(平成31年4月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人E2、審査請求人E3、審査請求人E4及び審査請求人E1(以下、これらを併せて「請求人ら」という。)が、被相続人から相続により取得した各土地及び各家屋について不動産鑑定評価額に基づく価額とするのが相当であり、被相続人が生前に解除した建築工事請負契約に基づく約定違約金等について相続税の課税価格から控除すべき債務に当たるなどとして、相続税の各申告及び各更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該各土地及び当該各家屋は財産評価基本通達に基づき評価した価額とすべきであり、当該約定違約金等は相続開始日において履行が確実であった債務には当たらないなどとして、更正をすべき理由がない旨の各通知処分並びに各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をしたことから、請求人らが当該各処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

別紙3のとおり。
  なお、別紙3において定義した略語等については、以下本文においても使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件相続について
     G(以下「本件被相続人」という。)は、平成25年8月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡し、同人に係る相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
     本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の妻である請求人E2、子である請求人E3、請求人E4及び請求人E1の4名であり、本件被相続人が所有していた別表1−1記載の各土地及び各家屋(以下、順に「本件各土地」、「本件各建物」といい、これらを併せて「本件各土地等」という。また、各土地及び各建物それぞれを呼称する際は、同表「略称」欄の定義を使用する。略称につき別表1−2に同じ。)を本件相続により取得した。
     本件各土地等の位置関係等は、別図のとおりである。
  • ロ 本件各土地等の状況について
    • (イ) 本件1土地及び本件1建物
      • A 本件1土地は、平成○年○月○日に事業計画決定公告がされたd駅北口土地区画整理事業(以下「本件区画整理事業」という。)の施行区域内に存する。e市の地区計画において、区域の特性に応じた容積率の最高限度(目標容積率)が100%、公共施設の整備状況に応じた容積率の最高限度(暫定容積率)が80%とされていたが、本件相続開始日現在において、本件1土地には、その東側及び南側で接することとなる区画道路の工事が開始していなかったことから、暫定容積率である80%が適用されていた。
      • B 本件1土地は、本件相続開始日において、仮換地の指定がされていなかったことから、評価通達24−2本文の定めは適用されず、従前の宅地の価額により評価する宅地であった。
         本件1土地が存する本件区画整理事業の施行区域内は、H国税局長が定めた平成25年分財産評価基準書において「個別評価」と表示されており、請求人E1からの照会に対し原処分庁からは、1本件1土地と東側で接する路線の路線価は270,000円(以下「本件個別路線価」という。)、2地区区分は普通住宅地区及び3借地権割合は60%である旨回答されていた。また、本件個別路線価の評定上の基礎とされた標準地(2地点)に係る各鑑定評価書には、いずれの地点も土地区画整理事業が施行中であることが明示されていた。
      • C 本件1建物は、本件相続開始日において、建築後約37年を経過した昭和51年新築の木造瓦葺2階建の共同住宅であり、1階5室、2階5室の計10室で各室全てが同面積の貸家であった。本件1建物のうち6室が本件被相続人の所有とされており、その他4室の所有者である請求人E3は、本件1土地を本件被相続人から使用貸借により借り受けていた。
      • D 本件1建物は、本件相続の開始後に取り壊され、本件1土地上には、平成27年3月31日、請求人E3及び請求人E1がそれぞれ持分2分の1を有する共同住宅が新築された。
    • (ロ) 本件2土地
       本件2土地は、本件相続開始日において、請求人E4及び請求人E1が各持分2分の1を有する建築後約33年を経過した昭和54年10月新築の木造瓦葺2階建の共同住宅(別件1建物)の敷地であり、請求人E4及び請求人E1は、本件2土地を本件被相続人から使用貸借により借り受けていた。
    • (ハ) 本件3土地
      • A e市f町○−○の土地は、昭和60年2月8日を登記の日付として、同所同番の土地(458.58u。本件3土地)と同番○の土地(198.43u。以下「本件隣地」という。)に分筆されており、本件相続開始日において、本件3土地は未利用の雑種地であった。
      • B 本件被相続人は、昭和60年1月29日、本件隣地を65,000,000円でJに売り渡す旨の売買契約を締結した。
         当該売買契約に係る契約書(以下「本件売買契約書」という。)には、本件隣地に家屋建築する際、建ぺい率の関係上、本件3土地約62坪をその建築敷地として書面上使用することを承諾するものとする(第16条《特約条項》)旨の記載がある。
    • (ニ) 本件4土地及び本件2建物
       本件4土地は、南側で接する道路の北端から20mの部分の容積率が200%、その他の部分の容積率が80%であり、本件相続開始日において、本件被相続人が所有する建築後約22年を経過した平成3年2月新築の木造瓦葺2階建の居宅(本件2建物)の敷地であった。
    • (ホ) 本件5土地及び別件2建物
       本件5土地は、本件相続開始日において、請求人E2が所有する建築後約49年を経過した昭和39年6月新築の木造瓦葺2階建の居宅(別件2建物)の敷地であり、請求人E2は、本件5土地を本件被相続人から使用貸借により借り受けていた。
  • ハ K社に対する違約金について
    • (イ) 本件被相続人及びK社は、平成25年2月21日、発注者を本件被相続人、請負者をK社として、本件3土地上に請負代金63,000,000円でアパートを新築する旨の工事請負契約を締結した。
       当該請負契約の特約事項には、発注者が同請負契約を解除・解約した場合、1請負者は発注者に対し、約定違約金2,599,800円と実費相当額の合計額を請求できる旨及び2請負者が請負契約締結時に受領した契約内金425,250円を前記1の違約金等に充当する旨が定められていた。
    • (ロ) 本件被相続人及びK社は、平成25年2月28日、発注者を本件被相続人、請負者をK社として、本件1土地上に請負代金86,415,000円でアパートを新築する旨の工事請負契約を締結した(以下、上記(イ)の工事請負契約と併せて「本件各請負契約」という。)。
       当該請負契約の特約事項には、発注者が同請負契約を解除・解約した場合、1請負者は発注者に対し、約定違約金3,279,675円と実費相当額の合計額を請求できる旨及び2請負者が請負契約締結時に受領した契約内金537,600円は前記1の違約金等に充当する旨が定められていた。
