(令和元年10月4日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が損金の額に算入した外注費のうち、下請業者への工事発注業務等を担当していた請求人の従業員が親族名義の口座に振り込ませた金員について、原処分庁が、架空外注費であり、当該従業員による上記行為は納税者による隠蔽又は仮装に該当するとして、法人税、地方法人税及び消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該従業員による上記行為は納税者による隠蔽又は仮装に該当しないことなどを理由として、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
  • ロ 通則法第74条の11《調査の終了の際の手続》第2項は、国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとすると規定し、同条第3項は、同条第2項の規定による説明をする場合において、当該職員は、当該納税義務者に対し修正申告を勧奨することができる旨、また、この場合において、当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人について
    • (イ) 請求人は、昭和〇年〇月○日に設立された、主に建物の総合管理の請負を目的とする法人である。
    • (ロ) 請求人の事業年度は、4月1日から翌年3月31日までである(以下、平成27年4月1日から平成28年3月31日まで及び平成28年4月1日から平成29年3月31日までの各事業年度を順次「平成28年3月期」及び「平成29年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)。
  • ロ 請求人のエンジニアリング事業本部エンジニアリング部について
    • (イ) 請求人のエンジニアリング事業本部エンジニアリング部(以下「エンジニアリング部」という。)は、請求人が管理を請け負うビルの所有者やテナント等から、建物設備の更新工事やテナントの入退去に伴う内装工事等(以下、これらの工事等を「内装工事等」という。)を請け負うことを主たる業務としている。
    • (ロ) エンジニアリング部の従業員数は、本件各事業年度を通じて18名であった。そのうち、部長及び経理主任を除く16名の各従業員(以下「各担当者」という。)は、請求人が管理を請け負う複数のビルの内装工事等について受注から完了までをそれぞれが単独で担当しており、各担当者が担当する工事の施主との交渉、下請業者の選定及び工事の管理等の対外的業務について請求人からそれぞれが一任されている。
  • ハ エンジニアリング部の事務手続の概要について
    • (イ) 工事受注に際しては、各担当者が下請業者を選定した上で、施主宛の見積書を作成し、エンジニアリング事業本部長及びエンジニアリング部長(以下、両者を併せて「本部長及び部長」という。)の決裁を受ける。
    • (ロ) 工事受注後、各担当者が受注伝票を作成し、本部長及び部長の決裁を受ける。受注伝票には、契約金額、見積原価、粗利、原価率、工事名、施工ビル名等とともに、下請業者名と当該下請業者が担当する工事の内容及び金額が記載されている。
    • (ハ) 工事完了後、各担当者が工事完了報告書、請求書及び売上伝票を作成し、本部長及び部長の決裁を受ける。
    • (ニ) 下請業者からの請求書については、各担当者が確認した後、本部長及び部長の支払承認決裁を受けた上で経理部に回付され、当該請求書に基づき下請業者に請負代金が支払われる。
  • ニ G及びHについて
    • (イ) G(以下「本件従業員」という。)は、平成17年4月に請求人の子会社に入社、平成25年4月に請求人に転籍し、同年12月にエンジニアリング部の主任、平成28年4月に課長となり、平成30年8月12日付で懲戒解雇となるまでの間、エンジニアリング部に在籍していた。主任、課長へと職制上の地位の変更はあったものの、本件従業員の業務内容及び権限に変更はなく、在籍期間を通じて部下はいなかった。
    • (ロ) 本件従業員は、エンジニアリング部における各担当者の一人として、請求人が管理を請け負う複数のビルの内装工事等について受注から完了までを単独で担当しており、本件従業員が担当する工事の施主との交渉、下請業者の選定及び工事の管理等の対外的業務について請求人から一任されていた。
    • (ハ) Hは、本件従業員の配偶者であるJ(以下「本件従業員妻」という。)が使用する屋号である。
  • ホ Hを下請業者とする外注取引について
