(平成30年12月4日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、1電気配線工事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁の調査を受け、所得税等の修正申告書及び消費税等の期限後申告書を提出した後、当該修正申告書及び期限後申告書の提出により納付すべき税額が過大であるとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、事実を証明する書類が提出されず、更正をすべき事実が確認できなかったとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことに対し、請求人がその全部の取消しを求め、また、2原処分庁が、隠ぺい又は仮装の事実があるとして、上記修正申告書及び期限後申告書に係る重加算税の賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、その全部又は過少申告加算税相当額若しくは無申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

関係法令は、別紙のとおりである。なお、別紙で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
 なお、以下では、所得税又は所得税及び復興特別所得税(以下、両税を併せて「所得税等」という。)に係る原処分がされた各年分を併せて「本件各年分」という。また、消費税及び地方消費税(以下、併せて「消費税等」という。)に係る原処分がされた各課税期間について、暦年をもって「平成21年課税期間」などといい、平成21年課税期間ないし平成27年課税期間を併せて「本件各課税期間」という。

  • イ 当事者
     請求人は、電気配線工事業を営んでおり、主に住宅、店舗等の屋内配線の工事を請け負っている。
  • ロ 請求人の申告状況
     請求人は、本件各年分の所得税又は所得税等について、確定申告書に別表1−1及び別表1−2の各「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限内に原処分庁に提出した。当該各確定申告書には、各年分の収支内訳書(以下、当該収支内訳書については、その年分をもって「平成21年分収支内訳書」などといい、平成21年分収支内訳書ないし平成27年分収支内訳書を併せて「本件各収支内訳書」という。)が添付されていた。
     また、請求人は、本件各課税期間の消費税等の確定申告書を、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出しなかった。
  • ハ 請求人に対する実地の調査
    • (イ) 原処分庁所属の調査担当職員(以下「実地調査担当職員」という。)は、平成28年10月27日、本件各年分の所得税又は所得税等及び本件各課税期間の消費税等について、実地の調査(以下「本件実地調査」という。)を開始した。
       請求人は、各取引先に対する各月の売上金額などを集計して年次の集計表(以下、当該集計表については、その年分をもって「平成19年分年次集計表」などといい、平成19年分年次集計表ないし平成27年分年次集計表を併せて「本件各年次集計表」という。)を作成していたところ、実地調査担当職員は、本件実地調査の際、平成19年分年次集計表、平成22年分年次集計表ないし平成25年分年次集計表及び平成27年分年次集計表などを確認した。
    • (ロ) 実地調査担当職員は、本件実地調査に基づき、本件各年分の事業所得の金額を算定し、また、当該事業所得に係る総収入金額を基に本件各課税期間の課税売上高を算定し、平成28年12月20日、請求人に対し調査結果の説明を行った上で、上記各算定に基づき税額計算をした所得税又は所得税等の修正申告書及び消費税等の期限後申告書を提出するよう勧奨した。
       請求人は、上記勧奨に従い、平成28年12月20日、原処分庁に対し、別表1−1及び別表1−2の各「修正申告」欄のとおり記載した本件各年分の所得税又は所得税等の各修正申告書(以下、当該各修正申告書のうち平成23年分のものを「平成23年分所得税修正申告書」という。)及び別表2の「確定申告(期限後申告)」欄のとおり記載した本件各課税期間の消費税等の各期限後申告書(以下、当該各期限後申告書のうち平成23年課税期間のものを「平成23年課税期間消費税等期限後申告書」といい、平成23年分所得税修正申告書と平成23年課税期間消費税等期限後申告書を併せて「平成23年分諸税修正申告書等」という。また、本件各年分の所得税又は所得税等の上記各修正申告書及び本件各課税期間の消費税等の上記各期限後申告書を併せて「本件各修正申告書等」という。)をそれぞれ提出した。
       平成23年分所得税修正申告書における事業所得の金額の内訳は、別表3の「修正申告」欄のとおりである。このうち、総収入金額には、平成23年7月31日付のL社宛の請求書(以下「本件請求書」という。)に係る売上金額509,250円が算入されているところ、本件請求書には、税込合計金額が509,250円と記載されるとともに、請求金額の内訳を記載した表が添付されており、当該表には、3か所での工事の金額がそれぞれ195,000円、135,000円、90,000円で、消費税21,000円を加えた合計が441,000円であると記載されていた。
  • ニ 審査請求に至る経緯
    • (イ) 原処分庁は、平成29年2月14日付で、請求人に対し、隠ぺい又は仮装の事実が認められるとして、別表1−1、別表1−2及び別表2の各「賦課決定処分」欄のとおり、本件各年分の所得税又は所得税等及び本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)を行った。
    • (ロ) 請求人は、平成29年3月14日、原処分庁に対し、平成23年分諸税修正申告書等の提出により納付すべき税額が過大であるとして、別表1−1及び別表2の各「更正の請求」欄のとおり記載した各更正の請求書に、それぞれ平成23年分の収支内訳書(平成23年分収支内訳書とは別のもの)を添付して提出した(以下、当該各更正の請求書に係る各更正の請求を「本件各更正請求」という。)。
       平成23年分の上記収支内訳書に記載された事業所得の金額の内訳は、別表3の「更正の請求」欄のとおりである。
    • (ハ) 原処分庁所属の本件各更正請求に係る調査担当職員は、平成29年4月28日、請求人に対して帳簿書類の提出を求めたところ、請求人の代理人であるM税理士、N税理士及びP税理士は、日ごとに作業現場や作業応援者の氏名などが記載された請求人の平成23年分のダイアリー帳(以下「平成23年分ダイアリー帳」という。)に加え、平成23年分ダイアリー帳を基に推計した売上金額や必要経費などが記載された1「収支内訳」と題する書面、2「平成23年分売上」と題する書面、3「平成23年分外注費・仕入」と題する書面、4「平成23年分集計(合計)」と題する書面及び5「クレジットの使用状況」と題する書面(以下、上記1ないし5の各書面を併せて「本件各明細」という。)を提示した。
    • (二) 請求人は、平成29年5月1日、本件各賦課決定処分の全部の取消しを求めて再調査請求をした。その後、請求人は、取消しを求める範囲について、平成25年分ないし平成27年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分については、それぞれ過少申告加算税相当額を超える部分の金額、平成23年課税期間ないし平成27年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分については、それぞれ無申告加算税相当額を超える部分の金額に変更した。
       これに対し、再調査審理庁は、平成29年12月4日付で、所得税又は所得税等の一部について隠ぺい又は仮装の行為が認められないとして、別表1−1、別表1−2及び別表2の各「再調査決定」欄のとおり、本件各賦課決定処分のうち平成21年分、平成22年分及び平成24年分の所得税並びに平成25年分ないし平成27年分の所得税等に係るものについては、全部又は一部につき過少申告加算税相当額を超える部分を取り消し、その他の処分については、再調査の請求をいずれも棄却する旨の再調査決定(以下「本件再調査決定」という。)をした。なお、本件再調査決定は、本件各賦課決定処分のうち平成21年分の所得税に係るものについて、売上げの一部を除外していたものの、当該除外金額が、当該除外部分に係る必要経費の認容額を下回り、除外部分に係る所得金額が零円になるとして、過少申告加算税相当額を超える部分を取り消した。
    • (ホ) 原処分庁は、平成29年9月6日付で、別表1−1及び別表2の各「通知処分」欄のとおり、本件各更正請求について、請求人が事実を証明する書類を提出しなかったことから、更正をすべき事実が確認できなかったとして、いずれも更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」という。)をした。
    • (へ) 請求人は、平成29年12月6日、本件各通知処分を不服として、それらの全部の取消しを求めて、審査請求をした。
       本件審査請求において請求人が主張する事業所得の金額の内訳は、別表3の「審査請求」欄のとおりである。
    • (ト) 請求人は、平成29年12月28日、本件再調査決定によりその一部が取り消された後の本件各賦課決定処分を不服として、1平成21年分ないし平成23年分の所得税及び平成21年課税期間ないし平成23年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分の全部、2平成24年分の所得税及び平成25年分ないし平成27年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分のうち、それぞれ過少申告加算税に相当する金額を超える部分並びに3平成24年課税期間ないし平成27年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分のうち、それぞれ無申告加算税に相当する金額を超える部分の取消しを求めて、審査請求をした。
    • (チ) 上記(ヘ)及び(ト)の各審査請求は、通則法第104条《併合審理等》第1項の規定により、併合して審理されている。

