(平成29年6月15日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、行政書士法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税法上の新設法人に該当するとして消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告をした後に、請求人の設立時における出資の金額11,000,000円は「信用出資」の額であり、当該出資の金額は、消費税法第12条の2《新設法人の納税義務の免除の特例》第1項に規定する「事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額」に含まれるべきものではないことから、請求人は同項に規定する新設法人に該当せず、消費税等の申告義務は生じていなかったとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことに対し、請求人が、同処分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

  • イ 国税通則法(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項は、納税申告書を提出した者は、同項各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定し、同項第1号は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときを掲げている。
  • ロ 消費税法(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下同じ。)第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項本文は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が10,000,000円以下である者については、同法第5条《納税義務者》第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨規定し、ただし書において、同法に別段の定めがある場合は、この限りでない旨規定している。
     そして、当該別段の定めとして、消費税法第12条の2第1項は、その事業年度の基準期間がない法人のうち、当該事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が10,000,000円以上である法人(以下「新設法人」という。)については、当該新設法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間における課税資産の譲渡等については、同法第9条第1項本文の規定は、適用しない旨規定している。
  • ハ 消費税法基本通達1-5-16《出資の金額の範囲》(以下「本件通達」という。)は、消費税法第12条の2第1項に規定する「出資の金額」には、営利法人である合名会社、合資会社又は合同会社に係る出資の金額に限らず、農業協同組合等の協同組合に係る出資の金額、特別の法律により設立された法人で出資を受け入れることとしている当該法人に係る出資の金額、地方公営企業法第18条《出資》に規定する地方公共団体が経営する企業に係る出資の金額及びその他の法人で出資を受け入れることとしている場合の当該法人に係る出資の金額が該当するのであるから留意する旨定めている。
  • ニ 行政書士法第13条の8《設立の手続》第1項は、行政書士法人(同法第13条の3《設立》により、同法に規定する業務を組織的に行うことを目的として、行政書士が共同して設立した法人をいう。以下同じ。)を設立するには、その社員となろうとする行政書士が、共同して定款を定めなければならない旨規定し、同法第13条の8第3項は、定款には、少なくとも、1目的(第1号)、2名称(第2号)、3主たる事務所及び従たる事務所の所在地(第3号)、4社員の氏名、住所及び特定業務を行うことを目的とする行政書士法人にあっては、当該特定業務を行うことができる行政書士である社員であるか否かの別(第4号)並びに5社員の出資に関する事項(第5号)を記載しなければならない旨規定している。
  • ホ 行政書士法第13条の21《一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び会社法の準用等》第1項は、会社法第615条《会計帳簿の作成及び保存》及び同法第622条《社員の損益分配の割合》の規定は行政書士法人について、同法第580条《社員の責任》第1項の規定は行政書士法人の社員について、行政書士法第13条の21第2項は、会社法第666条《残余財産の分配の割合》の規定は行政書士法人の解散及び清算について、それぞれ準用する旨規定している。
  • ヘ 会社法第580条第1項は、社員は、1合名会社、合資会社若しくは合同会社(以下、これらを総称して「持分会社」という。)の財産をもってその債務を完済することができない場合又は2当該持分会社の財産に対する強制執行がその効を奏しなかった場合には、連帯して、当該持分会社の債務を弁済する責任を負う旨規定している。
  • ト 会社法第615条第1項は、持分会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならないと規定している。
  • チ 会社法第622条第1項は、損益分配の割合について定款の定めがないときは、その割合は、各社員の出資の価額に応じて定めると規定している。
  • リ 会社法第666条は、残余財産の分配の割合について定款の定めがないときは、その割合は、各社員の出資の価額に応じて定めると規定している。
  • ヌ 会社計算規則第4条は、会社法第615条第1項の規定により会社が作成すべき会計帳簿に付すべき資産、負債及び純資産の価額その他会計帳簿の作成に関する事項については、会社計算規則第2編《会計帳簿》の定めるところによる旨規定している。
  • ル 会社計算規則第30条《資本金の額》第1項は、持分会社の資本金の額は、社員が出資の履行をした場合においては、当該社員が履行した出資により持分会社に対し払込み又は給付がされた財産の価額等の合計額から、当該出資の履行の受領に係る費用の額のうち、持分会社が資本金又は資本剰余金から減ずるべき額と定めた額の合計額を減じて得た額の範囲内で持分会社が資本金の額に計上するものと定めた額が増加するものとする旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成○年○月○日に設立された行政書士法人であり、「平成○年○月○日作成」の請求人の定款の第4条においては、次のとおり記載されている。
     (社員の氏名、住所及び出資)
     第4条 社員の氏名、住所、出資の目的及び評価の基準は、次のとおりとする。
    • e市f町○−○ B
    • ○○
    • 信用 この評価の基準1か年 一千万円
    • g市h町○−○ E
    • ○○
    • 信用 この評価の基準1か年 一百万円
     上記のとおり、請求人の社員であるB及びEは、各人の信用を出資の目的として請求人に出資し(以下、信用を出資の目的とした出資を「信用出資」という。)、各人の信用出資を金銭に見積もった場合の評価額をそれぞれ10,000,000円及び1,000,000円とした(以下、各人の信用出資を金銭に見積もった場合の評価額の合計11,000,000円を「本件信用出資の額」という。)。
  • ロ 請求人は、原処分庁に対し、平成○年○月○日から同年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等について、確定申告書に課税標準額を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円及び納付すべき譲渡割額を○○○○円と記載して法定申告期限までに申告した(以下、この申告に係る申告書を「本件申告書」という。)。
  • ハ 請求人が、原処分庁に提出した「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」には、消費税法の新設法人に該当することとなった事業年度開始の日(平成○年○月○日)における資本金の額又は出資の金額が11,000,000円である旨記載されている。
  • ニ 請求人は、平成28年3月2日、請求人が消費税法上の新設法人には該当しないため、本件課税期間の消費税等の申告義務は生じていなかったとして、納付すべき税額及び納付すべき譲渡割額を零円とすべき旨の更正の請求(以下「本件更正請求」という。)をした。
  • ホ 原処分庁は、本件更正請求に対し、平成28年7月6日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
  • ヘ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成28年10月5日に審査請求をした。