    • (イ) 本件従業員は、請求人が受注した別表1の「施工ビル名」欄の各案件について、下請業者として「業者名」欄にHと記載された各受注伝票(以下「本件各受注伝票」という。)を作成するとともに、同表の「工事名」欄の各工事(以下「本件各外注工事」という。)の請負代金として、同表の「金額(税込み)」欄記載の各金額(以下「本件各金員」という。)を請求する旨のH名義の各請求書(以下「本件各請求書」という。)を、本件従業員妻とともに作成し、請求人に交付した(以下、本件各外注工事の請負代金として本件各金員を請求するために本件各請求書を作成し請求人に交付した一連の行為を「本件行為」という。)。
       本件各請求書には、Hの住所として「〒○○○-○○○○ d県g市h町○−○」、振込先銀行口座として「K銀行 ○○支店 普通預金No.○○○○ H」と記載されている(以下、当該振込先銀行口座を「本件預金口座」という。)。
    • (ロ) 請求人は、本件各請求書に基づき、Hに対する本件各外注工事に係る外注費(以下「本件外注費」という。)として別表1の「金額(税抜き)」欄の平成28年3月期合計金額2,690,000円及び平成29年3月期合計金額3,816,000円を本件各事業年度の外注費勘定にそれぞれ計上し、本件各金員を本件預金口座に振り込んだ。
  • ヘ 調査結果の説明等について
    • (イ) 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成30年2月13日から請求人に対する税務調査(以下「本件調査」という。)を開始し、同年5月25日、調査結果の説明(以下「本件調査結果説明」という。)を行った。
       本件調査結果説明は、L管理本部副本部長兼経理部長、M経理部次長及びN税理士(以下、順次「L部長」、「M次長」という。)に対し、本件調査担当職員が作成した調査結果の内容を説明するためのメモ(以下「本件説明メモ」という。)に沿って行われた。本件説明メモの「外注費否認」欄の記載内容は別表2のとおりであり、「Hに対する外注費(預け金)」と記載されている。
    • (ロ) 本件調査結果説明の後、本件調査担当職員は、本件外注費を含む本件説明メモの項目について通則法第74条の11第3項の規定に基づく修正申告の勧奨(以下「本件修正勧奨」という。)を行った。その際、本件調査担当職員は、修正申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した「修正申告等について」と題する書面をL部長に交付し、L部長はその控えに署名押印した。
    • (ハ) 請求人は、本件調査を契機に内部調査を行い、Hにおいて本件各外注工事を実施した事実がないとうかがわれることを把握したことから、原処分庁に対し、本件修正勧奨を受けて、本件外注費を含む本件調査の指摘事項について修正申告を行う旨申し出、平成30年5月29日、本件修正勧奨に沿う内容の各修正申告書を提出した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件各事業年度の法人税について、青色の確定申告書に別表3の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの)までにそれぞれ申告した。
     また、請求人は、平成27年4月1日から平成28年3月31日まで及び平成28年4月1日から平成29年3月31日までの各課税事業年度(以下、順次「平成28年3月課税事業年度」及び「平成29年3月課税事業年度」といい、これらを併せて「本件各課税事業年度」という。)の地方法人税について、青色の地方法人税申告書に別表4の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
  • ロ 請求人は、平成27年4月1日から平成28年3月31日まで及び平成28年4月1日から平成29年3月31日までの各課税期間(以下、順次「平成28年3月課税期間」及び「平成29年3月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)について、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告書に別表5の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。なお、請求人は消費税等に係る経理処理について、いわゆる税抜経理方式を採用している。
  • ハ 請求人は、本件修正勧奨に基づき、平成30年5月29日、本件各事業年度の法人税、本件各課税事業年度の地方法人税及び本件各課税期間の消費税等について、別表3ないし別表5の各「修正申告」欄のとおり記載した各修正申告書を提出し、それぞれ修正申告(以下「本件各修正申告」という。)をした。
