(平成28年12月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人F(以下「請求人F」という。)及び同H(以下「請求人H」といい、請求人Fと併せて「請求人ら」という。)が相続税の申告をしたところ、原処分庁が、土地及び家屋の評価額並びに葬式費用の金額に誤りがあるなどとして、それぞれ更正処分(再更正処分)及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことから、請求人らが、これらの各処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 基礎事実

以下の事実は、請求人らと原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査及び審理の結果によってもその事実が認められる。

  • イ 相続について
     J(以下「本件被相続人」という。)は平成24年11月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。本件相続に係る相続人は、本件被相続人の子である請求人ら及びKであり、相続財産を取得したのは請求人らである。
  • ロ 評価額に争いのある相続財産(不動産)について
     本件相続に係る相続財産のうち、評価額に争いがある土地は、別表2-1の順号1ないし14に掲げるとおりであり、評価額に争いがある家屋は、別表2-2の順号1ないし3に掲げるとおりである(以下、これらの土地及び家屋につき、別表2-1及び同2-2の「略称」欄記載の略称を用いることとする。また、本件1土地ないし本件6土地を併せて「本件各土地」といい、本件1貸家ないし本件3貸家を併せて「本件各貸家」という。)。
     なお、本件各土地及び本件各貸家の位置関係及び形状等の概要は、別図1ないし6のとおりである。
  • ハ 本件各土地及び本件各貸家の利用状況等について
     別表2-1の順号3の土地を除いた本件各土地の地目及び地積は、同表の「地目(利用区分)」欄及び「地積」欄に記載のとおりである。また、本件相続開始日における本件各土地及び本件各貸家の利用状況等は、以下のとおりである。
    1. (イ) 本件1土地(別表2-1の順号1ないし3)について(別図2参照)
       順号2の土地(宅地)はe通りに接していて、本件被相続人の自宅の敷地として利用され、順号1の土地(畑)は自宅の敷地と地続きとなった農地(生産緑地法に規定する生産緑地)として利用され、順号3の土地(雑種地)は自宅入り口脇に位置する駐車場として利用されていた。
    2. (ロ) 本件2土地(別表2-1の順号4ないし7)について(別図3参照)
       順号4、5及び7の各土地(畑)は農地として利用され、順号6の土地(宅地)は道路沿いの未利用地であった。また、順号4及び5の各土地は、それぞれ生産緑地であったところ、各土地の間には、g市が所有する水路、いわゆる青地が介在していた。
    3. (ハ) 本件3土地(別表2-1の順号8及び9)について(別図3参照)
       本件3土地(雑種地)は、貸駐車場として利用されていた。
    4. (ニ) 本件4土地(別表2-1の順号10ないし12)について(別図4参照)
       順号10の土地(宅地)は本件1貸家の、順号11の土地(宅地)は本件2貸家の、順号12の土地(宅地)は本件3貸家の敷地として利用されていた。
    5. (ホ) 本件各貸家(別表2-2の順号1ないし3)について(別図4参照)
      • A 本件被相続人は、本件各貸家の各居室について、L社に依頼し、本件相続開始日前の平成24年7月30日から、順次、改修工事(以下「本件改修工事」という。)を実施していた。このため、本件相続開始日において、本件各貸家には、本件改修工事が完了した部分と完了していない部分があった。
         なお、本件各貸家に係る平成24年度の固定資産税評価額には、本件改修工事が行われている点は考慮されていない。
      • B 本件被相続人は、本件相続開始日前の平成24年9月及び同年10月に、L社に対し、本件改修工事に係る費用として合計8,000万円を支払った。
         請求人らは、上記8,000万円から本件相続開始日までに本件改修工事が完了した各居室に係る工事費充当額2,813万3,330円を控除した残額である5,186万6,670円を、前払金として相続財産に計上して申告(下記(3)のイ)をした。
    6. (ヘ) 本件5土地(別表2-1の順号13)について(別図5参照)
       本件5土地(宅地)には、g市が所有する水路(青地)が介在していたところ、当該青地は埋め立てられ、本件5土地と一体となって、請求人Hが所有する家屋(賃貸用共同住宅)の敷地として利用されていた。
    7. (ト) 本件6土地(別表2-1の順号14)について(別図6参照)
       本件6土地(宅地)は、同土地に隣接する住宅6棟の住民の私道として利用されていた。
  • ニ 葬儀に際して支払われた金員について
     請求人Fの夫であるMは、本件被相続人の葬儀に際し、平成24年11月○日に500万円をN寺に支払い、N寺から、「但」と印字された部分の右側に「永代供養料として」と記された300万円の領収証及び「葬儀布施一式」と記載された200万円の領収証の2通を受領した。
     請求人らは、N寺を支払先とする500万円の費用を請求人Fが負担したものとして、本件被相続人に係る葬式費用の一部に計上して申告(下記(3)のイ)をした。

(3) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人らは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表1の「本件申告」欄のとおり記載した相続税の申告書を法定申告期限までに共同で提出して、相続税の期限内申告(以下「本件申告」という。)をした。
  • ロ 原処分庁は、租税特別措置法(平成25年法律第5号による改正前のもの。)第70条の6《農地等についての相続税の納税猶予等》第1項本文に規定する「農業相続人」である請求人Fに対し、本件申告において、同条に規定する特例農地等の評価額に誤りがあったとして、平成27年7月6日付で、別表1の「第一次更正処分等」欄のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、これらの処分を併せて「本件一次更正処分等」という。)をした。
  • ハ 次いで、原処分庁は、請求人らに対し、本件申告において、上記ロの特例農地等以外の土地及び家屋の評価額並びに葬式費用の金額に誤りがあったなどとして、平成27年7月7日付で、別表1の「第二次更正処分等」欄のとおりの各更正処分(請求人Fに対する再更正処分及び請求人Hに対する更正処分)及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
  • ニ 請求人らは、上記ハの各処分を不服として平成27年9月4日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、本件一次更正処分等をあわせ審理の上、同年12月2日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり、当該各処分の一部を取り消す異議決定をした(以下、異議決定により一部が取り消された後の上記ハの各処分をそれぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件各更正処分等」という。)。
  • ホ 請求人らは、本件各更正処分等に不服があるとして、平成27年12月25日に審査請求をした。また、請求人らは、請求人Fを総代として選任し、平成27年12月28日、その旨を当審判所に届け出た。
     なお、当審判所は、本件一次更正処分等についてあわせ審理する。

(4) 関係法令等の要旨

関係法令等の要旨は、別紙4のとおりである。
 なお、以下では、別紙4で用いた略称を本文においても用いることとする。

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2 争点

(1) 争点1

本件相続税に係る税務調査(以下「本件税務調査」という。)の手続に、通則法第74条の11《調査の終了の際の手続》第2項の規定に反する違法があるか否か。

(2) 争点2

本件各更正処分により認定された本件各土地及び本件各貸家の評価額の適否(主な具体的内容は、下記イないしホのとおり)。

  • イ 本件1土地ないし本件4土地につき、各評価単位と広大地通達の適用方法
  • ロ 本件4土地及び本件各貸家の評価における、本件各貸家の賃貸割合
  • ハ 本件各貸家につき、本件改修工事によりその価値が増加したか否か
  • ニ 本件5土地につき、青地が介在する場合の評価方法
  • ホ 本件6土地につき、私道の評価方法

