(令和元年9月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するため、請求人が所有する土地について公売を実施し、最高価申込者の決定処分を行ったのに対し、請求人が、最高価申込価額は、請求人が任意売却を申し入れた際の金額等と比較して低廉であるから、当該決定処分は違法であるとして、原処分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等は、別紙のとおりである。
 なお、別紙で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ G税務署長は、平成20年5月15日付で、請求人の滞納国税を徴収するため、請求人が所有する各土地を差し押さえた。
     以下、G税務署長が差し押さえた請求人が所有する各土地を「本件各土地」といい、その内訳は、別表1のとおりである。
  • ロ 原処分庁は、請求人の滞納国税について、平成20年5月30日、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、G税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
  • ハ 原処分庁は、本件各土地について、徴収法第98条第1項の規定に基づき、見積価額を○○○○円と決定した。
     その後、原処分庁は、平成○年○月○日付で、徴収法第95条《公売公告》第1項及び徴収法第99条《見積価額の公告等》第1項の各規定に基づき、公売公告処分(同年○月○日から同月○日までの公売期日)及び、見積価額を○○○○円とする見積価額の公告をし、本件各土地の公売を実施したが、入札者がなかった。
     以下、上記の公売公告処分と見積価額の公告に係る原処分庁の本件各土地の見積価額の決定を「本件第一次決定」といい、本件第一次決定で決定した本件各土地の見積価額を「本件第一次見積価額」という。
  • ニ 原処分庁は、徴収法第98条第1項の規定に基づき、本件各土地の見積価額を、本件第一次見積価額から○○○○円に変更決定し、平成○年○月○日付で、徴収法第95条第1項及び徴収法第99条第1項の各規定に基づき、公売公告処分(同年○月○日から同年○月○日までの公売期日)及び、見積価額を○○○○円とする見積価額の公告をし、本件各土地の公売を実施したが、入札者がなかった。
     さらに、原処分庁は、本件各土地について、平成○年○月○日付で、徴収法第95条第1項及び徴収法第99条第1項の各規定に基づき、公売公告処分(同年○月○日から同年○月○日までの公売期日)及び、見積価額を○○○○円とする見積価額の公告をし、本件各土地の公売を実施したが、入札者がなかった。
     以下、上記の各公売公告処分と各見積価額の公告に係る、原処分庁の本件各土地の見積価額の決定を「本件第二次決定」といい、本件第二次決定で決定した本件各土地の見積価額を「本件第二次見積価額」という。
  • ホ 原処分庁は、徴収法第98条第1項の規定に基づき、本件各土地の見積価額を、本件第二次見積価額から○○○○円に変更決定し、平成○年○月○日付で、徴収法第95条第1項及び徴収法第99条第1項の各規定に基づき、公売公告処分(平成○年○月○日から同年○月○日までの公売期日)及び、見積価額を○○○○円とする見積価額の公告をし、本件各土地の公売を実施したところ、見積価額を上回る○○○○円を最高の価額とする入札者があったことから、同年○月○日付で、徴収法第104条第1項の規定に基づき、当該入札に係る入札者を最高価申込者とする最高価申込者の決定処分を行った。
     以下、上記の公売公告処分と見積価額の公告に係る、原処分庁の本件各土地の見積価額の決定を「本件第三次決定」といい、本件第三次決定で決定した本件各土地の見積価額を「本件第三次見積価額」という。
  • へ 請求人は、平成30年2月13日、上記ホの最高価申込者の決定処分について、不服があるとして審査請求をした。
     その後、平成30年3月19日、上記ホの最高価申込者から原処分庁に対し、徴収法第114条《買受申込み等の取消し》の規定に基づき、本件各土地の買受申込み等の取消しの申出があったことから、原処分庁は、同月20日、上記ホの最高価申込者の決定処分を取り消した。
     請求人は、平成30年4月10日、審査請求の対象としていた処分がなくなったことから、上記の審査請求を取り下げた。
  • ト 原処分庁は、徴収法第98条第1項の規定に基づき、本件各土地の見積価額を、本件第三次見積価額から○○○○円に変更決定し、平成○年○月○日付で、徴収法第95条第1項及び徴収法第99条第1項の各規定に基づき、公売公告処分(同年○月○日から同月○日までの公売期日)及び、見積価額を○○○○円とする見積価額の公告をしたが、公売の実施を取りやめた。
  • チ 原処分庁は、本件各土地について、上記トの見積価額により、平成○年○月○日付で、徴収法第95条第1項及び徴収法第99条第1項の各規定に基づき、公売公告処分(同年○月○日から同月○日までの公売期日)及び、見積価額を○○○○円とする見積価額の公告をし、公売を実施した。
     以下、上記の公売公告処分と見積価額の公告を「本件公売」、本件公売に係る原処分庁による本件各土地の見積価額の決定を「本件公売時決定」、本件公売時決定で決定した本件各土地の見積価額を「本件公売時見積価額」という。
  • リ 原処分庁が本件公売を実施したところ、参加人により、本件公売時見積価額と同額で、かつ、最高の価額とする入札があったことから、原処分庁は、平成○年○月○日付で、徴収法第104条第1項の規定に基づき、参加人を最高価申込者とする最高価申込者の決定処分(以下「本件最高価申込者決定処分」という。)をし、同月○日、徴収法第106条《入札又は競り売りの終了の告知等》第2項の規定に基づき、請求人に対して、本件公売に係る本件各土地の最高価申込者である参加人の名称及び売却決定日時等所定の事項を通知するとともに、これらの事項を公告した。
     以下、本件最高価申込者決定処分に係る価額を「本件最高価申込価額」という。
  • ヌ 請求人は、平成30年11月27日、本件最高価申込者決定処分に不服があるとして、審査請求をした。
  • ル 参加人は、平成30年12月20日、通則法第109条《参加人》の規定に基づき、上記ヌの審査請求に参加した。