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2 争点

  • (1) 平成23年分諸税修正申告書等の提出により納付すべき税額が過大であるか(争点1)。
  • (2) 請求人は、本件各年分の所得税又は所得税等及び本件各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実について、隠ぺい又は仮装をしたか(争点2)。
  • (3) 請求人は、偽りその他不正の行為により本件各年分の所得税又は所得税等及び本件各課税期間の消費税等の税額を免れたか(争点3)。

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3 争点に対する当事者双方の主張

(1) 争点1(平成23年分諸税修正申告書等の提出により納付すべき税額が過大であるか。)について

請求人 原処分庁
  以下のとおり、平成23年分所得税修正申告書に記載した事業所得の金額は過大であるから、平成23年分所得税修正申告書の提出により納付すべき税額は過大である。また、これに伴い、平成23年課税期間消費税等期限後申告書の提出により納付すべき税額も過大である。   以下のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がないから、平成23年分諸税修正申告書等の提出により納付すべき税額が過大であるとは認められない。
  • イ 総収入金額について
     本件請求書に係る売上金額は、請求金額の内訳が記載された表に合計額として記載された441,000円である。
     しかし、平成23年分所得税修正申告書に記載した総収入金額には、上記売上金額を509,250円として算入しており、過大である。
  • イ 総収入金額について
     通常、請求金額に誤りがあれば、取引先からの指摘等により請求金額を訂正するところ、本件請求書に係る売上金額については、これを修正した請求書がなく、その他の資料によっても、L社に対して値引きや相殺等が行われた事実は認められないことから、本件請求書に税込合計金額として記載された509,250円であるというべきである。
     なお、平成23年分所得税修正申告書における総収入金額には、平成23年10月3日にQ社から入金された275,000円及び同年11月30日付のS社宛の請求書記載の34,650円の合計309,650円の加算漏れが認められることから、請求人の主張のイの適否にかかわらず、当該総収入金額が過大ではないことは明らかである。
  • ロ 必要経費について
    • (イ) 請求人は、平成19年9月、業務のために使用する車両(以下「本件車両」という。)を1,329,000円で取得したから、本件車両の減価償却費は、必要経費に算入すべきである。
    • (ロ)  本件車両の減価償却費以外の経費については、領収書等の保存がないが、以下の理由により、請求人が推計した別表3の「審査請求」欄の金額を必要経費に算入すべきである。
       請求人は、当初の申告において、根拠のない金額を必要経費に計上し、領収書等の保存もしていなかったから、実地調査担当職員は、必要経費について、同業者比率、本人効率等を参考に推計すべきであった。
       しかし、平成23年分所得税修正申告書の計算の基礎となった必要経費の算定において、このようなことを行っておらず、その結果、上記(イ)の本件車両の減価償却費のほか、任意保険料、自動車税などの当然存在する経費を一切必要経費に算入していない。
       したがって、平成23年分所得税修正申告書の計算の基礎となった必要経費の金額には根拠がなく、請求人が推計した金額を必要経費に算入すべきである。
  • ロ 必要経費について
    • (イ) 請求人は、本件車両を専ら事業の用に供していた事実について立証しておらず、また、本件車両に係る費用について、業務の遂行上必要である部分を明らかに区分していないことから、減価償却費その他本件車両に係る費用は、必要経費に算入することができない。
    • (ロ) 本件各更正請求に際して提出された平成23年分の収支内訳書は、各必要経費の合計額しか記載されていないこと、本件各明細は、平成23年分ダイアリー帳を基に推計した金額を記載したものであり、平成23年分ダイアリー帳は、請求人の事業所得に係る必要経費の全てが記載されたものではないことから、本件車両の減価償却費以外の経費について請求人が提出した資料(上記収支内訳書、平成23年分ダイアリー帳及び本件各明細)は、いずれも、請求人の主張する当該経費が必要経費に該当することを立証するものではない。
       したがって、請求人が主張する本件車両の減価償却費以外の経費は、必要経費に算入することができない。

