぞれから除外しており、また、その他の部分(同表の順号9及び順号18の各金額)は、立替払したとは認められない。
  • ロ 判断
    1. (イ) 認定事実
       請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
      • A 請求人は、当審判所に対し、取引先の支払を立替払したと主張する金額(「衣装買い取り代」や「衣装リース代」などの金額)に関する証拠資料として、上記1の(4)のロの(ロ)のBの請求書(控)を提出しているところ、当該請求書(控)によれば、請求人が取引先の支払を立替払したと主張する金額は、別表4のとおり、平成24年分が2,399,903円及び平成25年分が863,323円である。
      • B 原処分庁は、原処分において、上記1の(4)のロの(ハ)のとおり、本件口座への取引先からの振込入金の状況、請求書(控)の記載内容及び取引先への文書照会に対する回答内容等に基づき、本件各年分の本件事業に係る総収入金額及び本件各課税期間の消費税の課税売上高を算定しているところ、当該総収入金額及び当該課税売上高の算定に当たり、取引先の支払を立替払した金額として当該総収入金額及び当該課税売上高から除外した金額は、平成22年分が123,985円、平成23年分が1,423,967円、平成24年分が4,828,977円及び平成25年分が930,951円である。ただし、別表4の順号9及び順号18の各金額を含めてM社分については、本件各年分において、取引先の支払を立替払した金額として総収入金額及び課税売上高から除外されていない。
      • C 取引先への文書照会に対する回答内容等のうち、M社からの回答内容等によれば、1請求人から同社宛に発行される請求書は、請求人が同社の経費の支払を立替払したもののみであり、また、2同社から請求人に対して、「撮影小道具」及び「外部旅費」の名目で、平成22年分は142,131円、平成23年分は8,290円、平成24年分は39,511円(別表4の順号9の金額を含む。)及び平成25年分は10,620円(同表の順号18の金額)が支払われていることからすると、これらの金額は、請求人が同社の支払を立替払したものと認められる。
    2. (ロ) 検討
       原処分庁は、原処分において、上記(イ)のBのとおり、本件各年分の本件事業に係る総収入金額及び本件各課税期間の消費税の課税売上高の算定に当たり、請求書(控)の記載内容及び取引先への文書照会に対する回答内容等に基づき、請求人が取引先の支払を立替払した金額を除外しているものの、同Cのとおり、M社分については、立替払した金額があったにもかかわらず、これらの金額を当該総収入金額又は当該課税売上高から除外していなかったことが認められる。
    3. (ハ) 小括
       以上のことからすると、本件各年分の本件事業に係る総収入金額及び本件各課税期間の課税売上高の算定に当たり、請求人の取引先の支払の立替払として除外すべき金額は、平成22年分が266,116円、平成23年分が1,432,257円、平成24年分が4,868,488円及び平成25年分が941,571円となる。

(4) 争点4(請求人が必要経費に算入すべきと主張する衣装代等及び助手費用は、所得税法第37条第1項に規定する「必要経費に算入すべき金額」に該当するか否か。)について

