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(平成28年11月1日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)が申告した不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した支出の一部は必要経費に該当せず、また、医師としての健康診断の業務に係る報酬を雑所得として更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分に係る調査手続は違法であること、更正の理由付記に不備があること、さらに、不動産所得及び雑所得に係る必要経費の認定には誤りがあるとして、原処分の取消しを求めた事案である。
(2) 審査請求に至る経緯
- イ 請求人は、平成23年分及び平成24年分の所得税並びに平成25年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書を原処分庁に提出して、いずれも法定申告期限までに申告した(以下、平成23年分、平成24年分及び平成25年分を併せて「本件各年分」という。)。
- ロ これに対し、原処分庁は、その調査により、平成27年7月9日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、本件各年分の所得税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
- ハ 請求人は、平成27年8月7日、上記ロの本件各更正処分等を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月5日付で棄却の異議決定をした。
- ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成27年11月18日に審査請求をした。
(3) 関係法令の要旨
- イ 調査手続に関するもの
- (イ) 国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第74条の2《当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権》第1項は、国税庁、国税局又は税務署(以下「国税庁等」という。)の当該職員は、所得税に関する調査について必要があるときは、同項各号に掲げる調査の区分に応じ、当該各号に定める者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査し、又は当該物件の提示若しくは提出を求めることができる旨規定している。
- (ロ) 通則法第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》第1項は、税務署長等(国税庁長官、国税局長又は税務署長をいう。以下同じ。)は、国税庁等の当該職員に納税義務者に対し実地の調査において質問検査等を行わせる場合には、あらかじめ、当該納税義務者に対し、その旨及び同項各号に掲げる事項を通知するものとする旨規定している。
- (ハ) 通則法第74条の11《調査の終了の際の手続》第2項は、国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、国税庁等の当該職員は、納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする旨規定している。
- (ニ) 行政手続法第32条《行政指導の一般原則》第1項は、行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない旨規定し、同条第2項は、行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない旨規定している。
- (ホ) 財務省設置法第24条《税務署》第2項は、税務署の名称、位置、管轄区域、所掌事務及び内部組織は、財務省令で定める旨規定し、これを受けて、財務省組織規則第556条《国税調査官》第2項は、国税調査官は、命を受けて、内国税の課税標準の調査及び内国税に関する検査に関する事務(同規則第553条第2号)を処理する旨規定している。
- ロ 理由付記に関するもの
所得税法第155条《青色申告書に係る更正》第2項は、税務署長は、青色申告書に係る年分の総所得金額等の更正(同条第1項第1号に規定する事由のみに基因するものを除く。)をする場合には、その更正に係る通則法第28条《更正又は決定の手続》第2項に規定する更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない旨規定し、所得税法第155条第1項第1号は、その更正が不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額以外の各種所得の金額の計算又は同法第69条から第71条まで(損益通算及び損失の繰越控除)の規定の適用について誤りがあったことのみに基因する場合である旨規定している。 - ハ 必要経費に関するもの
所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする旨規定している。
(4) 基礎事実
以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても認められる事実及び証拠によって容易に認められる事実である。
