(平成29年5月29日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、建築設計業及び風俗業等を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、F国税局長所属の調査担当職員による調査を受け、所得税及び復興特別所得税(以下、併せて「所得税等」という。)並びに消費税及び地方消費税(以下、併せて「消費税等」という。)の各期限後申告書を所轄税務署長であったG税務署長に提出したところ、同税務署長が、当該所得税等及び消費税等の各無申告について、それぞれ課税要件事実を隠ぺいし又は仮装したところに基づくものであるとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、原処分のうち無申告加算税の額を超える部分に相当する額の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

  • イ 国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項第1号は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、当該期限後申告書に基づき納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課す旨規定している。
     また、通則法第66条第2項は、同条第1項の規定に該当する場合において、同項に規定する納付すべき税額が500,000円を超えるときは、同項の無申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、同項の規定により計算した金額に、当該超える部分に相当する税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。
  • ロ 通則法第68条《重加算税》第2項は、同法第66条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、無申告加算税に代え、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課す旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人の業務等
    • (イ) 請求人は、平成16年頃から、d市e町においてHの屋号で建築設計業を営み、併せて、所有する不動産の賃料収入を得ていた。
       請求人は、平成16年9月、当時の住所地を所轄するG税務署長に対し、所得税の青色申告承認申請書を提出し、平成17年分以後の所得税について青色申告の承認を受け、当時の関与税理士に依頼して、平成23年分までの所得税について青色の確定申告書を税務署長に提出するとともに、平成23年1月1日から平成23年12月31日までの課税期間までの消費税等の確定申告書を提出していた。
    • (ロ) また、請求人は、平成23年10月頃から、A市f町○−○所在のG○○号室(以下「本件事務所」という。)において、無店舗型性風俗特殊営業(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)第2条《用語の意義》第7項第1号参照。以下「デリヘル業」という。)を開始し、平成23年10月頃から平成26年5月頃まで「J」(以下「本件J店」という。)、平成25年1月頃から「K」(以下「本件K店」という。)、同年8月頃から「L」(以下「本件L店」という。)、同年12月頃から平成26年5月頃まで「M」(以下「本件M店」といい、本件J店、本件K店、本件L店と併せて「本件各店舗」という。)の各名称を使用してデリヘル業を行った。なお、本件各店舗は、いずれも請求人名義で風営法に規定する「無店舗型性風俗特殊営業」に係る届出がされていた。
  • ロ 請求人のデリヘル業の経理等
    • (イ) 請求人は、平成25年を通じて、デリヘル業をフランチャイズ方式で展開するグループから計数管理ソフトウェアの提供を受け、本件事務所内のパソコン(以下「本件パソコン」という。)において、本件J店及び本件M店の業務(以下、併せて「本件フランチャイズ等業務」という。)に係る売上金額及び所属するデリヘル嬢(デリヘル業に関し客に接する業務に従事する者のことをいう。以下同じ。)に支払った報酬(以下「女子給」という。)の金額をそれぞれ入力していた。
    • (ロ) 請求人は、平成25年を通じて、本件K店及び本件L店の業務(以下、併せて「本件独自業務」という。)に係る売上金額を本件パソコンに入力しなかった。
       請求人は、その所有する平成25年の手帳(以下「本件手帳」という。)に、本件独自業務の売上金額を記載し、そのほかにも、本件手帳に、本件独自業務について、顧客からの注文の際の当該顧客名、派遣するデリヘル嬢の源氏名、料金、サービスの開始時間及び派遣先のホテル名等の各情報等を記載していた。
       また、請求人は、本件独自業務に係る女子給の金額について、本件手帳に記載せず、本件パソコンにも入力していなかったが、本件独自業務に係る売上げがある都度、売上金額の○○〜○○%を女子給としてデリヘル嬢に支払っていた。
    • (ハ) 請求人は、平成25年を通じて、本件フランチャイズ等業務及び本件独自業務に係る広告宣伝費、フランチャイズ料、従業員(デリヘル嬢を除く。)の給与及び支払家賃等の必要経費について、本件パソコンの表計算ソフトにより集計を行っていた。
  • ハ 申告期限の徒過
     請求人は、平成25年分の所得税等の確定申告書及び平成25年1月1日から平成25年12月31日までの課税期間(以下「平成25年課税期間」という。)の消費税等の確定申告書をいずれも納税地を所轄するG税務署長に提出しなかった。
  • ニ F国税局長所属の調査担当職員による調査及び期限後申告
    • (イ) F国税局長所属の調査担当職員(以下、単に「調査担当職員」という。)は、平成27年11月10日、本件事務所において、請求人の所得税等及び消費税等の調査(以下「本件調査」という。)を開始した。この時、調査担当職員は、本件事務所内のテーブルの上に、本件パソコンのキーボードの下に置かれた平成25年分のデリヘル業及び建築設計業務に係る収支計算並びに貸借計算が記載された試算表と題するA3判のサイズで2枚組の文書(以下「本件試算表」という。)を発見した。本件試算表の収支計算部分には、請求人の平成25年分のデリヘル業及び建築設計業に係る収支が赤字である旨記載されていた。
    • (ロ) 請求人は、本件調査の結果に基づく調査担当職員からの期限後申告の勧奨を受け、平成28年3月24日、平成25年分の所得税等及び平成25年課税期間の消費税等の各期限後申告書をG税務署長に提出した。