(2) 争点2(課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装の有無)について

原処分庁 請求人
  以下のとおり、請求人は、本件各年分の所得税又は所得税等及び本件各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実について、隠ぺい又は仮装をした。   以下のとおり、請求人は、本件各年分の所得税又は所得税等及び本件各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実について、隠ぺい又は仮装をしていない。
  • イ 所得税又は所得税等について
     請求人は、本件各年次集計表を作成することにより、本件各年分の所得金額を把握していた。
     しかし、請求人は、消費税の納税を避けるため、本件各年分それぞれの売上金額が1,000万円以下になるように、本件各年次集計表に○印や下線などの印を付けるなどして申告する売上金額を調整し、内容虚偽の売上金額等を記載した本件各年次集計表を作成したものであり、当該作成は、本件各年分の売上金額等の隠ぺい又は仮装に当たる。
  • ロ 消費税等について
     請求人は、消費税の納税を避けるため、上記イのとおり、内容虚偽の売上金額等を記載した本件各年次集計表を作成し、また、これに基づき、所得税又は所得税等の確定申告に際し、事業所得の「事業収入」欄に1,000万円以下の金額を記載した本件各収支内訳書を提出し、さらに、納税義務者でなくなった旨の届出書を原処分庁に提出した。
     これらの行為は、本件各課税期間において課税事業者であるという事実の隠ぺい又は仮装に当たる。
  • イ 本件各年次集計表は、決算時のメモであり、これに基づいた確定申告書は提出していないことから、本件各年次集計表の作成は、課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実についての隠ぺい又は仮装に当たらない。
     請求人は、正確な所得金額の計算方法についての知識も乏しく、また、本件実地調査に協力していたものであるから、上記事実について隠ぺい又は仮装をすることはない。
  • ロ 平成20年分年次集計表、平成21年分年次集計表及び平成26年分年次集計表は、本件実地調査において確認されておらず、審査請求においても証拠として提出されていない。
     したがって、平成20年分、平成21年分及び平成26年分の所得税又は所得税等並びに平成20年課税期間、平成21年課税期間及び平成26年課税期間の消費税等については、請求人が内容虚偽の売上金額等を記載した年次集計表を作成したことの証拠がなく、隠ぺい又は仮装の事実を認めることはできない。

