(令和2年3月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、消費生活協同組合である審査請求人(以下「請求人」という。)がその運営する〇〇等で作成した領収書等の文書について、原処分庁が、いずれも印紙税法に規定する課税文書に該当するとして、印紙税の過怠税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該文書の一部は課税文書に該当しないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等の要旨は、別紙3のとおりである(なお、別紙3で定義した略語については、以下、本文及び別表でも使用する。)。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、生協法に基づき設立された組合である。
  • ロ 請求人の定款(以下「請求人定款」という。)には、その要旨、別紙4のとおりの定めがある(なお、別紙4で定義した略語については、以下、本文及び別表でも使用する。)。
  • ハ 請求人は、〇〇の「G」及び〇〇の「H」(以下、これらを併せて「本件各施設」という。)などの施設を設置して〇〇事業を行っており、生協法条の規定及び請求人定款第73条の定めにより、〇〇事業に係る経理とその他の事業に係る経理とを区分した上、収支を明らかにしている。
  • ニ 請求人は、本件各施設において、〇〇事業に係る役務の提供をし、その利用者(以下「本件利用者」という。)から〇〇、施設利用料等の対価を受領した際に、〇〇領収書、〇〇領収書、〇〇領収書及び利用料領収書を作成して交付していた。
     請求人は、これらの各領収書のいずれについても、印紙を貼り付けておらず、また、印紙税法第9条、第10条又は第11条に規定する印紙を貼り付ける方法以外の納付方法による印紙税の納付もしていなかった。
  • ホ 請求人は、平成25年12月1日にJ社との間で2以上の取引を継続して行うために締結した〇〇管理及び搬送業務の委託契約に関して、別表1の順号1から3までの各契約書を共同で作成するとともに、平成28年2月1日にK社との間で2以上の取引を継続して行うために締結した〇〇で使用している〇〇に係る契約に関して、同表の順号4の契約書を共同で作成した(以下、同表の順号1から4までの各契約書を併せて「本件各契約書」という。)。
     このうち、別表1の順号1及び2の各契約書については、同表の「貼付額」欄の各金額の印紙を貼り付けていたが、同表の順号3及び4の各契約書については、いずれも印紙を貼り付けておらず、印紙税法第9条、第10条又は第11条に規定する印紙を貼り付ける方法以外の納付方法による印紙税の納付もしていなかった。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 原処分庁は、下記(イ)から(ハ)までを理由として、平成30年12月25日付で、別表2のとおりの印紙税の過怠税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
    • (イ) 別表2の順号1の文書については、課税物件表の第2号の「物件名」欄に規定する「請負に関する契約書」(以下「第2号文書」という。)に該当するところ、請求人が、印紙の貼付漏れがあったことを理由として、別表2の「不納付申出の有無」欄のとおり、印紙税の不納付事実を申し出ていた上、当該申出が、印紙税についての調査があったことにより印紙税法第20条第1項の過怠税についての決定があるべきことを予知してされたものではなかったので、これらに係る印紙税の過怠税の額は、同条第2項の規定に基づき、納付しなかった印紙税の額(同表の「不納付税額」欄の金額)と当該印紙税の額に100分の10の割合を乗じて計算した金額との合計額に相当する金額(同表の「過怠税の額」欄の金額)とすべきである。
    • (ロ) 上記(3)ニの各領収書(受取金額が5万円以上のものに限る。)のうち、平成26年9月から平成29年3月までに作成された別表3−1の各領収書1,996通及び平成29年4月から平成29年8月までに作成された別表3−2の各領収書343通(以下、別表3−1及び別表3−2の各領収書を併せて「本件各領収書」という。)については、課税物件表の第17号の「物件名」欄の1に規定する「売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書」(以下「第17号の1文書」という。)に該当するので、これらに係る印紙税の過怠税の額は、印紙税法第20条第1項に基づき、納付しなかった印紙税の額(別表2の「不納付税額」欄の金額)とその2倍に相当する金額との合計額に相当する金額(同表の「過怠税の額」欄の金額)とすべきである。
    • (ハ) 本件各契約書については、課税物件表の第7号の「物件名」欄に規定する「継続的取引の基本となる契約書」(以下「第7号文書」という。)に該当するので、これらに係る過怠税の額は、印紙税法第20条第1項に基づき、納付しなかった印紙税の額(別表2の「不納付税額」欄の金額)とその2倍に相当する金額との合計額に相当する金額(同表の「過怠税の額」欄の金額)とすべきである。