  • ニ 原処分庁は、平成30年7月27日付で、別表3ないし別表5の各「賦課決定処分」欄のとおり、本件各事業年度の法人税、本件各課税事業年度の地方法人税及び本件各課税期間の消費税等について、それぞれに係る重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ホ 請求人は、本件各賦課決定処分に不服があるとして、平成30年10月26日に審査請求をした。

2 争点

(1) 本件調査の終了の際の手続に原処分の取消事由となる違法があるか否か(争点1)。

(2) 請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があるか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件調査の終了の際の手続に原処分の取消事由となる違法があるか否か。)について

原処分庁 請求人
次のとおり、本件調査の終了の際の手続に原処分の取消事由となる違法はない。
 本件調査担当職員は、平成30年4月17日に、L部長、M次長、P経理部次長(以下「P次長」という。)、Q税理士及びN税理士に対して、調査資料(会計伝票及び本件各請求書の写し)を提示した上で、本件外注費が架空外注費として重加算税の対象である旨の説明を行った。
 これに対し、Q税理士は、平成30年4月27日、請求人内で検討した結果、Hに対する送金額は、全額を本件従業員に対して返還請求することとしたが、税務上は「預け金」として処理するよう、L部長に伝えた旨を本件調査担当職員に申し出た。
 これらを前提として、本件調査担当職員は、平成30年5月25日に、L部長、M次長及びN税理士立会いの下、本件外注費を否認して預け金として処理すること、法人税、地方法人税及び消費税等に重加算税が賦課されること等が記載されている本件説明メモを提示した上で本件調査結果説明を行った。
 したがって、原処分に関する本件調査結果説明には、通則法第74条の11第2項にいう調査終了の際の手続を欠く違法はない。
次のとおり、本件調査の終了の際の手続に原処分の取消事由となる違法がある。
 本件説明メモには、「預け金」の総額が記載されているのみで、請求人がHに対して支払った外注費のどの取引を預け金として集計したか説明がなされていないことから、原処分庁は、適切に、重加算税の根拠となる調査結果の内容を説明したものとは認められない。
 したがって、原処分に関する本件調査結果説明には、通則法第74条の11第2項にいう調査終了の際の手続を欠く違法がある。

(2) 争点2(請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があるか否か。)について

原処分庁 請求人
次の理由から、請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実がある。 次の理由から、請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実はない。
イ 本件従業員による本件行為は通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する。 イ 本件従業員による本件行為は通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当しない。
(イ) 本件従業員が本件従業員妻に本件各請求書を作成させた経緯、本件外注費として支払われた金員の使途、Hが実際に本件各外注工事を行っていないことからすれば、本件従業員はHに対して工事を外注する意図はなく、Hである本件従業員妻においても工事を請ける意図はなく、本件従業員(請求人)からの発注行為及びこれに対応するHの受注行為も認められない。そうすると、Hの本件各外注工事に係る本件各請求書は架空のものであり、かかる本件各請求書に基づき本件外注費を計上したことは、実際には存在しない外注費の計上である。  (イ) 本件各外注工事のうち、別表1の順号6、15、18ないし20及び22の6件の各工事については、工事が行われた旨の請求人の従業員による証言、あるいは、請求人がHにのみ外注している事実及び施主からこれらの工事代金が支払われている事実からすれば、Hにおいて又はHを通じて実際に工事が行われているといえるから、事実の仮装はない。 
(ロ) 請求人が、Hを通じて他の業者により実際に工事が行われたと主張する各工事については、いつ誰にいくらの金額が支払われたかも不明であるから、当該各工事の金額を外注費として、請求人の損金の額に算入することはできない。  (ロ) 上記(イ)の6件の工事以外の工事についても、原処分庁は、Hにおいて又はHを通じて実際に工事が行われたか、個別の調査を行っておらず、ずさんな調査に基づく認定である。 