(3) 争点3(偽りその他不正の行為による税額の免脱の有無)について

原処分庁 請求人
  通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」には、同法第68条第1項に規定する「隠ぺい又は仮装」が包摂される。そして、争点(2)の原処分庁の主張のとおり、請求人は、課税標準等又は税額の計算の基礎となる事実を隠ぺい又は仮装したのであるから、請求人は、偽りその他不正の行為により本件各年分の所得税又は所得税等及び本件各課税期間の消費税等の税額を免れたものと認められる。   請求人は、上記(2)の請求人の主張のとおり、本件各年分の所得税又は所得税等及び本件各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実について、隠ぺい又は仮装をしていないから、偽りその他不正の行為により本件各年分の所得税又は所得税等及び本件各課税期間の消費税等の税額を免れていない。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1(平成23年分諸税修正申告書等の提出により納付すべき税額が過大であるか。)について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 請求人は、売上金の入金口座として請求人名義のT銀行○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「本件預金口座」という。)を利用していたところ、本件預金口座には、平成23年10月3日に275,000円が入金され、当該入金に係る取引明細表の摘要欄には、「Q社」と記載されている。
    • (ロ) 請求人は、平成23年11月30日付のS社宛の請求書(以下「11月分S社請求書」という。)を発行している。当該請求書には、「U市 分電盤取替工事」の33,000円とその消費税額の合計34,650円を請求する旨記載されている。
    • (ハ) 請求人は、本件車両以外に車両を保有していない。
  • ロ 検討
    • (イ) 総収入金額の加算漏れについて
       原処分庁は、平成23年分所得税修正申告書における総収入金額には、平成23年10月3日のQ社からの入金額275,000円及び11月分S社請求書の請求額34,650円の合計309,650円の加算漏れが認められる旨主張するところ、原処分関係資料によれば、上記総収入金額には、上記入金額及び請求額の合計309,650円が算入されていないことが認められる。
       そして、上記入金額をみると、売上金の入金口座である本件預金口座への入金であり、本件全証拠を検討しても、これが売上金ではないことをうかがわせる事情はないから、売上金であることが推認される。これに対し、請求人は、Q社とは取引をした記憶がない一方、同社との間で金銭消費貸借契約を締結したこともないと弁解しているが(当審判所の調査の結果)、自己の売上金の入金口座への入金について、上記のとおり非常に曖昧な弁解しかできないというのは不合理であるから、請求人の当該弁解は採用することができない。以上によれば、Q社からの275,000円の入金は、請求人の売上金の入金であり、平成23年分の総収入金額に算入すべきであると認められる。
       また、上記請求額34,650円をみると、11月分S社請求書の記載によれば、当該請求額は、平成23年中に確定したS社に対する売上金と認められるから、平成23年分の総収入金額に算入すべきである。これに対し、請求人は、上記請求額について、平成24年1月分のS社に対する請求分に含めて請求している可能性が高い旨弁解するが(当審判所の調査の結果)、そもそも当該弁解は、上記請求額34,650円が平成23年中に確定した売上金であり、平成23年分の総収入金額に算入すべきという認定を左右するものではないし、また、平成24年1月31日付のS社宛の請求書には、11月分S社請求書に記載された「U市 分電盤取替工事」の記載がなく(上記イの(ロ)、原処分関係資料)、請求人の弁解する上記可能性を認めることもできないから、請求人の弁解は採用することができない。
       以上のとおり、平成23年分所得税修正申告書における総収入金額に算入されていない上記入金額275,000円及び上記請求額34,650円は、いずれも平成23年分の総収入金額に算入すべきである。また、上記入金額及び上記請求額は、いずれも平成23年課税期間消費税等期限後申告書における課税標準額に算入されていないが(原処分関係資料)、上記で説示したところによれば、いずれもその税抜金額を平成23年課税期間の消費税の課税標準額に算入すべきである。
    • (ロ) 必要経費について
      • A 減価償却費等について
         請求人は、業務のために使用する本件車両の減価償却費(別表3の「審査請求」欄の2)を必要経費に算入すべきである旨主張する。
         しかしながら、請求人が本件車両以外に車両を保有していなかったこと(上記イの(ハ))からすると、本件車両は、家事用にも使用されていた可能性が高く、専ら事業の用に供していたとは容易には認められないから、その減価償却費は家事関連費に当たるというべきである。そして、家事関連費について事業所得の金額の計算上必要経費に算入することが認められるためには、当該費用が業務と何らかの関連があるというだけでは足りず、その主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかでなければならないところ(所得税法第45条第1項第1号、所得税法施行令第96条第1号)、本件全証拠を検討しても、本件車両の具体的な使用の方法や頻度等は明らかではなく、請求人の業務の遂行上必要である部分を明らかに区分することはできない。
         したがって、本件車両の減価償却費は、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるとは認められない。また、請求人は、本件車両の自動車税(別表3の「審査請求」欄の4のうち○○○○円)、自動車保険料(同欄の8)及び車検費用(同欄の9)についても必要経費に算入すべきである旨主張するが、これらの経費は、本件車両の減価償却費と同様の理由により必要経費に算入することができない家事関連費に当たるから、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるとは認められない。
      • B 上記A以外の経費について
         請求人は、上記A以外の経費について、請求人が推計した金額を必要経費に算入すべきである旨主張する。
         しかしながら、上記A以外の経費は、1カードローンに係る利子割引料(別表3の「審査請求」欄の3のうち684,490円)、自宅の固定資産税(同欄の4のうち○○○○円)、水道光熱費(同欄の5)、通信費(同欄の6)、接待交際費(同欄の7)、消耗品費(同欄の10)、福利厚生費(同欄の11)、ガソリン・高速代(同欄の12)及び外注費・材料費(同欄の14)については、その支払額の全部又は一部を裏付ける客観的な証拠がなく(当審判所の調査の結果)、請求人の主張する金額を実際に支払ったとは認められないことから、2リース料(同欄の13)については、請求人の主張する金額を裏付ける客観的な証拠があったとしても、その使途を明らかにする客観的な証拠がなく(当審判所の調査の結果)、業務の遂行上必要な経費であるとは認められないことから、3自宅の住宅ローンに係る利子割引料(同欄の3のうち114,170円)については、当該自宅の使用状況に係る客観的な証拠がないので(当審判所の調査の結果)、請求人の業務の遂行上必要である部分を明らかに区分することはできず、必要経費に算入可能な家事関連費であるとは認められないことから、いずれも請求人の主張する金額を必要経費に算入することができるとは認められない。
         なお、更正の請求においては、納税者が、真実の必要経費の額が申告した必要経費の金額を上回ることについて立証責任を負うものと解されるところ、必要経費の実額を認めるに足りる証拠を提出せずにこれを推計して更正の請求をするというのでは、上記の立証責任を尽くしているとはいい難い。このことからしても、請求人の主張する金額を必要経費に算入することができるとは認められない。
    • (ハ) 小括
       上記(イ)のとおり、Q社からの入金額275,000円及び11月分S社請求書の請求額34,650円は、いずれも平成23年分の総収入金額に算入すべきであり、それらの税抜金額を平成23年課税期間の消費税の課税標準額に算入すべきである。また、上記(ロ)のとおり、請求人が主張する必要経費の額は、いずれも平成23年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されない。
       以上によれば、仮に本件請求書に係る売上金額が請求人の主張する441,000円であった(すなわち、平成23年分諸税修正申告書等における当該売上金額の算入額が68,250円(当該算入額509,250円−請求人主張額441,000円)又は65,000円(上記のとおり計算された68,250円の税抜金額)過大であった)としても、平成23年分の所得金額は、平成23年分所得税修正申告書におけるその金額を241,400円(Q社からの入金額275,000円+11月分S社請求書の請求額34,650円−本件請求書に係る売上金額の過大額68,250円)上回るものであり、平成23年課税期間の消費税の課税標準額は、平成23年課税期間消費税等期限後申告書におけるその金額を229,904円(上記入金額の税抜金額261,904円+上記請求額の税抜金額33,000円−上記過大額の税抜金額65,000円)上回るから、本件請求書に係る売上金額がいくらであるかについて判断するまでもなく、平成23年分諸税修正申告書等の提出により納付すべき税額が過大であるとは認められない。

