(平成31年3月28日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、所得税の申告において、1事業所得の収入金額が過大に計上されていること及び2必要経費に計上漏れがあることを理由として更正の請求を行い、併せて消費税等の申告において、3上記1により課税標準額が過大に計上されていること及び4仕入税額控除の適用漏れがあることを理由として更正の請求を行ったところ、原処分庁が、事業所得の収入金額、必要経費の金額及び消費税等の課税標準額に誤りはなく、また、消費税等について仕入税額控除の適用はないとして、いずれも更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったのに対し、請求人がその一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

別紙のとおりである。なお、別紙で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の審理及び調査の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人について
    • (イ) 請求人は、○○であったところ、平成○年○月に○○に入会し、e市f町○−○に所在する事務所(以下「本件事務所」という。)において、「H」の屋号で○○を営み、主に○○業務を行っていた。また、請求人は、同市f町○−○に所在するマンションの一室(以下「本件自宅兼事務所」という。)に居住し、同所でも○○業務を行っていた。
    • (ロ) 請求人は、○○したが、その後も○○業務を続け、平成24年中に○○業務を廃止した。
    • (ハ) 請求人は、平成24年○月○日、a市g町に転居した。
  • ロ 期限後申告等について
    • (イ) 請求人は、平成23年分の所得税及び平成23年1月1日から平成23年12月31日までの課税期間(以下「平成23年課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下、併せて「消費税等」という。)の各確定申告書を、いずれもそれらの法定申告期限までに提出しなかった。
    • (ロ) K国税局○○の職員(以下「K局担当職員」という。)は、平成25年○月○日、請求人に対する○○調査(以下「本件K局調査」という。)に着手した。
       その後、請求人は、○○○○した。
    • (ハ) 原処分庁所属の調査担当職員は、平成26年3月、請求人に対する所得税及び消費税等の実地調査(以下「本件実地調査」という。)を実施した。
       なお、請求人は、本件K局調査及び本件実地調査において、法定帳簿を提出しなかった。
    • (二) 請求人は、本件実地調査を受け、原処分庁に対し、平成26年5月8日、平成23年分の所得税について別表1の「確定申告」欄のとおり、平成23年課税期間の消費税等について別表2の「確定申告」欄のとおり、それぞれ期限後申告(以下、順に「本件所得税期限後申告」、「本件消費税等期限後申告」といい、これらを併せて「本件各期限後申告」という。)をした。
    • (ホ) 請求人は、平成27年10月8日、平成23年分の所得税について、雑所得の金額が過大であることを理由として、別表1の「更正の請求(1回目)」欄のとおり、更正の請求を行った。原処分庁は、これを認め、同年11月18日付で、同表の「更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「先行所得税更正処分」という。)及び重加算税の変更決定処分をした。なお、先行所得税更正処分では、事業所得の金額の変動はなかった。
  • ハ 審査請求に至る経緯
    • (イ) 請求人は、平成29年3月13日、平成23年分の所得税について、1本件所得税期限後申告において収入金額に算入した収入のうち別表3記載の顧客に係る収入(以下「本件収入1」という。)の計上時期が同年分ではないこと及び2必要経費の計上漏れがあったことを理由として、別表1の「更正の請求(2回目)」欄のとおり更正の請求(以下「本件所得税更正請求」という。)をした。
       また、請求人は、平成29年3月13日、平成23年課税期間の消費税等について、上記1の理由により課税標準額が過大となっていること及び本件消費税等期限後申告において仕入税額控除を行っていなかったことを理由として別表2の「更正の請求」欄のとおり更正の請求(以下「本件消費税等更正請求」といい、本件所得税更正請求と併せて「本件各更正請求」という。)をした。
       その後、請求人は、原処分庁所属の本件各更正請求に係る調査担当職員に対し、「24年完了分売上金額」と題する書面、「25年完了分売上金額」と題する書面及び「未完了分売上金額」と題する書面(以下、併せて「本件非売上表」という。)などを提出した。本件非売上表は、「顧客名」欄、「算定年分」欄、「売上(単位:円)」欄などの各欄が設けられた表である(本件収入1は、本件非売上表の「算定年分」欄に「23」(平成23年分を指すものと解される。)と記載された顧客からの収入である。)。
    • (ロ) 原処分庁は、平成29年9月11日付で、本件所得税更正請求に対して、本件所得税期限後申告において、収入金額に誤りはなく、また、必要経費の計上漏れはないとして、更正すべき理由がない旨の通知処分(以下「本件所得税通知処分」という。)をし、本件消費税等更正請求に対して、本件消費税等期限後申告において、課税標準額に誤りはなく、また、法定帳簿の保存がなされていないから仕入税額控除の適用はないとして、更正の請求をすべき理由がない旨の通知処分(以下、本件所得税通知処分と併せて「本件各通知処分」という。)をした。
    • (ハ) 請求人は、平成29年12月8日、本件各通知処分の一部の取消しを求めて再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、平成30年3月7日付で、請求人の再調査の請求をいずれも棄却する旨の再調査決定をした。
    • (二) 請求人は、再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成30年4月6日に審査請求(以下「本件審査請求」という。)をした。
       請求人は、本件審査請求において、収入について、本件収入1が平成23年分ではなく、計上時期を誤っているという本件各更正請求時の主張をするほか、平成23年分として計上すべき別表4−1及び別表4−2の各収入の金額は、本件所得税期限後申告において計上された事業所得の内訳金額(上記各表の「申告額」欄の金額。なお、先行所得税更正処分における金額と一致する。)ではなく「審査請求主張額」欄のとおりであると主張している。なお、別表4−1の各収入(以下「本件収入2」という。)は、本件収入1の一部であるが、別表4−2の各収入(以下「本件収入3」といい、本件収入1と併せて「本件各収入」という。)は、本件収入1には含まれていない。
       また、請求人は、本件審査請求において、必要経費について、1本件自宅兼事務所の賃料及び水道光熱費のうち、先行所得税更正処分において必要経費に算入された各金額を超えてそれぞれ269,500円、50,530円(以下、併せて「本件地代家賃等」という。)、2本件自宅兼事務所の家財に係る損害保険料10,000円(以下「本件保険料」という。)、3国際便の航空券の購入費用104,790円(以下「本件海外渡航費」という。)、4ガソリンチケットの購入費用、駐車料金、高速道路通行料金及び国内便の航空券の購入費用123,180円(以下「本件国内交通費」という。)、5ラジオ英会話教材の購入費用1,260円(以下「本件教材購入費」という。)、6スポーツクラブの会費55,440円(以下「本件福利厚生費」という。)、7青汁の購入費用29,309円(以下「本件青汁購入費」という。)及び8扇風機の購入費用8,486円(以下「本件扇風機購入費」という。)が平成23年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきである旨主張している。さらに、請求人は、○○業務を廃止した後の平成26年に発生・確定した事業税及び消費税等合計○○○○円(以下「本件事業税等」という。)について、事業廃止後経費であるとして、所得税法施行令第179条の規定に従って、事業廃止年分である平成24年分の所得税の確定申告において、本件事業税等のうち○○○○円を必要経費に算入し、本件所得税期限後申告において、本件事業税等の残額○○○○円を必要経費に算入していたところ、請求人は、本件審査請求において、9平成24年分の所得税の上記確定申告において事業廃止後経費以外の経費に計上漏れがあり、その計上漏れ金額を必要経費に算入することにより、事業廃止後経費として同年分の必要経費に算入される本件事業税等が1,428,508円減額するため、事業廃止後経費として平成23年分の必要経費に算入される本件事業税等が、上記減額分1,428,508円(以下「本件事業廃止後経費」といい、1から9を併せて「本件各費用」という。)増加する旨主張している。

