(平成29年8月23日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、医師である審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁の調査を受け、収入の申告漏れ等があったとして平成22年分ないし平成24年分の所得税、平成25年分及び平成26年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)並びに本件各課税期間(平成22年1月1日から平成22年12月31日まで、平成23年1月1日から平成23年12月31日まで、平成24年1月1日から平成24年12月31日まで、平成25年1月1日から平成25年12月31日まで及び平成26年1月1日から平成26年12月31日までの各課税期間をいう。以下同じ。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の各修正申告をしたところ、原処分庁が、当該収入の申告漏れは課税要件事実を隠ぺいし又は仮装したところに基づくものであるなどとして重加算税の賦課決定処分等の原処分を行ったのに対し、請求人が、事実の隠ぺい又は仮装はないなどとして、原処分のうち平成22年分の所得税及び平成22年1月1日から平成22年12月31日までの課税期間の消費税等に係る各処分について全部の取消しを求めるとともに、その余の原処分について過少申告加算税相当額を超える部分に相当する額の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

別紙9のとおりである。なお、別紙9で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
 なお、以下では、本件各課税期間について各個別の課税期間をその暦年をもって略称表記し(例えば、平成22年1月1日から平成22年12月31日までの課税期間を「平成22年課税期間」という。)、また、各個別の年分の所得税ないし所得税等と同一暦年の課税期間の消費税等を併せて、その暦年をもって略称表記する(例えば、平成22年分の所得税と平成22年課税期間の消費税等とを併せて、「本件平成22年分諸税」という。)。

  • イ 請求人は、医師であり、かつ、○○を有する産業医であって、「D事務所」の屋号で、○○に係る業務を行っている。
     なお、請求人は、平成○年○月○日から、当時請求人の父が営んでいたd市e町○−○所在の「E医院」において内科の医師として勤務し、父が死亡したため、平成26年○月から、同医院の医院長に就任して、同医院を営んでいる。
  • ロ 請求人は、平成18年8月28日、住所地を所轄する原処分庁に対して、事業所得について所得税の青色申告承認申請書を提出し、平成19年分以後の所得税について青色申告の承認を受けている。
  • ハ 請求人は、遅くとも平成18年頃までに、「D事務所」の屋号で、F会と○○契約を締結し、同契約に基づき、G社のf及びg地域に点在する各事業場を巡回し、○○の業務を行い、毎月、報酬及び交通費相当額(以下「本件収入」という。)を収受しており、本件収入は、平成22年分が合計○○○○円、平成23年分○○○○円、平成24年分○○○○円、平成25年分○○○○円及び平成26年分○○○○円であった。なお、F会は、本件収入について源泉徴収を行っておらず、請求人に対して、本件収入に係る支払調書を発行していなかった。
  • ニ 請求人は、本件平成22年分諸税ないし本件平成24年分諸税について、法定申告期限までにそれぞれ申告したが、平成25年9月から同年12月まで税務調査(以下「前回調査」という。)を受けたことに伴い、同年12月19日、別表1の「確定申告等」欄(ただし、「過少申告加算税の額」欄を除く。)のとおり記載した平成22年分ないし平成24年分の所得税の各修正申告書及び別表2の「確定申告等」欄(ただし、「過少申告加算税の額」欄を除く。)のとおり記載した平成22年課税期間ないし平成24年課税期間の消費税等の各修正申告書をそれぞれ原処分庁に提出した。これに対し、原処分庁は、平成26年1月28日付で、別表1及び2の各「確定申告等」欄の「過少申告加算税の額」欄のとおり、平成22年分ないし平成24年分の所得税及び平成22年課税期間の消費税等について、それぞれ過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
     また、請求人は、平成25年分の所得税等について、法定申告期限までに申告し、平成25年課税期間の消費税等について、別表2の「確定申告等」欄のとおり、法定申告期限までに申告したが、平成26年3月19日、平成25年分の所得税等について、別表1の「確定申告等」欄のとおり記載した修正申告書を原処分庁に提出した。
     さらに、請求人は、本件平成26年分諸税について、別表1及び別表2の「確定申告等」欄のとおり、法定申告期限までにそれぞれ申告した。
     なお、請求人は、本件平成22年分諸税ないし本件平成26年分諸税の上記各期限内申告(以下「本件修正前申告」といい、本件平成22年分諸税の上記各期限内申告を「本件平成22年分諸税修正前申告」という。)において、本件収入(ただし、平成22年2月から同年5月までに支払われた分を除く。)を事業所得の総収入金額及び消費税の課税売上げに算入しなかった。
  • ホ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、平成27年10月13日、「E医院」に臨場し、請求人及びその関与税理士であるH税理士による立会いの下、税務調査(以下「本件調査」という。)を実施した。
  • ヘ 請求人は、平成28年2月2日、調査担当職員から、J銀行○○支店の「D事務所代表請求人」名義の普通預金口座(以下「本件預金口座」という。)に振り込まれた本件収入が申告漏れとなっている等の調査結果の説明を受け、調査担当職員の修正申告の勧奨に基づき、同日、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した平成22年分ないし平成26年分の所得税又は所得税等の各修正申告書、並びに別表2の「修正申告」欄のとおり記載した平成22年課税期間ないし平成26年課税期間の消費税等の各修正申告書を原処分庁に提出した(以下、上記各修正申告書のうち本件平成22年分諸税の各修正申告書を併せて「本件平成22年分諸税修正申告書」といい、本件平成22年分諸税修正申告書に係る各修正申告を併せて「本件平成22年分諸税修正申告」という。)。