  • ロ これに対し、請求人は、請求人の行う事業が本件非課税規定に規定する「営業」に該当しないから、1上記イ(ロ)の本件各領収書については、本件非課税規定に規定する「営業に関しない受取書」に該当するとし、また、2上記イ(ハ)の本件各契約書については、印紙税法施行令第26条第1号に規定する「営業者」(本件非課税規定に規定する「営業」を行う者をいう。)の間において作成された契約書には該当しないとして、いずれも課税文書ではないことを理由に、上記イの本件各賦課決定処分の一部に不服があるとして、平成31年3月8日に審査請求をした。

2 争点

本件各領収書及び本件各契約書が課税文書であるか否か(具体的には、本件各領収書が本件非課税規定に規定する「営業に関しない受取書」に該当するか否か。本件各契約書が印紙税法施行令第26条第1号に規定する「営業者」の間において作成された契約書に該当するか否か。)。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
(1) 本件非課税規定の括弧書によれば、会社以外の法人で、法令の規定又は定款の定めにより剰余金の分配等ができることとなっているものの事業については、その出資者に対して行うものは、全て「営業」に該当しない一方で、出資者以外の者に対して行うものは、たとえ営利を目的としないとしても、全て「営業」に該当することとなる。
 請求人は、会社以外の法人であり、また、生協法第52条の規定及び請求人定款第77条の定めによれば、法令の規定又は定款の定めにより剰余金の分配等ができるとされている。なお、〇〇、剰余金の分配等を行っていないとしても、それは、請求人の事業選択の結果にすぎず、請求人が法令の規定又は定款の定めにより剰余金の分配等ができることに変わりはない。
 そして、本件各領収書は、請求人がその出資者以外の者に対して行った事業に係るものであるから、本件非課税規定に規定する「営業」に該当する。なお、請求人が信用性を争っている員外判定表と称する書類は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)が請求人に教示された方法で出資者以外の者に対するものかを確認して作成したものであるし、その結果を請求人の代表理事も確認していたのであるから、これを信用することができる。
 したがって、本件各領収書については、本件非課税規定に規定する「営業に関しない受取書」には該当せず、第17号の1文書に該当するから、課税文書である。
 また、本件各契約書についても、その出資者以外の者に対して行った事業に係るものであり、印紙税法施行令第26条第1号に規定する「営業者」の間において作成された契約書であって、第7号文書に該当するから、課税文書である。
(1) 本件非課税規定に規定する「営業」に該当するか否かは、営利目的で事業を反復継続して行っているか否かにより判断すべきである。請求人は、生協法に基づく組合であるところ、生協法第9条は、組合が営利を目的として事業を行ってはならない旨規定している上、請求人のように〇〇を行う組合は、〇〇の規定により〇〇と同様の規制を受け、営利性が否定されている。そのため、請求人は営利目的で事業を行っていないから、請求人の行う事業は本件非課税規定に規定する「営業」に該当せず、印紙税法施行令第26条第1号に規定する「営業者」にも該当しない。
 また、仮に本件非課税規定に規定する「営業」につき「原処分庁」欄の(1)の解釈を前提にしたとしても、〇〇である請求人は、〇〇こととされ、実際に請求人が請求人定款第77条の定めによる剰余金の配当等をすることはできないから、その点でも、本件非課税規定に規定する「営業」に該当することはない。
 なお、原処分庁は、本件各領収書が出資者以外の者に対して行った事業に係るものであるとして、員外判定表と称する書類を提出するが、本件各領収書の作成時点において請求人の出資者であったにもかかわらず、出資者以外の者であったと記載されている者が含まれていること、出資者の異動が反映されていない疑いがあること、原処分庁が行った印紙不貼付の判定手順を請求人に十分説明しなかったことによれば、これを信用することはできない。
 したがって、本件各領収書及び本件各契約書はいずれも課税文書ではない。
(2) なお、出資者とは一般的に「資金を出した者」という意味で用いられているから、これに該当するか否かは、請求人に対して資金を出した者か否かで判断すべきである。そして、請求人の主張する出資者と同一の世帯に属する者(家族組合員)は、請求人に対して資金を出していないから、本件非課税規定に規定する出資者には該当しない。そのため、本件各領収書のうち、出資者(組合員)と同一の世帯に属する者(家族組合員)に係るものも課税文書になる。 (2) また、生協法第12条第2項が、組合員と同一の世帯に属する者は、組合の事業の利用についてはこれを組合員とみなす旨規定し、〇〇も、〇〇旨定めており、これを受けて、請求人定款第68条にも同旨の定めがある。これらを考慮すれば、本件非課税規定に規定する出資者に該当するか否かの判断に当たっては、出資者(組合員)と同一の世帯に属する者(家族組合員)も出資者と同視すべきである。そのため、本件各領収書のうち、出資者(組合員)と同一の世帯に属する者(家族組合員)に係るものが課税文書になることはない。