- イ 請求人の所得について
請求人は、企業等の健康診断の業務(以下「本件業務」という。)を行う医師であり、本件業務に係る給与所得及び雑所得を得ているほか、d市に所在するアパート1棟を所有し、これを賃貸することにより不動産所得を得ていた。 - ロ 原処分に係る調査の主な経緯
- (イ) 原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)を担当した原処分庁所属の国税調査官(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成26年8月29日、請求人に対して税務調査を行う旨等を電話により通知した(以下、この通知を「本件事前通知」という。)。
- (ロ) 本件調査担当職員は、平成26年9月4日、請求人が指定した場所(請求人の長男であるLが代表を務めるM社の事業所の所在地)へ本件調査のために臨場し、請求人及び経理を担当する請求人の妻のNと面接の上不動産所得等の申告内容に関する聴取りを行った。
請求人が仕事を理由に退席した後、本件調査担当職員は、Nから、本件各年分の申告書作成の基礎となった経費の領収書等(以下「本件領収書等」という。)の提示を受けた。なお、本件調査担当職員は本件領収書等の借用を申し出たが、Nに拒否されたため借用できなかった。 - (ハ) その後、本件調査担当職員は、平成26年10月下旬までに6回にわたり、上記(ロ)と同じ場所へ本件調査のために臨場し、本件領収書等の内容を書き写すとともに、申告された必要経費の内容の確認を行った(以下、本件各年分ごとに書き写した書面を併せて「本件書写資料」という。)。
- (ニ) 本件調査担当職員は、平成26年10月下旬から平成27年1月中旬までの間、Nへ電話により請求人の調査の日程確保の要請をしたほか、3回の書面の送付により連絡を求め調査に応じることを要請したが、請求人はこれらに応じなかった。
- (ホ) 本件調査担当職員は、平成27年6月4日、本件書写資料を基に、支出した月日、支払額、取引内容等を記載した一覧表(以下「本件一覧表」という。)を作成した上で、同月15日までに、本件一覧表記載の内容につき請求人の不動産所得に係る業務との関連性の説明、及び当該説明の裏付けとなる資料の提出などを求める書面を、請求人宅において、Nに交付したが、請求人から当該書面に対する回答はなかった。
- (ヘ) 本件調査担当職員は、平成27年6月30日、請求人宅へ臨場し、呼び鈴を鳴らしたが応答がなかったため、翌日に連絡を求める旨を記載した書面を差し置いた。
その後、本件調査担当職員は、平成27年7月2日、同月3日及び同月6日に請求人宅へ臨場し、呼び鈴を鳴らしたが応答がなかったため、本件調査に係る調査結果の内容の説明のため連絡を求める旨を記載した書面をそれぞれ差し置いた。なお、これらの各書面の最下部には、「この文書による行政指導の責任者は、K税務署長です。」と記載されており、また、同月3日及び同月6日に差し置いた各書面には、連絡がない場合には本件調査に係る調査結果の内容の説明に応じる意思はないものとして更正処分をする場合がある旨が記載されていた。 - (ト) 原処分庁は、請求人から上記(ヘ)の各書面に対する連絡がなかったことから、請求人に対し、通則法第74条の11に規定する調査結果の内容の説明をすることなく、平成27年7月9日付で本件各更正処分等をした。
- ハ 本件各更正処分について
- (イ) 本件各更正処分の主な内容
- A 不動産所得の金額
請求人は、本件業務に係る収入のうち、P社から平成24年分及び平成25年分として支払われたものについて、これらを不動産所得に係る総収入金額に含めてそれぞれ申告したことから、原処分庁は、これら各年分の総収入金額から、当該総収入金額に含めて申告したP社からの収入を除外して総収入金額を算定した。
一方、原処分庁は、請求人が修繕費及びその他の経費(外注管理費を除く。)として必要経費に算入した金額のうち、本件各更正処分等に係る通知書(以下「本件各通知書」という。)の末尾別表(以下「本件各別表」という。)として示した各支出については、請求人の不動産所得を生ずべき業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要なものであると認められないなどとしてこれを必要経費に該当しないものとした上で、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき修繕費等(租税公課、損害保険料、減価償却費、借入金利子、外注管理費及び青色申告特別控除以外の部分で必要経費に算入すべき費用をいい、以下「本件修繕費等」という。)の金額は、別表2のとおりであると認定した。 - B 雑所得の金額
P社からの収入については、同社が発行する支払明細書に記載された交通費・宿泊費を含めて受領した金額を本件各年分の雑所得の総収入金額とし、当該交通費・宿泊費の金額を必要経費とした。
- A 不動産所得の金額
- (ロ) 理由付記について
本件各通知書における理由付記の要旨は、別紙4(略語は本文中の例による。)のとおりである。
- (イ) 本件各更正処分の主な内容
- ニ 異議申立てに係る調査の状況
異議審理庁は、異議申立てに係る調査において請求人に対し、不動産所得の必要経費に該当すると主張する各支出が不動産所得を生ずべき業務の遂行上必要であったことの理由の説明及びこれを明らかにする証拠書類等の提示、並びに本件調査時に提示していない領収書があれば提示するよう求めたほか、P社に係る雑所得についても、収入金額及び必要経費の額に相違がないかの確認を要請したが、請求人は、これらの資料の提示をせず、質問等への回答にも応じなかった。