    • (ハ) 本件被相続人は、平成25年5月10日、K社に対して、本件各請負契約を解除する旨、及び各約定違約金と各実費相当額の合計額(以下、当該各約定違約金等を併せて「本件各違約金等」という。)の支払については消費者契約法第9条《消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効》第1号に規定する「平均的な損害」を超えるなどとして、各契約内金の合計金962,850円(以下「本件各内金」という。)を本件各違約金等の支払に充当することで終了したい旨を書面で通知した。
    • (ニ) K社は、本件相続の開始後の平成○年○月○日、本件被相続人の共同相続人である請求人らを被告として、本件各違約金等から本件各内金を控除した後の5,022,625円(以下「本件違約金残金」という。)について各法定相続分に応じた金額等(遅延損害金を含む。)の支払を求める訴えを提起した(以下「本件訴訟」という。)。
    • (ホ) 請求人らは、本件各請負契約に際してK社側に本件被相続人に対する説明義務違反等があり、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求権が生じていたところ、これを請求人らが相続したとして、K社に対して損害賠償金19,293,529円等の支払を求める反訴を提起した(以下「本件反訴」という。)。
    • (へ) L地方裁判所は、平成○年○月○日、請求人らに対し、本件違約金残金等の支払を命ずる旨及び反訴請求を棄却する旨の判決を言い渡した。これに対し、請求人らは、平成○年○月○日に控訴した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人らは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表2の「当初申告」欄のとおり記載した申告書を法定申告期限内に共同で原処分庁に提出し、期限内申告(以下「本件申告」という。)をした。
     請求人らは、本件申告において、本件各土地等の各価額をM社が作成した不動産鑑定評価書における各鑑定評価額に基づき別表3の「本件申告」欄のとおりとした。
     なお、本件1土地及び本件1建物については、いずれも各鑑定評価額(土地:83,400,000円、建物:2,400,000円)から本件1建物が貸家であることを理由として一部減額した後の価額(土地:78,492,800円、建物:1,008,800円。以下、建物に係る当該価額を「本件1建物鑑定修正額」という。)とされ、その他の本件各土地等については、それぞれの鑑定評価額 と同額とされた(以下、本件各土地等の各鑑定評価額について、本件1土地に係るものを「本件1土地鑑定評価額」といい、その他も同様な略語を使用する。)。
     また、請求人らは、本件申告において、本件各違約金等を6,015,475円として債務に計上した。
  • ロ 請求人らは、平成28年3月17日、本件3土地については敷地面積の一部を本件隣地の所有者であるJが同土地上の建物の建築確認申請における敷地面積として既に使用していることが判明したなどとして、本件相続税について、別表2の「更正の請求1」欄のとおりとすべき旨の各更正の請求をした。
     なお、請求人らは、当該各更正の請求において、本件3土地の一部が本件隣地上の建築確認申請における敷地とされていたことを新たな付加条件として改めて作成されたM社による不動産鑑定評価書の鑑定評価額38,800,000円を本件3土地の価額とした。
  • ハ 請求人らは、平成29年7月13日、本件1土地については本件区画整理事業の施行区域内に存することによる利用上の制限がその価額に反映されていなかったなどとして、本件相続税について、別表2の「更正の請求2」欄のとおりとすべき旨の各更正の請求をした。
     なお、請求人らは、当該各更正の請求において、本件1土地及び本件区画整理事業の施行区域外にある本件2土地の各固定資産税評価額の格差等に基づき本件1土地鑑定評価額を修正した価額(53,228,040円。以下「本件1土地鑑定修正額」という。)を本件1土地の価額とした。
  • ニ 原処分庁は、上記ロの各更正の請求に対し、平成29年10月20日付で、別表2の「通知処分1」欄のとおり、更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「第1次各通知処分」という。)をした。
  • ホ 原処分庁は、上記ハの各更正の請求に対し、平成29年10月20日付で、請求人E2については、別表2の「更正処分3」欄のとおり、納付すべき相続税額の一部を減額する更正処分(以下「本件減額更正処分」という。)をするとともに、請求人E3、請求人E4及び請求人E1については、同表の「通知処分2」欄のとおり、更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「第2次各通知処分」という。)をした。
  • へ 原処分庁は、平成29年10月20日付で、請求人E3、請求人E4及び請求人E1について、本件各土地等については評価通達に基づき評価した価額とすべきであり、本件各違約金等の債務控除は認められないなどとして、別表2の「更正処分等4」欄のとおりとする本件相続税の各更正処分(以下「本件各増額更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、第1次各通知処分、第2次各通知処分、本件減額更正処分及び本件各増額更正処分と併せて「本件各処分」という。)をした。
  • ト 請求人らは、本件各処分に不服があるとして、平成30年1月12日に再調査の請求をした。
     なお、請求人らは、当該再調査の請求において、本件3土地の価額については、上記ロの鑑定評価額38,800,000円の「価格時点」が本件相続開始日と異なる平成27年9月1日となっており、「価格時点」を本件相続開始日と修正したM社による再鑑定評価額38,300,000円(以下「本件3土地再鑑定評価額」といい、その他の本件各土地等の各鑑定評価額と併せて「本件各鑑定評価額」という。また、本件各鑑定評価額に本件1土地鑑定修正額及び本件1建物鑑定修正額を併せて「本件各鑑定評価額等」という。)とすべきであるとした。
  • チ 再調査審理庁は、平成30年4月12日付で、別表2の「再調査決定」欄のとおり、第1次各通知処分、第2次各通知処分及び本件減額更正処分並びに請求人E3に対する本件各増額更正処分及び同本件各賦課決定処分に係る再調査の各請求について、いずれも棄却の再調査決定をし、請求人E4に対する本件各増額更正処分並びに請求人E1に対する本件各増額更正処分及び同本件各賦課決定処分については、いずれもその一部を取り消す再調査決定をした。
  • リ 請求人らは、再調査決定を経た後の本件各処分を不服とし、その一部の取消しを求め、平成30年5月7日、審査請求をするとともに、同日、請求人E1を総代に選任し、その旨を当審判所に届け出た。
     なお、請求人らは、本審査請求において、本件4土地については原処分庁が評価通達の定めに従って評価した価額が本件4土地鑑定評価額を下回ることから(別表3の「本件4土地」の「再調査の請求」欄及び「再調査決定」欄参照)、原処分庁の評価した当該価額の適否について争っていない。

2 争点

(1) 評価通達に基づき評価した本件各土地等(本件4土地を除く。以下同じ。)の各価額について、時価を上回る違法があるか否か(争点1)。

(2) 本件違約金残金は本件相続税の課税価格の計算上控除すべき債務か否か(争点2)

