(平成29年5月29日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、納税者D(以下「本件滞納者」という。)がした審査請求人(以下「請求人」という。)に対する不動産の贈与は、国税徴収法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する無償による譲渡に該当するとして、請求人に対して第二次納税義務の納付告知処分を行った上、当該第二次納税義務に係る国税を徴収するため、請求人が所有する当該不動産の差押処分をしたのに対し、請求人が、当該納付告知処分については、本件滞納者の滞納国税の徴収権の消滅時効が完成しているなどとして、また、当該差押処分については、当該納付告知処分の取消しに伴って無効になるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

  • イ 徴収法第32条《第二次納税義務の通則》第1項は、税務署長は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、政令で定めるところにより、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない旨、同条第2項は、第二次納税義務者がその国税を同条第1項の納付の期限までに完納しないときは、税務署長は、納付催告書によりその納付を督促しなければならない旨、それぞれ規定している。
  • ロ 徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免れた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。
  • ハ 徴収法第47条《差押の要件》第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員(徴収法第2条《定義》第11号に規定する者をいう。)は、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨、徴収法第47条第3項は、第二次納税義務者について同条第1項の規定を適用する場合には、同項中「督促状」とあるのは「納付催告書」とする旨、それぞれ規定している。
  • ニ 徴収法第68条《不動産の差押の手続及び効力発生時期》第1項は、不動産の差押えは、滞納者に対する差押書の送達により行う旨、同条第3項は、税務署長は、不動産を差し押さえたときは、差押えの登記を関係機関に嘱託しなければならない旨、同条第4項は、同条第3項の差押えの登記が差押書の送達前にされた場合には、同条第2項の規定にかかわらず、その差押えの登記がされた時に差押えの効力が生ずる旨、それぞれ規定している。
  • ホ 国税通則法(以下「通則法」という。)第72条《国税の徴収権の消滅時効》第1項は、国税の徴収を目的とする国の権利(以下「国税の徴収権」という。)は、その国税の法定納期限から5年間行使しないことによって、時効により消滅する旨、同条第3項は、国税の徴収権の時効については、同法第7章第2節《国税の徴収権の消滅時効》に別段の定めがあるものを除き、民法の規定を準用する旨、それぞれ規定している。
  • ヘ 民法第147条《時効の中断事由》は、時効は、次に掲げる事由によって中断する旨規定している。
    • (イ) 請求(同条第1号)
    • (ロ) 差押え、仮差押え又は仮処分(同条第2号)
    • (ハ) 承認(同条第3号)
  • ト 民法第153条《催告》は、催告は、6か月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法若しくは家事事件手続法による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じないと規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件滞納者は、平成16年11月25日、妻である請求人に、自己が所有する別表1記載の土地及び建物(以下、併せて「本件各不動産」という。)を贈与(以下「本件贈与」という。)し、同月26日受付で、本件各不動産について本件贈与を原因とする所有権移転登記がされた。
  • ロ 原処分庁は、別表2記載の本件滞納者の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、平成17年6月15日付で、徴収法第47条第1項第1号及び第73条《電話加入権等の差押えの手続及び効力発生時期》第1項の各規定に基づき、本件滞納者のE信用組合(現、F信用組合。以下「本件金融機関」という。)に対する出資持分(出資口数30口、出資金額30,000円)を差し押さえた。
     その後、原処分庁は、平成18年8月7日、徴収法第74条《差し押さえた持分の払戻しの請求》第1項の規定に基づき、平成17年6月15日付で差し押さえた出資持分の払戻しを受けた。
  • ハ 原処分庁は、平成23年8月2日付で、本件滞納国税に係る差押予告書(以下「本件差押予告書」という。)を本件滞納者宛に発送し、本件差押予告書は、同月3日に本件滞納者に送達された。
     なお、本件差押予告書には、本件滞納国税の額、及び、本件滞納国税が完納されていないため、やむなく本件滞納者の財産の差押えを行うことになる旨記載されていた。
  • ニ 原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、本件贈与が徴収法第39条に規定する無償による譲渡に該当するとして、平成28年2月19日付で、請求人に対し、徴収法第32条第1項の規定に基づき、第二次納税義務者(請求人)から徴収しようとする金額を○○○○円、納付の期限を同年3月21日などと記載した納付通知書により告知(以下「本件納付告知処分」という。)した。
     なお、本件納付告知処分に係る納付通知書は、平成28年2月20日、請求人に送達された。
  • ホ 請求人は、本件納付告知処分を不服として平成28年3月15日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月23日付で棄却の異議決定をした。
  • ヘ 原処分庁は、請求人が本件納付告知処分に係る国税を上記ニの納付の期限までに完納しなかったことから、平成28年5月23日付で、請求人に対し、徴収法第32条第2項の規定に基づき、納付催告書によりその納付を督促した。
  • ト 請求人は、異議決定を経た後の本件納付告知処分に不服があるとして、平成28年6月17日に審査請求をした。
  • チ 原処分庁は、上記ヘの納付催告書を発した日から起算して10日を経過した日までに請求人が本件納付告知処分に係る国税を完納しなかったことから、当該国税を徴収するため、平成28年7月5日付で、徴収法第47条第1項第1号及び第3項並びに同法第68条第1項の各規定に基づき、本件各不動産を差し押さえた(以下「本件差押処分」という。)。
     なお、本件差押処分に係る差押書は、平成28年7月6日に請求人に送達された。
     また、同月5日受付で、本件各不動産について、本件差押処分に係る差押登記がされた。
  • リ 請求人は、本件差押処分を不服として、平成28年7月7日に審査請求をした。
  • ヌ そこで、上記ト及びリの各審査請求について併合審理する。