2 争点

本件最高価申込者決定処分は、本件最高価申込価額が低廉となった違法なものであるか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
次のとおり、本件公売時見積価額以上の価額で決定した本件最高価申込者決定処分は適法である。 本件最高価申込価額が、請求人が任意売却を申し入れた際の金額5,000,000円(以下「本件任意売却申入額」という。)や本件各土地の近隣の土地の販売価格よりも低廉であることからすれば、本件最高価申込者決定処分は違法である。
(1) 本件公売に係る本件各土地の基準価額は、不動産鑑定士による鑑定評価額を基に、過去3回の公売において入札者がなかったことによる市場性減価を反映させ、また、複数の不動産業者から聴取した意見も参考にして決定した適正な価額である。
(2) そして、本件公売時見積価額は、上記(1)の基準価額から、公売に付されることによる公売特殊性を減価して算出された適正な価額である。
(3) 本件最高価申込価額○○○○円は本件公売時見積価額以上である。

4 当審判所の判断

(1) 認定事実

原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 鑑定評価
     原処分庁は、不動産鑑定士であるHに対し、差押不動産の公売のため、本件各土地の鑑定評価を依頼した。
     Hは、平成29年3月10日付で、取引事例比較法及び収益還元法を適用し、各方法によって算定された比準価格及び収益価格に加え、公示価格等から査定した規準価格を検討して、本件各土地の鑑定評価額を合計9,390,000円とする鑑定評価書(以下「本件鑑定評価書」という。)を作成した。
     なお、本件鑑定評価書の要旨は別表2のとおりであり、以下、本件鑑定評価書の鑑定評価額9,390,000円を「本件鑑定評価額」という。
  • ロ 本件公売時見積価額の決定過程等
    • (イ) 本件第一次決定
       原処分庁は、平成29年4月5日、別表3の「第一次決定」欄の「基準価額1」欄のとおり、本件鑑定評価額を本件各土地の基準価額とし、これに公売特殊性減価として30%を減価し、本件第一次決定をした。
    • (ロ) 本件第二次決定
       原処分庁は、上記1の(3)のハのとおり、本件第一次見積価額により本件各土地の公売を実施したが、入札者がなかったことから、平成29年6月13日、市場性減価事由があるとして直前の基準価額である本件鑑定評価額から市場性減価として30%を減価し、別表3の「第二次決定」欄の「基準価額2」欄のとおり、基準価額○○○○円を算出し、併せて公売特殊性減価(マイナス30%)及び端数調整(千円未満切捨て、以下同じ。)をして、本件第二次決定をした。
    • (ハ) 本件第三次決定
      • A 原処分庁は、上記1の(3)のニのとおり、本件第二次見積価額により、2回にわたって本件各土地の公売を実施したが、いずれも入札者がなかったことから、平成29年11月7日、直前の基準価額である上記(ロ)の基準価額から更に市場性減価として30%を減価し、別表3の「第三次決定」欄の「基準価額3」欄のとおり、基準価額○○○○円を算出し、併せて公売特殊性減価(マイナス30%)及び端数調整をして、本件第三次決定をした。
      • B なお、本件第三次決定の際、原処分庁は、本件各土地の所在するa市内の複数の不動産業者から入手した、1本件各土地のある地域一帯は古い住宅地であり、道路も狭く、空き家が多いなどの住環境から、人気のない地域であること、2本件各土地は、本件第二次見積価額○○○○円よりも相当低額でないと買い手はいないことなどの情報を参考にして、直前の基準価額である上記(ロ)の基準価額から市場性減価として30%を減価した。
    • (ニ) 本件公売時決定
       原処分庁は、平成30年6月21日、改めて本件各土地の公売を実施するため、本件鑑定評価書の鑑定時点である平成29年3月1日から時が経過していることによる時点修正を行った後、上記(ハ)と同様に、市場性減価として30%を減価し、別表3の「公売時決定」欄の「基準価額3」欄のとおり、基準価額○○○○円を算出し、併せて公売特殊性減価(マイナス30%)及び端数調整をして、本件公売時決定をした。