(4) 審査請求に至る経緯

審査請求に至る経緯は、別表1及び別表2のとおりであるところ、原処分庁は、平成28年3月11日、請求人に対し、本件平成22年分諸税ないし本件平成26年分諸税について、それぞれ重加算税の各賦課決定処分等をした。
 これに対し、請求人は、平成28年5月10日、原処分庁に対し、上記各賦課決定処分のうちの重加算税について、過少申告加算税相当額を超える部分の金額についての取消しを求めて異議申立て(ただし、同年6月23日付異議申立書補正書による補正後のもの)をしたところ、異議審理庁は、同年8月9日付で、請求人の異議申立てを棄却した。
 これを不服として、請求人は、平成28年9月9日、審査請求をした。

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2 争点

  • (1) 争点1 本件修正前申告は、事実を隠ぺいし又は仮装したところに基づくものか。
  • (2) 争点2 本件平成22年分諸税修正前申告は、偽りその他不正の行為により税額を免れたものか。

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3 争点についての当事者の主張

(1) 争点1(本件修正前申告は、事実を隠ぺいし又は仮装したところに基づくものか。)について

原処分庁 請求人
請求人は、次のとおり、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づいて過少申告をしているから、本件修正前申告は隠ぺい又は仮装したところに基づくものである。 本件修正前申告は、次のとおり、隠ぺい又は仮装したところに基づくものではない。請求人は、本件収入について適正に申告していると考えていたものである。
イ 調査担当職員は、本件調査に当たり、H税理士及び請求人に対し、生活用の預金口座を含めた全ての預金通帳の提示を求めたにもかかわらず、請求人は、売上げの入金があったK銀行の預金口座及びL信託銀行の預金口座(以下「本件L信託銀行口座」といい、上記K銀行の預金口座と併せて「本件両口座」という。)の各通帳(以下「本件両口座通帳」という。)のみを提示し、その後、調査担当職員からJ銀行との取引があることを指摘されて、本件預金口座に係る通帳(以下「本件通帳」という。)とは別の同銀行の預金口座に係る通帳を提示したが、本件収入の申告漏れを指摘されるまで本件通帳を提示しなかった。 イ 請求人は、調査担当職員から、請求人の有する全ての通帳の提示を求められたとは認識しておらず、また、調査担当職員から具体的に通帳を指定して提示を求められていないので、請求人が収入に係る預金口座と認識していた本件両口座通帳を全て提示さえすればよいと考え、本件通帳は提示しなかった。
ロ 請求人は、F会の担当者に本件預金口座に係る口座番号をメモ用紙に書いて渡し、平成22年8月以降は本件収入を本件預金口座に振り込んでもらっていた。また、請求人は、本件通帳を記帳してその内容を確認し、本件預金口座に本件収入の入金があることを認識していた。
 しかしながら、請求人は、確定申告書の作成を依頼していたH税理士に対し、収入に係る源泉徴収票及び支払調書と共に、収入が振り込まれている本件両口座に係る本件両口座通帳を提示したが、本件通帳を提示していない。
ロ 請求人は、銀行員の勧誘を受けて平成22年8月以降の本件収入の振込先を本件預金口座に変更したにすぎないこと、多忙を極めていたことから、振込先を変更したことを失念しており、本件両口座に収入の全てが入金されているという認識でいた。また、請求人は、F会との取引については源泉徴収されているものと思っていた。そのため、請求人は源泉徴収票、支払調書及び本件両口座通帳をH税理士に提示すれば全ての収入を伝えていると考えており、H税理士に本件通帳を提示することに思いが至らず、提示しなかった。
 なお、請求人は、本件預金口座について、記帳の有無を確認する程度で、個別の入出金の内容を意識的に確認していたのではない。

