(平成31年3月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、生コン製造販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の法人税等について、原処分庁が、実際の取引がないにもかかわらず恣意的な金額を各事業年度の材料仕入れとしたことは、隠ぺい又は仮装の行為に該当するなどとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該会計処理は、過去の事業年度における仮装経理に基づく過大申告を是正する目的で行った修正の経理であり、隠ぺい又は仮装に該当する事実はないなどとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等は別紙1のとおりである。
 なお、別紙1で定義した略語については、以下、本文、別表及び別紙2においても使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人の概要等
    • (イ) 請求人は、昭和53年12月○日に設立された生コン製造販売業を営む青色申告の承認を受けている法人であり、平成29年6月9日付でE社からR社へ商号を変更した。
    • (ロ) 請求人の代表取締役は、F(以下「本件代表者」という。)及び本件代表者の子であるSの2名であり、本件代表者は請求人の設立時に、Sは平成28年8月1日付で、請求人の代表取締役にそれぞれ就任した。
    • (ハ) 請求人の経理担当者であったG(以下「前経理担当者」という。)は、遅くとも平成17年9月までに請求人の経理担当者となり、平成26年5月に請求人を退職するまで、請求人の経理事務を担当していた。
    • (二) 請求人の現在の経理担当者であるH(以下「現経理担当者」という。)は、前経理担当者の退職に伴い請求人の経理事務を引き継ぎ、平成26年5月以降請求人の経理事務を担当している。
    • (ホ) J社は、昭和54年6月○日に設立された法人で、生コンクリート材料についての請求人の仕入先であり、遅くとも平成17年8月以降の代表取締役は本件代表者である。
    • (へ) K社は、昭和53年4月○日に設立された請求人が発行済株式の33.3%を保有する請求人の関連会社であり、遅くとも平成17年9月以降の代表取締役は本件代表者である。
  • ロ 請求人の通常の材料仕入れ及び材料仕入れに係る会計処理の主な手順
    • (イ) L社をはじめとする材料納入元である業者(以下、材料納入元である業者を「L社等」という。)は、請求人の生コンクリート製造工場に、バラセメント、砕石及び砕砂等の生コンクリート材料(以下「バラセメント等」という。)を直接納品するとともに、請求人に納品伝票を交付する。
    • (ロ) 請求人は、L社等から交付された納品伝票と納品されたバラセメント等の数量の照合を行い、その照合結果をJ社に報告する。
    • (ハ) J社は、上記(ロ)の報告に基づいて、L社等へバラセメント等の代金を支払う。
    • (二) J社は、L社等に支払ったバラセメント等の代金と手数料の合計金額を記載した請求書を作成し、請求人に送付する。
    • (ホ) 請求人は、J社から送付された請求書に基づき、借方科目「材料仕入高」、貸方科目「買掛金」の仕訳伝票を起票して当該材料仕入高を材料仕入高勘定に計上する。
  • ハ 請求人が行った会計処理
    • (イ) 請求人は、平成16年8月1日から平成17年7月31日までの事業年度ないし平成18年8月1日から平成19年7月31日までの事業年度において、複数回に渡り、J社からの材料仕入高を実際よりも過少に計上する会計処理を行っていた。
    • (ロ) 請求人が、平成21年8月1日から平成22年7月31日までの事業年度(以下「平成22年7月期」といい、他の事業年度についても同様に表記する。)、平成23年7月期、平成24年7月期、平成25年7月期、平成26年7月期、平成27年7月期及び平成28年7月期(以下、これらを併せて「本件各事業年度」という。)において行った会計処理には別表1の処理が含まれており、請求人はこれらの各材料仕入高(別表1の「平成22年7月期」の1及び2の処理については「取引金額」欄の本書きの金額)を本件各事業年度の損金の額に算入していた。
    • (ハ) 請求人が平成21年8月1日から平成22年7月31日までの課税期間(以下「平成22年7月課税期間」という。)において行った会計処理には別表1の「平成22年7月課税期間」の1及び2の処理が含まれており、請求人はこれらの処理に係る別表1の「取引金額」欄の括弧書きの金額を消費税の課税仕入れに係る支払対価の額に算入していた。
  • ニ K社への融資
    • (イ) 請求人は、K社から求められた都度K社に融資し、融資した額を短期貸付金勘定又は仮払金勘定に計上していた(以下、K社に対するこれらの融資を「本件融資」という。)。
    • (ロ) 請求人は、本件融資のうち、平成25年12月9日に年利率○%で74,163,000円を融資したものを除き、K社から利息を徴していなかった(以下、利息を徴していなかった本件融資を「本件無利息融資」という。)。
  • ホ 税務調査
    • (イ) 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成29年1月13日、請求人の税務代理人に対し、請求人に対する実地の調査において質問検査等を行う旨及び調査の対象となる税目を法人税及び地方法人税並びに消費税及び地方消費税(以下、消費税と地方消費税を併せて「消費税等」という。)とし、調査の対象となる期間を法人税及び消費税等については、平成25年8月1日から平成28年7月31日まで、地方法人税については、平成27年8月1日から平成28年7月31日までとすることを電話により通知した。
    • (ロ) 本件調査担当職員は、平成29年1月19日の請求人に対する実地の調査において、上記(イ)で通知した対象税目及び対象期間について質問検査等を行った。
    • (ハ) 本件調査担当職員は、平成29年1月20日の請求人に対する実地の調査において、平成22年7月期、平成23年7月期、平成24年7月期及び平成25年7月期の法人税並びに平成22年7月課税期間の消費税等に係る質問検査等を行った(以下、平成22年7月期及び平成23年7月期を併せて「本件遡及事業年度」といい、本件遡及事業年度及び平成22年7月課税期間を併せて「本件遡及事業年度等」という。)。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人の確定申告
    • (イ) 請求人は、本件各事業年度の法人税について、青色の確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
    • (ロ) 請求人は、平成27年8月1日から平成28年7月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の地方法人税について、青色の確定申告書に別表3の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
    • (ハ) 請求人は、平成22年7月課税期間の消費税等について、別表4の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
  • ロ 原処分等
    • (イ) 原処分庁は、本件調査担当職員の調査に基づき、平成29年8月15日付で、別表2ないし別表4の「更正処分等」欄のとおり1法人税の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分並びに2地方法人税及び消費税等の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分をした。
       なお、本件遡及事業年度の法人税の重加算税の各賦課決定処分並びに平成24年7月期、平成27年7月期及び平成28年7月期の法人税の過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分を併せて「本件法人税各賦課決定処分」といい、本件課税事業年度の地方法人税の重加算税賦課決定処分を「本件地方法人税賦課決定処分」といい、平成22年7月課税期間の消費税等の更正処分を「本件消費税等更正処分」といい、平成22年7月課税期間の消費税等の重加算税の賦課決定処分を「本件消費税等賦課決定処分」といい、本件消費税等更正処分と本件消費税等賦課決定処分を併せて「本件消費税等更正処分等」という。
    • (ロ) 上記(イ)の各処分の通知書のうち、本件遡及事業年度等に係る処分の通知書(以下「本件各通知書」という。)に記載された更正の理由及び処分の理由は、要旨、別紙2のとおりである。
    • (ハ) 請求人は、上記(イ)の各処分を不服として、平成29年11月13日に、別表2ないし別表4の「再調査の請求」欄のとおり再調査の請求をした。
    • (二) 再調査審理庁は、平成30年2月9日付で、別表2ないし別表4の「再調査決定」欄のとおり、平成24年7月期、平成25年7月期、平成26年7月期及び平成28年7月期の法人税の各更正処分並びに本件課税事業年度の地方法人税の更正処分の一部を取り消すとともに、本件遡及事業年度の法人税の各更正処分、平成27年7月期の法人税の更正処分、本件法人税各賦課決定処分、本件地方法人税賦課決定処分及び本件消費税等更正処分等に対する再調査の請求を棄却する旨の再調査決定をした(以下、本件各事業年度の法人税の各更正処分(平成24年7月期、平成25年7月期、平成26年7月期及び平成28年7月期の法人税の各更正処分については、平成30年2月9日付でされた再調査決定によりいずれもその一部が取り消された後のもの)を「本件法人税各更正処分」といい、本件課税事業年度の地方法人税の更正処分(平成30年2月9日付でされた再調査決定によりその一部が取り消された後のもの)を「本件地方法人税更正処分」という。)。
    • (ホ) 請求人は、平成30年2月13日、上記(二)の再調査決定に係る再調査決定書謄本の送達を受けた。
    • (へ) 請求人は、再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成30年3月9日に審査請求をした。

