(令和元年7月17日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、調剤薬局等の事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税等の確定申告において、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第2項第1号の規定により控除する課税仕入れに係る消費税額を計算するに当たり、調剤薬品等の課税仕入れは、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分すべきところ、課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するものに区分したため、納付すべき消費税等の額を過大に算定していたとして、更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことに対し、請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等は、別紙6のとおりである。なお、別紙6で定義した略語については、以下、本文及び別表においても使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
 なお、以下では、原処分に係る消費税及び地方消費税(以下、併せて「消費税等」という。)の各課税期間について、その個別の終了年月をもって、「平成24年9月課税期間」などと表記し、当該各課税期間を併せて「本件各課税期間」という。

  • イ 請求人について
     請求人は、昭和58年12月○日、医薬品、家庭用衛生日用雑貨等の販売等を目的として設立された法人であり、a市d町において「G」という名称の薬局(以下「本件薬局」という。)を営んでいる。
     本件薬局は、健康保険法第63条《療養の給付》第3項第1号に規定する厚生労働大臣の指定を受けた保険薬局であり、請求人は、本件薬局において、調剤を取り扱う事業(以下「調剤事業」という。)と市販医薬品や日用雑貨等を取り扱う事業を営んでいる。
  • ロ 調剤事業において取り扱う医薬品等の売上げに係る消費税について
     請求人が調剤事業において取り扱う医薬品等(以下「本件調剤薬品等」という。)の販売には、医師の処方箋に基づく販売のほか、他の薬局への販売などがある。
     これらの販売による売上げのうち、健康保険法等が適用される売上げについては、消費税法第6条及び同法別表第一第6号の規定により消費税が課税されないが、他の薬局への販売やいわゆる自費診療に係る販売など健康保険法等が適用されない売上げについては、消費税が課税される。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、別表1の「確定申告」欄のとおり、本件各課税期間の消費税等の確定申告書(以下「本件各確定申告書」という。)をいずれも法定申告期限までに提出した。
     なお、本件各課税期間における資産の譲渡等の対価の額等は別表2のとおりである。また、請求人は、本件各確定申告書において、本件各課税期間の控除対象仕入税額の計算について個別対応方式を選択しており、本件調剤薬品等の課税仕入れ(以下「本件調剤仕入れ」という。)については、非課税売上対応分に区分して控除対象仕入税額を算出していた。
  • ロ 請求人は、平成29年11月29日、平成24年9月課税期間の消費税等の確定申告について、控除対象仕入税額の計算に当たり、本件調剤仕入れは共通売上対応分に区分すべきところ、非課税売上対応分に区分したため、納付すべき税額を過大に申告していたとして、別表1の「更正の請求」欄のとおり更正の請求をしたところ、原処分庁は、平成30年2月28日付で、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
  • ハ 請求人は、平成30年5月24日、上記ロの通知処分を不服として、再調査の請求をするとともに、平成25年9月課税期間ないし平成28年9月課税期間の各課税期間の消費税等についても、上記ロと同様の理由により、別表1の「更正の請求」欄のとおり更正の請求をした。
  • ニ 再調査審理庁は、上記ハの再調査の請求に対し、平成30年7月5日付で、棄却の再調査決定をした。
  • ホ 請求人は、平成30年8月8日、上記ニの再調査決定を経た後の上記ロの通知処分に不服があるとして、審査請求をした。
  • へ 原処分庁は、平成30年8月28日付で、上記ハの各更正の請求に対し、更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下、上記ロの通知処分と併せて「本件各通知処分」という。)をした。
  • ト 請求人は、平成30年10月29日、上記ヘの各通知処分を不服として、審査請求をした。
  • チ 上記ホ及びトの各審査請求は、通則法第104条《併合審理等》第1項の規定に基づき、併合して審理されている。

2 争点

請求人が、本件各確定申告書において、本件調剤仕入れの用途区分を全て非課税売上対応分としたことは、通則法第23条第1項第1号に規定する「国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」に該当するか。

