(平成29年9月26日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、国外関連者に該当する子会社に対するアメリカ合衆国ドル(以下「米ドル」という。)の貸付けに係る利息について、金銭消費貸借契約上の利率に基づき算出した額を収益に計上して申告したところ、原処分庁が、当該利息の額は、租税特別措置法(平成26年法律第10号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第66条の4《国外関連者との取引に係る課税の特例》第1項に規定する独立企業間価格に満たないとして、法人税及び復興特別法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、同条は請求人のような中小企業に適用されるべきでないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

関係法令等の要旨は、別紙3のとおりである。
 なお、別紙3で定義した略語については、以下、本文及び別表でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、○○業及び○○業を営む法人である。
  • ロ H社(以下「本件子会社」という。)は、K国において平成25年10月○日に設立された○○業等を営む法人である。
     本件子会社は、その発行済株式総数の○%を請求人が直接保有しており、請求人の措置法第66条の4第1項に規定する国外関連者に該当する。
  • ハ 請求人は、本件子会社との間で別表1の順号1及び順号2の各欄記載の内容の金銭消費貸借契約を締結し、本件子会社に対して米ドルの貸付け(以下、それぞれ「本件貸付け1」及び「本件貸付け2」といい、これらを併せて「本件各貸付け」という。)を行った。
  • ニ 請求人は、本件各貸付けを行う以前から、請求人の主要取引銀行であるL銀行○○支店(以下「本件主要取引銀行」という。)から長期借入れを行っていたが、本件各貸付けに係る資金は、借入れにより調達したものではなかった。
     また、請求人は、本件子会社以外の者に金銭の貸付けを行っていなかった。
  • ホ 本件子会社は、本件各貸付けにより調達した資金を、土地購入、設備投資及び運転資金等の事業用資金として利用し、他者への再貸付けを行っていなかった。
     また、本件子会社は、請求人以外の者からは、借入れを行っていなかった。
  • ヘ 請求人は、法人税の所得金額の計算に当たり、本件各貸付けに係る利息の額として、平成25年7月1日から平成26年6月30日までの事業年度(以下「平成26年6月期」という。)に○○○○円を、平成26年7月1日から平成27年6月30日までの事業年度(以下、「平成27年6月期」といい、平成26年6月期と併せて「本件各事業年度」という。)に○○○○円をそれぞれ益金の額に算入した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件各事業年度の法人税について、青色の確定申告書に別表2-1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
     また、請求人は、平成25年7月1日から平成26年6月30日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の復興特別法人税について、青色の申告書に別表2-2の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
  • ロ 原処分庁は、本件各事業年度の本件各貸付けに係る利息の額が、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法である貸手の銀行調達利率による方法、すなわち、米ドルのスワップレート(国際金融市場において示された短期金利と交換可能な長期金利の水準を示すもの。以下同じ。)にスプレッド(金融機関等が得るべき利益に相当する金利であり金融機関等の事務経費に相当する部分や借り手の信用リスクに相当する部分を含む。以下同じ。)を加えた利率を用いて算定した独立企業間価格に満たないとして、本件各貸付けに係る利息の額について、別表3記載のとおり利率を算定し、別表4の「原処分庁」欄記載のとおり独立企業間価格を算定した上で、平成28年7月4日付で、本件各事業年度の法人税については別表2-1の「更正処分等」欄記載のとおり各更正処分(以下、それぞれ「本件平成26年法人税更正処分」及び「本件平成27年法人税更正処分」といい、これらを併せて「本件法人税各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、それぞれ「本件平成26年法人税賦課決定処分」及び「本件平成27年法人税賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件法人税各賦課決定処分」という。)を、また、本件課税事業年度の復興特別法人税については別表2-2の「更正処分等」欄記載のとおり更正処分(以下「本件復興特別法人税更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件復興特別法人税賦課決定処分」という。)をした。
  • ハ 請求人は、上記ロの各処分に不服があるとして、平成28年10月3日に審査請求をした。