3 争点についての主張

(1) 争点1(評価通達に基づき評価した本件各土地等の各価額について、時価を上回る違法があるか否か。)について

原処分庁 請求人ら
課税処分における課税価格又は税額の算定に当たって、相続財産の価額を評価通達の定めに従って評価したものである場合には、その価額は時価と事実上推認される。
 したがって、請求人らにおいて、評価通達に基づき評価した本件各土地等の価額に時価を上回る違法があることを主張、立証するなどして、上記推認を覆さない限り、本件各処分は適法となる。そして、本件各鑑定評価額等は、次のとおり、合理性がなく、本件各土地等の時価とは認められない。
評価通達に基づき路線価を用いて簡易的に評価することは否定しないものの、次のとおり、本件各鑑定評価額等(本件4土地鑑定評価額を除く。以下同じ。)は時価として妥当なものであり、評価通達に基づき評価した本件各土地等の各価額には時価を上回る違法がある。
 なお、本件1土地、本件2土地及び本件3土地の面積は、いずれも300uを上回っているが、その価額は評価通達24−4《広大地の評価》が適用できる500uの土地の価額を上回ることもあり得るから、評価通達による評価は適切な時価とはいえない。
イ 本件1土地鑑定修正額の基となった本件1土地鑑定評価額については、次の(イ)ないし(ハ)の不合理な点があり、また、本件1土地鑑定修正額には、次の(ニ)のとおり不合理な点がある。 イ 本件1土地には、次の(イ)ないし(ニ)のような事情があり、原処分庁がこれらの点を考慮せずに評価することには正当性がない。本件1土地の評価額は、隣地である本件2土地との固定資産税評価額の格差率(71.55%)を本件1土地鑑定評価額に乗じた金額53,228,040円とすべきである。
(イ) 建築後38年を経過し、建ぺい率及び容積率も充足していない本件1建物の敷地として使用されることを前提として評価した収益価格は、不動産鑑定評価基準が定める最有効使用の原則等に反する。 (イ) 最有効使用の原則は、更地に適用されるものであり、貸家及びその敷地である本件1土地の鑑定評価額は、収益価格を標準とし、積算価格を考慮して決定した。
(ロ) 積算価格と収益価格の中庸値を鑑定評価額としているが、本件1土地は、収益性よりも快適性を重視する地域に存し、賃貸による収益性が地価に十分反映されているとは言い難いため、収益価格と積算価格の調整に当たっては、比準価格を重視し、収益価格は参考程度とすべきである。 (ロ) 本件1土地の東側の一部は、平成○年○月○日に建築基準法第42条《道路の定義》第1項第4号の道路に指定されており、当該部分は本件1土地の敷地面積に含めることができない。
(ハ) 本件1土地鑑定評価額(約200,000円/u)は、本件1土地の近隣の公示価格(306,000円/u)に比して低額であり、同価格との規準が適切に行われていない。 (ハ) 仮換地前は、仮換地前後の土地の重なり合った部分にしか建物を建築できないばかりか、仮換地後も、建物を建てる場合は、地区協定により道路境界から建物の壁面を1m後退させなければならないという制限を受けている。
(ニ) 本件1土地の上に存する本件1建物は、本件被相続人と請求人E3が共有する貸家であるが、請求人E3は使用貸借により本件1土地を借り受けているのであるから、本件1土地は自用地として評価すべき部分がある。
 また、本件1土地鑑定評価額は、貸家及びその敷地としての正常価格(時価)を求めているから、重ねて貸家建付地及び固定資産税評価額の格差率を考慮した修正額は不合理である。
(ニ) 本件個別路線価については、容積率を100%としているが、容積率は80%であり、本件相続開始日において100%になっていない。このことから、評価通達23のように減額することは適切である。
ロ 本件1土地の東側及び南側に存する道路予定地部分に係る建築制限については、本件個別路線価の評定の基となる標準地(本件区画整理事業の施行地域内に配置)の鑑定評価において、本件区画整理事業が施行中であることが地域要因として考慮されているから、本件個別路線価に反映されていると認められる。 ロ 本件1土地の南側には都市計画道路が計画されていることから、評価通達24−7のように減額できる。
 本件1土地の分割方法によっては、都市計画道路予定地の敷地に占める割合が異なってくるのであるから、本件個別路線価に都市計画道路部分を含めて算出した値には妥当性がない。
ハ 本件2土地鑑定評価額には、次の(イ)ないし(ハ)のとおり、不合理な点がある。 ハ 本件2土地の評価額は、次の(イ)及び(ロ)から、本件2土地鑑定評価額75,800,000円とすべきである。
(イ) 建築後35年を経過し、建ぺい率及び容積率も充足していない別件1建物の敷地として使用されることを前提に評価した収益価格は、不動産鑑定評価基準が定める最有効使用の原則等に反する。 (イ) 最有効使用の原則は、更地に適用されるものであり、貸家及びその敷地である本件2土地の鑑定評価額は、収益価格を標準とし、積算価格を考慮して決定した。