4 当審判所の判断

(1) 争点について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 請求人の組合員は、請求人への出資を行った者である。その組合員と同一の世帯に属する者は、その者自身が組合員である場合を除いて、請求人への出資を行ってはいない。
    • (ロ) 請求人は、本件各施設で各領収書を発行するための事務システム及び組合員を管理するための管理システムを使用しており、本件調査担当職員は、当該事務システムから、平成26年9月から平成29年8月までに作成されて本件利用者に交付された各領収書で、受取金額が5万円以上のもののデータを抽出した上、当該管理システムの組合員名のデータと照合した結果を基に、請求人が出資者以外の者に対して交付したとする本件各領収書を特定した。
    • (ハ) 当審判所において、本件各領収書の各作成日における上記(ロ)の組合員名のデータと照合したところ、別表4−1及び別表4−2の「所持者名称」欄に記載された者は、請求人の組合員(出資者)であったから、本件各領収書のうち、別表4−1及び別表4−2の各領収書(以下「本件出資者宛各領収書」という。)は、出資者に対して交付されたものであり、それ以外の各領収書(以下「本件非出資者宛各領収書」という。)は、出資者以外の者に対して交付されたものであった。
    • (二) 上記1(3)ホの本件各契約書の契約相手先は、いずれも請求人の出資者ではない。
  • ロ 検討
    • (イ) 本件各領収書について
      • A 本件各領収書は、上記1(3)ニのとおり、請求人がその事業において本件利用者に役務の提供をし、本件利用者からその対価として受け取った金銭の受取書であるから、いずれも第17号の1文書に該当する。
      • B しかしながら、印紙税法第5条柱書及び第1号が、課税物件表の「非課税物件」欄に掲げる文書には印紙税を課さない旨規定し、本件非課税規定が、「営業に関しない受取書」を掲げているから、本件各領収書がこの「営業に関しない受取書」であれば、課税文書には該当しないことになり、当事者間でも、この点に争いがある。そこで、以下において検討する。
         本件非課税規定は、「営業」に関して、括弧書で「会社以外の法人で、法令の規定又は定款の定めにより利益金又は剰余金の配当又は分配をすることができることとなっているものが、その出資者以外の者に対して行う事業を含み、当該出資者がその出資をした法人に対して行う営業を除く。」と規定しているところ、これを本件についてみると、請求人は、上記1(3)イのとおり、生協法に基づき設立された組合であるから会社以外の法人に該当する。また、生協法第52条が、剰余金の割戻しについて規定し、請求人定款第77条も、上記1(3)ロのとおり、剰余金について、組合員の組合事業の利用分量又は払い込んだ出資額に応じて組合員に割り戻すことができる旨定めているから、法令の規定又は定款の定めによる剰余金の分配等をすることができることとなっている。そうすると、請求人がその出資者に対して行う事業は、「営業」には該当しないが、出資者以外の者に対して行う事業は、たとえ営利を目的としないものであったとしても全て「営業」に該当することになる。
         これを本件各領収書についてみると、上記イ(ロ)及び(ハ)のとおり、本件各領収書のうち本件非出資者宛各領収書は、請求人が出資者以外の者に対して行う事業において作成して交付した領収書であり、当該事業は本件非課税規定に規定する「営業」に該当するので、その規定する「営業に関しない受取書」とはいえない。そして、本件非課税規定以外の点については、当事者間で争いになっておらず、当審判所の調査によっても、これらの各領収書が印紙税法第5条に規定する非課税文書に該当するなどとうかがわせる事情は見当たらないから、いずれも課税文書であると認められる。
         これに対し、上記イ(ハ)のとおり、本件各領収書のうち本件出資者宛各領収書は、請求人が出資者に対して行う事業において作成して交付したものであり、本件非課税規定に規定する「営業に関しない受取書」といえるので、いずれも課税文書ではないと認められる。
    • (ロ) 本件各契約書について