(3) 争点3

請求人FがN寺に支払った金員のうち、永代供養料として領収証が発行された金員は、相続税法第13条《債務控除》第1項第2号に定める葬式費用に当たるか。

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3 主張

(1) 争点1(本件税務調査の手続に、通則法第74条の11第2項の規定に反する違法があるか否か)について

請求人ら 原処分庁
本件税務調査の手続には、以下のとおり、通則法第74条の11第2項の規定に反する違法がある。 本件税務調査の手続には、以下のとおり、通則法第74条の11第2項の規定に反する違法はない。
イ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成26年12月11日、請求人らの税務代理人であるQ税理士(以下「本件税理士」という。)に対して本件税務調査の結果を説明し、請求人ら各人の具体的な納税額を提示して修正申告の勧奨をした。これらの行為は、調査終了時に行われる調査結果の説明(通則法第74条の11第2項)及び修正申告の勧奨(同条第3項)であるから、これらに沿った課税処分が行われるべきである。 イ 本件調査担当職員が平成26年12月11日に行った本件税理士への説明は、調査経過の説明にすぎず、通則法第74条の11第2項所定の手続を行ったものではない。
ロ しかるに、本件調査担当職員は、平成27年6月11日、請求人ら及び本件税理士に対し、上記イの提示額を大きく上回る納税額を提示したが、その際、変更理由についての詳しい説明はなかった。そして、原処分庁は、納税額の変更理由についての詳しい説明を欠いたまま本件各更正処分等を行った。 ロ 本件調査担当職員は、平成27年6月11日、請求人らに対して、通則法第74条の11第2項の規定に基づく調査結果の説明を行い、その上で、本件各更正処分等を行った。

(2) 争点2(本件各更正処分により認定された本件各土地及び本件各貸家の評価額の適否)について

原処分庁 請求人ら
本件各土地及び本件各貸家の評価額は、以下に示した事情を踏まえると、本件各更正処分において認めた【】内に記載の価額である。 本件各土地及び本件各貸家の評価額は、以下に示した事情を踏まえると、【】内に記載の価額すなわち原処分庁の認定した額を下回る価額が相当である。
イ 本件1土地【8億9,119万5,765円】
 評価基本通達7《土地の評価上の区分》及び同7-2《評価単位》は、土地の価額は、現況の地目の別等に区分して評価する旨を定めており、その定めに従って評価すべきである。
 この点、本件1土地は、生産緑地(別表2-1の順号1)、宅地(同順号2)及び雑種地(同順号3)の各地目により構成されていることから、それぞれに区分して評価することになる。
 そして、別表2-1の順号1及び2の各土地に限り、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地であって、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められることが明らかであるから、それぞれ広大地通達を適用して評価するのが相当である。
イ 本件1土地【7億1,385万6,458円】
 本件1土地は、周辺の土地と比べて著しく広大で、g市の定める開発許可を要する面積基準以上の地積を有することから、開発行為を行う場合は市長から許可を得る必要があるところ、その許可は、評価基本通達7及び同7-2に定める評価単位ごとに受けるのではなく、開発をする地続きの土地全体を一体の土地として受けることとなる。
 このように、本件1土地は、広大地通達に定める広大地の判定及び広大地補正率の計算に関し、評価基本通達7及び同7-2により難い特別な事情があることから、本件1土地は、全体を一団の土地として広大地通達を適用して評価し、その価額を評価単位によりあん分して評価額を計算するのが相当である。
 なお、原処分庁は、別表2-1の順号3の土地を雑種地と区分したが、当該土地は、専ら自宅への訪問客等の駐車場として宅地(同順号2)と一体利用されていたから、その地目は宅地とすべきである。また、原処分庁は別表2-1の順号3の土地の地積を281.00uと認定したが、その根拠を明らかにしていない。
ロ 本件2土地【5億7,870万8,493円】
 本件2土地は、農地(別表2-1の順号7)、生産緑地(同順号4及び5)及び宅地(同順号6)によって構成され、また、上記生産緑地は青地により分断されていることから、同順号4及び5の各土地に区分して評価することとなる。
 そして、別表2-1の順号4及び5の各土地に限り、それぞれ広大地通達を適用して評価するのが相当である。
ロ 本件2土地【4億2,855万7,315円】
 本件2土地のうち別表2-1の順号4の土地と同順号5の土地との間には、公図上、水路(青地)が存するものの、水路は全て埋め立てられており、従前から畑の一部として利用され、本件相続開始日現在においても分断されずに、全てが麦畑として耕作されていた。したがって、当該各土地の利用の単位は区分されない。
 そして、本件2土地は、上記イと同様の理由により、全体を一団の土地として広大地通達を適用して評価し、その価額を評価単位によりあん分して評価額を計算するのが相当である。
ハ 本件3土地【3億3,333万2,253円】
 評価基本通達7-2(7)は、雑種地の評価単位について、同一の目的に供されている一団の雑種地ごとに評価する旨定めている。本件3土地は、一時使用に係る賃貸借契約に基づき貸付けが行われている駐車場部分(別表2-1の順号9)と、それ以外の月極駐車場部分(同順号8)に区分して評価することになる。
 そして、別表2-1の順号8の土地に限り、広大地通達を適用して評価するのが相当である。
ハ 本件3土地【2億8,877万8,740円】
 本件3土地はその全てが駐車場として利用されている土地であるから、別表2-1の順号8及び9の各土地に区分して評価すべきではない。
 そして、本件3土地は、上記イと同様の理由により、全体を一団の土地として広大地通達を適用して評価し、その価額を評価単位によりあん分して評価額を計算するのが相当である。
ニ 本件4土地【2億1,876万298円】
  • (イ) 本件4土地は、本件各貸家の敷地の用として利用されていることから、評価基本通達7-2及び同26《貸家建付地の評価》の定めにより、本件1貸家ないし本件3貸家の各敷地に区分の上、それぞれを貸家建付地として評価することとなる。
     そして、本件4土地のうち本件1貸家及び本件2貸家の各敷地の用に供されている部分(別表2-1の順号10及び11)に限り、それぞれ広大地通達を適用して評価するのが相当である。
  • (ロ) 本件4土地を貸家建付地として評価する上で必要な本件各貸家の空室部分の評価に関し、評価基本通達26(2)の(注)2は、同通達(2)に定める賃貸割合の算式中の「賃貸されている各独立部分」には、継続的に賃貸されていた各独立部分で、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められるものを含むこととして差し支えない旨定めている。そして、賃貸されていなかった時期が一時的といえるかどうかは、「空室の期間が、課税時期前後の例えば1か月程度であるなど、一時的な期間であること」などの事実関係から、各独立部分の一部が課税時期において一時的に空室となっていたにすぎないと認められるものをいうと解されている。
     本件各貸家に係る空室部分は、空室期間がおおむね1か月程度と認められた1室を除き、一時的に空室になっていたとは認められないから、上記1室を除いた空室部分は賃貸割合に含めずに計算すべきである。
ニ 本件4土地【1億6,550万6,969円】
  • (イ) 本件4土地は、上記イと同様の理由のほか、本件4土地のうち本件1貸家及び本件2貸家の各敷地部分は、道路面から土地が2m下がっており、これらを分割して開発することが想定し難いという事情もあることから、全体を一団の土地として広大地通達を適用して評価した後、本件各貸家(3棟)に係る貸家建付地として、3つの評価単位に区分して評価するのが相当である。
  • (ロ) 本件各貸家のうち、本件相続開始日現在において空室であった部分は、全て一時的に賃貸されていなかったものと認められるから、当該空室部分も賃貸割合に含めて計算すべきである。
ホ 本件各貸家【3,137万9,425円】
  • (イ) 本件改修工事は、ユニットバス、キッチンなど本件各貸家を形成していた一部分の取壊しとその新設を同時に行うものか、又はワンルームタイプの部屋を2DKタイプに改築するものであるから、定期的に行われるような修繕でないことは明らかであり、本件各貸家の価値を増加させるものである。
     本件各貸家については、本件相続開始日現在、上記内容の本件改修工事を実施中であったところ、評価基本通達はこのような家屋の評価方法を明示していない。したがって、本件各貸家は、評価基本通達5《評価方法の定めのない財産の評価》の定めに基づき、同89《家屋の評価》、同89-2《文化財建造物である家屋の評価》及び同93《貸家の評価》の各定めに準じて評価するのが相当である。
     そうすると、本件被相続人が、本件改修工事に関して支払った8,000万円のうち2,813万3,330円は、本件相続開始日現在において改修工事を受けた部分であるから、資本的支出として家屋に含めて評価すべきである。
  • (ロ) なお、本件各貸家の評価額を算出する際に用いる賃貸割合については、上記ニの(ロ)のとおりである。
ホ 本件各貸家【1,850万7,445円】
  • (イ) 本件改修工事は、家屋の躯体の改善ではなく、通常の維持管理のための修繕であり、本件各貸家の価値を増加させるものではないことから、本件各貸家は、本件相続開始日現在の固定資産税評価額に基づいて貸家評価すべきである。
     仮に、本件改修工事が本件各貸家の価値を増加させるものであったとしても、本件相続開始日現在において改修工事中であったものについて、当該工事の進捗割合に応じて評価額を増加させるのであれば、併せて、当該部分の改修工事に係る費用に進捗割合を乗じた金額を、相続財産として既に申告した当該改修工事に係る前払金から減額すべきである。
  • (ロ) なお、本件各貸家の評価額を算出する際に用いる賃貸割合については、上記ニの(ロ)のとおりである。
ヘ 本件5土地【3,777万5,828円】
 本件5土地は、同土地内に存する青地を含めた一体のものとして、請求人H所有の家屋の敷地の用に供されていることから、当該青地を含めたところで1画地として評価した上で、青地の払下げ費用相当額を控除して評価するのが相当である。
ヘ 本件5土地【3,641万1,464円】
 本件5土地の青地部分(25u)はg市の所有であることから、本件相続に係る相続財産から除かれるべきであり、その控除額の計算は面積あん分によるべきである。
 なお、本件5土地上の家屋は、平成22年1月まで本件被相続人がその持分を有していたところ、当該家屋(○室)のうち同月以前に本件被相続人が賃貸し、本件相続開始日まで当該賃貸借契約が継続していた居室(1室)に対応する敷地部分は、貸家建付地として評価すべきである。
ト 本件6土地【190万1,595円】
 評価基本通達24《私道の用に供されている宅地の評価》は、私道が不特定多数の者の通行の用に供されているか否かによってその評価方法を分けているところ、本件6土地は、専ら同土地に隣接する住宅6棟の住民という特定の者の通行の用に供されているいわゆる行き止まり道路であることから、不特定多数の者の通行の用に供されているものとは認められない。
 なお、固定資産税の評価が非課税とされているからといって、相続税法上の評価額が0円となる合理的理由とはならない。
ト 本件6土地【0円】
 本件6土地は、近隣住民6軒の生活道路として利用されていることから、評価基本通達24後段の定めにより0円と評価すべきである。
 また、固定資産税の評価が非課税となっていることから、相続税の評価も当然に0円とすべきである。