(ロ) 積算価格と収益価格の中庸値を鑑定評価額としているが、本件2土地は、収益性よりも快適性を重視する地域に存し、賃貸による収益性が地価に十分反映されているとは言い難いため、収益価格と積算価格の調整に当たっては、比準価格を重視し、収益価格は参考程度とすべきである。 (ロ) 本件2土地は賃貸物件の土地であり、借主に借家権が発生している。本件2土地には賃借権が存在し、更に自用の土地、建物とする場合は、建物を取り壊す経費が必要である。それらの価格を差し引かないと時価にはならないのであり、原処分庁の主張には妥当性がない。
(ハ) 鑑定評価額(約190,000円/u)は、本件2土地の近隣の公示価格(306,000円/u)に比して低額であり、同価格との規準が適切に行われていない。
ニ 本件3土地について、N事務所の担当者は、本件隣地の所有者は請求人らとは関係のない他人であり、請求人らが本件3土地に建物を建築する際に、本件3土地の全体を同建物の敷地として使用することを禁止することまではできない旨申述していることからすると、本件3土地については、何ら請求人らの主張する瑕疵は認められない。
 したがって、本件3土地には建物を建築する際の利用上の制限があるとして評価した本件3土地再鑑定評価額は、その前提を欠くものである。
ニ 本件3土地については、本件売買契約書により、本件隣地を売却した際に本件3土地の敷地利用権も譲渡されており、当該利用権の金額は当該売買契約書における売買金額に含まれている。このため残った本件3土地については建築基準法上の制約を受ける。
 このような場合、評価通達23でその取扱いがなされているところ、本件3土地については容積率の移転に加えて建ぺい率の移転もあることから、減価は評価通達23によるものよりも大きくなるはずである。
 原処分庁が主張する本件3土地の評価額は、評価通達23にも反するものであり、請求人らが主張する二重敷地による減価は適切である。
 また、本件3土地に敷地面積(458.58u)を基準としてアパートを建築しようとする場合、既に建ぺい率、容積率は隣地に移転されているため、当該アパートは建築基準法違反となる旨の裁判所の判断があった。したがって、本件3土地の価額は、本件3土地再鑑定評価額(38,300,000円)とすべきである。
ホ 本件5土地鑑定評価額には、次の(イ)ないし(ハ)のとおり、不合理な点がある。 ホ 本件5土地の評価額は、次の(イ)及び(ロ)から、本件5土地鑑定評価額36,300,000円とすべきである。
(イ) 建築後50年を経過し、建ぺい率及び容積率も充足していない別件2建物の敷地として使用されることを前提に評価した収益価格は、不動産鑑定評価基準が定める最有効使用の原則等に反する。 (イ) 最有効使用の原則は、更地に適用されるものであり、貸家及びその敷地である本件5土地の鑑定評価額は、収益価格を標準とし、積算価格を考慮して決定した。
(ロ) 積算価格と収益価格の中庸値を鑑定評価額としているが、本件5土地は、収益性よりも快適性を重視する地域に存し、賃貸による収益性が地価に十分反映されているとは言い難いため、収益価格と積算価格の調整に当たっては、比準価格を重視し、収益価格は参考程度とすべきである。 (ロ) 本件5土地は、賃貸物件の土地であり、賃借権が存在し、更に自用の土地、建物とする場合は、建物を取り壊す経費が必要である。それらを差し引かないと時価にはならないのであり、原処分庁の主張には妥当性がない。
(ハ) 鑑定評価額(約180,000円/u)は本件5土地の近隣の公示価格(306,000円/u)に比して低額であり、同価格との規準が適切に行われていない。
ヘ 本件1建物鑑定評価額には、次の(イ)及び(ロ)のとおり、不合理な点があり、また、本件1建物鑑定修正額には、次の(ハ)のとおり不合理な点がある。 ヘ 本件1建物の評価額は、本件1建物鑑定評価額2,400,000円に本件被相続人の所有割合(6/10)を乗じた金額から貸家の評価減(1−借家権30%)をした本件1建物鑑定修正額(1,008,000円)とすべきである。
(イ) 積算価格の基となる再調達原価を151,000円/uとしているが、その根拠が明らかでない。
(ロ) 本件1建物鑑定評価額は、再調達原価より求めた積算価格が相続税評価額を上回る査定額であるにもかかわらず、本件1土地を加味して積算価格と収益価格による試算価格の調整を行っている。
(ハ) 本件1建物鑑定評価額は、貸家としての正常価格を求めているから、更に貸家であることを考慮したことは不合理である。
ト 本件2建物鑑定評価額は、次の(イ)及び(ロ)のとおり、不合理な点がある。 ト 本件2建物の評価額は、本件2建物鑑定評価額3,100,000円とすべきである。
(イ) 積算価格の基となる再調達原価を151,000円/uとしているが、その根拠が明らかでない。
(ロ) 積算価格を求めるに当たり、上記(イ)の再調達原価に乗じる現価率15%の根拠が明らかでない。

