(令和元年5月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、漢方薬等の購入費用を医療費控除の対象として平成28年分の所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該漢方薬等の購入費用は医療費控除の対象となる医療費に該当しないなどとして所得税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

別紙のとおりである。なお、別紙で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人の実母であるF(以下「請求人母」という。)は、請求人と生計を一にする親族である。
  • ロ 請求人は、平成28年分の所得税及び復興特別所得税(以下、所得税及び復興特別所得税を併せて「所得税等」という。)について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
     請求人は、別表2の「購入品目」欄に掲げるとおり、G社(以下「本件製薬会社」という。)を製造販売元とするH1、H2、H3及びH4(以下、これらを併せて「本件漢方等」という。また、「H1」及び「H2」を併せて「本件H1等」といい、「H3」及び「H4」を併せて「本件H3等」という。)をインターネットを通じて薬局等(ウェブショップ)から購入し、その購入費用を医療費控除の対象となる医療費の金額に含めて申告した。
  • ハ 原処分庁は、上記ロの医療費控除の額について、本件漢方等の購入費用は医療費控除の対象となる医療費に該当しないとして、平成30年3月16日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、平成28年分の所得税等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
  • ニ 請求人は、原処分に不服があるとして、平成30年6月1日に審査請求をした。
     なお、本件H3等は、所得税法第73条第2項及び所得税法施行令第207条第2号(以下「本件各所得税法等規定」という。)に規定する「医薬品」に該当するものであり、このことについて当事者間に争いはない。

2 争点

本件漢方等の購入費用は医療費控除の対象となる医療費に該当するか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
本件漢方等の購入費用は、以下の理由から、いずれも医療費控除の対象となる医療費に該当しない。 本件漢方等の購入費用は、以下の理由から、いずれも医療費控除の対象となる医療費に該当する。
(1) 本件H1等は、以下のとおり、本件各所得税法等規定に規定する医薬品に該当しない。 (1) 本件H1等は、以下のとおり、本件各所得税法等規定に規定する医薬品に該当する。
イ 本件通達の定めによれば、医療費控除の対象となる医薬品は、薬機法第2条第1項に規定する医薬品をいうとされているところ、本件H1等は健康補助食品であり、同項に規定する医薬品に該当しない。
 なお、法的安定性及び課税上の公平の見地からすれば、医療費控除の対象となる医薬品について、社会通念に照らして医薬品と判断できるものと曖昧に広く解釈することはできない。
イ 薬機法第2条第1項の医薬品の定義は、もともと最高裁判例、学説及び厚生労働省通達において広く解されており、それらの見解に従えば、本件H1等はいずれも同項の医薬品に該当する。
ロ 薬機法第50条及び第51条には医薬品の直接の容器等に記載されていなければならない事項が規定されているが、本件H1等には当該記載事項の表示が確認できないため、本件H1等は薬機法第2条第1項に規定する医薬品に該当しない。 ロ 本件H1等は薬機法上の大臣指定された医薬品ではないが、H1の成分に含まれるステアリン酸Ca及びH2の主成分であるデキストリンは、日本薬局方に収載されている上、本件H1等は「使用目的・効能効果・用法用量」が表示され、「その販売方法」は薬局でのみ販売され、薬剤師の指導の下に治療に使用されているのであるから、いずれも薬機法第2条第1項の医薬品に該当する。
ハ 薬機法第50条の規定に第2類医薬品等の記載義務が含まれたのは、平成18年6月14日法律第69号による改正においてであり、原処分庁が依拠する本件通達は、当該改正前後で変わらず薬機法第2条第1項の規定を参照し続けていることからも、薬機法第50条の記載の表示義務の有無によって薬機法第2条第1項の医薬品該当性が判断されるものでないことは、明らかである。
ニ 所得税法は「医薬品」について特段の定義規定を置かず、薬機法の規定を参照する明文規定も欠いていることから、所得税法にいう「医薬品」の範囲については、社会通念に照らして医薬品と判断できるものが対象であり、薬局でのみ販売され、薬剤師等の指導の下に治療として用いられているものは、社会通念上「医薬品」に該当する。