(3) 争点3(請求人FがN寺に支払った金員のうち、永代供養料として領収証が発行された金員は、相続税法第13条第1項第2号に規定する葬式費用に当たるか)について

原処分庁 請求人ら
N寺は、永代供養料として300万円の領収証を、葬儀布施一式として200万円の領収証を別々に作成していることから、300万円分は字句どおり永代供養料と認められる。そして、永代供養料は、毎年の忌日、彼岸などに供養をしてもらうために寺に納めておく金員であるから、相続税法基本通達13−4《葬式費用》に掲げられている葬式費用として控除する金額の範囲には該当しない。
 したがって、請求人FがN寺に支払った金員のうち300万円は、相続税法第13条第1項第2号に規定する葬式費用に当たらない。
N寺作成の領収証には永代供養料と記載されているが、500万円は、一括して葬式費用として支払ったお布施であり、全て相続税法第13条第1項第2号に規定する葬式費用に該当する。葬式当日に同時に一括して支払ったことを考慮すれば、請求人らの認識が葬式費用であったことは明確である。

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4 判断

(1) 争点1(本件税務調査の手続に、通則法第74条の11第2項の規定に反する違法があるか否か)について

  • イ 原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、請求人らに対する更正処分(平成27年7月6日付及び同月7日付)に至るまでの税務調査等に係る経過につき、次のとおりの事実が認められる。
    1. (イ) 本件調査担当職員は、平成26年9月19日、本件相続税に係る実地の調査に着手した。
    2. (ロ) 本件調査担当職員は、平成26年11月12日、G税務署内において本件税理士と面談し、土地の評価単位など本件税務調査の過程で判明した非違事項を説明するとともに、当該説明に関する書類を本件税理士に交付した。
       これに対し、本件税理士は、平成26年12月5日、上記説明に対する質問事項を記載した書面を本件調査担当職員に送付した。
    3. (ハ) 本件調査担当職員は、平成26年12月11日、G税務署内において本件税理士と面談し、本件税理士の質問に対する回答と併せて、上記(ロ)の事項について改めて説明した上で、修正申告に応じられるか否かの検討を依頼した。
       これに対し、本件税理士は、平成26年12月24日、修正申告には応じられず、早く更正してほしい旨の回答を本件調査担当職員に電話で行った。
    4. (ニ) 本件調査担当職員は、上記(ハ)の回答を受け、更正処分を前提とした部内検討等を開始した。そして、平成27年5月14日、本件税理士に電話をし、調査結果の説明は、請求人らに対して直接行うこととするが、請求人らがその説明を受けることを本件税理士に依頼するのであれば、同意書を提出してほしい旨伝えた。
    5. (ホ) 本件調査担当職員は、上記(ニ)の同意書の提出がなかったことから、平成27年6月16日、本件被相続人の自宅において、請求人ら及び本件税理士と面談し、本件相続に係る各取得財産についての申告額と調査額の一覧を提示するなどして、本件税務調査の結果の内容(申告額と調査額に差額が生じた理由を含む。)を説明した。そして、本件調査担当職員は、同日、請求人ら及び本件税理士に対し、本件税務調査の結果に基づく新たに納付すべき相続税額、加算税及び延滞税についての説明をした上、修正申告の勧奨を行うとともに、修正申告をした場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨などが記載された「修正申告等について」と題する書面を交付した。
       なお、請求人ら及び原処分庁は、共に調査結果の説明があった日を平成27年6月11日としているが、当審判所の調査の結果によれば、上記のとおり同月16日にあったものと認められる。
  • ロ 上記イの(ホ)のとおり、本件調査担当職員は、平成27年6月16日、請求人らに対して調査結果の内容を説明したところ、その内容は、本件相続に係る各取得財産についての申告額と調査額の一覧を提示した上、その結果に基づく相続税額等を提示するなど、通則法第74条の11第2項所定の調査結果の説明として足りるものであったと認められる。
     この点、請求人らは、本件調査担当職員による平成26年12月11日の説明(上記イの(ハ))が通則法第74条の11第2項所定の調査結果の内容の説明であることを前提に、当該説明額で更正処分をすべきである旨主張するが、上記イの経緯に照らし、本件調査担当職員による同日の説明が、同項所定の調査結果の内容の説明と認められないことは明らかである。また、請求人らは、平成26年12月11日に説明のあった提示額を大きく上回る本件各更正処分等について、その変更理由についての詳しい説明を欠いていた旨主張するが、上記イの(ホ)のとおり、本件調査担当職員は平成27年6月16日に申告額と調査額に差額が生じた財産の全てについて、その理由を説明しており、本件税務調査の手続に何ら違法はない。よって、請求人らの主張には理由がない。
  • ハ 以上のとおりであるから、本件税務調査の手続に通則法第74条の11第2項の規定に反する違法はない。