2 争点
- (1) 原処分は本件調査の手続の違法等を理由に取り消されるべきか否か。(争点1)
- (2) 更正の理由付記に不備があるか否か。(争点2)
- (3) 請求人が主張する各支出は、不動産所得の金額及び雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべきか否か。(争点3)
3 主張
(1) 争点1(原処分は本件調査の手続の違法等を理由に取り消されるべきか否か。)について
請求人 | 原処分庁 |
---|---|
本件調査の手続には、次の違法等があることから、本件各更正処分等は取り消されるべきである。 | 本件調査の手続は、次のとおり適法に行われているから、本件各更正処分等が取り消されるべき理由はない。 |
イ 通則法第74条の9第1項によると事前の通知をするのは税務署長とされているところ、実際に本件事前通知をしたのは本件調査担当職員であり、仮に本件調査担当職員が税務署長の代理で通知したのだとしても、代理である旨聞かされていない。事前の通知をするのは税務署長とされているのであるから、本件調査担当職員が税務署長から命を受けたとしても、税務署長が行うべき行為を本件調査担当職員ができるわけではない。また、税務署長から通知に関する書類も受け取っていないことから、本件事前通知は同項の規定に違反し、質問検査権行使の前提条件を欠いた調査である。 | イ 法令上、通則法第74条の9第1項に規定する通知を行う主体は税務署長とされているところ、財務省組織規則により、税務署長を補助する国税調査官は、命を受けて内国税の課税標準の調査に関する事務を処理するとされていることから、これにより、本件調査担当職員は、上記調査に関する事前通知を行うことができることになるので、本件事前通知は適法に行われたものである。なお、事前通知の履行に際し、税務署長の代理である旨を通知し、また、事前通知を書面で行わなければならないとする法律上の規定はない。 |
ロ 請求人の質問に対する回答もなく、事業の経費を家事関連費と思い込み一方的に決め付けた更正通知は、通則法第7章の2《国税の調査》の質問検査権に違反する。通則法第24条《更正》の規定に照らすと原処分庁の調査手続に重大な違法があり、調査により課税処分をしたと評価できないものである。 |
ロ 本件調査担当職員は、本件領収書等に係る各支出がどの勘定科目に計上されているかを判断するための資料の提示を求め、本件領収書等について全てを書き写す作業を行い、そして、家事関連費と認められる支出が多くあったため、生活費は必要経費として認められないことについての説明などをすることにより調査を行ったものである。 また、調査が違法な調査手続に基づいて行われたとも認められない。 |
ハ 請求人は本件一覧表記載の支出に係る領収書等についての証拠書類の提出を求められたが、それが何であるか具体的な説明はなく、本件一覧表記載の内容につき説明等を求める書面(上記1の(4)のロの(ホ))に「領収書等以外にあるならば」と書かれているように、それは法で求められた帳簿等には属さない法定外文書であり、そういった資料を求める権限は本件調査担当職員にはない。 | ハ 法令上、当然に請求人において記帳及び保存されているべき帳簿書類等について、確認や領収書等の提示を求めたものであり、法定外資料の提示を求めたものではない。また、通則法第74条の2は税務職員の質問検査権に関して規定しており、当該規定に基づく質問検査の細目については、社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限のある税務職員の合理的な選択に委ねられていると解されている。 |
ニ 請求人は調査に当たり要求された資料を全て提出したにもかかわらず、本件調査担当職員は、調査の理由を明示しないし、請求人からの質問についても回答しなかった。請求人の申告のどこが悪くどのように改善すればよいのか質問しても回答がなく、本件調査担当職員の態度は一方的で威圧的であった。したがって、このような社会正義を無視し、不誠実で横暴な調査は公序良俗に反するものであり不当である。 | ニ 本件調査担当職員の態度が一方的・威圧的・横暴であったということを認めるに足る事実もないことから、本件調査が違法な手続に基づいて行われたとも認められず、本件調査において課税処分の基礎となる資料を収集した手続が、刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上の限度を超えて濫用にわたる等重大な違法を帯びているとは認められない。 |
ホ 連絡を求める行政指導の書面(上記1の(4)のロの(ヘ))に、連絡のない場合、調査結果の内容の説明に応じる意思がないものとする旨が書かれているが、これは行政指導が相手方の任意の協力を前提とする旨を規定した行政手続法第32条に違反し、これを理由に結果の内容の説明をしなかったのであれば、行政指導に従わなかったことを理由に不利益な取扱いをすることを禁じた同条第2項に違反する。 | ホ 本件調査は、通則法第74条の2第1項第1号に基づき請求人に対して質問検査等を行っていたのであって、行政手続法に基づく行政指導を行っていたわけではない。 |
ヘ 請求人は調査結果の内容の説明を書面でするように求めたにもかかわらず、調査終了時にその結果の内容について説明がないまま本件各通知書が送付されたことは、通則法第74条の11第2項の規定に違反する。 | ヘ 調査結果の内容の説明については、本件調査担当職員が、再三にわたり自宅への臨場や電話により請求人との接触を試みたが請求人からの連絡がなかったのであり、むしろ、請求人がその説明を拒んだものと認められる。 |