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2 争点

本件更正請求は、通則法第23条第1項第1号に規定する更正の請求ができる場合に該当するか否か。具体的には、本件信用出資の額は、消費税法第12条の2第1項に規定する「事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額」に含まれるか否か。

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3 争点についての主張

請求人 原処分庁
(1) 次の理由により、本件信用出資の額は、消費税法第12条の2第1項に規定する「事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額」に含まれない。
(1) 次の理由により、本件信用出資の額は、消費税法第12条の2第1項に規定する「事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額」に含まれると解するのが相当である。
  • イ 「資本金の額又は出資の金額」については、消費税法において独自の定義規定が置かれていないことから、行政書士法人の組織形態は合名会社に準じたものであるので、会社計算規則第30条第1項の規定を借用して判断するのが適当である。そうすると、同項が「社員が履行した出資により持分会社に対し払込み又は給付がされた財産の価額」を資本金の額に計上するとしていることから、信用出資については会社計算規則上の資本金概念には含まれない。
  • イ 信用出資は、社員が有している信用を出資の目的とする出資の一形態であること、また、信用出資を行う行政書士法人の社員は、定款においてその評価額を記載することとされており、これに応じた当該法人の持分を取得し、その持分が、利益の配当の請求や残余財産の分配の基準となることなどからすると、他の資産出資と変わるところはない。そして、本件においては、請求人の設立時の定款の記載によると、請求人の各社員は、設立に当たり、出資の目的を金銭によらず、信用によって出資したものと認められる。
     会社の貸借対照表は、企業の財政状況や企業資本の運用形態を明らかにする目的で作成されるものであるから、その記載において信用出資の金額を資本金の額に含めないものとされていることをもって、直ちに信用出資の金額を消費税法第12条の2第1項に規定する出資の金額に含めないと解することはできない。
  • ロ 消費税法第12条の2第1項が「資本金の額又は出資の金額」を法人の事業規模を測定する基準としているのは、それが当該法人に固定されている事業資産の多寡を表しているからである。そうすると、「資本金の額又は出資の金額」は、事業資産の多寡、すなわち金銭その他の財産(以下「金銭等」という。)による出資の合計額とするのが妥当であり、少なくとも法人設立の時点では便益を受けておらず(受けているのかは不確実な)、その計算が主観的なものでしかない信用の評価の基準をそのまま「出資の金額」に含めることは、客観性が求められる同項の規定の趣旨にそぐわないという点で問題があり、また、信用を提供されていても出資として反映されない株式会社等との均衡という点でも信用出資を「出資の金額」に含めないことが妥当である。
  • ロ 消費税法においては、免税事業者とする者の事業規模を、基準期間の売上高や特定期間中に支払った給与等の金額などによって判定していることからも、会社の固定されている財産の多寡によって判定することが妥当であるとは認められない。
(2) 以上のことから、請求人において、消費税法第12条の2第1項に規定する「事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額」は零円であり、請求人は新設法人に該当しないことから、本件課税期間の消費税等の納税義務は免除される。したがって、本件更正請求は、通則法第23条第1項第1号に規定する更正の請求ができる場合に該当する。 (2) 以上のことから、請求人において、消費税法第12条の2第1項に規定する「事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額」は11,000,000円であり、請求人は新設法人に該当することから、本件課税期間の消費税等の納税義務は免除されない。したがって、本件更正請求は、通則法第23条第1項第1号に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。

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4 当審判所の判断

(1) 検討

