(平成28年11月8日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、相続税の申告において課税価格に算入されていなかった被相続人の家族名義の各預貯金は相続財産であり、さらに、審査請求人らを契約者とする各生命保険契約等に関する権利は相続財産とみなされるとして各更正処分等を行ったのに対し、審査請求人らが、当該各更正処分等で相続財産と認定された各預貯金及び相続財産とみなされた各生命保険契約等に関する権利は、被相続人から贈与された資金などを原資としたものであり相続財産に当たらないなどとして、各更正処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

以下の事実は、審査請求人らと原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。

  • イ 審査請求人P2(以下「請求人P2」という。)は、P6(以下「被相続人」という。)の配偶者であり、また、審査請求人P3、同P1及び同P4(以下、順に「請求人P3」、「請求人P1」及び「請求人P4」という。)は、被相続人の子であり、いずれも被相続人の共同相続人である(以下、請求人P2、請求人P3、請求人P1及び請求人P4を併せて「相続人ら」という。)。相続人らのほかに被相続人の共同相続人はいない。
     また、審査請求人P5(以下「請求人P5」といい、相続人らと併せて「請求人ら」という。)は、請求人P1の妻であり、P7、P8(旧姓P9であり、以下「P9」と記載する。)及びP10は、いずれも請求人P1及び請求人P5の子である。
  • ロ 被相続人は、平成24年2月○日に死亡し、相続人らが被相続人の権利義務を相続した(以下「本件相続」という。)。
  • ハ 相続人らの間で、平成24年8月1日、遺産分割協議が成立し、本件相続に係る相続財産のうち、別紙3記載の各預貯金及び出資金についてはいずれも請求人P2が取得し、また、遺産分割協議書に記載漏れの財産があった場合、当該財産は全て請求人P2が取得するものとされた。
  • ニ 相続人らは、本件相続に係る相続税について、申告書(以下「本件申告書」という。)に別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
     なお、請求人P5は、本件相続に係る相続税の申告書の提出をしていない。
  • ホ 原処分庁は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員の調査(以下「本件調査」という。)に基づき、別表2記載の各預貯金(以下「本件各預貯金」という。)は、本件相続に係る相続財産であり、また、別表3から別表6までに記載の各生命保険契約及び各共済契約(以下「本件各生命保険契約等」という。)に関する権利については、相続税法第3条《相続又は遺贈により取得したものとみなす場合》の規定により本件相続に係る相続財産とみなされるなどとして、平成27年6月26日付で、本件相続に係る相続税について、いずれも別表1の「更正処分等」欄記載のとおり、相続人らに対する各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分並びに請求人P5に対する決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をした(以下、上記各更正処分と上記決定処分を併せて「本件各更正処分等」といい、上記過少申告加算税の各賦課決定処分及び上記無申告加算税の賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分等と本件各賦課決定処分を併せて「本件各処分」という。)。
     なお、本件各処分に係る各通知書(ただし、請求人P4に対するものを除く。)に記載された処分の理由(以下「本件各付記理由」という。)の要旨は、それぞれ別紙4-1から別紙4-4までに記載のとおりである。
  • ヘ 請求人らは、本件各処分を不服として、平成27年8月18日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月28日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
  • ト 請求人らは、異議決定を経た後の本件各処分に不服があるとして平成27年11月19日に審査請求をした。
     なお、請求人らは、請求人P1を総代として選任し、同月20日、その旨を当審判所に届け出た。

(3) 関係法令の要旨

別紙5のとおりである(なお、別紙5で定義した略語は、以下本文でも用いる。)。

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2 争点

  • (1) 本件各付記理由は、行政手続法第14条第1項本文に規定する理由提示の要件を欠いているか否か(争点1)。
  • (2) 本件各預貯金は相続財産であるか否か(争点2)。
  • (3) 本件各生命保険契約等に関する権利は相続財産とみなされる財産であるか否か(争点3)。

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3 争点についての主張

(1) 争点1(本件各付記理由は、行政手続法第14条第1項本文に規定する理由提示の要件を欠いているか否か。)について

  • イ 請求人らの主張

    本件各付記理由には、本件各更正処分等の対象となった事実関係についての個別具体的な理由説明がなく、包括的な理由しか記載されていないので、行政手続法第14条第1項本文に規定する理由提示の要件を欠いている。

    また、本件各付記理由に記載された事実のうち、下記ロ(イ)並びに(ロ)C及びDについては、憶測による結論のみであり、裏付けとなる事実についての記述が一切なく、上記の理由提示の要件を欠いている。

  • ロ 原処分庁の主張

    本件各付記理由では、本件各預貯金については、要旨下記(イ)のとおり、本件各生命保険契約等に関する権利については、要旨下記(ロ)のとおり、各事実が記載されており、その事実に対する法的評価として本件各預貯金及び本件各生命保険契約等に関する権利が相続財産又は相続財産とみなされる財産に該当すると記載されていることから、本件各付記理由は、行政手続法第14条第1項本文に規定する理由提示の要件を欠くものとはいえない。

    • (イ) 本件各預貯金について
      • A 管理及び運用は被相続人が行っていたと認められること。
      • B 被相続人の事業に係る収入から設定されたものであると認められること。
      • C 本件各預貯金は過去において贈与されたものとは認められないこと。
    • (ロ) 本件各生命保険契約等に関する権利について
      • A 本件各生命保険契約等は本件相続の開始時においていずれも保険事故が発生していないこと。
      • B 本件各生命保険契約等の契約者は、請求人P1、請求人P2、請求人P3及び請求人P5となっていること。
      • C 被相続人は十分な資力を有する一方、本件各生命保険契約等の名義人は保険料(共済掛金を含む。以下同じ。)を負担する資力があるとは認められないから、被相続人が本件各生命保険契約等の保険料の全額を負担していたと認められること。
      • D 本件各生命保険契約等に係る保険料の贈与があったとは認められないこと。

(2) 争点2(本件各預貯金は相続財産であるか否か。)について

  • イ 原処分庁の主張
    • (イ) 本件各預貯金の管理及び運用の状況について

      請求人P2は、本件調査において、被相続人の財産の管理は請求人P2が行っており、被相続人と相談しながら、銀行手続を行ったり、生命保険に加入したりしてきた旨申述していることからすると、被相続人及び請求人P2が共同して管理及び運用を行っていたと認められる。

    • (ロ) 本件各預貯金の原資の出捐者について
      • A 被相続人は、昭和37年頃からL店の事業主であり、本件各預貯金を形成するのに十分な資力を有していたと認められる。
      • B これに対し、請求人P3は、本件相続の開始時以前において被相続人の事業専従者であったことに加え、本件調査の際、1高校を卒業した昭和○年4月以降、被相続人の事業に従事し、被相続人から毎月30,000円から50,000円程度の金銭をもらっていた旨、及び2請求人P2の叔母から3,000,000円に満たないくらいの贈与があった旨申述していることから、請求人P3に別表2の順号1から4までに記載の財産(合計17,180,021円)を形成する資力があったとは認められない。
      • C また、請求人P5は、本件相続の開始時以前において被相続人の事業専従者であり、P9及びP10は、同人ら名義の預金の設定時において学生であったことから、別表2の順号5から15までに記載の財産(合計25,851,584円)を形成する資力があったとは認められない。
    • (ハ) 贈与の事実の有無について

      本件各預貯金の管理及び運用については、上記(イ)のとおり、被相続人及び請求人P2が共同して行っていたものと認めるのが相当であり、そのほかに贈与があったと認められる事実もないことから、請求人らが被相続人から本件各預貯金の贈与を受けたとは認められない。

    • (ニ) まとめ

      以上のとおり、本件各預貯金は、被相続人及び請求人P2が共同して管理及び運用を行っていたと認められ、本件各預貯金の名義人それぞれの収入の状況及び請求人ら(ただし、請求人P4を除く。)が被相続人の事業専従者であったことを勘案すると、請求人らは、本件各預貯金の原資の出捐者とは認められず、加えて、被相続人から請求人らに贈与があったと認められる事実がないことから、本件各預貯金は、被相続人に帰属する。