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2 争点

(1) 本件調査担当職員が、本件遡及事業年度等に係る質問検査等を行ったことに、平成30年改正前通則法第74条の9第4項の規定に反する違法があるか否か(争点1)

(2) 本件各通知書記載の理由に、法人税法第130条第2項又は行政手続法第14条第1項本文の規定に反する不備があるか否か(争点2)。

(3) 本件無利息融資に係る利息相当額は、法人税法第37条第7項に規定する寄附金の額に該当するか否か。また、原処分庁がした利息相当額の算定は、違法か否か(争点3)。

(4) 請求人に、平成28年改正前通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実があったか否か(争点4)。

(5) 請求人に、本件遡及事業年度等の法人税及び消費税等について通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か(争点5)。

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3 争点についての主張

(1) 争点1(本件調査担当職員が、本件遡及事業年度等に係る質問検査等を行ったことに、平成30年改正前通則法第74条の9第4項の規定に反する違法があるか否か。)について

原処分庁 請求人
  以下のことから違法はない。   以下のことから違法がある。
  • イ 本件調査担当職員は、実地の調査の過程において、事前に通知した平成30年改正前通則法第74条の9第1項第3号から第6号までに掲げる事項以外の事項について非違が疑われたため、平成29年1月20日に請求人に対して調査対象期間を本件各事業年度の7期及び平成22年7月課税期間とすることを説明(通知)し、同条第4項に基づき、本件遡及事業年度等に係る質問検査等を行っている。
  • ロ 平成30年改正前通則法第74条の9第4項は、事前に通知した事項以外の事項について非違が疑われることとなった場合には、それらの事項について、質問検査等を行うことができる旨を規定しているのであり、この疑われる非違が、調査の過程で把握された非違と同じでなければならないと限定していない。
     また、同項は、疑われる非違の内容、すなわち、質問検査等を行う理由について調査官から説明することを求めているものでもない。
  • イ 請求人が原処分庁から事前に通知を受けた調査対象期間は平成26年7月期ないし平成28年7月期だけであった。
     納税義務者に対する実地の調査において、事前に通知した事項以外の事項について非違が疑われた場合には、納税義務者に対し追加で調査対象期間等を説明し理解と協力を得た上で、調査対象に追加する事項についての質問検査等を行うこととされているが、請求人は説明を受けていない。
     国税庁ホームページに掲載されている税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)によると、調査の過程でなされた事前に通知した年度より前の年度の帳簿書類の提示の求めは、事前に通知した年度の調査の一環であり、事前に通知した年度よりも前の年度の調査ではないとされているから、原処分庁の平成30年改正前通則法第74条の9第4項の解釈には誤りがある。
  • ロ 実務上、調査対象期間は3期分であるが、調査の過程で把握された非違と同様の誤りが事前に通知した調査対象期間よりも前に発生していることが疑われる場合には、事前に通知した調査対象期間よりも前の期間について調査を行うことができる。
     本件遡及事業年度等についての非違事項は、原処分庁が事前に通知した調査対象期間である平成26年7月期以降の各事業年度の調査の過程で把握された非違事項と同様の誤りではない。
     また、請求人は、本件遡及事業年度等について疑われる非違の内容につき本件調査担当職員から説明を受けていない。