 また、本件通達は、医薬品の定義について薬機法第2条第1項を参照しているものの、これは一切の例外を許容しないものではなく、課税上の取扱いをみれば、丸山ワクチンや平成20年10月以前のサリドマイドはいずれも薬機法にいう医薬品の定義から外れているものの、その購入費用が医療費控除の対象に含まれるものとされている。
 そうすると、仮に、本件H1等が、薬機法上の医薬品に該当しないとしても、医療費控除の対象に含まれると解するのが相当である。
(2) 仮に、本件漢方等が「医薬品」に該当するとしても、本件漢方等の購入が請求人母の治療又は療養に必要なものであったとは認められないことから、本件各所得税法等規定に規定する「治療又は療養に必要」な医薬品の購入に該当しない。 (2) 本件漢方等の購入は本件各所得税法等規定に規定する「治療又は療養に必要」な医薬品の購入に該当し、このことは、以下のとおり立証されている。
イ 薬剤師作成の文書
 請求人は本件漢方等をインターネットを利用して購入しているところ、その購入先であるL1薬剤師及びL2薬剤師に、請求人母との間にその治療のために必要だと判断できるだけの面識があるとは考えられない。
 また、請求人には、L3薬剤師のいるL4社(以下「本件薬局」という。)での本件漢方等の購入はなく、L3薬剤師の文書では本件漢方等が請求人母の治療のために必要であることを確認できない。
イ 本件漢方等が請求人母の「治療又は療養に必要」であることの判断権者は医師に限定されるものではなく、少なくとも薬剤師も含まれることは、本件各所得税法等規定の文理解釈、これらの規定の制定の沿革、所得税法上の医療費控除の対象となる「医薬品」概念等の通説、裁判例、所得税法が医療費控除を設けた立法趣旨及び薬機法の規定から明らかとなっている。
 また、薬剤師が、薬効が記載された医薬品添付文書を添えた書面によって、治療の必要性を明らかにした場合には、その治療に必要であることの具体的な主張立証があるので、医療費控除の要件を満たしていると解すべきである。
ロ 健康診断結果の通知書
 請求人母の健康診断の結果と本件漢方等の効果の因果関係は必ずしもあるとはいえず、このことをもって本件漢方等が治療に必要であるとは認められない。
ロ 請求人母の病状が、○○、○○、○○、○○(以下「本件各症状」という。)であることは、請求人が作成し原処分庁に提出した平成29年9月11日付文書から明らかである。
ハ 医師の診断書
 請求人母は、医療法人M1会M2病院のM3医師の診断書によると、内服薬の処方は不要であり、単に、健康維持のために本件漢方等を服用していると考えるのが自然である。
ハ 本件漢方等が請求人母の「治療又は療養に必要」なものであることは、L1薬剤師、L2薬剤師及びL3薬剤師の文書並びに健康診断結果通知書のほか、M3医師の診断書などの各証拠から、本件漢方等ごとに、その効能、服用に至った経緯、その効果の三点にわたって検討し、請求人母の治療に必要性があったとの結論が明らかとなっている。
 原処分庁の主張は、各証拠を分断して判断したものにすぎず、請求人の立証に対する総合的判断を欠いたものである。

4 当審判所の判断

(1) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件漢方等について
    • (イ) 本件H1等
      • A H1
        • (A) 本件製薬会社の回答によれば、H1の製造販売について薬機法第14条第1項に規定する厚生労働大臣の承認を受けておらず、健康補助食品として販売し、本製品の説明文書等に記載された使用期限、用法、用量等が守られなかった場合、身体への何らかの影響は懸念されない。
        • (B) 本件製薬会社の作成した「健康食品の製品情報及び提供時の注意事項について」と題する書面では、H1の原材料名について、1その主成分を、軟骨抽出物(○○を含む)、サメ軟骨抽出物とし、2添加物として、グルコサミン(カニ・エビ由来)、セルロース、ステアリン酸Ca、CMC-Ca、酸化ケイ素としている。
        • (C) 本件製薬会社のホームページ上の製品ガイドには、H1について、「健康補助食品」である旨の記載のほか、「○○。グルコサミン、コンドロイチン硫酸・コラーゲン(U)を含有。○○○○。『○○○○』-それがH1です。」、「○○中にグルコサミン○○mg、○○・サメ軟骨抽出物○○mg、コンドロイチン硫酸○○mg、コラーゲン(U)○○r」が含有される旨、内容量は「○○g(○○r×○○)」である旨、「1日○○程度を目安に水などと共にお召し上がりください。」との記載がある。
      • B H2
        • (A) 本件製薬会社の回答によれば、H2の製造販売について薬機法第14条第1項に規定する厚生労働大臣の承認を受けておらず、健康補助食品として販売し、本製品の説明文書等に記載された使用期限、用法、用量等が守られなかった場合、身体への何らかの影響は懸念されない。
        • (B) 本件製薬会社の作成した「健康食品の製品情報及び提供時の注意事項について」と題する書面では、H2の原材料名について、1その主成分を、Nとし、2添加物として、デキストリン、乳糖、ショ糖エステル、安定剤(メチルセルロース)としている。