      したがって、本件各預貯金は相続財産である。

  • ロ 請求人らの主張
    • (イ) 本件各預貯金の出捐に係る請求人らの主張は次のAからJまでのとおりである。

      なお、本件相続の開始前3年以内の被相続人からの贈与分については、関与税理士の指摘を受け相続財産と認識して申告済みであり、それ以前に設定した本件各預貯金についても、本件相続の開始前3年以内の贈与分と同様に被相続人からの贈与資金及び自己資金をもって設定したものである。

      • A 別表2の順号1記載の定期預金の原資は、M銀行○○支店の請求人P3名義の定期預金口座(口座番号○○○○)の払戻金5,020,173円(解約日平成19年9月26日)であり、当該定期預金は被相続人からの贈与資金等で設定した。
      • B 別表2の順号2記載の定期預金5,000,000円のうち1,000,000円は、請求人P3の自己資金(自分でためたお金)であり、残りは被相続人から贈与された金員である。
      • C 別表2の順号3及び4記載の各定期預金の原資は、請求人P3の自己資金(自分でためたお金)である。
      • D 別表2の順号5記載の○○貯金は、平成10年1月22日にN銀行○○支店の請求人P5名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「N銀行P5口座」という。)から引き出した190,000円に、請求人P5の自己資金(手持金)10,000円を足して設定したX銀行の○○貯金200,000円を、平成20年1月22日に通帳式に書き換えたものである。
      • E 別表2の順号6記載の○○貯金の原資は、当該○○貯金の設定日(平成15年7月29日)にN銀行P5口座から引き出した1,800,000円である。
      • F 別表2の順号7記載の○○貯金の原資は、当該○○貯金の設定日(平成21年1月21日)にN銀行P5口座から引き出した400,000円及び請求人P5の自己資金(手持金)800,000円である。
      • G 別表2の順号8及び9記載の各○○貯金の原資は、請求人P5が自己資金で掛けていたQ生命の養老保険(契約番号○○○○)の満期保険金5,000,000円(満期日平成20年11月25日)の一部である。
      • H 別表2の順号10から13までに記載の各定期預金の原資は、被相続人から贈与された金員である。
      • I 別表2の順号14記載の定期預金の原資は、平成23年2月7日に支払われた、請求人P1が契約者であるR生命の養老保険(契約番号○○○○)の満期保険金2,002,648円の一部である。
         なお、当該保険に係る保険料は、被相続人からの贈与資金等により支払った。
      • J 別表2の順号15記載の定期預金の原資は、平成23年2月9日にN銀行P5口座から引き出した500,000円である。
    • (ロ) 本件各預貯金は、名義人である請求人ら(P9名義及びP10名義の各預金については、請求人P1又は請求人P5)がそれぞれ管理しており、また、常日頃生活を共にし、常に相談しながら預貯金の設定をしてきたものであり、請求人P2が独断で管理及び運用をしているものではない。
    • (ハ) 本件各預貯金において使用された大半の印鑑が同一の印鑑であることについては、請求人らは常日頃生活を共にしており、今まで同一の印鑑で何ら不都合がなかったことから、便宜上同一の印鑑で間に合わせていたものである。
    • (ニ) 以上のとおり、本件各預貯金は、被相続人からの贈与資金及び請求人らの自己資金をもって設定されたものであるから、相続財産ではない。
    • (ホ) なお、原処分庁は、調査初日(平成26年8月4日)の請求人らの申述(別紙4-1の1(1)イ(イ)、ハ(イ)から(ハ)まで及び(3)ハ(イ)、別紙4-2の1(1)ハ(ロ)から(ニ)まで並びに別紙4-3の1(1)ハ(ロ)及び(ニ))を、更正の理由に挙げているが、調査等において納税者は構えるものであり、請求人らは調査初日において当たり障りのない申述をしたにすぎず、これが事実の全てではない。
       また、本件各預貯金について、誰が管理及び保管をしていたのかについて原処分庁は本件調査の際に確認しておらず、また請求人らも提示を求められていない。本件各預貯金は、全て請求人らがそれぞれ管理及び保管をし、かつ、収益を享受していたものである。

(3) 争点3(本件各生命保険契約等に関する権利は相続財産とみなされる財産であるか否か。)について

  • イ 原処分庁の主張
    • (イ) 本件各生命保険契約等に関する権利の原資の負担者について
      • A 被相続人は、上記(2)イ(ロ)Aのとおり、本件各生命保険契約等の保険料を負担するのに十分な資力を有していたと認められる。
      • B 請求人P1は、本件相続の開始時以前において被相続人の事業専従者であったことに加え、本件調査の際、1昭和62年4月以降、被相続人の事業に従事し、被相続人から毎月60,000円程度の金銭をもらっており、2当該金銭については、S銀行に貯蓄していたものの、その貯蓄については、平成11年頃に購入した自宅の敷地の購入資金として全て使ってしまった旨申述していることからすれば、請求人P1に、別表3記載の財産(合計51,356,610円)を形成する資力があったとは認められない。
      • C 請求人P2は、本件相続の開始時以前において被相続人の事業専従者であったことに加え、本件調査の際、1昭和37年以降被相続人の事業に従事しており、被相続人から給与はもらっていなかった旨、及び2被相続人からの贈与はなかった旨申述していることからすれば、請求人P2に、別表4記載の財産(合計17,077,896円)を形成する資力があったとは認められない。
      • D 請求人P3及び請求人P5の資力については、それぞれ上記(2)イ(ロ)B及びCのとおりであり、請求人P3に別表5記載の財産(合計36,162,480円)を、請求人P5に別表6記載の財産(合計○○○○円)を、それぞれ形成する資力があったとは認められない。
    • (ロ) 贈与の事実の有無について

      被相続人から請求人らに対し、本件各生命保険契約等に係る保険料の贈与があったと認めるに足りる事実がないことから、請求人らが被相続人から本件各生命保険契約等に係る保険料の贈与を受けたとは認められない。

      なお、請求人P1及び請求人P2は、平成26年11月4日に、家族名義の預貯金及び生命保険契約等に関する権利のうち本件申告書に計上したもの以外は、被相続人から本件相続の開始前3年より前に贈与されたものである旨申述しているが、同年8月4日には、1請求人P1は被相続人からの贈与について、平成19年頃に住宅の借入金の返済資金について贈与を受けたこと、請求人P1の長男への仕送りの資金を出してもらったことのほか、生活費として必要な都度現金を受け取っていた旨、及び2請求人P2は、被相続人から贈与を受けたことはない旨それぞれ申述しており、両名の申述は一貫性がなく、また、贈与の事実を認めるに足りる証拠もない。

    • (ハ) まとめ

      以上のとおり、請求人らの収入の状況及び請求人らが被相続人の事業専従者であったことを勘案すると、請求人らは、本件各生命保険契約等に関する権利の原資の負担者とは認められず、加えて、被相続人から請求人らに贈与があったと認められないことから、本件各生命保険契約等に関する権利は、相続財産とみなされる財産に該当する。

  • ロ 請求人らの主張
    • (イ) 本件各生命保険契約等の保険料の負担に係る請求人らの主張は次のAからDまでのとおりである。

      なお、本件相続の開始前3年以内の被相続人からの贈与分については、関与税理士の指摘を受け相続財産と認識して申告済みであり、それ以前に設定した本件各生命保険契約等についても、本件相続の開始前3年以内の贈与分と同様に被相続人からの贈与資金及び自己資金をもって設定したものである。