(2) 争点2(本件各通知書記載の理由に、法人税法第130条第2項又は行政手続法第14条第1項本文の規定に反する不備があるか否か。)について

原処分庁 請求人
  以下のことから不備はない。   以下のことから不備がある。
  • イ 東京地方裁判所平成17年12月6日判決(平成16年(行ウ)第155号法人税更正処分等取消請求事件)によれば、理由付記制度の趣旨・目的は、課税庁の恣意の抑制と納税者の不服申立ての便宜の点にあり、予想される論点の逐一について、その理由の詳細を全て記載すべき必要があるものではなく、各処分の対象となった事項及びそれに対して課税庁がどのような法的評価を行ったかが通常理解できる程度に記載されていれば、理由付記制度の趣旨・目的を満たすということができる旨判示している。
  • ロ 原処分庁は、本件各通知書において原処分庁がどのような法的評価を行ったかについて通常理解できる程度に理由を記載しているため、理由付記制度の趣旨・目的を満たしている。
  • イ 原処分庁は、再調査決定の理由中の東京地方裁判所平成17年12月6日判決に関する記述を引用して理由付記の程度が適正だと主張するが、同裁判例は地方裁判所の当該個別事案についての判断にすぎず、本審査請求には妥当しない。
     青色申告法人の帳簿の記載自体を否認して更正する場合における更正通知書に付記すべき理由の程度については、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿書類以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要するとされている(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁参照)。
  • ロ 原処分庁は、本件遡及事業年度の所得の金額に加算した項目につき、材料仕入高の過大計上額や売上原価の過大計上額と記載し、一貫していない。
     また、事実認定が曖昧で、所得の金額に加算した法的根拠も示されておらず、具体的に何を主張しているのか不明であり、当該不備は、再調査決定書の理由付記では治癒されない。
     なお、理由付記の不備の治癒に関し同様の判断がなされている(最高裁昭和47年3月31日第二小法廷判決・民集26巻2号319頁参照)。

(3) 争点3(本件無利息融資に係る利息相当額は、法人税法第37条第7項に規定する寄附金の額に該当するか否か。また、原処分庁がした利息相当額の算定は、違法か否か。)について

原処分庁 請求人
  以下のことから、寄附金の額に該当する。また、原処分庁がした利息相当額の算定に違法はない。   以下のことから、寄附金の額に該当しない。また、仮に寄附金の額に該当するとしても、原処分庁がした利息相当額の算定に違法がある。
  • イ 請求人が本件無利息融資に係る利息を徴しなかったことに相当な理由はなく、また、不定期に融資されていることから、法人税通達9−4−2に定める合理的な再建計画に基づいてなされたものに該当しない。
  • ロ 所得税基本通達(以下「所得税通達」という。)36−49《利息相当額の評価》は、個人の経済的利益を評価する際の定めではあるが、当事者間で通常収受すべき利息相当額を計算するという目的からすれば、特段の事情がない限り、法人の経済的利益の評価に準用するのが相当である。
  • ハ 所得税通達36−49の定めによると、平成24年中及び平成25年中に使用者が役員又は使用人に貸し付けた場合の貸付金の年利率は4.3%であるが、請求人は、平成25年12月9日のK社に対する貸付金の利息を年利率○%で計算しており、当該利率が実勢利率であったと認められたので、本件無利息融資に係る利息相当額を計算するに当たり、当該利率を用いたのである。
     本件無利息融資に係る経済的な利益の供与の時とは、請求人が利息を徴しなかった時であり、すなわち企業会計原則が定める発生主義の原則によれば、平成24年7月期ないし平成28年7月期の終了に伴い請求人が本件無利息融資に係る利息相当額のうちそれぞれの事業年度に割り当てられた金額を収益の額に計上すべき時である。
     そして、本件無利息融資に係る利息相当額の経済的な利益の供与の時における価額は本件無利息融資の各融資の時点で確定された(当事者間で通常収受すべき)利率をもって算定され、平成24年7月期ないし平成28年7月期に割り当てられた各利息相当額となることから、この確定された(当事者間で通常収受すべき)利率として上記で述べた年利率○%を用いて、本件無利息融資の残高に応じて日割りで本件無利息融資の利息相当額を算定した。
  • イ 請求人は、長年にわたって債務超過が続いていたK社を救済するつもりで融資していた。
  • ロ 所得税通達36−49は、使用者が役員又は使用人に金銭を貸し付けた場合に適用するものであって、法人には適用も準用もされない。
  • ハ 原処分庁の利息計算は、経済的な利益の供与の時における実勢利率により行われていないため正しくない。

(4) 争点4(請求人に、平成28年改正前通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
  以下のことから、「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実があった。   以下のことから、「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実はなかった。
  • イ 請求人は、上記1の(3)のハの(イ)及び別表1の37及び9の各欄のとおり、材料仕入れの金額を減額する仮装経理(以下「本件仮装経理」という。)を行い、本件仮装経理の金額は帳簿で管理せず、前経理担当者から現経理担当者に対して本件仮装経理の残高を口頭で引き継ぐなど帳簿外で管理し、本件仮装経理の額を本件各事業年度の損金の額に算入することができないことを認識しながら、損金の額に算入するために決算利益の金額を勘案して調整した金額を記載した材料仕入高勘定の伝票を別表1のとおり起票した上で、本件各事業年度の損金の額に算入した(以下、これらの本件仮装経理に係る材料仕入高の損金算入処理を「本件戻入れ処理」という。)。
     これら一連の行為は、重加算税取扱指針の第1の1において例示されている帳簿書類への虚偽記載に当たり、国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を仮装しているものと認められる。
     なお、請求人の上記の一連の行為は、消費税等においても、国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を仮装しているものと認められる。
     請求人は、本件戻入れ処理に係る材料仕入れが過去の事業年度に実際にあった取引である旨主張しているが、過去の事業年度に実際にあった取引か否かは重加算税の賦課要件の充足に影響を及ぼさない。
  • ロ また、法人税法第129条第1項に規定する修正の経理とは、平成23年4月1日より前に開始する事業年度においては、企業会計原則にのっとり、財務諸表の特別損益の項目において、前期損益修正損等として計上して仮装経理の結果を修正し、その修正した事実を明示することであると解され、平成23年4月1日以後開始する事業年度においては、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「過年度遡及会計基準」という。)に従い、過去の財務諸表における誤びゅうの訂正を財務諸表に反映することとされているところ、請求人はそのいずれの処理も行っていないのであるから、請求人が行った本件戻入れ処理は修正の経理に該当しない。
  • イ 請求人には、重加算税取扱指針第1の1において「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」に該当する場合として例示されているいずれの事実もない。
     なお、請求人は、過去の事業年度において実際にあった材料仕入れを本件各事業年度において本件戻入れ処理として計上したのであり、架空の材料仕入れを計上していない。
  • ロ また、請求人が行った本件戻入れ処理は、法人税法第129条の規定による、過去の事業年度における仮装経理の修正の経理である。
     現に、原処分庁は、平成25年7月期ないし平成28年7月期における本件戻入れ処理の否認額(当該各事業年度の各更正処分において所得金額に加算した額)については、修正の経理とみなして当該否認額に係る仮装経理を行った平成24年7月期の所得金額より減算(当該事業年度の更正処分において所得金額から減算)している。