(2) 争点2(本件違約金残金は本件相続税の課税価格の計算上控除すべき債務か否か。)について

原処分庁 請求人ら
次のイ及びロからすると、本件違約金残金は、確実と認められる債務ではないから、債務控除は認められない。 次のイ及びロからすると、本件違約金残金は、確定した債務であるから、債務控除は認められる。
イ 本件被相続人は、本件相続開始日の前において、K社に対して本件各請負契約を解除する旨書面で通知し、さらに、本件各内金が、消費者契約法第9条第1号の金額を超えるから、本件各内金をもって終わりにしたい旨通知しており、本件違約金残金を支払う意思はなかった。 イ 本件被相続人は、アパートを建築して貸し付けている事業者であるから、消費者契約法の適用はない。
ロ K社は、本件違約金残金の支払を求め、本件訴訟を提起したが、請求人らは、支払を拒否し、現在も係争中である。 ロ 本件被相続人は生前違約金の支払を拒否したことはなく、違約金の減額を求めたにすぎない。これに対し、K社は減額を拒否し本件訴訟を提起した。

4 当審判所の判断

(1) 争点1について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である(最高裁平成22年7月16日第二小法廷判決・裁判集民事234号263頁参照)。
       しかし、客観的な交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、国税庁において、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減等の観点から評価通達を定め、各税務署長が、評価通達に定められた評価方法に従って統一的に相続財産の評価を行ってきたところである。このような評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、当該財産の客観的な交換価値を算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められており、その結果、評価通達は、単に課税庁内部における行為準則というにとどまらず、一般の納税者にとっても、納税申告における財産評価について準拠すべき指針として通用してきているところである。
       このように、評価通達に基づく相続財産の評価の方法が、当該財産の客観的な交換価値を算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められていることなどからすれば、評価通達の定めに従って相続財産の価額を評価したものと認められる場合には、その価額は、当該財産の時価であると事実上推認することができるというべきである。
       このような場合には、審査請求人において、財産評価の基礎となった事実関係に誤りがある等、その評価方法に基づく価額の算定過程自体に不合理な点があることを具体的に指摘して上記推認を妨げ、あるいは、不動産鑑定評価等の証拠資料に基づいて、評価通達の定めに従って評価した価額が、当該事案の具体的な事情の下における当該相続財産の時価を適切に反映したものではなく、客観的な交換価値を上回るものであることを主張立証するなどして上記推認を覆すことがない限り、評価通達の定めに従って評価した価額が時価であると認めるのが相当である。
       そして、土地の適正な時価、すなわちその客観的な交換価値というものは、その土地の面積、形状、地域的要因等の各個別の事情、需要と供給のバランスなど様々な要素により変動するものであるから、これを一義的に把握することは困難であり、不動産鑑定士による鑑定評価額も、それが公正妥当な不動産鑑定理論に従うとしても、なお鑑定士の主観的な判断及び資料の選択過程が介在することを免れないのであって、鑑定士が異なれば、同一の土地についても異なる評価額が出てくることは避けられないのであるから、土地の客観的な交換価値には、ある程度の幅があるとみなければならない。かかる観点からすれば、評価通達の定めに従って評価した価額が時価とみるべき合理的な範囲内にあれば、相続税法第22条違反の問題は生じないと解するのが相当である。
       したがって、評価通達の定めに従って評価した価額が客観的な交換価値を上回っているといえるためには、当該価額を下回る不動産鑑定評価が存在し、その鑑定が一応公正妥当な鑑定理論に従っているというのみでは足りず、同一の土地についての他の不動産鑑定評価があればそれとの比較において、また、周辺における公示価格や基準地の標準価格の状況、近隣における取引事例等の諸事情に照らして、評価通達の定めに従って評価した価額が客観的な交換価値を上回ることが明らかであると認められることを要するものというべきである。
    • (ロ) ところで、評価通達11は、市街地的形態を形成する地域にある宅地の評価は、原則として、路線価方式により評価する旨定めているところ(別紙3の1の(3))、土地区画整理事業等の施行区域内にある土地については、評価通達に基づき各国税局長が定めた財産評価基準書に路線価等を表記する代わりに「個別評価」とする旨が表示されているものがある。これは、路線価は、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線ごとに設定され(同(4))、一般には暦年を通じて課税財産の評価に適用されるものであるところ、土地区画整理事業等の施行区域内にある土地にあっては、上記一連の宅地であっても当該事業等の進行状況等によって個別に対応が必要と認められる事例があること等から、課税実務上、一定の土地区画整理事業等の施行区域内の土地については、当該土地の評定を担当する税務署長が路線価等を個別に評定することとしているものである。
       そして、当審判所の調査の結果によれば、個別に評定された路線価は、1個別評価とされた地区内で標準地を選定し、2複数の不動産鑑定士等から当該標準地に係る鑑定評価又は意見を徴し、3当該鑑定評価又は意見に基づき当該地区内に存する各路線の路線価を評定するというものであり、かかる評定過程は、評価通達14に定める路線価の評定過程とおおむね同様と認められる。また、個別路線価は、納税者からの照会に対し、相続税等の納税申告の便宜のために教示され、納税申告における財産評価について準拠すべき指針となっていることが認められる。
       したがって、個別路線価に基づき評価した価額は、評価通達に基づき評価した場合と同様に当該評価した財産の時価であると事実上推認することができると認めるのが相当である。
    • (ハ) また、評価通達89は、家屋の価額は、その家屋の固定資産税評価額に所定の倍率(1.0)を乗じて計算した金額によって評価する旨定めているところ(別紙3の1の(8))、ここにいう固定資産税評価額について、地方税法第341条第5号は、固定資産税における価格とは適正な時価をいう旨規定しており(同2の(1))、この場合における適正な時価とは正常な条件の下に成立する当該家屋の取引価格、すなわち客観的な交換価値をいうものと解される。そして、地方税法第388条第1項は、適正な時価を評価するための基準並びに評価の実施の方法及び手続として「固定資産評価基準」を定め、これを告示しなければならない旨規定しており(同2の(2))、かかる固定資産評価基準に基づいて、家屋の固定資産税評価額は、3年ごとの基準年度に再建築価格(評価の対象となった家屋と同一のものを、評価の時点においてその場所に新築するものとした場合に必要とされる建築費)を基準として、これに家屋の減耗の状況による補正と需給事情による補正を行って評価する方法が採られている。
       このように、家屋の固定資産税評価額は、客観的な基準として定められた固定資産評価基準に基づき評価されたものであり、その評価方法も合理的なものと認められるから、かかる固定資産税評価額に準拠して家屋を評価するものとする評価通達の定めは、一般に合理性があり、当審判所も相当と認める。
  • ロ 認定事実
     請求人ら提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件1土地について
       本件1土地の東側及び南側には、本件区画整理事業の事業計画において区画道路の予定地とされた部分(合計29.81u)が存するが、当該道路は都市計画道路として事業決定された道路(都市計画法第4条《定義》第6項に規定する都市計画施設に該当する道路)ではない。