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2 争点

本件各貸付けに係る利息の額として益金の額に算入すべき額はいくらか。

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3 争点についての主張

(1) 原処分庁の主張

  • イ 本件各貸付けは、請求人が請求人の国外関連者に該当する本件子会社との間で行ったものであるから、措置法第66条の4第1項に規定する国外関連取引に該当する。
  • ロ そこで、原処分庁は、次のとおり、本件各貸付けに係る利息の額の独立企業間価格を算定した。
    • (イ) 本件各貸付けに係る利息の額の独立企業間価格の算定に当たっては、最も適切な方法を事案に応じて選定する必要があるところ、金銭消費貸借取引である本件各貸付けが措置法第66条の4第2項第2号に規定する取引に該当することから、同号に規定する各方法の適用について検討すると、1独立価格比準法と同等の方法については、同様の取引が存在しないこと、2再販売価格基準法と同等の方法については、本件子会社が再貸付けを行っていないこと、3原価基準法と同等の方法については、請求人が本件各貸付けに係る資金を借入れによって調達していないことから、いずれの方法も用いることができない。
    • (ロ) 次に、請求人及び本件子会社が金銭の貸付けを業としない法人であることから、移転価格事務運営指針2-7について検討すると、1借り手である本件子会社には金融機関からの借入れの実績がなく、借り手の銀行調達利率による方法を用いることはできない。
       他方、2貸手である請求人には本件主要取引銀行からの借入実績があり、同銀行から請求人に係るスプレッド情報を得ることができることから、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法である貸手の銀行調達利率による方法を用いることが相当である。
       そして、貸手の銀行調達利率による方法は、本件各貸付けに係る通貨の貸付日における貸付期間に対応する金利スワップのスワップレートに請求人が本件各貸付けと同様の条件で金融機関から借り入れた場合のスプレッドを加えた利率を用いるものであるところ、当該利率は別表3の「原処分庁主張利率」欄記載のとおりとなり、当該利率を用いて本件各貸付けに係る利息の額の独立企業間価格を算定すると別表4の「原処分庁」欄記載のとおりとなる。
  • ハ そうすると、本件各貸付けに係る利息の額は、上記ロで算定した独立企業間価格にいずれも満たない。したがって、本件各貸付けに係る利息の額として益金の額に算入すべき額は、原処分庁が別表4の「原処分庁」欄記載のとおり算定した独立企業間価格である。
  • ニ なお、仮に請求人に対するスプレッドが原処分庁主張の率と異なるとしても、請求人には金融機関からの借入れの実績があることから、別表3の「スプレッド(2)」を零%として、スワップレートのみから独立企業間価格を算定すべきであり、移転価格事務運営指針の趣旨に照らしても、同指針2-7(3)を適用するより合理性がある。
  • ホ 本件各貸付けは、本件子会社の設立直後に行われた設備投資等の事業用資金に係る貸付けであり、法基通9-4-2に定める無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められる場合には該当しないから、移転価格事務運営指針2-6(1)の適用はなく、移転価格税制の適用上も適正な取引として取り扱う場合には該当しない。