(2) 争点2(課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装の有無)について

  • イ 法令解釈
     通則法第68条第1項及び第2項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をすること又は申告をしないことについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税又は無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
     したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為又は無申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為又は無申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告行為又は無申告行為がされたことを要するものである(最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁参照)。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件各年次集計表及び本件各収支内訳書の記載内容について
      • A 平成19年分
         平成19年分年次集計表には、取引先ごとの月別の売上金額が記載されており、それらの合計額は、○○○○円である。なお、当該集計表には、特定の取引先の売上金額に○印や下線が付されていない。
         他方、平成19年分の所得税の確定申告書における事業所得の収入金額は、○○○○円である。
      • B 平成20年分
         平成20年分年次集計表は、本件実地調査及び当審判所の調査において、その存在が確認されていない。
      • C 平成21年分
         平成21年分年次集計表は、本件実地調査及び当審判所の調査において、その存在が確認されていない。
         他方、平成21年分収支内訳書の「売上(収入)金額」の欄には、○○○○円と記載されている。
      • D 平成22年分
         平成22年分年次集計表には、取引先ごとの月別及び年間の売上金額が記載されるとともに、それらの合計額が○○○○円であると記載されている。また、当該集計表には、特定の取引先の年間の売上金額に○印が付され、それらの下に「○○○○」との記載があるところ、○印が付された金額の合計額も○○○○円である。
         他方、平成22年分収支内訳書の「売上(収入)金額」欄には、○○○○円と記載されている。
      • E 平成23年分
         平成23年分年次集計表には、取引先ごとの月別及び年間の売上金額が記載されるとともに、それらの合計額が○○○○円であると記載されている。また、当該集計表には、上記各記載以外に、10万台から約1,500万までの数字を中心に様々な数字が記載されている。なお、当該集計表には、特定の取引先の売上金額に○印や下線が付されていない。
         他方、平成23年分収支内訳書の「売上(収入)金額」欄には、○○○○円と記載されている。
      • F 平成24年分
         平成24年分年次集計表には、取引先ごとの月別及び年間の売上金額が記載されるとともに、それらの合計額が○○○○円であると記載されている。また、当該集計表には、特定の取引先の年間の売上金額に○印又は下線が付され、○印が付された金額の合計が○○○○円、下線が付された金額の合計が7,795,425円であり、それらの合計が○○○○円であると記載されている。
         他方、平成24年分収支内訳書の「売上(収入)金額」欄には、○○○○円と記載されている。
      • G 平成25年分
         平成25年分年次集計表には、取引先ごとの月別及び年間の売上金額が記載されており、特定の取引先の年間の売上金額には○印が付されている。当該集計表に記載された取引先の年間の売上金額のうち、V社に対する年間の売上金額は16,355,300円であるところ、その下方に「4675841」と記載され、さらに「4675841 V社」とか「○○○○」との記載もある。なお、V社に対する年間の売上金額を4,675,841円とした上で、当該集計表に記載された他の取引先の年間の売上金額を加算(ただし、X社に対する年間の売上金額257,485円については二重に加算)すると、○○○○円となる。
         他方、平成25年分収支内訳書の「売上(収入)金額」欄には、○○○○円と記載されている。
      • H 平成26年分
         平成26年分年次集計表は、本件実地調査及び当審判所の調査において、その存在が確認されていない。
         他方、平成26年分収支内訳書の「売上(収入)金額」欄には、○○○○円と記載されている。
      • I 平成27年分
         平成27年分年次集計表には、取引先ごとの月別及び年間の売上金額が記載されるとともに、それらの合計額が○○○○円であると記載されている。また、当該集計表には、特定の取引先に対する年間の売上金額に○印が付されており、○印が付された売上金額の合計額は○○○○円である。
         他方、平成27年分収支内訳書の「売上(収入)金額」欄には○○○○円と、「売上(収入)金額の明細」欄にはV社に対する売上金額が5,320,695円、L社に対する売上金額が2,000,608円、Y社に対する売上金額が691,300円、Z社に対する売上金額が482,564円とそれぞれ記載されている。
         なお、平成27年分年次集計表に○印が付された売上金額の合計額○○○○円と、平成27年分収支内訳書の「売上(収入)金額の明細」欄に記載された個別の取引先に対する売上金額の合計額8,495,167円を合計すると、当該収支内訳書の「売上(収入)金額」欄に記載された○○○○円と一致する。