(5) 争点5(請求人に、本件遡及事業年度等の法人税及び消費税等について通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
  請求人は、本件仮装経理を通じて、利益を調整すれば税額を調整できると認識していたものと認められ、更に、金融機関から借入金の返済要求がされない程度にするため、本件遡及事業年度の決算利益にあまり影響が出ないよう調整した材料仕入高勘定の金額を用いて本件戻入れ処理を行うことで、本件遡及事業年度の決算利益を調整しており、このことで本件遡及事業年度等の税額が減少することも認識していたのであるから、税を免れる意図をもって本件戻入れ処理を行ったものと認められる。
 そして請求人は、本件戻入れ処理により計上した材料仕入れが本件遡及事業年度等の損金の額に算入又は課税仕入れに係る支払対価の額に算入することができないものであることを十分に認識していた。
 請求人のこれら一連の行為は、国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の意図的な変更という事実の仮装及び帳簿書類への虚偽記載として、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為に当たり通則法第70条第4項に規定する偽りその他不正の行為に該当する。
 なお、請求人が行った本件戻入れ処理は修正の経理に該当しない。
  「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような偽計その他工作を伴うものと解すべきであるから、単なる不申告行為は含まれないと解すべきであるところ、本件戻入れ処理は、本件仮装経理を是正する目的で修正の経理を行ったものであり、意図的に税額を免れるものでもなく、また、偽計工作を行ったものでもない。
 現に、原処分庁は、平成25年7月期ないし平成28年7月期における本件戻入れ処理の否認額(当該各事業年度の各更正処分において所得金額に加算した額)については、修正の経理とみなして当該否認額に係る仮装経理を行った平成24年7月期の所得金額より減算(当該事業年度の更正処分において所得金額から減算)している。
 したがって、請求人には、通則法第70条第4項に規定する偽りその他不正の行為に該当する事実はなかった。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件調査担当職員が、本件遡及事業年度等に係る質問検査等を行ったことに、平成30年改正前通則法第74条の9第4項の規定に反する違法があるか否か。)について