(2) 争点2(更正の理由付記に不備があるか否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
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イ 不動産所得に係る理由付記について、本件各通知書に記載されている「処分の理由」には、本件調査の結果に基づく請求人の不動産所得の必要経費に算入できない金額及びその理由等について、原処分庁の恣意抑制及び更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に示していることから、当該理由付記に何ら不備はない。 | イ 不動産所得に係る理由付記について、本件各通知書に記載されている「処分の理由」には、本件各別表の支出については資料が提出されていないから必要経費に算入できない旨の記載しかなく、要求され提示した資料等以外に具体的にどのような資料を提出すべきかの説明もないまま、単に資料の提出がなかったと指摘するだけであり、必要経費に該当しないことの具体的な理由・法的根拠について明示しておらず、いかなる事実に対する法的評価であるか判別できないため、所得税法第155条第2項に規定する理由付記として不備がある。 |
ロ 雑所得に係る必要経費については、P社から請求人に支払われた金員に含まれる交通費・宿泊費が必要経費として認められる旨及びその金額が示されており、当該理由付記に何ら不備はない。 | ロ 雑所得に係る必要経費については、P社からの収入に対して一部経費を認めているが、何月何日のどの領収書に係る支出を認めたのか分からないため理由付記に不備がある。 |
(3) 争点3(請求人が主張する各支出は、不動産所得の金額及び雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべきか否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
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イ 請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額のうち、本件修繕費等の金額は、原処分額(別表2)のとおり、平成23年分は163,920円、平成24年分は727,315円及び平成25年分は274,327円である。 | イ 請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき本件修繕費等の金額は、別表3のとおり、修繕費及び水道光熱費の合計額であり、平成23年分は663,315円、平成24年分は534,340円、平成25年分は434,437円である。 |
ロ 雑所得(公的年金等以外)に係る必要経費は、P社からの収入に含まれる交通費・宿泊費の合計額(平成23年分16,220円、平成24年分175,600円、平成25年分148,000円)である。 | ロ 雑所得(公的年金等以外)は、P社から依頼された本件業務に係るものであり、地方へ出張して行う場合もある。P社から支払われる交通費等の金額は実際にかかった金額ではなく同社が想定した金額であることから、実際にかかった交通費、宿泊費及び食事代等については必要経費に算入すべきである。 |
4 判断
(1) 争点1(原処分は本件調査の手続の違法等を理由に取り消されるべきか否か。)について
-
イ 法令解釈
- (イ) 通則法は、第7章の2において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解される。
もっとも、通則法は、第24条の規定による更正処分、第25条《決定》の規定による決定処分、第26条《再更正》の規定による再更正処分等について、いずれも「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の取消事由となるものと解される。そして、これには、調査を全く欠く場合のみならず、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続(以下「証拠収集手続」という。)に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合も含まれるものと解され、ここにいう重大な違法とは、証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの場合をいうものと解するのが相当である。
他方で、証拠収集手続自体に重大な違法がないのであれば、課税処分を調査により行うという要件は満たされているといえるから、仮に、証拠収集手続に影響を及ぼさない他の手続に重大な違法があったとしても、課税処分の取消事由となるものではないと解される。 - (ロ) 通則法第74条の2第1項は、上記1の(3)のイの(イ)のとおり規定するところ、同項に基づく質問検査等の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査等の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解するのが相当である。
- (イ) 通則法は、第7章の2において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解される。