      • A 別表3記載の各保険契約等(請求人P1を契約者とする各保険契約等)について
        • (A) 順号1から14まで及び17の各保険契約等の保険料は、いずれも被相続人からの贈与資金等で一括払した。
           なお、順号4から6、8、10及び12の各保険契約等について、一時金、生存給付金及び入院給付金等は請求人P1が受領しており、使用及び収益等も請求人P1が全て管理している。
        • (B) 順号15の○○共済の掛金914,578円は、請求人P1名義のT信用組合本店(平成○年○月○日付でU信用組合に合併、同日以後U信用組合○○支店に名称変更。以下、合併の前後を問わず「U信用組合○○支店」という。)の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「U信組P1口座」という。)から平成14年9月27日に引き出した1,828,189円の一部で一括払した。
        • (C) 順号16の養老保険の保険料2,628,509円は、平成17年8月11日にU信組P1口座から引き出した1,628,508円及び手持金1,000,001円で一括払した。
      • B 別表4記載の各保険契約(請求人P2を契約者とする各保険契約)について
        • (A) 順号1及び3の各保険契約の保険料は、被相続人からの贈与資金等で一括払した。
        • (B) 順号2の養老保険の保険料5,599,718円は、請求人P2名義のU信用組合○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○)から平成14年6月18日に引き出した2,575,341円及び被相続人からの贈与資金等3,024,377円で一括払した。
        • (C) 順号4の養老保険の保険料(支払保険料総額6,760,366円)は、契約時にその一部を被相続人からの贈与資金等3,669,741円で支払い、その余を平成20年5月26日にU信用組合○○支店の請求人P2名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「U信組P2口座」という。)から引き出した3,090,625円で支払った。
      • C 別表5記載の各保険契約等(請求人P3を契約者とする各保険契約等)について
        • (A) 順号1の養老保険の保険料(支払保険料総額1,762,800円)について、契約時に1,414,300円を被相続人が一括払したが、残りの348,500円は、請求人P3が自己資金で支払った。
        • (B) 順号2から6まで、8及び9の各保険契約等の保険料は、被相続人からの贈与資金等で支払った。なお、順号2から4まで及び8の各保険契約等の使用及び収益等は、請求人P3が全て管理している。
        • (C) 順号7の○○共済の掛金251,089円は、請求人P3の自己資金(手持金)で支払った。
      • D 別表6記載の共済契約(請求人P5を契約者とする共済契約)について
         別表6記載の○○共済に係る掛金5,000,000円は、被相続人からの贈与資金で一括払した。
    • (ロ) 本件各生命保険契約等は、名義人である請求人らがそれぞれ管理しており、請求人らは、常日頃生活を共にし、常に相談しながら保険契約等をしてきたものであり、請求人P2が独断で管理しているものではない。
    • (ハ) 本件調査において被相続人の自宅で保管されていた保険証書については、請求人らが請求人P2に一時的に預けていたものである。
       なお、原処分庁は、本件調査の際、本件各生命保険契約等のうち上記の保険証書に係るもの以外については、誰が管理や保管をしていたか確認しておらず、また、請求人らも提示を求められていない。これらは、全て請求人らがそれぞれ管理及び保管をし、かつ、収益を享受していたものである。
    • (ニ) 請求人らは、本件各生命保険契約等の契約に際し、医師の健康診断を納得して受診しており、被相続人の資金で保険料を支払っているものについては、当該保険料相当分の資金を贈与してもらったと認識している。
    • (ホ) 以上のとおり、本件各生命保険契約等に関する権利は、被相続人からの贈与資金及び請求人らの自己資金をもって設定されたものであるから、相続財産とみなされる財産ではない。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件各付記理由は、行政手続法第14条第1項本文に規定する理由提示の要件を欠いているか否か。)について

  • イ 法令解釈

    行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。そして、同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、上記のような同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである(最高裁平成23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁参照)。

  • ロ 当てはめ

    これを本件についてみると、本件各付記理由の要旨については別紙4-1から別紙4-4までに記載されたとおりであるところ(上記1(2)ホ)、本件各更正処分等の理由として、本件各預貯金及び本件各生命保険契約等に関する権利が相続財産又は相続財産とみなされる財産に該当すると認められる旨記載するとともに、これを前提に相続税の課税価格及び納付すべき税額の算出過程が記載されており、本件各預貯金及び本件各生命保険契約等に関する権利が相続財産又は相続財産とみなされる財産に該当するとの認定に至った過程として、重要な間接事実を記載しているものと認められる。これらの記載内容に照らせば、本件各更正処分等の理由となった事実等を具体的に示しているというべきであり、原処分庁としては、前記のような内容の理由を記載することによって、本件各更正処分等における自己の判断過程を逐一検証することができるのであるから、その判断の慎重、合理性を確保するという点について欠けるところはなく、恣意抑制という趣旨目的を損なうことはないというべきであるし、また、不服申立ての便宜という面からの要請に対しても、必要な材料を提供するものということができるのであるから、行政手続法第14条第1項本文の趣旨に照らし、同項本文の要求する理由提示としては十分であるというべきである。

    したがって、本件各付記理由は、行政手続法第14条第1項本文に規定する理由提示の要件を欠くものではない。

    なお、請求人らは、本件各付記理由は、本件各更正処分等の対象となった事実関係についての個別具体的な理由説明がなく、包括的な理由しか記載されていない、憶測による結論のみで裏付けとなる事実についての記述が一切ないなどと主張するが、本件各付記理由には、本件各更正処分等の理由となった事実についての記載があると認められ、理由提示の要件に欠けるところがあるとは認められないことは上記のとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件各預貯金は相続財産であるか否か。)について