(2) 請求人の主張

  • イ 移転価格税制は、政府が推進する中小企業の海外展開を阻害するものであるから、請求人のような中小企業に対して適用されるべきではない。
  • ロ 仮に請求人が移転価格税制の適用を受けるとしても、本件各貸付けは本件子会社に対する支援のために行われたものであり、法基通9-4-2の子会社等を再建する場合の無利息貸付け等に該当する。そうすると、本件各貸付けは、移転価格事務運営指針2-6(1)の定めの適用があり、移転価格税制の適用上も適正な取引として取り扱われるべきである。
  • ハ また、上記ロに該当しないとしても、請求人が本件各貸付けに適用している2.00%の貸付利率は、既に売却したK国の子会社(J社)がK国課税当局の税務調査を受けた際の指摘に基づくものであり、適正な利率である。
  • ニ なお、原処分庁は、請求人が益金の額に算入した本件各貸付けに係る利息の額が独立企業間価格に満たないと主張するが、次のとおり誤りである。
    • (イ) 原処分庁が独立企業間の利率の算定に用いたスプレッド(本件貸付け1について○%、本件貸付け2について○%)は、本件主要取引銀行の一般的な中小企業に対する貸付レートについてのものにすぎない。同時期における請求人の本件主要取引銀行からの円建てによる借入利率が○%であったことからすれば、スプレッドが○%以上になることはあり得ない。
    • (ロ) 原処分庁の算定方法は移転価格事務運営指針2-7(2)の定めに基づくものであるが、同注書の2は、金銭の貸付けが手持資金によるものか借入資金によるものかの違いによる取扱いの差はない旨定めている。しかし、本件各貸付けのように、現地法人の株式の売却で得た米ドル建ての資金を、そのまま米ドル建てで本件子会社に貸し付けた場合と、金融機関から本件各貸付けのために新たな借入れを行った場合とでは明らかに資金調達コストは異なるのであるから、不合理な取扱いであることは明らかである。
  • ホ したがって、移転価格税制の適用の有無にかかわらず、本件各貸付けに係る利息の額として益金の額に算入すべき額は、別表4の「請求人」欄記載の額である。