  (ハ) したがって、本件各外注工事のいずれの工事についても、Hにおいて又はHを通じて実際に工事が行われていないとはいえないから、事実の仮装があったとは認められない。
ロ 本件従業員による本件行為を納税者たる請求人の行為と同視することができる。 ロ 本件従業員による本件行為を納税者たる請求人の行為と同視することができない。
(イ) 法人の従業員による課税標準等の隠蔽又は仮装行為については、当該法人の代表取締役は、適正な納税申告を行うために従業員等を指導・監督すべき義務を負っていると考えられるところ、納税者たる法人の従業員が隠蔽又は仮装行為を行った場合には、当該法人は、法人の機関として役員に行動させ、また、従業員を自らの手足として用いて、活動領域を拡大することによってそこから経済的な利益を得ている以上、その拡大された活動領域において生じる危険ないし責任も負担していると考えられるし、従業員の業務に関連する行為は、当該法人の活動領域内の行為として自己の行為の一部分とみることができるから、従業員の行為が納税者の行為と同視できないといえるような特段の事情がない限り、原則として、当該法人は適正な申告をすべき義務を自ら怠ったものとみて、重加算税の適用対象となるというべきである。 (イ) 本件従業員は、独断で、本件外注費を計上することにより、請求人から本件各金員を詐取して個人的な遊興費を得ていたものである。
(ロ) 本件従業員の業務は、エンジニアリング部において、営業部等から補修工事等の引き合いがあった案件について、施主に対する見積書の作成、現場管理業務及び外注先への発注等であることからすれば、本件従業員が自ら担当する現場の下請業者を選定し、工事を発注することは、本件従業員の業務範囲内の行為であると認められる。本件外注費に係る事実の仮装もかかる業務の一環として行われている。また、本件においては、本件従業員によるHに対する支払は、請求書等を出さない外注業者への支払をするため等にプールしておいた金員とみるべきである。
 したがって、本件従業員による本件行為は業務に関連する行為であると認められる。
(ロ) 本件従業員は、取締役への就任等、経営に関与したことはなく、職制上の重要な地位に従事したこともない。また、請求人の経理帳簿等に携わる職務に就いたこともない。本件従業員は、部下を持たず、エンジニアリング部の他の各担当者と同様に、請求人の顧客からの工事の依頼に基づいて工事の受注及び監督を行っていた一使用人であった。
 原処分庁は、本件従業員の業務範囲が下請業者を選定し工事を発注するものであることをもって、本件従業員の行為を請求人の行為と同視できる旨主張するが、請負金額が数万円という少額な工事を受注するに当たり、個々の工事における外注先の選定及び発注を任せる権限委譲は、一般的に採用される当然の手続であり、その程度の権限委譲を工事担当者に対してすることができなければ、施主から期待される工事期間内に適切に工事を完了させることができないばかりか、工事の質をも維持できないものである。
(ハ) 請求人において、下請業者への支払については、Rエンジニアリング事業本部長及びSエンジニアリング部部長の決裁をもらうことになっているところ、本件外注費についても、基本的に当該決裁を受けて支払われ、当該決裁を受けていない2件についても〇〇部の決裁を経ている。 (ハ) 本件従業員は、本件各外注工事の利益率が請求人の目標利益率を下回らないようにしており、また、少額な工事においてHのみを下請業者とすることで請求人内部にHの工事実績があるものと認識させ、利益が確保できる高額な工事にはHを入れ込んで利益を詐取する等、Hをどの工事に関与させるかについて様々な態様を取っており、また、同じ工事現場でも詐取する工事とそうでない工事を選り分ける、偏りがないようにするなど、上司等が決裁過程において不信を抱かないようにしていた。このような巧妙な方法による詐取行為は、請求人が把握できないものであった。
(ニ) 本件従業員以外の者が、下請業者の実態や施工の確認を随時行っていれば、本件従業員による本件行為を容易に把握できたというべきであるところ、当該行為を把握できなかったのは、請求人において、本件従業員に担当現場における下請業者の選定、工事の発注の一切を任せたまま、本件従業員の業務に対する監督が不足していたことが原因というべきであり、請求人が本件従業員の行為を防止する相当の注意義務を果たしていたとは認められない。 (ニ) 原処分庁は、本件従業員以外の者が下請業者の実態や施工の確認を行っていれば容易に把握できた旨主張するが、年間800件の工事を受注する請求人において、少額な工事を担当する下請業者をはじめ全ての下請業者の実態や施工の確認などを随時把握させることなど現実的な対応ではない。