    • (ロ) 消費税課税事業者届出書の提出等について
      • A 請求人は、原処分庁に対し、平成19年6月25日、平成20年課税期間を適用開始課税期間とする消費税課税事業者届出書を提出した。当該届出書には、上記課税期間の基準期間が平成18年課税期間であり、その総売上高が○○○○円であると記載されている。
      • B 請求人は、原処分庁に対し、平成21年9月30日、平成21年課税期間を適用開始課税期間とする消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書を提出した。当該届出書には、上記課税期間の基準期間が平成19年課税期間であり、その課税売上高が○○○○円である旨記載されている。
  • ハ 検討
    • (イ) 請求人は、本件実地調査において、平成18年分の売上金額が1,000万円を超えて平成20年課税期間の消費税等について課税事業者となったことから、平成21年課税期間以降に消費税等の課税事業者にならないようにする目的で、平成19年分以降、売上金額を1,000万円以下の金額に減額して所得税又は所得税等の申告をすることとし、一旦売上げを集計して本件各年次集計表を作成した後、当該集計表に記載された売上げのうち申告するものに○印や下線を付すなどして売上金額の合計が1,000万円以下になるように調整し、本件各収支内訳書に転記して所得税又は所得税等の申告をしたり、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であり課税事業者ではないとして本件各課税期間の消費税等の申告をしなかったりした旨申述している(原処分関係資料。以下、当該申述を「請求人申述」という。)。請求人申述の上記申述内容は、以下のとおり、客観的な証拠や客観的な事実経過とも符合し、その信用性は高いものということができる。
      • A 請求人申述の本件各年次集計表及び本件各収支内訳書との整合性について
         平成22年分年次集計表及び平成24年分年次集計表には、上記ロの(イ)のD及びFのとおり、特定の取引先の年間の売上金額に○印又は下線が付され、それらの売上金額の合計金額が記載されており、当該合計金額は、1,000万円以下であり、かつ、平成22年分収支内訳書及び平成24年分収支内訳書の「売上(収入)金額」欄の金額と一致(平成22年分について)ないしほぼ一致(平成24年分について)している。また、平成27年分年次集計表にも、同Iのとおり、特定の取引先の年間の売上金額に○印が付されており、それらの金額と、同年分の本件各収支内訳書の「売上(収入)金額の明細」欄に記載された個別の取引先の売上金額を合計すると、当該収支内訳書の「売上(収入)金額」欄の金額と一致する。このように、本件各年次集計表及び本件各収支内訳書のうち上記各年分に係るものの記載内容は、本件各年次集計表に記載された売上げのうち申告するものに○印や下線を付すなどして売上金額の合計が1,000万円以下になるように調整し、本件各収支内訳書に転記して申告した旨の請求人申述とよく整合するものである。
         平成25年分年次集計表についても、上記ロの(イ)のGのとおり、特定の取引先の年間の売上金額に○印が付されている。また、当該集計表には、同Gのとおり、V社に対する年間の売上金額16,355,300円の下に「4675841」と記載され、「4675841 V社」とも記載されているほか、V社に対する年間の売上金額を4,675,841円とした上で他の売上金額を合計(ただし、一部の売上金額については二重に加算)した金額と一致する○○○○円の記載もあり、当該合計金額は、平成25年分収支内訳書の「売上(収入)金額」欄の金額と一致していることからすると、当該集計表には、V社に対する年間の売上金額を16,355,300円から4,675,841円に減額し、申告する売上金額を1,000万円以下に調整した過程が記載されているものということができる。以上からすると、本件各年次集計表及び本件各収支内訳書のうち同年分に係るものの記載内容は、上記内容の請求人申述とよく整合するものである。
         他方、平成23年分年次集計表には、上記ロの(イ)のEのとおり、特定の取引先の売上金額に○印や下線が付されていない。しかし、当該集計表に記載された年間の売上金額の合計が平成23年分収支内訳書の「売上(収入)金額」欄の金額と一致していないこと(同E)や、平成23年分年次集計表には、取引先ごとの月別及び年間の売上金額並びにそれらの合計金額のほかにも様々な数字が記載されていること(同E)からすると、請求人は、平成23年分年次集計表を作成して年間の売上金額の合計を把握した上で、当該集計表上で様々な計算をして売上金額が1,000万円以下になるように調整をし、平成23年分収支内訳書に転記したことがうかがわれる。以上からすると、本件各年次集計表及び本件各収支内訳書のうち同年分に係るものの記載内容は、上記内容の請求人申述とおおむね整合するものである。
         また、平成19年分年次集計表にも、上記ロの(イ)のAのとおり、特定の取引先の売上金額に○印や下線が付されていない。しかし、当該集計表に記載された各月の売上金額の合計が同年分の所得税の確定申告書における事業所得の収入金額と一致しないこと(同A)からすると、請求人は、平成19年分年次集計表を作成して年間の売上金額の合計を把握した上で、当該集計表を用いて何らかの方法により売上金額が1,000万円以下になるように調整をし、同年分の確定申告書に転記した可能性が否定できない。以上からすると、本件各年次集計表のうち同年分に係るもの及び同年分の所得税の確定申告書の記載内容は、上記内容の請求人申述と整合しないものではない。
         また、平成20年分年次集計表、平成21年分年次集計表及び平成26年分年次集計表については、上記ロの(イ)のB、C及びHのとおり、本件実地調査及び当審判所の調査において、その存在が確認されていない。しかし、請求人は、請求人申述において、当該各年次集計表について、申告書の作成後にはあまり重要な書類であるとは考えていなかったので、捨ててしまったかもしれない旨申述していることからすると、当該各年次集計表が確認できないことは、不合理なものではなく、請求人申述の信用性を減殺する事情にはならないというべきである。