  • イ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件調査担当職員は、平成29年1月20日の請求人に対する実地の調査において、J社からの請求書が存在しない仕訳伝票を把握した。
    • (ロ) 本件調査担当職員は、同日、上記(イ)の仕訳伝票について、請求書が存在しない理由を現経理担当者に確認したところ、同人から、平成26年5月に前経理担当者から請求人の経理事務を引き継ぐ際に、過去の事業年度に経費に算入していなかった材料仕入れについて、各事業年度に分けて計上するよう言われて各事業年度に500万円程度ずつ計上した旨、また、それらの計上した金額は各事業年度において実際に材料を仕入れた金額ではない旨の回答を受けた。
  • ロ 検討
     上記イの事実からすると、本件調査担当職員による実地の調査の過程で、事前通知した調査の対象となる期間より前の期間についても非違が疑われることとなったものと認められ、このことから上記1の(3)のホの(ハ)のとおり、本件調査担当職員が本件遡及事業年度等に係る質問検査等を行ったと認められるところ、平成30年改正前通則法第74条の9第4項は、当該職員が、調査により当該調査に係る同条第1項第3号から第6号までに掲げる事項以外の事項について非違が疑われることとなった場合において、当該事項に関し質問検査等を行うことを妨げるものではなく、この場合において、同項の規定は、当該事項に関する質問検査等については適用しない旨規定し、追加で質問検査等を行う事項についてあらかじめ通知することを要求していないのであるから、本件調査担当職員が本件遡及事業年度等に係る質問検査等を行ったことに違法はない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、本件遡及事業年度等の調査について、1事前に通知も説明も受けていないこと、2平成26年7月期以降で把握された非違事項と本件遡及事業年度等の非違事項が異なること、3疑われる非違の内容について請求人に対して説明がなかったこと、4原処分庁の主張する平成30年改正前通則法第74条の9第4項の解釈に誤りがあることから違法である旨主張する。
     しかしながら、平成30年改正前通則法第74条の9第4項の条文の規定上、事前の通知又は説明、疑われる非違事項が同様であること及び疑われる非違の内容についての説明のいずれも要件とされていないことは明らかであり、本件調査担当職員が本件遡及事業年度等に係る質問検査等を行ったことに違法がないことは上記ロのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件各通知書記載の理由に、法人税法第130条第2項又は行政手続法第14条第1項本文の規定に反する不備があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 青色申告に係る法人税について更正をする場合には、法人税法第130条第2項の規定により、更正通知書にその更正の理由を付記しなければならないが、それは、同法が、青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑み、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものと解される。
       そうすると、青色申告に係る帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合には、付記理由において、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要するものと解するのが相当である。
    • (ロ) また、行政手続法第14条第1項本文が、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない旨規定しているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解されるから、不利益処分の通知書に記載された理由が、不利益処分の根拠を上記の趣旨を充足する程度に具体的に明示するものであれば、同項本文の要求する理由提示として不備はないものと解するのが相当である。
  • ロ 当てはめ
    • (イ) 法人税の各更正処分の理由のうち帳簿書類の記載自体の否認に係る部分について
       本件各通知書に記載された法人税の各更正処分の理由のうち帳簿書類の記載自体の否認に係る部分は、要旨、別紙2の1の(1)のイ及びロ並びに別紙2の2の(1)のイ及びロのとおりであり、本件遡及事業年度において否認の対象とした材料仕入高に係る取引の内容に加え、所得金額に加算した材料仕入高については、1仕入れの際に材料納入元であるL社等から発行される伝票が存在しないこと、2仕入れの際に仕入先であるJ社から発行される請求書が存在しないこと、3仕入れの際に仕入代金が支払われていないこと、4請求人の前経理担当者が、前事業年度以前の仕入れを当事業年度の仕入れとして計上した旨申し述べていることが記載されており、また、所得金額から減算した材料仕入高については、材料仕入高を減額する取引等の事実が認められないことが記載されている。これらの記載により、原処分庁が本件遡及事業年度のそれぞれの事業年度に発生したことが認められないと判断した材料仕入高を否認したことが十分に理解可能であるから、本件各通知書に記載された法人税の各更正処分の理由のうち、帳簿書類の記載自体の否認に係る部分については、帳簿書類の記載を否認する根拠となる資料を摘示し、当該否認の理由を具体的に明示したものといえるため、法人税法第130条第2項が要求する青色申告に係る法人税の更正の理由付記として不備はない。
    • (ロ) (イ)を除く本件各通知書記載の更正の理由及び処分の理由について
       上記(イ)を除く本件各通知書に記載された更正の理由及び処分の理由は、要旨、別紙2の1の(1)のハ及び同(2)、別紙2の2の(1)のハ及び同(2)並びに別紙2の3のとおりであり、平成22年7月課税期間において否認の対象とした課税仕入れに係る支払対価の額の基になった材料仕入高の内容及び当該材料仕入高を否認した理由について、上記(イ)の1ないし3に加え、請求人の前経理担当者が、前課税期間以前の仕入れを当課税期間の仕入れとして計上した旨申し述べていることが記載され、また、本件遡及事業年度等の法人税額及び消費税等の額の計算の基礎となるべき事実に仮装又は隠ぺいが認められたために平成28年改正前通則法第68条の規定を適用したこと及び本件遡及事業年度の法人税の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分並びに本件消費税等更正処分等に通則法第70条第4項を適用したこと等が記載されており、課税の根拠をその基礎となる事実関係及び適用条文を摘示して具体的に明示したものということができ、行政庁の恣意の抑制及び被処分者の不服申立ての便宜という行政手続法第14条第1項本文の趣旨を充足する程度の理由が示されていると認められるから、同項本文の理由提示として不備はない。
    • (ハ) まとめ
       以上からすれば、本件各通知書記載の理由に、法人税法第130条第2項又は行政手続第14条第1項本文の規定に反する不備はない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、本件各通知書の記述が一貫しておらず、所得の金額に加算した法的根拠も示されていない旨主張する。
     しかしながら、上記イの(イ)の青色申告に係る法人税の更正の理由付記又は同(ロ)の不利益処分の理由提示の趣旨に照らせば、理由付記又は理由提示の程度として使用する文言が完全に一貫していることや適用条文が全て網羅されていることまで要求されているとは解されず、本件各通知書記載の理由は、上記ロのとおり法人税法第130条第2項が要求する理由付記又は行政手続法第14条第1項本文が要求する理由提示として不足はないというべきであるから、請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3の前段(本件無利息融資に係る利息相当額は、法人税法第37条第7項に規定する寄附金の額に該当するか否か。)について

