(平成29年12月20日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するため、その所有する土地について、公売を実施して最高価申込者の決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該決定処分については、買受勧奨がされなかったために低廉な価額で最高価申込価額が決定されたとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

  • イ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第95条《公売公告》第1項は、国税局長(同法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》の規定による読替え後のもの。以下同じ。)は、差押財産を公売に付するときは、公売の日の少なくとも10日前までに、1公売財産の名称、数量、性質及び所在、2公売の方法、3公売の日時及び場所、4その他の同項各号に掲げる事項を公告しなければならない旨を規定するとともに、同法第95条第2項は、同条第1項の公告は、国税局(同法第184条の規定による読替え後のもの。以下同じ。)の掲示場その他国税局内の公衆の見やすい場所に掲示して行う旨を規定している。
  • ロ 徴収法第96条《公売の通知》第1項は、国税局長は、同法第95条の公告をしたときは、同条第1項各号(第8号を除く。)に掲げる事項及び公売に係る国税の額を滞納者等に通知しなければならない旨規定している。
  • ハ 徴収法第98条《見積価額の決定》第1項は、国税局長は、近傍類似又は同種の財産の取引価格、公売財産から生ずべき収益、公売財産の原価その他の公売財産の価格形成上の事情を適切に勘案して、公売財産の見積価額を決定しなければならない旨を、この場合において、国税局長は、差押財産を公売するための見積価額の決定であることを考慮しなければならない旨を、それぞれ規定している。
     また、同条第2項は、国税局長は、同条第1項の規定により見積価額を決定する場合において、必要と認めるときは、鑑定人にその評価を委託し、その評価額を参考とすることができる旨規定している。
  • ニ 徴収法第104条《最高価申込者の決定》第1項は、徴収職員は、見積価額以上の入札者等のうち最高の価額による入札者等を最高価申込者として定めなければならない旨規定している。
  • ホ 換価事務の取扱いについて国税庁長官が定めた平成20年6月13日付徴徴3-9ほか「換価事務提要の制定について(事務運営指針)」(以下「換価事務提要」という。)第3章《公売実施の一般的手続》第2節《公売公告》38《買受勧奨》は、公売公告に加え、必要に応じ、買受けを希望する可能性の高い者に「公売のお知らせ」(様式308020-027)を送付して買受勧奨を行うなど、買受希望者を積極的に募ることと定めている。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

  • イ 原処分庁は、請求人の別表1記載の滞納国税について、平成27年9月28日までに、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、E税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
  • ロ 原処分庁は、平成28年○月○日付で、別表2記載の各土地(以下「本件土地」という。)を公売するため、公売の日を同年○月○日、売却決定の日時を同年○月○日○時などとする公売公告(以下「本件公売公告」という。)を行うとともに、同年○月○日付の公売通知書を請求人に送付して通知した。
  • ハ 原処分庁は、平成28年○月○日に本件土地の公売を実施し、同日付で見積価額以上の入札者のうち最高の価額である○○○○円(以下「本件最高価申込価額」という。)による入札者を最高価申込者と決定した(以下、この決定を「本件最高価決定処分」という。)。
  • ニ 原処分庁は、平成28年○月○日、本件土地に係る最高価申込者の名称、価額等所定の事項を「不動産等の最高価申込者の決定等通知書」により、請求人に通知するとともに、これらの事項を公告した。
  • ホ 請求人は、平成28年12月6日、本件最高価決定処分に不服があるとして、再調査の請求を行ったところ、再調査審理庁は、平成29年1月23日付で棄却の再調査決定をした。
  • ヘ 請求人は、平成29年2月22日、再調査決定を経た後の本件最高価決定処分になお不服があるとして審査請求をした。

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2 争点

買受勧奨がなかったことは、本件最高価決定処分の瑕疵になるか否か。

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3 主張

請求人 原処分庁
請求人は、本件土地について○○○○円以上の価額による購入希望者の存在を原処分庁に伝えていたにもかかわらず、原処分庁は当該購入希望者に公売に参加するように連絡をしなかった(請求人を介して連絡しなかったことも含む。)。その結果、当該購入希望者が公売に参加せず、本件最高価申込価額が○○○○円より低廉な価額で決定されてしまったものであるから、本件最高価決定処分には瑕疵があり違法である。 公売公告が広く買受希望者の公売参加を誘引する目的をもつ趣旨に鑑み、公売公告は、税務署等の掲示場その他税務署等内の公衆の見やすい場所に掲示して行うこととされているほか、国税庁の公売情報ホームページにも掲載されることになっているものの、特定の者に公売に参加するように指導することを税務署長等に義務付ける法令の規定は存在しない。したがって、請求人の主張する事実は、本件最高価決定処分の適法性に影響を及ぼすものではない。