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2 争点

(1) 平成23年分に計上すべき本件各収入の金額はいくらか(争点1)。

(2) 本件各費用は、平成23年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか(争点2)。

(3) 平成23年課税期間の消費税等の金額の計算上、仕入税額控除の適用があるか(争点3)。

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3 争点についての当事者の主張

(1) 争点1(平成23年分に計上すべき本件各収入の金額)について

請求人 原処分庁
  • イ 本件収入1について
  • イ 本件収入1について
  • (イ) 本件非売上表は、原処分庁が作成した表であるところ、原処分庁は、本件収入1について、本件非売上表において、「24年完了分売上金額」などの表題のとおり平成23年中に業務が完了していないものとして整理している。このような原処分庁作成の本件非売上表によれば、本件収入1に係る業務は、平成23年中において完了していないものとすべきである。
     したがって、本件収入1の計上時期は平成23年分ではなく、平成23年分に計上すべき本件収入1の金額は零円である。
  • (イ) 請求人の主張イの(イ)について
     本件非売上表は、K局担当職員が作成した資料に請求人が手を加えたものであるところ、K局担当職員は、請求人が平成21年分の所得税の確定申告において採用した収入金額の計上時期の基準を用いた場合のその後の各年分の売上金額と、請求人の預り金口座から個人口座への送金額を検討するために、上記資料を作成した。したがって、上記資料は、原処分庁が実際の収入計上日や収入金額を調査するために作成した資料ではないから、請求人の主張は誤っている。
  • (ロ) 仮に上記(イ)の主張が認められないとしても、本件収入1のうち本件収入2については、以下のとおり、平成23年分に計上すべき金額は別表4−1の「審査請求主張額」欄のとおりである。
     すなわち、平成23年分に計上すべき顧客からの収入は、平成23年中に請求した収入で、かつ、平成23年中に顧客からの入金又は預り金からの控除により回収することのできた収入である。
     この点、本件収入2は、本件各期限後申告において、1顧客からの報酬額が別表4−1の「申告額」欄の金額とは異なるという問題点があるもの(以下「区分1」という。具体的には別表4−1の「区分」欄に1と表記した顧客に係る収入)、2上記欄の金額の全部又は一部が平成23年以外の年に請求されており、計上時期が誤っているという問題点があるもの(以下「区分2」という。具体的には別表4−1の「区分」欄に2と表記した顧客に係る収入)、3上記欄の金額の全部又は一部が平成23年中に回収されておらず、計上時期が誤っているという問題点があるもの(以下「区分3」という。具体的には別表4−1の「区分」欄に3と表記した顧客に係る収入)又は4上記23の各問題点があるもの(以下「区分4」という。具体的には別表4−1の「区分」欄に4と表記した顧客に係る収入)のいずれかであった。これを正しく算定し直すと、平成23年分に計上すべき本件収入2の金額は、別表4−1の「審査請求主張額」欄のとおりとなる。
  • (ロ) 請求人の主張イの(ロ)について
     原処分庁は、平成23年分に計上すべき本件収入2の金額について、請求人が顧客に報酬を請求するために作成した報酬額等計算書又は○○清算書の記載内容や顧客の署名日、請求人が作成した顧客との相談票に貼付された付箋の記載内容、報酬の初回入金日等から、別表4−1の「申告額」欄のとおりであると認定した。そして、請求人が本件収入2について提出した書類は、平成23年分に計上すべき本件収入2の金額が上記認定額と異なることを立証するものではない。
     したがって、請求人の主張には理由がない。
  • ロ 本件収入3について
     本件収入3は、本件各期限後申告において、上記イの(ロ)の1ないし4の各問題点があるもの又は5上記1及び3の各問題点があるもののいずれかであった。これを正しく算定し直すと、平成23年分に計上すべき本件収入3の金額は、別表4−2の「審査請求主張額」欄のとおりとなる。
     これに対し、原処分庁は、本件収入3について、本件所得税更正請求において主張していなかったから、本件審査請求において主張することができない旨主張するが、更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分に係る審査請求において、当該更正の請求で主張していなかった新たな事実を主張できないことがあるとしても、その新たな事実とは、当該更正の請求において主張された事実と全く関係のない事実をいうと解される。この点、本件収入3は、本件所得税更正請求において主張した事実と同じく○○業務に関する事実であり、当該更正の請求において主張された事実と全く関係のない事実ではないから、請求人は、本件収入3についての主張をすることができるというべきである。
  • ロ 本件収入3について
     更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分に係る審査請求では、当該更正の請求で主張しなかった事実を新たに主張して当該通知処分の取消しを求めることはできないものというべきである。
     そして、請求人は、本件所得税更正請求において、本件収入3について主張をしていなかったから、本件審査請求において、本件収入3についての主張をすることはできない。