  • イ 行政書士法第13条の21は、上記1の(2)のホ及びヘのとおり、持分会社の無限責任社員の責任を規定した会社法第580条第1項を準用し、行政書士法人が債務を完済できないなどの場合には、社員全員が連帯して責任を負うこととしている。
     行政書士法人の社員は信用出資をすることができ、信用出資をする場合には、その評価の基準を定款に記載するよう取り扱われており、請求人の定款には、上記1の(3)のイのとおり記載されている。
  • ロ 上記1の(2)のホのとおり、行政書士法においては、損益分配及び残余財産の分配について会社法の各規定が準用されており、会社法第622条第1項及び同法第666条は、定款の定めがないときは、損益分配の割合及び残余財産の分配の割合は各社員の出資の価額に応じて定める旨規定し、出資の価額を損益分配及び残余財産の分配の指標としている点において、財産(金銭等)出資者と信用出資者との取扱いに差は設けられていない。
  • ハ 消費税は、消費一般に広く負担を求めるものであり、その趣旨からすると、多くの事業者が納税義務者となるが、零細事業者の事務処理能力(事務負担)、徴税コスト、転嫁の実現可能性等の面を考慮し、全ての事業者を納税義務者とするのは適当ではないとして、一定の事業規模以下の小規模事業者については、納税義務を免除することとされている。
     消費税法第9条第1項は、事業者が小規模事業者として消費税の納税義務が免除されるべきものに当たるかどうかを決定する基準として、「基準期間における課税売上高」を用いて、事業者の取引の規模を測定し、把握することとしており、新設された法人については、基準期間がないことから、「基準期間における課税売上高」に代わり、事業者の取引の規模を測定する基準として、消費税法第12条の2第1項は、「資本金の額又は出資の金額」を用いることとしている。このように、新設された法人に対し、事業者の取引の規模を測定する基準として「資本金の額又は出資の金額」を用いることとしているのは、「資本金の額又は出資の金額」が一定金額以上ある事業者は取引の規模が大きく、ひいては、事務処理能力が高いと見込まれるためであると考えられ、加えて、一般的には、事業者の信用が取引の規模に影響を与えると考えられること及び上記ロのとおり、行政書士法が準用する会社法の損益分配及び残余財産の分配の各規定において、財産出資者と信用出資者との取扱いに差が設けられていないことを併せ考えると、新設された法人の事業の規模を測定する基準である「資本金の額又は出資金の金額」に信用出資を含めることは、不合理であるとはいえない。
  • ニ 消費税法第12条の2第1項は、新設法人について「当該事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が千万円以上である法人」と規定しているところ、同項は単に「出資の金額」と規定するのみであり、その「出資」から除外するものを明示した文言はなく、他方、上記イのとおり、行政書士法人の社員は信用出資をすることができるから、同項の適用上、「出資の金額」から信用出資を除くと解することはできない。また、消費税法第12条の2第1項に規定する「出資の金額」と行政書士法上の出資についてこれを別異に解する理由はない。
     そして、上記1の(2)のハのとおり、本件通達は、消費税法第12条の2第1項に規定する「出資の金額」には、要旨合名会社、合資会社又は合同会社の出資の金額に限らず、出資を受け入れることとしている種々の法人に係る出資の金額も該当するので留意する旨定めており、消費税法上、納税義務者となるのは会社法にいう会社のみならず、例えば、本件のように行政書士法を設立準拠法とする行政書士法人など、あらゆる法人が納税義務者となることから、新設された法人の事業の規模を測定する基準である「資本金の額又は出資の金額」に種々の法人に係る出資が含まれる旨の本件通達は、合理的な取扱いであると認められ、当審判所においても相当であると認められる。よって、行政書士法人が受け入れた信用出資も消費税法第12条の2第1項に規定する「出資の金額」に該当すると解される。
  • ホ 以上のことから、信用出資は、消費税法第12条の2第1項に規定する「事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額」に含まれ、上記1の(3)のイのとおり、本件信用出資の額は10,000,000円以上であることから、請求人は新設法人に該当し、本件課税期間中に行った課税資産の譲渡等につき消費税等を納める義務は免除されない。したがって、本件申告書に記載された納付すべき税額が過大であるとは認められないことから、本件更正請求は、通則法第23条第1項に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。