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4 当審判所の判断

(1) 争点(本件各貸付けに係る利息の額として益金の額に算入すべき額はいくらか。)について

  • イ 法令解釈等
    • (イ) 措置法第66条の4第2項は、独立企業間価格とは、国外関連取引が同項各号に掲げる取引のいずれに該当するかに応じ当該各号に定める方法のうち、当該国外関連取引の内容及び当該国外関連取引の当事者が果たす機能その他の事情を勘案して、当該国外関連取引が独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って行われるとした場合に当該国外関連取引につき支払われるべき対価の額を算定するための最も適切な方法により算定した金額をいう旨規定している。
       そして、同項第2号は、棚卸資産の販売又は購入以外の取引に係る方法として、基本三法及び基本三法に準ずる方法その他政令で定める方法と同等の方法を掲げているところ、措置法通達66の4(7)-1は、措置法第66条の4第2項第2号に規定する「同等の方法」について、金銭の貸借取引等において、それぞれの取引の類型に応じて同項第1号に掲げる方法に準じて独立企業間価格を算定する方法をいう旨定めている。
       さらに、移転価格事務運営指針2-7は、金銭の貸借取引について、法人及び国外関連者がともに業として金銭の貸付け又は出資を行っていない場合において、当該法人が当該国外関連者との間で行う金銭の貸付け又は借入れについて調査を行うときには、必要に応じ、1借り手の銀行調達利率、2貸手の銀行調達利率及び3国債等の運用利率を独立企業間の利率として用いる独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法の適用について検討する旨、また、その注書の1において、上記12及び3に掲げる利率を用いる方法の順に、独立企業原則に即した結果が得られることに留意する旨定めている。
    • (ロ) 上記の独立価格比準法(独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法を含む。)は、措置法第66条の4第2項第1号イに規定するとおり、国外関連取引と同様の状況の下において非関連者間で行われた同種の取引に係る価格により独立企業間価格を算定する方法であり、国外関連取引と条件を同じくして、国外関連取引に係る価格と比較対象取引に係る価格を直接比較することから、基本三法の中で最も独立企業間価格を直接的に算定することができるものと解される。そして、措置法通達66の4(7)-4が、金銭の貸借取引について独立価格比準法と同等の方法を適用する場合には、比較対象取引に係る通貨が国外関連取引に係る通貨と同一であり、かつ、比較対象取引における貸借時期、貸借期間、金利の設定方式、利払方法、借り手の信用力、担保及び保証の有無その他の利率に影響を与える諸要因が国外関連取引と同様であることに留意する旨を定めていることについては、当審判所においても相当であると認める。
    • (ハ) 金銭の貸借取引について、移転価格事務運営指針2-7に基づき独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法により独立企業間価格を算定する場合、まず、1借り手の銀行調達利率による方法を用いることで、借り手が所在する国内における金融市場の取引状況を最も直接的に反映させることができる。
       また、2仮に借り手の銀行調達利率による方法を用いることができない場合には、貸手の銀行調達利率による方法を用いることで、貸手が所在する国内における金融市場の取引状況を反映させ、借り手の銀行調達利率に近似した利率を算定することが可能となる。
       さらに、3借り手の銀行調達利率による方法及び貸手の銀行調達利率による方法のいずれも用いることができない場合には、借り手又は貸手の信用力等に基づいて金融機関等により付される利率を直接反映して独立企業間価格を算定することはできないものの、国に対する金銭の貸付けであり、金融取引の中でも極めて安定性の高い国債等の運用利率による方法を用いることで、一般的な金融取引における市場金利を反映させることができる。
       このように、移転価格事務運営指針2-7が、金銭の貸借取引について独立企業間価格を算定するに当たって、優先順位を設けて各種方法を定めているのは、独立企業間価格とは最も適切な方法により算定した金額をいう旨の措置法第66条の4第2項の規定に沿うものであるといえることから、当審判所においても相当であると認める。
  • ロ 認定事実
     請求人の提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 請求人は、本件主要取引銀行から、本件各貸付けと通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の借入れを行ったことはなかった。
    • (ロ) 原処分庁は、上記3(1)ロ(ロ)のとおり、独立企業間価格の算定方法として、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法である貸手の銀行調達利率による方法、すなわち、米ドルのスワップレートにスプレッドを加えた利率を用いて算定するに当たり、請求人の関与税理士法人を通じて本件主要取引銀行の担当者に問合せを行い、担当者が回答したスプレッドを採用した。上記回答は、本件主要取引銀行においてこれに関する記録が残されておらず、本件主要取引銀行による正式回答ではない。
    • (ハ) 本件主要取引銀行においては、外貨建てによる取引を行っていない。