(4) 審査請求に至る経緯

審査請求に至る経緯は、別表1及び別表2のとおりであるところ、G税務署長は、平成28年3月28日、請求人に対し、平成25年分の所得税等及び平成25年課税期間の消費税等について、それぞれ重加算税の各賦課決定処分をした。
 これに対し、請求人は、平成28年4月21日、F国税局長に対し、上記各賦課決定処分について異議申立てをし、F国税局長は、同年6月21日、請求人の異議申立てを棄却した。
 これを不服として、請求人は、平成28年7月14日、審査請求をした。

(5) 納税地の変更

請求人は、審査請求後の平成28年9月15日付で、肩書住所地に転居したため、請求人の納税地の所轄税務署長がG税務署長からN税務署長に変更となり、これを受けて原処分庁がF国税局長からE国税局長に変更となった。

トップに戻る

2 争点

請求人の無申告は、課税要件事実を隠ぺい又は仮装したことに基づくものか。

トップに戻る

3 主張

原処分庁 請求人
請求人は、本件フランチャイズ等業務及び建築設計業務に係る収入金額や本件フランチャイズ等業務及び本件独自業務に係る経費(ただし、女子給を除く。)を本件試算表において把握し、また、本件独自業務に係る収入金額も本件手帳で把握することなどにより、平成25年中に多額の利益が生じていることを認識していたが、それにもかかわらず、本件独自業務に係る収入金額を除いて本件フランチャイズ等業務及び建築設計業務に係る所得金額を算出する体裁の本件試算表を作成したことからすると、請求人は、本件独自業務に係る収入金額を申告しないという意図を有していたことが推認される。
 また、請求人は、本件試算表上、本件独自業務に係る必要経費の一部を本件フランチャイズ等業務及び建築設計業務の必要経費に含めることで、本件フランチャイズ等業務及び建築設計業務について損失が生じているという虚偽の内容を意図的に記載したことからすると、所得金額が生じないという状況を意図的に作出したといえる。
 さらに、請求人は、本件調査時に、内容虚偽の本件試算表を所持しており、本件独自業務に係る収入金額を除外したことについて合理的な説明をしなかった。
 これらの事情からすると、本件試算表は、本件独自業務に係る収入金額を除外するとともに、本件フランチャイズ等業務及び建築設計業においても所得金額が生じず、確定申告義務が生じないことの説明資料として作成されたものといえる。
 したがって、請求人は、平成25年分の本件独自業務に基因する事業所得の金額を隠ぺいして納税申告書を提出しなかったと認められる。
請求人は、請求人が顧問契約を締結しようとしていたある税理士に対し、請求人の事業の概況を知ってもらうため、平成25年分の所得に関する資料のうち、本件フランチャイズ等業務の収入及び一部の経費に関する資料並びに建築設計業務に係る収入が記載された銀行の履歴を提供したところ、当該税理士が本件試算表を作成したのである。
 それゆえ、請求人は、本件試算表を申告のために作成させておらず、請求人の事業に係る収入及び経費の全てが記載されているわけではない本件試算表の金額をもって事業所得とするつもりもなかった。
 したがって、請求人は、本件試算表をもって、本件独自業務に係る収入金額を除外し、損失が生じているという内容を示そうとしていなかったのであり、平成25年分の本件独自業務に係る事業所得の金額を隠ぺい又は仮装していない。