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2 争点

  • (1) 本件滞納国税の徴収権の時効は、平成23年8月3日に中断したか否か(争点1)。
  • (2) 本件納付告知処分には、国税の徴収権を濫用した違法があるか否か(争点2)。

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3 争点についての主張

(1) 争点1(本件滞納国税の徴収権の時効は、平成23年8月3日に中断したか否か。)について

  • イ 原処分庁の主張
    • (イ) 原処分庁は、平成23年8月3日、本件滞納者に対する本件差押予告書の送達によって、本件滞納国税について民法第153条に規定する催告をしたところ、本件滞納者は、同年9月7日、本件滞納国税について納付義務があることを承認する旨の記載のある債務承認書(以下「本件債務承認書」という。)を原処分庁に提出して、民法第147条に規定する債務の承認をした。
       なお、本件債務承認書には、本件滞納者の指印及び確定日付としての効力が認められる平成23年9月7日付のB税務署の文書収受日付印が押捺されていることから、本件滞納者が、同日、本件債務承認書を作成して原処分庁に提出したことにより、本件滞納国税に係る債務の承認をしたことは明らかである。
    • (ロ) また、民法第153条は、債権者の催告について、債権者が正規の中断事由によって補強することにより時効中断の効力を認めるものであるところ、債権者の催告について、債務者の行為による正規の中断事由である承認を、債権者の行為による正規の中断事由と区別する理由はない(大阪高等裁判所平成18年5月30日判決(平成18年(ネ)第454号根抵当権設定登記抹消登記手続請求控訴事件))のであるから、催告後6か月以内にされた承認によって、催告による時効の中断の効力が生じると解される。
    • (ハ) したがって、本件滞納国税の徴収権の時効は、本件差押予告書の送達による催告後、その6か月以内にされた本件滞納者による債務の承認によって、平成23年8月3日に中断した。
  • ロ 請求人の主張
    • (イ) 本件債務承認書については、本件滞納者が作成した記憶がないこと、筆跡が本件滞納者のものと異なること、及び、文書収受日付印はあるものの作成日付欄に年月日の記載がないことからすれば、本件滞納者が平成23年9月7日に作成したものとはいえない。
       したがって、本件滞納者が、平成23年9月7日に本件滞納国税に係る債務の承認をしたとは認められない。
    • (ロ) 仮に、本件滞納者が本件債務承認書によって本件滞納国税に係る債務の承認をしていたとしても、承認は民法第153条に列挙されている行為ではないから、承認によって催告による時効中断の効力が生じるとする原処分庁の民法の解釈には誤りがある。
       この点、原処分庁は、大阪高等裁判所判決の判断を参考としているが、通則法が国税の徴収権の時効については援用を要しないとしている点からすれば、国税の徴収権と一般債権とは異なるものであるから、当該判決の説示同様に解釈することはできない。
    • (ハ) したがって、本件滞納国税の徴収権の時効は、平成23年8月3日に中断していない。

