(平成30年6月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)は請求人の元代表者から債務免除を受けたとして、請求人に対し、第二次納税義務の納付告知処分を行ったところ、請求人が、当該債務免除は錯誤により無効であり、また、当該債務免除により受けた利益の額は零円であるなどと主張して、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

別紙のとおりである。
 なお、別紙で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、昭和○年○月○日に、○○の製作等を目的として設立された株式会社であり、G(以下「本件滞納者」という。)は、平成2年○月○日に請求人の取締役に就任し、平成7年○月○日に代表取締役に就任したが、平成27年○月○日に取締役及び代表取締役を辞任した。
  • ロ 本件滞納者は、平成20年8月28日、妻との共有不動産の売却代金を原資として、請求人との間で要旨以下のとおりの金銭消費貸借契約を締結の上、請求人に対して○○○○円を貸し付けた(以下、本件滞納者が請求人に対して行った当該貸付けに係る債権を「本件貸金債権」という。)。
    • (イ) 本件滞納者は、請求人に対し、本日、○○○○円を貸し付け、請求人はこれを借り受けて受領した。
    • (ロ) 請求人は、本件滞納者に対し、上記(イ)の貸金のうち、○○○○円を平成21年2月末日に弁済する。残りの○○○○円は本件滞納者と請求人が協議の上、弁済日時及び方法を決める。
     なお、本件貸金債権の弁済及び上記(ロ)に記載された協議は行われなかった。
  • ハ 請求人は、平成21年3月27日付で、請求人の各債権者(金融機関等)に対し、要旨以下のとおり記載した「弁済条件の変更についての御願い」と題する書面を送付した。
    • (イ) 当初の約定で各債権者への弁済を継続すると、平成21年3月31日には資金繰りが破綻するのは必至であり、継続して会社を運営することが困難となったため、○○申立てや破産手続申立て等を検討したものの、会社の歴史、技術力に鑑み、得意先からの信頼を失うこととなるこれらの申立てを避け、各債権者に対して弁済の繰延べを認めてもらうことで会社を継続し、債務を完済する道を選択したい。
    • (ロ) 弁済条件の変更が認められ、かつ、売上計画どおりに計画が進捗すれば、平成35年頃には、全ての債務の弁済が完了する。
  • ニ 本件滞納者は、平成21年8月24日付で、H銀行○○支店の支店長に対し、請求人の代表取締役として、問われていた債務責任に対する姿勢を示すために本件貸金債権を同月末日までに放棄する旨記載した「経営者及びオーナーとしての債務責任」と題する書面を提出した。
  • ホ 本件滞納者は、平成21年8月31日、本件貸金債権について債務免除(以下「本件債務免除」という。)を行った。また、請求人においても、同日付で、本件貸金債権について債務免除を受けたとする会計処理(債務免除益の計上)が行われている。
     なお、請求人が本件債務免除を受けるために支払った対価及び費用の額はない。
     おって、請求人は、平成21年8月31日において、本件滞納者を判定の基礎として法人税法第2条第10号に規定する同族会社に該当する会社である。
  • ヘ 請求人は、平成21年11月27日、本件滞納者を議長として第○回定時株主総会を開催し、当該総会において、本件債務免除に係る債務免除益を計上した上で作成された平成20年9月1日から平成21年8月31日までの事業年度(以下「平成21年8月期」という。)の決算報告書(以下「本件決算報告書」という。)は、本件滞納者を含む議決権を有する株主により承認された。
  • ト 請求人は、平成21年11月30日、本件決算報告書を添付した平成21年8月期の法人税の確定申告書をK税務署長に提出した。
  • チ 請求人は、平成26年○月○日、J地方裁判所に対し、破産手続開始の申立てをし、同日、破産手続開始の決定を受けた。
  • リ 請求人の破産管財人は、平成26年○月○日、上記チの破産手続開始決定後の売上げ回復等を理由に、J地方裁判所に対し、○○の申立てをし、請求人は、同月○日に○○の決定を受けた。○○については、平成27年2月○日に○○決定が確定し、同年7月○日に○○が終結した。
  • ヌ 本件滞納者は、J地方裁判所に対し、破産手続開始及び免責許可の申立てをし、平成27年4月○日に破産手続開始の決定、同年5月○日に破産手続廃止の決定、同年6月○日に免責許可の決定を受けた。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 原処分庁は、本件滞納者の別表記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)について、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項に基づき、平成22年4月22日までにK税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
  • ロ 原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、平成29年8月21日付で、請求人に対し、本件債務免除が徴収法第39条に規定する債務の免除に該当するとして、徴収法第32条第1項の規定に基づき、納付すべき限度の額を○○○○円などとする第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件納付告知処分」という。)をした。
  • ハ 請求人は、平成29年10月31日、本件納付告知処分に不服があるとして、審査請求をした。