        • (C) 本件製薬会社のホームページ上の製品ガイドには、H2について、「健康補助食品」である旨の記載のほか、「○○○」る旨、「○○」などと記載がある。また、「1包中にN○○r」が含有される旨の記載のほか、内容量は「○○g(○○g×○○)」である旨、「1日に○○程度を目安に水などと共にお召し上がりください。」、「妊婦・授乳期のご婦人、お子様はご利用を控えて下さい。」との記載がある。
    • (ロ) 本件H3等
      • A H3
        • (A) 薬機法第36条の7第1項第2号に規定する第2類医薬品に該当する。
        • (B) 製品の特徴は、○○や○○など○種の生薬を配合した医薬品で、血液の流れをよくして血色不良や冷え症を改善するとともに、虚弱体質や肉体疲労時などにも優れた効果を現す滋養強壮剤であるとされている。
        • (C) 効能効果は、虚弱体質、肉体疲労、○○の場合の滋養強壮とされている。
      • B H4
        • (A) 薬機法第36条の7第1項第3号に規定する第3類医薬品に該当する。
        • (B) 製品の特徴は、○○の滋養強壮に優れた効果を発揮する○○と○○を配合した飲みやすい○○剤であるとされている。
        • (C) 効能効果は、虚弱体質、肉体疲労、○○の場合の滋養強壮とされている。
    • (ハ) 本件漢方等の購入状況等
       本件H1等は、医薬品販売の許可を受けていない事業者によっても販売することができるものである。また、請求人の本件漢方等の購入代金の支払先は、別表2の「支払先等」欄に掲げるとおりいずれも薬局等であるが、本件薬局からの購入はない。
  • ロ 請求人母の病状に係る医師の診断の状況について
    • (イ) 請求人母は、平成26年10月30日、医療法人M4において、特定健康診査を受けた。当該受診の結果が記載された受診結果通知表には、M5医師の判断として、○○、○○である旨、塩分、カロリー摂取を控え、運動を心掛け、○○に関してはなるべく早くかかりつけ医を受診するよう指導する旨の記載がされていた。
    • (ロ) 請求人母は、平成27年10月23日、M6診療所において、特定健康診査を受けた。当該受診の結果が記載された受診結果通知表には、M7医師の判断として、「○○機能要受診、要医療:○○、○○」との記載がされていた。
    • (ハ) 請求人母は、平成27年9月9日、M2病院を初めて受診し、その後おおむね2か月に一度、少なくとも平成30年5月7日までの15回にわたり、同病院を受診し○○や○○の検査などを行った。平成29年7月31日の検査詳細情報では、○○及び○○の欄に基準値よりも高値を示す「H」の表示がある。

(2) 法令解釈

所得税法における医療費控除の制度は、多額の医療費の支出を余儀なくされた場合における担税力の減殺を調整する目的で創設されたものである。そして、現行の医療費控除の制度は、当該控除の対象となる医療費の範囲を、所得税法第73条第2項において、1医師又は歯科医師による診療又は治療、2治療又は療養に必要な医薬品の購入及び3その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の各対価のうち「通常必要であると認められるものとして政令で定めるもの」をいう旨規定し、これを受けて所得税法施行令第207条において、上記1ないし3の各対価のうち「その病状等の状況に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額」とする旨限定的に規定し、その限りで担税力の減殺を調整し、もって所得税の公平な負担を図ることとしている。
 このような医療費控除の制度の目的及び内容に照らせば、所得税法施行令第207条の規定の解釈及び適用に当たっては、税負担の公平の本旨に反しないよう、一義的にされるべきであり、法令上、個々の納税者の主観や価値観によって解釈を変更し、その適用範囲を拡大することが許されているとは解されない。
 本件通達は、所得税法施行令第207条第2号に規定する医薬品とは、薬機法第2条第1項に規定する医薬品をいい、同項に規定する医薬品に該当するものであっても、疾病の予防又は健康増進のために供されるものの購入の対価は医療費に該当しない旨定めており、本件通達の定める取扱いは、上記法令の内容に照らしても肯定し得るものであるから、当審判所においてもこれを相当と認める。

(3) 検討

  • イ 本件H1等が本件各所得税法等規定に規定する「医薬品」に該当するか否かについて
    • (イ) 薬機法第2条第1項は、別紙の2の(2)のとおり、「医薬品」とは、1日本薬局方に収められている物、2人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具等でないもの、3人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、機械器具等でないもののいずれかに該当する物をいう旨規定している。