  • イ 認定事実

    請求人ら提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

    • (イ) 被相続人及び本件各預貯金に係る名義人の生活状況等について
      • A 被相続人は、昭和37年頃から亡くなるまでの間、L店の事業主であった。
      • B 請求人P2は、昭和37年に被相続人と婚姻し、その後被相続人が亡くなるまでの間、L店を手伝ってきたが、被相続人から給与の支払を受けていなかった。
      • C 請求人P3は、高校卒業後の昭和○年4月から被相続人が亡くなるまでの間、L店を手伝ってきた。その間、請求人P3は、被相続人から、当初は生活費等の名目で月30,000円から50,000円程度を、平成8年頃以降は月100,000円程度の金員を受け取っていた。
      • D 請求人P1は、専門学校卒業後の昭和62年4月から被相続人が亡くなるまでの間、L店を手伝ってきた。その間、請求人P1は、被相続人から生活費等の名目で、妻である請求人P5と合わせて月60,000円から80,000円程度の金員を受け取っており、また、不足が生ずればその都度金員を受領していたが、平成9年の秋頃から自宅を建築するまでの間は、賃貸アパートに居住しており、その期間においては生活費等として月200,000円程度の金員を受け取っていた。
         なお、請求人P1が被相続人から受け取った金員は、請求人P5が管理していた。
         また、請求人P1は、平成12年にa市(当時はd市)e町○-○の土地を約8,000,000円で購入しており、自己資金の全額を当該土地の購入資金に充てた。さらに、請求人P1は、平成13年には、当該土地上に自宅を建築(被相続人と請求人P1がそれぞれ持分2分の1ずつの共有)しており、自宅建築の資金に充てるため、S銀行○○支店から被相続人と連帯して30,000,000円を借り入れた。請求人P1に係る借入金については、S銀行○○支店の請求人P1名義の普通預金口座(口座番号○○○○)から毎月約120,000円返済していたが、平成19年に当該借入金の返済が完了した。
      • E 請求人P5は、昭和59年4月から会社員として勤めた後、昭和63年3月、請求人P1と婚姻し、以来、被相続人が亡くなるまでの間、L店を手伝ってきた。
      • F P9(平成○年生まれ)及びP10(平成○年生まれ)は、別表2の順号11から15までに記載の各預金が設定された当時(平成20年及び平成23年)、いずれも学生であり、被相続人が死亡した平成24年2月当時、いずれも未成年者であった。また、被相続人に係る平成24年分の所得税の確定申告書には、P9及びP10を扶養親族として扶養控除の適用を受ける旨記載があった。
    • (ロ) 本件各預貯金の設定状況等について
      • A 別表2の順号1、2及び5から15までに記載の各預貯金に係る届出印は、被相続人名義の預貯金口座の届出印と同一の印鑑であった。
      • B 別表2の順号1記載の定期預金に係る定期預金申込書の筆跡は請求人P2のものであり、当該定期預金の原資は、M銀行○○支店の請求人P3名義の定期預金口座(口座番号○○○○)の払戻金(解約日平成19年9月26日)である。
      • C 別表2の順号2記載の定期預金に係る定期預金申込書の筆跡は請求人P2のものである。
         また、当該定期預金(5,000,000円)の設定日である平成19年10月15日に、S銀行○○支店の被相続人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「S銀行被相続人口座」という。)から4,000,000円が引き出された。
      • D 別表2の順号3及び4記載の各定期預金に係る届出印は、いずれも被相続人名義の預貯金口座の届出印とは異なる印鑑であり、また、定期預金入金票の筆跡は請求人P3のものであった。
         なお、別表2の順号3記載の定期預金が申し込まれた日である平成23年6月9日に、被相続人及び請求人P2名義で、各5,000,000円の定期預金口座(U信用組合○○支店、口座番号○○○○及び同○○○○)が設定され、また、同表の順号4記載の定期預金が申し込まれた日である同月21日には請求人P2名義で3,000,000円の定期預金口座(同支店、口座番号○○○○)が申し込まれた。これらの定期預金に係る定期預金印鑑票の筆跡は、いずれも請求人P2のものであり、各定期預金の届出印は、いずれも被相続人名義の預貯金口座の届出印と同一の印鑑であった。
      • E 別表2の順号5から9までに記載の各○○貯金は通帳式であり、同一の通帳で管理されている。
      • F 別表2の順号6記載の○○貯金の原資は、請求人P5名義の○○貯金(○○番号○○○○)の払戻金(平成20年1月22日解約)である。
         なお、上記○○貯金(○○番号○○○○)は、N銀行P5口座から平成15年7月29日に引き出された1,800,000円を原資として設定されたものであり、当該○○貯金の解約時における支払金内訳書の筆跡は、請求人P5のものである。また、N銀行P5口座は、昭和63年5月9日に開設され、その届出印は被相続人名義の預貯金口座の届出印と同一の印鑑であるが、印鑑票の筆跡は請求人P5のものであり、当該口座の通帳の管理は請求人P5が行っていた。そして、当該口座内の入出金内容をみると、公共料金、携帯電話料金及び授業料の支払並びにATMによる小口の入出金が大半を占めている。
      • G 別表2の順号8及び9記載の各○○貯金の原資は、請求人P5名義の○○貯金(額面1,500,000円、○○番号○○○○)の払戻金(平成21年6月30日解約)の一部である。
         なお、上記○○貯金(○○番号○○○○)は、N銀行P5口座から平成20年11月25日に引き出された4,500,000円の一部を原資として設定されたものである。
      • H 別表2の順号10から13までに記載の各定期預金の原資は、S銀行被相続人口座から平成20年9月26日に引き出された20,000,000円である。この引出し時の払戻請求書及び別表2の順号10から13までに記載の各定期預金に係る定期預金申込書の筆跡は、いずれも請求人P2のものである。
      • I 別表2の順号14記載の定期預金の原資は、平成23年2月7日に支払われた請求人P1を受取人とするR生命の養老保険(保険証券記号番号○○○○)の満期保険金2,002,648円(満期日平成23年1月31日)の一部である(当該養老保険の保険料は、その契約日(平成13年2月1日)に全期前納により支払われた。)。
         なお、別表2の順号14記載の定期預金に係る申込書の筆跡は、請求人P5のものである。
      • J 別表2の順号15記載の定期預金の原資は、N銀行P5口座から平成23年2月9日に引き出された500,000円であり、当該定期預金に係る申込書の筆跡は、請求人P5のものである。
    • (ハ) 本件各預貯金の管理及び運用等の状況について
      • A 請求人P2は、被相続人の生前、同人の財産を管理しており、被相続人と相談しながら、銀行の手続や保険の加入の手続を行うなどしていた。
      • B 被相続人、請求人ら(ただし、請求人P4を除く。)、P7、P9及びP10の各名義の預貯金口座においては、別表7記載のとおり、出金された金員を別の者の名義の預貯金口座に入金したものが複数存在していた。
      • C 別表2の順号12記載の定期預金口座は平成25年11月12日に解約され、また、同表の順号1、2、10、11及び13記載の各定期預金はいずれも同月22日に解約されたところ、それらの払戻金は、S銀行○○支店の請求人P2名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「S銀行P2口座」という。)に入金された。
         なお、上記各定期預金の解約時において各預金証書の裏面に記載された署名は、いずれも請求人P2の筆跡である。
      • D 請求人ら(ただし、請求人P4を除く。)及び請求人P1と請求人P5の子らを名義人とする各預貯金のうち、相続人らが申告している各預貯金と本件各預貯金とを除く預貯金の額(本件相続の開始時における額)、並びに、請求人ら(ただし、請求人P4を除く。)を契約者とする各生命保険契約及び共済契約のうち、相続人らが申告している各契約と本件各生命保険契約等とを除く契約に関する権利の価額(本件相続の開始時における価額)は、別表8記載のとおりである。
    • (ニ) 贈与税の申告の有無について

      本件各預貯金の名義人は、本件各預貯金が設定された平成19年分から本件相続の開始した平成24年分までの各年分について、いずれも贈与税の申告をしていない。

  • ロ 検討
    • (イ) はじめに

      ある財産が被相続人以外の者の名義となっていたとしても、当該財産が相続開始時において被相続人に帰属するものであったと認められるものであれば、当該財産は相続税の課税の対象となる相続財産となる。

      そして、被相続人以外の者の名義である預貯金が相続開始時において被相続人に帰属するものであったか否かは、当該預貯金の出捐者、当該預貯金の管理及び運用の状況、当該預貯金から生ずる利益の帰属者、被相続人と当該預貯金の名義人並びに当該預貯金の管理及び運用をする者との関係、当該預貯金の名義人がその名義を有することになった経緯等を総合考慮して判断するのが相当である。

    • (ロ) 本件各預貯金の帰属について
      • A 別表2の順号1記載の定期預金について

        別表2の順号1記載の定期預金の原資が、M銀行○○支店の請求人P3名義の定期預金口座(口座番号○○○○)の払戻金であることは上記イ(ロ)Bのとおりであるところ、請求人らは、原資となった請求人P3名義の上記定期預金口座の預金については被相続人からの贈与資金等で設定した旨主張する。

        しかしながら、上記イで認定した事実によれば、1請求人P2は、被相続人の生前、同人の財産を管理しており、被相続人と相談しながら、銀行の手続や保険の加入の手続を行うなどしていたところ、被相続人、請求人ら(ただし、請求人P4を除く。)、P7、P9及びP10の各名義の預貯金口座においては、別表7記載のとおり、出金された金員を別の者の名義の預貯金口座に入金したものが複数存在すること(上記イ(ハ)A及びB)、2別表2の順号1記載の定期預金に係る定期預金申込書の筆跡は請求人P2のものであり、使用された印鑑も被相続人名義の預貯金口座の届出印と同一の印鑑であること(上記イ(ロ)A及びB)、及び3当該定期預金は、本件相続が開始した後である平成25年11月22日に解約(解約時における証書裏面記載の署名は請求人P2のものである。)され、請求人P3名義以外の名義となっている各定期預金とともにS銀行P2口座へ入金されたこと(上記イ(ハ)C及び別表7)が認められる。

        以上の事実に照らせば、別表2の順号1記載の定期預金は、被相続人の財産を管理してきた請求人P2が一貫して管理及び運用してきたものといえ、当該定期預金が最終的にS銀行P2口座へ入金されるに至ったことを踏まえると、その原資が既に被相続人から請求人P3に贈与されていた資金等で構成されているとは考え難い。そして、請求人P3が贈与税の申告をしていないことは上記イ(ニ)のとおりであり、請求人らの主張を裏付ける契約書等も存しないことを併せ考慮すると、被相続人からの贈与の事実があったと認めることはできない。