      • B 請求人申述の売上金額等の申告経緯との整合性について
         上記ロの(イ)のA及び(ロ)のとおり、請求人は、平成18年課税期間の総売上高が1,000万円を超えたとして平成20年課税期間を適用開始課税期間とする消費税課税事業者届出書を提出した後、平成19年課税期間の課税売上高が1,000万円以下になったとして平成21年課税期間を適用開始課税期間とする消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書を提出しているが、平成19年分年次集計表に記載された各月の売上金額の合計は、1,000万円を超えていた。また、同(イ)のA及びCないしIのとおり、平成19年分及び本件各年分の所得税又は所得税等の申告における売上金額は、いずれも900万円台であり、1,000万円以下である。これらの事情は、平成18年分の売上金額が1,000万円を超えて平成20年課税期間の消費税等について課税事業者となったことから、平成21年課税期間以降に消費税等の課税事業者にならないようにする目的で、平成19年分以降、売上金額を1,000万円以下に減額して所得税又は所得税等の申告をしたり、消費税等の申告をしなかったりしたという請求人申述とよく整合するものである。
      • C 小括
        以上のとおり、請求人申述の申述内容は、客観的な証拠や客観的な事実経過とよく符合する点が多く、その信用性を減殺すべき事情も認められないことから、信用できるものと認められる。
    • (ロ) 上記(イ)のCのとおり信用できる請求人申述によれば、請求人は、平成21年課税期間以降に消費税等の課税事業者にならないようにする目的で、平成19年分以降、売上金額を1,000万円以下に減額して所得税又は所得税等を申告することとし、本件各年次集計表において、申告する売上金額に○印や下線を付すなどして売上金額の合計が1,000万円以下になるように調整したものと認められる。このような本件各年次集計表における調整は、調整後の金額のみ申告すれば足りるかのように装うものであるとともに、消費税等の納税義務がないかのように装うものであり、過少申告行為又は無申告行為そのものとは別の隠ぺい又は仮装と評価すべき行為であると認められる。
       したがって、請求人は、本件各年分の所得税又は所得税等及び本件各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実について、隠ぺい又は仮装をしたものと認められる。
  • ニ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、本件各年次集計表は決算時のメモでありこれに基づく申告等を行っていないのであるから、本件各年次集計表の作成は税額計算の基礎となる事実についての隠ぺい又は仮装に当たらない旨主張する。
       しかしながら、上記ハの(ロ)のとおり、請求人は、本件各年次集計表において売上金額の合計が1,000万円以下になるように調整し、本件各収支内訳書に転記して所得税又は所得税等の申告をしたものと認められるから、本件各年次集計表に基づく申告等を行っていないことを前提とする請求人の主張は、その前提を欠くものであり、採用することができない。
    • (ロ) 請求人は、正確な所得金額の計算方法についての知識が乏しく、また、本件実地調査に協力していたから、課税標準等又は税額計算の基礎となる事実について隠ぺい又は仮装をすることはない旨主張する。
       しかしながら、上記ハの(ロ)のとおり、請求人は、消費税等の課税事業者にならないようにする目的で、本件各年次集計表において売上金額の合計が1,000万円以下になるように調整し、課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実について隠ぺい又は仮装をしたものと認められ、当該認定は、請求人の主張する事情により左右されるものとはいえないから、請求人の主張は採用することができない。
    • (ハ) 請求人は、平成20年分年次集計表、平成21年分年次集計表及び平成26年分年次集計表の存在が確認されていないことから、上記各年分の所得税又は所得税等及びこれに対応する課税期間の消費税等の課税標準等又は税額の計算の基礎となる事実についての隠ぺい又は仮装を認めることができない旨主張する。
       しかしながら、上記ハの(イ)のA及びCのとおり、平成20年分年次集計表、平成21年分年次集計表及び平成26年分年次集計表の存在が確認されていないことを考慮しても、請求人申述は信用でき、上記各年分を含む平成19年分以降、本件各年次集計表において売上金額の合計が1,000万円以下になるように調整して申告したものと認められるから、請求人の主張は採用することができない。
    • (二) 上記(イ)ないし(ハ)の主張のほか、請求人は、本件各修正申告書等が、請求人の無知を奇貨としたずさんな実地調査担当職員の本件実地調査による勧奨を基に提出されたことから、課税標準等又は税額計算の基礎となる事実についての隠ぺい又は仮装が認められない旨主張する。
       しかしながら、実地調査担当職員による本件実地調査の状況は、請求人が隠ぺい又は仮装を行ったか否かとは何らの関係もないことが明らかであるから、請求人の主張は採用することができない。なお、請求人の主張が、本件各修正申告書等に基づき納付すべき税額が過大であることを理由に本件各賦課決定処分の取消しを求めるものであったとしても、本件各修正申告書等に基づき納付すべき税額の誤りは、更正の請求に基づく更正処分により是正されるべきものであるところ、平成23年分の所得税及び平成23年課税期間の消費税等については、更正の請求がされているものの、税額が過大であるとは認められず(上記(1)のロの(ハ))、更正処分をすべきとは認められないこと、それ以外の所得税、所得税等及び消費税等については、そもそも更正の請求がされていないこと(原処分関係資料)から、やはり請求人の主張は採用することができない。