    • (ロ) 本件1建物について
      • A 本件被相続人及び請求人E3は、本件1建物の全10室のうち、1階101号室ないし104号室の計4室を請求人E3が、1階105号室及び2階201号室ないし205号室の計6室を本件被相続人がそれぞれ所有するものとして、毎年の各室からの賃貸収入について、各人の不動産所得として、それぞれ所得税の確定申告を行っていた。
      • B 本件1建物のうち上記の本件被相続人所有に係る6室については、本件相続開始日において、計4室が貸し付けられていた。
    • (ハ) 本件3土地について
      • A 本件売買契約書に記載の本件隣地の売買価格65,000,000円(327,571円/u)は、昭和60年当時の近隣の公示価格等に比し、本件隣地の更地の対価として相当な価額であった。
      • B 本件売買契約書の他には、Jと本件被相続人との間に本件3土地に係る建ぺい率及び容積率の使用に関しての契約書や覚書等は存在しない。
      • C 本件3土地について、その地積に対し、建ぺい率、容積率を最大限有効活用する形で建物の建築確認申請がされた場合、本件3土地に係る建築指導等に関する事務を所管するN事務所においては、建築確認申請書面と添付された書類により審査することから、本件3土地のみで建築基準法の要件を満たしていれば確認済証は交付される。
    • (ニ) 本件各鑑定評価額について
      • A M社は、本件各鑑定評価額の決定に当たり、本件各土地の最有効使用について、いずれも近隣地域の標準的使用と同じであるとして「低層の一般住宅・共同住宅」と判定している。また、M社は、本件3土地については、「更地」として、取引事例比較法を採用して求めた価格と公示価格等を規準した価格から標準価格を求め、当該標準価格から査定した対象地の比準価格(別表5の順号13の「比準価格」欄)と、収益還元法による収益価格(同「収益価格」欄)をそれぞれ試算し、その他の本件各土地等については、「貸家及びその敷地」として、同比準価格に原価法による建物価格を加えた積算価格と収益還元法による収益価格をそれぞれ試算し(同表順号11、12、14及び15の各「比準価格」及び各「収益価格」欄)、いずれも比準価格(若しくは積算価格)と収益価格の中庸値をもって鑑定評価額を決定している。
         なお、M社は、上記比準価格の試算に当たり、本件1土地及び本件2土地について標準的画地と比較して規模が大きいことの減価要因をマイナス10%と査定している。
      • B M社は、本件各建物の価格を査定するに当たり、原価法を採用し、本件各建物と類似の建物の建築費を参考として、新規に再調達する場合の再調達原価の単価を1u当たり151,000円と査定し、当該再調達原価に数量(延床面積)を乗じ、更に建物の現況及び地域的特性の推移・動向から判断した現価率10%を乗じて建物価格を査定している。
         この再調達原価の単価について、M社は、内閣府統計局発表の平成24年度のg県の木造新築戸建着工数と予定額から、持家180,000円/u、貸家170,000円/u、給与住宅170,000円/u、分譲住宅150,000円/u、及び、事情精通者意見等140,000円/uないし200,000円/u程度を参考に対象となる地域の取引市場の需給状況、当該建築の質量等を総合的に判断し決定したとしている。
    • (ホ) 本件各土地の周辺の地価公示地について
       国土交通省がそのホームページにおいて公表している本件各土地の周辺の地価公示地のうち敷地利用の現況や法令上の規制等が本件各土地と同様と認められるものは6地点あり(標準地番号「○○○○−○1」、「○○○○−○2」、「○○○○−○3」、「○○○○−○4」、「○○○○−○5」及び「○○○○−○6」)、当該各公示地に係る状況並びに平成27年分又は平成28年分の各鑑定評価額等並びに平成25年分及び平成26年分の各公示価格は、別表5の順号16ないし27のとおりである。
       なお、各公示地については、2名の不動産鑑定士による鑑定評価書が公表されており、それぞれの鑑定評価額の決定の理由等の要旨は、同表の付表のとおりである。
  • ハ 検討
    • (イ) 原処分庁の算定した本件各土地等の各価額について
       上記イのとおり、評価通達の定めに従って相続財産の価額を評価したものと認められる場合には、その価額は当該財産の時価であると事実上推認される。
       そして、原処分庁が本件各土地等について評価通達の定めに従って評価したとする各価額(以下「原処分庁各算定額」といい、個別の土地等に係る当該算定額を表す場合は、土地等を特定した上で単に「原処分庁算定額」という。)は、別表3の「原処分」及び「再調査決定」欄のとおりである。
       この点、当審判所が本件各土地等を評価通達の定めに従って評価すると、本件1土地及び本件1建物について原処分庁はその貸付割合を6分の5としていたところ、同貸付割合は6分の4とするのが相当であるから(上記ロの(ロ))、これを前提に算定した本件1土地及び本件1建物の各価額は各原処分庁算定額をいずれも上回り、その他の本件各土地等についてはいずれも原処分庁各算定額と同額となる(以下、審判所が本件各土地等を評価通達の定めに従って評価した価額を「審判所各算定額」といい、個別の土地等に係る当該算定額を表す場合は、土地等を特定した上で単に「審判所算定額」という。)。
       したがって、原処分庁各算定額の一部は評価通達の定めに従ったものとはいえず、審判所各算定額が本件相続開始日における本件各土地等の時価であると事実上推認される。
       そこで、請求人らの主張立証が、かかる推認を覆すものであるか否かについて、以下検討することとする。
    • (ロ) 本件各鑑定評価額について
      • A 本件各土地について
         不動産鑑定評価基準では、特に建物及びその敷地の最有効使用の判定に当たり、「現実の建物の用途等を継続する場合の経済価値と建物の取壊しや用途変更等を行う場合のそれらに要する費用等を適切に勘案した経済価値を十分比較考量すること」(別紙3の3の(1)参照)とされている。
         この点、M社では、上記ロの(ニ)のAのとおり、本件3土地を除く本件各土地を「貸家及びその敷地」として鑑定評価を行っているところ、同各土地上の各建物(本件1建物、別件1建物及び別件2建物)は、本件相続開始日の時点でいずれも建築後約33年ないし49年を経過し耐用年数を満了した、若しくははるかに経過した木造家屋が存していたことから(上記1の(3)のロ)、上記の不動産鑑定評価基準に定める比較考量を行うことが必要であったものと考えられる。しかしながら、M社では、かかる比較考量を行っておらず、その合理性には疑いを差し挟む余地がある。
         また、M社では、本件3土地を「更地」とした上で、試算価格である比準価格と収益還元法による収益価格の中庸値をもって、その鑑定評価額を決定しているところ、本件各土地の周辺の複数の地価公示地に係る鑑定評価額の決定に当たっては、いずれも概して比準価格を標準又は重視し、収益価格は参考にとどめている(別表5の付表)。このように、M社と上記地価公示地に係る鑑定評価には、鑑定評価額の決定における各試算価格の調整、すなわち各試算価格が有する説得力の優劣の判断に明らかな差異が認められる。
         そして、M社が試算した本件各土地に係る各試算価格は、更地であった本件3土地及び鑑定評価額が審判所算定額を上回る本件4土地を除き、いずれも収益価格が比準価格の25%ないし44%となっており、収益価格と比準価格の両試算価格の中庸値とすることによって、低位な収益価格の影響を受けることとなるから、かかる中庸値に基づく本件各鑑定評価額は、結果的に公示価格等に規準した規範性のある比準価格と比べていずれも低額となっている点は否めない。そうすると、M社による各試算価格の調整が適切であったか否かという点には、疑問を抱かざるを得ない。
         そこで、上記イの(イ)の法令解釈を踏まえて、本件各鑑定評価額に加えて、本件各土地の周辺の6地点の地価公示地(上記ロの(ホ))及び原処分庁が本件個別路線価の評定のために設定した本件区画整理事業の施行区域内に存する2地点の標準地(上記1の(3)のロの(イ)のB)に係る各鑑定評価額を比較検証した上で、本件各土地に係る時価の範囲を検討する。