  • イ 主張
請求人 原処分庁
(イ) 請求人は、平成24年中において、本審査請求に係る請求書に添付した「H24年6月〜12月 未請求内訳」と題する書面(以下「本件未請求内訳表」という。別表5参照)に記載した衣装代等(以下「本件衣装代等」という。)として、1,242,873円を支払っており、本件衣装代等は、所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当する。 (イ) 請求人が主張する本件衣装代等の一部(別表5の順号1ないし順号30、順号32ないし順号36、順号39及び順号42ないし順号49)については、平成24年分の所得税の更正処分において必要経費として算入しているものであり、必要経費に算入していないもの(同表の順号31、順号37、順号38、順号40及び順号41)については、領収書等に「日付」、「支払先」及び「金額」が記載されているものの、請求人が収入を得るために直接要した費用等であったのかは不明であるから、各領収書等の記載内容のみをもって直ちに必要経費に算入すべき金額に該当するとは認められない。
(ロ) 請求人は、平成25年中において、Nに対する助手費用(以下「本件助手費用」という。)として、別表6の金額のとおり、1,831,976円を支払っており、本件助手費用は、本件口座から振込みにより支払っていることが明らかであるから、所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当する。 (ロ) 請求人が主張する本件助手費用の額が所得税法第37条に規定する必要経費に算入すべき金額に該当するためには、当該費用が収入を得るために直接要した費用等であることが必要であり、本件口座から支払をしている事実のみをもって直ちに必要経費に算入すべき金額に該当するとは認められない。
  • ロ 判断
    1. (イ) 認定事実
       請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
      • A 本件衣装代等に関するもの
        • (A) 原処分庁は、本件各年分の所得税等の各更正処分において、衣装代等については、請求人から提示された経費の支払に関する領収書等に基づき、別表2の「原処分額」の「仕入金額」欄の各金額のとおり、平成23年分が2,257,334円、平成24年分が3,504,915円(本件衣装代等のうち、別表5の順号1ないし順号30、順号32ないし順号36、順号39及び順号42ないし順号49の各金額を含む。)及び平成25年分が3,075,447円であると算定した。
        • (B) 一方、原処分庁は、平成24年分の所得税の更正処分において、本件衣装代等のうち、別表5の順号31、順号37、順号38、順号40及び順号41の衣装代等については、いずれも請求人の母であるKのクレジットカード支払となっており、また、当該支払を証する資料として提示されたのは、クレジットカード売上票及びクレジットカード利用明細であったことから、当該衣装代等については、本件事業に係る収入を得るために直接要した費用等であったかは不明であるとして、本件事業に係る必要経費(「仕入金額」の項目)に算入することはできないと判断した。
        • (C) 請求人は、当審判所に対し、本件衣装代等に関する資料として、次の資料(いずれも写し)を提出した。
          • a 本件クレジット支払明細表
          • b クレジットカード利用明細
          • c クレジットカード売上票(別表5の順号31、順号37、順号38、順号40及び順号41に関するもの)
          • d 本件衣装代等の支払に関する領収書(同表の順号1ないし順号30、順号32ないし順号36、順号39及び順号42ないし順号49に関するもの)
        • (D) 請求人は、当審判所からの本件衣装代等に関する質問に対し、H税理士を通じて、別表5の順号31、順号37、順号38、順号40及び順号41の衣装代等に関しては、どの取引先の収入を得るために要した費用等であるかを証明する資料等はない旨回答した。
      • B 本件助手費用に関するもの