(2) 法令解釈

  • イ 徴収法第98条第1項は、別紙の1の(1)のとおり規定しているところ、その趣旨は、徴収法第104条第1項(別紙の1の(2))が、最高の価額による入札者であっても、その価額が見積価額に達しないときは最高価申込者としていないこととあいまって、公売価額が著しく低廉となることを防止するために、最低売却価額を保障しようとした点にあると解される。
     そして、この点につき、徴収法基本通達第98条関係2(別紙の2の(1))において、公売財産の評価は、財産の所在する場所の環境、種類、規模、構造等、その財産の特性に応じ、取引事例比較法、収益還元法、原価法その他の評価方法を適切に用いるとともに、市場性、収益性、費用性その他の公売財産の価格を形成する要因を適切に考慮し、その財産の時価に相当する価額(基準価額)を求めることに留意して行う旨、基準価額は、公売財産を直ちに売却する場合に想定される現在価値であって、その財産の種類、性質などにより市場性が劣ること等による固有の減価(市場性減価)を適切に反映させる旨定めているところ、公売財産が、買受希望者に通常購買意欲を生じさせ難い物件や採算の合わない物件等である場合には、別途追加的又は補充的な市場性減価が必要であるというべきであるから、当審判所においても、この取扱いは相当と認める。
  • ロ さらに、公売には、1換金を目的とした強制売却であること、2換価する財産や公売の日時及び場所が一方的に決定されること、3売主は瑕疵担保責任を負わないこと及び4買主は原則として解約等ができないことなどの特殊性があり、見積価額を算定する際にはこれらの特殊性を考慮して減価する必要があるから、見積価額は、時価を相当に下回るのが通常である。
     しかしながら、公売の特殊性を考慮して算定された見積価額が時価より著しく低廉で、その結果、最高価申込価額も時価より著しく低廉となった場合には、最低売却価額の保障という徴収法第98条第1項の趣旨に反することとなるから、このような場合の最高価申込者の決定処分は違法になると解すべきである。
  • ハ なお、見積価額及び最高価申込価額が時価より著しく低廉であるといえるか否かの判断基準は、公売対象財産や公売時点の市況等によって具体的事情が相当異なるため、一律に定めることは困難であるところ、実務上、徴収法基本通達第98条関係3(別紙の2の(2))において、見積価額の決定に当たっては、基準価額のおおむね30%程度の範囲内で減価(公売特殊性減価)を行う旨定めており、この割合は、最低売却価額の保障という徴収法第98条第1項の趣旨に照らして一定の合理性を有するといえるから、上記通達の取扱いは、当審判所においても相当と認める。
  • ニ また、徴収法第107条第2項は、別紙の1の(3)のとおり、公売に付しても入札者等がないときに更に公売に付する(再公売)場合において、必要であると認めるときは、公売財産の見積価額を変更することができる旨規定しており、その趣旨は、直前に公売に付した公売財産について再公売を行う際、その直前の見積価額により公売することが適当でないと認められる合理的な理由がある場合、その公売財産の価格形成要因の変化や市場性等を踏まえ、徴収法第98条第1項の趣旨に合致するよう、適正に見積価額を見直すことを許容した点にあるものと解される。
     この点につき、徴収法基本通達第107条関係1−2(別紙の2の(3))は、公売に付しても入札者等がない事実は、その公売財産の市場性が劣ることを示す合理的な理由の一つであることから、公売に付しても入札者等がなかったことによる市場性減価を直前の基準価額から適切に減価して見積価額を変更する旨、この場合の市場性減価は、直前の基準価額のおおむね30%の範囲内とする旨それぞれ定めているところ、公売財産につき公売に付しても入札者等がない事実は、当該公売財産の直前の見積価額によっては公売市場において当該公売財産に対する需要がなかったことを示す新たな事情といえる。
     そうすると、当該公売財産の再公売に当たり、見積価額決定の前提となった事実に、公売に付しても入札者等がなかったという新たな事実をも考慮して、直前の基準価額の30%の範囲内で市場性減価を行い、見積価額を変更することは、徴収法第107条第2項の趣旨に照らして一定の合理性を有するものといえるから、上記通達の取扱いは、当審判所においても相当と認める。