       上記1の「日本薬局方に収められている物」に関しては、一般的に、日本薬局方に収載されている物は全て医薬品であるが、その使用目的が食品用、化学工業用等に限定される場合には医薬品から除外され、また、ある物が日本薬局方に収載されている物に該当するか否かは、社会通念によって判断すべきである。
       また、一般的に、人が経口的に服用する物が、上記2及び3の医薬品に該当するか否かは、医薬品としての目的を有しているか、又は通常人が医薬品としての目的を有するものであると認識するかどうかにより判断し、当該目的を有するものであると認識するかどうかは、その物の成分本質(原材料)、形状(剤型、容器、包装、意匠等)及びその物に表示された使用目的、効能効果、用法用量並びに販売方法、販売の際の演述等を総合的に判断すべきものである。
      (以上につき、請求人が当審判所に甲第5号証として提出した「逐条解説 医薬品医療機器法 第一部」(薬事法規研究会編)にも同旨の記載があるところである。)
    • (ロ) 以上を前提に本件について判断すると、本件H1等には、上記(1)のイの(イ)のAの(B)の2及び同Bの(B)の2のとおり、それぞれステアリン酸Ca及びデキストリンが含まれているところ、これらはいずれも日本薬局方に収載された成分ではある。しかしながら、本件H1等は、上記(1)のイの(イ)のA及びBのとおり、本件製薬会社は健康補助食品として製造販売しており、その製品情報やホームページの製品ガイドの記載は、食品表示法第5条及び同条に規定する食品表示基準に基づいて記載されたものと認められ、その製品を服用する対象者についても、○○たい方や○○たい方などとされ、医薬品のような効能効果の記載は認められない。そうすると、本件H1等は、その使用目的が食用に限定されているものであるといえる。
       また、日本薬局方に収載されていない製品であっても、医薬品としての目的を有しているか、又は、通常人が医薬品としての目的を有するものであると認識するものは、薬機法第2条第1項第2号又は第3号(上記(イ)の2又は3)の規定に該当するところ、本件H1等は、上記のとおり食用を目的としているものであり、上記(1)のイの(イ)の製品表示などを見る限りにおいて、通常人が医薬品としての目的を有するものであると認識するとはいえない。
       以上のことから、本件H1等は、いずれも薬機法第2条第1項各号に規定する「医薬品」に該当しないと認められる。そうすると、上記(2)のとおり、所得税法施行令第207条第2号に規定する「医薬品」は薬機法第2条第1項に規定する医薬品をいうものと解するのが相当であるところ、同項に規定する医薬品に該当しない本件H1等は、本件各所得税法等規定に規定する「医薬品」に該当しないから、その購入の対価は医療費控除の対象となる医療費に該当しないというべきである。
    • (ハ) 請求人の主張について
      • A 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のイないしハのとおり、1薬機法第2条第1項の医薬品の定義に係る最高裁判例及び学説等の見解、2本件H1等の成分が日本薬局方に収載されている上、3本件H1等の使用に関する表示、販売方法、薬剤師等の指導の下に服用していることから医薬品であると解され、本件各所得税法等規定に規定する「医薬品」に該当する旨主張する。
         上記1について、請求人は、その根拠として薬機法第2条第1項の医薬品の意義について判示した最高裁昭和46年12月17日第二小法廷決定(刑集25巻9号1066頁)及び最高裁昭和57年9月28日第三小法廷判決(刑集36巻8号787頁)並びに医薬品の範囲に関する基準等を定めた「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(昭和46年6月1日薬発第476号)を解説する学説等を指摘する。上記最高裁判決は、薬機法第2条第1項第2号の医薬品の該当性を述べるものであり、同号にいう「医薬品とは、その物の成分、形状、名称、その物に表示された使用目的・効能効果・用法用量、販売方法、その際の演述・宣伝などを総合して、その物が通常人の理解において『人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている』と認められる物をい」う旨判示しており、上記の昭和46年6月1日薬発第476号の基準も同様であると解される。
         請求人は、これらの基準に従えば、未承認の医薬品であっても薬機法上の医薬品になり得ることをもって「広く解されている」というように表現しているものと解されるが、これらの判断基準は、上記イの(イ)において当審判所が判断の基準とした内容とおおむね同様であり、本件H1等は、この基準に当てはめた結果、薬機法第2条第1項第2号又は第3号に規定する医薬品に該当しないと判断したものである。したがって、「広く解されている」という意味はともかくとして、請求人の主張には理由がない。