(2) 争点2(本件各費用の必要経費への算入の可否)について

請求人 原処分庁
  本件各費用は、以下のとおり、いずれも平成23年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入される。   本件各費用は、以下のとおり、いずれも平成23年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるとは認められない。
  • イ 本件地代家賃等
     請求人は、本件自宅兼事務所について、事務所として、本件事務所を閉鎖する平成23年6月まではその67パーセントを、同閉鎖後の同年7月以降はその86パーセントをそれぞれ使用していた。したがって、本件自宅兼事務所の賃料及び水道光熱費のうち上記割合に応じた金額である本件地代家賃等は、必要経費に算入される。
  • イ 本件地代家賃等
     請求人は、本件所得税期限後申告において、本件自宅兼事務所を事務所として使用した割合が50パーセントであるとして、その賃料及び水道光熱費の50パーセントを必要経費として計上していたところ、事業の用に供していた割合が上記50パーセントを超えることの証拠を提示しておらず、その立証を欠く。
  • ロ 本件保険料
     請求人は、上記イのとおり、平成23年に本件自宅兼事務所で業務を行っていたことから、当該物件の家財に係る損害保険料である本件保険料は、全額が必要経費に算入される。
  • ロ 本件保険料
     本件保険料は、請求人が居住していた本件自宅兼事務所の家財に係る損害保険料の支出であるから、必要経費に算入されない家事上の経費である。
  • ハ 本件海外渡航費
     請求人は、立上げを準備していた結婚紹介ビジネス(以下「本件結婚紹介ビジネス」という。)の視察及び打合せのためにウクライナへ渡航した。それらのための航空券購入費用である本件海外渡航費は、必要経費に算入される。
  • ハ 本件海外渡航費及び本件国内交通費
     請求人は、本件海外渡航費及び本件国内交通費について、車両や航空機の利用目的、出張の目的、具体的な相手方等の業務内容を明らかにしていない。また、仮にこれらの費用が家事関連費であるとしても、その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分しているとは認められない。
  • ニ 本件国内交通費
     請求人は、通勤、市役所や裁判所への移動、○○の研修への参加等の業務上必要な移動のために業務用の自動車を利用し、また、研修への参加のために関西へ航空機を利用して移動した。上記業務用自動車に係るガソリンチケットの購入費用、駐車料金及び高速道路通行料金及び上記航空券の購入費用である本件国内交通費は、必要経費に算入される。
  • ニ 本件教材購入費
     ラジオ英会話教材は、請求人の自己啓発のための教材であるから、本件教材購入費は、家事上の経費である。
  • ホ 本件教材購入費
     請求人は、本件結婚紹介ビジネスの海外展開のために必要な語学を習得する目的で、ラジオ英会話の教材を購入した。その購入費用である本件教材購入費は、必要経費に算入される。
  • ホ 本件福利厚生費
     請求人は、自身の健康増進のためにスポーツクラブへ通っていたから、本件福利厚生費は、家事上の経費である。
  • へ 本件福利厚生費
     請求人は、個人事業主である自身の慰安を目的としてスポーツクラブに入会した。その会費である本件福利厚生費は、月1万円程度と社会通念上も過度とはいえないことからも、必要経費に算入される。
  • へ 本件青汁購入費
     請求人は、事業用消耗品と併せて発注した茶やコーヒー等の飲料の配送先を本件事務所としているのに対し、青汁については配送先を本件自宅兼事務所としている上、青汁は、本件事務所に持ち込んでまで顧客への湯茶接待に提供するとは考え難い健康食品であるから、本件青汁購入費は、家事上の経費である。
  • ト 本件青汁購入費
     請求人は、本件事務所において顧客に青汁を提供していた。その購入費用である本件青汁購入費は、必要経費に算入される。
  • ト 本件扇風機購入費
     請求人は、当該扇風機を事務所で使用していたことの証拠を提出しておらず、事業遂行上必要であるとは認められないから、本件扇風機購入費は、家事上の経費である。
  • チ 本件扇風機購入費
     請求人は、平成23年6月から11月まで、aでも○○業の残務整理をしていたところ、扇風機をaの事務所で使用するために購入した。その購入費用である本件扇風機購入費は、必要経費に算入される。
  • チ 本件事業廃止後経費
     仮に、平成24年分の所得税の確定申告における事業廃止後経費以外の経費に計上漏れがあったとしても、平成24年分の所得税については、上記確定申告により納付すべき税額が零円であり、通則法第23条第1項のいずれの号にも該当しないから、請求人は、更正の請求をすることができない。したがって、平成23年分の必要経費に算入される本件事業税等の額は、本件所得税期限後申告において算入された額と異なるとは認められない。
  • リ 本件事業廃止後経費
     事業廃止年分である平成24年分の所得税の確定申告における事業廃止後経費以外の経費に計上漏れがあり、その計上漏れ金額を必要経費に算入することにより、事業廃止後経費として同年分の必要経費に算入される本件事業税等が1,428,508円減額する。これにより、事業廃止後経費として平成23年分の必要経費に算入される本件事業税等は、本件事業廃止後経費の金額と同額の1,428,508円増加する。

(3) 争点3(仕入税額控除の適用の有無)について

請求人 原処分庁
  請求人は、平成23年当時、領収書を保存し、その内容を記録して帳簿を作成していた。しかし、本件K局調査及び本件実地調査において、「仕入税額控除の帳簿」という名称の帳簿を作成していたか問われ、このような名称の帳簿を作成していなかったことから、その旨回答し、上記のとおり作成していた帳簿を提出しなかった。このように、請求人は、本件K局調査及び本件実地調査における応答により、上記のとおり作成していた帳簿を提出しても仕入税額控除が適用されないと誤解していたために、これを提出しなかったことからすると、平成23年課税期間の消費税等の金額の計算上、仕入税額控除の適用が認められるべきである。   請求人は、平成23年当時に帳簿書類を作成しておらず、本件K局調査及び本件実地調査において、法定帳簿の保存をしていなかった。したがって、請求人は、法定帳簿及び法定請求書等を保存しない場合に該当するから、平成23年課税期間の消費税等の金額の計算上、仕入税額控除の適用はない。