(2) 争点2(本件各更正処分により認定された本件各土地及び本件各貸家の評価額の適否)について

  • イ 相続税法第22条《評価の原則》にいう時価の意義及び評価基本通達の合理性について
    1. (イ) 相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。
       しかし、客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、これを個別に評価する方法をとった場合には、その評価方式等により異なる評価額が生じたり、課税庁の事務負担が重くなり、大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となったりするおそれがある。そこで課税実務上は、特別の定めがあるものを除き、相続財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、原則としてこれに定められた評価方式によって相続財産を評価することとされている。このように、あらかじめ定められた評価方式によってこれを画一的に評価することは、税負担の公平、効率的な租税行政の実現という観点から見て合理的であり、相続財産の評価に当たっては、評価基本通達によって評価することが著しく不適当と認められる特段の事情がない限り、評価基本通達に定められた評価方法によって画一的に評価することが相当である。
    2. (ロ) 請求人らは、本件に関連する評価基本通達の各条項について、当該各条項の合理性自体について争うものではなく、その適用方法等が問題となっているので、以下においては、評価基本通達の定めを前提に検討する。
  • ロ 本件1土地(別表2-1の順号1ないし3)について
     本件1土地については、広大地通達の適用方法及び別表2-1の順号3の土地の地目等について争いがあるので、以下検討する。
    1. (イ) 広大地通達の適用方法について
      • A 評価基本通達の定めの構造からすれば、土地の評価に当たっては、まず土地及び土地の上に存する権利(評価基本通達第2章)の通則(同第1節)である評価基本通達7及び同7-2によって土地の評価単位を画した上で、次にその画された評価単位のうちの各宅地が広大地通達に定める広大地に該当するか否かを検討すべきであることは明らかである(なお、農地に係る広大地通達の適用に関し、評価基本通達40-2《広大な市街地農地等の評価》及び同40-3《生産緑地の評価》を参照)。したがって、本件1土地については、評価基本通達7及び同7-2の定めにより別表2-1の順号1ないし3の各土地をそれぞれ1つの評価単位として評価すべきこととなる。
      • B この点、請求人らは、本件1土地については評価基本通達7及び同7-2の定めにより難い特段の事情、具体的には、g市に開発行為の許可を受ける場合には地続きの土地全体を一体の土地として許可を受けることとなる事情があることから、本件1土地の全体を1つの評価単位として広大地通達が適用されるべきである旨主張する。しかしながら、請求人らが主張する事情は、評価基本通達7の定めにより地目の別に評価することの支障となるものではなく、評価基本通達の定めにより難い特段の事情とはならない。
      • C 以上のような評価単位を前提にすると、本件1土地については、別表2-1の順号1及び2の各土地に限り、広大地通達を適用するのが相当である。
    2. (ロ) 別表2-1の順号3の土地の地目について
      • A 認定事実
         原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
         別表2-1の順号3の土地の入り口には、本件相続開始日後である平成25年6月当時、「P湯駐車場」の看板が掲示されていた。P湯は、同土地が接するe通りを本件1土地から南東方向に約80m進んだところに所在していた公衆浴場であり(別図2参照)、平成26年6月30日に廃業するまでの間、請求人Fが経営していた。また、廃業するまでの間、P湯の入り口付近の壁面には、「この先80m駐車場あります」との張り紙が掲出してあった。さらに、平成25年8月に発行された住宅地図には、順号3の土地部分に「P湯駐車場」との表示があった。
      • B 当てはめ
         上記Aの事実によれば、別表2-1の順号3の土地については、本件相続開始日において、専ら請求人Fが経営する公衆浴場(P湯)の駐車場として利用されていたものと認められることから、順号3の土地については、評価基本通達7の定めに従い、雑種地として評価するのが相当である。請求人らは、順号3の土地は専ら自宅への訪問客の駐車場として順号2の土地と一体として利用されていた旨主張するが、当審判所の調査によってもこれを裏付ける客観的な証拠は見当たらず、当該主張には理由がない。
    3. (ハ) 別表2-1の順号3の土地の地積について
       原処分関係資料によれば、本件調査担当職員は、本件税務調査の際に、別表2-1の順号3の土地の地積について簡易測量を行った上、本件相続税に係る申告書に添付されていた同土地の実測図を基に、その地積を281uと算出したものであり、その方法に不合理な点は見当たらないから、これを同土地の地積と認める。当該地積について、原処分庁の主張に根拠がない旨の請求人らの主張は採用し得ない。
    4. (ニ) 小括
       以上の点を踏まえ、本件1土地を評価基本通達の定める評価方法によりそれぞれ評価すると、その評価額は、別表3の「本件1土地」欄のとおりとなり(計算の明細は別表4の「本件1土地」欄参照)、審判所認定額(8億9,119万9,011円)は原処分庁認定額(8億9,119万5,765円)を上回る。
  • ハ 本件2土地(別表2-1の順号4ないし7)について
     本件2土地については、別表2-1の順号4及び5の各土地の評価単位並びに広大地通達の適用方法について争いがあるので、以下検討する。
    1. (イ) 別表2-1の順号4及び5の各土地の評価単位について
       評価基本通達7-2(2)は、田及び畑の価額を評価する場合、1枚の農地(耕作の単位となっている1区画の農地)を評価単位とする旨定めているところ、このうち市街地農地、広大地通達の適用のある市街地農地及び生産緑地については、それぞれを利用の単位となっている一団の農地を評価単位とする旨定めている(同通達(2)のただし書)。
       当審判所における調査及び審理の結果によれば、本件相続開始日において、1順号4及び5の各土地の間には、上記1の(2)のハの(ロ)のとおり、g市が所有する青地が介在していたものの、当該青地は全て埋め立てられており、水路としての機能を失っていたこと、2順号4及び5の各土地は、青地部分の土地を含めて一体の畑として耕作されていたこと、3g市は、順号4及び5の各土地並びに青地部分の土地を一体として生産緑地地区に定める都市計画を決定していたことの各事実が認められる。これらのことからすると、順号4及び5の各土地は、一団の生産緑地、すなわち1つの評価単位として取り扱うのが相当であると認められる。
       この点、原処分庁は、順号4及び5の各土地は青地により分断されていて各土地に区分して評価すべきである旨主張するが、上記のとおり、順号4及び5の各土地は、物理的にも法的にも分断されておらず、また、その利用も一体であったと認められることから、原処分庁の主張を採用することはできない。
    2. (ロ) 別表2-1の順号4及び5の各土地の評価方法について
       上記(イ)の利用実態等に鑑みれば、順号4及び5の各土地を評価するに当たっては、まず青地部分の土地を含む順号4及び5の各土地全体の評価額(評価基本通達40-2及び40-3の定めに基づく広大な市街地農地等及び生産緑地としての評価額)を算出し、その後、当該評価額から青地部分の土地の価額を控除して評価するのが相当と認められる。
       そして、本件相続開始日において当該青地部分の土地の売買が成立し得るのは請求人らと同土地を所有するg市の間に限定されること、また、g市が青地部分の土地を請求人らに売却した場合の売買代金である払下げ費用相当額は、国有財産評価基準によりその算定方法が画一的に決められていることからすると、青地部分の土地の価額については、本件相続開始日において当該青地が請求人らに払い下げられたとした場合の払下げ費用相当額とするのが相当である。
    3. (ハ) 広大地通達の適用方法について
       本件2土地については、別表2-1の順号4及び5の各土地を1つの評価単位とすべきことは上記(イ)のとおりであるところ、順号6(宅地)及び順号7(市街地農地)の各土地はそれぞれ1つの評価単位として広大地通達の適用を検討すべきであるから、本件1土地に係る主張と同様の理由で、本件2土地の全体を1つの評価単位とした上で広大地通達を適用すべきである旨の請求人らの主張は採用し得ない。その理由は、上記ロの(イ)で述べたのと同様である。
       以上のような評価単位を前提にすると、本件2土地については、順号4及び5の土地に限り、広大地通達を適用するのが相当である。
    4. (ニ) 小括