(2) 争点2(本件平成22年分諸税修正前申告は、偽りその他不正の行為により税額を免れたものか。)について

原処分庁 請求人
請求人は、争点1に係る原処分庁の主張のとおり、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る行動をした上、その意図に基づいて過少申告をしているから、本件平成22年分諸税修正前申告は、偽りその他不正の行為により税額を免れたものである。 請求人は、偽りその他不正の行為をしていない。

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4 争点についての判断

(1) 争点1(本件修正前申告は、事実を隠ぺいし又は仮装したところに基づくものか。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告することについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
     したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の上記賦課要件が満たされるものと解される(最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁)。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係書類並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 請求人は、「E医院」において内科医として勤務し、平成26年○月から医院長として同医院を経営するとともに、複数の企業等に産業医としても勤務し、さらに、「D事務所」の屋号で複数の企業等と○○契約を締結し、○○の業務を行うなど、平素より極めて多忙であった。
       請求人は、本件収入以外にも、上記産業医としての勤務による給与等や上記○○契約による報酬等を受領していたが、その多くについては、勤務先又は契約相手方企業が源泉徴収を行い、請求人に源泉徴収票又は支払調書を交付していた。
    • (ロ) 請求人は、平成19年分以後の所得税について青色の確定申告書を提出していたが、産業医の業務の売上等の集計をせず、必要経費について集計表等を作成する程度であった。
       請求人は、所得税又は所得税等及び消費税等の確定申告書の作成をH税理士に依頼していた。H税理士は、本件平成24年分諸税の確定申告までは、請求人から、収入金額に係る資料としては数十口の源泉徴収票及び支払調書のみ提示を受け、これらを基に売上集計を行って請求人の確定申告書を作成していたが、その際作成した売上げの一覧表を請求人に交付することはなかった。
    • (ハ) 請求人は、平成22年6月24日、本件預金口座を開設し、F会に対して同年8月支払分以後の本件収入を本件預金口座に振り込むよう依頼した。
       なお、本件預金口座には、平成22年6月24日の開設以降、平成26年12月31日までの間、本件収入と普通預金利息の入金がされているだけであり、それ以外の入出金は全くなかった。
    • (ニ) 請求人は、保険会社の担当職員が半年から1年に1回程度請求人を訪ねる際、同職員に、本件通帳を含む全ての通帳の機械記帳を依頼していた。
    • (ホ) 前回調査に係る担当職員は、請求人に対し、平成22年2月から同年5月までの間にF会からK銀行口座に振込入金されていた合計○○○○円が事業所得の総収入金額に計上されていないなどと指摘したが、F会に係る業務の継続の有無や同年6月支払分以後の本件収入の存否及び入金先等の確認や指摘をしなかった。
    • (ヘ) 請求人は、前回調査で指摘された申告漏れを防止するため、本件平成25年分諸税以降の確定申告に際し、H税理士に対し、収入金額に係る資料として数十口の源泉徴収票及び支払調書と共に、業務用とする本件両口座通帳を提示することとした。しかし、請求人は、依然として、H税理士に対し、本件通帳を提示していなかった。
       H税理士は、請求人から提示された資料を基に売上集計を行って請求人の確定申告書の作成をしていたが、その際作成した売上げの一覧表を請求人に交付することはなかった。
    • (ト) 調査担当職員は、本件収入が申告されていないことなどの調査のために本件調査を行うこととし、本件調査前に、H税理士に対し、本件調査の事前通知を行うとともに、請求人の預金通帳等を用意するように依頼し、請求人にも同様の依頼をした。
       本件調査において、請求人は、本件両口座通帳等を用意し、調査担当職員に提示したところ、調査担当職員は、提示された資料中にJ銀行の「○○」と題する書類があったため、同銀行の通帳を提示するよう依頼した。そこで、請求人は、本件通帳と異なるJ銀行の預金通帳を提示した。