3 争点についての主張

請求人 原処分庁
本件調剤仕入れに対応する売上げには、その他の資産の譲渡等に該当するものだけでなく、課税資産の譲渡等に該当するものもあることから、請求人が本件調剤仕入れの日において、いずれの用途区分に該当するかの判定を行うことは困難である。また、本件調剤薬品等を売り上げた時に、課税資産の譲渡等又はその他の資産の譲渡等のいずれかに該当するかが明らかになったとしても、売上げと仕入れとを結び付けることができるのは品名及び数量のみであって、仕入れの時期や仕入価格まで結び付けることは困難である。
 以上の状況からすると、本件調剤仕入れは、共通売上対応分に区分すべきであったにもかかわらず、誤って非課税売上対応分として区分していた。
 したがって、請求人が本件各確定申告書において、本件調剤仕入れの用途区分を全て非課税売上対応分としたことは、通則法第23条第1項第1号に規定する「国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」に該当する。
請求人は、本件各確定申告書の控除対象仕入税額の計算において、本件調剤薬品等をその他の資産の譲渡等に使用する目的で仕入れたものであるとして、非課税売上対応分に区分していたものである。加えて、請求人の本件調剤薬品等の販売に係る課税資産の譲渡等の金額がその他の資産の譲渡等の金額に比して僅かであることからしても、請求人は、本件調剤仕入れを行った日の状況により、用途区分を合理的に判定しているといえる。その他においても、申告当時の区分の方法に誤りがあるとは認められないから、請求人が本件各確定申告書において本件調剤仕入れの用途区分を全て非課税売上対応分としたことは、通則法第23条第1項第1号の規定に該当しない。
 そして、消費税法基本通達11−2−20によれば、用途区分の判定が合理的であり、かつ、他の規定により調整が必要でないものについては、遡及して修正する必要がないのであるから、請求人の主張には理由がない。