         地価公示地6地点(別表5の順号16ないし27)の平成25年分の公示価格は、282,000円/uないし340,000円/uであり、原処分庁が設定した標準地2地点の価格は331,000円/u及び496,000円/uである。当該各標準地のうち本件各土地とは法令上の規制等を異にする近隣商業地域内の標準地(別表5の順号29)を除外すると、これら7地点の各価格は、282,000円/uないし340,000円/uの範囲となる。
         なお、上記7地点の各価格は、いずれも平成25年1月1日時点のものであるが、上記各公示地(平成26年分公示地ではない「○○○○−○6」を除く。)に係る平成26年分の各公示価格が上昇していることからすると、本件相続開始時点(平成25年8月○日)においては、いずれも若干上昇した価格であったと見込まれる。
         そうすると、本件各鑑定評価額(1u当たりの価格)は、本件4土地を除き、別表5の順号11ないし13及び15のとおり、上記7地点の各価格(1u当たりの価格)をいずれも下回り、それらの平均値(305,571円)の約60%ないし68%程度にとどまるのであり、本件1土地ないし本件3土地が上記7地点と比べて地積が過大であることを考慮したとしても(M社による規模大の補正率によってもマイナス10%である。上記ロの(ニ)のA)、その価額は相当に低廉な水準であることがうかがえる。
         他方、審判所各算定額は、別表5の順号6ないし10のとおり、230,890円/uないし267,300円/uであり、本件4土地を除き、本件各鑑定評価額(1u当たりの価格)を上回るものの、いずれも上記7地点の各価格(1u当たりの価格)を下回ることからすれば、審判所各算定額は、本件各土地に係る時価の範囲内にあると認められるのであって、客観的な交換価値を上回ることが明らかであるとはいえない。
      • B 本件各建物について
         不動産鑑定評価基準には、建物の再調達原価を間接法により求める場合は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動産と類似の不動産又は同一需給圏内の代替競争不動産等について、素地の価格やその実際の造成又は建設に要した直接工事費、間接工事費、請負者の適正な利益を含む一般管理費等及び発注者が直接負担した附帯費用の額並びにこれらの明細(種別、品等、数量、時間、単価等)を明確に把握できる場合に、これらの明細を分析して適切に補正し、必要に応じて時点修正を行い、かつ地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って、対象不動産の再調達原価を求めるものとする旨定められている(別紙3の3の(2)参照)。
         この点、本件各建物鑑定評価額においては、類似建物の建設に要した直接工事費、間接工事費、請負者の適正な利益を含む一般管理費等及び発注者が直接負担した附帯費用の額並びにこれらの明細について言及がなく、これらの明細の把握が可能であったか否かも定かではない。仮に、これら明細の把握が困難であったとしても、M社が再調達原価とした151,000円/uは、内閣府統計局発表の平成24年度のg県の木造新築戸建着工予定額のうち、本件各建物と類似の形態と思われる持家の建築費180,000円/u及び貸家の建築費170,000円/u(上記ロの(ニ)のB)と比べて明らかに低位な価格である上、その算定根拠は明らかではなく、M社が査定した本件各建物の再調達原価が適正な価格であるか否かについて検証することができない。そうすると、本件各建物鑑定評価額が本件各建物の審判所算定額を下回ることをもって、客観的な交換価値を指標する固定資産税評価額に準拠した同審判所算定額について、時価を上回ることが明らかであると認めることは困難である。
    • (ハ) 小括
       上記(ロ)のとおり、本件各鑑定評価額によっても、審判所各算定額が本件相続開始日における本件各土地等の客観的な交換価値を上回ることが明らかであるとはいえず、審判所各算定額が本件相続開始日における本件各土地等の時価であるとの推認を覆すに足りるものとは認められない。したがって、評価通達に基づき評価した本件各土地等の各価額(審判所各算定額)について、時価を上回ることが明らかであるとは認められず、同価額をもって、相続財産である本件各土地等の価額とすべきである。
  • ニ 本件各土地等に係る請求人らの主張について
     請求人らは、本件各鑑定評価額を基礎として、あるいはその価額を独自に修正した価額をもって、本件各土地等の時価である旨主張するが、上記ハの(ハ)のとおり、評価通達に基づき評価した本件各土地等の各価額が時価と認められる以上、請求人らの主張は採用することができない。
     なお、請求人らが、その他に評価通達に基づき評価した本件各土地等の各価額が時価を上回る事情として指摘する各点については、次のとおり、請求人らの主張の裏付けになるものとは認められず、いずれも理由がない。
    • (イ) 上記3の(1)の「請求人ら」欄の柱書(なお書部分)の主張について
       評価通達24−4が、開発行為により宅地の区画形質の変更をした際に公共公益的施設用地として潰れ地が生じることを評価対象地の価額に影響を及ぼすべき客観的な事情として、価額が減少していると認められる範囲で減額の補正を行うこととした定めであることは、当審判所において明らかなところであり、そのような負担が生じる土地と生じない土地とを同列に論ずることはできず、土地の地積の大小と価格を単純に比較して、逆転現象と結論付けることはできない。
    • (ロ) 上記3の(1)の「請求人ら」欄のイの(ロ)及び同ロの主張について
       上記1の(3)のロの(イ)のBのとおり、本件1土地は、従前の宅地の価額で評価される宅地であり、本件相続開始時点において、東側において接することになる区画道路の工事も開始していない。また、同Aのとおり、本件1土地の東側及び南側の一部には、区画道路として予定された部分が存するが、上記ロの(イ)のとおり、当該区画道路は都市計画法第4条第6項に規定する都市計画施設に該当する道路ではないから、評価通達24−7の適用もない。
    • (ハ) 上記3の(1)の「請求人ら」欄のイの(ハ)の主張について
       本件区画整理事業の施行区域内の土地については、上記1の(3)のロの(イ)のBのとおり、個別に評定する路線価の基礎とされた標準地の鑑定評価書にいずれも土地区画整理事業が施行中であると明示されている以上、本件個別路線価を評定する過程において、区画整理事業施行区域内に存することによる制限は既に考慮されていると認められるから、かかる制限が存することを理由に重ねて減額する必要性は認められない。
    • (ニ) 上記3の(1)の「請求人ら」欄のイの(ニ)の主張について
       上記1の(3)のロの(イ)のAのとおり、本件1土地の本件相続開始日現在の容積率は80%であるが、本件1土地において余剰容積率の移転があった事実はなく、評価通達23を適用する前提を欠く。また、上記(ハ)のとおり、本件個別路線価を評定する過程において、区画整理事業施行区域内に存することによる制限は既に考慮されていると認められるから、かかる制限が存することを理由に重ねて減額する必要性は認められない。
    • (ホ) 上記3の(1)の「請求人ら」欄のニの主張について
       上記ロの(ハ)のAのとおり、本件隣地の売却価格は、本件隣地の対価として相当なものであり、同Bのとおり、本件売買契約書の他に、Jと本件被相続人との間に本件3土地に係る建ぺい率及び容積率の使用に関しての契約書や覚書等が存在せず、本件売買契約書においても、本件3土地上に本件隣地の建ぺい率の使用に係る権利を設定し、あるいは使用権を譲渡する旨の約定は見受けられないから、本件隣地の売却の際に、本件3土地の敷地利用権が譲渡されたとは認められない。
       また、上記ロの(ハ)のCのとおり、本件3土地には、その地積に対し、建ぺい率、容積率を最大限有効活用した建物を建築することは可能であり、本件売買契約書第16条に定める特約条項をもって、本件3土地の利用に法的な制限が加えられるものとは認められない。