       調査担当職員は、本件収入が入金されている本件通帳の提示がなかったことから、請求人に対し、上記J銀行の預金通帳以外の同銀行の預金通帳の提示を求めたり、請求人の全ての通帳を提示するよう求めたりしたが、請求人から本件通帳の提示がなかったため、本件収入の申告漏れを指摘し、改めて、提示されている通帳以外の全ての通帳の提示を求めたところ、請求人は、診療所と居宅との間の廊下に備付けられた棚に置かれていた鞄の中から本件通帳を取り出して、調査担当職員に提示した。なお、前記鞄の中には、本件通帳以外にも複数の通帳が入っていた。
  • ハ 検討
    • (イ) 原処分庁は、要するに、請求人が、1確定申告書の作成を依頼していたH税理士に本件通帳を提示しなかったこと、2本件調査において、調査担当職員より本件収入の申告漏れを指摘されるまで本件通帳を提示しなかったことからすると、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行為をしたと認められる旨主張する。
    • (ロ) しかしながら、まず、上記(イ)の1の点をみるに、請求人は、産業医や内科医として平素より極めて多忙であったこと(上記ロの(イ))、毎年多数の源泉徴収票や支払調書を受け取っていたことからすると(同(イ))、請求人が、それらの源泉徴収票や支払調書の内容を確認しておらず、それらの中に本件収入に係る源泉徴収票がないことに気付かなかったとしても不自然ではない。このことに加えて、請求人は、売上げの集計を自ら行わず、確定申告書の作成をH税理士に任せきりにする(上記ロの(ロ)及び(ヘ))など、会計及び税務に係る事務に精通しているとはいえない上、産業医としての勤務による給与等や○○契約による報酬等の多くについて源泉徴収が行われていたこと(同(イ))、本件調査において調査担当職員に本件収入の申告漏れを指摘された時から一貫して、F会が本件収入について源泉徴収を行っていると思っていた旨申述及び答述していること(原処分関係資料及び当審判所の調査の結果)からすると、請求人が、F会が本件収入について源泉徴収を行っていると誤解していた可能性も否定できない。
       また、請求人は、平成22年6月に本件預金口座を開設し、F会に対して同年8月支払分の本件収入を本件預金口座に振り込むよう依頼をしているものの(上記ロの(ハ))、請求人は、本件収入を除いても、平成22年から平成26年まで毎年約○○○○円(別表1の「修正申告」の「総所得金額」欄記載の金額から上記1の(3)のハの本件収入を差し引いた後の最も少ない年分の金額である。なお、原処分関係資料によれば、本件収入は、請求人の毎年の収入の中で最も高額であったものの、それが事業所得及び給与所得の総収入金額に占める割合は、最も高い年分でも○%以下にとどまっている。)以上の所得を得ていたため、本件収入を生活費として費消する必要がなく、現に、本件預金口座の入出金を一度もしていないこと(上記1の(3)のハ、4の(1)のロの(ハ)及び別表1)、産業医や内科医として極めて多忙であり(上記ロの(イ))、売上げの集計を自ら行わず(同(ロ))、本件通帳を含む預金通帳への記帳も保険会社の担当職員に頼んでいた(同(ニ))など、自己の金銭管理について平素より気にかけていなかったといえることに加えて、請求人は、調査担当職員による質問調査から一貫して、本件収入が本件L信託銀行口座に入金されていると思っていた旨申述及び答述していること(原処分関係資料及び当審判所の調査の結果)からすると、請求人が、上記のF会への振込みの依頼からしばらくして同依頼自体を忘れてしまい、本件収入が本件L信託銀行口座に振り込まれていると誤解していた可能性も否定できない。
       さらに、請求人は、平成25年に行われた前回調査において、平成22年2月から同年5月までに支払われた本件収入の申告漏れを指摘されたが、同年6月以降に支払われた本件収入については何らの指摘も受けなかったこと(上記ロの(ホ))により、同月以降に支払われた本件収入の申告に問題がないと誤解した可能性も否定できない。
       そうすると、請求人は、H税理士に対し、前回調査までは手持ちの源泉徴収票及び支払調書を提示し、前回調査後はそれらに加えて本件L信託銀行口座の通帳等を提示していたことにより、本件通帳を提示しなくても、本件収入についても適正に申告していると誤解していたと考える余地が残るというべきである。
       よって、上記(イ)の1の点は、請求人が当初から所得を過少に申告する意図を有していたことを推認させるものとまではいえない。
    • (ハ) 上記(イ)の2の点をみるに、請求人は、本件調査において調査担当職員の指摘を受けて本件通帳を提示した時から一貫して、請求人が入出金している「動きのある」口座のみ提示すればよいと考えて、そうではなかった本件通帳を提示しなかった旨申述(以下「請求人申述」という。)している。