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4 争点に対する当審判所の判断

(1) 争点1(平成23年分に計上すべき本件各収入の金額)について

  • イ 法令解釈
     所得税法は、一暦年を単位としてその期間ごとに課税所得を計算し、課税を行うこととしており、同法第36条第1項が、右期間中の総収入金額又は収入金額の計算について、「収入すべき金額による」と定め、「収入した金額による」としていないことからすると、同法は、現実の収入がなくても、その収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、同権利発生の時期の属する年分の課税を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解される。これは、所得税が、経済的な利得を対象とするものであるから、究極的には実現された収支によってもたらされる所得について課税するのが基本原則であり、ただ、その課税に当たって常に現実収入の時まで課税できないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を期し難いので、徴税政策上の技術的見地から、収入すべき権利の確定したときをとらえて課税することとしたものであり(最高裁昭和49年3月8日第二小法廷判決・民集28巻2号186頁参照)、ここにいう収入の原因となる権利が確定する時期はそれぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきものである(最高裁昭和53年2月24日第二小法廷判決・民集32巻1号43頁)。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 請求人は、顧客から○○業務を受任する際、委任契約書を交わして受任契約を締結した。上記委任契約書には、委任事務処理により○○に応じて、報酬を算定する旨記載されていた。
       そして、請求人は、委任事務処理が完了した時点で、上記契約書に記載された算定基準に基づき報酬額を算出し、同報酬額について、顧客に請求書あるいは「報酬額等計算書」及び「○○清算書」と題する各書面(以下、順に「報酬額等計算書」、「○○清算書」という。)を直接又は郵送で交付することにより請求していた。
    • (ロ) 報酬額等計算書は、請求人が、○○ごとの○○や、請求人の報酬、印紙代、郵送料等を計算及び集計し、その金額を記載した書面である。
       また、○○清算書は、上記計算額を顧客の収支計算書として整理した書面であり、具体的には、上記○○及び請求人が顧客から預かった金額が「収入」欄に、上記報酬等及び業務完了までに顧客に返金した仮清算金が「支出」欄に記載されている。そして、請求人は、「収入」欄から「支出」欄の金額を差し引くことで余剰金額(以下「清算金」という。)が発生する場合には、これを顧客に送金又は直接交付し、また、「収入」欄から「支出」欄の金額を差し引くことで不足金額(以下「未清算金」という。)が発生する場合には、顧客から直接又は送金によってこれを受け取っていた。なお、○○清算書には、清算金又は未清算金の合計額が記載されているほか、顧客が清算金を領収したこと又は未清算金の支払に同意したことを確認するために署名及び押印をする欄が設けられており、請求人は、顧客に署名及び押印を求めていた。
    • (ハ) 別表4−1のN1について、請求人は、平成23年1月頃、N1に対し、○○清算書及び報酬額等計算書(以下「N1報酬額等計算書」という。)を送付し、N1は、同月17日付で、当該○○清算書の署名欄に署名をした。N1報酬額等計算書には、消費税等込の報酬金額が合計417,706円である旨記載されていた。
       その後、請求人は、N1の代理人として、平成23年6月30日付で、P1社との間で、同社から和解金10,000円の支払を受ける旨の和解契約を締結し、平成23年7月28日、同社から当該和解金10,000円の振込みを受けた。請求人とN1は、同年8月6日、当該和解金を請求人への報酬に充当する旨を合意した。
       そして、請求人は、本件所得税期限後申告において、N1報酬額等計算書に記載された報酬金額417,706円に加えて、上記のとおり報酬に充当されたP1社からの和解金10,000円を併せた合計427,706円をN1からの報酬として収入に計上した。
    • (二) 別表4−1のN2について、請求人は、平成23年5月頃、N2に対し、○○清算書及び報酬額等計算書(以下「N2報酬額等計算書」という。)を送付し、N2は、同月4日付で、当該○○清算書及びN2報酬額等計算書の署名・押印欄に署名・押印をした。N2報酬額等計算書には、消費税等込の報酬金額が合計752,963円である旨記載されていた。
       その後、請求人は、平成23年7月8日、P2社から、N2の同社への○○に関し60,000円の振込みを受けた。請求人とN2は、同日頃、当該60,000円の21パーセントに当たる12,600円について、請求人への報酬に充当する旨を合意し、請求人は、同月12日、N2に対し、残額の47,400円から振込費用を除いた金額を振り込んだ。
       そして、請求人は、本件所得税期限後申告において、N2報酬額等計算書に記載された報酬金額752,963円に加えて、P2社からの上記振込金のうち上記のとおり報酬に充当された12,600円を併せた合計765,563円をN2からの報酬として収入に計上した。
    • (ホ) 別表4−1のN3について、請求人は、平成23年11月頃、N3の家族のN4に対し、○○清算書及び報酬額等計算書(以下「N4報酬額等計算書」という。)を送付し、N4は、同月3日付で、当該○○清算書及びN4報酬額等計算書の署名・押印欄に署名・押印をした。N4報酬額等計算書には、消費税等込の報酬金額が642,593円と記載されていたが、請求人は、N4との間で、平成21年2月16日頃、請求人の預り金のうち174,563円を報酬に充当する旨を合意し、平成23年11月3日頃、上記報酬金額のうち255,925円を免除した。
       そして、請求人は、本件所得税期限後申告において、N4報酬額等計算書に記載された報酬金額642,593円から、上記のとおり平成21年中に報酬に充当された174,563円及び平成23年11月3日頃に免除された255,925円を控除した212,105円を、N3からの報酬として収入に計上した。
    • (へ) 請求人は、平成21年分の所得税の申告に際し、1○○が終わっていない○○の残っている顧客、2報酬の一部が未回収の顧客及び3清算が終わっているものの○○中の顧客に係る報酬について売上げに計上しなかった。
       本件K局調査の際、K局担当職員は、請求人が、確定申告において計上した収入金額を上回る金額を、事業用ではない自己の預金口座へ送金していた事実を確認する目的で、上記確定申告における収入の計上基準に基づいて売上げの計上時期を整理した表を作成した。
       本件非売上表は、請求人が、K局担当職員作成の上記表に手を加えたものである。
  • ハ 当てはめ
    • (イ) 本件収入1について
       請求人は、本件収入1は、原処分庁が、本件非売上表において、平成23年中に業務が完了していないものとして整理していたのであるから、平成23年中に業務が完了しておらず、その計上時期が平成23年分ではない旨主張する。
       しかしながら、上記ロの(へ)のとおり、本件非売上表の基となった表は、売上げの計上時期について、請求人が平成21年分の所得税の確定申告において採用した基準を基に整理したものであって、K局担当職員又は原処分庁の調査結果を記載したものではない。したがって、請求人の主張は、原処分庁が、本件非売上表において本件収入1を平成23年中に業務が完了していないものとして整理したという前提を欠くものであるから、採用することができない。
       そして、本件収入1(本件収入2を除く。)については、その他、その計上時期が平成23年分ではないと認めるに足りる証拠はなく、その計上金額が別表3の「申告額」欄の金額ではないと認めるに足りる証拠もない。したがって、平成23年分に計上すべき本件収入1(本件収入2を除く。)は、同欄の金額であり、先行所得税更正処分における金額と同額である(なお、本件収入1のうち本件収入2の計上時期及び金額については、下記(ロ)において検討する。)。
    • (ロ) 本件収入2について
      • A 区分1の収入について
         請求人は、区分1の収入、すなわち、N1、N2又はN3からの各報酬について、報酬額が別表4−1の「申告額」欄の金額とは異なる旨主張する。
        • (A) N1からの報酬について
           請求人は、N1からの報酬に係る証拠として、N1報酬額等計算書を提出し、N1報酬額等計算書に記載されている417,706円がN1からの報酬額である旨主張する。
           しかしながら、上記ロの(ハ)のとおり、請求人は、N1報酬額等計算書の作成・送付後、N1との間で、新たに10,000円を報酬とすることを合意しているから、平成23年分に計上すべきN1からの報酬額は、同計算書記載の417,706円に上記10,000円を加算した427,706円であり、別表4−1の「申告額」欄と一致する。
