(平成29年5月8日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、源泉徴収の選択をした特定口座を通じて行った特定口座内保管上場株式等の譲渡等のうち、平成26年12月26日を約定日、平成27年1月5日を受渡日とする上場株式等の譲渡について、約定日の時点で総収入金額に算入して所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該上場株式等の譲渡については、受渡日の時点で総収入金額に算入すべきであるとして所得税等の更正処分を行ったことに対して、請求人が、約定日の時点で総収入金額に算入すべきであるとして、当該更正処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

別紙「関係法令等の要旨」のとおりである。なお、別紙で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、国内に住所を有する居住者であり、平成18年2月15日、金融商品取引業者等であるD証券との間で上場株式等保管委託契約に基づき特定口座(以下「本件口座」という。)を開設し、併せて特定口座源泉徴収選択届出書を提出しており、平成26年分の本件口座に係る上場株式等の譲渡に関して、措置法第37条の11の4の第1項に規定する源泉徴収等の特例が適用されていた。
  • ロ 請求人は、平成26年12月26日、本件口座において、同日を約定日(以下「本件約定日」という。)、平成27年1月5日を受渡日(以下「本件受渡日」という。)とするE社の株式6,000株の譲渡(以下「本件譲渡」という。)を行った。
  • ハ 金融商品取引業者等は、本件受渡日に、本件譲渡に係る所得税等の源泉徴収を行い、別表2の本件口座に係る「平成26年分特定口座年間取引報告書」(以下「本件報告書」という。)の「源泉徴収税額(所得税等)」欄に、源泉徴収した所得税等は計上されていない。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成26年分の所得税等について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(以下「本件平成26年分申告書」という。)を、原処分庁に対して法定申告期限内に提出した。なお、請求人は、本件平成26年分申告書において、別表2の「一般上場分」の「B差引金額(譲渡所得等の金額)(@−A)」欄の○○○○円及び別表3の「株式譲渡」の「本件譲渡分」の「B差引金額(譲渡所得等の金額)(@−A)」欄の○○○○円との合計額○○○○円を分離課税による上場株式等の譲渡所得の金額として、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した上、当該金額から平成26年分で差し引く株式等に係る繰越損失の金額○○○○円を控除している。また、請求人は、別表2の本件報告書の「源泉徴収税額(所得税等)」欄の○○○○円と別表3の「源泉徴収税額」の「本件譲渡分」欄の○○○○円との合計額○○○○円並びに給与等、公的年金及び配当所得に係る源泉徴収税額の合計額○○○○円との総合計額○○○○円を源泉徴収税額として、別表1の「確定申告」欄のとおり記載している。
  • ロ 原処分庁は、平成28年3月25日付で別表1の「更正処分」欄のとおり、平成26年分の所得税等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
  • ハ 請求人は、本件更正処分に不服があるとして、平成28年4月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月6日付で棄却の異議決定をし、同月7日に異議決定書謄本を請求人に対して送達した。
  • ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成28年8月8日に審査請求をした。

2 争点

本件約定日を本件譲渡に係る譲渡所得の収入すべき時期として申告を行うことはできるか(収入すべき時期はいつか)。

3 争点についての主張

(1) 原処分庁

  • イ 源泉徴収選択口座は、個人投資家の確定申告等の事務の負担の軽減に配慮する観点から申告不要の特例として設けられたものである。そして、源泉徴収選択口座が開設されている金融商品取引業者等は、その年中に当該源泉徴収選択口座において処理された上場株式等の対価の額等を記載した報告書を源泉口座開設者に交付しなければならないとされている。
     このような源泉徴収選択口座の趣旨及び目的等に照らせば、源泉徴収選択口座内における特定口座内保管上場株式等の譲渡に係る課税関係は、金融商品取引業者等による源泉徴収及び報告によって完結していると解すべきであって、源泉徴収による所得税の納税義務及び納付すべき税額は、源泉徴収すべきものとされている所得の支払の時に成立し、その成立と同時に確定することになる。
     本件においては、措置法の規定に従って金融商品取引業者等が本件受渡日を基準として本件譲渡に係る譲渡所得の金額を計算し、源泉徴収及び報告を了して本件口座の課税関係が既に完結している。そのため、本件譲渡に係る譲渡所得の総収入金額について、本件約定日を株式等に係る譲渡所得等の総収入金額の収入すべき時期と選択して申告することはできず、本件受渡日の属する平成27年分の株式等に係る譲渡所得等の総収入金額に算入すべきものである。
  • ロ 金融商品取引業者等が源泉徴収をした年と、株式の譲渡に関する契約の効力発生日の属する年が異なる場合は、確定申告による税額と源泉徴収税額との年分が異なることとなり、いまだ納付されていないにもかかわらず税金を還付することになるなど課税上弊害が生じる。また、引渡日が平成27年1月の株式等の譲渡について平成26年分の譲渡として申告し繰越控除の特例の適用を受ければ、一定の場合に二重の還付を受けることとなるなど、課税上弊害が生じる。
  • ハ 請求人は金融商品取引業者等に特定口座源泉徴収選択届出書を提出し、源泉徴収選択口座を選択しているにもかかわらず、この制度と異なる選択、すなわち、本件約定日を基準に株式等に係る譲渡所得の金額の計算をすることは、一旦適法に適用を受けた措置法における特例の選択替えとなり、認められない。