- ロ 当てはめ及び請求人の主張について
- (イ) 請求人は、通則法第74条の9第1項による事前通知をするのは税務署長とされているところ、本件事前通知をしたのは本件調査担当職員であることから、本件事前通知は同項の規定に違反し原処分の取消事由に該当する旨主張する。
確かに、通則法第74条の9第1項の条文上、「税務署長等」と「当該職員」の文言は区分して規定されているところ、財務省組織規則第556条第2項は、国税調査官は、命を受けて、「内国税の課税標準の調査及び内国税に関する検査に関する事務」を処理することと規定している。そして、当該事務には、通則法第74条の9第1項に規定する税務署長等の行う事前通知も含まれ、命を受けた国税調査官が「当該職員」として当該事務を実施すると解するのが相当である。そうすると、命を受けた国税調査官である「当該職員」が納税者に対し実地の調査を行う旨を事前通知する際には、上記規定に基づいて、税務署長等の名において通知したものと解すべきである。
また、同条の規定は、そもそも平成23年12月の税制改正において、調査手続の透明性及び納税者の予見可能性を高め、調査に当たって納税者の協力を促すことで、より円滑かつ効果的な調査の実施と申告納税制度の一層の充実・発展に資する観点から、税務調査に先立ち、課税庁が原則として事前通知を行うことを法律上明確化することとされたものであり、本件においても、本件調査担当職員が電話で請求人に対し事前通知を行ったことにより、その趣旨は十分に満たされているといえる。
したがって、本件調査担当職員が、税務署長の命を受けて、請求人に対して調査を行う旨を事前通知したことは、通則法第74条の9第1項の規定に基づき適法に行われており、質問検査権行使の前提条件を欠いた調査であるという請求人の主張は採用できない。また、事前通知の手段については、法令上、書面で行うべき定めはないことから、この点に関する請求人の主張も採用できない。 -
(ロ) 請求人は、請求人の質問に対する回答もなく、事業の経費を家事関連費と思い込み一方的に決め付けた更正通知は、調査により課税処分をしたと評価できないものである旨主張する(上記3の(1)の「請求人」欄のロ)。
しかしながら、本件調査担当職員は、上記1の(4)のロの(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人の指定した場所で請求人及びNへの質問調査及び本件領収書等の調査を行い、不動産所得に係る必要経費として疑義があると判断した支出については、同(ホ)のとおり、本件一覧表を作成した上で請求人に説明を求めるなどしており、本件各更正処分等の基礎となる証拠資料はこれらの調査手続により適法に収集されたものである。したがって、本件各更正処分は、適法な調査を経て行われたものであると認められるから、これを調査により課税処分をしたと評価できないものとする請求人の主張には理由がない。
次に、請求人は、本件一覧表の記載内容につき請求人の不動産所得に係る業務との関連性の説明の裏付けとなる資料の提出を求めたことは本件調査担当職員の権限に属さない法定外文書の提示を求めるものであること(上記3の(1)の「請求人」欄のハ)、及び本件調査担当職員の態度は威圧的であり本件調査は公序良俗に反し不当であること(同ニ)を、原処分の取消事由として主張する。
これらについて、請求人の主張する「法定外文書」が何を意味するか明らかではないが、ある支出が必要経費に算入されるためには、各支出が所得を生ずべき業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要であることを判断すべきであるから(下記(3)のイ)、税務職員が、これを判断し得る具体的な説明を納税者に求めるとともに、この説明の裏付けとなる証拠書類等の提示を求めることは何ら不合理なことではなく、また、調査において検査又は提示若しくは提出の対象は、上記1の(3)のイの(イ)のとおり、「その者の事業に関する帳簿書類その他の物件」とされていることから、帳簿書類に限られるものではなく、その提示要求の具体的な範囲は、上記イの(ロ)のとおり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられている。そして、本件調査において本件調査担当職員が本件領収書等に係る各支出について、請求人に対し、不動産所得に係る業務との関連性の説明の裏付けとなる証拠書類等の提示を求めたことは、これらの規定に基づく正当な権限の行使に当たるものであり、必要経費該当性の判断において質問検査等の必要性が認められ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度を超えるといった事実も認められない。さらに、請求人が上記3の(1)の「請求人」欄のニにおいて主張する本件調査を不当たらしめる公序良俗に反する事実も認められない。
以上のことからすれば、本件調査に係る証拠収集手続に請求人の主張するような本件調査を違法又は不当として原処分を取り消すべき事実は認められず、これらの請求人の主張にはいずれも理由がない。 -
(ハ) さらに、請求人は、原処分庁が請求人に連絡を求める目的で差し置いた書面に連絡がない場合は調査結果の内容の説明に応じる意思がないものとして、これを理由に調査結果の説明をしなかったのであれば、行政手続法に違反すること(上記3の(1)の「請求人」欄のホ)、そして、調査結果の内容の説明がなかったことが通則法第74条の11第2項に違反すること(同ヘ)から、これらは原処分の取消事由に該当する旨主張する。