         また、上記2については、本件H1等に日本薬局方に収載された成分が含まれていたとしても、本件H1等は使用目的が食用に限定されているものといえることは上記(ロ)のとおりであるから、請求人の主張には理由がない。
         さらに、請求人の上記3の主張については、所得税法は薬機法第2条第1項に規定する医薬品を医療費控除の対象としているのであって、そもそも医薬品でないものを使用に関する表示及び販売方法から、また、薬剤師等の指導の下に服用したところで医薬品に該当するとする根拠はないから、請求人の主張には理由がない。
      • B 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のニの前段のとおり、所得税法は「医薬品」について特段の定義規定を置かず、薬機法の規定を参照する明文規定も欠いていることから、所得税法にいう「医薬品」の範囲については、社会通念に照らして医薬品と判断できるものが対象であり、薬局でのみ販売され、薬剤師等の指導の下に治療として用いられているものは、社会通念上「医薬品」に該当するものと解されるとし、仮に、本件H1等が薬機法上の医薬品に該当しないとしても、本件各所得税法等規定に規定する「医薬品」に該当する旨主張する。
         しかしながら、上記(2)のとおり、所得税法における医療費控除の制度の目的及び内容に照らせば、所得税法施行令第207条の規定の解釈及び適用は、税負担の公平の本旨に反しないよう一義的にされるべきものであり、同条第2号に規定する「医薬品」は薬機法第2条第1項に規定する医薬品をいうものと解すべきところ、本件H1等は、本件各所得税法等規定に規定する「医薬品」に該当しないことは上記(ロ)のとおりであり、社会通念でこれを判断すべきとする請求人の主張には理由がない。
      • C 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のニの後段のとおり、本件通達は、医薬品の定義について薬機法第2条第1項を参照しているものの、これは一切の例外を許容しないものではなく、丸山ワクチンや平成20年10月以前のサリドマイドの例を挙げて、仮に、本件H1等が薬機法上の医薬品に該当しないとしても、本件各所得税法等規定に規定する医薬品に該当する旨主張する。
         しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、丸山ワクチンは、厚生労働省により有償治験薬と認められており、主治医の判断の下、主治医により悪性腫瘍患者に対する皮下注射が行われることが想定されていることが認められ、医師の許可がない限り購入することができず、その購入費用は、医師等による診療等を受けるため直接必要な費用として、所得税法施行令第207条第1号に規定する「医師による診療等」の対価に当たると解することができる。
         また、当審判所の調査の結果によれば、サリドマイドは、旧薬事法(現薬機法)上の承認薬として国内において販売製造されていない時期においても、多発性骨髄腫患者に対して一定の有効性があることが一般的に認められ、輸入時に必要となる厚生労働省確認済輸入報告書(いわゆる薬監証明)を得た上で輸入され、臨床使用がされていたという実態があり、平成15年頃からは、厚生労働省においても安全な使用のための方策の検討が行われ、平成20年10月16日に多発性骨髄腫の治療薬として再承認されるに至ったという薬剤であるところ、当該薬剤について、未承認薬の状態にあったにもかかわらず、その購入費用が医療費控除の対象として認められていたのは、当該薬剤の上記のような特殊性に照らした特別な取扱いであったことがうかがわれる。この点、本件H1等について上記のような特殊性があるとはいえず、本件H1等についてサリドマイドと同列に論ずることはできない。
         したがって、上記請求人の主張には理由がない。
  • ロ 本件漢方等の購入対価が「治療又は療養に必要な医薬品の購入」の対価であるといえるか否かについて
    • (イ) 検討
      • A はじめに
         本件H1等は、上記イのとおり、本件各所得税法等規定に規定する医薬品に該当せず、医療費控除の対象とはならない。そのため、本件漢方等のうち、本件H3等の購入対価が医療費控除の対象となる医療費に当たるか否か、すなわち、所得税法施行令第207条第2号に規定する「治療又は療養に必要な医薬品の購入」の対価であったか否かについて以下検討する。
         請求人は、本件H3等を上記1の(3)のロのとおり、インターネットを通じて薬局等(ウェブショップ)から購入したこと、本件H3等は、上記(1)のイの(ロ)のA及びBのとおり、薬機法第2条第1項所定の医薬品に当たるが、虚弱体質や肉体疲労の場合などの滋養強壮を効能効果として、疲労回復や健康維持のために用いられ、同(ハ)のとおり、医師の処方せんがなくても薬局等で購入可能なものであることが認められる。