(2) 争点2(本件違約金残金は本件相続税の課税価格の計算上控除すべき債務か否か。)について

  • イ 法令解釈
     相続税法第13条第1項は、相続により取得した財産の課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から被相続人の債務で相続開始の際現に存するもののうち、当該相続により財産を取得した者の負担に属する部分の金額を控除した金額による旨規定し、同法第14条第1項は、同法第13条第1項の規定によりその金額を控除すべき債務は、確実と認められるものに限る旨規定しているところ、当該確実と認められる債務とは、相続開始当時の現況に照らし、債務が現に存するとともに、その履行が確実と認められるものをいうと解される。
  • ロ 検討  本件違約金残金は、上記1の(3)のハのとおり、本件被相続人が平成25年5月10日にK社に対して、本件各請負契約を解除する旨通知したことにより、同請負契約の特約条項に基づき発生した本件各違約金等から、本件各内金を控除したものであり、本件被相続人は、同日、本件違約金残金の支払債務を負ったものである。
     そして、上記イのとおり、相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められる」債務とは、相続開始当時の現況に照らし、その履行が確実と認められるものをいうと解されるところ、本件違約金残金は、本件相続開始日(平成25年8月○日)に現に存し、その履行を免れないものであるから、履行が確実な債務であったと認めるのが相当であり、これを覆すに足る証拠は見当たらない。
     この点、原処分庁は、1本件被相続人は本件違約金残金を支払う意思がなかったこと、及び2本件被相続人の共同相続人である請求人らも本件違約金残金の支払を拒否し、係争中であることなどをもって、本件違約金残金は確実と認められる債務ではない旨主張する(上記3の(2)の「原処分庁」欄)。
     しかしながら、1上記イのとおり、相続税法第14条の法意である「債務が現に存するとともに、その履行が確実と認められるもの」の解釈を踏まえれば、本件違約金残金のように法的に履行を強制される債務について、債務者の履行の意思によってその「確実性」の判断を異にするものとは解されない。また、2本件訴訟は、K社が請求人らに対し、本件違約金残金等の支払を求めるものであるのに対し、本件反訴は、請求人らが本件違約金残金そのものの債務不存在を主張するものではなく、本件各請負契約を締結する前のK社側の説明義務違反等を理由として損害賠償を求めるものであり、本件訴訟と本件反訴が同一の訴訟手続の中で審理されているとしても、そのことをもって本件違約金残金の支払義務が消滅したり、履行の確実性が失われたりするものではない。したがって、原処分庁の主張は、いずれも採用できない。

(3) 本件各処分の適法性

上記(1)のハの(ハ)のとおり、評価通達に基づき評価した本件各土地等の各価額は、審判所各算定額(本件1土地及び本件1建物につき別表4−1及び4−2、その他は別表3の「再調査決定」欄の各価額と同額である。)のとおりであり、また、上記(2)のロのとおり、本件違約金残金は確実な債務と認められるところ、本件相続税の課税価格の計算においては、本件各内金(合計962,850円)を本件被相続人がK社に対して有していた債権として財産の価額に加算し、本件各違約金等の全額(合計5,985,475円)を債務として控除するのが相当である。

  • イ 第1次各通知処分の適法性
    • (イ) 請求人E2について
       当審判所が認定した請求人E2の本件相続税の納付すべき税額は、本件減額更正処分により一部取り消された後の本件相続税の納付すべき税額(○○○○円)と同額となる。
       そうすると、請求人E2の第1次各通知処分について、上記金額を上回る部分の処分は既に存在せず、請求人E2は、当該金額を上回る部分について審査請求の利益を有しないから、この部分の取消しを求める審査請求は、不適法なものとして却下することとなる。また、請求人E2の第1次各通知処分に係るその他の部分及び本件減額更正処分については、取り消すべき違法な点はない。
    • (ロ) 請求人E3、請求人E4及び請求人E1に対する第1次各通知処分について
       当審判所が認定した請求人E3、請求人E4及び請求人E1の本件相続税の納付すべき税額は、別紙2−1ないし2−3の各人の「3 課税標準等及び税額等の計算」の「裁決後の額B」の「納付すべき税額」欄の各金額となる。
       そして、当該各金額は、これらの者が平成28年3月17日にした各更正の請求における納付すべき税額(別表2の「更正の請求1」の各「納付すべき税額」欄)をいずれも上回るから、これらの者に対する第1次各通知処分は、いずれも適法である。
  • ロ 第2次各通知処分の適法性
     当審判所が認定した請求人E3、請求人E4及び請求人E1の本件相続税の納付すべき税額は、別紙2−1ないし2−3のとおりであるところ、当該各金額は、これらの者が平成29年7月13日にした各更正の請求における納付すべき税額(別表2の「更正の請求2」の各「納付すべき税額」欄)をいずれも上回るから、第2次各通知処分は、いずれも適法である。
  • ハ 本件各増額更正処分の適法性
     当審判所が認定した請求人E3、請求人E4及び請求人E1の本件相続税の納付すべき税額は、別紙2−1ないし2−3のとおりであるところ、当該各金額は、本件各増額更正処分の各納付すべき税額(請求人E4及び請求人E1については、再調査決定において一部取り消された後のもの)を下回るから、本件各増額更正処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。
  • ニ 本件各賦課決定処分の適法性
     上記ハのとおり、本件各増額更正処分の一部が取り消されることに伴い、過少申告加算税の基礎となる税額は、それぞれ別紙2−1ないし2−3の「3 課税標準等及び税額等の計算」の「加算税の額の計算」の「加算税の基礎となる税額1」の「裁決後の額B」欄のとおりとなる。そして、かかる税額の計算の基礎となった事実について、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、各人に課される過少申告加算税の額は、それぞれ同表「加算税の額3」の「裁決後の額B」欄のとおりとなり、これらの金額はいずれも本件各賦課決定処分の金額を下回る。したがって、本件各賦課決定処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。

(4) 結論

本件各処分のその他の部分について請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 よって、E2に対してした更正をすべき理由がない旨の通知処分に対する審査請求のうち、納付すべき税額○○○○円を上回る部分の取消しを求める部分を却下し、その他の部分を棄却することとし、審査請求人E3、同E4及びE1に対する相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分については、いずれもその一部を取り消すこととし、その他の審査請求をいずれも棄却することとする。

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