トップに戻る

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

通則法第68条第2項に規定する重加算税の制度は、納税者が法定申告期限までに申告書を提出しないことについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者が法定申告期限までに申告書を提出しなかったこと自体が隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、これとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせて法定申告期限までに申告書を提出しなかったことを要するものである。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 本件独自業務の経理等の状況
    • (イ) 請求人は、本件独自業務に係る売上金額や女子給については、本件パソコンに入力するなどの方法により管理することはしていなかったが、本件独自業務に係る必要経費(ただし、女子給を除く。)については、本件フランチャイズ等業務に係る必要経費と一緒に、本件パソコンの表計算ソフトにより集計を行っていた。
    • (ロ) 本件手帳は、見開き2頁に当該年及び翌年のカレンダーが印字されている部分や、それに続く見開き2頁に1週間のカレンダーが印字されている部分からなり、後者の部分は100頁を超えるところ、請求人は、上記の1週間のカレンダーが印字されている頁の各日の部分に、本件独自業務に係る顧客名、派遣するデリヘル嬢の源氏名、料金、サービスの開始時間及び派遣先等の情報や当該日の売上金額を手書きし、当該年及び翌年のカレンダーが印字されている頁の各月の部分に、本件独自業務の当該月の売上金額を手書きしていた。
       上記の1週間のカレンダーが印字されている頁の記載状況は、判読困難な文字が記載されていたり、各日の部分に本件独自業務に関する前記情報などが隙間なく記載されていたり、顧客の支払ったサービス料金の額の記載が一見して見当たらなかったりするというものであった。
  • ロ 請求人の無申告
     請求人は、所得税等の確定申告をしなければならないと考えながら、平成25年分の所得税等の確定申告書及び平成25年課税期間の消費税等の申告書をいずれも法定申告期限までに提出しなかった。
  • ハ 本件試算表の作成等
    • (イ) 請求人は、平成25年12月頃から、かつて申告業務を依頼していた税理士事務所の事務員に別の税理士の紹介を頼むなど、新たに申告業務を依頼し顧問契約を締結する税理士を探していた。そのような中、請求人は、紹介を受けて、平成26年7月頃、a市b町所在の税理士法人P社(以下「P社」という。)所属の税理士及び事務員と面談した。
    • (ロ) P社は、請求人が手渡した資料の不明点についての問合せを行うなどして、平成26年10月頃、本件試算表の前身となる仮組みの試算表(以下「仮組み試算表」という。)を作成し、これを請求人に手渡したが、不明な支出が残るなどしていたため、その後も請求人からの聞取り等を進めて仮組み試算表を更新し、平成27年4月頃、本件試算表を作成して請求人に手渡した。さらに、P社は、本件試算表を手渡した後も請求人から資料を受領するなどして本件試算表を更新していった。
       請求人が本件試算表を受領するまでにP社に手渡した資料は、請求人の建築設計業に係る銀行の履歴、本件フランチャイズ等業務に係る売上金額及び女子給の記載された資料(上記1の(3)のロの(イ)の入力情報に係るもの)並びに本件フランチャイズ等業務及び本件独自業務に係る必要経費(ただし、女子給を除く。)の額を本件パソコンの表計算ソフトで集計した資料(上記イの(イ)の集計情報に係るもの)などであり、本件手帳やそこに記載された情報を整理した資料は手渡していない。
    • (ハ) 請求人は、本件試算表の受領後本件調査までに、P社に対し、本件フランチャイズ等業務以外に本件独自業務を営んでいることなどを述べたため、試算表は完成しなかった。
    • (ニ) P社は、請求人から申告業務を受任するための誘引材料として上記(ロ)の本件試算表等を作成したものの、結局、請求人は、P社に申告業務を依頼したり、P社と顧問契約を締結したりしたことはなかった。
  • ニ 本件調査の状況等
    • (イ) 調査担当職員は、平成27年11月10日、本件事務所において、本件調査を開始した。その経緯は、調査担当職員が、まず請求人から所得税の申告状況等を聴取し、その後本件事務所内を確認したというものである。その本件事務所内の確認の際、調査担当者は、本件パソコンのキーボードの下に置かれた本件試算表を発見した。請求人は、本件試算表が発見されるまで、調査担当者に対して本件試算表の存在について説明していない。
    • (ロ) 本件試算表の収支計算部分には、平成25年分のデリヘル業及び建築設計業に係る収支が赤字である旨が記載されている。また、本件試算表の余白部分(裏面を含む。以下同じ)には、ほぼ全面にわたって、請求人が手書きで顧客の連絡先、デリヘル嬢の源氏名、その派遣先等を記載していた。