しかしながら、上記書面の記載内容は、調査結果の内容の説明を目的として連絡を求めるものであるところ(上記1の(4)のロの(ヘ))、調査結果の内容の説明は調査の終了の際の手続であって、既に行われた証拠収集手続の適法性に影響を及ぼすものではないことから、請求人の主張する行政手続法違反の有無及び調査結果の内容の説明の有無は、原処分の違法事由とはならない。 - (ニ) 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件調査の手続において何ら違法又は不当とすべき事実は認められないことから、本件各更正処分等に取り消されるべき理由はない。
- (イ) 請求人は、通則法第74条の9第1項による事前通知をするのは税務署長とされているところ、本件事前通知をしたのは本件調査担当職員であることから、本件事前通知は同項の規定に違反し原処分の取消事由に該当する旨主張する。
(2) 争点2(更正の理由付記に不備があるか否か。)について
- イ 法令解釈
所得税法第155条第2項が青色申告に係る所得税について更正をする場合には更正通知書に更正の理由を付記すべきものとしているのは、法が、青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑み、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものというべきであり、したがって、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に付記すべき理由としては、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要するが、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては、当該更正は納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を上記の更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないと解するのが相当である。
また、青色申告事業者に対する更正であっても、青色申告に係る所得以外の所得を更正する場合は、帳簿書類に基づく調査が前提とされていないのであるから、必ずしも帳簿の記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示する必要はなく、付記すべき理由としては、更正の根拠を上記更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正の理由付記として欠けるところはないと解するのが相当である。
- ロ 当てはめ
- (イ) 不動産所得に係る処分の理由をみると、本件各通知書の「処分の理由」には、別紙4の1のとおり、原処分庁が請求人の不動産所得の必要経費として認められないと判断した各支出については、本件各別表として、支払月日、支払額、取引内容等を個々に示した上で、これらの支出については必要経費に該当しない旨及びその理由が記載されている。そして、本件各更正処分の上記必要経費の否認部分は、本件各別表記載の各支出について、請求人の本件各年分の不動産所得の必要経費に係る支出の事実及び支払金額について帳簿の記載自体を否認することなく行われたものである。
また、雑所得に係る処分の理由をみると、雑所得は青色申告に係る所得以外の所得であるところ、本件各通知書の「処分の理由」には、別紙4の2のとおり、雑所得に係る収入金額は、請求人の本件業務に係る報酬の支払先であるP社からのものであることを明示した上、必要経費については、当該収入金額に含まれる交通費・宿泊費の合計額を必要経費として認めた旨が記載されている。 - (ロ) そして、以上の本件各通知書の処分の理由の記載の状況からすれば、本件各更正処分等の根拠が、上記イにおける更正処分庁の判断の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示しているものと認められ、法の要求する更正の理由付記として何ら欠けるところはないことから、本件各通知書の理由付記に原処分を取り消すべき不備はない。
- (イ) 不動産所得に係る処分の理由をみると、本件各通知書の「処分の理由」には、別紙4の1のとおり、原処分庁が請求人の不動産所得の必要経費として認められないと判断した各支出については、本件各別表として、支払月日、支払額、取引内容等を個々に示した上で、これらの支出については必要経費に該当しない旨及びその理由が記載されている。そして、本件各更正処分の上記必要経費の否認部分は、本件各別表記載の各支出について、請求人の本件各年分の不動産所得の必要経費に係る支出の事実及び支払金額について帳簿の記載自体を否認することなく行われたものである。
-
ハ 請求人の主張について
請求人は、本件各通知書の「処分の理由」には、不動産所得の必要経費として認められない理由として、要求され提示した資料等以外にどのような資料を提出すべきかなどの記載がないため、具体的な理由・法的根拠を明示していないこと(上記3の(2)の「請求人」欄のイ)、及び雑所得の必要経費について何月何日のどの領収書を必要経費として認めたのか分からないこと(同ロ)から理由付記に不備がある旨主張する。