       また、本件主要取引銀行における貸出金利は、行内の最低基準にスプレッド相当率を上乗せする方法により定められており、スプレッド相当率は、融資金額、融資期間や融資先の信用状況、融資先の取引状況、資金使途の妥当性、返済原資の確実性、担保の条件など様々な状況を踏まえ、最終的には、取引先と相対で話し合って決定されている。このため、本件各貸付け当時に本件主要取引銀行が請求人に融資した場合のスプレッド相当率を遡って算出することは、不可能である。
    • (ニ) 当審判所の調査においては、請求人が本件各貸付けと同様の状況で銀行等から借り入れた場合のスプレッドは判明しなかった。
  • ハ 検討
     本件各貸付けは、上記1(3)ロ及びハのとおり、請求人が請求人の国外関連者に該当する本件子会社との間で行ったものであり、措置法第66条の4第1項に規定する国外関連取引に該当する。
     そのため、本件各貸付けに係る利息の額として益金の額に算入すべき額を算定するに当たっては、措置法第66条の4第2項に基づき、最も適切な方法を事案に応じて選定し、その独立企業間価格を検討する必要がある。
     そして、本件各貸付けは、金銭消費貸借取引であることから、措置法第66条の4第2項第2号に規定する基本三法及び基本三法に準ずる方法その他政令で定める方法と同等の方法のうちから最も適切な方法を選定することとなるので、以下、検討する。
    • (イ) 基本三法と同等の方法について
       まず、基本三法と同等の方法の適用について検討する。
       上記1(3)ニ及びホのとおり、請求人は本件子会社以外の者に金銭の貸付けを行っておらず、本件子会社も請求人以外の者から借入れを行っていなかったのであり、請求人及び本件子会社以外の法人による非関連者間の実在の取引についても、通貨が国外関連取引に係る通貨と同一であり、かつ、比較対象取引における貸借時期、貸借期間、金利の設定方式、利払方法、借り手の信用力、担保及び保証の有無その他の利率に影響を与える諸要因が本件各貸付けと同様である比較対象取引を見いだすことはできなかった。したがって、独立価格比準法と同等の方法を用いることはできない。また、本件子会社は本件各貸付けにより受けた資金により他者への再貸付けを行っていないから、再販売価格基準法と同等の方法を用いることはできず、請求人は本件各貸付けに係る資金を金融機関からの借入れにより調達していなかったから、原価基準法と同等の方法を用いることもできない。
    • (ロ) 独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法について
       次に、基本三法に準ずる方法その他政令で定める方法と同等の方法の適用については、独立価格比準法は、上記イ(ロ)のとおり基本三法の中で最も独立企業間価格を直接的に算定することができるものと解される。そして、上記1(3)イ及びロのとおり、請求人及び本件子会社が、ともに業として金銭の貸付け又は出資を行っていないことから、本件各貸付けに係る利息の額の独立企業間価格の算定に当たっては、移転価格事務運営指針2-7に基づき、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法として移転価格事務運営指針2-7の(1)から(3)に定める利率のうちいずれかにより算定することとなるので、以下、検討する。
      • A 借り手の銀行調達利率による方法(移転価格事務運営指針2-7(1))について
         上記1(3)ホのとおり、借り手である本件子会社には、非関連者である銀行等からの借入れの実績がなく、本件子会社が非関連者である銀行等から本件各貸付けと通貨、借入時期及び借入期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率を見いだすことはできない。
         したがって、借り手の銀行調達利率による方法を採用することはできない。
      • B 貸手の銀行調達利率による方法(移転価格事務運営指針2-7(2))について
         金融機関の貸付けがスワップレートにスプレッドを加えた利率により行われていることからすると、貸手の銀行調達利率について、本件各貸付けの日のスワップレートに、本件各貸付けと同様の状況の下で借り入れた場合のスプレッドを加えた利率を用いることが相当である。
         原処分庁は、上記ロ(ロ)のとおり、米ドルのスワップレートに請求人の関与税理士法人を通じて本件主要取引銀行の担当者から回答を得たスプレッドを加算した利率を用いて、本件各貸付けに係る独立企業間価格を算定したが、この回答は本件主要取引銀行による正式な回答ではなく、その根拠についても記録が残されていないのであるから、原処分庁が用いたスプレッドは、請求人が本件各貸付けと同様の状況で銀行等から借り入れた場合のスプレッドとして正確性を有するとは認められず、これを採用することは相当でない。
         また、請求人は、上記ロ(イ)のとおり、本件主要取引銀行から、本件各貸付けと通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の借入れを行ったことはなく、上記ロ(ニ)のとおり、当審判所の調査の結果によっても、他に請求人が非関連者である銀行等から本件各貸付けと通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率を算定する適切な方法を見いだすことはできなかった。
