(平成29年9月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成26年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、国外財産に関して生ずる所得の申告漏れ等があったとして自主的に修正申告書を提出した後に国外財産調書を提出したところ、原処分庁が、内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律第6条《国外財産に係る過少申告加算税又は無申告加算税の特例》第2項の規定を根拠に過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該規定は自主的に修正申告書を提出した場合には適用されず、過少申告加算税は課されないなどとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

関係法令の要旨は、別紙のとおりである。なお、別紙で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成26年分の所得税等について、別表の「確定申告」欄のとおりとする所得税等の確定申告書を原処分庁に提出し、法定申告期限までに申告した。
  • ロ 請求人は、平成27年8月31日、平成26年分の所得税等について、H国において生じた預金利子○○円(利子所得)及び株式貸付料○○○○円(雑所得)の申告漏れ等を理由として、原処分庁に対し、別表の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。
     本件修正申告書の提出は、調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものではない(通則法第65条第5項該当)。
  • ハ 請求人は、平成27年9月14日、原処分庁に対し、要旨、次表のとおり記載した平成26年12月31日分の国外財産調書(提出期限は平成27年3月16日。以下「本件国外財産調書」という。)を提出した。
     なお、本件国外財産調書に記載された預貯金及び有価証券は、本件修正申告書の提出の基因となった国外財産である。
    (単位:円)
    区分 種類 用途 所在 数量 価額
    預貯金 普通預金 一般用 D銀行 ○○センター - ○○
    預貯金 普通預金 一般用 E社 ○○センター - ○○
    有価証券 株式(F社) 一般用 G社 ○○○○株 ○○○○
    未収入金 - 一般用 G社 - ○○○○
    合計額 ○○○○
  • ニ 原処分庁は、平成28年3月28日付で、別表の「賦課決定処分」欄のとおり、平成26年分の所得税等に係る過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
  • ホ 請求人は、本件賦課決定処分に不服があるとして、平成28年5月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月23日付で棄却の異議決定をした。
  • ヘ 請求人は、異議決定を経た後の本件賦課決定処分に不服があるとして、平成28年9月21日に審査請求をした。

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2 争点

本件修正申告書の提出により過少申告加算税は課されるか否か。具体的には、

  • (1) 加重措置は、通則法第65条第5項の規定の適用がある本件修正申告書についても適用されるか否か。(争点1)
  • (2) 本件国外財産調書は、国送法第6条第4項の規定の適用により提出期限内に提出したものとみなされるか否か。(争点2)

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3 争点についての主張

原処分庁 請求人
次の理由により、本件修正申告書の提出により過少申告加算税は課される。 次の理由により、本件修正申告書の提出により過少申告加算税は課されない。
(1) 争点1について
 国送法第6条第2項は、加重措置の適用場面において「通則法第65条……の規定の適用がある場合」と規定しており、同条の特定の項の適用がある場合に限定した規定とはなっていないことから、上記「通則法第65条……の規定の適用がある場合」には、同条第1項の規定の適用がある場合のみならず同条第5項の規定の適用がある場合(同条第1項の規定を適用しない場合)も含まれる。
 したがって、通則法第65条第5項の規定の適用がある本件修正申告書についても加重措置は適用される。
(1) 争点1について
 国送法第6条第2項と規定ぶりが類似する通則法第65条第2項は、「前項(注:同条第1項)の規定に該当する場合において」と規定し、同条第5項の規定の適用がある場合を除くとはしていないが、課税庁は、同条第2項の規定の適用に当たり、解釈により同条第5項の規定の適用がある場合を除くものとして取り扱ってきた。
 通則法第65条第2項及び国送法第6条第2項は、それぞれ通則法と国送法と別々の法であるが、同じ過少申告加算税に関する規定であり、規定ぶりが類似することからすれば、同じように解釈されるべきであり、国送法第6条第2項の「通則法第65条……の規定の適用がある場合」には、同法第65条第5項の規定が適用される場合(同条第1項の規定を適用しない場合)を含まないというべきである。
 したがって、通則法第65条第5項の規定の適用がある本件修正申告書について加重措置は適用されない。
(2) 争点2について