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2 争点

  • (1) 本件債務免除は錯誤により無効であるか否か(争点1)。
  • (2) 本件債務免除により請求人が受けた利益の額はいくらか(争点2)。

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3 争点についての主張

(1) 争点1(本件債務免除は錯誤により無効であるか否か。)について

請求人 原処分庁
本件滞納者は、本件債務免除当時、本件貸金債権について債務免除すれば、請求人の債務の負担が軽減されると認識しており、そうすれば請求人の債権者である金融機関のその後の協力が得られると考え、本件債務免除を行ったが、請求人はもとより本件滞納者も、本件債務免除の時において、本件債務免除により請求人に第二次納税義務が生じることの認識はなく、仮にかかる法令の適用を知っていれば、本件滞納者は本件債務免除をすることはなかった。そもそも、本件債務免除は請求人の負担を軽減する目的で行われたものであり、第二次納税義務が発生するのであれば、本件債務免除をする意味がなくなるため、本件滞納者の動機において錯誤があったことは明らかであり、本件滞納者も錯誤を認めている。
 そして、本件滞納者は、本件債務免除当時、請求人の代表取締役であったことから、少なくとも本件債務免除は第二次納税義務が生じないことを前提としたものであるという黙示の動機の表示は認められ、また、債務免除の原状回復は債務免除の意思表示を撤回すれば足りる。
 したがって、本件債務免除は、法律行為の要素に錯誤があり、無効である。
請求人は、請求人が作成した「経営者及びオーナーとしての債務責任」と題する書面において、本件滞納者がH銀行から債務責任を問われている旨記載している。このことから、本件滞納者は、本件債務免除の時点において、請求人の債務超過を少しでも圧縮して会計監査を受け、H銀行からの印象を良くし、融資を受けやすくするために本件債務免除を行っていることが認められる。一方、本件債務免除の時点において、請求人がH銀行からの融資を継続して受けられなくなる可能性があったとしても、本件滞納者が、本件滞納国税を完納できず請求人に第二次納税義務が課されるおそれがあることから本件債務免除を行わなかったであろうことを示す事実はない。そうすると、本件滞納者に動機の錯誤があったと認められず、法律行為の要素の錯誤はない。
 なお、本件債務免除については、本件納付告知処分までに、本件債務免除の表意者である本件滞納者が錯誤無効を主張せず、また、原状回復(取消し)をしていないことから、請求人の主張は本件納付告知処分の適法性に影響するものではない。
 したがって、本件債務免除は、錯誤により無効とはならない。