(ホ) また、本件各請求書には、本件従業員の住所「d県g市i町○−○」と極めて近い住所「d県g市h町○−○」が記載されており、そもそも「d県g市h町」という地名自体が存在しないのであるから、決裁の過程において、本件各請求書の記載に不審を抱く機会は十分にあったと認められるので、請求人は、本件従業員による本件行為を容易に認識することができたと認められる。 (ホ) 原処分庁は、本件各請求書に記載のあったHの所在地が本件従業員の住所と極めて近いことをもって決裁過程において不審を抱く機会が十分あったと認められるから、請求人が容易に本件従業員の仮装行為を認識できた旨主張するが、昨今の個人情報保護体制の下、決裁権者といえども部下の自宅住所を簡単に把握できるものではなく、おおよその地域を知っていたとしても、各工事において複数の決裁を行わなくてはならないエンジニアリング部において、部下の正確な自宅住所を念頭に決裁手続をすることまで求められるものではない。
(ヘ) 以上からすれば、本件従業員による本件行為を請求人の行為と同視できないといえるような特段の事情はない。  

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件調査の終了の際の手続に原処分の取消事由となる違法があるか否か。)について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件調査担当職員は、平成30年4月17日、L部長、M次長、P次長、N税理士及びQ税理士に対し、会計伝票及び本件各請求書の写しを提示した上で、本件外注費について次の指摘をした。
      • A 本件外注費に係る本件各金員は、本件預金口座に入金されており、Hが工事の施工等を行った事実が認められないことから、本件外注費は架空外注費として重加算税の対象となること。
      • B Hに対して支払った本件各金員は、本件預金口座に預けている状態であること。
    • (ロ) 上記(イ)の指摘を受けて、Rエンジニアリング事業本部長、T管理本部長及びL部長は、本件従業員に対してHを下請業者として用いた理由等を聴取する内部調査を行った。
       内部調査後、Q税理士は、平成30年4月27日、請求人内で検討した結果、Hに対して支払った本件各金員については本件従業員に対し全額返還を求めることとしたが、税務上は預け金として処理するようL部長に伝えた旨を本件調査担当職員に申し出た。
    • (ハ) 本件各修正申告において修正されている本件外注費に係る額は、本件説明メモに記載された外注費の額に基づいて計上されている。
  • ロ 検討
     上記イの(イ)のとおり、本件調査担当職員は、L部長、M次長、P次長、N税理士及びQ税理士に対して、会計伝票及び本件各請求書の写しを提示した上で、本件外注費が重加算税の対象となることを説明していること、上記1の(3)のヘの(イ)のとおり、本件調査担当職員が、L部長、M次長及びN税理士に対して提示した本件説明メモにも、本件外注費の金額及び本件外注費がHに対する外注費(預け金)である旨が明記されており、重加算税の対象となる金額及び内容が明らかになっていることから、本件調査結果説明は通則法第74条の11第2項の規定に基づく調査結果の内容説明として適法に行われている。
     また、上記1の(3)のヘの(ロ)のとおり、本件修正勧奨は通則法第74条の11第3項の規定に基づく手続として適法に行われている。
     したがって、本件調査の終了の際の手続に原処分の取消事由となる違法はない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、本件説明メモには、預け金の総額が記載されているのみで、請求人がHに対して支払った外注費のどの取引を預け金として集計したのかについて説明がなされていないことから、原処分庁は適切に重加算税の根拠となる調査結果の内容を説明したものとは認められない旨主張する。
     しかしながら、上記イの(ロ)のとおり、本件調査担当職員の指摘を受けて、請求人は、自ら内部調査を行い、Hに対して支払った本件各金員を本件従業員に対し全額返還を求めることとした上で、預け金として処理する旨申し出ていること、同イの(ハ)のとおり、請求人は、本件説明メモに記載された金額に基づいて本件各修正申告をしていることからすれば、請求人は、Hに対して支払った外注費のどの取引を預け金として集計したのかについて正確に把握していたものと認められる。そうすると、原処分庁は、この点について請求人に説明したものと推認するのが合理的である。
     仮に、本件調査担当職員が、本件調査結果説明において、Hに対して支払った外注費のどの取引を預け金として集計したのかについて説明していなかったとしても、本件外注費に係る預け金の額は、本件各修正申告に係る課税標準等、税額等又は加算税の算定に影響するものではないことから、そのことをもって本件調査の終了の際の手続に原処分の取消事由となる違法があるとは認められない。
     したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があるか否か。)について

  • イ はじめに
     本件においては、1本件従業員による本件行為が通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当するか否か、2本件従業員による本件行為を納税者たる請求人の行為と同視することができるか否かが問題となっている。よって、これらの点について以下検討する。
  • ロ 法令解釈
    • (イ) 通則法第68条第1項にいう「事実を隠蔽」するとは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠蔽しあるいは故意に脱漏することをいい、また、「事実を仮装」するとは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが事実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうと解するのが相当である。
    • (ロ) 通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をするにつき隠蔽又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
       通則法第68条第1項は、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」と規定し、隠蔽又は仮装する行為の主体を納税者としているのであって、本来的には、納税者自身による隠蔽又は仮装する行為の防止を企図したものと解される。
       しかし、納税者以外の者が隠蔽又は仮装する行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると、重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる。
       したがって、納税者が法人である場合、法人の従業員など納税者以外の者が隠蔽又は仮装する行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができる場合には、納税者本人に対して重加算税を賦課することができると解するのが相当である。
       そして、従業員の行為を納税者本人の行為と同視できるか否かについては、1その従業員の地位・権限、2その従業員の行為態様、3その従業員に対する管理・監督の程度等を総合考慮して判断するのが相当である。
  • ハ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件従業員の本件行為について
      • A 本件従業員及び本件従業員妻は、本件各外注工事に関して、本件調査担当職員に対して、要旨次のとおり申述している。
        • (A) 本件従業員の申述
          • a 本件従業員妻は本件各外注工事のいずれの工事現場においても作業を行っておらず、Hは従業員を雇っていない。
          • b 本件各金員は、私がゴルフ代や飲食代等に使用していた。
        • (B) 本件従業員妻の申述
          • a 私は現場等へは行っておらず、工事等も行っていない。
          • b 本件各金員は、本件従業員がゴルフ代や飲食代等に使用していた。それらの領収書は、ノートに貼り付けて保管している。
          • c 私は、本件従業員から指示され、請求人に対する本件各請求書を自宅のパソコンで作成し発行していた。
         上記各申述内容は、自己に殊更不利益な事実を真摯に述べるものであり、申述内容それ自体としても具体的であって不自然な点も見当たらず、客観証拠とも合致するものであることから、いずれも信用することができる。
      • B 本件従業員妻が、本件預金口座に振り込まれた本件各金員の使途を証するものとして保管していた領収書によれば、その大半は、ゴルフ代及び飲食代であり、飲食代の多くは本件従業員の自宅近辺に所在する飲食店における飲食代であることからすると、本件各金員は、本件従業員のゴルフ代及び飲食代等に費消されていたものと認められる。
      • C 以上のとおり、上記本件従業員及び本件従業員妻の申述並びにこれらと一致する他の客観証拠からすると、本件従業員はHにおいて本件各外注工事を受注する意図がなく、また、Hには工事を行うことができる従業員がいないため本件各外注工事を施工することができないにもかかわらず、本件従業員は、Hを本件各外注工事の下請業者とする本件各受注伝票を作成するとともに、本件従業員妻に指示し作成させた本件各請求書を請求人に交付して本件各金員を請求し支払わせたものと認められる。