(2) 請求人

  • イ 源泉徴収選択口座は、あくまで便宜上利用できるものであるから、源泉徴収口座を選択したからといって、納税者による確定申告が無効になるわけではない。源泉徴収選択口座の制度が、納税者のために確定申告を不要とする便宜提供の制度であるならば、それは納税者により選択可能という意味であって、納税者の判断において確定申告すること自体を妨げておらず、措置法及び措置法通達においても、源泉徴収選択口座においてはこれを認めないとする差別規定は存在しない。
     また、金融商品取引業者等が交付する報告書は、源泉徴収選択口座以外の特定口座においても交付されるところ、当該口座において、納税者は約定日を選択して自ら確定申告を行うことが可能であることからすれば、源泉徴収選択口座に対してのみ本件受渡日を基準とした源泉徴収及び報告をもって課税関係が既に完結していると扱うことは、特定口座における税の公正な取扱いを損ねる。
     以上のとおり、源泉徴収はあくまでも徴税のための計算プロセスであるから、金融商品取引業者等による本件受渡日を基準とした源泉徴収及び報告をもって、課税関係が既に完結しているとはいえない。
  • ロ 措置法通達37の10−1は、株式等に係る譲渡所得等の総収入金額の収入すべき時期について、受渡日を基準とする計算だけでなく、納税者が申告において約定日を選択して計算することが認められており、当該取扱いに関して特定口座を除外する規定は設けられていない。そして、措置法通達37の11の3−14が、同通達37の10−1を準用していることからすれば、源泉徴収選択口座にも同通達37の10−1の規定は適用されると考えるのが妥当であり、請求人は、当該規定のとおり、本件約定日を総収入金額の収入すべき時期と選択して確定申告を行ったのであるから、これを認めるべきである。
     また、請求人における平成27年分の譲渡所得について源泉徴収が還付されるような損失取引はなく、原処分庁が想定するような二重の還付を受けるといった事態は生じておらず、原処分庁が主張するその他の事由についても、金融商品取引業者等から交付される報告書を補正して確定申告を行うなどの個別対応によって全て解消可能であり、実務上の弊害とはいえない。
  • ハ 確定申告と源泉徴収選択口座の制度は選択の問題ではないため、請求人が本件約定日を基準に株式等に係る譲渡所得の金額の計算を行ったことは、原処分庁の主張する選択替えには該当しない。