(2)  争点2(本件債務免除により請求人が受けた利益の額はいくらか。)について

原処分庁 請求人
徴収法基本通達第39条関係14は、無償譲渡等の処分により、滞納者から受けた利益が債務の免除である場合には、債務者の支払能力、弁済期等を考慮し、その債権を換価する場合と同様に、その債務が免除された時におけるその債権の価額を算定し、その額が受けた利益の額に当たるものとすることを定めている。この債務の免除がされた場合の受けた利益の額は、一般的にはその債務の額といえるが、債権の実質的な価値は、第三債務者の弁済資力や弁済期限などによって定まるものであり、名目金額によることは妥当ではないので、その債権を換価するものとして評価した価額をもって受けた利益の額を定めることとなる。
 本件では、本件債務免除の時点において、請求人は事業継続中であり、支払停止等の事実がなく、また、18億円余の流動資産及び約9千万円の投資有価証券を有していた。そうすると、仮に本件貸金債権を差し押さえた場合の換価は、取立てによることとなり、本件債務免除の時点における請求人の状況から、支払能力、弁済期等を考慮しても、本件債務免除の時点における本件貸金債権の価額は、○○○○円であり、請求人が本件債務免除により受けた利益の額も○○○○円であると認められる。
徴収法第39条に規定する第二次納税義務者の義務の範囲は、国税庁長官が発した事務運営指針である第二次納税義務関係事務提要によれば、受けた利益が債務の免除である場合には、債務者の支払能力、弁済期等を考慮し、換価する場合に準じて算定したその債務が免除された時の現況によるその債権の価額とする旨定められている。
 そこで、本件債務免除があった平成21年8月末時点の本件貸金債権の価額を検討するに、本件決算報告書上の純資産は約3億7千万円の債務超過であることに加え、請求人の主要な固定資産には担保が設定されており、これらの資産は一般債権者への配当には充当されないものであったこと、本件決算報告書に計上されていない、一般債権に優先する多額の労働債権(自己都合退職を前提としても3億円を超える退職金給付債務)を負っていたことなどから、その時点で請求人が破産すれば、流動資産に価値はなく、一般債権者への配当はなかったものと思料される。
 また、請求人は、平成21年3月末には、金融機関に対する○○の支払が困難な状況となっており、この時点で請求人は事実上支払停止に陥っていたから、支払能力はなかった。
 したがって、本件債務免除の時の本件貸金債権の価額は零円で、請求人が本件債務免除により受けた利益の額も零円である。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件債務免除は錯誤により無効であるか否か。)について

  • イ 請求人は、請求人はもとより本件滞納者も、本件債務免除の時において、本件債務免除により請求人に第二次納税義務が生じることを認識しておらず、仮にかかる法令の適用を知っていれば、本件滞納者は本件債務免除をすることはなかったのであり、本件滞納者の動機において錯誤があったことは明らかで、本件滞納者も錯誤の存在を認めている、そして、本件滞納者は請求人の代表取締役であったことから、本件債務免除は第二次納税義務が生じないことを前提としたものであるという黙示の動機の表示は認められるから、本件債務免除は法律行為の要素に錯誤があり無効であると主張する。
  • ロ ところで、民法第95条の規定によって、意思表示の動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤としてその無効を来たすためには、その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要すると解される。
  • ハ 当審判所の調査及び審理の結果によれば、本件滞納者は、平成21年11月2日、原処分庁所属の徴収職員との納付相談時に、本件債務免除により第二次納税義務が成立する可能性がある旨を指摘されたが、当該指摘を受けるまで、第二次納税義務の制度自体を知らなかったと認められる。
  • ニ そうすると、本件滞納者は、本件債務免除当時、第二次納税義務の制度自体を知らなかったのであるから、請求人が主張する本件滞納者の動機は、そのことが念頭になかったために行為に至ったことをいうにすぎず、本件債務免除に当たり、黙示にも当該動機の表示はなかったと認められる。
  • ホ そして、上記1の(3)のニによれば、本件債務免除は、請求人の主要取引銀行であるH銀行○○支店長から本件滞納者の経営者及びオーナーとしての債務責任を問われたのに対し、本件滞納者が請求人の債務超過を圧縮することで代表者としての経営責任を明確にし、それによって請求人が同支店からの支援を受けることを期待して行われたものと認められるところ、同へ及び同トのとおり、本件滞納者は、本件債務免除の後、請求人に第二次納税義務が生じる可能性があることを知った後も、本件債務免除を無効とすべく特段の行動をした事実は認められず、かえって請求人の代表取締役として、本件債務免除を前提とした請求人の決算及び法人税の確定申告等に係る一連の行動をしていたことが認められるから、もし請求人に第二次納税義務が生じることを知っていたならば、本件滞納者が本件債務免除を行わなかったであろうと認められる場合には当たらない。
  • ヘ 以上のとおりであるから、請求人の主張には理由がなく、本件債務免除は錯誤により無効ではないと認められる。