        そうすると、別表2の順号1記載の定期預金の原資は、被相続人が出捐したものであり、被相続人の財産を管理してきた請求人P2が一貫して当該定期預金を管理及び運用してきたものと認められる。

        したがって、別表2の順号1記載の定期預金は、本件相続に係る相続財産であると認められる。

      • B 別表2の順号2記載の定期預金について

        上記イで認定した事実によれば、1別表2の順号2記載の定期預金が設定された平成19年10月15日に、S銀行被相続人口座から4,000,000円が引き出されたこと(上記イ(ロ)C)、2請求人P2は、被相続人の生前、同人の財産を管理しており、被相続人と相談しながら、銀行の手続や保険の加入の手続を行うなどしていたところ、被相続人、請求人ら(ただし、請求人P4を除く。)、P7、P9及びP10の各名義の預貯金口座においては、別表7記載のとおり、出金された金員を別の者の名義の預貯金口座に入金したものが複数存在すること(上記イ(ハ)A及びB)、3別表2の順号2記載の定期預金の定期預金申込書の筆跡は請求人P2のものであり、使用された印鑑も被相続人名義の預貯金口座の届出印と同一の印鑑であること(上記イ(ロ)A及びC)、4当該定期預金は、本件相続が開始した後である平成25年11月22日に解約(解約時における証書裏面記載の署名は請求人P2のものである。)され、請求人P3名義以外の名義となっている各定期預金とともにS銀行P2口座へ入金されたこと(上記イ(ハ)C及び別表7)が認められる。

        以上の事実に照らせば、別表2の順号2記載の定期預金については、その原資は被相続人が出捐したものであり、その後、被相続人の財産を管理してきた請求人P2が一貫して管理及び運用してきたものと認められる。

        この点について、請求人らは、当該定期預金の原資のうち1,000,000円については請求人P3の自己資金である旨主張するが、これを認めるに足りる証拠資料はなく、最終的にS銀行P2口座へ入金されるに至る上記の事実経過にも照らせば、請求人の主張には理由がない。

        したがって、別表2の順号2記載の定期預金は、本件相続に係る相続財産であると認められる。

      • C 別表2の順号3及び4記載の各定期預金について

        別表2の順号3及び4記載の各定期預金の設定状況をみると、上記イ(ロ)Dのとおり、定期預金入金票の筆跡は請求人P3であり、届出印も被相続人名義の預貯金口座の届出印とは異なる印鑑が用いられているところである。

        しかしながら、別表2の順号3及び4記載の各定期預金は、預入金額の合計が7,000,000円であるところ、上記イで認定した事実によれば、1被相続人はL店の事業主であったのに対し、請求人P3はL店の事業を手伝ってきたものの、当初は生活費等の名目で月30,000円から50,000円程度を、平成8年頃以降は月100,000円程度の金員を受け取っていたにすぎないこと(上記イ(イ)A及びC)、及び2請求人P3は、本件相続の開始時において本件各預貯金及び本件各生命保険契約等に関する権利以外に別表8の「請求人P3」欄記載の金額(約2,700万円)の財産を有していたこと(上記イ(ハ)D)からすると、請求人P3が別表8記載の金額以外にも自己資金を有していたとは到底考え難い。そして、別表2の順号3及び4記載の各定期預金の申込み又は設定がされた日において、被相続人名義あるいは請求人P2名義の定期預金が同時に設定されたことは上記イ(ロ)Dのとおりであることも踏まえると、別表2の順号3及び4記載の各定期預金については、いずれも被相続人が出捐したものと認めるのが相当である。

        そして、上記の各定期預金が設定された後に、被相続人から請求人P3に対して贈与がされたことをうかがわせる事情はない(請求人らもかかる主張はしていない。)から、上記の各定期預金はいずれも本件相続に係る相続財産であると認められる。

      • D 別表2の順号5から9まで及び15記載の各預貯金について
        • (A) 別表2の順号6、8、9及び15記載の各預貯金の原資が、いずれもN銀行P5口座から引き出された金員又はN銀行P5口座から引き出された金員を原資とする○○貯金の払戻金であることは、上記イ(ロ)F、G及びJのとおりである。また、請求人提出資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、同表の順号5記載の○○貯金の原資についても、N銀行P5口座から引き出された金員を原資とする○○貯金の払戻金であると認められ、この認定を覆すに足りる的確な証拠資料は存しない。
           そして、上記イで認定した事実(上記イ(イ)D及び(ロ)F)によれば、1N銀行P5口座においては、公共料金等の支払のほか小口の入出金が大半を占めていること、2当該口座は請求人P1と請求人P5との婚姻後早々に設定されたものであり、その印鑑票の筆跡は請求人P5のものであること、3請求人P1が生活費等の名目で受け取った金員は請求人P5が管理していたこと、及び4当該口座の通帳は請求人P5が管理していたことが認められ、これらの事実に照らせば、N銀行P5口座の預金は請求人P5又は請求人P1に帰属する財産であると認められる。
           そうすると、N銀行P5口座から引き出された金員を原資として設定された別表2の順号5、6、8、9及び15記載の各預貯金の出捐者が被相続人であるとは認められず、また、他に当該各預貯金について、被相続人に帰属する財産であることを裏付ける事情や証拠資料も存しないから、当該各預貯金は本件相続に係る相続財産とは認めることができない。
        • (B) 別表2の順号7記載の○○貯金については、証拠資料上、その原資は定かではないものの、上記イ(ロ)Eのとおり、同表の順号5、6、8及び9記載の各○○貯金と同じ通帳で管理されているところ、当該各○○貯金が本件相続に係る相続財産であると認めることができないのは上記のとおりであり、同表の順号7記載の○○貯金についても、被相続人に帰属する財産であることを裏付ける事情や証拠資料は存しないから、当該○○貯金が本件相続に係る相続財産であるとは認めることができない。
      • E 別表2の順号10から13までに記載の各定期預金について

        上記イで認定した事実によれば、別表2の順号10から13までに記載の各定期預金が、S銀行被相続人口座から平成20年9月26日に引き出された20,000,000円を原資として設定されたものであり、当該各定期預金に係る定期預金申込書の筆跡がいずれも請求人P2のものであること(上記イ(ロ)H)、当該各定期預金は、いずれも本件相続が開始した後である平成25年11月12日又は同月22日に解約(解約時における各証書裏面記載の署名は請求人P2のものである。)され、それらの払戻金がS銀行P2口座へ入金されたこと(上記イ(ハ)C及び別表7)が認められることからすれば、当該各定期預金の出捐者は被相続人であり、その設定後の管理及び運用は、被相続人の財産を管理してきた請求人P2が行っていたと認められる。

        請求人らは、別表2の順号10から13までに記載の各定期預金の原資は被相続人からの贈与資金である旨主張するが、当該各定期預金の名義人がいずれも贈与税の申告をしていないことは上記イ(ニ)のとおりであり、請求人らの主張を裏付ける契約書等も存しない上、当該各定期預金が設定された後の上記のとおりの経過を踏まえれば、贈与の事実があったと認めることはできない。

        したがって、当該各定期預金は、本件相続に係る相続財産であると認められる。

      • F 別表2の順号14記載の定期預金について

        別表2の順号14記載の定期預金については、上記イ(ロ)Iのとおり、請求人P1を受取人とする養老保険の満期保険金を原資としているところ、当該満期保険金を請求人P1以外の者が受け取ったと認めるに足りる事情や証拠資料がない以上、当該満期保険金は請求人P1が受領したものと認めるのが相当である。そうすると、当該預金の出捐者は請求人P1であると認められる。そして、当該定期預金について、被相続人又は請求人P2が管理及び運用していたことを認めるに足りる証拠資料も存しない。

        したがって、当該定期預金については、その出捐者も管理及び運用をしている者も被相続人とは認められないから、当該定期預金は、本件相続に係る相続財産であるとは認めることができない。