(2) 争点2(本件納付告知処分には、国税の徴収権を濫用した違法があるか否か。)について

  • イ 請求人の主張
    • (イ) 原処分庁は、本件滞納国税に係る督促(平成16年5月13日)から本件贈与(平成16年11月25日)までの半年間に、本件滞納者が本件各不動産を所有していることを把握して差し押さえることが可能であったにもかかわらず、本件滞納者に対し適切な滞納処分等を行わず放置し、本件贈与から約12年も経過した後になって、詐害の意思もなく本件贈与を受けた請求人に本件納付告知処分をしたものである。
       したがって、このような本件納付告知処分には、国税の徴収権を濫用した違法がある。
    • (ロ) また、原処分庁は、平成17年6月15日に本件金融機関の出資持分を差し押さえた時には、財産調査により本件贈与の事実を把握していたといえ、さらに、平成23年9月7日には、本件滞納者と面談したというのであるから、本件贈与の事実を把握していたはずである。
       それにもかかわらず、原処分庁は、これらの時点で請求人に第二次納税義務の告知をせず、延滞税がかさむこととなったのであるから、かかる原処分庁の怠慢を請求人に転嫁するような本件納付告知処分には、国税の徴収権を濫用した違法がある。
  • ロ 原処分庁の主張
     本件納付告知処分が国税の徴収権の濫用に当たる場合とは、本件滞納者が現に十分な財産を有し、本件滞納者からの本件滞納国税の徴収が極めて容易であるにもかかわらず、原処分庁が本件滞納者又は第三者の利益を図る目的をもって恣意的に本件滞納国税の徴収を行わず、請求人に対して本件納付告知処分を行った場合と解されるが、本件納付告知処分においては、そのような事実は認められない。
     また、国税が滞納となった場合に、どの時点で第二次納税義務の告知処分を行うかの判断は、当該国税の徴収を行う税務署長の裁量権に属するものであるところ、本件納付告知処分において、原処分庁が裁量権を逸脱したとする事実はない。
     したがって、本件納付告知処分には、国税の徴収権を濫用した違法はない。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件滞納国税の徴収権の時効は、平成23年8月3日に中断したか否か。)について

本件滞納国税の徴収権の時効は、上記1(3)ロのとおり、本件金融機関に対する本件滞納者の出資持分の払戻しを受けた平成18年8月7日の翌日である同月8日から新たに進行していたところ、原処分庁は、上記3(1)イのとおり、平成23年8月3日に、本件滞納者に対する本件差押予告書の送達によって、本件滞納国税について民法第153条に規定する催告をし、当該催告後6か月以内である平成23年9月7日に、本件滞納者が作成したとする本件債務承認書の提出を受けた旨主張する。
 そこで、1本件滞納者が平成23年9月7日に本件滞納国税について債務の承認をしたか否か、また、2仮に本件滞納者が当該債務の承認をしていた場合、承認によって民法第153条が規定する催告による時効中断の効力が生じたか否かについて、以下、検討する。