4 当審判所の判断

(1) 争点(通則法第23条第1項第1号該当性)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 通則法第23条第1項第1号は、納付すべき税額が過大となる場合に更正の請求が認められる事由を「当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」の二つの事由に限定して規定しているところ、ここでいう「国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」とは、国税に関する法律の解釈適用についての誤りがあったことを意味し、申告当時において上記の誤りが生じていたことによって納付すべき税額が過大となる場合に、同項の適用が認められると解するのが相当である。
    • (ロ) 個別対応方式(消費税法第30条第2項第1号)により控除対象仕入税額を計算する場合には、各課税仕入れを「課税資産の譲渡等にのみ要するもの(課税売上対応分)」、「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの(非課税売上対応分)」又は「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(共通売上対応分)」のいずれかの用途区分に区分しなければならず、よって、課税資産の譲渡等にのみ要するものにも、その他の資産の譲渡等にのみ要するものにも該当しない課税仕入れについては、全て共通売上対応分に区分することになる。
       また、消費税法基本通達11−2−20は、個別対応方式により仕入れに係る消費税額を計算する場合の用途区分の判定は、課税仕入れを行った日の状況により行うこととなる旨を定めており、当該取扱いは、消費税法第30条が「要するもの」と規定し、「要したもの」とは規定していないことからみて、当審判所においても相当と認められる。
       そして、用途区分の判定に当たっては、課税仕入れを行った日の状況等に基づき、当該課税仕入れをした事業者が有する目的、意図等諸般の事情を勘案し、当該事業者において行う将来の多様な取引のうちどのような取引に要するものであるのかを客観的に判断すると解するのが相当である。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 請求人は、本件調剤薬品等については、基本的に問屋から仕入れていたが、患者が持参した処方箋に記載された医薬品等の在庫が本件薬局にないときには、他の薬局から仕入れることもあった(以下、本件調剤薬品等を問屋から仕入れることを「本件調剤問屋仕入れ」といい、他の薬局から仕入れることを「本件調剤他薬局仕入れ」という。)。
       請求人は、本件調剤他薬局仕入れにより仕入れた本件調剤薬品等については、全て健康保険法等が適用される販売のために使用しており、健康保険法等が適用されないいわゆる自費診療等に係る販売のために、本件調剤他薬局仕入れを行ったことはない。
    • (ロ) 請求人は、本件調剤薬品等につき、その大半を医師の処方箋に基づいて患者に対して販売していたが、上記(イ)と同様の理由で他の薬局から求められた場合には、当該他の薬局に対して本件調剤薬品等を販売することがあり、本件各課税期間においても、このような他の薬局への販売は、毎年、300回程度あった。また、いわゆる自費診療に係る販売も、毎年、少なくとも20回以上あった(請求人提出資料)。
  • ハ 検討
    • (イ) 上記ロのとおり、請求人は、本件各課税期間において、毎年、日常的に他の薬局との間で本件調剤薬品等を融通し合っていたところ、これは、薬局業務を行う事業者が、薬局の地域保健医療の担い手としての公共的使命として、地域の実情に応じ必要な調剤用医薬品を備蓄するとともに、患者等が持参した処方箋に在庫のない医薬品が処方されていた場合に備えて、地域薬局間での医薬品の分譲等により、迅速に調剤用医薬品が調達できる体制を講じておくことなどが求められていること(平成5年4月30日厚生省(現厚生労働省)策定の「薬局業務運営ガイドライン」参照)に基づくものであり、請求人が本件各課税期間以前から同様の事業内容であった(当審判所の調査の結果)ことからしても、請求人は、本件各課税期間以前から、こうした他の薬局への販売を当然に行っていたと認められるところである。
       このように、請求人は、本件調剤問屋仕入れにより仕入れた本件調剤薬品等については、本件各課税期間以前から、医師の処方箋に基づいて販売するだけではなく、他の薬局からの都度の要請という仕入れ後の事情により、一定数は必ず当該他の薬局へ販売する状況にあったと認められるのであり、そうすると、請求人が本件各課税期間において本件調剤問屋仕入れを行った日の状況としては、本件調剤問屋仕入れにより仕入れた本件調剤薬品等は、将来、その他の資産の譲渡等のみに要するとはいえず、仕入れ後の事情により、課税資産の譲渡等に要することも予定されていたと認められるから、本件調剤問屋仕入れについては、非課税売上対応分にも課税売上対応分にも該当せず、よって、共通売上対応分に区分するのが相当である。
       したがって、請求人が、本件調剤問屋仕入れを共通売上対応分に区分せず、非課税売上対応分に区分して控除対象仕入税額を計算したことは、消費税法第30条第2項第1号の適用について誤りがあったと認められる。
    • (ロ) 他方、本件調剤他薬局仕入れにより仕入れた本件調剤薬品等については、上記ロの(イ)からすると、その仕入れを行った日の状況としては、健康保険法等が適用される販売、すなわち、その他の資産の譲渡等にのみ要すると認められるから、用途区分は非課税売上対応分とするのが相当である。
    • (ハ) 以上のとおり、請求人が、本件各確定申告書における控除対象仕入税額の計算に当たり、本件調剤他薬局仕入れを非課税売上対応分と区分したことには誤りはないが、本件調剤問屋仕入れを共通売上対応分とせずに非課税売上対応分に区分したことは、通則法第23条第1項第1号に規定する「国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」に該当する。
  • ニ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、請求人が、本件調剤薬品等をその他の資産の譲渡等に使用する目的で仕入れ、非課税売上対応分に区分しており、請求人の本件調剤薬品等の販売に係る課税資産の譲渡等の金額がその他の資産の譲渡等の金額に比して僅かであることからしても、請求人は、本件調剤仕入れを行った日の状況により、用途区分を合理的に判定しているといえる旨主張する。
     しかしながら、請求人の本件調剤薬品等の販売に係る課税資産の譲渡等の金額が、その他の資産の譲渡等の金額に比して僅かであるとしても、本件各課税期間を通じて毎年必ず存在していることは上記ロの(ロ)のとおりであって、本件調剤問屋仕入れを行った日における請求人の主観的な意図等はともかくとして、上記ハの(イ)のとおり、当該仕入れを行った日の状況等を客観的にみれば、請求人が仕入れた本件調剤薬品等が、その他の資産の譲渡等だけでなく、課税資産の譲渡等に使用されることも予定されていたというべきであるから、請求人が、その仕入れを行った日の状況において、本件調剤薬品等を非課税売上対応分に区分したことが合理的であったとは認められない。
     よって、本件調剤問屋仕入れについては、原処分庁の主張は、採用することができない。
     他方、上記ハの(ロ)のとおり、本件調剤他薬局仕入れについては、請求人が非課税売上対応分として区分したことに誤りはないと認められるから、本件調剤他薬局仕入れに係る原処分庁の主張は相当である。

(2) 本件各通知処分の適法性について

上記(1)のハのとおり、請求人が、本件各課税期間における控除対象仕入税額を計算するに当たり、本件調剤仕入れを全て非課税売上対応分として区分していたことは誤りであり、本件調剤問屋仕入れについては共通売上対応分に区分して控除対象仕入税額を計算すべきであった。
 以上を前提に、請求人の本件各課税期間における本件調剤問屋仕入れに係る控除対象仕入税額を計算すると、別表3の「本件調剤問屋仕入れに係る控除対象仕入税額(5)」欄のとおりとなり、これに基づき、本件各課税期間の納付すべき消費税等の額を計算すると、別表4の「審判所認定額」欄のとおりとなるところ、当審判所の認定額は、いずれも原処分額を下回る。
 なお、本件各通知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各通知処分は、いずれもその一部を別紙1ないし別紙5の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(3) 結論

よって、審査請求には上記(2)の一部取消しを求める限度で理由があるので、原処分をその限度で一部取り消すこととする。

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