       以上の点を踏まえ、本件2土地を評価すると、その評価額は、別表3の「本件2土地」欄のとおりとなり(計算の明細は別表4の「本件2土地」欄参照)、審判所認定額(4億9,911万825円)は原処分庁認定額(5億7,870万8,493円)を下回る。
  • ニ 本件3土地(別表2-1の順号8及び9)について
     本件3土地については、同土地の評価単位及び広大地通達の適用方法について争いがあるので、以下検討する。
    1. (イ) 本件3土地の評価単位について
      • A 認定事実
         請求人らの提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
        1. (A) 本件3土地のうち別表2-1の順号8の土地については、本件相続開始日において、本件被相続人が、駐車場使用契約に基づき、個人に月ぎめの駐車場として利用させていた。当該駐車場使用契約には次の条項があった。
          • a 借主は、定められた駐車区画に指定車両の駐車を目的として使用するものとし、他の目的として使用してはならない。また、貸主は借主に対して2週間前までに通知することにより、駐車区画を任意に変更することができる。
          • b 借主が駐車区画に駐車できる自動車は原則として乗用車のみであり、契約で定められた車両以外を駐車することはできず、車両を変更する際には貸主又は貸主の指定する者に届け出て承認を得る必要がある。
          • c 契約期間は契約日から1年間であるが、契約当事者が解約日の1か月前までに相手方に解約の通知をしたときには契約を解除することができる。
        2. (B) 本件3土地のうち別表2-1の順号9の土地については、本件相続開始日以前より、貸主を本件被相続人、借主をR社とする駐車場一時使用に係る賃貸借契約に基づいて貸し付けられており、同社による時間貸駐車場として利用されていた。当該契約は以下の内容を含んでいた。
          • a 借主が、駐車場の経営並びに駐車場の経営の目的を達するための無人時間貸駐車場用機器、精算機、飲料等の自動販売機、看板及び電灯の設置を賃貸借の目的とする。
          • b 契約期間は2年間であるが、契約の当事者が予告期間を定めた上で書面をもって契約の解除を申し入れることができ、この場合、解約を申し入れた者は相手方に対し予告期間に応じた違約金を支払う。
      • B 当てはめ
         上記Aの各事実によれば、本件3土地のうち別表2-1の順号8の土地は、本件被相続人が賃貸人となって駐車場利用者と駐車場使用契約を交わし、駐車場の貸付けに係る業務を行う月極駐車場として利用されていたのに対し、順号9の土地は、本件被相続人がR社に当該土地を貸付け、借主であるR社が駐車場経営に必要な設備等を設置し、時間貸駐車場の貸付けに係る事業を行う場所として利用されていたものと認められる。
         評価基本通達7-2(7)は、雑種地(駐車場)を評価する場合、利用の単位となっている一団の雑種地(同一の目的に供されている雑種地をいう。)を評価単位とする旨定めているところ、順号8の土地に係る契約は自動車を保管することが目的であるのに対し、順号9の土地に係る契約は土地の利用そのものが目的であり、各土地は、その利用目的等を異にすることから、それぞれが利用の単位となっている一団の雑種地に当たるというべきであり、それぞれ別個の評価単位として評価するのが相当である。本件3土地については、その全てが駐車場として利用されていることから評価単位は区分されない旨の請求人らの主張は、採用することができない。
    2. (ロ) 広大地通達の適用方法について
       上記(イ)のとおりであるから、本件3土地については、別表2-1の順号8及び9の各土地をそれぞれ1つの評価単位として広大地通達の適用を検討すべきである。本件1土地に係る主張と同様の理由で、本件3土地の全体を1つの評価単位とした上で広大地通達を適用すべきである旨の請求人らの主張は採用し得ないことは、上記ロの(イ)で述べたのと同様である。
       以上のような評価単位を前提にすると、本件3土地については、順号8の土地に限り、広大地通達を適用するのが相当である。
    3. (ハ) 小括
       以上の点を踏まえ、本件3土地を評価基本通達の定める評価方法によりそれぞれ評価すると、その評価額は、別表3の「本件3土地」欄のとおりとなり(計算の明細は別表4の「本件3土地」欄参照)、審判所認定額(3億3,333万2,406円)は原処分庁認定額(3億3,333万2,253円)を上回る。
  • ホ 本件4土地(別表2-1の順号10ないし12)について
     本件4土地については、広大地通達の適用方法及び貸家建付地として評価する場合の賃貸割合の算定に争いがあるので、以下検討する。
    1. (イ) 広大地通達の適用方法について
       請求人らは、本件1土地に係る主張と同様の理由で、本件4土地の全体を1つの評価単位とした上で広大地通達を適用すべきである旨主張するが、評価基本通達7-2の定めにより一画地の宅地ごとに評価することの支障となるものではなく、評価基本通達の定めにより難い特段の事情とならない。また、請求人らは、別の理由として、本件1貸家及び本件2貸家の各敷地部分の土地が道路面より2m下がっているなど本件4土地を分割して開発することが想定し難い事情を挙げるが、分割での開発が困難であることは、評価基本通達に定める評価単位の認定を妨げるものでない。したがって、上記ロの(イ)のAで述べたとおりであるから、本件4土地については、別表2-1の順号10ないし12の各土地をそれぞれ1つの評価単位として広大地通達の適用を検討すべきである。
       これを前提にすると、本件4土地については、順号10及び11の各土地に限り、広大地通達を適用するのが相当である。
    2. (ロ) 賃貸割合の算定について
      • A 法令等解釈
         評価基本通達26は、貸家建付地の評価額を算出する場合、その宅地の自用地としての価額から一定の減価をする旨定めており、その具体的方法は、宅地としての自用地としての価額から、その自用地としての価額に1借地権割合、2借家権割合及び3賃貸割合を連乗した価額を控除するというものである。
         上記3の「賃貸割合」の算定は、「家屋の各独立部分の床面積の合計(A)」に「Aのうち課税時期において賃貸されている各独立部分の床面積の合計」の占める割合によることとされているところ(評価基本通達26(2))、賃貸割合の算定上、「賃貸されている各独立部分」には、継続的に賃貸されていた各独立部分で、課税時期において一時的に賃貸されていなかったと認められるものを含めて差し支えない取扱いとされている(同26(2)の(注)2)。
         上記取扱いは、継続的に複数の者に賃貸されている家屋等において、相続開始時にたまたま一時的に空室が存したような場合、原則どおり相続開始時点で賃貸割合を算出することが不動産の取引実態等に照らして必ずしも実情に即したものとはいえないことがあり、これに配慮した趣旨のものである。
         この点、課税実務(国税庁ホームページのタックスアンサーの「4614貸家建付地の評価」参照)においては、継続的に賃貸されていたアパート等の各独立部分で、例えば、1各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものであること、2賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われ、空室の期間中、他の用途に供されていないこと、3賃貸されていない期間が課税時期の前後の例えば1か月程度であるなど一時的な期間であること、4課税時期後の賃貸が一時的なものではないことなどの事実関係から、課税時期において一時的に空室となっていたにすぎないと認められるものについては、課税時期においても賃貸されていたものと取り扱って差し支えないこととしており、上記趣旨と整合した合理性のある取扱いであると認められる。
      • B 認定事実
         請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
        1. (A) 本件1貸家(別表2-2の順号1)について
           本件1貸家は、木造2階建ての共同住宅である。本件改修工事前において賃貸されていた各独立部分の居室は全○室(各室とも床面積19.87u)であるところ、このうち、本件相続開始日において○室に賃借人が居住し、残りの9室は空室であった。上記9室の本件相続開始日前後の空室期間は、約1か月半である1室(○号室)を除くと、最も短いもので約8か月であった。
        2. (B) 本件2貸家(別表2-2の順号2)について
           本件2貸家は、木造2階建ての共同住宅である。本件改修工事前において賃貸されていた各独立部分の居室は全○室(各室とも床面積19.87u)であるところ、このうち、本件相続開始日において○室に賃借人が居住し、残りの6室は空室であった。上記6室の本件相続開始日前後の空室期間は、最も短いもので約5か月であった。
        3. (C) 本件3貸家(別表2-2の順号3)について