(3) 検討

  • イ 原処分庁は、要するに、本件試算表の作成が、請求人による隠ぺい、仮装と評価すべき行為に該当する旨主張する。
  • ロ そこで検討するに、請求人は、P社に、本件独自業務に係る売上げが記載された本件手帳を渡さず、他方、本件独自業務の必要経費(ただし、女子給を除く。)も含む必要経費が記載された資料を手渡していること(上記(2)のハの(ロ))からすると、請求人は、P社において、実際の所得金額よりも少ない所得金額が記載された本件試算表が作成されることを認識していたことがうかがわれる。このことに加えて、請求人は、平成25年分の収支が赤字である旨の内容虚偽の本件試算表を、そうと知りながら本件調査に至るまで手近に置いていたこと(同ロ、ハの(ロ)、ニの(イ)及び(ロ))、平成25年分の所得税等の確定申告の必要性を認識しながら所得税等及び消費税等の各申告書をいずれも法定申告期限までに提出しなかったこと(同ロ)を考慮すると、請求人が、確定申告義務の生じないことの説明資料として本件試算表をP社に作成させた、つまり、本件試算表の作成が、請求人による隠ぺい、仮装と評価すべき行為に該当すると考えることについては、一応の理由がある。
  • ハ しかしながら、下記の各事情も考慮すると、請求人が、確定申告義務の生じないことの説明資料として本件試算表を作成させたと認めることについては疑問が残るものといわざるを得ない。
    • (イ) 本件試算表の作成経緯をみるに、請求人は、新たな税理士を探していた中で、紹介されたP社と面談して資料を手渡すなどしたが、結局、P社に申告業務の依頼や顧問契約の締結をしておらず(上記(2)のハの(イ)、(ロ)及び(ニ))、資料を手渡した時点では、いまだP社への申告業務の依頼や顧問契約の締結を検討している段階であった。このような段階では、請求人が毎月の顧問料の金額をなるべく低く抑えたいと考えることは自然であるところ、本件手帳の頁数やその記載状況(同イの(ロ))によれば、その記載自体から本件独自業務に係る売上金額を正確に把握するのは容易ではなく、本件手帳をもとにした税理士の申告業務には手間と時間がかかるし、本件手帳を作成した請求人自らがそこに記載された情報を整理しP社に提供するとしても、相応の手間と時間がかかるものと認められる。そうすると、請求人が、顧問料の高額化を懸念したり、いまだ正式に顧問契約も締結していない段階においてP社に上記のような手間をかけさせることを遠慮したりして、あえて本件手帳をP社に交付しなかったとしても不自然ではないし、また、そのような段階において、手間と時間をかけるのを嫌って、本件手帳に記載された情報を自ら整理して交付しようとしなかったとしても、必ずしも不自然ではなく、そのような理由から、本件手帳の交付やそこに記載された情報の提供をP社側にしなかった可能性も十分に考えられる。
       また、P社は、請求人から手渡された資料などをもとに仮組み試算表を作成して請求人に交付し、更に聞取りを進めるなどしながら仮組み試算表を更新して本件試算表を作成して請求人に交付し、その後も請求人から資料の提出を受けるなどして本件試算表を更新したこと(上記(2)のハの(ロ))、本件試算表の交付後、請求人から本件フランチャイズ等業務以外に本件独自業務を行っているなどと言われたため、試算表を完成できなかったこと(同(ハ))からすると、請求人は、本件試算表が作成途上のものにすぎないことを認識し、最終的な試算表には本件独自業務に係る収入を反映させるつもりであった可能性も否定できない。
       これらのことからすると、請求人が確定申告義務が生じていないことの説明資料として虚偽の内容の本件試算表を作成させたと考えることについては疑問が残る。
    • (ロ) 本件試算表受領後の事情をみるに、請求人は、本件試算表の余白部分のほぼ全面にわたって、デリヘル嬢の派遣に関する事項(源氏名、顧客の連絡先、派遣先等)などを手書きしていたこと(上記(2)のニの(ロ))、本件調査の際、請求人がデリヘル業の用に供していた本件パソコンのキーボードの下から発見されたことからすると(同イ、ニの(イ))、請求人は、本件試算表の余白部分を、顧客からデリヘル嬢の派遣を依頼されたときにその内容を記載するなど備忘メモとして利用していたと認められ、そのことからすると、本件試算表を重要な書類であるとは思っていなかった可能性も否定できない。
       また、仮に、請求人が本件試算表をもって申告することを考えていたとすると、本件調査の際、自ら進んで本件試算表を示して確定申告義務がないことを説明するはずであるが、請求人は、本件調査の際、本件試算表が発見されるまでその存在について説明していない(上記(2)のニの(イ))。
       これらのことからすると、請求人が本件試算表に基づき申告するつもりがあったと考えることについても疑問が残る。
  • ニ 以上によれば、請求人が、確定申告義務の生じないことの説明資料として本件試算表をP社に作成させたとは認められない。したがって、本件試算表の作成が、請求人による隠ぺい、仮装と評価すべき行為に該当するとは認められない。