           したがって、請求人の主張は採用することができない。
        • (B) N2からの報酬について
           請求人は、N2からの報酬に係る証拠として、N2報酬額等計算書を提出し、N2報酬額等計算書に記載されている752,963円がN2からの報酬額である旨主張する。
           しかしながら、上記ロの(二)のとおり、請求人は、N2報酬額等計算書の作成・送付後、N2との間で、新たに12,600円を報酬とすることを合意しているから、平成23年分に計上すべきN2からの報酬額は、N2報酬額等計算書記載の752,963円に上記12,600円を加算した765,563円であり、別表4−1の「申告額」欄と一致する。
           したがって、請求人の主張は採用することができない。
        • (C) N3からの報酬について
           請求人は、N3からの報酬に係る証拠として、N3に係る平成21年2月に作成されたという報酬額等計算書及び○○清算書並びに平成23年2月に作成されたという訂正後の報酬額等計算書などを提出し、N3からの報酬は平成21年分に計上すべきものであり、平成23年分に計上すべき当該報酬は零円である旨主張する。
           しかしながら、上記ロの(ホ)のとおり、請求人は、本件所得税期限後申告において、N3の家族であるN4からの報酬を、N3からの平成23年分の報酬として計上している。そして、同(ホ)のとおり、N4報酬額等計算書には、報酬金額が642,593円と記載されているが、請求人は、平成21年中に、N4との間で、預り金のうち174,563円を報酬に充当することを合意し、平成23年中に、報酬金額のうち255,925円を免除していることから、平成23年分に計上すべきN4からの報酬額は、N4報酬額等計算書に記載された642,593円から、上記のとおり平成21年中に報酬に充当された174,563円及び平成23年中に免除された255,925円を控除した212,105円であり、別表4−1の「申告額」欄のN3からの報酬額の金額と一致する。
           したがって、請求人の主張は採用することができない。
        • (D) 小括
           以上のとおり、区分1の収入についての請求人の主張は、いずれも採用することができない。
      • B 区分2の収入について
         請求人は、区分2の収入について、その顧客に対する報酬の一部の請求日が平成23年中ではないことから、その部分は平成23年分に計上すべきではない旨主張する。そして、請求人は、上記請求日について、報酬額等計算書のデータの最終更新日の数日後に、顧客に対して報酬額等計算書を送信しているとして、当該顧客に係る報酬額等計算書及び当該計算書のデータの保存日が表示されたパソコンの画面を写した書面を証拠として提出する。
         しかしながら、請求人が証拠として提出した上記計算書には、顧客の署名及び日付の記載がないことから、当該計算書が実際に顧客に交付されたものであるか否かは不明であり、当該計算書のデータの保存日(最終更新日)の数日後にこれが顧客に送付されたとは認められない。そして、その他、請求人が、その主張する日に当該顧客に対して報酬を請求したと認めるに足りる証拠はない。
         したがって、区分2の収入については、その顧客に対する報酬の一部の請求日が平成23年以外であるとは認められないから、請求人の主張は採用することができない。
      • C 区分3の収入について
         請求人は、区分3の収入について、平成23年中に報酬額の全部又は一部の支払を受けていなかったため、当該支払を受けていない金額は、平成23年分の収入金額に算入されるべきではない旨主張する。
         しかしながら、収入の計上時期については、上記イのとおり、その収入の原因たる権利が確定的に発生した時点の属する年分であると解すべきである。したがって、収入の計上時期を実際に支払を受けた時点の属する年分とすることを前提とする請求人の主張は、その前提を欠くものであり、採用することができない。
      • D 区分4の収入について
         請求人は、区分4の収入について、1その顧客に対する報酬の一部の請求日が平成23年中ではないことから、その部分は平成23年分に計上すべきではない旨主張し、さらに、2その部分を除く報酬額の全部又は一部の支払を平成23年中に受けていなかったため、当該支払を受けていない金額は、平成23年分の収入金額に算入されるべきではない旨主張する。そして、請求人は、上記1の請求日について、報酬額等計算書又は○○清算書のデータの最終更新日の数日後に、顧客に対して報酬額等計算書又は○○清算書を送信しているとして、当該顧客に係る報酬額等計算書又は○○清算書及びこれらのデータの保存日が表示されたパソコンの画面を写した書面を証拠として提出する。
         しかしながら、請求人が証拠として提出した上記計算書及び清算書には、顧客の署名及び日付の記載がないことから、当該計算書が実際に顧客に交付されたものであるか否かは不明であり、当該計算書及び清算書のデータの保存日(最終更新日)の数日後にこれが顧客に送付されたとは認められない。そして、その他、請求人が、その主張する日に当該顧客に対して報酬を請求したと認めるに足りる証拠はない。したがって、区分4の収入について、それらの顧客に対する報酬の一部の請求日が平成23年以外であるとは認められず、上記1の主張は採用することができない。
         また、上記2の主張については、上記Cのとおり、採用することができない。
         したがって、請求人の主張は採用することができない。
      • E 小括
         以上のとおり、本件収入2についての請求人の主張はいずれも採用することができず、その他、平成23年分に計上すべき本件収入2の金額が別表4−1の「申告額」欄記載の金額と異なることを認めるに足りる証拠はない。
         したがって、平成23年分に計上すべき本件収入2の金額は、別表4−1の「申告額」欄記載の金額であり、先行所得税更正処分における金額と同額である。
    • (ハ) 本件収入3について
       本件収入3について、原処分庁は、本件所得税更正請求で主張しなかった事実であることから、これを新たに主張して本件所得税通知処分の取消しを求めることはできない旨主張し、一方、請求人は、当該更正請求において主張した事実と同じく○○業務に関する事実であり、当該更正請求において主張された事実と全く関係のない事実ではないことから、本件収入3について主張して本件所得税通知処分の取消しを求めることができる旨主張している。
       この点、更正の請求が、提出した申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内の請求期限を設け(通則法第23条第1項)、その理由等を記載した更正請求書を課税庁に提出すること(同条第3項)を求めていることに鑑みれば、租税法律関係の早期安定及び税務行政の能率的な運営等を図る趣旨から、少なくとも更正請求期限を経過した後においては、更正請求書に記載しなかった事由を当該通知処分の違法事由として新たに主張することは許されないと解すべきである。
       これを本件についてみると、請求人は、本件所得税更正請求に係る更正請求書において、平成23年分として計上された収入金額のうち、顧客113名の収入(本件収入1)について、これらの収入すべき時期が平成23年分ではないという事由を記載し(上記1の(3)のハの(イ))、平成30年4月6日に行われた本件審査請求段階になって、当該更正請求書に記載しなかった他の顧客48名の収入(本件収入3)について、平成23年分の収入ではない又は金額が相違していると新たな事由を主張した(同(二))。そして、本件所得税更正請求の対象とされた国税は、平成23年分の所得税であり(同(イ))、その更正請求期限は、通則法第23条第1項の規定により、同年分の所得税の法定申告期限(平成24年3月15日)から5年経過後の平成29年3月15日であるから、請求人が本件審査請求をした平成30年4月6日時点で、平成23年分の所得税に係る更正請求期間が経過していることは明らかである。そうすると、本件審査請求において新たに主張された請求人の顧客48名の収入(本件収入3)に係る上記事由は、本件所得税通知処分の違法事由として主張することが許されないというべきである。
       したがって、本件収入3に係る請求人の主張は、その内容の当否について検討するまでもなく採用することができず(なお、上記の点はさておき、その主張内容をみても、いずれも、本件収入2に係る区分1ないし区分4について述べたと同種、同様の排斥理由が妥当し、請求人の主張を採用することができないことに変わりはない。)、平成23年分に計上すべき本件収入3の金額は、先行所得税更正処分のとおり、別表4−2の「申告額」欄記載の金額であるとすべきである。
    • (二) 小括
       以上より、平成23年分に計上すべき本件各収入の金額は、いずれも先行所得税更正処分のとおり、本件収入1が合計○○○○円、本件収入3が合計○○○○円である。