       請求人申述の信用性を検討するに、請求人は、本件預金口座の入出金は、開設後一切していなかったこと(上記ロの(ハ))、本件調査において、前記指摘以前には本件通帳以外にも複数の通帳も提示していなかったこと(同(ト))は、請求人申述を裏付ける。
       請求人は、J銀行に本件預金口座以外の預金口座も開設しており、本件調査の当初に、調査担当職員に対し、自ら進んで、同銀行の「○○」と題する書類を提示し、これを見た調査担当職員から同銀行の通帳を提示するように求められて、上記別の預金口座に係る通帳を提示しているところ(上記ロの(ト))、請求人が本件預金口座を秘匿しようと考えていたならば、1発覚の可能性が低いと考えられる住所地から離れた地方の銀行等において預金口座を開設するはずであり、いわゆる都市銀行であり、かつ、別の預金口座(平成6年3月7日開設、原処分関係資料)を開設している上記銀行において本件預金口座を開設することは考えにくく、2本件調査の当初に、自ら進んで、同銀行に預金口座を開設していることが発覚する可能性の非常に高い上記「○○」と題する書類を提示することも考えにくい。上記1及び2によれば、請求人が本件預金口座の存在を殊更隠ぺいしようとしたものとは考えがたく、むしろ、請求人申述のとおり、自ら入出金している口座の預金通帳のみ提示すればよいと考えて、そうではなかった本件通帳を提示しなかったという方が自然である。
       加えて、請求人申述が本件調査から一貫していることからすると、調査担当職員が本件調査中に全ての通帳の提示を求めたこと(上記ロの(ト))を考慮しても、請求人申述が信用できないとは認められない。
       そうすると、請求人は、調査担当職員から、自ら入出金している口座に係る通帳の提出に応ずれば問題ないと考え、そうではなかった本件通帳を提示しなかったとみる余地が残るというべきである。
       よって、上記(イ)の2の点は、請求人が当初から所得を過少に申告する意図を有していたことを推認させるものとまではいえない。
    • (ニ) 以上のとおり、原処分庁が主張する上記(イ)の1及び2の点は、いずれも、請求人が当初から所得を過少に申告する意図を有していたことを推認させるものとまではいえず、その他、請求人の上記意図を認めるに足りる証拠はない。
  • ニ 原処分庁の主張について
    • (イ) 原処分庁は、請求人が、本件通帳を記帳してその内容を確認し、本件預金口座に本件収入が入金されていることを認識していた旨主張する。
       しかしながら、請求人は、半年から1年に1回程度不定期に、保険会社の担当職員に、本件通帳を含む全ての通帳の記帳を依頼していたこと(上記ロの(ニ))や自己の金銭管理について平素から気にかけていなかったことからすると、将来何らかの事情により取引を確認する必要が生じたときに備えて記帳していたにすぎず、その記帳内容を確認していなかった可能性も否定できないのであり、請求人が、本件通帳の記帳を通じて本件預金口座に本件収入が入金されていることを認識していたとまでは認められない。
       よって、原処分庁の主張は採用することができない。
    • (ロ) 原処分庁は、要するに、本件調査前に、H税理士及び請求人に対し、請求人の生活用の預金口座を含めた全ての通帳の提示を求め、本件調査中も、請求人に対し、同様に求めたが、請求人は、本件収入の申告漏れを指摘されるまで本件通帳を提示しなかったことが、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行為をしたことを推認する旨主張する。
       しかしながら、調査担当職員が、本件調査前に、H税理士及び請求人に対し、請求人の預金通帳等の用意を依頼した事実は認められるものの(上記ロの(ト))、請求人の生活用の預金口座を含めた全ての通帳の提示を求めたと認めるに足りる証拠はない(調査担当職員は、異議調査において、上記のとおり求めた旨申述するが(原処分関係資料)、同申述を裏付ける客観的証拠もないことなどからすると、反対趣旨の請求人の主張、申述等に照らし、直ちに採用することができない。)。また、請求人が、本件調査において全ての通帳の提示を求められたにもかかわらず、調査担当職員の指摘を受けるまで本件通帳を提示しなかったことが上記意図を推認しないことは、上記ハの(ハ)のとおりである。
       よって、原処分庁の主張は採用することができない。
  • ホ 小括
     以上のとおり、請求人が当初から所得を過少に申告することを意図していたとは認められないから、本件は、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には当たらない。また、その他、隠ぺい、仮装と評価すべき行為を認めるに足りる証拠はない。
     したがって、本件修正前申告は、事実を隠ぺいし、又は仮装したところに基づくものとは認められない。