        • (A) 原処分庁は、平成25年分の所得税等の更正処分において、本件助手費用については、Nから請求人宛に発行された請求書及び納品書並びにタクシー代などが記載されたN作成の手書きメモ(いずれも上記1の(4)のロの(ロ)のCの領収書等に含まれていたもの)に基づき、1外注費に1,695,750円、2旅費交通費に136,850円、3衣装代等として仕入金額に20,679円及び4雑費に650円の合計1,853,929円を本件事業に係る必要経費に算入した。
           なお、原処分庁は、平成23年分及び平成24年分についても、上記と同様に、本件助手費用として、平成23年分は54,830円及び平成24年分は1,856,263円を本件事業に係る必要経費に算入した。
        • (B) 請求人は、本件助手費用については、上記(A)のNからの請求書等に基づき、おおむね1か月半から2か月半後に、2回又は3回の請求分をまとめるなどして本件口座からNの指定口座へ振込みにより支払っているところ、請求人が主張する本件助手費用の額(別表6の各金額)は、いずれも本件口座の支払日に基づくものである。
    2. (ロ) 検討
      • A 本件衣装代等について
         請求人が主張する本件衣装代等のうち、別表5の順号1ないし順号30、順号32ないし順号36、順号39及び順号42ないし順号49の衣装代等については、上記(イ)のAの(A)のとおり、平成24年分の所得税の更正処分において、当該各金額を含めて衣装代等として同年分の本件事業に係る必要経費(「仕入金額」の項目)に算入されている。
         一方、請求人が主張する本件衣装代等のうち、別表5の順号31、順号37、順号38、順号40及び順号41の衣装代等については、1上記(イ)のAの(C)のとおり、請求人が当該衣装代等に関する資料として当審判所に提出した資料は、原処分庁に提示した資料と同一のものであり、それ以外の資料の提出はなく、また、2同(D)のとおり、請求人は、当審判所に対し、当該衣装代等に関しては、どの取引先の収入を得るために要した費用等であるかを証明する資料等はない旨回答したことからすると、請求人は、当該衣装代等が本件事業に係る必要経費に該当することを明らかにする立証を成し得ず、また、当審判所の調査の結果によっても、他にこれを裏付ける証拠もないことから、当該衣装代等については、平成24年分の本件事業に係る必要経費に算入することはできない。
      • B 本件助手費用の額について
         請求人が主張する本件助手費用の額(1,831,976円)は、上記(イ)のBの(B)のとおり、本件口座からNの指定口座へ振込みにより支払った日を基準として、平成25年分の金額を算定したものであるのに対し、原処分庁は、同(A)のとおり、本件助手費用については、Nから請求人宛に発行された請求書及び納品書並びにタクシー代などが記載されたN作成の手書きメモに基づき、本件事業に係る必要経費に算入しているところ、1平成25年分については、請求人が主張する本件助手費用の額を上回る1,853,929円を本件事業に係る必要経費に算入しており、また、2平成23年分及び平成24年分についても、それぞれ54,830円及び1,856,263円を本件事業に係る必要経費に算入していることからすると、請求人が主張する本件助手費用の額は、単なるNの指定口座への振込額にすぎず、原処分庁が、本件助手費用として本件事業に係る必要経費に算入した上記1及び2の金額以上に必要経費とする根拠となるものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    3. (ハ) 小括
       請求人が主張する本件衣装代等(別表5参照)については、上記(ロ)のAのとおり、1同表の順号31、順号37、順号38、順号40及び順号41の衣装代等は、所得税法上、本件事業に係る必要経費に算入することはできず、一方、2上記1以外の衣装代等は、原処分において、既に本件事業に係る必要経費に算入されている。
       また、請求人が主張する本件助手費用の額(別表6参照)については、上記(ロ)のBのとおり、原処分において、本件助手費用として本件事業に係る必要経費に算入した金額以上に必要経費とする根拠となるものではない。
       以上のことから、請求人が主張する本件衣装代等及び本件助手費用の額については、原処分において、本件事業に係る必要経費に算入した金額以外に、所得税法第37条第1項に規定する「必要経費に算入すべき金額」に該当するものはない。