(2) 争点2(本件各費用の必要経費への算入の可否)について

  • イ 法令解釈
     事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」(所得税法第37条第1項)については、必要経費に算入されない家事費(同法第45条第1項第1号)と必要経費とを明確に区分する必要があることなどからすると、客観的にみて、当該支出が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であることを要すると解するのが相当である。
     なお、家事関連費については、所得税法施行令第96条第1号において、必要経費へ算入するためには、家事関連費の主たる部分が事業所得等を生ずべき収入を得るための業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明確に区分することができることが必要であると規定していることから、当該金額の主たる部分が1事業所得等を生ずべき業務の遂行上必要であること、及び2その必要な部分の金額が明確に区分されていることが必要であると解される。
  • ロ 当てはめ
    • (イ) 本件地代家賃等
       先行所得税更正処分では、本件自宅兼事務所の賃料及び水道光熱費のうち50パーセント相当額が必要経費に算入されていたところ(原処分関係資料)、請求人は、本件自宅兼事務所について、事務所として、平成23年1月から6月については67パーセント、同年7月から11月については86パーセントを使用していたことから、当該割合に従って計算した上記賃料及び水道光熱費が必要経費に算入されるとして、先行所得税更正処分において必要経費に算入された上記賃料及び水道光熱費を超える本件地代家賃等が必要経費に算入される旨主張する。
       しかしながら、請求人は、当審判所に対し、本件自宅兼事務所のうち、一部屋は事務所専用として使用し、残りの部分については、生活に使用していた部分と事務所として顧客との面談や執務等に使用していた部分とを区別していなかった旨答述しており、そのような答述からは、本件自宅兼事務所のうち事務所として使用していた部分の割合が、先行所得税更正処分における割合である50パーセントを超えるのか否かが明らかにはならない。また、その他本件全証拠を検討しても、本件自宅兼事務所のうち事務所として使用していた部分の割合が50パーセントを超えるとは認められない。
       したがって、本件自宅兼事務所の賃料及び水道光熱費のうち50パーセントを超える部分である本件地代家賃等は、客観的にみて、事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であるとは認められず、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。
    • (ロ) 本件保険料
       当審判所の調査の結果によれば、本件保険料は、請求人が居住していた本件自宅兼事務所の家財等に係る損害保険料の支出であると認められるから、請求人が私的に利用していた家財もその保険の目的物に含まれる。そうすると、仮に、本件自宅兼事務所の家財の中に事業のために用いていた資産があったとしても、本件保険料は、家事関連費となるところ、本件全証拠を検討しても、本件自宅兼事務所の家財に係る請求人の利用状況が明らかではないことから、本件保険料のうち業務の遂行上必要である部分の金額を明確に区分することはできない。
       したがって、本件保険料は、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。
    • (ハ) 本件海外渡航費
       請求人は、本件海外渡航費について、平成23年当時立上げの準備をしていた本件結婚紹介ビジネスの視察及び打合せのためにウクライナへ渡航した費用であるから必要経費に該当する旨主張し、その証拠として、航空券の領収書、ウクライナの結婚相談所のホームページ及び請求人がビジネスパートナーと称する同相談所の代表者らとのメールの写しを提出する。
       しかしながら、請求人の提出する上記領収書及びホームページは、本件海外渡航費に係る渡航における請求人の行動内容を明らかにするものではなく、また、上記メールの写しには、当該渡航における請求人の行動内容に関するメールが含まれておらず(請求人提出資料)、これらの証拠からは、当該渡航における請求人の行動内容が明らかにはならない。そして、請求人は、当審判所の求めにもかかわらず、上記渡航における請求人の行動内容を示す証拠を提出しない。
       したがって、請求人が当該渡航において実際に本件結婚紹介ビジネスに関わる業務を行ったものとは認められないから、本件海外渡航費は、客観的にみて、事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であるとは認められず、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。
    • (二) 本件国内交通費
       請求人は、本件国内交通費について、業務用の自動車に係るガソリンチケットの購入費用、駐車料金及び高速道路通行料金並びに研修への参加のための移動に係る航空券の購入費用であり、業務上必要な移動に際して発生したものであるから必要経費に該当する旨主張し、各費用に係る領収書を証拠として提出する。
       しかしながら、ガソリンチケットの購入費用についてみると、請求人は、当審判所に対し、所有する自動車は1台であり、食事のための移動等の際にも同車両を利用していた旨答述しており、同車両が業務以外の用途に利用されていなかったことを認めるに足りる証拠もない。そうすると、上記車両は、業務だけでなく家事用にも使用されていたというべきであるから、ガソリンチケットの購入費用は、家事関連費に当たるというべきである。そして、本件全証拠を検討しても、上記車両に係る請求人の利用状況は明らかではなく、ガソリンチケットの購入費用のうち業務の遂行上必要である部分の金額を明確に区分することはできないから、ガソリンチケットの購入費用は、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。
       また、駐車料金及び高速道路通行料金並びに研修への参加のための移動に係る航空券の購入費用についてみると、請求人の提出した領収書は、当該各費用に係る移動を業務目的で行ったことを認めるに足りる証拠ではなく、その他、当該移動の個別具体的な目的や業務内容を認めるに足りる証拠はない。したがって、当該費用は、客観的にみて、事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であるとは認められないから、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。