イ 本件賦課決定処分は、請求人が提出した本件修正申告書に係る過少申告加算税の賦課決定処分であり、本件修正申告書の提出があった時点(平成27年8月31日)に本件国外財産調書の提出はないことから、国送法第6条第4項に規定する「国外財産調書が提出期限後に提出され、かつ、修正申告等があった場合」には該当せず、本件国外財産調書は提出期限内に提出したものとみなされない。

(2) 争点2について

イ 法がその適用に際して同時性や先後関係を要件とする場合、「同時に」あるいは「〜の後において」といった文言が置かれるはずであるところ、国送法第6条第4項は「提出すべき国外財産調書が提出期限後に提出され、かつ、修正申告等があった場合」とのみ規定しているのであるから、同項は、国外財産調書の提出と修正申告書の提出の同時性や先後関係を要件とはしておらず、単に両者の充足性のみが要件とされているものと解すべきである。
 したがって、本件国外財産調書(通則法第65条第5項の規定の適用がある修正申告書の提出の後に提出された国外財産調書)についても、国送法第6条第4項の規定により、提出期限内に提出したものとみなされる。

ロ 国外財産調書制度は、内国税の適正な課税に資するために自己の保有する国外財産に関する情報を納税者本人から提出を求める仕組みである。この趣旨を全うするためには、国外財産調書の適正な提出を確保するための措置が必要であって、その適正な調書提出に向けたインセンティブとして加算税の軽減加重措置が設けられたものと解される。そうであるならば、国送法第6条第4項の規定は、その提出期限を徒過した不適正な国外財産調書の提出を当然に許容するものと解すべきではなく、更正を予知しない国外財産調書の提出以後になされる修正申告等があった場合に限って同項が適用されるものと解される。
 そうすると、国送法第6条第4項の規定は、最初に「国外財産調書が提出期限後に提出され」、続いて、「修正申告等があった場合」に適用される規定であると解するのが相当であり、請求人の主張する両方の条件(国外財産調書の提出及び修正申告書の提出)の充足性のみを要求しているものではない。

ロ 原処分庁の主張する左記(2)のロの国外財産調書制度の趣旨からは、ともに更正を予知しない国外財産調書及び修正申告書の提出の先後関係の相異による過少申告加算税の賦課の有無の理由は導けない。

ハ したがって、本件国外財産調書は、国送法第6条第4項の規定の適用はなく、提出期限内に提出したものとはみなされない。

ハ したがって、本件国外財産調書は、国送法第6条第4項の規定の適用により、提出期限内に提出したものとみなされる。

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4 当審判所の判断

(1) 軽減加重措置の趣旨等について

国外財産調書制度は、国外財産に係る課税の適正化が喫緊の課題とされていたことなどを背景とし、適切な課税・徴収の確保の観点から、平成24年度税制改正において、国外財産に係る情報の的確な把握への対応として、納税者本人から国外財産の保有について申告を求める仕組みとして創設された制度である。
 また、軽減加重措置は、国外財産調書制度の上記趣旨を全うするため、国外財産調書の適正な提出を確保する目的で、適正な国外財産調書の提出に向けたインセンティブとして設けられた措置であり、飽くまで国外財産調書の提出を基軸とし、これを適正に提出した場合には加算税を軽減する一方、適正に提出しなかった場合には加算税を加重するものである。
 上記軽減加重措置の例外として、国送法第6条第4項は、提出期限後に国外財産調書が提出された場合であっても、その提出が、国外財産に係る所得税又は国外財産に対する相続税につき調査があったことにより更正等があるべきことを予知してされたものでないときは、その国外財産調書は提出期限内に提出されたものとみなして、軽減加重措置を適用する旨定めたものであり、その趣旨は、提出期限内に国外財産調書の提出がなく、提出期限を経過した場合であっても、自主的な国外財産調書の提出にインセンティブを与えることによりその提出を奨励するものと解される。