(5) 争点5(平成25年課税期間の消費税の額の算定に当たり、消費税法第30条第1項に規定する仕入税額控除を適用することができるか否か。)について

  • イ 主張
原処分庁 請求人
本件経費内訳表には、「衣装代」、「旅費交通費」、「交際費」、「事務用品費」及び「水道光熱費」の項目ごとに毎月の合計額が記載されているのみであり、消費税法第30条第8項に規定する帳簿の要件を満たした帳簿とはいえず、請求人は帳簿を保存していたといえないから、同条第1項に規定する仕入税額控除の適用を受けることはできない。 本件経費内訳表は、消費税法第30条第8項に規定する帳簿の要件を満たしているし、原処分庁は、取引先調査による本件口座の復元等から、仕入れの事実、相手先について把握しているのだから、同項に規定する帳簿の要件を満たした帳簿を保存していたといえ、平成25年課税期間の消費税については、同条第1項に規定する仕入税額控除の適用を受けることができる。
  • ロ 判断
    1. (イ) 当てはめ
      • A 消費税法第30条第1項に規定する仕入税額控除を適用するためには、上記1の(3)のニの(ロ)のとおり、同条第8項第1号に掲げる法定記載事項(1課税仕入れの相手方の氏名又は名称、2課税仕入れを行った年月日、3課税仕入れに係る資産又は役務の内容及び4同条第1項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額)が記載された帳簿及び請求書等の保存が要件とされているところ、請求人は、平成25年課税期間について、経費の支払に関する領収書等は保存していたものの(同(4)のロの(ロ)のC)、請求人が原処分庁に提示した本件経費内訳表は、「衣装代」、「旅費交通費」、「交際費」、「事務用品費」及び「水道光熱費」の科目ごとに毎月の合計額が記載されたもの(同D)であって、上記1ないし4の法定記載事項は記載されていないから、本件経費内訳表は、同条第8項第1号に規定する帳簿に該当しない。
      • B 以上のことからすると、請求人は、平成25年課税期間について、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存しない場合に該当することとなるから、当該課税期間については、同条第1項に規定する仕入税額控除を適用することはできない。
    2. (ロ) 請求人の主張について
       請求人は、上記イの「請求人」欄のとおり、本件経費内訳表は、消費税法第30条第8項に規定する帳簿の要件を満たしており、また、原処分庁は、取引先調査による本件口座の復元等から、仕入れの事実、相手先について把握しているのだから、仕入税額控除の適用を受けることができる旨主張する。
       しかしながら、本件経費内訳表が消費税法第30条第8項第1号に規定する帳簿に該当せず、同条第1項に規定する仕入税額控除を適用することはできないことについては、上記(イ)のとおりであり、また、仕入税額控除を適用するためには、事業者が同条第8項第1号に規定する帳簿及び請求書等を保存していることが要件とされているのであって、原処分庁が仕入れの事実や相手先を把握したことをもって、当該帳簿及び請求書等を保存していたことと同視できるものではないから、請求人の主張には理由がない。