  • イ 法令解釈等
    • (イ) 法人税法第37条第7項には別紙1の3の(2)のとおり規定されているところ、親会社が子会社を支援するため金銭の無利息貸付けをした場合における利息相当額などの経済的な利益の供与の額も寄附金の額に該当すると解される。
    • (ロ) 法人税通達9−4−2は、法人がその子会社等に対して無利息貸付け等をした場合において、例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものであるなど相当な理由が認められるときは、その経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする旨定めているところ、この取扱いは、寄附金として取り扱うべきでない場合についての具体的基準を示したものとして、当審判所においても相当と認める。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 請求人のK社に対する短期貸付金及び仮払金の発生、消滅及び残高の状況は、それぞれ別表5−1ないし5−5、及び別表6−1ないし6−4のとおりである。
    • (ロ) 本件代表者は、上記1の(3)のイの(へ)のとおりK社の代表取締役でもあることから、請求人とK社の双方の経理担当者に対して、K社の資金状況をみて、請求人からK社に必要な金額の融資をするよう指示していた。
    • (ハ) 請求人の経理担当者は、K社への融資について、K社の経理担当者からの必要金額及び必要時期の連絡に基づき、事前又は事後に本件代表者の了解を得て実施していた。
    • (二) 本件無利息融資に係る返済時期の取決めは、請求人とK社との間で行われておらず、K社は、工事代金の入金があったときに返済可能な金額を返済していた。
    • (ホ) 請求人は、本件無利息融資について、利息を徴することとはしておらず、また、K社から何らかの対価を受領していた事実は認められない。
  • ハ 当てはめ
     上記ロの(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人からK社への融資は、本件代表者による指示の下、K社の資金需要に応じて行っていたものであり、同(イ)のとおりK社から返済がなされているものの、同(ホ)のとおり、本件無利息融資について、利息を徴することとはしておらず、何らかの対価を受領していた事実も認められない。
     また、法人税通達9−4−2は、法人税法第37条の寄附金とならない場合についての具体的基準を示しているところ、上記ロの(ロ)ないし(二)のとおり、本件無利息融資は、専らK社の資金需要に基づき行われ、返済期限も具体的に定められていなかったことからすれば、本件無利息融資に係る利息相当額の経済的な利益の供与が、業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ずに行われるもので合理的な再建計画に基づくものであったという事情は認められず、本件無利息融資に係る利息相当額については、寄附金の額に該当しないものということはできない。
     そうすると、本件無利息融資については、請求人がK社に対して金銭の無利息貸付けをした場合に当たり、その利息相当額は、請求人からK社に対する経済的な利益の無償の供与として、上記イの(イ)のとおり、法人税法第37条第7項に規定する寄附金の額に該当する。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、本件無利息融資は長年にわたって債務超過が続いていたK社を救済するために行ったものである旨主張する。
     しかしながら、上記ロの(イ)ないし(二)のとおり、本件無利息融資は、本件代表者による指示の下、K社の資金需要に応じて行っていたものであり、その返済についても、返済可能なときに返済可能な金額を返済するというもので、具体的な取決めもなく行われていることからすれば、K社の倒産を防止するためのやむを得ない合理的な再建計画に基づき行われた融資とはいえず、本件無利息融資に係る利息相当額が寄附金の額に該当することは上記ハのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(4) 争点3の後段(原処分庁がした利息相当額の算定は、違法か否か。)について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 請求人は、別表7のとおり、平成26年7月期末時点で残高のあった3金融機関からの合計9件の長期借入金(返済期間が1年を超えるもの)の借入利率の平均がおおむね年利率○%であったとして、上記1の(3)のニの(ロ)の74,163,000円の融資の年利率を○%とした。
    • (ロ) 原処分庁は、平成24年7月期ないし平成28年7月期の法人税に係る各更正処分において、上記(イ)の年利率○%を用いて請求人のK社に係る短期貸付金及び仮払金の発生及び消滅に伴う残高の変動に応じて日割りで本件融資の利息相当額を計算し、平成24年7月期ないし平成28年7月期の各事業年度に対応させた金額を算出した上で、当該各算出額から請求人が上記1の(3)のニの(ロ)の利息を徴していた融資に係る受取利息として当該各事業年度に計上していた額を控除した額を当該各事業年度の寄附金の額として算定した。
    • (ハ) 請求人の平成24年7月期ないし平成28年7月期における金融機関からの長期借入金の平均調達金利(加重平均の借入利率)は、別表8の3欄のとおり年利率でそれぞれ○%、○%、○%、○%及び○%であり、長期借入金の平均残高は、同表1欄のとおりであった。
    • (二) 請求人の平成24年7月期ないし平成27年7月期における短期借入金(返済期間が1年以下のもの)は、M銀行○○支店からの1億円を極度額とする年利率○%の借入金及び○○協同組合からの年利率○%の借入金のみであり、前者の借入金については平成25年12月の償還をもって、後者の借入金については平成27年3月の償還をもっていずれも返済を完了しており、同日後に短期借入金の発生は認められない。
    • (ホ) K社に対する本件無利息融資の残高は、平成24年7月期ないし平成28年7月期を通じて、請求人における金融機関からの長期借入金の残高の範囲内であった。
    • (へ) 本件融資に係る会計上の処理において、前経理担当者は主に短期貸付金勘定を用いていた一方、現経理担当者は、K社から短期貸付金の返済を受けた場合に短期貸付金勘定を用いたほかは、仮払金勘定を用いていた。
  • ロ 検討
    • (イ) 年利率○%について
       請求人において、1長期借入金の平均調達金利は、上記イの(ハ)のとおり、平成28年7月期を除いて年利率○%を上回っていたこと、2短期借入金の調達金利は、同(二)のとおり、年利率○%を上回っていたこと、3同(ホ)のとおり、長期借入金によって導入した資金の範囲内で本件無利息融資に充てており、仮に、K社から融資金が返済されれば、長期借入金のうち金利の高いものから順に償還が可能であったこと、4同(イ)のとおり、請求人がK社への融資につき用いた年利率が○%であったことからすれば、原処分庁が本件無利息融資に係る利息相当額の計算につき年利率○%を用いたことは格別不合理とはいえず、利息相当額を過大に計算した違法があるともいえない。
    • (ロ) 短期貸付金と仮払金の融資としての性質に差異が認められないことについて
       本件無利息融資についての会計上の勘定科目は、前経理担当者は主に短期貸付金を用い、現経理担当者は短期貸付金の返済分を除き仮払金を用いていたことは上記イの(へ)のとおりであるが、上記(3)のロの(二)のとおり当該短期貸付金と仮払金はいずれも返済期限の定めのない融資であることからすれば、いずれについても利息を徴しない合理的な理由は見当たらず、両者の融資としての性質に差異があるとは認められない。
       そうすると、原処分庁において、短期貸付金と仮払金の勘定科目双方の融資を対象にして、本件無利息融資に係る利息相当額の計算を行ったことにつき、格別不合理は認められない。
    • (ハ) 日数を基に利息相当額の計算をしていることについて
       法人税法第37条第7項は、寄附金の額は、経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする旨規定しているところ、金銭の無利息貸付けをした場合についてみると、金銭の貸付けに対する利息は一般的に日を単位として計算されるものであることからすれば、「その供与の時」とは、日ごとに供与されているとみるのが相当である。
       そして、本件無利息融資については、上記(3)のロの(ホ)のとおり、利息を徴することとはしていなかったことからすれば、本件無利息融資に係る利息相当額の経済的な利益についても、日々供与されていたものとみて計算するのが合理的である。
       この点、原処分庁は、上記イの(ロ)のとおり、本件無利息融資に係る利息相当額の計算につき、短期貸付金及び仮払金の勘定科目で会計処理された本件融資の残高を基に、平成24年7月期ないし平成28年7月期の各事業年度の残高の変動に応じて、当該各事業年度において供与された経済的な利益の額、すなわち本件融資に係る利息相当額を計算し、そこから請求人が上記1の(3)のニの(ロ)の利息を徴していた融資に係る受取利息として当該各事業年度に計上していた額を控除して本件無利息融資に係る利息相当額を算出しており、当該計算は合理的である。
    • (二) まとめ
       以上からすれば、原処分における本件無利息融資に係る利息相当額の算定につき、原処分を取り消すべき違法はないというべきである。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、原処分庁の利息計算は、経済的な利益の供与の時における実勢利率により行われていないため正しくない旨主張する。
     しかしながら、上記ロのとおり、原処分庁が本件無利息融資に係る利息相当額の算定に用いた年利率及びその他の利息相当額の計算につき取り消すべき違法はないというべきであるから、請求人の主張には理由がない。

(5) 争点4(請求人に、平成28年改正前通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。)について