         そして、請求人母は上記(1)のロの(ハ)のとおり、平成27年9月から継続的にM2病院において○○及び○○の検査を行っており、請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のロ及びハのとおり、請求人母に本件各症状があり、その治療の目的で本件漢方等を服用していた旨主張する。
         ところで、医薬品は、薬機法第50条及び第52条の規定により、効能効果等の所定の事項を記載することが義務付けられており、これらの情報を基に自己の症状等に照らして購入するのが一般的であると解されるところ、これに対し、本件H3等は、上記のとおり、医薬品ではあるものの、医師の処方せんがなくても薬局等で購入可能なものであり、また、その効能効果は滋養強壮であり(上記(1)のイの(ロ)のAの(C)及び同Bの(C))、一般的に疲労回復や健康維持のために用いられるものであることから、請求人母の本件各症状の治療と本件H3等の購入の関係が判然としないので、以下検討する。
      • B 本件H3等の「治療又は療養に必要な医薬品の購入」の該当性について
        • (A) M2病院のM3医師が平成30年5月7日付で作成した診断書(以下「本件診断書」という。)には、請求人母が定期的にM3医師の診察を受けている旨及び漢方薬と食事療法で経過をみていた旨の記載がある。
           しかしながら、M3医師の答述によれば、同医師は、初診時に請求人母から、H4を含む漢方薬等(ただし、H3は含まない。)を服用していたことを聴き取っているものの、自分は平成28年中における○○及び○○に対する内服薬の処方はしてない上、現在に至るまで、市販の医薬品や健康食品の服用を患者に指示したり勧めたりするようなことはないこと、本件診断書に記載のある「漢方薬」については、初診時に請求人母の今後の診療等に当たり、漢方薬の服用が治療の効果に悪影響を与える可能性を把握する目的で、どのような漢方薬等を服用しているのか確認したものであり、また、本件診断書の上記漢方薬と食事療法で経過をみていた旨の記載については、2か月か3か月に一度採血をして、○○や○○の測定をし、食事等の生活面のアドバイスをするとともに、漢方薬については、上記のような漢方薬等の服用が○○等に悪影響を及ぼさないかについて注意を払っていたことが認められる。そうすると、請求人母の本件H3等の服用は、M3医師の治療において、治療効果において注意を払うべきものではあるものの、当該治療に関係して服用されていたものとはいえない。したがって、本件診断書の記載及びM3医師の答述からは、本件H3等が請求人母の「治療又は療養に必要な医薬品」であったとはいえない。
        • (B) L2薬剤師が作成した書面並びにL3薬剤師が作成した平成29年9月8日付書面(以下「本件書面」という。)及びL3薬剤師の答述について検討する。
          • a 平成29年7月3日付文書と併せて請求人が原処分庁に提出したL5社、L6のL2薬剤師が作成した書面には、H4は、医療費控除の対象になる商品であり治療のための服用である旨、並びにH4が第3類医薬品である旨及びその効能効果が記載されているのみで、服用した者が誰であるかの記載はないから、この書面をもって、H4が請求人母の「治療又は療養に必要な医薬品」であったとはいえない。
          • b また、本件書面には、以前に請求人母の治療のために本件H3等を販売した旨、H3についてその効能効果を述べた上で請求人母には○○と○○の目的で使用したことがあった旨、また、その成分を述べた上で治療として使用している旨、H4についてその効能を述べた上で請求人母には○○及び○○ための薬として使用したことを覚えている旨の記載がある。そして、請求人母が作成した陳述書によれば、請求人母は、本件H3等を服用するに至った経緯について、平成26年以前、西洋医学に基づく内服薬の服用をしたものの改善がなく副作用があったこと等からL3薬剤師に相談し指導を受けて本件漢方等の常用を始めた旨、常用を始めて数年後からインターネットによる購入が多くなった後も引き続きL3薬剤師の指導の下服用し、体調に異変があった場合など必要の都度L3薬剤師に問い合わせて服用量の指導を継続して受けている旨を陳述していることが認められる。
             しかしながら、L3薬剤師の答述によれば、本件書面は平成24年当時の状況を記載したものであり、医療費控除の対象年分である平成28年の状況を示したものではないこと、本件H3等の販売は医師の処方によるものではないことが認められる。