         原処分庁は、上記3(1)ニのとおり、仮に請求人に対するスプレッドが原処分庁主張の率と異なるとしても、請求人には金融機関からの借入れの実績があることから、別表3の「スプレッド(2)」を零%として、スワップレートのみから独立企業間価格を算定すべきである旨主張するが、スプレッドを零%とすることは、当該金融機関が利益を得ずに貸付けを行うという通常想定されていない状況を意味するものであり、請求人が非関連者である銀行等から本件各貸付けと通貨、貸借時期及び貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率を算定したものとはいえないから、原処分庁の主張は採用できない。
         したがって、貸手の銀行調達利率による方法を採用することもできない。
      • C 国債等の運用利率による方法(移転価格事務運営指針2-7(3))について
        • (A) 本件貸付け1について
           本件貸付け1は、上記1(3)ハのとおり、米ドルで行われ貸付期間が平成25年10月24日から平成36年4月30日までの約10年6か月間であることから、当審判所において、貸付開始日である平成25年10月24日に取引があった米国債について調査したところ、別表5-1のとおり、発行日が平成25年8月15日であり、満期償還日が平成35年8月15日である10年債(以下「本件米国債1」という。)が存在したことが認められた。そして、本件米国債1を本件貸付け1と比較すると、本件米国債1の発行日が本件貸付け1の貸付開始日と近接し、発行日から満期償還日までの期間(10年)は本件貸付け1の貸付期間に近似している。
           そうすると、本件米国債1の利率は、本件貸付け1に係る資金を、本件貸付け1と通貨、取引時期、期間等が同様の状況の下で国債等により運用した場合に得られるであろう利率に当たると認められることから、別表5-1記載の本件米国債1の利率をもって、別表5-2記載のとおり本件貸付け1に係る利率を算定することは、相当というべきである。
        • (B) 本件貸付け2について
           上記1(3)ハのとおり、本件貸付け2は、米ドルで行われ貸付期間が平成26年3月14日から平成40年10月31日までの約14年7か月間であることから、当審判所において、貸付開始日である平成26年3月14日に取引があった米国債について調査したところ、別表5-1のとおり、発行日が平成26年2月15日であり、満期償還日が平成36年2月15日である10年債(以下「本件米国債2」という。)が存在したことが認められた。そして、本件米国債2を本件貸付け2と比較すると、本件米国債2の発行日が本件貸付け2の貸付開始日と近接し、発行日から満期償還日までの期間(10年)は本件貸付け2の貸付期間に近似している。
           そうすると、本件米国債2の利率は、本件貸付け2に係る資金を、本件貸付け2と通貨、取引時期、期間等が同様の状況の下で国債等により運用した場合に得られるであろう利率に当たると認められることから、別表5-1記載の本件米国債2の利率をもって、別表5-2記載のとおり本件貸付け2に係る利率を算定することは、相当というべきである。
      • D 以上のとおり、本件各貸付けに係る利息の額として益金の額に算入すべき額を算定するに当たって、その独立企業間価格を算定する方法については、上記Cのとおり、本件各貸付けに係る資金を、本件各貸付けと通貨、取引時期、期間等が同様の状況の下で国債により運用した場合に得られるであろう利率を算定することが可能であることから、移転価格事務運営指針2-7(3)に基づき、国債等の運用利率による方法を採用することが相当である。
         そして、当該利率により算出した本件各貸付けに係る利息の額の独立企業間価格は、別表6-1及び6-2の各「認定額」欄記載の額となるところ、請求人が本件各貸付けに係る利息の額として益金の額に算入した額はこれに満たない。
         したがって、本件各貸付けに係る利息の額として益金の額に算入すべき額は、別表6-1及び6-2の各「認定額」欄記載の額である。
  • ニ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3(2)イのとおり、移転価格税制は政府が推進する中小企業の海外展開を阻害するものであるから、請求人のような中小企業に対しては適用されるべきではない旨主張する。
       しかしながら、措置法第66条の4には法人の規模に応じて適用を除外する旨の規定が存在せず、移転価格税制は法人税について納税義務のある全ての法人を対象とした規定であり、請求人の主張は採用できない。
    • (ロ) また、請求人は、上記3(2)ロのとおり、本件各貸付けが本件子会社に対する支援のために行われたものであり、法基通9-4-2の子会社等を再建する場合の無利息貸付け等に該当することから、移転価格事務運営指針2-6(1)の適用があり、移転価格税制の適用上も適正な取引として取り扱われるべきである旨主張する。
       しかしながら、上記1(3)ロ及びハのとおり、本件各貸付けが本件子会社の設立された日である平成25年10月○日の直後から行われ、上記1(3)ホのとおり、本件子会社は、本件各貸付けを受けた金銭を、土地購入、設備投資及び運転資金といった事業用資金に供していることからすると、本件各貸付けは、本件子会社の設立に伴って必要となる資金を調達するために行われたものというべきであり、本件子会社を再建するための無利息貸付け等には該当するものとは認められないから、請求人の主張は採用できない。
    • (ハ) さらに、請求人は、上記3(2)ハのとおり、本件各貸付けにおいて適用した2.00%の貸付利率はK国課税当局の税務調査を受けた際の指摘に基づくもので、適正な利率である旨主張する。
       しかしながら、仮に2.00%の貸付利率がK国課税当局の税務調査を受けた際の指摘に基づくものであったとしても、かかる事情をもって本件各貸付けに係る利息の額が独立企業間価格で行われたものと認めることはできないから、請求人の主張は採用できない。