(3) 検討

  • イ 本件鑑定評価額について
     本件鑑定評価書は、上記(1)のイのとおり、不動産鑑定評価の専門家であり、国家資格を有する不動産鑑定士が、別表2のとおり国土交通省が定める不動産鑑定評価基準に準拠して作成したものと認められ、本件鑑定評価額の算定過程に不合理な点は認められない。
  • ロ 時点修正について
     原処分庁は、本件公売時見積価額の算定に当たり、期間経過に伴う価格変動を反映させるため、別表4のとおり近隣類似の都道府県基準地の価格を基に時点修正(上昇率プラス1.1%)を行って、試算価格を9,493,000円と算定したことが認められるところ、その算定過程に不合理な点は認められない。
  • ハ 市場性減価について
    • (イ) 本件各土地について、原処分庁は、本件第一次見積価額により平成○年○月○日を公売期日とする公売を実施したが、当該公売が不成立となった事実は、本件各土地が、本件第一次見積価額によっては需要がなく、市場性が劣ることを示しているといえるものである。
       したがって、原処分庁が本件公売時見積価額の算定に当たり、徴収法基本通達第107条関係1−2の定めに従って、直前の基準価額から市場性減価として30%を減価したことが合理性を欠くものとは認められない。
    • (ロ) さらに、本件各土地について、原処分庁は、本件第二次見積価額により平成○年○月○日を公売期日とする公売と、同年○月○日を公売期日とする公売を実施したが、当該各公売が不成立となっている事実は、本件各土地が、本件第二次見積価額によっても需要がなく、市場性が劣ることを示しているといえるものである。
       原処分庁は、上記(1)のロの(ハ)及び(ニ)のとおり、本件第三次決定及び本件公売時決定において、a市内の複数の不動産業者から入手した、本件各土地の価額に関する情報を参考に、個別の物件における需要予測等も勘案した上で、直前の基準価額から市場性減価として30%を減価したことが認められる。
    • (ハ) したがって、原処分庁が本件公売時見積価額の算定に当たり、徴収法基本通達第107条関係1−2の定めに従って、重ねて市場性減価として各30%を減価したことも、合理性を欠くものとは認められない。
  • ニ 公売特殊性減価について
     原処分庁は、上記(1)のロの(ニ)のとおり、徴収法基本通達第98条関係3の定めに基づき、公売特殊性減価として30%を減価した上で、本件公売時見積価額を決定しているが、公売特殊性減価は、別紙の2の(2)のロのとおり、徴収法基本通達第98条関係3の範囲内で行われており、合理性を欠くものとは認められない。
  • ホ まとめ
     以上によれば、本件公売時見積価額が、時価より著しく低廉であるとは認められず、これと同額の本件最高価申込価額も、時価より著しく低廉であるとは認められない。
     したがって、本件最高価申込者決定処分は違法なものとはいえない。

(4) 請求人の主張について

請求人は、本件最高価申込価額は、本件任意売却申入額や本件各土地の近隣の土地の販売価格よりも低廉であることから、本件最高価申込者決定処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、最高価申込価額が時価より著しく低廉であるといえる場合に最高価申込者の決定処分は違法になると解されるところ、仮に、本件任意売却申入額や本件各土地の近隣の土地の販売価格に比して、本件最高価申込価額が低かったとしても、直ちに本件最高価申込者決定処分が違法となるわけではなく、また、本件最高価申込価額が本件各土地の時価より著しく低廉であるとは認められないことは、上記(3)のホのとおりである。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(5) 本件最高価申込者決定処分の適法性について

本件最高価申込者決定処分は、上記(3)のホのとおり、違法なものとはいえない上、上記1の(3)のリのとおり、本件公売時見積価額以上の金額で、かつ、最高の価額による入札者を最高価申込者と決定しており、徴収法第104条の規定に基づき適法に行われている。
 また、本件最高価申込者決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件最高価申込者決定処分は適法である。

(6) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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