  • イ 本件滞納者が平成23年9月7日に本件滞納国税について債務の承認をしたか否かについて
    • (イ) 本件滞納者が本件滞納国税に係る債務を承認した証拠として、平成23年9月7日付のB税務署の文書収受日付印(番号1)が押捺されている本件債務承認書が存在する。そして、本件債務承認書が本件滞納者から原処分庁に提出された経緯について、原処分庁所属の徴収職員(以下「本件徴収職員」という。)は、当審判所に対し、本件滞納者が面談予定日に来署せず、平成23年9月7日に突然来署したため急きょ面談し、当初準備していた債務承認書の、当初の面談予定日現在のものとして印字されていた滞納国税について、平成23年9月7日現在のものとして、その月日及び延滞税額を、それぞれ手書で修正した旨、また、本件滞納者に内容を確認の上、修正した債務承認書に署名してもらったが、本件滞納者が印章を持参していなかったために指印してもらい、その提出を受けた旨答述した。
    • (ロ) そこで、本件債務承認書についてみると、確かに、「私は、平成23年9月7日現在、下記国税(当該国税として、年度、税目、納期限、本税額及び延滞税額がそれぞれ記載されている。)の納税義務があることを承認します。」と記載された文のうち「9」及び「7」の数字並びに延滞税額のみが手書されており、同日、本件徴収職員が急きょ面談するに至った事情が読み取れる。そして、納税者の氏名欄には「D」と手書され、その横に指印されていることが認められることからすると、本件滞納者が自ら本件債務承認書に署名指印した可能性が高いといえ、この点について疑いを差し挟むような事情も認められない。
       また、平成23年9月7日付のB税務署の文書収受日付印(番号1)が押捺されている質問てん末書(以下「本件質問てん末書」という。)が存在するところ、聴取の日時欄には、平成23年9月7日午後2時10分から午後2時30分までと記載(時分については手書)されている。そして、被質問者の署名押印欄には「D」と手書され、その横に指印もある上、回答欄には本件滞納者の個人的事情が手書されていることからすれば、本件徴収職員が、同日に、本件滞納者と面談し、本件滞納者による回答をその場で録取したことがうかがわれる。
       かかる事情に加えて、本件債務承認書と本件質問てん末書に押捺された文書収受日付印の日付及び番号が同一であることからすると、本件債務承認書の作成日付欄に年月日の記載はないものの、文書収受日付印の日付である平成23年9月7日に、本件徴収職員が本件滞納者と面談し、その際、本件滞納者から本件債務承認書の提出を受けた旨の上記(イ)の答述は信用できる。
       そうすると、本件債務承認書は、平成23年9月7日、本件徴収職員と本件滞納者が面談した際に作成されたものであり、本件滞納者が自ら署名指印した上で原処分庁に提出したものと認められる。
       したがって、本件滞納者は、平成23年9月7日に本件滞納国税について債務の承認をしたものと認められる。
       なお、請求人は、本件滞納者が本件債務承認書を作成した記憶がなく、その筆跡が本件滞納者のものと異なり、作成日付欄に年月日の記載がないことからすれば、本件債務承認書が平成23年9月7日に本件滞納者によって作成されたものとはいえない旨主張するが、同日の面談状況等については上記のとおりであって、当審判所の調査の結果によっても、これに反する請求人の主張を認めるに足りる証拠はないことから、請求人の主張は採用できない。
  • ロ 本件滞納者がした債務の承認によって、民法第153条が規定する催告による時効中断の効力が生じたか否かについて
    • (イ) 法令解釈
       通則法第72条第3項は、国税の徴収権の時効については、別段の定めがあるものを除き、民法の規定を準用する旨規定しているところ、民法第153条は、催告による時効中断効を生じさせることができる行為として、裁判上の請求等裁判所が関与する手続を挙げるが、承認を挙げておらず、承認に関しては、裁判所の関与が必要とはされていない。これによると、立法者が、民法第153条が定める催告による時効中断効を発生させる要件として、裁判所が関与する手続が必要であり承認では足りないとの判断を行ったかのようでもあり、このような文理を無視できないかにみえる。
       しかし、民法第153条は、債権者の催告について、債権者が正規の中断事由によって補強することにより時効中断の効力を認めるものであって、正規の中断手続をとるのが遅れることにより時効が完成するのを防ぐ便法として機能することを期待して定められたものと解される。そうであれば、債権者の催告について、債務者の行為による正規の中断事由である承認(これは権利の存在を明確にする事由である。)を、債権者の行為による正規の中断事由と区別する理由はないというべきである。
       したがって、催告後6か月以内にされた承認によっても、民法第153条が規定する催告による時効中断効が生じると解すべきである。
    • (ロ) 当てはめ
       これを本件についてみると、上記イのとおり、本件滞納者は、平成23年9月7日に、原処分庁に本件債務承認書を提出し、本件滞納国税について債務の承認をしたものであるところ、当該承認は、原処分庁が平成23年8月3日に本件差押予告書の送達によって行った本件滞納国税についての催告後6か月以内にされたものである。
       したがって、本件債務承認書の提出によって、本件差押予告書による催告の時効中断の効力が生じたものと認めるのが相当である。
  • ハ 以上によれば、本件滞納国税の徴収権の時効は、本件差押予告書の送達がされた平成23年8月3日に中断した。