       したがって、本件国内交通費は、いずれも請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。
    • (ホ) 本件教材購入費
       請求人は、本件教材購入費は、本件結婚紹介ビジネスのために必要な語学を習得する目的でラジオ英会話教材を購入した際に支出したものであるから、必要経費に該当する旨主張する。
       しかしながら、本件教材購入費により購入されたラジオ英会話教材は、一般的には、英会話という自己啓発のための教材であるから、本件教材購入費は、家事費というべきである。仮に、請求人にとって英会話を学ぶことが業務の遂行上何かしら必要であったとしても、英会話を学ぶことの自己啓発としての側面があることは否定し難いことから、本件教材購入費は、家事関連費に該当するところ、そのうち業務上必要な部分の金額を明確に特定することは困難であるといわざるを得ない。
       したがって、本件教材購入費は、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。
    • (へ) 本件福利厚生費
       請求人は、本件福利厚生費は、個人事業主である自身の慰安を目的として入会したスポーツクラブの会費であるから、必要経費である旨主張する。
       しかしながら、請求人の営んでいた○○業は、その業務の遂行上スポーツクラブを利用する必要性が認められる業種ではないため、請求人の支出したスポーツクラブの会費は、請求人個人の慰安、健康増進やストレス解消を目的としたものであり、家事費に当たるというべきである。
       したがって、本件福利厚生費は、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。
    • (ト) 本件青汁購入費及び本件扇風機購入費
       請求人は、本件青汁購入費は、本件事務所で顧客に接待として提供した青汁を購入した際の費用であり、また、本件扇風機購入費は、本件自宅兼事務所で使用していた扇風機を購入した際の費用であるから、いずれも必要経費に該当する旨主張し、証拠として各購入に係る領収書を提出する。
       しかしながら、請求人の提出する領収書は、本件青汁購入費や本件扇風機購入費により購入された青汁や扇風機を業務目的で使用したことを認めるに足りる証拠ではなく、その他、上記青汁や扇風機が業務のために使われたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、本件青汁購入費及び本件扇風機購入費は、いずれも客観的にみて、事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であるものと認めることはできないから、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。
    • (チ) 本件事業廃止後経費
       請求人は、事業廃止年分である平成24年分の確定申告において必要経費に計上漏れがあり、これを修正することで同年分に必要経費として算入される事業廃止後経費の金額が減額するから、それに伴い平成23年分に必要経費として算入する事業廃止後経費の金額が増額するとして、その増額する金額である本件事業廃止後経費が必要経費に算入される旨主張する。
       しかしながら、所得税法施行令第179条は、事業廃止後経費について、1まず、事業廃止年分の事業所得の金額の計算上、当該事業廃止後経費の「金額が生じた時の直前において確定している」事業廃止年分の事業所得の金額など同条第1号イ又はロのいずれか低い金額の限度で必要経費に算入し、2次に、事業廃止年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されなかった金額があれば、その金額について、事業廃止前年分の事業所得の金額の計算上、当該事業廃止後経費の「金額が生じた時の直前において確定している」事業廃止前年分の事業所得の金額など同条第2号イ又はロのいずれか低い金額の限度で必要経費に算入する旨規定している。このように、事業廃止前年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入される事業廃止後経費の金額は、事業廃止年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入される事業廃止後経費の金額を計算した後に明らかになるところ、事業廃止年分の事業所得の計算上必要経費に算入される事業廃止後経費の金額は、同条の文理上、当該事業廃止後経費の「金額が生じた時の直前において確定している」(同条第1号イ、ロ)事業廃止年分の事業所得の金額等を基に計算することは明らかである。そうすると、事業廃止前年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入される事業廃止後経費の金額は、当該事業廃止後経費の「金額が生じた時の直前において確定している」事業廃止年分の事業所得の金額等を基に計算するものであり、たとえ事業廃止年分の事業所得等の金額が、事業廃止後経費の発生後に更正処分等により変わったとしても、増減しないこととなる。
       これを本件についてみると、事業廃止後経費である本件事業税等は、請求人の平成21年分ないし平成23年分の事業税及び平成21年1月1日から平成21年12月31日までの課税期間ないし平成24年1月1日から平成24年12月31日までの課税期間の消費税等であり、請求人が、平成26年5月8日に上記各年分の所得税及び上記各課税期間の消費税等の各確定申告書を提出したことにより発生したものである(当審判所の調査の結果)。他方、請求人は、事業廃止年分である平成24年分の所得税について、本件事業税等の基となる上記各申告書の提出日と同じ平成26年5月8日に確定申告書を提出しているから、本件事業税等の生じた時の直前において確定している平成24年分の事業所得等の金額は、同年分の上記確定申告書に記載された金額である。したがって、上記説示によれば、事業廃止前年分である平成23年分の事業所得の計算上必要経費に算入される本件事業税等の金額は、事業廃止年分である平成24年分の上記確定申告書に記載された金額を基に計算すべきものであり、当該申告書提出後に当該申告書の必要経費に計上漏れがあったことが明らかになったとしても、増減しない。
       したがって、平成24年分の確定申告における必要経費の計上漏れを修正することにより平成23年分の事業所得の計算上必要経費に算入される本件事業税等の金額が増加する旨の請求人の主張は採用することができず、請求人がその増加額として主張する本件事業廃止後経費は、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。
    • (リ) 小括
       以上より、本件各費用は、いずれも平成23年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されない。