(2) 争点2(本件債務免除により請求人が受けた利益の額はいくらか。)について

  • イ 法令解釈等
     徴収法基本通達第39条関係14及び同16は、無償譲渡等の処分により滞納者から受けた利益が債務の免除であるときは、債務者の支払能力、弁済期等を考慮し、その債権を換価する場合と同様に、その債務が免除された時の現況によるその債権の価額を算定し、その額が受けた利益の額に当たる旨定めている。
     これらの通達に基づき算定される債権の価額は、公売財産の換価手続における基準価額、いわゆる客観的時価に相当する価額であると解されるところ、徴収法第39条に規定する第二次納税義務が、本来の納税義務者である滞納者がその者の国税の法定納期限の1年前の日以後に、その者の財産について無償譲渡等の処分を行ったことにより、その者の財産に対して滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認めることとなった場合に、当該処分により権利を取得し、又は義務を免れた第三者に対して、補充的に当該国税について履行責任を負わせることによって当該国税の徴収確保を図ろうとする制度であることからすれば、無償譲渡等の処分である債務の免除がされた時におけるその債権の客観的時価に相当する価額を、債務の免除により受けた利益の額とすることは合理性があるといえるから、これら通達の取扱いは、当審判所においてもいずれも相当と認める。
     そして、債権の実質的価値は、債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情に依拠するところが大きいことから、その評価に当たっては、当該事情を踏まえて算定するのが相当であるところ、債務者につき、1手形交換所における取引停止処分、2更生手続開始決定、再生手続開始決定、特別清算開始命令、破産手続開始決定(以下、これら法律の定める整理手続の開始の決定等を「法的整理の開始決定等」という。)、3事業の廃止又は休業の事実が発生しているときその他その債権金額の全部又は一部の回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるような特別な事情が認められる場合には、当該事情による減価を適切に見込んで評価すべきであり、そのような特別の事情が認められない場合には、金銭債権である以上、額面上の金額と同額であると評価するのが相当である。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件債務免除当時、請求人について、手形交換所における取引停止処分、法的整理の開始決定等及び事業の休廃業の事実はない。
    • (ロ) 本件決算報告書等について
      • A 平成21年8月31日において約3億7千万円の債務超過である。
      • B 平成21年8月31日の貸借対照表において、負債の部に計上されている割引手形の計上額(約4億1千万円)を受取手形の計上額(約5億1千万円)から控除後の流動資産の合計額は約14億6千万円(うち、現金及び預金約1億3千万円、受取手形約1億円、売掛金約3億3千万円、製品棚卸高約2億1千万円)である。
      • C 平成21年8月期の損益計算書では、約○億円の売上高が計上されている。
         また、請求人の平成21年9月1日から平成22年8月31日までの事業年度及び平成22年9月1日から平成23年8月31日までの事業年度の各決算報告書における損益計算書では、それぞれ約○億円、約○億円の売上高が計上されている。
  • ハ 当てはめ
     本件において、請求人は、上記ロの(ロ)のAのとおり、本件債務免除当時、債務超過の状態であったことは認められるものの、上記ロの(イ)のとおり、手形交換所の取引停止処分、法的整理の開始決定等及び事業の休廃業の事実は認められないこと、事業活動は継続的に行われており、上記ロの(ロ)のCのとおり、本件債務免除の前後において年間30億円程度の売上高を計上していたこと、同Bのとおり、本件貸金債権(約1億円)を大幅に上回る約14億6千万円(割引手形の計上額を控除した後の金額)の流動資産を有していたこと、上記1の(3)のニによれば、本件債務免除は、請求人の主要取引銀行であるH銀行○○支店長から本件滞納者の経営者及びオーナーとしての債務責任を問われたのに対し、本件滞納者が請求人の債務超過を圧縮することで代表者としての経営責任を明確にし、それによって請求人が同支店からの支援を受けることを期待して行われたものであり、本件貸金債権の回収が不可能又は著しく困難であるとして債務免除が行われたものではないことを踏まえると、本件貸金債権の全部又は一部の回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるような特別な事情があったとは認められない。
     なお、上記1の(3)のハのとおり、請求人が本件債務免除の前に法的整理を検討し、各債権者(金融機関等)に対し、弁済条件の変更(繰延べ)を要請した事実、同ロのとおり、本件貸金債権のうち、平成21年2月末日を弁済日とする○○○○円の弁済が行われなかった事実は認められるものの、同チ及び同リのとおり、実際に破産手続開始決定及び○○決定を受けたのは本件債務免除から4年以上経過してからであり、本件債務免除当時の請求人の上記営業状況及び財務状態を踏まえると、本件貸金債権の回収が不可能又は著しく困難であったとは認められず、これらの事情は上記判断を左右するものではない。
     また、上記1の(3)のロによれば、本件貸金債権は、既に履行期限が過ぎているか、履行期限の定めがないものと認められるから、その価値の算定に当たっては、履行期限が到来しているものとして扱うのが相当である。
     以上によれば、本件債務免除により請求人が受けた利益の額は、本件貸金債権の額面上の金額である○○○○円であるとするのが相当である。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、本件債務免除当時における請求人の財務状況等から、その時点で請求人が破産した場合、一般債権者への配当はなかったものと思料されること、また、平成21年3月末には、事実上支払停止に陥っており支払能力はなかったことを理由に、本件貸金債権の本件債務免除の時の価額は零円であるから、請求人が本件債務免除により受けた利益の額は零円である旨主張する。
     しかしながら、上記イに記載したとおり、債務免除に係る債権の評価に当たっては、債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情を踏まえて算定するのが相当であって、請求人の破産という仮定の事実を前提として本件貸金債権の価額を算定することに合理性があるとはいえず、また、上記ハのとおり、本件債務免除当時、本件貸金債権の全部又は一部の回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるような特別な事情があったとも認められない。
     したがって、本件貸金債権の本件債務免除当時の価額は、その額面上の金額である○○○○円であると認められ、請求人の主張には理由がない。