(6) 原処分の適法性について

  • イ 本件所得税等各更正処分について
    1. (イ) 異議審理庁は、上記1の(4)のホのとおり、本件各年分の本件事業に係る総収入金額及び本件各課税期間の消費税の課税売上高の計上時期の誤り及び立替金の控除漏れ並びに本件事業に係る必要経費の額に集計誤りがあったとして、別表1−1及び別表1−2の「異議決定」欄のとおりの異議決定をしているところ、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
       一方、請求人は、上記1の(4)のヘのとおり、本審査請求において、本件事業に関する原処分額のうち、上記2の(3)及び(4)の争点となっている項目(1請求人が取引先の支払を立替払したとする金額、2本件衣装代等及び3本件助手費用)以外の項目の金額については争っていない。
       そして、上記2の(3)の争点となっている項目については、上記3の(3)のロの(ロ)のとおり、M社分が本件各年分の本件事業に係る総収入金額又は本件各課税期間の消費税の課税売上高から除外されていないことが認められる。
    2. (ロ) 以上のことを前提として、本件各年分の本件事業に係る事業所得の金額を算定すると、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円及び平成25年分が○○○○円となる。
       上記の事業所得の金額を基に、本件各年分の納付すべき税額を算定すると、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円及び平成25年分が○○○○円となり、1平成23年分及び平成24年分の各金額は、いずれも原処分額(別表1−1の「異議決定」の「納付すべき税額」欄の各金額)を下回るから、平成23年分及び平成24年分の所得税の各更正処分は、その一部を別紙1の「取消額等計算書」及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり、それぞれ取り消すべきであり、また、2平成25年分の金額は、原処分額(同表の「三次更正処分等」の「納付すべき税額」欄の金額)を上回るから、平成25年分の所得税等の更正処分は適法である。
  • ロ 本件所得税等各賦課決定処分について
    上記イの(ロ)のことを踏まえ、本件所得税等各賦課決定処分の適法性を検討すると、次のとおりである。
    1. (イ) 平成23年分及び平成24年分について
       上記イの(ロ)の1のとおり、平成23年分及び平成24年分の所得税の各更正処分の一部がそれぞれ取り消されることに伴い、過少申告(又は無申告)加算税の基礎となる税額は、平成23年分が○○○○円及び平成24年分が○○○○円となり、また、通則法第65条《過少申告加算税》第4項及び同法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
       そして、通則法第65条第1項及び第2項並びに同法第66条第1項及び第2項の規定に基づき、平成23年分及び平成24年分の過少申告(又は無申告)加算税の額を計算すると、平成23年分が○○○○円及び平成24年分が○○○○円となり、1平成23年分の金額は、原処分額(別表1−1の「異議決定」の「過少申告加算税の額」欄の金額)と同額となるから、平成23年分の所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分は適法であり、また、2平成24年分の金額は、原処分額(同表の「異議決定」の「無申告加算税の額」欄の金額)を下回るから、同年分の所得税に係る無申告加算税の賦課決定処分は、その一部を別紙2の「取消額等計算書」のとおり、取り消すべきである。
    2. (ロ) 平成25年分について
       上記イの(ロ)の2のとおり、平成25年分の所得税等の更正処分は適法であり、また、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項に基づきなされた同年分の所得税等に係る無申告加算税の賦課決定処分は、適法である。
  • ハ 平成22年課税期間及び平成25年課税期間の消費税等の各更正処分について
    1. (イ) 本件各課税期間の消費税等については、上記イの(イ)の各事実のほか、平成25年課税期間については、上記3の(5)のロの(イ)のとおり、仕入税額控除を適用することはできないことが認められる。
    2. (ロ) 以上のことを前提として、平成22年課税期間及び平成25年課税期間の課税標準額並びに仕入税額控除の額を算定すると、平成22年課税期間は、課税標準額が○○○○円及び仕入税額控除の額が102,512円となり、また、平成25年課税期間は、課税標準額が○○○○円及び仕入税額控除の額が零円となる。
       上記の課税標準額及び仕入税額控除の額を基に、平成22年課税期間及び平成25年課税期間の納付すべき消費税額並びに納付すべき地方消費税額を算定すると、平成22年課税期間は、納付すべき消費税額が○○○○円及び納付すべき地方消費税額が○○○○円となり、また、平成25年課税期間は、納付すべき消費税額が○○○○円及び納付すべき地方消費税額が○○○○円となり、1平成22年課税期間の各金額は、いずれも原処分額(別表1−2の「異議決定」の「納付すべき消費税額」欄及び「納付すべき地方消費税額」欄の各金額)を下回るから、同課税期間の消費税等の更正処分は、いずれもその一部を別紙3の「取消額等計算書」のとおり、取り消すべきであり、2平成25年課税期間の各金額は、いずれも原処分額(同表の「二次更正処分等」の「納付すべき消費税額」欄及び「納付すべき地方消費税額」欄の各金額)を上回るから、同課税期間の消費税等の更正処分は、いずれも適法である。
  • ニ 平成22年課税期間及び平成25年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の各賦課決定処分について
     上記ハの(ロ)のことを踏まえ、平成22年課税期間及び平成25年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の各賦課決定処分の適法性を検討すると、次のとおりである。
    1. (イ) 平成22年課税期間について
       上記ハの(ロ)の1のとおり、平成22年課税期間の消費税等の更正処分の一部が取り消されることに伴い、無申告加算税の基礎となる税額は、○○○○円となり、また、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
       そして、通則法第66条第1項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づき、同課税期間の無申告加算税の額を計算すると、○○○○円となり、この金額は、原処分額(別表1−2の「二次更正処分等」の「無申告加算税の額」欄の金額)と同額となるから、同課税期間の消費税等に係る無申告加算税の賦課決定処分は、適法である。
    2. (ロ) 平成25年課税期間について
       上記ハの(ロ)の2のとおり、平成25年課税期間の消費税等の更正処分は適法であり、また、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4及び第9条の9第1項に基づきなされた同課税期間の消費税等に係る無申告加算税の賦課決定処分は、適法である。

(7) 平成24年課税期間の消費税等の更正処分及び無申告加算税の変更決定処分に対する審査請求について

国税通則法(平成26年法律第69号による改正前のもの。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する不服申立ての対象となる処分は、不服申立人の権利又は利益を侵害するものでなければならず、その処分が権利又は利益を侵害する処分であるか否かについては、当該処分により納付すべき税額の総額が増額したか否かにより判断すべきであるところ、平成27年7月8日付でされた平成24年課税期間の消費税等の更正処分は、請求人の納付すべき税額を○○○○円減額する処分であり、また、同日付でされた平成24年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の変更決定処分は、請求人の納付すべき無申告加算税の額を○○○○円減額する処分であるから、いずれの処分も請求人の権利又は利益を侵害するものといえず、当該各処分についての審査請求は不適法なものである。
 したがって、平成27年7月8日付の平成24年課税期間の消費税等の更正処分及び無申告加算税の変更決定処分に対する審査請求は、これを却下すべきである。

(8) その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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