           本件3貸家は、木造2階建ての共同住宅である。本件改修工事前において賃貸されていた各独立部分の居室は全○室(各室とも床面積19.87u)であるところ、このうち、本件相続開始日において○室に賃借人が居住し、残りの3室は空室であった。上記3室の本件相続開始日前後の空室期間は、最も短いもので約11か月であった。
      • C 当てはめ
         本件各貸家の賃貸状況についてみると、上記Bのとおり、本件相続開始日において空室であった居室は、本件1貸家の9室、本件2貸家の6室、本件3貸家の3室であったところ、このうち本件1貸家の〇号室を除く各居室については、本件相続開始日前後において、最短でも5か月を超えて空室状況にあったことが認められる。そうすると、〇号室を除くその他の居室については、上記Aの課税実務上の基準に照らし、いずれも「課税時期において一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」には当たらないというべきである。
         この点、請求人らは、本件各貸家について本件改修工事が行われていたという事情を斟酌すべきである旨主張するが、評価基本通達26に定める貸家建付地の評価は、そもそも相続開始日において借家権の目的となっている家屋の敷地の用に供されている宅地の価額の評価方式を定めるものである上、本件において、〇号室を除く他の居室については、最短でも5か月を超えて空室状況にあったと認められるのであるから、請求人らの主張する事情を考慮してもなお、一時的に賃貸されていなかったと認めることはできない。
         したがって、本件各貸家の賃貸割合は、それぞれ、本件1貸家については、本件相続開始日において賃貸されていた○室に一時的に空室であった1室を加えた○室の床面積の合計(XXX.XXu)を本件1貸家全体の○室の床面積の合計(XXX.XXu)で除した割合、本件2貸家については、本件相続開始日において賃貸されていた○室の床面積の合計(XXX.XXu)を本件2貸家全体の○室の床面積の合計(XXX.XXu)で除した割合、本件3貸家については、本件相続開始日において賃貸されていた○室の床面積の合計(XXX.XXu)を本件3貸家全体の○室の床面積の合計(XXX.XXu)で除した割合となる。
    3. (ハ) 小括
       以上の点を踏まえ、本件4土地を評価基本通達の定める評価方法によりそれぞれ評価すると、その評価額は、別表3の「本件4土地」欄のとおりとなり(計算の明細は別表4の「本件4土地」欄参照)、審判所認定額(2億1,876万690円)は原処分庁認定額(2億1,876万298円)を上回る。
  • ヘ 本件各貸家(別表2-2の順号1ないし3)について
     本件各貸家については、本件改修工事が本件各貸家の価値を増加させたものとしてその結果を評価額に反映させるべきか否かなどの点について争いがあるので、以下検討する。
    1. (イ) 認定事実
       請求人らの提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
      • A 本件改修工事前の本件各貸家の各独立部分の居室は、いずれも1Kタイプの間取りで、本件改修工事は、上記1Kタイプの居室を改修する工事及び1Kタイプの居室2室を2DKタイプの居室1室に改修する工事であり、ユニットバス及びキッチンの解体及び新設工事が含まれているほか、各部屋にバルコニーを新設するものであった。
      • B 本件相続開始日における本件改修工事の進捗状況は、次のとおりである。
        1. (A) 本件1貸家(別表2-2の順号1、全○室)
           本件改修工事が既に完了していた居室は8室で、その他の○室については本件改修工事に着手する前であった。
        2. (B) 本件2貸家(別表2-2の順号2、全○室)
           本件改修工事が既に完了していた居室は2室、本件改修工事中であった居室は3室で、その他の○室については本件改修工事に着手する前であった。
        3. (C) 本件3貸家(別表2-2の順号3、全○室)
           本件改修工事の全部が完了していた居室は3室、その一部(バルコニー設置)が完了していた居室は2室であり、その他の○室については本件改修工事に着手する前であった。
      • C 上記Bのとおり本件相続開始日までになされた本件改修工事に関し、工事を完了した居室について投じられた費用は2,813万3,330円であり、工事中の居室について既に投じられていた費用は421万8,099円である。
    2. (ロ) 当てはめ
      • A 本件改修工事が本件各貸家の価値を増加させるものか否かについて
         請求人らは、本件改修工事は、通常の維持管理のための修繕であって本件各貸家の価値を増加させるものではないから、本件各貸家の価額は、本件相続開始日現在の固定資産税評価額に基づいて評価すべきである旨主張する。
         しかしながら、上記(イ)のAのとおりの工事内容からすれば、本件改修工事の費用は、故障箇所の修繕などいわゆる原状回復のための通常の維持管理のための費用ではなく、本件各貸家の価値を増加するための費用であると認めるのが相当である。
      • B 増加した価値の評価方法等について
         改修工事により価値が上昇したものの固定資産税評価額に価値の上昇が反映されていない場合の家屋の時価の評価方法については、評価基本通達に定めはないから、評価基本通達5を適用し、本件改修工事により価格が増加した部分について、家屋の評価に関する評価基本通達89-2及び同93の定めに準じて、本件改修工事の費用から課税時期までの期間に応じて減価償却した残額の100分の70に相当する金額によって評価するのが相当である。
         そうすると、本件各貸家の評価額は、本件改修工事が未着手である本件各貸家部分(内訳は上記(イ)のBのとおり)の評価額(固定資産税評価額)に、上記のとおりの方法で計算した本件改修工事により価値が上昇した部分の評価額を加えて算出することとなる。なお、評価基本通達93に定める「賃貸割合」は上記ホの(ロ)のCで認定した割合によるべきである。
      • C 前払金の処理について
         請求人らは、本件改修工事が本件各貸家の価値を増加させるものであったとしても、本件相続開始日において改修工事中であった居室について当該工事の進捗割合に応じて評価額を増加させる以上、その増加部分の価額は、既に相続財産として申告した前払金から減額されるべきである旨主張する。
         この点、本件改修工事により改修工事中であった家屋については、上記Bのとおり、工事進捗状況に応じて評価した上で、家屋の評価額として相続財産に計上するのが相当である一方、工事進捗状況に応じて既に家屋に投下されたものとした建築費用相当額は、前払金から控除するのが相当であるから、請求人らの上記主張には理由があるというべきである。
         そうすると、相続財産として計上すべき前払金は、本件被相続人が支払った前払金から、本件相続開始日までに投下された本件改修工事に係る建築費用の総額を控除した残金となり、その額は、本件被相続人が工事代金として支払った8,000万円(上記1の(2)のハの(ホ)のB)から、本件各貸家のうち改修工事が完了した部分の建築費用2,813万3,330円と改修工事中の建築費用421万8,099円(上記(イ)のC)を控除した4,764万8,571円である。
    3. (ハ) 小括
       以上の点を踏まえ、本件各貸家を評価基本通達の定める評価方法によりそれぞれ評価すると、その評価額は、別表3の「本件1貸家」欄ないし「本件3貸家」欄のとおりとなり(計算の明細は別表5参照)、審判所認定額(合計3,137万9,436円)は原処分庁認定額(合計3,137万9,425円)を上回る。
  • ト 本件5土地(別表2-1の順号13)について
     本件5土地については、1同土地の一部に青地が介在する場合の評価方法及び2同土地の一部を貸家建付地として評価すべきか否かに争いがあるので、以下検討する。
    1. (イ) 認定事実
       原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
      • A 本件被相続人及び請求人Hは、平成13年3月○日、本件5土地及び同土地上の家屋(共同住宅)を相続により取得した。持分割合は、本件被相続人が100分の45、請求人Hが100分の55である。
         なお、上記家屋の建築に当たり、平成元年10月20日にされた建築確認申請時の敷地面積は、本件5土地の面積に同土地に介在する青地の面積(25u)を加算した面積とされていた。
      • B 上記Aの家屋の各独立部分の居室は計○室であり、その所有者たる本件被相続人及び請求人Hによりそれぞれ賃貸の用に供されていたところ、請求人Hは、本件相続開始日前の平成22年1月1日、本件被相続人が有する持分(100分の45)を売買により取得した。
         なお、請求人Hは、本件相続開始日までの間、本件被相続人に対して本件5土地の地代を支払っておらず、本件5土地のうち上記売買により取得した持分に対応する部分の土地を使用貸借により利用していたものと認められる。