(4) 原処分庁の主張について

  • イ 原処分庁は、要するに、請求人が、多額の利益が生じていることを認識していながら、本件独自業務に係る収入を除いた体裁の本件試算表を作成したことからすると、本件独自業務に係る収入金額を申告しないという意図を有していたことが推認され、本件試算表の作成が、請求人による隠ぺい、仮装と評価すべき行為に該当することもまた推認される旨主張する。また、原処分庁は、要するに、請求人が、本件試算表上、本件フランチャイズ等業務及び建築設計業務について損失が生じているという虚偽の内容を意図的に記載したことからすると、所得金額が生じないという状況を意図的に作出したといえ、本件試算表の作成が、請求人による隠ぺい、仮装と評価すべき行為に該当することが推認される旨主張する。
     しかしながら、前記(3)のハの諸事情、特に、請求人は、本件試算表を受け取ってから本件調査までに、P社に対し、本件独自業務に係る収入が存在すると述べていること(上記(2)のハの(ハ))をも考慮すると、原処分庁の主張する事実をもって、請求人が、本件独自業務に係る収入金額を申告しないという意図を有していたとか、所得金額が生じない状況を意図的に作出したとは認められず、原処分庁の上記各主張は採用することができない。
  • ロ 原処分庁は、要するに、請求人が、本件調査時に、内容虚偽の本件試算表を所持しており、本件独自業務に係る収入金額を除外したことについて合理的な説明をしなかったことから、本件試算表の作成が、請求人による隠ぺい、仮装と評価すべき行為に該当することが推認される旨主張する。
     しかしながら、請求人は、本件調査の際、本件試算表が発見されるまでその存在について説明していないこと(上記(2)のニの(イ))からすると、原処分庁の主張する事実は、上記(3)のニの判断を直ちに左右するものではなく、原処分庁の上記主張は採用することができない。

(5) 小括

以上のとおり、本件試算表の作成が、請求人による隠ぺい、仮装と評価すべき行為に該当するとは認められない。また、全証拠を検討しても、その他、隠ぺい、仮装と評価すべき行為は見当たらない。
 したがって、請求人の無申告は、課税要件事実を隠ぺい又は仮装したことに基づくものとは認められない。

トップに戻る

5 原処分について

上記4のとおり、請求人の無申告は、課税要件事実を隠ぺい又は仮装したことに基づくものとは認められないから、請求人につき、通則法第68条第2項所定の重加算税の賦課要件を満たさないので、平成25年分の所得税等及び平成25年課税期間の消費税等の重加算税の各賦課決定処分は取消しを免れない。
 もっとも、請求人につき、通則法第66条第1項第1号所定の要件を充足するところ、請求人が法定申告期限までに各申告書を提出しなかったことについて、同条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、請求人に対する重加算税の各賦課決定処分は、別紙1及び別紙2のとおり、無申告加算税相当額を超える部分の金額についてそれぞれ違法であり、当該部分を取り消すべきである。

トップに戻る

6 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すこととする。

トップに戻る