(3) 争点3(偽りその他不正の行為による税額の免脱の有無)について

  • イ 上記(2)のハの(ロ)のとおり、請求人は、本件各年次集計表において、申告する売上金額に○印や下線を付すなどして売上金額の合計が1,000万円以下になるように調整し、本件各年分の所得税又は所得税等及び本件各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装したところ、このような隠ぺい又は仮装は、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為に該当するものであり、偽りその他不正の行為に該当するものと認められる。そして、同(イ)のCのとおり信用できる請求人申述によれば、請求人は、当該偽りその他不正の行為に基づき、本件各年分の所得税又は所得税等の申告をしたり、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であり課税事業者ではないとして本件各課税期間の消費税等の申告をしなかったりしたものと認められる。
     したがって、請求人は、偽りその他不正の行為により本件各年分の所得税又は所得税等(ただし、下記ロで述べるとおり、平成21年分の所得税を除く。)及び本件各課税期間の消費税等を免れたものと認められる。
  • ロ もっとも、当審判所の調査の結果によれば、平成21年分の所得税については、1上記イの偽りその他不正の行為により売上げに加算されなかった金額が2,851,130円である一方、当該売上げに係る必要経費3,826,991円も加算されておらず、当該偽りその他不正の行為に係る所得金額は零円となること、2当該偽りその他不正の行為によらない売上げの計上漏れもあったことが認められ、以上によれば、本件各修正申告書等のうち平成21年分の所得税の修正申告書の提出により納付すべき税額は、上記2に起因して生じたものであるとみることができ、請求人が偽りその他不正の行為により免れた税額であるとはいえない。
     したがって、請求人は、偽りその他不正の行為により平成21年分の所得税を免れたものとは認められない。

(4) 原処分の適法性について

  • イ 本件各通知処分について
     上記(1)のロの(ハ)のとおり、請求人の平成23年分諸税修正申告書等の提出により納付すべき税額が過大であるとは認められない。そして、本件各通知処分のその他の部分について請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件各通知処分は適法である。
  • ロ 本件各賦課決定処分について
    • (イ) 平成21年分の所得税に係るものについて
       上記(3)のロのとおり、請求人は、偽りその他不正の行為により平成21年分の所得税を免れたものとは認められない。そのため、平成21年分の所得税に係る加算税の賦課決定処分における期間制限については、通則法第70条第1項第3号により、その納税義務の成立の日(すなわち、平成21年分の所得税の法定申告期限である平成22年3月15日)から5年となるところ、本件各賦課決定処分のうち平成21年分の所得税に係るもののあった平成29年2月14日時点では、上記納税義務の成立の日から5年を経過しているため、平成21年分の所得税に係る加算税の賦課決定処分は、これをすることができない。
       したがって、本件各賦課決定処分のうち平成21年分の所得税に係るもの(本件再調査決定により過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)は、その全部の取消しを免れない。
    • (ロ) 平成21年分の所得税に係るもの以外について
       上記(3)のイのとおり、請求人は、偽りその他不正の行為により本件各年分の所得税又は所得税等(ただし、平成21年分の所得税を除く。)及び本件各課税期間の消費税等を免れたから、通則法第70条第4項第1号の規定により、当該各税に係る重加算税の賦課決定処分は、その納税義務の成立の日(すなわち、当該各税の法定申告期限)から7年を経過する日まですることができるところ、本件各賦課決定処分(ただし、平成21年分の所得税に係るものを除く。)は、いずれも当該各税の法定申告期限から7年を経過する日までにされたものである。
       そして、本件各修正申告書等のうち所得税又は所得税等に係る修正申告書(ただし、平成21年分の所得税に係るものを除く。)の提出により納付すべき税額が当該各修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められず、本件各課税期間の消費税等の期限内申告書の提出がなかったことについて、同法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとも認められない。
       また、上記(2)のハの(ロ)及び(3)のイによれば、請求人は、本件各年分の所得税又は所得税等及び本件各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実について、隠ぺい又は仮装をし、これに基づき本件各年分の所得税又は所得税等(ただし、平成21年分の所得税を除く。)の納税申告書を提出し、本件各課税期間の消費税等の納税申告書を提出しなかったものと認められるから、当該各税について、重加算税の賦課要件が満たされる。以上に基づき算出した請求人の当該各税に係る過少申告加算税及び重加算税の額は、本件各賦課決定処分(平成21年分の所得税に係るものを除く。また、平成22年分及び平成24年分の所得税並びに平成25年分ないし平成27年分の所得税等については、本件再調査決定により一部につき過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)と同額となる。
       したがって、本件各賦課決定処分(平成21年分の所得税に係るものを除く。また、平成22年分及び平成24年分の所得税並びに平成25年分ないし平成27年分の所得税等については、本件再調査決定により一部につき過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)は、いずれも適法である。

(5) 結論

よって、平成21年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分(本件再調査決定により過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)に対する審査請求は理由があるから、その全部を取り消し、その他の審査請求はいずれも理由がないことから、これらを棄却することとする。

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