  • ハ 小括

    以上のとおりであるから、本件各預貯金のうち、別表2の順号1から4まで及び10から13までに記載の各定期預金は、本件相続に係る相続財産であると認められるが、同表の順号5から9まで、14及び15記載の各預貯金は、本件相続に係る相続財産であるとは認められない。

(3) 争点3(本件各生命保険契約等に関する権利は相続財産とみなされる財産であるか否か。)について 

  • イ はじめに

    相続税法第3条第1項第3号は、相続開始の時において、まだ保険事故が発生していない生命保険契約等で被相続人が保険料の全部又は一部を負担し、かつ、被相続人以外の者が当該生命保険契約の契約者であるものがある場合においては、当該生命保険契約の契約者について、当該契約に関する権利のうち被相続人が負担した保険料の金額の当該契約に係る保険料で当該相続開始の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分を、相続又は遺贈により取得したものとみなす旨規定しているところ、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件各生命保険契約等は、いずれも本件相続の開始時において保険事故が発生しておらず、保険契約者が被相続人ではないことが認められるから、本件各生命保険契約等に係る保険料を被相続人が負担していれば同号の規定に該当し、本件各生命保険契約等のうち被相続人が保険料を負担していた部分に係る権利は相続財産とみなされることになる。

  • ロ 認定事実

    請求人ら提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

    • (イ) 別表3の順号8記載のこども共済について

      別表3の順号8記載のこども共済に係る掛金は年額148,686円であり、V銀行○○支店の被相続人名義の○○貯金口座(○○番号○○○○。以下「V銀行被相続人口座」という。)から口座振替により支払うこととされていたところ、平成17年12月26日、平成18年12月26日、平成19年12月26日、平成20年12月26日及び平成21年12月28日に、当該共済契約に係る掛金がV銀行被相続人口座から口座振替により支払われた。

      また、平成22年2月25日には、U信組P2口座から1,189,488円が引き出され、上記の共済契約の掛金8回分が前納された。

      なお、U信組P2口座に係る預金は、本件相続に係る遺産分割協議書において相続財産として記載されており、本件申告書にも相続財産として計上されていた。

    • (ロ) 別表3の順号15記載の○○共済について

      別表3の順号15記載の○○共済について、掛金の払込方法は一時払であり、掛金は914,578円であった。

      また、当該○○共済が契約された平成14年9月27日に、V銀行において契約者を請求人P5とする○○共済(契約番号○○)が契約されたところ、この契約に係る掛金の払込方法は一時払で、掛金は914,211円であり、同日に、U信組P1口座から、1,828,189円が引き出された。

      なお、U信組P1口座について、普通預金申込書の筆跡は請求人P2のものであり、印鑑票の印鑑は被相続人名義の預貯金口座の届出印と同一の印鑑であった。

    • (ハ) 別表3の順号16記載の養老保険について

      別表3の順号16記載の養老保険の保険料については、全期前納により、当該養老保険の契約日である平成17年8月11日に2,628,508円が支払われたところ、同日、U信組P1口座から1,628,508円、U信用組合○○支店の請求人P5名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「U信組P5口座」という。)から1,000,000円がそれぞれ引き出された。

      なお、U信組P5口座の普通預金申込書の筆跡は請求人P2のものであり、印鑑票の印鑑は被相続人名義の預貯金口座の届出印と同一の印鑑であり、また、当該引出し時の払戻請求書の筆跡は請求人P2のものであった。

    • (ニ) 別表3の順号17及び別表6記載の各○○共済について

      別表3の順号17及び別表6記載の各○○共済の掛金の払込方法はいずれも一時払とされており、掛金は各5,000,000円であったところ、当該各○○共済の契約日である平成20年10月14日に、V銀行被相続人口座から10,000,000円が引き出された。

    • (ホ) 別表4の順号2記載の養老保険について

      別表4の順号2記載の養老保険に係る保険料は全期前納により支払うこととされており、契約当日に、保険料全額(5,599,718円)がR生命に支払われた。

      なお、別表4の順号2の養老保険の契約日(平成14年6月18日)に、U信用組合○○支店の請求人P2名義の普通預金口座(口座番号○○○○)から2,575,341円が引き出された(当該口座は平成18年12月18日に解約された。)。

    • (ヘ) 別表4の順号4記載の養老保険について

      別表4の順号4記載の養老保険の保険料は年額316,630円であり、口座振替により支払うこととされていたところ、平成13年5月9日付で、Q生命に対し、保険料の振替口座をS銀行被相続人口座とする旨の届出が提出された。なお、当該届出以前における保険料の引落し口座も被相続人名義の口座であった。

      また、平成20年5月26日、U信組P2口座から3,090,625円が引き出され、同日、当該養老保険の保険料残金全額が支払われた。

    • (ト) 別表5の順号9記載の○○共済について

      別表5の順号9記載の○○共済の掛金の払込方法は一時払とされており、掛金は5,000,000円であった。

      また、当該○○共済が契約された平成20年10月10日に、V銀行において、請求人P2を契約者とし、払込方法を一時払、掛金の額を5,000,000円とする○○共済契約(契約番号○○)が締結され、同日、V銀行○○支店の請求人P2名義の○○貯金口座(○○番号○○○○)から10,000,000円が引き出されていた。当該口座には、平成20年9月24日にU信用組合○○支店の被相続人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)から10,000,000円が振り込まれていた(平成20年9月24日から同年10月10日までの間、V銀行○○支店の請求人P2名義の○○貯金口座(○○番号○○○○)に入出金等の動きはない。)。