(2) 原処分の適法性について

  • イ 本件法人税各更正処分の適法性について
     上記(1)ハのとおり、本件各事業年度において、本件各貸付けに係る利息の額として益金の額に算入すべき額は、別表6-1及び6-2の各「認定額」欄記載の額となる。
     そして、それを前提に、当審判所において、請求人の本件各事業年度の所得金額及び納付すべき法人税額を計算すると、別表7-1の「審判所認定額」欄記載のとおりとなる。
     その結果、平成26年6月期については、本件平成26年法人税更正処分の額を下回り、平成27年6月期については、確定申告の額を下回る。
     なお、本件法人税各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、ほかに取り消すべき事由は見当たらない。
     したがって、本件平成26年法人税更正処分はその一部が違法であり、本件平成27年法人税更正処分はその全部が違法である。
  • ロ 本件法人税各賦課決定処分の適法性について
     本件平成26年法人税更正処分は、上記イのとおり、その一部が違法であるが、それ以外の点は国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項の所定の要件を充足する。
     また、本件平成26年法人税更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件平成26年法人税更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、請求人に通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
     そして、当審判所において、平成26年6月期の法人税の過少申告加算税の額を計算すると、本件平成26年法人税賦課決定処分の額を下回る。
     また、本件平成27年法人税更正処分は、上記イのとおり、その全部が違法であり、過少申告加算税の基礎となる税額は零円となることから、過少申告加算税の額も零円となる。
     したがって、本件平成26年法人税賦課決定処分は、その一部が違法であり、本件平成27年法人税賦課決定処分は、その全部が違法である。
  • ハ 本件復興特別法人税更正処分の適法性について
     上記イのとおり、平成26年6月期の納付すべき法人税額は、別表7-1の「審判所認定額」欄記載のとおりとなるところ、当審判所において、これに基づき本件課税事業年度の復興特別法人税の納付すべき税額を計算すると、別表7-2の「審判所認定額」欄記載のとおりとなり、本件復興特別法人税更正処分の額を下回る。
     なお、本件復興特別法人税更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、ほかに取り消すべき事由は見当たらない。
     したがって、本件復興特別法人税更正処分は、その一部が違法である。
  • ニ 本件復興特別法人税賦課決定処分の適法性について
     本件復興特別法人税更正処分は、上記ハのとおり、その一部が違法であり、それ以外の点は通則法第65条第1項の所定の要件を充足する。
     また、本件復興特別法人税更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件復興特別法人税更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、請求人に通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
     そして、当審判所において、本件課税事業年度の復興特別法人税の過少申告加算税の額を計算すると、本件復興特別法人税賦課決定処分の額を下回る。
     したがって、本件復興特別法人税賦課決定処分は、その一部が違法である。

(3) 結論

以上によれば、審査請求は理由があるから、1本件平成26年法人税更正処分及び本件平成26年法人税賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙1の「取消額等計算書」のとおり取り消し、2本件平成27年法人税更正処分及び本件平成27年法人税賦課決定処分は、いずれもその全部を取り消すこととし、また、3本件復興特別法人税更正処分及び本件復興特別法人税賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すこととする。

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