      • C 上記Aの家屋につき、上記Bの売買(平成22年1月1日)より前に本件被相続人が賃借人と賃貸借契約を締結していた各居室のうちの1室については、本件相続開始日に至るまで当該賃貸借契約が継続していた。残りの○室については、平成22年1月1日以降に、請求人Hと新たな借主との間で、賃貸借契約が締結されたものである。
    2. (ロ) 本件5土地の一部に青地が介在する場合の評価について
       上記1の(2)のハの(ヘ)及び上記(イ)のAによれば、本件5土地に介在する青地については、本件相続開始日に至るまで、本件被相続人及び請求人Hにより、本件5土地とともに共同住宅の敷地の一部として一体として利用されていたものと認められる。
       評価基本通達7-2(1)は、宅地は1画地の宅地(利用の単位となっている1区画の宅地)を評価単位とする旨定めているところ、本件相続開始日における本件5土地及び青地部分の土地の利用実態に鑑みれば、本件5土地を評価するに当たっては、本件5土地と青地部分の土地とを併せて1画地の宅地として評価単位を画した上で、まず青地部分の土地を含む宅地全体の評価額を算出し、その後、当該評価額から青地部分の土地の価額を控除して評価するのが相当と認められる。
       なお、青地部分の土地の価額については、上記ハの(ロ)と同様の理由により、本件相続開始日において当該青地部分の土地が請求人らに払い下げられたとした場合の払下げ費用相当額とするのが相当であり、請求人らの青地部分の価額の算定は面積あん分により算定した価額によるべきである旨の主張は採用することができない。
    3. (ハ) 本件5土地の一部を貸家建付地として評価すべきか否かについて
       請求人らは、本件5土地のうち、本件被相続人が本件5土地の上に存する家屋の持分を請求人Hに売却する前に賃貸し、本件相続開始日まで当該賃貸借契約が継続していた居室(1室)に対応する敷地部分については、貸家建付地として評価すべきである旨主張するので、以下検討する。
      • A 一般に、土地の所有者がその土地上に自己の家屋を建築して賃貸した場合には、当該家屋の賃借人は、家屋所有者の敷地利用権の範囲内で一定の支配権を有しているものとされ、逆に土地の所有者はその範囲内において敷地の利用についての受忍義務を負うこととなり、当該支配権を消滅させるには立退料の支払いを要する場合もあることから、評価基本通達上、このような制約を評価の減価要因と扱い、貸家建付地として自用地の価額から一定の減価を認めているところである(評価基本通達26、具体的減価方法につき上記ホの(ロ)のAを参照)。
         これに対し、土地の所有者から当該土地を使用貸借により借り受けて自己の家屋を建築して賃貸した場合には、家屋所有者の敷地利用権は全て使用借権となるところ、このような場合の使用借権は、借地借家法による法的保護を受けられないなど経済的交換価値において借地権に比し極めて弱いものであることから、その価額は零として取り扱う一方(使用貸借通達1《使用貸借による土地の借受けがあつた場合》)、使用借権が設定された土地の価額は自用地であるとした場合の価額として取り扱っている(使用貸借通達3《使用貸借に係る土地等を相続又は贈与により取得した場合》)。
      • B これを本件についてみると、上記(イ)のBのとおり、請求人Hが本件5土地上の家屋に係る本件被相続人の持分を取得し、これを単独で所有することとなった平成22年1月1日以降は、本件5土地のうち本件被相続人が持分を有していた部分に対応する当該家屋の敷地利用権は使用借権となることから、同日以降に新たに当該家屋の賃借人となった者の当該敷地利用権に対応する土地の価額は、自用地であるとした場合の価額となる。
         これに対し、本件被相続人が当該家屋の持分を有していた平成22年1月1日より前においては、本件5土地全体のうち本件被相続人が持分を有していた部分に対する当該家屋の敷地利用権は所有権に基づくものであることから、同日より前から当該家屋の賃借人であった者の敷地利用権に対応する土地の価額は、貸家建付地であるとした場合の価額となる。
      • C 上記(イ)のCのとおり、本件5土地上の家屋(共同住宅)の○室のうち○室に係る賃貸借契約は、平成22年1月1日以降に新たに賃借人となった者との間で締結された一方、残りの1室に係る賃貸借契約は、本件被相続人が平成22年1月1日より前に締結したものが本件相続開始日に至るまで継続していた。したがって、当該1室の敷地利用権に対応する土地(本件被相続人が家屋の持分を有していた部分の、本件5土地全体のうち本件被相続人が持分を有していた部分に限る。)については、上記Bのとおり、貸家建付地として取り扱うのが相当である。この点に関する請求人らの主張には理由がある。
    4. (ニ) 小括
       以上の点を踏まえ、本件5土地を評価基本通達の定める評価方法により評価すると、その評価額は、別表3の「本件5土地」欄のとおりとなり(計算の明細は別表4の「本件5土地」欄参照)、審判所認定額(3,746万7,221円)は、原処分庁認定額(3,777万5,828円)を下回る。
  • チ 本件6土地(別表2-1の順号14)について
     本件6土地については、同土地が不特定多数の者の通行の用に供されている私道に当たるか否かの争いがあるので、以下検討する。
    1. (イ) 法令等解釈
       評価基本通達24は、私道の用に供されている宅地の価額は、自用地価額の100分の30に相当する価額によって評価することを原則とする一方、その私道が不特定多数の者の通行の用に供されているときは、その私道の価額は評価しないこととしている。
       このように、評価基本通達24において、私道を、1不特定多数の者の通行の用に供するいわゆる通り抜け道路と、2袋小路のように専ら特定の者の通行の用に供するいわゆる行き止まり道路とに分けている趣旨は、上記1に該当するものは、私有物としての利用が大きく制限され公共性も強くなり、私道を廃して宅地となる可能性は極めて小さくなるので評価せず、他方、上記2に該当するものは、ある程度の制約はあるが私有物としての使用収益は可能であり、特にそのような私道に接する宅地が同一人の所有に帰属することとなると私道がその接する宅地内に包含されて宅地となる可能性を考慮したことにある。
       この点、課税実務(国税庁ホームページの質疑応答事例の「不特定多数の者の通行の用に供されている私道」参照)においては、1公道から公道へ通り抜けできる私道、2行き止まりの私道ではあるが、その私道を通行して不特定多数の者が地域等の集会所、地域センター及び公園などの公共施設や商店街等に出入りしている場合などにおけるその私道、3私道の一部に公共バスの転回場や停留所が設けられており、不特定多数の者が利用している場合などのその私道を、上記通達にいう「不特定多数の者の通行の用に供されている」私道として取り扱うこととしているが、かかる取扱いは上記通達の趣旨に沿うものであり合理性が認められる。
    2. (ロ) 認定事実
       原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
      • A 本件相続開始日において、本件6土地は、その一方がg市の市道に接続するものの、そのほかの三方はいずれも宅地に接しており、通り抜けはできない。
      • B 本件相続開始日において、本件6土地が接している宅地には、6棟の一戸建て住宅が存しており、公園、集会所、地域センターなどの公共的な施設は存しない。
    3. (ハ) 当てはめ
      • A 本件6土地は、本件相続開始日において私道の用に供されていた宅地であるが(上記1の(2)のハの(ト))、上記(ロ)の各事実によれば、同土地は、いわゆる行き止まり道路であり、同土地に接する宅地上に存する家屋(6棟)はいずれも住宅であって公共的な施設ではないことから、同土地を利用する者は、同土地に隣接する宅地上に存する家屋の居住者又はその関係者など当該家屋に出入りする者に限られるとみるのが相当である。そうすると、本件6土地は、不特定多数の者の通行の用に供されているものとはいえない。
         本件6土地が近隣住民6棟の生活用道路として利用されていたことをもって不特定多数の者の通行の用に供する道路に該当する旨の請求人らの主張は採用することができない。なお、請求人らは、本件6土地は固定資産税の評価上非課税となっていることから、相続税上も当然非課税とすべきである旨主張するが、固定資産税と相続税とでは、その趣旨目的、課税主体、手続等を全く異にするものであるから、本件6土地の固定資産税が非課税であることをもって、当然に、相続税法上の課税価格の評価が零となるということはできないから、当該主張も採用することができない。
      • B したがって、本件6土地は、評価基本通達24の定めにより、自用地価額の100分の30に相当する価額によって評価するのが相当である。
    4. (ニ) 小括
       以上の点を踏まえ、本件6土地を評価基本通達の定める評価方法により評価すると、その評価額は、別表3の「本件6土地」欄のとおりとなり(計算の明細は別表4の「本件6土地」欄参照)、原処分庁認定額と同額である。