  • ハ 本件各生命保険契約等に係る保険料の負担者について
    • (イ) 別表3の順号1から14まで及び17記載の各保険契約等、別表4の順号1及び3記載の各保険契約、別表5の順号2から6まで、8及び9記載の各保険契約等、並びに別表6記載の共済契約について
      • A 本件各生命保険契約等に係る保険料を誰が負担したのかについては、本件各生命保険契約等の大半が契約日から10年以上経過していることもあり、当審判所の調査の結果によっても、多くの契約について保険料の支払状況に係る証拠資料の収集が不可能であったことから、一部の契約を除き、支払状況を具体的に認定することができない。
         この点について、請求人らは、本件各生命保険契約等のうち、1別表3の順号1から14まで及び17記載の各保険契約等の保険料、2別表4の順号1及び3記載の各保険契約の保険料、3別表5の順号2から6まで、8及び9記載の各保険契約等の保険料、並びに4別表6記載の共済契約の掛金については、被相続人からの贈与資金等で支払った旨主張しているから、これらの契約の保険料については、もともと被相続人の負担によるものであったこと自体は自認しているところであり、また、上記(2)イで認定した事実によれば、被相続人はL店の事業主であったのに対し、請求人P2、請求人P3、請求人P1及び請求人P5はL店の事業を手伝ってきたものの、生活費等を受け取るなどしてきたのみであったこと(上記(2)イ(イ))、請求人P2は、被相続人の生前、同人の財産を管理しており、被相続人と相談しながら、保険の加入の手続を行うなどしていたこと(上記(2)イ(ハ)A)が認められ、これらのことは、請求人P2、請求人P3、請求人P1及び請求人P5が、自らの収入において多額の資産を形成できる状況にはなかったにもかかわらず、これらの者が契約者となっている各保険契約等に係る多額の保険料が支払われたという状況に整合するものである。
         そして、上記ロで認定した事実によれば、別表3の順号8記載のこども共済については、掛金の支払はV銀行被相続人口座からの口座振替及び本件相続に係る相続財産として申告されているU信組P2口座から引き出された金員によりされていること(上記ロ(イ))、別表3の順号17及び別表6記載の各○○共済については、当該各契約の当日に、各掛金(一時払)の合計金額と同額の金員10,000,000円がV銀行被相続人口座から引き出されたこと(上記ロ(ニ))、別表5の順号9記載の○○共済については、当該契約の当日に、当該契約の掛金(一時払)の額と、同日付でされた別の共済契約の掛金の額の合計である10,000,000円が、V銀行○○支店の請求人P2名義の○○貯金口座から引き出されており、当該口座には、その半月ほど前に被相続人名義の口座から10,000,000円が振り込まれていたこと(上記ロ(ト))が認められることからすれば、これらの各共済契約の掛金は、いずれも被相続人が負担したものと認められる。
         このように、本件各生命保険契約等のうち、請求人らが、もともと被相続人の負担によるものであったこと自体は自認している上記の1から4までの各保険契約等のうち、支払状況についての証拠資料があるものについては、いずれも被相続人が負担したと認められることからすれば、上記の1から4までの各保険契約等の保険料については、いずれも被相続人が負担したものと推認することができるというべきである。
      • B この点について、請求人らは、被相続人の資金で保険料を支払ってもらったものについては、当該保険料相当分の贈与を受けた旨主張する。
         しかしながら、請求人P2、請求人P3、請求人P1及び請求人P5がそれぞれ贈与税の申告をしたとか、贈与の事実を裏付けるような契約書等が存するなどの事実は、本件で提出された証拠資料からもうかがうことができず、当審判所の調査及び審理の結果からも、かかる事実を認めることができない。そして、被相続人が保険料を支払ったことは、飽くまで保険会社に対する行為であって、これをもって保険契約者に対する贈与の意思表示があったとみることもできない。さらに、当審判所の調査の結果によれば、平成26年8月4日の本件調査において、請求人P2及び請求人P3は、被相続人からの贈与はなかった旨申述しており、請求人P1も、原処分庁所属の調査担当職員から贈与の有無について問われた際に本件各生命保険契約等の保険料相当分の贈与があった旨申述していないことが認められ、その後において、請求人らは当該生命保険契約等の保険料相当額を贈与により取得している旨主張を変更したという経緯をも併せ考慮すると、保険料の支払に当たり保険料相当額の贈与を受けたとする請求人らの主張には理由がない(なお、請求人らは、それらの保険契約の保険料について自己資金で一部負担している可能性を主張するが、これを裏付ける証拠はなく、そもそも、請求人らの主張は「保険料の一部を出していたと記憶している。」という抽象的な主張にすぎず、この点についての請求人らの主張には理由がない。)。
      • C 以上によれば、別表3の順号1から14まで及び17記載の各保険契約等、別表4の順号1及び3記載の各保険契約、別表5の順号2から6まで、8及び9記載の各保険契約等、並びに別表6記載の共済契約の各保険料は、いずれも被相続人が負担したものと認められる。
    • (ロ) 別表3の順号15記載の○○共済について

      別表3の順号15記載の○○共済については、上記ロ(ロ)のとおり、1掛金の払込方法は一時払であり、その掛金の額は914,578円であること、2当該○○共済が契約された日に契約された別の○○共済(契約番号○○)の掛金の額(一時払)が914,211円であること(掛金合計1,828,789円)、及び3同日に、U信組P1口座から1,828,189円が引き出されていることからすれば、別表3の順号15記載の○○共済の掛金の原資は上記のU信組P1口座から引き出された金員であると認めるのが相当である。

      そして、U信組P1口座については、普通預金申込書の筆跡が請求人P2のものであり、印鑑票の印鑑が被相続人名義の預貯金口座の届出印と同一の印鑑であることは上記ロ(ロ)のとおりであることからすると、同口座は請求人P2が管理及び運用していたものであると認められる。さらに、被相続人が事業主であること(上記(2)イ(イ)A)、被相続人の財産の管理は請求人P2が行っていたこと、及び、請求人P2は被相続人や請求人P2名義以外の預貯金の設定も行っていたこと(上記(2)イ(ハ)A及びB)なども併せ考えると、別表3の順号15記載の掛金は被相続人が負担したものと認められる。

    • (ハ) 別表3の順号16記載の養老保険について

      別表3の順号16記載の養老保険については、上記ロ(ハ)のとおり、保険料全額(2,628,508円)が支払われた日にU信組P1口座から1,628,508円、U信組P5口座から1,000,000円が引き出されていることからすると、これらの引出額が別表3の順号16記載の養老保険の保険料の原資であると認められる。

      この点、U信組P1口座が請求人P2の管理する口座であることは上記(ロ)のとおりである。また、U信組P5口座について、1普通預金申込書の筆跡は請求人P2のものであること、2印鑑票の印鑑が被相続人名義の預貯金口座の届出印と同一であること、及び3平成17年8月11日に普通預金を引き出した際の払戻請求書の筆跡は請求人P2のものであることは上記ロ(ハ)のとおりであることからすれば、当該口座は請求人P2が管理及び運用していたものであると認められる。

      そうすると、U信組P1口座及びU信組P5口座はいずれも請求人P2が管理するものである上、被相続人が事業主であること(上記(2)イ(イ)A)、被相続人の財産の管理は請求人P2が行っていたこと、及び、請求人P2は被相続人や請求人P2名義以外の預貯金の設定も行っていたこと(上記(2)イ(ハ)A及びB)などを併せ考えると、別表3の順号16記載の養老保険の保険料は被相続人が負担したものと認められる。

    • (ニ) 別表4の順号2記載の養老保険について

      別表4の順号2記載の養老保険について、請求人らは、当該保険の保険料5,599,718円を請求人P2名義のU信用組合○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○)から引き出した2,575,341円と被相続人からの贈与資金等3,024,377円で一括払した旨主張するところ、当該保険の保険料5,599,718円が一括払されたこと、及び、当該保険の契約日(平成14年6月18日)に請求人P2名義のU信用組合○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○)から2,575,341円が引き出されたことは上記ロ(ホ)のとおりであるから、この引出額2,575,341円は別表4の順号2記載の養老保険に係る保険料の一部に充てられたものと認められる。

      なお、当審判所の調査の結果によれば、請求人P2名義のU信用組合○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○)においては、多額の金員の入出金が認められるところ、請求人P2は給与等の支給を受けていないから(上記(2)イ(イ)B)、請求人P2の資力ではこれだけの入出金を行うことができるような状況になく、かつ、請求人P2が被相続人の財産を管理していたこと(上記(2)イ(ハ)A)からすれば、当該普通預金口座は、被相続人に帰属する金員を請求人P2が被相続人とともに管理及び運用をしていたものと認められる。

      そうすると、別表4の順号2記載の養老保険に係る保険料の一部(2,575,341円)は、被相続人が負担したものと認められる。

      そして、別表4の順号2記載の養老保険に係る保険料のうち、上記金員(2,575,341円)以外の部分(3,024,377円)について、請求人らは被相続人からの贈与資金等により支払った旨主張するところ、その部分を被相続人が負担したとする点に争いはなく、かつ、上記(イ)Bのとおり、保険料相当額の贈与があったとの主張に理由がないことからすると、この部分についても被相続人が負担したと認められる。

      したがって、別表4の順号2記載の養老保険の保険料は全て被相続人が負担したものと認められる。

    • (ホ) 別表4の順号4記載の養老保険について

      別表4の順号4記載の養老保険については、上記ロ(ヘ)のとおり、保険料の振替口座が被相続人名義の口座であること、平成20年5月26日には、本件相続に係る相続財産として申告されているU信組P2口座(上記ロ(イ))から引き出された3,090,625円で当該保険の保険料残金全額が支払われていることからすると、当該契約に係る保険料は、被相続人が負担したものと認められる。

    • (ヘ) 別表5の順号1記載の養老保険について

      請求人ら提出資料によれば、別表5の順号1記載の養老保険の平成24年2月までの払込総額が1,762,800円であったと認められるところ、請求人らは、そのうち348,500円は請求人P3が負担した旨主張し、これに沿った領収証を提出した(なお、契約時に支払われた一時金1,414,300円が被相続人の負担によるものであることについては、請求人らと原処分庁との間で争いがない。)。