(2) 請求人の主張について

  • イ 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のイのとおり、「資本金の額又は出資の金額」については消費税法において独自の定義規定が置かれていないことから、会社計算規則第30条第1項の規定を借用して判断するのが適当である旨主張する。
     しかしながら、会社計算規則は、同規則第1条《目的》によれば、会社法の規定により委任された会社の計算に関する事項その他の事項について必要な事項を定めることを目的としたものであり、同規則第30条第1項は、会社が作成すべき会計帳簿に付すべき資産、負債及び純資産の価額に関する事項として、会計帳簿において資本金の額として計上する額について、「社員が履行した出資により持分会社に対し払込み又は給付がされた財産の価額」等に基づき算出すべき旨定めたものであって、持分会社における資本金を「社員が履行した出資により持分会社に対し払込み又は給付がされた財産の価額」と定義した規定ではないことから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
  • ロ また、請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のロのとおり、消費税法第12条の2第1項が「資本金の額又は出資の金額」を法人の事業規模を測定する基準としているのは、それが当該法人に固定されている事業資産の多寡を表しているからであり、「資本金の額又は出資の金額」は、事業資産の多寡、すなわち金銭等による出資の合計額とするのが妥当である旨主張する。
     しかしながら、「資本金の額又は出資の金額」には、金銭等による出資に加え、信用出資も含まれることは上記(1)のホのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(3) 本件通知処分の適法性について

上記(1)のとおり、請求人の本件課税期間中に行った課税資産の譲渡等につき消費税等を納める義務は免除されず、上記1の(3)のロの本件申告書に記載された納付すべき税額が過大であるとは認められないことから、本件更正請求は、通則法第23条第1項第1号に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。
 なお、本件通知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件更正請求に対し、更正をすべき理由がないとした本件通知処分は適法である。

(4) 結論

よって、審査請求は理由がないから、棄却することとする。

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