(2) 検討

  • イ 争点1(加重措置は、通則法第65条第5項の規定の適用がある本件修正申告書についても適用されるか否か)について
    • (イ) 国送法第6条第2項は、「通則法第65条……の規定の適用がある場合」に加重措置を適用する旨規定しており、同条第1項の規定の適用がある場合に限定して規定しているものではなく、同条第5項の規定の適用がある場合を除く旨を規定しているものでもない。
       また、国送法第6条第2項は、「同法(注:通則法)第65条……の規定による過少申告加算税の額……は、これらの規定(注:通則法第65条……の規定)にかかわらず」と規定することにより、通則法第65条第1項のみならず、同条第5項をも排斥した上で、「これらの規定により計算した金額に、当該過少申告加算税の額……の計算の基礎となるべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。」と規定している。
       これらのことからすると、加重措置が適用されるのは、その文理上、通則法第65条第1項の規定の適用がある場合はもとより、同条第5項の規定が適用される結果、同条第1項の規定が適用されないこととなる場合をも含むものと解するのが相当である。
    • (ロ) これに対し、請求人は、通則法第65条第2項及び国送法第6条第2項は、いずれも過少申告加算税に関する規定であり、これらの規定ぶりが類似することから、国送法第6条第2項は、通則法第65条第2項と同様に、同条第5項の規定の適用がある場合には適用されない旨主張する。
       しかしながら、通則法第65条第2項は、「同項(注:同条第1項)の過少申告加算税の額は、……加算した金額とする。」と規定し、同条第1項の「過少申告加算税の額」との文言を引用しているのに対し、国送法第6条第2項は、「同法(注:通則法)第65条……の規定による過少申告加算税の額……は、……加算した金額とする。」と規定しており、通則法第65条第1項の「過少申告加算税の額」との文言を単に引用した同条第2項とはその規定ぶりが異なっている。この点、国送法第6条第2項が、「通則法第65条の規定による過少申告加算税の額は、」と規定していることからすれば、同項に規定する「過少申告加算税の額」は、「通則法第65条の規定により課される過少申告加算税の額」をいうものと解される。このように、国送法第6条第2項は、「通則法第65条の規定により課される過少申告加算税の額は、」とした上で、上記(イ)のとおり、「これらの規定にかかわらず」と規定することによって通則法第65条第1項のみならず同条第5項をも排斥し、「これらの規定により計算した金額に、当該過少申告加算税の額……の計算の基礎となるべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。」と規定しているのであって、同条第2項の規定とその余の規定ぶりが類似していることをもって、これらの規定の適用場面を同様に解すべきとする請求人の主張は採用することができない。
       また、請求人が主張するように、通則法第65条第5項の規定の適用がある修正申告書(以下「自主修正申告書」という。)に加重措置は適用されないと解するとすれば、国外財産調書が提出される前に自主修正申告書が提出された場合には、それをもって直ちに加重措置の不適用が決することとなり、その後も引き続き国外財産調書が提出されなかったとしても加重措置は適用されないこととなるが、このような解釈は、飽くまで国外財産調書の提出を基軸とし、これを適正に提出しなかった場合には加算税を加重するとする上記(1)の軽減加重措置の趣旨に反することとなる。これに対し、上記(イ)のように、自主修正申告書であっても加重措置は適用されると解した場合には、国外財産調書の提出がなかったことにより加算税が加重されることとなるのであって、このように解することは、上記(1)の軽減加重措置の趣旨とも整合する。
       したがって、請求人の主張は採用することができない。
    • (ハ) 以上のとおり、通則法第65条第5項の規定の適用により同条第1項の規定が適用されない場合であっても、加重措置は適用されることとなるのであるから、通則法第65条第5項の規定の適用がある本件修正申告書の提出について加重措置は適用される。
  • ロ 争点2(本件国外財産調書は、国送法第6条第4項の規定の適用により提出期限内に提出したものとみなされるか否か)について
    • (イ) 国送法第6条第4項は、「提出すべき国外財産調書が提出期限後に提出され、かつ、修正申告等があった場合」と規定するところ、法令用語の「かつ」は、1「及び」や「並びに」と同様、併合的連結のための接続詞であり、「及び」や「並びに」よりも大きな連結のために用いられるほか、2形容詞句を強く結び付けて一体不可分の意味を表す場合や、3行為が同時に行われることを必要とする加重的要件の意味を表す場合にも用いられる文言である。
    • (ロ) この点、国送法第6条第4項で用いられている「かつ」を、上記(イ)の2又は3の意味合いを有するものと解すれば、自主修正申告書の提出時点で国外財産調書が提出されているときに同項の規定が適用されると考えられるところ、この考え方は、国外財産調書が提出期限後に提出されていることをその前提とし、それ以後に修正申告書が提出された場合に初めて同項の規定の適用の可否を決すると解するものであるから、加重措置の適用の可否は国外財産調書の提出の有無によって決せられることとなるのであって、上記(1)の軽減加重措置の趣旨及び同項の規定の趣旨と整合するものといえる。
       そして、国送法第6条第4項の規定は、国外財産調書が提出期限内に提出されたものとみなして軽減加重措置を適用する旨規定しているとおり、加算税の課否を判断する場面において初めて適用される規定であること、すなわち、修正申告書の提出があった場合における国外財産調書の取扱いを定めた規定と解されることからすれば、同項は、修正申告書の提出があった場合において、国外財産調書が提出されていることを要件として規定しているものと解するのが相当である。
    • (ハ) これに対し、国送法第6条第4項で用いられている「かつ」を、上記(イ)の1の意味合いを有するものと解するとすれば、請求人が主張するように国外財産調書の提出時期と修正申告書の提出時期に同時性や先後関係はないと考えることもできる。
       しかしながら、本件のように、先に国外財産に係る所得税につき自主修正申告書の提出があった場合には、その後に提出される国外財産調書(当該自主修正申告書の提出の基因となる国外財産が記載されたもの)は、更正があるべきことを予知してされたものに該当する余地はないこととなるのであるから、国外財産調書の提出時期と修正申告書の提出時期に先後関係はないと解した場合には、国外財産調書の提出に先んじて自主修正申告書の提出がされれば、その後に提出される国外財産調書は、その提出時期にかかわらず、一律に提出期限内に提出されたものとみなされることとなり、加重措置の適用の可否が、自主修正申告書の提出の有無によって決せられることとなる。
       このように、加重措置の適用の可否が、自主修正申告書の提出の有無によって決せられるとする考え方は、飽くまで国外財産調書の提出を基軸としてその適否を決するとする上記(1)の軽減加重措置の趣旨にかい離するものといわざるを得ず、このような結果を招来することとなる請求人の主張は採用することはできない。
    • (ニ) 以上のことからすると、国送法第6条第4項は、国外財産調書が提出期限後に提出されたことを前提とし、それ以後に修正申告書の提出があった場合(修正申告書の提出があった場合において、国外財産調書が提出されていることを要件とするもの)の取扱いを定めたものと解するのが相当であり、自主修正申告書の提出後に提出された国外財産調書には、同項の規定の適用はないと解される。
    • (ホ) そして、上記1の(3)のロ及びハのとおり、本件国外財産調書は、本件修正申告書の提出後に提出されたものであるから、国送法第6条第4項の規定の適用はなく、本件国外財産調書は提出期限内に提出されたものとはみなされない。
  • ハ 小括