      そして、上記領収証に係る348,500円を請求人P3が支払ったことについて、これを覆すに足りる証拠資料は存しない。

      したがって、別表5の順号1記載の養老保険の保険料は、1,414,300円を被相続人が、348,500円を請求人P3がそれぞれ支払ったものと認められる。

    • (ト) 別表5の順号7記載の○○共済について

      請求人らは、別表5の順号7記載の○○共済については、請求人P3の自己資金により一括払した旨主張するが、一方で、請求人P3は当審判所に対し、「手持現金で支払ったかどうか思い出せない。」旨答述しており、そのほか請求人P3が当該○○共済の掛金を負担したことを裏付ける証拠資料も見当たらない。さらに、請求人らが、当該○○共済の契約日と同日に設定された別表5の順号6記載の○○共済(契約番号も連番である。)に係る掛金については贈与資金等により支払った旨主張していることを勘案すると、別表5の順号7記載の○○共済に係る掛金も被相続人の負担によるものと認めるのが相当である。

      したがって、請求人らの上記主張には理由がない。

  • ニ その他の請求人の主張について

    請求人らは、本件各生命保険契約等の締結に際して、契約者である請求人らそれぞれが医師の診断を受けており当該保険契約は自己のものと認識していたこと、及び、本件各生命保険契約等に係る一時金等を受け取るなど、本件各生命保険契約等の使用収益等を含めた管理及び運用を全て各保険契約者である請求人らが行っていたことを理由に本件各生命保険契約等の権利が相続財産とはみなされない旨主張する。

    しかしながら、相続税法第3条第1項第3号は、相続開始の時において、まだ保険事故が発生していない生命保険契約で被相続人が保険料の全部又は一部を負担し、かつ、被相続人以外の者が当該生命保険契約の契約者である場合に、当該保険契約者が、被相続人が負担した保険料で相続開始の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分について、相続又は遺贈により取得したものとみなす旨規定していることから、相続開始の時において保険事故が発生していない場合には、被相続人が保険料の全部又は一部を負担していることをもって、保険契約者は生命保険契約に関する権利を相続等により取得したとみなされることとなる。そうすると、契約後の管理状況や保険金の入金状況がいかなる状況であったとしても、同号に該当するか否かの判断を左右しない。

    したがって、この点についての請求人らの主張には理由がない。

  • ホ 小括

    以上のとおり、本件各生命保険契約等のうち、別表5の順号1記載の生命保険契約を除く各保険契約等に係る保険料は被相続人が負担していると認められるから、相続税法第3条第1項第3号の規定により相続財産とみなされる財産に該当する。

    一方、原処分庁は、別表5の順号1記載の生命保険契約に関する権利についても、その保険料の全部を被相続人が負担しており、当該契約に関する権利の全てが相続財産とみなされる旨主張するが、上記ハ(ヘ)のとおり、原資の一部は保険契約者である請求人P3が負担していると認められ、これを前提に別表5の順号1記載の生命保険契約に関する権利を評価すると、別表9記載のとおりとなるから、この価額を超える部分についての原処分庁の主張には理由がない。

(4) 別表2の順号14記載の定期預金の原資について

請求人P1が平成23年2月7日にR生命の養老保険(保険証券記号番号○○○○)の満期保険金2,002,648円を受領していることは上記(2)イ(ロ)Iのとおりであるところ、請求人らは、当該養老保険の保険料については、被相続人からの贈与資金等で支払った旨主張しているから、当該養老保険の保険料が被相続人の負担によるものであったこと自体は自認しているところである。そして、当該養老保険の保険料については、上記(3)ハ(イ)で説示した別表3の順号1から14まで及び17記載の各保険契約等、別表4の順号1及び3記載の各保険契約、別表5の順号2から6まで、8及び9記載の各保険契約等、並びに別表6記載の共済契約の各保険料と事情は変わらない。そうすると、当該R生命の養老保険(保険証券記号番号○○○○)の保険料についても、被相続人が負担したものと推認することができるというべきであり、また、保険料の支払に当たり保険料相当額の贈与を受けたとする請求人らの主張に理由がないことは上記(3)ハ(イ)Bのとおりであることからすれば、当該養老保険の保険料も被相続人が負担したものと認められる。

以上によれば、R生命の養老保険(保険証券記号番号○○○○)については、被相続人が保険料を負担しているところ、その満期保険金を請求人P1が受領していることになるから、相続税法第5条第1項の規定により、請求人P1は被相続人から当該保険に係る満期保険金を贈与により取得したとみなされることとなる。

ところで、相続税法第19条第1項は、相続等により財産を取得した者が当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合において、その者については、当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなす旨規定しているところ、1請求人P1は本件相続により財産を取得しており、2当該保険に係る満期保険金は被相続人から請求人P1が贈与により取得したとみなされ、そして、3当該保険が満期となった日(平成23年1月31日)が本件相続の開始前3年以内であることからすれば、当該満期保険金の取得は同項の規定に該当するから、本件相続に係る相続税の計算に当たっては、当該満期保険金に相当する金額(2,002,648円)を請求人P1に係る相続税の課税価格に加算すべきである。

(5) 本件各更正処分等の適法性について

以上に基づき、請求人らの本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表10の「課税価格」及び「納付すべき税額」欄記載のとおりである。そうすると、請求人P1の納付すべき税額は同人に対する更正処分における税額を上回るのに対し、請求人P2、請求人P3、請求人P4及び請求人P5の納付すべき税額は、同人らに対する各更正処分等の額を下回ることとなる。

したがって、本件各更正処分等のうち請求人P1に対する更正処分は適法であるが、請求人P2、請求人P3、請求人P4及び請求人P5に対する各更正処分等については、当審判所において計算した税額を超える部分が違法であり、その一部を取り消すべきである。

(6) 本件各賦課決定処分の適法性について

  • イ 上記(5)のとおり、請求人P1に対する更正処分は適法であり、通則法第65条第1項所定の要件を充足するところ、同人に対する更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。そして、請求人P1に対する過少申告加算税の額については、争点に関する部分を除き、計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人らは争わず、当審判所においても、当該過少申告加算税の額は、請求人P1に対する本件相続に係る相続税の過少申告加算税の賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。
     したがって、請求人P1に対する本件相続に係る相続税の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
  • ロ 上記(5)のとおり、請求人P2、請求人P3及び請求人P4に対する各更正処分は、いずれもその一部を取り消すべきであるから、同人らに対する過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額は、それぞれ、○○○○円、○○○○円及び○○○○円となるが、それ以外の点は通則法第65条第1項所定の要件を充足する。また、これらの納付すべき税額の計算の基礎となった事実が同人らに対する各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。そして、当審判所において同人らに対する過少申告加算税の額について計算すると、別表10の「加算税の額」の「過少申告」欄記載のとおりとなり、いずれも本件各賦課決定処分の金額に満たないと認められるから、同人らに対する本件各賦課決定処分のうち当審判所において計算した税額を超える部分は違法であり、その一部を取り消すべきである。
  • ハ 上記(5)のとおり、請求人P5に対する決定処分は、その一部を取り消すべきであるから、同人に対する無申告加算税の計算の基礎となるべき税額は○○○○円となるが、それ以外の点は通則法第66条第1項所定の要件を充足する。また、期限内申告書の提出がなかったことについて、同項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められない。そして、当審判所において同人に対する無申告加算税の額について計算すると○○○○円となり、同人に対する無申告加算税の賦課決定処分の金額に満たないと認められるから、当該賦課決定処分のうち当審判所において計算した税額を超える部分は違法であり、その一部を取り消すべきである。

(7) 結論

以上によれば、本件審査請求のうち、請求人P1に対する更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分は適法であるから、これらに対する審査請求をいずれも棄却し、請求人P2、請求人P3及び請求人P4に対する各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分並びに請求人P5に対する決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分については、当審判所において計算した各税額を超える部分が違法となるから、それぞれその一部を別紙2-1から別紙2-4までの「取消額等計算書」のとおり取り消すこととする。

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