       課税物件表の第7号の「定義」欄の規定により、第7号文書の定義について委任を受けた印紙税法施行令第26条第1号は、別紙3の1(7)のとおり規定しており、その規定する「営業者」に関して、その括弧書で、本件非課税規定に規定する「営業」を行う者をいうとしている。そして、請求人がその出資者に対して行う事業は、「営業」には該当しないが、出資者以外の者に対して行う事業は、たとえ営利を目的としないものであっても全て「営業」に該当することは、上記(イ)で述べたとおりであるところ、本件各契約書については、上記イ(ニ)のとおり、いずれも請求人が出資者以外の者に対して行う事業において作成したものであり、請求人も本件非課税規定に規定する「営業」を行う者といえる。そして、印紙税法施行令第26条第1号に規定するその他の要件については、請求人も争わず、当審判所の調査によっても、本件各契約書はいずれも第7号文書に該当すると認められる。その他に印紙税法第5条に規定する非課税文書に該当するか否かについては、当事者間で争いになっておらず、当審判所の調査によっても、当該非課税文書に該当するなどとうかがわせる事情は見当たらないから、本件各契約書はいずれも課税文書であると認められる。
  • ハ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、本件各領収書について、いずれも請求人がその出資者以外の者に対して行った事業に係るものである旨主張し、その証拠として員外判定表と称する書類を提出する。
     しかしながら、当審判所の調査によれば、上記イ(ハ)のとおり、本件各領収書のうち本件出資者宛各領収書は、出資者に対して交付されたものであったと認められる上、員外判定表と称する書類がいつの時点での組合員の状況を把握したものかも明らかではないから、これを採用することはできない。したがって、この点に関する原処分庁の主張は理由がない。
  • ニ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、営利目的で事業を行っていないから、請求人の行う事業は、本件非課税規定に規定する「営業」には該当しない旨主張する。
       しかしながら、本件非課税規定は、「営業」に関して、括弧書で「会社以外の法人で、法令の規定又は定款の定めにより利益金又は剰余金の配当又は分配をすることができることとなっているものが、その出資者以外の者に対して行う事業を含み、当該出資者がその出資をした法人に対して行う営業を除く。」と規定しており、その文理上、営利目的で事業を行っているか否かによって、上記ロの結論が左右されることはないと考えられるから、この点に関する請求人の主張は理由がない。
    • (ロ) 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、〇〇され、実際には請求人定款第77条の定めによる剰余金の分配等をすることはできないから、この点でも、請求人の行う事業は、本件非課税規定に規定する「営業」に該当することはない旨主張する。
       しかしながら、生協法第52条が、剰余金の割戻しについて規定し、請求人定款第77条も、剰余金の割戻しができる旨を定めているから、法令の規定又は定款により剰余金の分配等をすることができることとなっているものといえることは、上記ロで述べたとおりである。また、本件非課税規定の文理上、法令の規定又は定款の定めにより剰余金の分配等をすることができることとなっているものであれば足りるから、〇〇ために、実際に剰余金の分配等がされていないとしても、それをもって、上記判断が左右されることはない。したがって、この点に関する請求人の主張は理由がない。
    • (ハ) 請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のとおり、本件非課税規定に規定する出資者に該当するか否かの判断に当たっては、出資者(組合員)と同一の世帯に属する者(家族組合員)も出資者(組合員)と同視すべきである旨主張する。
       しかしながら、本件非課税規定には、出資者と同一の世帯に属する者を出資者とみなす旨の規定はなく、また、請求人がその根拠とする生協法第12条第2項の規定等も、飽くまで、事業の利用について、組合員と同一の世帯に属する者を組合員とみなす旨規定等したものにすぎず、本件非課税規定に規定する出資者の定義を規定等したものと解することはできないから、この点に関する請求人の主張は理由がない。

(2) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(1)ロのとおり、本件各領収書のうち本件非出資者宛各領収書及び本件各契約書は、いずれも課税文書であり、本件各領収書のうち本件出資者宛各領収書は、いずれも非課税文書であると認められる。また、別表2の順号1の文書が課税物件表の第2号の「物件名」欄に規定する課税文書であることについては、請求人も争わず、当審判所においても、これを不相当とする理由は認められない。
 以上に基づき、当審判所において、請求人の平成26年9月から平成29年3月まで及び平成29年4月から平成29年8月までに作成された各課税文書に係る印紙税の過怠税の額を計算すると、別表5の「審判所認定額」欄のとおりとなり、いずれも本件各賦課決定処分の額を下回る。
 したがって、本件各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(3) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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