    • (ロ) 本件従業員の地位・権限について
      • A 本件従業員は、在職期間を通じて、主任、課長へと職制上の地位の変更はあったものの、本件従業員の業務内容及び権限に変更はなく、本件従業員が請求人の経営に参画することはなかった。
      • B 本件従業員は、在籍期間を通じて、エンジニアリング部において他の各担当者と同様に、内装工事等に関して施主との交渉から外注業者の選定及び工事の管理等の受注工事に関する対外的業務について請求人から一任されていたものの、単独で遂行できる業務は施主や下請業者とのやり取り及びこれに伴う書面作成や現場管理といった業務のみで、これらの業務に関して特別な権限を付与されることはなかった。
      • C 以上のとおり、本件従業員は、請求人の経営に参画することや、経理業務に関与することはなく、その他特別に付与された業務や権限もなかったことからすれば、本件従業員の地位権限は、一使用人としての限定されたものであったと認められる。
    • (ハ) 本件従業員の行為態様について
      • A 本件従業員は、上記(イ)のBのとおり、本件預金口座に振り込まれた本件各金員をゴルフ代及び飲食代等の個人的な使途に費消していた。
      • B 請求人は、本件外注費が架空外注費であるとの指摘を受けて、本件従業員に対して内部調査を行った結果、本件従業員による詐取行為を把握したことから、「業務に関し不当に金品、その他を受け取り、もしくは与え、又は職務、職位を利用して不正に自己の利益をはかる行為をしたとき」に該当すること等を理由に、平成30年8月12日付で本件従業員を懲戒解雇処分とした。
         また、請求人は、本件各金員について本件従業員に対して返還請求をしている。
      • C 以上のとおり、本件行為は、請求人の業務の一環として行われたものではなく、本件従業員が私的費用を請求人から詐取するために独断で行ったものと認められる。
    • (二) 本件従業員に対する請求人の管理・監督について
      • A エンジニアリング部における事務手続としては、上記1の(3)のハのとおり、工事受注時における施主宛の見積書及び受注伝票を、工事完了時における工事完了報告書、請求書及び売上伝票を、各担当者が作成した上で本部長及び部長の決裁を受けるなど一定の管理体制が整えられている。本件各外注工事についても同様にこれらの事務手続に従って各種書類の作成及び決裁が行われていた。
      • B エンジニアリング部における現場管理としては、各担当者が担当する内装工事等について、担当者以外の従業員や上司が、現場の施工状況、工事の進捗状況及び下請業者の実態等について確認する体制は執られていなかった。本件各外注工事についても同様に本件従業員以外の従業員や上司が現場確認等を行うことはなかった。
      • C 以上のとおり、エンジニアリング部においては、内装工事等に係る各種書類の作成及び決裁といった事務手続については一定の管理体制が整えられていたものの、内装工事等に係る現場の施工状況、工事の進捗状況及び下請業者の実態等について、担当者以外の従業員や上司が確認する体制は執られていなかったことからすれば、本件行為のような詐取行為を防止するための請求人の管理・監督が十分であったとは認められない。
  • ニ 当てはめ
    • (イ) 本件従業員による本件行為が通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当するか否かについて
       上記ハの(イ)のCのとおり、Hにおいて本件各外注工事を施工することができないにもかかわらず、本件従業員は、Hを下請業者とする本件各受注伝票を作成するとともに、本件従業員妻に指示して架空の本件各請求書を作成させ請求人に交付することにより、請求人に本件外注費を計上させ、本件各金員を支払わせたものである。これらの行為は、実際には存在しない外注費を、あたかもそれが存在するかのように装ったものであることから、本件従業員による本件行為は通則法第68条第1項に規定する「仮装」に該当する。
    • (ロ) 本件従業員による本件行為を納税者たる請求人の行為と同視することができるか否かについて