  • イ 法令解釈
     平成28年改正前通則法第68条第1項には別紙1の4の(1)のとおり規定されているところ、ここでいう事実を隠ぺいしたとは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいしあるいは故意に脱漏したことをいい、また、事実を仮装したとは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装うなど、故意に事実をわい曲したことをいうと解される。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件代表者は、平成22年7月31日以前のいずれかの時期において、前経理担当者から次の相談を受け、一度に多額の材料仕入高を計上した場合には金融機関から借入金の返済要求がされるなどの影響が生じると考え、これを了承した。
      • A J社からの材料仕入高につき本件代表者の了承の下で本件仮装経理を行ってきたがそのことにより帳簿上の買掛金残高が実際より少なくなっている(以下、本件各事業年度の各時点において生じていた請求人のJ社に対する帳簿上の買掛金残高と実際の残高との差額を「本件差額」という。)。
      • B そこで、本件差額を減少させるため、決算利益にあまり影響が生じないような金額で数年に分けて本件仮装経理に係る材料仕入高を経費に計上したい。
    • (ロ) 前経理担当者は、平成26年5月の退職に当たり、現経理担当者に対し、同時点における本件差額を口頭で伝えるとともに、平成22年7月期ないし平成26年7月期の各期首における本件差額を当該各事業年度の請求人のJ社に対する買掛金帳簿の期首の頁の枠外に手書きで記入したほか、本件差額について金融機関との取引に影響が出ない範囲内の金額で複数の事業年度に分けて戻し入れる会計処理を行うよう伝え、請求人の経理事務を引き継いだ。
    • (ハ) 前経理担当者及び現経理担当者は、本件各事業年度及び平成22年7月課税期間において、借方科目を材料仕入高、貸方科目を買掛金として、また、前経理担当者は、平成22年7月期ないし平成24年7月期において、借方科目を買掛金、貸方科目を材料仕入高として、別表1のとおり、それぞれ仕訳伝票を起票して会計処理を行い、本件各事業年度において、それぞれ帳簿上の材料仕入高を増額させることにより本件差額を減額させた。
    • (二) 上記(ハ)の会計処理に対応するL社等からの納品伝票及びJ社からの請求書の存在並びに請求人とJ社との間の材料代金等の授受の事実はいずれも認められないことから、当該材料仕入高を増額させる取引等の事実、また、当該材料仕入高を減額させる取引等の事実は、いずれも認められない。
    • (ホ) 本件代表者は、上記(イ)のとおり、前経理担当者からの相談内容を了承し、上記(ロ)の前経理担当者から現経理担当者への経理事務の引継ぎが行われたことも把握した上で、本件各事業年度における決算利益の額を承認していた。
    • (へ) 請求人が確定申告書に添付して原処分庁に提出した本件各事業年度の財務諸表には、前期損益修正損等の明示又は修正再表示がなされていない。
  • ハ 当てはめ
     本件代表者は、上記ロの(イ)のとおり、前経理担当者からの本件差額を減少させるため決算利益にあまり影響が生じないような金額で複数の事業年度に分けて材料仕入高として経費を計上したい旨の相談に対し、一度に多額の材料仕入高を計上した場合には金融機関から借入金の返済要求がされるなどの影響が生じると考え、複数の事業年度に分けて計上することを了承した。そして、本件代表者による当該了承を受け、前経理担当者及び現経理担当者は、同(ハ)及び同(二)のとおり、本件各事業年度において、実際には取引等の事実がないJ社からの材料仕入高を計上する会計処理を行ったことが認められるから、本件各事業年度におけるJ社からの材料仕入高につき実際とは異なるものであることを認識しながら、水増しした材料仕入高を帳簿書類に計上していたものと認められる。
     そして、上記ロの(ホ)のとおり、本件代表者は、前経理担当者及び現経理担当者により本件各事業年度において同(ハ)の会計処理が行われていること、すなわち、J社からの実際の材料仕入高ではなく、水増しした材料仕入高により帳簿書類が作成されていたことを認識していたと認められる。
     そうすると、本件代表者のこのような認識の下で、請求人が本件各事業年度において、J社からの材料仕入高につき、実際とは異なる水増しした材料仕入高を帳簿書類に計上したことは、行為の意味を理解しながら故意に事実をわい曲したものということができ、請求人において、J社からの材料仕入高につき、水増し後の材料仕入高であるかのように仮装したものというべきである。
     このことは、平成28年改正前通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実があったと認められる。
     また、課税仕入れに係る消費税額は別紙1の6の(1)のとおり取り扱われるところ、請求人は、上記1の(3)のハの(ハ)及び上記ロの(ハ)ないし(ホ)のとおり、平成22年7月課税期間において、当該課税期間におけるJ社からの材料仕入高につき実際とは異なることを認識しながら、水増しした材料仕入高を帳簿書類に計上し、当該水増しした材料仕入高を課税仕入れに係る支払対価の額に算入して税額等の計算の基礎となるべき事実をわい曲したものというべきであり、平成28年改正前通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実があったと認められる。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、請求人には重加算税取扱指針第1の1において隠ぺい又は仮装として例示されているいずれの事実もなく、本件戻入れ処理に係る材料仕入れは過去の事業年度に実際に行われたものであるし、本件戻入れ処理は法人税法第129条第1項に規定する「修正の経理」を行ったものであるから、平成28年改正前通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」には当たらない旨主張する。
     しかしながら、法人税法第129条第1項は、別紙1の6の(3)のとおり規定しているところ、ここでいう「修正の経理」とは、平成23年4月1日より前に開始する事業年度においては、公正処理基準の中心とされる企業会計原則によれば、財務諸表(損益計算書)の特別損益の項目において前期損益修正損等と計上して、仮装経理の結果を修正し、その修正した事実を明確に表示することをいうものと解されており、また、平成23年4月1日以後開始する事業年度の期首以後に行われた仮装経理については、過年度遡及会計基準の導入により、過去の誤びゅうの訂正として、原則として修正再表示により行われ、会計法上の計算書類において、過年度の累積的影響額を当期首の資産、負債及び純資産の額に反映するとともに、誤びゅうの内容等を注記することとされているが、上記ロの(へ)のとおり、請求人はこれらの処理を行っていないのであり、修正の経理に該当する旨の請求人の主張には理由がない。
     また、修正の経理に該当する旨の請求人の主張について、帳簿上の買掛金残高を正当額に修正するために行った経理である旨の主張であると理解したとしても、本件戻入れ処理は、請求人が本件各事業年度の収益に対応していない過去の事業年度における売上原価等(材料仕入高)であることを認識していたにもかかわらず、任意の金額を本件各事業年度に分け、本件各事業年度の材料仕入高を水増しした材料仕入高を帳簿書類に計上することによって、本件各事業年度の材料仕入高であるかのように仮装して、損金の額に算入していたものであり、平成28年改正前通則法第68条第1項に規定する仮装に該当することは上記ハのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(6) 争点5(請求人に、本件遡及事業年度等の法人税及び消費税等について通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第70条第4項第1号は、「偽りその他不正の行為」により税額を免れた国税についての更正決定等は、同条第1項の規定にかかわらず法定申告期限又は納税義務の成立の日から7年を経過する日まですることができる旨規定しているところ、同号にいう「偽りその他不正の行為」とは、税の賦課徴収を不能又は困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為をいうものと解される。
  • ロ 当てはめ
     上記(5)のハのとおり、本件代表者の認識の下で、請求人が本件遡及事業年度等において、J社からの材料仕入高につき、実際とは異なる水増しした材料仕入高を帳簿書類に計上し、また、水増しした材料仕入高を課税仕入れに係る支払対価の額に算入したことは、故意に事実をわい曲した仮装に該当するところ、当該行為は、税の賦課徴収を不能又は困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為に該当するというべきである。
     したがって、請求人は、本件遡及事業年度等の法人税及び消費税等について、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」によりその一部の税額を免れていたと認められる。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、本件戻入れ処理は本件仮装経理を是正する目的で法人税法第129条第1項に規定する「修正の経理」を行ったものであり、意図的に税額を免れるものでもなく、また偽計工作を行ったものでもない旨主張する。しかしながら、本件戻入れ処理が本件仮装経理を是正する目的を有していたとしても、請求人の行為が「偽りその他不正の行為」に該当することは上記ロのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(7) 原処分の適法性について