4 当審判所の判断

(1) 検討

  • イ 源泉徴収制度は、別紙の1のとおり、所得の支払の時に納税義務が成立し、源泉徴収による国税は、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものである(通則法第15条)。
  • ロ そして、居住者等が、上場株式等保管委託契約に基づき特定口座内保管上場株式等の譲渡をした場合の譲渡所得の計算は、他の株式等の譲渡による譲渡所得の金額等と区分して、個々の特定口座ごとに行うものとされ(措置法第37条の11の3第1項)、その計算を行う場合の必要経費又は取得費に係る計算は、いずれも特定口座内保管上場株式等の譲渡をした日を基準として、金融商品取引業者等が計算を行うこととされている(措置法施行令第25条の10の2第2項)。
     また、金融商品取引業者等は、特定口座年間取引報告書を作成して特定口座の開設者に交付するところ(措置法第37条の11の3第7項)、当該報告書には、特定口座内保管上場株式等の譲渡に係る収入金額のうち特定口座において処理された金額の総額、その取得費の額及び当該譲渡に要した費用の額の合計額の総額が記載され(措置法施行規則第18条の13の5第2項)、これらの金額はいずれも当該特定口座内保管上場株式等の譲渡をした日を基準として計算した額となる。
  • ハ 上記の特定口座制度を前提として、源泉徴収選択口座における源泉徴収の計算も、当該特定口座内保管上場株式等の譲渡をした日を基準とした収入金額や取得費等の額に基づいて計算した上で、増加又は減少をした所得に対して年間を通じた徴収・還付税額の調整を可能とする仕組み(年間一括納付方式)とされている(措置法第37条の11の4第1項、措置法施行令第25条の10の11)。
  • ニ 以上からすれば、源泉徴収選択口座の制度を利用することを選択した者は、特定口座内において譲渡をした日を基準に金融商品取引業者等が収入金額及び必要経費等の計算を行うことを前提に同制度を選択したものと解されるため、同制度において前提とされる計算と異なる日を選択して申告を行うことは予定されていないと解すべきである。
  • ホ 本件においては、請求人は、自らの選択に基づいて、当該金融商品取引業者等との間で上場株式等保管委託契約を締結し、当該金融商品取引業者等が上場株式の譲渡等に係る所得計算等を行う特定口座制度を前提とした源泉徴収選択口座の制度を選択しており、金融商品取引業者等の行う所得計算等に基づき本件譲渡に係る申告を行うことを選択したといえる。そして、特定口座内において処理される収入金額、取得費等の額が本件受渡日を基準に計算され、その状況により特定口座年間取引報告書を作成し請求人に報告されていること、また、特定口座源泉徴収選択届出書の提出期限が、特定口座内保管上場株式等の譲渡に係る決済日までであること(措置法通達第37条の11の4−1)、さらに、本件譲渡に係る所得税等の源泉徴収は、本件受渡日に行われ、本件報告書の源泉徴収税額に含まれていないことから、金融商品取引業者等は本件受渡日を基準として所得計算等を行っていたといえる。
     これらのことからすれば、請求人は、源泉徴収選択口座の制度を選択後に、本件約定日を株式等に係る譲渡所得等の総収入金額の収入すべき時期として選択することはできないというべきである。
     以上のとおり、本件譲渡に係る譲渡所得の総収入金額について、本件約定日を株式等に係る譲渡所得等の総収入金額の収入すべき時期と選択して申告することはできず、本件受渡日の属する平成27年分の株式等に係る譲渡所得等の総収入金額に算入すべきものである。

(2) 請求人の主張について

  • イ 請求人は、措置法通達37の11の3−14が同通達37の10−1を準用していることからすれば、源泉徴収選択口座にも同通達37の10−1の規定は適用されると考えるのが妥当であり、請求人は、当該規定のとおり、本件約定日を総収入金額の収入すべき時期と選択して確定申告を行ったのであるから、これを認めるべきである旨主張する。
  • ロ しかしながら、上記(1)のとおり、源泉徴収選択口座の制度を利用することを選択した者は、金融商品取引業者等が譲渡をした日を基準に収入金額及び必要経費等の計算を行うことを前提に同制度を選択したものと解されるため、同制度において前提とされる計算と異なる日を選択して申告を行うことは予定されていないことから、措置法通達37の10−1の(1)のただし書(納税者の選択により、当該株式等の譲渡に関する契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があったときは、これを認める。)の取扱いは、源泉徴収選択口座には適用されない。

(3) 本件更正処分の適法性について

上記(1)のとおり、本件譲渡に係る譲渡所得の総収入金額について、本件約定日を株式等に係る譲渡所得等の総収入金額の収入すべき時期と選択して申告することはできず、本件受渡日の属する平成27年分の株式等に係る譲渡所得等の総収入金額に算入すべきものである。これに基づき平成26年分の総所得金額及び所得税等の納付すべき税額を計算すると、いずれも別表1の「更正処分」欄の額と同額となる。

なお、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

したがって、本件更正処分は適法である。

(4) 結論

よって、本審査請求は理由がないから、棄却することとする。

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