       上記ハの(ロ)のCのとおり、本件従業員は、請求人の経営に参画することや、経理業務に関与することのない一使用人であったと認められ、同ハの(ハ)のCのとおり、本件行為は、請求人の業務の一環として行われたものではなく、本件従業員が私的費用に充てるための金員を請求人から詐取するために独断で行ったものであると認められる。一方、同ハの(ニ)のCのとおり、請求人においては、一定の管理体制が整えられていたものの、本件行為のような詐取行為を防止するという点では、管理・監督が十分であったとは認められない。もっとも、職制上の重要な地位に従事せず、限られた権限のみを有する一使用人が、独断で請求人の金員を詐取したという事件の事情に鑑みれば、本件従業員に対する請求人の管理・監督が十分ではなく、本件行為を発覚できなかったことをもって、本件行為を請求人の行為と同視することは相当ではない。
       以上の点を総合考慮すれば、本件従業員による本件行為を納税者たる請求人の行為と同視することはできないと判断するのが相当である。
    • (ハ) 結論
       したがって、上記(イ)のとおり、本件従業員による本件行為は通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当するものの、上記(ロ)のとおり、本件従業員による本件行為を納税者たる請求人の行為と同視することはできないことから、請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があるとは認められない。
  • ホ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のロの(イ)のとおり、法人の従業員の業務に関連する行為は、当該法人の活動領域内の行為として自己の行為の一部分とみることができるから、従業員の行為が納税者たる法人の行為と同視できないといえるような特段の事情がない限り、重加算税の適用対象となるとした上で、1同ロの(ロ)のとおり、本件行為が本件従業員に付与された業務の一環として行われていること、Hに対する支払は請求書等を出さない外注業者への支払をするためにプールしておいた金員とみるべきであること等を指摘し、本件行為は本件従業員の業務に関連する行為である旨、また、2同ロの(ハ)ないし(ヘ)のとおり、本件従業員以外の者が下請業者の実態や施工の確認を行っていれば、本件従業員による本件行為を容易に把握できたこと等を指摘し、本件従業員による本件行為を納税者たる法人の行為と同視できないといえるような特段の事情はない旨主張する。
     しかしながら、1上記ハの(ハ)のCのとおり、本件行為は本件従業員が私的費用を請求人から詐取するために独断で行ったものであり、本件各金員が請求書等を出さない外注業者への支払をするためにプールしておいた金員とは認められないことからすれば、本件行為は本件従業員の業務に関連する行為であると評価することはできず、また、2上記ニの(ロ)のとおり、本件行為のような詐取行為を防止するための請求人の管理・監督が十分であったとは認められないとしても、本件行為に係るその他の事情も含めて総合考慮すれば、本件従業員による本件行為を納税者たる請求人の行為と同視できないと判断するのが相当であることから、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(3) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(2)のニの(ハ)のとおり、本件各事業年度において、請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があるとは認められないことから、同項に規定する重加算税の賦課要件を満たしていない。他方、上記(1)のロのとおり、本件調査の終了の際の手続に原処分の取消事由となる違法はなく、また、本件各事業年度の修正申告に基づき納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、その修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、請求人に通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 また、本件各賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、平成28年3月課税事業年度の地方法人税に係る重加算税の賦課決定処分は、その全部を取り消し、その他の原処分は、別紙1ないし別紙5の「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。

(4) 結論

よって、審査請求は理由があるから、平成28年3月課税事業年度の地方法人税に係る重加算税の賦課決定処分はその全部を取り消し、その他の原処分は、いずれもその一部を取り消すこととする。

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