  • イ 本件法人税各更正処分及び本件地方法人税更正処分の適法性について
     上記(1)のロ及び上記(2)のロのとおり、本件遡及事業年度等に係る調査の手続及び本件各通知書記載の理由について原処分を取り消すべき違法はない。また、上記(3)のハのとおり、本件無利息融資に係る利息相当額は寄附金の額に該当し、上記(4)のロのとおり、原処分庁による当該利息相当額の算定に違法はない。更に、上記(6)のロのとおり、請求人は本件遡及事業年度において通則法第70条第4項第1号に規定する偽りその他不正の行為によりその一部の税額を免れていたと認められるから、法定申告期限から7年を経過する日まで、更正処分をすることができる。
      以上によれば、本件法人税各更正処分及び本件地方法人税更正処分には、争点についてこれを取り消すべき理由はない。
     そして、当審判所においても本件各事業年度の法人税及び本件課税事業年度の地方法人税の納付すべき税額は、本件法人税各更正処分及び本件地方法人税更正処分の納付すべき税額と同額であると認められる。
     また、本件法人税各更正処分及び本件地方法人税更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件法人税各更正処分及び本件地方法人税更正処分はいずれも適法である。
  • ロ 本件法人税各賦課決定処分及び本件地方法人税賦課決定処分の適法性について
     上記(6)のロのとおり、請求人は本件遡及事業年度において通則法第70条第4項第1号に規定する偽りその他不正の行為によりその一部の税額を免れていたものと認められるから、納税義務の成立の日(法定申告期限の経過の時)から7年を経過する日まで、重加算税の賦課決定処分をすることができる。
     上記イのとおり、本件法人税各更正処分及び本件地方法人税更正処分は適法であり、上記(5)のハのとおり、請求人に、平成28年改正前通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為が認められる。
     そして、当審判所においても平成24年7月期、平成27年7月期及び平成28年7月期の法人税の各過少申告加算税の額並びに本件遡及事業年度、平成24年7月期、平成27年7月期及び平成28年7月期の法人税の各重加算税の額並びに本件課税事業年度の地方法人税の重加算税の額は、本件法人税各賦課決定処分及び本件地方法人税賦課決定処分の各過少申告加算税の額又は各重加算税の額と同額であると認められる。
     したがって、本件法人税各賦課決定処分及び本件地方法人税賦課決定処分はいずれも適法である。
  • ハ 本件消費税等更正処分の適法性について
     上記(1)のロ及び上記(2)のロの(ロ)のとおり、平成22年7月課税期間に係る調査の手続及び本件各通知書記載の理由について原処分を取り消すべき違法はない。また、上記(6)のロのとおり、請求人は平成22年7月課税期間において通則法第70条第4項第1号に規定する偽りその他不正の行為によりその一部の税額を免れていたと認められるから、法定申告期限から7年を経過する日まで、更正処分をすることができる。
     以上によれば、本件消費税等更正処分には、争点についてこれを取り消すべき理由はない。
     そして、当審判所においても平成22年7月課税期間の消費税等の納付すべき税額は、本件消費税等更正処分の納付すべき税額と同額であると認められる。
     また、本件消費税等更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件消費税等更正処分は適法である。
  • ニ 本件消費税等賦課決定処分の適法性について
     上記(6)のロのとおり、請求人は平成22年7月課税期間において通則法第70条第4項第1号に規定する偽りその他不正の行為によりその一部の税額を免れていたものと認められるから、納税義務の成立の日(法定申告期限の経過の時)から7年を経過する日まで、重加算税の賦課決定処分をすることができる。
     上記ハのとおり、本件消費税等更正処分は適法であり、上記(5)のハのとおり、請求人に、平成28年改正前通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為が認められる。
     そして、当審判所においても平成22年7月課税期間の消費税等に係る重加算税の額は、本件消費税等賦課決定処分の重加算税の額と同額であると認められる。
     したがって、本件消費税等賦課決定処分は適法である。

(8) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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