(3) 争点3(請求人FがN寺に支払った金員のうち、永代供養料として領収証が発行された金員は、相続税法第13条第1項第2号に定める葬式費用に当たるか)について

  • イ 法令等解釈
     相続税法第13条第1項第2号は、相続税の課税価格の計算上、相続又は遺贈により取得した財産の価額から被相続人に係る葬式費用を控除する旨規定しているところ、その趣旨は、葬式費用は相続開始時に現存する被相続人の債務ではないものの、相続開始に伴う必然的出費であり、社会通念上もいわば相続財産そのものが担っている負担ともいえることを考慮したものとされている。
     ところで、葬式とは、一般に、葬儀、葬礼、お弔いともいい、死者を葬る儀式をいうところ、相続税法は、同法第13条第1項第2号にいう葬式費用自体の意義について定義規定を置いていない。したがって、その概念は社会通念に従って判断することとなるが、課税実務においては、同号所定の葬式費用として控除する金額の範囲について相続税法基本通達13-4が定められ、他方、葬式費用として取り扱わないものについて同13-5《葬式費用でないもの》が定められている。
  • ロ 認定事実
     上記1の(2)のニのとおりの領収証の記載内容に加え、500万円の1回での支払いに関し、200万円と300万円の2通の領収証に分けて作成されていることからすれば、記載のとおりの趣旨、すなわち「葬儀布施一式」と「永代供養料」に係る支払についてそれぞれ作成されたものと認めるのが書面の通常の解釈である。他方で、永代供養料の性質(下記ハ)からして、これが葬儀の際に支払われることは何ら不自然でなく、金額自体にも特に不自然な点はない。N寺の住職が、葬儀の施主において葬儀費用等をN寺に支払う場合、その趣旨、金額は施主が自主的に決めるものであり、N寺が作成する領収証は、施主の決めた趣旨に従って作成する旨申述していることをも併せれば、請求人Fは、本件被相続人の葬儀に際し、N寺に「葬儀布施一式」として200万円を、「永代供養料」として300万円をそれぞれ支払い、N寺もかかる趣旨でこれらの金員を受領したものと認められる。
  • ハ 当てはめ
     上記ロのとおりであるから、請求人FがN寺に支払った500万円のうち300万円は永代供養料と認められるところ、永代供養料とは、毎年の忌日や彼岸などに故人の供養をしてもらうために寺に納めておく金員をいうものであり、死者を葬る儀式について支出する葬式費用とはその性格を異にするものというべきである。また、相続税法基本通達13-5が死者の追善供養のために営まれる法会に要する費用を葬式費用として取り扱わないとしていることに照らしても、永代供養料は葬式費用に当たらないというべきである。
     したがって、請求人FがN寺に支払った500万円のうち300万円は、相続税法第13条第1項第2号に定める葬式費用に当たらない。

(4) 本件各更正処分の適法性について

以上により、請求人らの課税価額及び納付すべき税額を計算すると、別表6の「納付すべき税額」欄のとおりとなり、いずれも本件各更正処分の額を下回るから、本件各更正処分は、いずれもその一部を別紙2及び別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(5) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(4)のとおり、請求人らの本件各更正処分の一部をそれぞれ取り消すべきであるところ、その他の部分の納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そこで、請求人らの過少申告加算税の額を通則法第65条第1項の規定により計算すると、別紙2及び別紙3の「加算税の額」の「裁決後の額」欄のとおりとなり、いずれも本件各賦課決定処分の額を下回るから、本件各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙2及び別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) 結論

よって、請求人らの各審査請求は、いずれも別紙2及び別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消す限度で理由があるからこれらを認容することとする。

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