(2) 争点2(平成22年分修正前申告は、偽りその他不正の行為により税額を免れたものか。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第70条第4項の「偽りその他不正の行為」とは、単なる不申告ないし過少申告では足らず、ほ脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能若しくは著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作を行うことをいうものと解するのが相当である。
  • ロ 検討
     上記(1)のホによれば、請求人が、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為をしたとは認められず、その他、請求人が、ほ脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能若しくは著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作を行ったと認めるに足りる証拠はない。
     よって、本件平成22年分諸税修正前申告は、偽りその他不正の行為により税額を免れたものではない。

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5 原処分について

(1) 本件平成22年分諸税に係る各処分について

上記4の(2)のロのとおり、本件平成22年分諸税修正前申告は、偽りその他不正の行為により税額を免れたものではない。そのため、本件平成22年分諸税に係る更正処分における期間制限については、法定申告期限(平成22年分の所得税につき平成23年3月15日、平成22年課税期間の消費税等につき同月31日)がいずれも同年12月2日より前なので、旧通則法第70条第1項第1号が適用され(平成23年法律第114号附則第37条第1項)、法定申告期限から3年となるところ、本件平成22年分諸税修正申告のあった平成28年2月2日時点では、上記各法定申告期限から3年を経過しているため、本件平成22年分諸税に対して更正処分をすることはできなかったことになる。そうすると、本件平成22年分諸税修正申告書は、その提出が、その申告に係る国税について更正があるべきことを予知してされたものではないというべきであり(通則法第65条第5項参照)、本件平成22年分諸税修正申告に係る過少申告加算税及び重加算税は、賦課できないこととなる(同項、同法第68条第1項)。
 よって、本件平成22年分諸税に係る各処分は、いずれもその全部の取消しを免れない。

(2) その余の各処分について

上記4の(1)のホのとおり、本件修正前申告は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものとは認められないので、本件平成23年分諸税ないし本件平成26年分諸税(以下、併せて「本件平成23年分以後諸税」という。)の重加算税の各賦課決定処分は取消しを免れない。
 もっとも、請求人につき、通則法第65条第1項所定の要件を充足するところ、平成28年2月2日付の本件平成23年分以後諸税の各修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が上記各修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件平成23年分以後諸税の重加算税の各賦課決定処分は、別紙1ないし別紙8のとおり、過少申告加算税相当額を超える部分の金額についてそれぞれ違法であり、当該部分を取り消すべきである。

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6 結論

よって、審査請求には理由があるから、平成22年分の所得税に係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分並びに平成22年課税期間の消費税等に係る重加算税の賦課決定処分は、いずれもその全部を取り消すこととし、その余の原処分の一部を別紙1ないし別紙8の「取消額等計算書」のとおり取り消すこととする。

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