    上記イのとおり、通則法第65条第5項の規定の適用がある本件修正申告書の提出については加重措置の適用があり、また、上記ロのとおり、本件国外財産調書の提出について国送法第6条第4項の規定の適用はなく、本件国外財産調書は提出期限内に提出されたものとみなされない。

(3) 本件賦課決定処分の適法性について

本件修正申告書の提出は、上記1の(3)のロのとおり、調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものではないことから、通則法第65条第5項が適用されて同条第1項が適用されない結果、同項の規定により計算した過少申告加算税の額は零円となるものの、上記(2)のハのとおり、本件修正申告書の提出については国送法第6条第2項に規定する加重措置が適用され、本件国外財産調書の提出について同条第4項は適用されないこととなる。
 その結果、通則法第65条の規定による過少申告加算税の額は、同条の規定にかかわらず、同条の規定により計算した金額(上記のとおり零円)に、当該過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額(本件修正申告書の提出により納付すべき税額から、過少申告加算税の計算の基礎となるべき事実で国外財産に係るもの以外の事実(別表の「修正申告」欄の分離課税の上場株式等に係る配当所得の金額に係る部分)のみに基づいて修正申告書の提出があったものとした場合における当該修正申告書の提出に基づき納付すべき税額を控除した税額○○○○円(通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第3項の規定により10,000円未満の端数を切り捨てた後のもの))に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額となり、本件賦課決定処分の額と同額となる。
 そして、請求人は、争点以外の賦課要件や税額計算の基礎となる金額等について争わず、当審判所の調査の結果によってもこれを違法又は不相当とする理由は認められないから、本件賦課決定処分は適法である。

(4) 結論

よって、審査請求は理由がないから棄却する。

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