(2) 争点2(本件納付告知処分には、国税の徴収権を濫用した違法があるか否か。)について

  • イ 徴収法の定める第二次納税義務が、確定した主たる納税義務につき本来の納税義務者の財産に対する滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別な関係にある第三者を本来の納税義務者に準ずる者とみて、これに主たる納税義務についての履行責任を補充的に負わせるものであり、本来の納税義務者の国税の徴収を確保するために課した特別の責任であることに照らすと、単に、税務署長等において本来の納税義務者から国税の徴収を怠ったというにとどまらず、本来の納税義務者が十分な財産を有し、本来の納税義務者から滞納に係る国税を徴収することが極めて容易であるにもかかわらず、税務署長等が本来の納税義務者又は第三者の利益を図る目的をもって恣意的に本来の納税義務者から国税の徴収を行わず、徴収法第39条に基づき、第二次納税義務を負わせたというような場合においては、当該納付告知処分が形式的には租税法規に適合するものであっても、正義公平の観点からみて国税の徴収権の行使として許容できず、国税の徴収権の濫用に当たると解するのが相当である。
  • ロ これを本件についてみると、当審判所の調査の結果によっても、本件滞納者が十分な財産を有し、本件滞納者から滞納に係る国税を徴収することが極めて容易であるにもかかわらず、原処分庁が本件滞納者又は第三者の利益を図る目的をもって恣意的に本件滞納者から国税の徴収を行わず、徴収法第39条に基づき、請求人に対して第二次納税義務を負わせたということを認めるに足りる証拠はない。
     なお、請求人は、本件納付告知処分が、本件贈与があったとき及び原処分庁が本件贈与の事実を把握していたであろうときから相当期間経過後にされたものである旨、これにより延滞税がかさむこととなったのは原処分庁の怠慢である旨並びに請求人には詐害の意思がない旨を主張するが、請求人の主張する事情が認められたとしても、上記イに照らせば、本件納付告知処分が国税の徴収権の濫用となるものではない。
     したがって、本件納付告知処分には、国税の徴収権を濫用した違法はない。

(3) 本件納付告知処分の適法性について

以上のとおり、本件納付告知処分は、いずれの争点においてもこれを取り消すべき理由がなく、上記1(3)ニのとおり、徴収法第32条第1項及び第39条の各規定に基づきされている。
 なお、本件納付告知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、本件納付告知処分を取り消すべき事由は見当たらない。
 したがって、本件納付告知処分は適法である。

(4) 本件差押処分の適法性について

上記(3)のとおり、本件納付告知処分は、これを取り消すべき理由がなく、本件差押処分は、上記1(3)チのとおり、徴収法第47条第1項第1号及び第3項並びに同法第68条第1項の各規定に基づきされている。
 なお、本件差押処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、本件差押処分を取り消すべき事由は見当たらない。
 したがって、本件差押処分は適法である。

(5) 結論

以上によれば、審査請求には理由がないから、いずれも棄却することとする。

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