(3) 争点3(仕入税額控除の適用の有無)について

  • イ 法令解釈
     消費税法第30条第7項によれば、法定帳簿及び法定請求書等を保存していない場合には仕入税額控除が適用されないことになるが、このような法的不利益が特に定められたのは、資産の譲渡等が連鎖的に行われる中で、広く、かつ、薄く資産の譲渡等に課税するという消費税により適正な税収を確保するには、法定帳簿及び法定請求書等という確実な資料を保存させることが必要不可欠であると判断されたためであると考えられる。
     以上によれば、事業者が、消費税法施行令第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》第1項に定めるとおり、同法第30条第7項に規定する法定帳簿及び法定請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存することを要し、事業者がこれを行っていなかった場合には、事業者が災害その他やむを得ない事情によりこれをすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書)、仕入税額控除の規定は適用されないものというべきである(最高裁平成16年12月16日第一小法廷判決・民集58巻9号2458頁参照)。
  • ロ 検討
     上記1の(3)のロの(ハ)のとおり、請求人は、本件K局調査及び本件実地調査において、法定帳簿を提示しなかったことから(請求人もこの点について争っていない。)、法定帳簿を税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えていなかったものと認められる。そうすると、上記イによれば、請求人が消費税法第30条第7項ただし書の「やむを得ない事情」を証明しない限り、仕入税額控除は適用されないところ、請求人は、要するに、本件K局調査及び本件実地調査における応答により、「仕入税額控除の帳簿」という名前の帳簿を作成していなければ仕入税額控除の適用が受けられないと誤解したため、作成していた法定帳簿を提示しなかったとして、上記「やむを得ない事情」を主張する。
     しかしながら、請求人の主張する上記の事情は、仮にその主張どおりの事実があったとしても、法の不知・誤解に基づくものであるから、消費税法第30条第7項ただし書の「やむを得ない事情」には当たらないというべきである。したがって、平成23年課税期間の消費税等の金額の計算上、仕入税額控除は適用されない。

5 原処分の適法性について

上記4の(1)のハの(二)のとおり、平成23年分に計上すべき本件各収入の金額は、本件収入1が合計○○○○円、本件収入3が合計○○○○円であり、上記4の(2)のロの(リ)のとおり、本件各費用は、いずれも平成23年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。そして、これらに基づき計算した請求人の平成23年分の総所得金額及び所得税額は、別表1の「更正処分等」欄の額と同額となる。
 次に、上記のとおり、平成23年分に計上すべき本件各収入の金額は、本件収入1が合計○○○○円、本件収入3が合計○○○○円であるから、これらの金額の税抜金額を平成23年課税期間の消費税等の課税標準額に計上すべきである。また、上記4の(3)のロのとおり、平成23年課税期間の消費税等の額の算定に当たり、仕入税額控除を適用することはできない。そして、これらに基づき計算した請求人の平成23年課税期間の消費税等の課税標準額、控除対象仕入税額及び納付すべき消費税額等の額は、別表2の「確定申告」欄の額と同額となる。
 なお、本件各通知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各通知処分はいずれも適法である。

6 結論

よって、本件審査請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとする。

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