しかしながら、本件各通知書に係る理由付記については、上記ロの(イ)のとおり、不動産所得については、原処分庁が必要経費に算入できないと判断した各支出を個々に示した上で、必要経費に算入できない旨及びその理由が記載され、また、雑所得の必要経費については、請求人の本件業務に係る報酬の支払先であるP社からの収入金額に含まれる交通費・宿泊費の合計額とした旨が記載されており、本件各更正処分の根拠が更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に記載されており、法の要求する更正の理由付記として欠けるところはない。
したがって、請求人の主張には理由がない。
(3) 争点3(請求人が主張する各支出は、不動産所得の金額及び雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべきか否か。)について
- イ 法令解釈
所得税法第37条第1項に規定する「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、当該支出が所得を生ずべき業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要なものに限られると解するのが相当であり、かかる費用に該当するか否かの判断は、単に業務を行う者の主観的な動機・判断によるのではなく、当該業務の内容や、当該支出の趣旨・目的等の諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして客観的に行われなければならないと解される。
- ロ 検討
- (イ) 不動産所得の必要経費について
本件調査担当職員は、上記1の(4)のロの(ロ)、(ハ)及び(ホ)のとおり、請求人が不動産所得の必要経費に算入した各支出について、本件領収書等に記載された支払先や内容を確認するなどの検討を経て、当該各支出の必要経費該当性を判断し、必要経費に該当しないと判断したものを抽出した上で、この判断の結果を請求人に対して本件一覧表において示すとともに、このうち必要経費に該当するものがあれば、これを裏付ける証拠書類等の提出及び具体的な説明を求めている。そして、原処分庁は、当該求めにもかかわらず、請求人から何ら回答がなかったことから、最終的に本件各別表記載の各支出を、請求人の不動産所得を生ずべき業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要であるとは認められないものとして必要経費に算入できないと判断したほか、本件修繕費等の金額について別表2の金額を認定したものである。
これに対し、請求人は、本審査請求において、本件各別表に係る理由付記について不備があるとして原処分の取消しを主張するもこれらの金額の必要経費該当性については争わず、上記3の(3)の「請求人」欄のイのとおり、本件修繕費等の金額について、別表3の金額を必要経費に算入すべき旨を主張している。別表3の金額は、原処分において本件修繕費等として認定された別表2の金額と相違し、また、請求人は、本件各年分の申告においてあえて必要経費に算入していない経費がある旨を当審判所における面談時に示唆していたことから、当審判所は、請求人に対して、請求人の主張を裏付ける証拠書類等の提出及び具体的な説明を再三にわたり求めたにもかかわらず、請求人はこれに応じず、主張を裏付ける証拠書類等の提出(下記Bの(C)の電気料金の領収証及び水道料金の振替のお知らせを除く。)及び具体的な説明をしなかった。
また、請求人は、上記1の(4)のロの(ホ)及び同ニのとおり、本件調査及び異議申立てに係る調査において、原処分庁及び異議審理庁からの不動産所得の必要経費に該当する旨の説明の求めにも応じておらず、このような状況の下、当審判所としては、本件修繕費等に係る各支出の事実の有無、当該各支出が請求人の不動産所得を生ずべき業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要なものであるか否か、その他必要経費に算入すべき支出の有無について原処分関係資料に基づいてその適否を判断するほかはないところ、これらの資料を調査した結果は次のとおりである。
- A 別表2の金額
原処分庁が本件修繕費等として主張する別表2の各支出は、原処分庁が本件領収書等に基づいて請求人の不動産所得を生ずべき業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要であると認めたものであり、当審判所においてもこれを不相当とすべき理由は認められない。
- B その他必要経費に算入すべき金額
本件各別表に記載された各支出の必要経費該当性については、請求人は争っておらず、また、当該各支出のうちに必要経費に算入すべきものがあったとしても請求人は不動産所得を生ずべき業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要である旨を説明していないことからすれば、当該各支出は請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないというべきである。
一方で、本件書写資料、本件一覧表その他の原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各支出は必要経費に算入すべきであると認められる。
- (A) 振込手数料
本件書写資料によれば、別表2の平成23年2月24日の修繕費56,700円は振込みにより支払われ、この振込みの際、手数料210円を支払っている旨の記載があり、また、本件一覧表の同日付の取引内容等欄にも同様の記載がある。