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4 当審判所の判断

(1) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 原処分庁所属の徴収職員(以下「本件徴収職員」という。)は、平成28年1月6日、請求人の代表取締役であるB(以下「B代表者」という。)から、本件土地のうち別表2の番号1の土地について、その買受けを希望する法人(以下「本件買受希望者」という。)に対して○○○○円の価額で任意売却をしたいので、当該任意売却のために本件土地に係る差押えを解除してほしい旨の書面による申出を受けた。
  • ロ 本件徴収職員は、上記イの差押解除の申出について、その要件を充足していないとして、平成28年1月12日、B代表者に対して、当該任意売却に伴う差押解除は認められない旨を説明した。
  • ハ 原処分庁は、本件公売公告を行った平成28年○月○日、本件買受希望者に対し、所定の「公売のお知らせ」を送付して買受勧奨を行った。
     なお、本件公売公告に係る公売期日までに、請求人から原処分庁に対して、本件買受希望者以外の買受希望者の氏名、名称等が伝えられた事実は認められない。
  • ニ 原処分庁は、本件土地の見積価額(以下「本件見積価額」という。)を決定するに当たって、不動産鑑定士に鑑定評価を委託し、その評価額を参考としているところ、当該鑑定評価及び本件見積価額の算定に不合理な点は認められず、本件見積価額が時価より著しく低廉であるとは認められない。

(2) 検討

  • イ 請求人がその主張において述べる原処分庁が買受希望者に公売に参加するよう連絡する行為とは、換価事務提要38が定める買受勧奨に相当するものと解されるから、買受勧奨の有無が最高価申込者の決定処分の適法性に影響を及ぼすか否かについて、以下検討する。
  • ロ 徴収法第104条第1項は、徴収職員は、見積価額以上の入札者等のうち最高の価額による入札者等を最高価申込者として定めなければならない旨規定し、また、見積価額の決定につき同法第98条第1項は、国税局長は公売財産の価格形成上の事情を適切に勘案するとともに、差押財産を公売するためのものであることを考慮しなければならない旨規定している。そうすると、徴収法は、これらの規定をもって、最高価申込価額が時価と比し著しく低廉となることを防止し、もって最低売却価額を保障しようとしたものと解される。したがって、公売財産の見積価額が時価より著しく低廉となり、その結果、最高価申込価額も時価より著しく低廉となった場合には、最低売却価額の保障という上記の趣旨に反することとなるから、当該最高価申込者の決定処分は違法になると解される。
     また、徴収法には、公売公告は国税局の掲示場その他国税局内の公衆の見やすい場所に掲示して行う旨の規定(同法第95条第2項)は存在するものの、買受勧奨に関する規定は存在しない。
  • ハ 以上のことからすると、最高価申込価額が時価より著しく低廉でない場合には、当該最高価申込者の決定処分がその価額の点から違法になることはないから、買受勧奨がなかったことにより、最高価申込価額が公売財産の所有者等の期待する価額に達しなかったとしても、そのことによって最高価申込者の決定処分が違法となることはないと解される。したがって、買受勧奨の有無が最高価申込者の決定処分の適法性に影響を及ぼすことはない。
  • ニ これを本件についてみると、請求人は本件見積価額が低廉であることを争わず、当審判所の調査及び審理の結果によっても、上記(1)のニのとおり、本件見積価額が時価より著しく低廉であるとは認められない。そうすると、本件見積価額以上である本件最高価申込価額が時価より著しく低廉となることはないところ、上記のとおり、買受勧奨の有無は最高価申込者の決定処分の適法性には影響しないから、買受勧奨がなかったとしても、そのことは本件最高価決定処分の瑕疵とはならはない。

(3) 請求人の主張について

請求人は、請求人が原処分庁に対し、事前に○○○○円以上の価額による購入希望者の存在を伝えていたにもかかわらず、原処分庁は当該購入希望者に公売に参加するように連絡をしなかったため、最高価申込価額が○○○○円より低廉な価額で決定されてしまったものであるから、本件最高価決定処分は違法である旨主張する。
 なるほど換価事務提要にはその38に買受勧奨に関する定めが存在するものの、徴収法に買受勧奨に関する規定が存在しないことからすると、換価事務提要38の定めは、公売公告が有する入札を誘引する機能を補うための原処分庁の行動指針にすぎないから、上記(2)のハのとおり、買受勧奨の有無が最高価申込者の決定処分の適法性に影響を及ぼすことはないと解される。
 更に付言するに、上記(1)のハのとおり、原処分庁は請求人からの任意売却の申出により知り得た本件買受希望者に対して買受勧奨を行っており、請求人の主張する前提事実自体が認められないのであるから、請求人の主張には理由がない。

(4) 本件最高価決定処分の適法性について

以上のとおり、争点についての請求人の主張は採用できず、上記1の(3)のハのとおり、本件最高価決定処分は、徴収法第104条の規定に基づきされている。また、本件最高価決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件最高価決定処分は適法である。

(5) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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