(3) 請求人のその他の主張について

請求人は、上記3の「請求人」欄のほか、第二次納税義務者は、その告知処分により第二次納税義務の存在を知り得るところ、たとえ本件納付告知処分が徴収法第39条及び関連する手続規定に基づいて行われているとしても、本件納付告知処分以前の期間に係る多額の延滞税を請求人に課す結果となることは、財産権について規定している日本国憲法第29条、あるいは、適正手続の保障について規定している同法第31条に照らし、請求人に対する適用の限度において違憲無効であると主張する。
 しかしながら、第二次納税義務の制度は、本来の納税者と同一の責任を負わせても公平を失しないような特別の関係にある第三者を本来の納税義務者に準ずる者とみて、これに主たる納税義務についての履行責任を補充的に負わせるものであって、たとえ納付告知処分までの期間に対応する主たる納税義務に係る延滞税が多額であったとしても、それを請求人が負うことは、法令の規定に基づき、本件滞納者の国税について第二次納税義務を負うことの当然の帰結であるから、請求人の主張は、結局、本件納付告知処分に係る法令自体の違憲をいうものと整理されるところ、当審判所は、税務署長等が行った処分が国税に関する法令に反する違法、不当な処分であるか否かを判断する機関であって、その処分の基となった法令自体の適否又は合理性ないし、法令自体の合憲又は違憲を判断することは、その権限に属さないことであるので、この点に関する請求人の主張については当審判所の審理の限りではない。

(4)  本件納付告知処分の適法性について

以上のとおり、争点についての請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件納付告知処分の時において、上記1の(3)のヌの事実から、本件滞納国税につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められ、その不足すると認められることが、本件滞納国税の法定納期限の1年前の日以後に行われた本件債務免除に基因すると認められるから、本件納付告知処分は、徴収法第39条の要件を全て満たしている。
 そして、上記1の(3)のホのとおり、請求人は、徴収法第39条に規定する滞納者と特殊な関係のある同族会社に該当するから、本件債務免除により受けた利益の限度において本件滞納国税について第二次納税義務を負うこととなるところ、上記(2)のハのとおり、請求人が本件債務免除により受けた利益の額は○○○○円と認められ、この額は、本件納付告知処分の納付すべき限度の額と同額である。
 また、本件納付告知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件納付告知処分は適法である。

(5) 結論

よって、審査請求は理由がないから、棄却することとする。

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