             また、請求人のH3の購入状況は別表2のとおりであるところ、薬機法第52条第1項の規定によりH3について定める1日の用法用量(1日○回、1回○○)からすると2,040日分(○○本(1本当たり○○)×30日分)という大量なものであり、L3薬剤師の答述によれば同薬剤師は、請求人母の具体的な症状については本件薬局に来店した際の日常会話を通じて把握しているにすぎず、服薬指導においても、用法用量を超えて服用するといった指導の事実はなかったことが認められる。さらに、L3薬剤師のいる本件薬局は、別表2の「支払先等」欄に記載された購入先ではないことも合わせ考慮すると、L3薬剤師は、請求人等の求めに応じ、請求人母の服用量を知らずに本件書面のとおり、本件H3等が請求人母の治療に必要であったと記載したものと認められる。
             そして、本件H3等の効能効果はそれぞれ虚弱体質、肉体疲労、○○の場合の滋養強壮をうたっていることに照らすと、L3薬剤師が請求人母にこれらの服用を勧めた理由は自己の長年の経験に基づくものであってこれ以上の根拠はなく、結局のところ、請求人母は、平成24年までに本件H3等を上記の効能効果を目的に服用したことが認められるにとどまり、平成28年において本件H3等について請求人母の本件各症状の「治療又は療養に必要な」医薬品の購入があったとはいえない。
          • c 以上の検討の結果に照らすと、本件H3等は請求人母の治療又は療養に必要な医薬品ではなかったというべきであり、本件H3等の購入費用は、いずれも本件各所得税法等規定に規定する「治療又は療養に必要な医薬品の購入」の対価に該当しないから、医療費控除の対象となる医療費に該当しない。
    • (ロ) 請求人の主張について
      • A 請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のイのとおり、本件漢方等が請求人母の「治療又は療養に必要」であることの判断権者は医師に限定されるものではなく薬剤師も含まれ、また、薬剤師が、薬効の記載された医薬品添付文書を添えた書面によって治療の必要性を明らかにした場合には、その治療に必要であることの立証がされ医療費控除の要件を満たしている旨主張する。
         確かに、「治療又は療養に必要」であることの判断は、請求人の主張のとおり、医師の指示等がある場合に限定されるものではない。しかしながら、請求人が提出した各薬剤師が作成した書面は、上記請求人の主張する治療の必要性を明らかにしているとはいえず、また、本件H3等が請求人母の「治療又は療養に必要な医薬品」であったといえないことは上記(イ)のとおりである。
         したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
      • B 請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のハのとおり、本件H3等が請求人母の「治療又は療養に必要」であることは、本件診断書などの各証拠から、本件H3等ごとに、その効能、服用に至った経緯、その効果の三点にわたって検討し、請求人母の治療に必要性があったとの結論が明らかとなっている旨主張する。
         しかしながら、本件診断書から、本件H3等の服用をM3医師が指導したものと認められないことは、上記(イ)のBの(A)のとおりである。また、上記(1)のイの(ロ)のA及びBのとおり、本件H3等に係る効能効果は、それぞれ滋養強壮であり、上記(イ)の検討のとおり、本件H3等の購入は請求人母の本件各症状の治療又は療養に必要なものではなかったことが認められる。
         したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(4) 本件更正処分の適法性について

上記(3)のとおり、本件漢方等の購入費用は、いずれも医療費控除の対象となる医療費に該当しないから、別表2の「購入金額」欄の金額は、全て平成28年分の医療費控除の対象となる医療費に含まれない。これに基づき算出した請求人の平成28年分の医療費控除の額及び所得税等の還付金の額に相当する税額は、別表1の「更正処分等」欄の額と同額となる。そして、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件更正処分は適法である。

(5) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であり、本件更正処分により所得税等の還付金の額に相当する税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、平成28年分の過少申告加算税の額については、計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所においても平成28年分の過少申告加算税の額は、本件賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。
 したがって、本件賦課決定処分は適法である。

(6) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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