このことからすれば、当該支出(210円)は必要経費に算入されるべきであるところ、平成23年分の更正処分において必要経費に算入されていないため、同年分の必要経費に算入すべきである。
- (B) 修繕費
本件書写資料によれば、平成25年8月15日にQ社Rに対し、「Sアンテナ工事」として29,505円が支払われており、また、当該支出は、本件一覧表に必要経費として疑義がある旨の記載はされていないことからすれば、原処分庁は、本件一覧表作成時において、これを必要経費に該当するものと判断していたものと解される。そして、平成25年分の更正処分において当該支出は必要経費に算入されておらず、本件一覧表の作成・交付から更正処分額の算定までの間においてこれを必要経費に該当しないとした合理的な理由も認められないことから、これを同年分の必要経費に算入すべきである。
- (C) 水道光熱費
原処分庁は、水道光熱費について、本件領収書等により請求人の不動産所得を生ずべき業務に係るものと確認することができたもののみを必要経費に算入したものと認められる。
しかしながら、請求人から当審判所に提出された平成28年2月分の電気料金の領収証及び水道料金の振替のお知らせ、原処分関係資料並びにこれらに基づく当審判所の調査の結果によれば、別表2のとおり、本件各更正処分において必要経費に算入された水道光熱費(平成24年分は電気料金165円、平成25年分は電気料金423円及び水道料金644円)のほか、上記1の(4)のイのアパートの共用部分に係る電気及び水道の使用及び料金の支払が認められたことから、本件各年分において請求人が負担した電気料金及び水道料金の支払金額の合計額(平成23年分は72,593円、平成24年分は62,974円、平成25年分は39,561円)を本件各年分の必要経費に算入すべきである。
- (A) 振込手数料
- A 別表2の金額
- (ロ) 雑所得の必要経費について
本件業務の依頼に際してP社から請求人に送付される「健康診断業務依頼書」には、@交通費を事前に同社にて計算の上支払う旨、Aタクシー利用の場合は領収証を同社に送付するように依頼する旨、及びB予定外の交通費等が発生した場合は同社に相談を依頼する旨などが記載されているところ、原処分庁は、当該依頼書の記載内容及びP社従業員への聴取りの結果により、請求人が負担すべき交通費等の実費相当額としてP社から支給された金額については、請求人の雑所得に係る業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要なものであるとして必要経費に算入したものと認められる。
これに対し、請求人は、雑所得の必要経費について、実際にかかった交通費等の金額を必要経費に算入すべきである旨を繰り返し主張するが、主張する事実を明らかにする証拠書類等を提出していない。
これらのことからすると、原処分庁の必要経費の額の算定方法を不相当とする理由はなく、また、請求人が、本件各更正処分において原処分庁が雑所得の必要経費に算入した金額を超える本件業務に必要な交通費等を支払ったとする事実を認めることはできず、請求人の主張する交通費等は、必要経費に算入することはできないといわざるを得ない。
- (ハ) 小括
以上のとおり、請求人が主張する各支出は不動産所得の金額及び雑所得の金額の計算上必要経費に算入することはできず、一方で、別表4のとおり、上記(イ)のBの各金額を請求人の本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に追加して算入すべきである。
- (イ) 不動産所得の必要経費について
(4) 本件各更正処分について
請求人の本件各年分の不動産所得の金額及び雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は上記(3)のロの(ハ)のとおりであるから、これを前提に請求人の本件各年分の納付すべき税額を計算すると、本件各年分の納付すべき税額は、本件各更正処分の額をいずれも下回るから、本件各更正処分は、いずれもその一部を別紙1ないし別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
(5) 本件各賦課決定処分について
上記(4)のとおり、本件各更正処分の一部がそれぞれ取り消されることに伴い、過少申告加算税の基礎となる税額は、平成23年分は○○○○円、平成24年分は○○○○円及び平成25年分は○○○○円となるところ、これらの税額の計算の基礎となった事実が、本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて本件各年分の過少申告加算税の額を計算すると、平成23年分は○○○○円、平成24年分は○○○○円及び平成25年分は○○○○円となる。
そうすると、本件各年分の過少申告加算税の額は、本件各賦課決定処分の額をいずれも下回るから、本件各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙1ないし別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
(6) その他
原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
別表1 審査請求に至る経緯(省略)
別表2 本件各更正処分における本件修繕費等(原処分額)(省略)
別表3 請求人が主張する本件各年分の本件修繕費等の内訳(省略)
別表4 必要経費に算入すべき本件修繕費等(審判所認定額)(省略)
別紙1〜別紙3 「取消額等計算書」(省略)